ハルパーにとって軍事要塞グリトニルでの生活は決して充実したものではなかった。
太陽系にとって最も重要な拠点の一つであるグリトニルを「太陽系解放同盟」の勢力下にする意義は無いわけではなかったが、戦力となる艦隊のほとんどがこの地に集まっているため、彼らはここから動くことができなくなっていた。

計画では地球の仲間が呼応して行動を起こすはずだったが、グリトニル奪取から1年。
何も音沙汰は無い。
太陽系を統一政府の宇宙軍の専横から取り戻すという理念のためには短い時間だが、一人の人間としてはそれなりに長かった。
生来飽きっぽい性格のハルパーにとっては、太陽系で最も重要な軍事要塞グリトニルも今では過去のものとなりつつあった。

それに状況は決して良いものではない。
神出鬼没を旨とする盗賊の“家”がばれてしまっているのだ。
今回派兵されてくる部隊を倒せたとしても、それがいつまでも続くわけはない。

(となれば、今回の戦闘には是が非でも勝利して、有利な交渉ができる材料としたいところだな…)


そんなことを考えていると、“議長”のゴードンがやってきた。
この男は好人物だが、人を使うというより人に乗せられて使われるタイプだった。
その見栄えのよい体躯と真摯な話し方は人を魅了することに関しては群を抜いている。
ただ当人にはさしたる計画も理念もない。ただ「人の期待に応えたい」という気概が彼を動かしている。
それが今のような地位になってしまったのは彼の最も不幸な一面であろう。

(こいつが自分個人の考えを通そうとするようになったら終わりだ。だから俺に意見を聞きに来ている今はまだ大丈夫だろう)

ハルパーはそう考えていた。とは言っても、彼は親友であるゴードンを見捨てるような人物では無いのだが。


ゴードンは向かいのソファに座ると、勝手にブランデーを注ぎながら、いつも通りなんのひねりも無く切り出した。

「ハルパー、向かっているのは急ごしらえの第4艦隊だそうだな。どうだ?勝てそうか?」

宇宙軍はおそらく太陽系解放同盟をグリトニルから引っ張り出すことを目的としている。

(となれば敵の作戦はひとつ。「負けたと見せかけておびき出す」といったところだ。
 であれば、こちらはそれに付き合わなければ負けることは無い)

しかしそれでは「有利な交渉」の材料にならない…。
このあたりが今回の戦闘のポイントになるだろう。

「負けることはないさ」

そう言うと、ゴードンはそうかそうかと嬉しそうに笑い、ブランデーを飲み干して帰って行った。


No.3→作戦会議

No.5→進軍

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最終更新:2009年08月25日 19:01