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東方魔蓮記 第九話

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―夜の騒動後の命蓮寺

ディアボロと白蓮は亀の中にいた。
ディアボロはベッドで壁のほうを向いて寝転がり、白蓮はベッドに座っている。

「一つ、お願い事を聞いてくれますか?」
白蓮のその言葉に、白蓮のほうを向いて「何だ?」と質問を返すディアボロ。
「……今日は一緒に寝てくれませんか?」
その言葉にディアボロは「え?」と言いたそうな表情をする。
「だって、一人じゃ……その……寂しいし……たまには……いいかなって……」
照れながらそう言う白蓮。
ディアボロも一人では退屈だと思っていたので「まぁ、構わないが……」と返事をする。
その返事を聞いた白蓮は、ディアボロの隣に寝転がる。
「……ありがとう」
そう言いながら白蓮はディアボロの右の頬を優しく撫でる。
ディアボロはその行動に少しドキッとしながらも、自分の頬を撫でる手に優しく触れる。
「……恥ずかしいことしないでくれ」
そう言っているディアボロの顔が若干赤くなっていることに気がついた白蓮。
笑みを浮かべながら、ディアボロが手に力を入れていないのをいいことにそのまま彼の頬を撫で続ける。
その行動にため息をつきながらも抵抗しようとはしないディアボロ。
案外彼も嫌ではないらしい。その証拠に、本人も気づかないうちに彼は笑みを浮かべていた。



白蓮がディアボロの右の頬を撫でるのを止めた。
「(そろそろ寝たいのだろうか……?)」
そう思ったディアボロは、白蓮の手に触れていた自分の手を離す。
すると白蓮は、自らディアボロの手を優しく握ってきた。
「……暖かい」
白蓮のその言葉を聞き、ディアボロも白蓮を抱きしめる。
「……確かに暖かいな。けれど、普通とは違う暖かさだ。孤独を癒してくれる……暖かさだけじゃなく、安らぎも与えてくれる」
そう言いながら、ディアボロは白蓮の髪を優しく撫でる。
その行動に白蓮は笑顔を見せる。それにつられて、ディアボロも笑顔を見せる。
「……お前はすごいな。誰かを笑顔にさせることができる」
「貴方だって、きっと誰かを笑顔にさせることができますよ」
「お前には敵わないさ」
そう言ってお互いを見つめあう二人。その目は、まるで恋人を見るような目だった。



まだお互いが見つめあっている状態が続いていた。無言で、一度も目を反らさずに。
その状況を変えたのは白蓮だった。

彼女が、口を開いた。
「私には……弟がいます。もう亡くなっているけど……」
「弟?」
「……命蓮っていうの」

命蓮……彼女の弟であると同時に、国宝に指定されている絵巻物、『信貴山縁起』(しぎさん えんぎ)において中心人物として描写されている人物である。
その絵巻物には彼の数々の奇跡が描写されており、法力を用いて鉢を山の中から麓の長者の家まで飛ばし、食べ物などを乗せてもらってそれを受け取りながら仏道に励んでいた。
ある日、長者がその鉢忌々しく思って蔵の隅に入れて鍵を掛けると、なんと蔵を鉢の上に乗せて運んでしまったことが描かれている。
他にも、場所を移動することもなく当時の帝である醍醐天皇の病を祈祷によって治したという逸話もある。
ちなみに、その絵巻物には命蓮の姉……つまり、白蓮自身についても書かれている。
それによると、奈良の東大寺へ行って受戒をするといって家を出ていったきり20年も戻ってこない命蓮に一目会うべく奈良を目指して旅に出た白蓮は、東大寺に祀られた大仏の助言により命蓮の居場所をしり、そこに向かっている。
命蓮と再会した白蓮は、その後戻ることもなく命蓮と共に仏に仕える生活を送ったことが書かれている。

「……そう、か」
彼女の記憶を見たこともあって、どう返せばいいのかディアボロは分からない。
ただ、『その話』をすることが、白蓮の最大の信頼の証であると、彼は判断した。
「俺も似たような身だ。『もっとも信頼する者』を、あの日から亡くしてしまっている」
ウィネガー・ドッピオ。
ディアボロが最も信頼する者で、彼と肉体を共有した、『ダ重人格』の片割れ。どちらが元々あった人格かまったく分かっていない。
「……お互い、大事な者を亡くしてしまったというわけか」
ディアボロは表情一つ変えずにそう語る。
「貴方も、別れの時は辛かったんですか……?」
白蓮のその問いにディアボロは少し過去を振り返り、彼女の質問に答える為にもう一度口を開く。
「『あの時はそれが最善の選択』だったとはいえ、結果から見れば切り捨てたも同然だ。だが、それでも最期まであいつは俺のことを信じてくれたことは知っている」
ドッピオの……彼の最期の言葉。
それはディアボロが去った後に呟いたため、本来ならディアボロが知るはずがない。
だがあの場所で『自分達の物語が記された漫画』を手に入れ、さらにドッピオのDISCも手に入れて使用したことで、彼の最期の言葉も、その思いも知ることができた。
「結局あいつの思いに答えることはできなかったが、それを今更悔いても遅いな」
ディアボロは皮肉気な笑みを浮かべる。
だがその姿は、今まで彼が見せてこなかった『寂しさ』を漂わせていた。

無理もない。2重の人格の内どちらか片方を失うということは『自分を半分無くしてしまった』とも言えるのだから。
しかもよりによって、彼はドッピオの記憶を利用することで何度か彼を『取り戻しかけている』。
一時的に自らの手に戻ることはあれど、すぐにいなくなってしまうのだ。
放さないように努力しても、まるで雲を掴むように、彼の手を離れていなくなってしまう。
かの地にいたときは己の目的を達成するために必死になり、達成したあとは、そのことを思い出さなかった。
だが、こうして今思い出したことで、少しだけ寂しさを自覚することにができた。

「一体、貴方とその方に何があったんですか?」
ディアボロの言葉に疑問を持った白蓮が、彼に問いかける。
「かつて、人の肉体から精神が強制的に分離させられて、他人の肉体に入り込んでしまうという異常事態がおきてな」
彼が語り始めるは、『チャリオッツ・レクイエム』によって引き起こされた前代未聞の異常事態。
強制的に眠りにつかされ、目覚めたときには他人の体。
発する声は他人の声。動かす体も他人の体。
それを放置していくとどうなるか……そこに至るまでに何とか無力化できたからよかったが、あのままだと身も心も全く別の生命体になっていただろう。
そして、それは同時に『今の己を完全に喪失する』ことでもある。
「その時に、あいつの精神が入り込んでいた肉体が殺された」

「…………」
「…………」
ディアボロは『その後』……自らの身に起きた出来事について話すべきか、白蓮はどう言えばいいのかわからずに二人とも唐突に黙ってしまった。
「そんなことが私の知らない間に起こってたなんて……」
無論、この話はディアボロの世界での出来事。
だが、ディアボロが『違う世界の者』だとは知らない白蓮は、『この世界で起こった出来事』と誤解してしまったようyだ。
「その後、何とか元の体に戻れたが、肉体が入れ替わっている最中に死んだ奴が蘇生することはなかった」
ディアボロはそう言うと、寂しさなんて漂わせない、いつもの表情に戻った。
「……これが、俺とあいつの死に別れの話だ」
そう言って、ディアボロはその話を締めくくる。
『レクイエム』……鎮魂歌の名をつけられた、誰にも制御できなくなったスタンドの起こした『異変』に勝る世界規模の過去の出来事を。
「………」
白蓮は彼の話を聞き終えて、少し心配そうな表情をしてくれた。
自分が弟の話をしてくれたから彼もこの話をしてくれたというのは分かる。
「……その話をすることは、貴方には辛くないのですか?」
だからこそ、意を決して聞くことにした。
彼の思いを、その心を。
「…………」
ディアボロはその質問に答えることなく少しの間黙り
「辛くないといえば嘘になるが、あいつはもう戻ってこないし、あの日の出来事をなかったことにはできない」
そう答えた。
恐らく、元の世界ではもう一巡後の世界になっているだろう。
……だとすれば、『ヴィネガー・ドッピオ』はもう戻ってこない。
仮にいたとしても、それは『同じ姿をした別人』だ。
「人も、そしてきっと妖怪も、『去ってしまった者達から受け継いで先に進んでいく』ものだ。いつまでも嘆き悔やんではいられない」
その言葉は、多少改変しているが、それはまさしく自分を『帝王の地位から引き摺り下ろした者』の言葉であった。
そして、白蓮はこれで理解した。
「(ああ……なんて強い心の持ち主なんでしょう……)」
それは、大切な者の死を目の当たりにして死に怯えた彼女には素晴らしいものだった。
例えどれほど大切な人が亡くなっても、その現実を受け入れ、その人の思いを受けて先に進む。
あの時、彼女が『選べなかった道』を、ディアボロは進んでいたのであった。
「……まさか他人にここまで打ち明ける日が来るとはな」
そう言ってディアボロは笑みを浮かべる。その笑顔は以表面だけの笑みとは違って、心がこもった笑みだった。
「(彼女が自らの重い過去を語るほど自分のことを信じてくれるのならば、彼女のことは信じてもいいだろうな)」
白蓮はその性格も、過去も、交友関係も、自分を裏切る要素は特にない。
それに、彼女の記憶を読み、彼女の発言が嘘ではないことを知っていることも、ディアボロが彼女を信用する一因となった。

そして、白蓮は何も語らずに笑みを浮かべる。やはり自分が信じる者が心をこめて笑ってくれるのは、嬉しいのだろう。
「ありがとう。……ここに来て、よかった」
抱きしめるのをやめていた白蓮の手を、優しく握るディアボロ。
それを見た白蓮は、最後にディアボロに笑みを見せる。
「おやすみ」
「お休みなさい」
二人とも目を閉じ、眠る。白蓮の寝顔も、ディアボロの寝顔もなんだか嬉しそうだった。


―翌日の朝

その日の朝、先に目が覚めたのは白蓮であった。
ベッドから起き上がってディアボロの様子を見ると、笑みを浮かべながら、まだ眠っていた。
その寝顔は、今までより穏やかで、幸せそうであった。
「(……私を信じてくれて、ありがとう)」
白蓮はその寝顔を見て、笑みを浮かべながら、そう思った。

その思いは、自らが人を裏切った故に抱いた思いか、それとも、手の平を返すことなく受け入れてくれた彼への思いか。
それを知るのは綴り手にあらず、彼女のみが知っているものなのである。

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