深く透明に。感じるのは光の無い虚無。
「簡易治癒完了。生体反応正常。被験者ホーロー問題ありません」
「隕石の欠片、活性化処理に入ります。最大反応時刻まで2分49秒」
「スフィアネット接続完了。リアルタイムで実験を記録します」
思い出すのは記憶。夕暮れに佇む君は、どこか悲しげだった。
「活性化率30パーセントを超えました。被験者に異常ありません」
研究員の播磨は手摺を握り締めて、モニターの様子を観察している。
万一の事態に備えて、第二研究室から全ての実験を遠隔操作で行っている。
「損壊も壊死も無しか……よし、続けろ」
その姿も、日が暮れて闇の中に紛れていく。
「接触開始」
黒い宝石をつけた機械が、ホーローの身体に触れた。
ホーローの身体が跳ねる。
「活性化率50パーセントを超えました。生体反応に問題ありません」
「隕石の欠片、被験者に非常に高い同調性をみせています」
「なるほど……
エデン様がこの男を使えと言ったのはこういう事か……」
ジュセルと戦闘したときに見せた、隕石の欠片との高い同調性。あの時は接触すらしていなかったのに。
「活性化率70パーセントを超えました」
「大抵の能力者はここで衝撃に耐えられず死ぬか発狂する……ジュセル様ですら83パーセントが限界だが果たして」
「高効率作業に入ります。つ、続けますか?」
一人の若い研究員が播磨に聞いてきた。この後に起こる悲惨な結末を見たくないのだろう。
「続けろ。肉体が回収できないほど破壊されてしまっても構わない。所詮、犯罪者だ」
播磨は冷たく言い放つ。研究員は震える指で赤いボタンを押そうとする。
だからせめて――その笑顔だけは守りたいと思った。
その指が止まった。若い研究員が恐る恐ると振り返る。
「……なにか聞こえませんか?」
「何がだ」
苛々とした様子で播磨が言い返す。
「スピーカーからです。こう、金属の澄んだ音色が……」
「聞こえるわけないだろう……待て。なんだ、この音は。解析班」
「……音源は被験者ですが、原因はわかりません」
「……仕方ない。問題が起こる前に、さっさと済ませろ」
赤いボタンが押され、黒い宝石が発光し始める。否、黒い発光は光を奪いつくしていく。
「活性化率80パーセントに到達します!」
闇の光がモニター全体を黒く侵食していった。
突如として、モニターに写るホーローが目を見開いた。
いや、と播磨は思った。黒い光のせいでよく見えないが、あれは本当にホーローか?
画面に映る少年の顔はこちらを向いて、確かに禍々しく嗤っていた。
“逆磁場発動”
全ての機材がホーローを中心として吹き飛び、モニターがブラックアウトした。
「ぐっ……」
衝撃で目眩が起こったが、落ち着いて状況を把握する。
俺の手足の拘束具を含め、研究室内の磁性を帯びる物は全て壁に叩きつけられ大破し、壁が破壊され外気が流れ込んでいた。
磁場の余波が消え、壁についていた機材がガラガラと落ちていく。
“逆磁場”は俺を中心に、磁性を帯びる全ての物を吹き飛ばす強力な技だ。
ルジの所にいた時にテストとして一度だけ使ったが、威力は衰えていないようだった。
だが、チャージに時間がかかる上、使用した後は24時間、“固有磁場”“逆磁場”の二つが使えなくなる。
タイミングが重要だったが、上手くいった。
「目を覚ましたか、ホーロー」
声。横たわった声のした方に拳を握り構える。
扉の前に黒い闇を纏った何者かが立っていた。
声からして男。だが、何処かで聞いた事があるような声だ。
「誰、だ」
「俺が分からないか?ホーロー。……まぁ、適当にカオルという名前とでもしておこうか」
纏った闇のせいで顔が判別しづらい。
「すぐにアジトに引き返せ。エデンが仲間を連れて侵攻しているぞ」
「そうだ……そうだった!」
唇を噛む。間抜けな俺のせいで、アジトの場所がばれてしまった。
男が何か投げてくる。それは、俺の黒い二対の短剣だった。
「急げ。お前の居場所を守りたいのなら」
「ああ!」
壊れた壁の間から、外へと身を乗り出す。ワイヤーを壁に引っ掛け、降下しようとする。
振り返ったとき、黒い男は消えていた。
あの男が何者かを考えるより先に、アジトへと戻るのが先決だ。頼む
リンドウ。無事でいてくれ。
焦る俺とは裏腹に、月は相変わらず夜を照らし続けていた。
登場キャラクター
最終更新:2011年02月19日 20:44