「戦いを止めるのは」




「ねえ、銀ちゃん」
「だからその名で呼ぶなって言ってるでしょ…斬るわよおばかさん」

映画館の中で食料をあさる二つの影
銀次と水銀燈、共に“銀”を冠する二人は食料調達の為に売店を漁っていた。

銀次は水銀燈に問う。

「オレたちってホントに悪運いいよなあ」

黒のカリスマによる殺し合いももう三日目になろうとしていた。
命がいくつあっても足りないと思えたこの悪趣味なゲームもあと少しで第六回放送である
水銀燈は棚の中から見つけたダンボールを開けながら答えた

「そうよねぇ……もう40人くらいよねぇ? 死んだ人って」

彼らダブルシルバーはマーダーにしょっちゅう遭遇し、窮地に立たされたこともあるものの、未だ殺し殺されずに済んでいた。
実際に悪運が強いのかもしれないと水銀燈が言う。
銀次が引き出しの中から未開封の缶詰を見つけたと同時に映画館の入口の扉が開く。
売店は映画館の入り口と面しており、常に入口の様子を確認する事ができた。

扉が開き、二人の影が見えるのと同時にダブルシルバーは身構えた。
水銀燈は刀を構えつつ翼を展開し、銀次は電気を帯びる。

入口から入ってきたのは金髪ロールの少女とメガネをかけた少年だった。
数秒のにらみ合いが続くと、メガネの少年が口を開いた。

「あ、ちょっと待って!僕たちには殺し合う意思は無いんだよ!」

そう言うと彼は鞄を置き、両手を挙げる。となりの少女も同様の動作をした。
しかし水銀燈の太刀はしまわれない。それどころかますます彼らの方へ向かっていた。

「生憎だけどね、アタシたちはもう何回も命の危機に合っているのよぉ?」

水銀燈がそう言うのも無理もない。ダブルシルバーは既に何回も殺し合いにのった者達と遭遇しているからだった。
出会い頭に襲ってきた銀髪もいれば、卿に興味があると話しかけてきた後刃を交えることとなった金髪もいた。
少年と少女が今は戦意を見せてないとはいえそう簡単に信じられるものではなかった。
なかったのだが……。
銀次は既に攻撃態勢を解除していた。

「でもさ、あの人たちそんな悪いヤツに見えないけど」
「忘れちゃだめよ、これは殺し合いなのよ?そんなこと言ってるといつか寝首かかれるわよ!」
「じゃあ、オレはいいんだ?」

水銀燈は銀次のその言葉にハッとして戸惑う。
そして戦意が失せたかのように武器と翼を仕舞い込んだ。

「ええと、お互い敵意が無いってことでいいのかな?」

メガネをかけた少年は鞄から本を取り出しながら言った。

「僕の名前はトゥーサン・ネシンバラ。そんでこっちが巴マミ
「私達は主催者を倒そうという…いわゆる対主催者よ」
「僕達に協力してくれるかい?」

彼はそのまま続けた。天野銀次君、水銀燈君、と。その言葉に銀次も水銀燈も大変驚いた。
何故なら面識ももなくまだ名乗ってもいないのに自分の名前が呼ばれたからだった。



◆◆◆



「……なるほど、この本でみんなの個人情報が分かるってことか」
「本に細工された形跡はないしこの二人の情報もここに書かれている通りみたいねぇ」
「そういうこと。これは大変な戦力の一つでね……そして主催者を倒せる可能性のひとつだよ。
 これだけの情報があれば見えてくるものもある」

映画館ロビーの椅子に座って情報交換を始める四人。
水銀燈はいくらか自身の過去や今に踏み込まれたことに苛立ってはいたものの、銀次が上手くとりなした。

『銀ちゃんのこと知った上で向こうは虎の子の本のこと教えてくれたんだしさ。
 ネシンバラとマミはオレと銀ちゃんのこと、信じられるって思ってくれてるんじゃないかな』

ばっかじゃないのと返した水銀燈だが、過去を暴かれたのはこの自分を真摯に見つめてくる男も同じだ。
そこで自分だけが怒るのもみっともなく思い、いいわいいわ分かったわよとマミとネシンバラの分も見せてもらうことで手を打ったのだ。
こうして、詳細名簿を通してだが互いに相手の人となりを知れたことで四人の交流はスムーズに進んだ。
机の上にはポップコーンやキャンディなどの売店にあったものが運び込まれていた。
マミはポップコーンを口に入れて、噛みしめて飲みこんでから言った。

「だから第七回放送にはこの地区にある食堂に集合したいの」

彼女はそう言うとD-3の地区を指差した。
ここ映画館はB-4にあるので近かった。

「うん、ここなら問題なく行けそうだね。食料を持っていけばいいのかな」

彼らから銀次と水銀燈への指示は食料調達であった。
戦うにしろ考察するにしろ膨大なエネルギーを使う。
食料自体は支給されていたものの、中には現地調達に勤しんでいた銀次や水銀燈のように食糧不足に喘いでいる者もいるかもしれないのだ。
そしてもう一つの任務は生存しているマーダーでない人物の招集だった。

アーチャー安心院なじみ、葦原涼、雨宮桜子、風鳴翼、食堂の男、涼宮ハルヒ、天魔・夜刀ヒュンケル藤井蓮美堂蛮

「この11人が今のところ生存していてなおかつこのロワに乗っているという情報が無い人よ」
「と言っても次の放送まであと一時間と少し……もしかしたら既に死んでいる人もいるかもしれないがね」

そう言うとその11人の名簿を開く。
その文は緻密でどれもこれも50行以上はあり読んでいて頭が痛くなりそうであった。
水銀燈は既に売店に逃げ込んで乳酸ドリンクの捜索を続けていた。

「ああ、やっぱ難しいかな……簡単に纏めたデータがこの紙に書かれてあるから……」
「いや、蛮ちゃんのことは読まないでも知ってるから一人分省けるよ。
 あ、蛮ちゃんっていうのはこの美堂蛮って人のことでオレの相棒なんだ。
 蛮ちゃんなら絶対に殺し合いなんかにはのってないし、オレより強いから生きてるよ。
 残りは……銀ちゃんにいい所を見せたいし頑張るよ」

あまりの情報量に思わずタレてしまいそうになるが、これでも最強最悪のジャンク・キッズグループVOLTSを率いていた身だ。
大人数の顔と名前を覚えることには慣れている。
銀次は集中して速読を始める。
その間にネシンバラは売店の栄養ドリンクを鞄に詰め込んでいて、マミは名簿の解説をしていた。
映画館にささやかな静かな時間が流れていった。



暫く経ち、銀次がようやく名簿を読み終え、水銀燈が倉庫の奥から期限切れの乳酸ドリンクを見つけて憤った頃、平穏が終わりを告げる。
室内にいる彼らにも感じられるほどに地面が揺れたのだ。

地面だけではない。映画館そのものが揺れていた。
窓にはヒビが入り、入口近くの鉢植えは盛大に倒れた。

それは地響きではない。風、あるいは衝撃波による揺れであった。

ネシンバラが慌てながらトイレから出てくる。
銀次とマミは席を立ち周りを見回す。
水銀燈は売店で翼に包まれまるまっていた。

「ちょ、なんなのよぉこれは! なんとかしなさいよ……!」
「わ、わからないよ……どこかで何かあったんじゃ……。あ、まさかラインハルトさんに追いつかれたー!?」

慌てふためくダブルシルバー。
人形サイズの水銀燈には倒れてくる棚とかが洒落にならず、銀次は銀次で新しくできた苦手な人を思い浮かべてぞっとしていた。
一先ず店内のものをリボンで固定し倒れないようにしたマミは、揺れが落ち着いたのと同時に銃を持ち映画館の外へ出る。
先ほどまで外は穏やかな風が吹いていた。しかし今は強い風が吹いていた。

「これは……エリアの左上の方角……A-1あたりね」

リボンをはためかせ風の向きから衝撃波の来た方向を推測し、確信した巴マミは中に戻る。
ネシンバラは既にみんなの荷物を纏めていた。
銀次も名簿が読み終わったところなので丁度よかった。

「この衝撃波、オレたちが確認してもいいかな?」

ラインハルトという心当たりがあった銀次はそう言った。
マミたちは食堂に人を集めた代表者として向かわなくてはいけなかったので丁度よかった。
名簿に書かれていた銀次の戦力的にもむしろこっちが提案したい程であった。
やっと売店から水銀燈が出てきて、ネシンバラは今後の方針を解説した。
ネシンバラとマミは食堂方面に戻り対主催者の会合を、銀次と水銀燈は衝撃波の元の確認の後食堂に集合する段取りだ。
彼らダブルシルバーのことはネシンバラたちが代わりに伝えておくことになった。

「この戦いを止めるのは……もう僕たちしかいないんだ……これ以上の死人を出してたまるか……」
「そうね。それが魔法少女としての使命……いいえ、私達の戦いよね。
 この戦いだけじゃないわ。人知れず孤独に戦った暁美さんのためにも元の世界でももう誰も死なせない」

解説の終わりに言ったネシンバラのその言葉から深い悲哀と葛藤が感じられた。
ネシンバラの項目に書かれていたとある名前が放送で呼ばれていたことに思い至った銀次は死とは一番縁遠かったはずの男のことを思い浮かべる。
苦手ではあったけれど、もう会えないとなると寂しいと思うくらいには嫌いではなかった。
水銀燈もまた死に憑かれた少女のことを思っていた。別に戦いを止めたいだとか誰かを助けたいだなんて殊勝なことは思いはしない。
もとより姉妹と殺しあっていた身だ。けれど、神のごとく不遜な主催者に強いられた一方的な死は他人のものでも腹が立つ。
いつしか銀次も水銀燈も真面目な表情になり、映画館を前にしてお互いのハイタッチがなされた後、二つの組みは別の方向へ走りだした。

この殺し合いのゲームを終わらせるために、そして希望のために走り出した。




【B-4 映画館・3日目 夜中】

【天野銀次@GetBackers-奪還屋-】
[状態]:睡眠不足
[道具]:黒鍵×10@月姫 万能ナイフ@現実 基本支給品一式 纏まった食料
[思考・状況]0、ゲットバッカーズとして奪われた日常を取り戻す。依頼人は銀ちゃんたち!
      1、対主催者を集める
      2、衝撃波の謎を解明した後集合場所へ向かう
      3、蛮ちゃんは大丈夫だろうから今は銀ちゃんが気になる。アリス・ゲームってオウガバトルに似ているし


【水銀燈@ローゼンメイデン】
[状態]:健康
[装備]:誘惑スル薔薇ノ雫@.hack//G.U.
[道具]:ヘルパー@めだかボックス 基本支給品一式 ドリンク×3 ポップコーン
[思考・状況]0、アリスゲームの再開
      1、そのためにもアリス・ゲームを穢した主催者を倒すために仲間を集める
      2、ひとまずは衝撃波の謎を解く
      3、ヤクルトが飲みたい


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:睡眠不足、疲労
[道具]:水銃剣・旗魚丸@.hack//G.U. メス@GetBackers-奪還屋- 万能ナイフ 基本支給品一式 ドリンク×3
[思考・状況]0、魔女になるだけが魔法少女じゃない。二人で百合百合したっていいのだから私も私の魔法少女をするわ!
      1、対主催者を集める
      2、元の世界へ還ってワルプルギスの夜を倒し、暁美さんの分も鹿目さんのQBとの契約を阻止する。
      3、任せたわよ、ダブルシルバー! ……私達もチーム名付けようかしら? ピュエラ・マギ・サーティーン・デュエットとか
      4、食堂へ向かう


【トゥーサン・ネシンバラ@境界線上のホライゾン】
[状態]:疲労
[道具]:詳細名簿@厨二ロワ 基本支給品一式 ドリンク×2
[思考・状況]0、この“痛み”に耐える
      1、対主催者を集める
      2、頼む、皆死んでいないでくれ……
      3、食堂へ行かなきゃ


時列順で読む

232:見たんだ? 233:戦いを止めるのは 234:お前の屍を越えて行く

キャラ別で読む

217:だからといっても 天野銀次 241:我々と-最後の欠片-
217:だからといっても 水銀燈 241:我々と-最後の欠片-
227:大丈夫 巴マミ 239:GOING TO FINAL
227:大丈夫 トゥーサン・ネシンバラ 239:GOING TO FINAL

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最終更新:2014年01月10日 18:51