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岸辺露伴は動かない エピソード28・・神隠しの町

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だれでも歓迎! 編集
ま、知ってるヤツが多かろうが少なかろうがどうでもいいことだが。
ぼくの名は岸辺露伴。マンガ家だ。

岸辺露伴は動かない エピソード28・・神隠しの町

以前ぼくは「ピンクダークの少年」という作品を少年ジャンプに連載していたことがあり…
あの傑作を読んでないからって編集部に電話するのはやめてくれ。
ま…第三部が無事終了し、次回作のため執筆を休み取材をしていたことがあったんだ。
その取材期間中に新しい舞台の構想を練るため、数日間東北地方の別所を訪れていたことがあったんだ。
これからここに紹介するエピソードはその時にこの岸辺露伴が偶然取材した不思議な話であり、
『実際に、このぼくが体験した』奇怪な出来事なのだ。
読者のみんなは『神隠し』をご存知だろうか?
そう、人間が突如として姿をくらましてしまう現象だ。
その実はきっと家出や蒸発などが大半を占めるだろう。
ぼくだってそう思っていた。その町に行くまでは。
先に行ったとおり、ぼくは新しい舞台の構想を練っていた。
構想に必要な材料は何か分かるかい?答えは『現実性』だ。
いくらマンガだとは言えサスペンスホラーを基調としているぼくのマンガの舞台が突然、
『人口一千二百万人』の『片田舎』なんかになってしまえば、マンガの出来は間違いなく悪くなる。
読者がいなくなるのはいい。でもぼくは自分のマンガの出来が『悪い』のだけは許せない。
だからぼくはリアリティにいつも細心の注意を払いマンガを描いている。

さて、話を戻そう。
実際に図書館へ行き地方の人口とはどんなものかと調べていたところ、面白い資料を発見したのだ。
それはぼくの今住む杜王町から数十キロ離れたくらいに位置する町で、特に変わったデータはない。
ただ、行方不明者数以外は。
その町の行方不明者数は多いといわれていた杜王町それと同等、いや、人口面からの割合でいえば杜王町よりも多いだろう。
吉良のような(この男についてはここでは割愛させてもらう)男がいるのか、とも考えたがあんなやつが二人も三人もいるなんて考えたくもない。
百聞は一見にしかず。ぼくはその町を目指すことにした。
ちょうど休載も重なっていたため、町を離れるのは簡単だった、が。
こんな面白い事件だというのに町のみんなは着いて来るといわず、頼みの綱の康一君にも
「親の許可が下りないんで、無断外泊は出来ないんです…」と断られてしまった。
しかし、仲間がいないからといって諦めるようなぼくではない。
今は康一君に手伝いをしてもらっているが、杜王町に住む前は一人での取材が常。
どちらかというと気を遣わなくて良い分、こちらの方が楽だ。
ぼくは一人で列車に乗り込む。まだ見ぬ町を心に描きながら。
最初に足をその地に着き、感じたのは言葉にできない違和感だった。
例えるなら自分以外のものが何かを黙示している、そんな感じの違和感。
「すいません、ちょっと聞きたいんですが…」
駅前の誰に声をかけても帰ってくるのはそっけない否定のみ。
最初のほうはイラついたが、やがてそれは恐怖へと変わっていく。
もしかして、とぼくの脳裏にある仮説が浮かぶ。
(もしかして、行方不明者の居場所を皆知ってんじゃあ…)
ただ単に見知らぬ人に緊張しているだけかもしれない。
これだけ小さな町なら知り合いじゃないほうがおかしいだろうから。
しかし皆がみんなそういった態度を取るだろうか。
時刻はもう夕方四時過ぎ。
気がつけばもう到着から三時間たっている。
収穫はゼロ。
今日は諦めてどこかに泊まろうか、と考えていたとき。
彼女は現れた。
「あら、見ない顔のお兄さんね。どこから来たの?」
少女(といっても十七歳くらいか)はフリルの多く付いた薄紫色のネグリジェ風のドレスを身にまとい、
卍の型がその先に付いた日傘をさし、広げられた扇子で優雅に口元を隠し、
ぼくの方を見て笑っていた。

少女はにこやかな笑みをその瞳に湛えたままこちらに歩み寄ってくる。
一瞬、新しいスタンド使いかと思い、一応ヘブンズドアーを出してみた。
しかし少女はそちらのほうには見向きもせずにこちらに近寄ってくる。
「この町に移住するの?」
少女は僕の顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「いや、ぼくは…」
「もしそうなら止めておいた方がいいわ」
ぼくの言葉をさえぎるようにまるで歌うように言葉をつむぐ少女。
「だってこの町に移住してくる人は皆…」

「神隠しにあっちゃうもの」

僕は耳を疑った。
しかし少女はくすくすと笑いながら、
「出て行くなら早いほうがいいわよ」
とだけ言って人ごみとは逆の方向、森のほうへと歩いていく。
彼女は何か知っているのだろうか?
考えるよりも先に足は動き出す。
何故かって?こんな面白いネタを逃す手は無いからかな。
「待ってくれ、どういう事なんだ、それは?」
少女は振り返ることなく歩いていく。
そのまま、まるでそれが普通というように森の中へと入っていく少女。
少し躊躇したが、一度火のついた好奇心を今更静められるはずが無い。
ぼくも彼女の後を追って森の中に入る。
辺りの喧騒が、聞こえなくなった。

とことこと小さな歩幅で彼女は歩いていく。
その歩幅に合わせて僕も草を払いながら歩く。
「君はこの町で起こっている行方不明事件について何か知ってるのかい?」
できるだけ優しく問いかけてみるが、答えは返ってこない。
聞こえるのはくすくすという彼女の笑い声のみ。
無視しているのか、とも思ったがどうやらそういう訳ではないらしい。
「この町はね、廃れていくだけの町なの」
質問の答えの変わりに聞こえる少女の呟き。
「訪れようなんて人滅多にいないわ。
でも中には物好きがいてね、まぁ蒸発でもしてきた人だろうけど。
年に何回かあなたのように電車に乗ってこの町に来る人がいるのよ」
迷惑な話よね、と微笑みながら少女は次の言葉をつむぐ。
「その度にこの町では人が消えるの」
「最初は皆偶然じゃないか、って思ったわ。
でもそうじゃない。1人来れば1人、2人来れば2人、町の住人が確実に消える。
蒸発なんかじゃない。骨も残らない。そんな事件が数十年起きてるのよ。
村人たちもそれがただの偶然じゃないって思ってるんでしょうねぇ。
今ではさっきのあなたのように」
そこから先は言われなくてもわかる。
しかし何が起きてるっていうんだ、この町には。
神隠し、そんなものが本当に存在するというのだろうか。
そこまで考えてあることに気づく。
ぼくが来たということは今年も誰かが消えるということか。
少女はそんなぼくの心を見透かしたように
「皆気が気じゃなかったでしょうねぇ」
と言う。
「できるなら追い返したかったはずよ。
でも、追い返したところで他の人間が入ってきたっていう過去は変わらない」
つまり、どうあれもう神隠しは決定しているっていうことか。
そうぼくがたずねると少女は嬉しそうに笑い「そういうことよ」と言った。

「しかしあなたは変わってるわね」
歩きながら彼女が呟く。
「こんな森の奥まで私と一緒に歩いてきちゃうなんて。
もしかして私を狙う変態さんかしら?」
嬉しそうに、と形容すべきだろうか。
少女はその顔に先程以上の笑みを浮かべてぼくに言う。
「そういうわけじゃないさ、さっきの町じゃ誰も話しをしてくれないんでね」
「こんなところまで来ちゃったら神隠しに会うかもしれないわよ?」
「でも神隠しにあうのは1人、しかも町の住人なんだろ?
ぼくには関係ないね」
言い切るぼくにちょっと驚いたような顔をむける少女。
ぼくには確信があった。
先にあげた理由もそうだが、ぼくには絶対にやられない自信がある。
なぜならぼくには…
「ふーん、つまらないわねぇ。
でも、神隠しの主犯にあなたのご自慢の『能力』が通じなかったらどうするの?」
再度ぼくは耳を疑った。
なぜ出会ったばかりの少女が誰にも話していないぼくの能力について知っているんだ?
それよりも少女は今、何故
『神隠し』に『犯人』がいると言い切れたんだ?
「そこまで驚かなくてもいいじゃない」
少女がぼくの方を向き、扇子をたたみ、こちらに突き出す。
悪寒が走る。このままではまずい。
「『ヘブンズ・ドアーーー!!』」
少女の突き出した腕に触れ、少女を本に変えようとする。
だが、
「残念ねぇ。やっぱり効かないみたいよ?」
少女は先程のようにくすくすと笑っていた。
どうしてだ、何でこの少女にはスタンドが通用しないんだ?
理解不能、理解不能、理解不能、理解不能
少女からできるだけ距離をとろうと、後ずさる。
「そこまで怖がらなくてもいいじゃない」
少女は距離を詰める。ぼくは後ずさる。
「さっきまで仲良くお話してたんだし」
少女は距離を詰める。ぼくは後ずさる。
何度かそれを繰り返すと、ぼくの背中が木に触れ、もう逃げ場が無いことをぼくに痛感させた。
「別にとって食いはしないわよ」
少女はぼくの胸に扇子を突きつけて、ニヤニヤしながらそう告げる。
「ただ、してもらいたいことがあってね」
ゆっくりと扇子をぼくの顔のほうへ向け、一言
「あなたのサインをもらえないかしら?」

三度耳を疑った。
この状況で、何故、サイン?
そりゃあ、ぼくは(自分で言うのもなんだが)売れっ子マンガ家だ。
サインだって書かなきゃならないことがある。
だからといって何故、今、サインなんだ?
いまだ混乱しているぼくの頭を、やはり見透かしたように少女が答える。
「私の式の式がね、あなたの作品の大ファンなのよ。
どうかしら、サインをくれれば何でも教えてあげるんだけど」
何でも。
神隠しについてや、能力が効かなかった理由についても聞けるという事だろう。
かなり魅力的な条件だった。しかしぼくは首を縦に振れない。
「あら、どうしたの?ここで食べちゃってもいいのよ?」
「残念だけど、色紙を持ってなくてね」
スケッチブックならあるが、他人に渡すのにあれでは失礼だ。
食べられたくは無いが、自分の信念は死んでも曲げたくない。
そういったぼくの心意気を汲んだのか、少女は扇子を広げ口を隠し
「本当に職人気質なのね、まぁいいわ」
少女は何も無い空間に手を伸ばす。
するとどうだろうか、いきなりその空間に歪みが生じ少女の手がすっぽりと入り込んでしまったではないか。
そして、手を出すと。
「これでいいかしら」
その手にはサイン色紙が握られていた。
ぼくは口を間抜けに開けるしかできなかった。
「そろそろ書いてもらえるかしら?」
唖然としていたぼくのほうに取り出した色紙を突き出し、サインを促す少女。
「あ、ああ」
すぐにサインペンを出し、サインをしてあげる。
「あら、はやいのね。ありがとう」
にこりと笑って少女はそのまま歩いていこうとする。
しかし、ここまできてそれは無いだろう。
「待ってくれ、質問に答えてくれるんじゃあなかったのか!?」
そうぼくが声を上げると、少女は気だるそうに「だってもう眠いし」と呟いた。
「ちょっと待ってくれ、ぼくだけ約束を守るっていうのは無しだ!
もしこのまま帰るっていうんなら、サインは返してくれ」
ぼくの熱気に押されたのか、少女はこっちに歩いてきてくれた。
「しょうがないわね。三つだけよ?」
ただ本当に眠いらしく、質問数は限られてしまったが。
「じゃあ、一つ目だ。神隠しについて教えてくれ」
「あら、それじゃあ、質問じゃないわ。講義になっちゃう」
どうやら眠いといっても冷静な判断力は失っていないらしい。
ぼくは心の中で舌打ちをする。
今の答えてくれれば本当に楽だったんだが。

「じゃあ、一つ目だ。何で神隠しをした?」
改めてぼくは少女にそう尋ねる。
「答えは簡単、食べるためよ」
少女は悪びれる様子も無くそう答える。
「食べる?」
食べるというのは、あれか。
もしかして、牛や取りのように人間を栄養にするということか。
「ええ、妖怪はえてして人間を食べるものよ」
そう答えて、少女は少し顔をゆがませた。
「だめねぇ、やっぱり眠いみたい。二つ目でもないのに質問に答えちゃったわ」
「まさか今のが二つ目だなんて…」
「大丈夫、言わないわ」
ぼくは胸をなでおろす。
ぽっと口から出てしまった言葉でチャンスを失ってしまう。
それほど愚かなことは無いだろう。
しかし、とここで彼女の言葉を反芻する。
妖怪、確かにそう言った。
別に驚きはしない。
スタンド使いがいるんだし、妖怪くらいいてもおかしくないだろう。
ただ、目の前の少女はどう見てもただの少女だ。
そういった種類の妖怪なのか、それとも狐のように擬態しているのか。
それも気になるが、やはり次の質問はこれだろう。
「二つ目だ。何故今さっきぼくの能力が効かなかった?」
「それは私の能力を使って『有効』と『無効』の境界をいじったからよ」
もう隠そうともせず、少女は能力について説明する。
「能力?」と先程のように尋ねなおしてみるが、
「妖怪には能力が付き物よ」と今度は乗ってくれなかった。
「さて、次が最後の質問ね」
欠伸をしながら少女が
「何でもだから、スリーサイズなんかもいいのよー?」
つまらないとばかりにそう言う。
しかし下らない事に最後の質問を使ってしまう気は毛頭ない。
ぼくは考える。聞きたい事が多すぎるのだ。
どうすればいいだろう。
そこでぼくに妙案が浮かぶ。
「なぁ、」「何かしら?」
「ここでとって食ったりはしないよな?」
「それは質問かしら?」少女はやはりくすくすと笑う。
「違うさ、ただぼくが死んだら読者が悲しむだろうなってね」
本当は読者のことなどどうでもいい。
ただ保障がほしいだけだ。次の質問をして生きて帰れる保障が。
「大丈夫よ。最初に言ったとおり、私の式の式もあなたのファンなの。
そんな人を殺しちゃったら後味が悪いわ。ちゃんと町まで返してあげる」
嬉しい返答だった。
しかも彼女はこれを質問とカウントしていない。
「じゃあ、最後の質問だ」少女は扇子をたたむ。
「自己紹介をしてもらえるか?」
恐る恐る、だがはっきりとぼくはそう言う。
必要なんだ、ぼくの計画にはどうしてもこれが。
少女は少し唖然としそれからいつものようにくすくすと笑った。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。
でもそんなことで本当にいいの?」
「ああ、何事もリアリティだからな」
「…?まぁ、いいわ。
私の名前は八雲紫、神隠しの主犯、スキマに潜む大妖怪、八雲紫よ」
「そうか、ぼくは岸部露伴だ」
「いい夜だったわ、露伴先生。それじゃあ、お帰りはこちらよ」
そういって少女、八雲紫は先程のように空間に手を伸ばす。
するとやはり先程のようにそこに歪みが生まれた。
その様子を見て、ぼくは納得した。
これが町などの別の空間につながっているのなら、神隠しも起こせる。
「じゃあ、ファンの子によろしく言っておいてくれ」
「ええ」
そういってぼくはその歪みに身をゆだねた。

目を覚ますと、駅の待合室の簡易椅子の上だった。
どうやらそのまま帰ってもいいようにここに連れてきてくれたらしい。
どこからとも無くあのくすくす笑いが聞こえる。
きっと今もどこかでぼくのことを覗いているんだろう。
ぼくはチケットを買うために寝こけている駅員を起こす。
駅員は少し戸惑いながらもちゃんと杜王町行きのチケットを売ってくれた。
電車が来るまで後数分。
ぼくは今日のことを振り返る。
神隠しの町、妖怪の存在、空間の歪み、そして八雲紫。
きっとこの町の奴らはこれから先もずっと神隠しにおびえながら生きていくんだろう。
別に話してもいいと思ったが、事件解決はぼくには全く関係ない。
無駄なことに動いている時間は無いんだ。
ぼくは動かない。
それより今は、溢れ出るアイデアをはやくマンガにぶつけたい。
電車の光が近づいてくる。
家に帰るまであと数十分。
これほどまでに長い数十分も久しぶりだな、と思いながらぼくは町に背を向けた。

             ~取材終了~


おまけ

「あら、また来たの?」
「ああ、もう一度君に会いたくてね」
「どうして?」
「短編マンガを描いたんだ。
あらすじは人間の作り出した光の裏側、闇に潜む妖怪たちの話さ」
「へぇ、面白そうね」くすくす
「主人公は空間を操る能力を持っていて、他の妖怪からも一目置かれている大妖怪。
その名も八雲紫」
「あら、私と同じ名前じゃない。不思議なこともあるものね」
「妖怪のことは本人たちに聞いたほうがいいと思ってね。
こうやってはるばる君のところを訪れたわけだ」
「そう、じゃあうちにいらっしゃいな、そこで読んであげるわ」
「そうかい、じゃあお言葉に甘えるよ」
「橙もきっと喜ぶでしょうしね」
「橙?」
「あなたのサインを部屋の真ん中に飾るような、かわいい私の式の式よ」くすくす
「へぇ、そうかい。そいつは嬉しいね」

森を進む二人。
幻想郷は今日も平和。

おわり

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