“機関”とは能力者の暴走、あるいは悪意を持つ者の能力の悪用を防ぐため結成された組織だ。
基本的に“
バフ課”との違いは管轄くらいだろうか。“機関”は国際犯罪者を追う傾向がある。
リンドウから聞いた話だが、彼女もそこまで情報は得られていないらしい。情報は厳重に規制されている。
ファングやクロウがお世話になっているという
クロスという女も“機関”に属しているというが、できれば関わりたくない。
機関・第七研究所
高層ビルの一角。俺はその研究室の扉が見える位置に息を潜めて待機していた。
研究員だろうか。白衣を着た男や女が扉を頻繁に出入りしている。
自身の能力は見つからないように最小限に収束させる。最近になってようやく霧の意識的な操作が出来るようになってきた。
収束する分、その効果が強くなるが体力が奪われる。長時間の使用は作戦に支障をきたす。時間との勝負だ。
「……行くか」
時間を確認して、俺が物陰からゆっくりと歩き出す。ロッカールームから拝借した白衣を着て。
扉から一人の男がこちらに向かってくるのを確認する。
それは白衣を着た俺の似姿。一ヶ月前から
フールの能力を使って潜入させていた駒だった。
人型が俺の周囲を漂う霧に触れて姿が崩れ、一枚のカードに変わる。
ひらひらと舞い落ちるカードを手に取る。それはタロットカードだった。図柄は足首を大樹に吊るされた男。
“The Hanged Man”
これがフールの能力なのか。そういえば、やつの能力について俺は知らない。
聞いてはみたものの、上手くはぐらかされるだけだったし、俺も追求はしなかった。
カードをポケットに収納し、研究室の扉に手を掛ける。
警報が鳴り響いた。
構わず研究室の扉を開ける。
大小様々な機材が並び、研究室の中央を照らしていた。
緑色で統一された部屋は広く、そこを警報を聞いた人が右往左往していた。
「侵入者だ!急いで避難室へ!」
「君も早く逃げなさい!」
書類を持った男が俺に忠告してきたが、曖昧に頷きつつ俺は人の顔を観察していた。
警報は先程の緑のパネルの装置で、俺が発生させたものだ。
出入り口は一つしかない。ここで避難してくる
エデンを擦れ違いざまに刺し殺す。
違う。
違う。
こいつも違う。
「……どこだ?」
研究室は逃げ惑う人が少なくなり、やがてゼロになった。
(この時間には絶対にここに居ると聞いていたが……まさか、研究室に居ないのか?)
俺が撤退するか悩んでいたところ、人の気配を感じた。
中央。ライトで照らされた機械的な手術台の上。
全身を包帯で包んだ男が居た。
(あれが、エデンか?)
白衣の中に隠した短剣を起動可能にしておく。
いつでも最大出力が出せるように。それだけ手術台の上の男が放つ雰囲気は異常だった。
近づいて相手をよく観察する。
頭から指先まで包帯で包まっていたが、奇妙なことに包帯の上に服を着ていた。
片目だけが包帯の隙間から見え、その眼は閉じていた。肉付きが良い胸元の包帯が静かに上下していた。
(寝ている……のか?)
ともかくこれでは顔が確認できない。
顔の包帯を剥がそうとして、指先を伸ばした。
包帯男の目が開かれた。
「……気配ガし、ナイな。お前」
ミイラ男が喋った。
俺は跳躍。3メートル後ろの壁際まで後退する。
ナイフを2本取り出し、構える。
包帯男が上半身を起こし、俺を見据えていた。
「雰囲気ガ似テいるカラ、エデンが来タかと思ッタが……そうカ、お前ガホーローか」
布地のしたから、くぐもった声が聞こえた。
暗殺は失敗した。
登場キャラクター
最終更新:2011年01月02日 20:42