「それじゃあ、行ってくる」
装備を最終確認した後、俺はアジトの出口の前で
リンドウに言った。
「うん。気をつけて」
相変わらず心配そうに俺に視線を向けるリンドウに、俺は告げる。
「大丈夫だって。すぐに戻ってくるよ」
鈍重そうな扉が開いていく。話を聞けば、何百人もの生きた能力者の残骸を利用して創られたこの扉は、あらゆる攻撃を無力化するらしい。
開ききった扉の先には闇。底なしの闇が俺を飲み込もうと待ちかまえていた。
「……一つだけ言わせて」
「なんだ?」
振り返り、リンドウをみる。底なしの闇が、リンドウの瞳にも映っていた。
「“
エデン”は絶対に殺さなきゃダメ。いままでのように殺さずに帰ってきては絶対にダメ」
「……絶対にか?」
「ヨシユキ。彼はどうあっても必ず死ななくてはならないの」
強く主張するリンドウに俺は戸惑った。
今までの任務で俺が人を殺したことはない。
ギリギリ生きていられるほどの重傷を与えたくらいだ。
「殺害が目的なら、ルローか
フールに頼めば良かったんじゃないのか?」
そういう俺に対し、リンドウは首を横に振る。
「今回はあなたが適任なのよ、ヨシユキ。ホーローとしてのあなたが」
扉が警告音を出し始めた。長く開きすぎていたらしく、勝手にゆっくりと閉まり始めた。
リンドウの答えに漠然とした疑問を持ちながらも、俺はアジトの外へと出る。
閉まりかけた扉の向こうに、リンドウの顔が見えた。
「いい?ヨシユキ。絶対に殺して。これはあなたの問題でもあるのだから」
俺が問いを返そうと口を開くも、その問いは口に出す暇もなく、結局扉は閉じた。
「……考えても仕方ない。行くか」
俺は壁に備え付けられた懐中電灯を点け、地上を目指して歩き始めた。
「……覗き見とは最低な趣味よ、フール」
「いやぁ、気づかれていましたか」
どこからか現れた糸目の男が、半月の笑いを浮かべてリンドウに近づく。
「まったく……あなたのせいで言いたいことも言えなかったじゃない」
「それはそれは、すみませんねぇ」
おどけたようにジェントルマンが貴婦人にお辞儀をするようにフールは頭を下げる。
「この、道化師」
「それはまったく。最高の褒め言葉ですよ」
にやにや笑うフールの表情からは何も読み取れない。
「それにしても……どうして貴方はホーローを一人で行かせたんです?彼一人では勝ち目は薄い」
「それが最善手だからよ。
ナタネの出した運命レポートではね」
「ふぅん。そうですかぁ……。運命レポートを信じすぎるのもどうかと思いますけどね」
そういいつつフールは頑丈な扉の
ロックを開ける。
「何処へ?」
「あなたに言う必要あります?」
問いに問いで返すフール。
しかしリンドウの冷たい視線に気づいたのか、言葉を継ぎ足す。
「やだなぁ。本当に何にもしませんよ。ただの散歩ですよ。さ ん ぽ」
「本当に?」
「ええ。例の小国を潰す任務が終わって暇なんですから。ちょっと夜風に当たりに、ね」
そういってフールは扉の向こうへと消えた。
「……勘ぐってもしょうがないわね。私はさっさと新薬を完成させるのを急ぎましょう」
決意のような独り言を残して、リンドウはアジトの実験室へと戻っていった。
登場キャラクター
最終更新:2011年02月19日 23:02