ま、知ってるヤツが多かろうが少なかろうがどうでもいいことだが。
ぼくの名は岸辺露伴。マンガ家だ。
ぼくの名は岸辺露伴。マンガ家だ。
岸辺露伴は動かない エピソード31・・見捨てられた神々
以前ぼくは「ピンクダークの少年」という作品を少年ジャンプに連載していたことがあり…
あの傑作を読んでないからって編集部に電話するのはやめてくれ。
ま…第四部も順調に始まり、とある場所へ画材を買いにいったんだ。
どこかだって?そんなことは今関係ないさ。
これからここに紹介するエピソードはその時にこの岸辺露伴が偶然取材した不思議な話であり、
『実際に、このぼくが体験した』奇怪…もとい不思議な出来事なのだ。
あの傑作を読んでないからって編集部に電話するのはやめてくれ。
ま…第四部も順調に始まり、とある場所へ画材を買いにいったんだ。
どこかだって?そんなことは今関係ないさ。
これからここに紹介するエピソードはその時にこの岸辺露伴が偶然取材した不思議な話であり、
『実際に、このぼくが体験した』奇怪…もとい不思議な出来事なのだ。
読者のみんなは『神』をご存知だろうか。
気まぐれで世界を創ったり物に取り付いたりする、迷惑千万としか言いようのないあれのことだ。
なに、知らないわけがないって?
じゃあ質問を変えよう。
読者のみんなは『神』を信じるかな。
…別に変な宗教の勧誘じゃあないぞ。
まぁ勧誘してもいいんだが、彼女には会えないだろうしね。
気まぐれで世界を創ったり物に取り付いたりする、迷惑千万としか言いようのないあれのことだ。
なに、知らないわけがないって?
じゃあ質問を変えよう。
読者のみんなは『神』を信じるかな。
…別に変な宗教の勧誘じゃあないぞ。
まぁ勧誘してもいいんだが、彼女には会えないだろうしね。
あの日ぼくは梅雨明け特有の空気の中、とある町の駅に降りた。
どこかって?だから、今は関係ないことだ。二度も言わせないでくれ。
ぼくは道なりに沿って駅前の大通りを歩き出す。
むしむしとした湿気が気持ち悪い。雨でも降るのだろうかとも思ったが空はいまだ一面の青。
少し歩けば調べておいた画材屋につく、そこで思い切り涼めばいいさ。
そう思いながらぼくが大通りを歩いていると奇妙な光景が目に入った。
「…あれは、蛇かな?」
そう、大通りの中を蛇が這っていたのだ。
珍しいこともあるもんだ、とぼくがそいつを見つめていると驚いたことに、そいつはこちらを向き、舌を出した。
そしてそのままちろちろと舌を動かし、また何事もなかったのように這い出す。
それはまるでぼくに『ついてこい』と誘っているように、
ぼくの好奇心が鎌首をもたげる。
どうやら蛇は町の奥へと向かっているようだ。
今日は時間にも余裕はある。
ぼくはとりあえずついて行くことにした。
どこかって?だから、今は関係ないことだ。二度も言わせないでくれ。
ぼくは道なりに沿って駅前の大通りを歩き出す。
むしむしとした湿気が気持ち悪い。雨でも降るのだろうかとも思ったが空はいまだ一面の青。
少し歩けば調べておいた画材屋につく、そこで思い切り涼めばいいさ。
そう思いながらぼくが大通りを歩いていると奇妙な光景が目に入った。
「…あれは、蛇かな?」
そう、大通りの中を蛇が這っていたのだ。
珍しいこともあるもんだ、とぼくがそいつを見つめていると驚いたことに、そいつはこちらを向き、舌を出した。
そしてそのままちろちろと舌を動かし、また何事もなかったのように這い出す。
それはまるでぼくに『ついてこい』と誘っているように、
ぼくの好奇心が鎌首をもたげる。
どうやら蛇は町の奥へと向かっているようだ。
今日は時間にも余裕はある。
ぼくはとりあえずついて行くことにした。
「どこまで行く気だ、お前は」
まだ前を這っている蛇を見ながらぼくは呟く。
あれから小一時間は歩いているが蛇には何かを喋ったり攻撃してきたりする気配も休む気配もない。
ぐんぐんと町から離れていく。
最初の頃には視界の隅に入っていた通行人も今やその影すら見当たらない。
代わりに目に映るのは沢山の木々と舗装もされていない歩き辛い道。
「まぁ、何があるか分からないから追ってるんだけど…なっ!?」
言い終わる前に、ぼくの首筋に冷たい雫があたる。
「オイオイ、冗談だろ?」
見上げてみるとそこには先程までの抜けるような青空はなく、代わりに暗鬱とした灰色の雲が敷き詰められていた。
しかも遠くからは特有のにおいが漂ってくる。
そして聞こえてくるぽつぽつという音。
「やめてくれ、ここから一体…」
どれだけ歩かなきゃ、と続けようとしたがその声は大きくなる雨音にかき消された。
…最悪だ。
こんな事なら蛇なんて追ってこなければよかった。
そう思い、地面にいる蛇をにらみつける。
しかし蛇は雨にもひるまずに進み続けている。
「………」
どうせここから帰ってもずぶ濡れになるのは変わらないんだ。
ぼくは小走りで蛇を追いかけた。
まだ前を這っている蛇を見ながらぼくは呟く。
あれから小一時間は歩いているが蛇には何かを喋ったり攻撃してきたりする気配も休む気配もない。
ぐんぐんと町から離れていく。
最初の頃には視界の隅に入っていた通行人も今やその影すら見当たらない。
代わりに目に映るのは沢山の木々と舗装もされていない歩き辛い道。
「まぁ、何があるか分からないから追ってるんだけど…なっ!?」
言い終わる前に、ぼくの首筋に冷たい雫があたる。
「オイオイ、冗談だろ?」
見上げてみるとそこには先程までの抜けるような青空はなく、代わりに暗鬱とした灰色の雲が敷き詰められていた。
しかも遠くからは特有のにおいが漂ってくる。
そして聞こえてくるぽつぽつという音。
「やめてくれ、ここから一体…」
どれだけ歩かなきゃ、と続けようとしたがその声は大きくなる雨音にかき消された。
…最悪だ。
こんな事なら蛇なんて追ってこなければよかった。
そう思い、地面にいる蛇をにらみつける。
しかし蛇は雨にもひるまずに進み続けている。
「………」
どうせここから帰ってもずぶ濡れになるのは変わらないんだ。
ぼくは小走りで蛇を追いかけた。
蛇が小さな草むらに逃げるように飛び込む。
しかし、今のぼくにはそんなことはどうでもよかった。
蛇に連れられてきてみればいつの間にか長い階段の下についていた。
上のほうには小さいが鳥居も見える。
「蛇は神の使い…だったのか?」
とりあえず雨もしのぎたいのでぼくは駆け足でその階段を上った。
しかし、今のぼくにはそんなことはどうでもよかった。
蛇に連れられてきてみればいつの間にか長い階段の下についていた。
上のほうには小さいが鳥居も見える。
「蛇は神の使い…だったのか?」
とりあえず雨もしのぎたいのでぼくは駆け足でその階段を上った。
そこは、一言で言うなら『廃れた』神社だった。
見渡す限りボロボロ。どこからどう見てもご利益のごの字もない外見。
「狛犬もいないぞ!すごい、こんな神社が本当にあったなんて!!」
ぼくは雨から逃れるために無人の境内に入り込み、防水加工もばっちりな取材用バッグからスケッチブックを取り出す。
「廃れた神社か…いいな、なんかこう『デ』そうだし。短編の舞台に持って来いかもな」
「短編…ということは連載作家さんですか?」
後ろから鈴の音のように綺麗な声が聞こえる。声の質から察するに若い女の子だろうか。
しかしぼくにとって大切なのは『人との出会い』ではなく『廃れた神社との出会い』だ。
どうせ神社の関係者だろう、とぼくは返事もせずに描き続けた。
少女だと思われる声の主はぼくのスケッチブックを覗き込んでいるらしい。
ぼくが何か描くたびに「綺麗」だの「上手い」だの感想を言う。
こういうのは正直やめて欲しい。
せっかくノリにノっているのに邪魔されるのは誰だっていやだろ。
ぼくはとりあえず描く手を止め、手を払いその少女を追っ払う。
少女はぼくが嫌がっているのが分かったのか、神社の奥のほうに消えていった。
これでやっと集中できる、ともう一度スケッチブックにペンを走らせる。
「いいなこの風景、この眺め!『彼女』の舞台に持って来いだ!!(岸部露伴は動かない エピソード28参照)
貧乏巫女のところとは違った、綺麗な廃れた神社。妖怪が手を加えて住んでいるということにすれば…
なら、二話目の敵は鬼だな。あの飲んだくれの酔っ払い鬼だ」
見渡す限りボロボロ。どこからどう見てもご利益のごの字もない外見。
「狛犬もいないぞ!すごい、こんな神社が本当にあったなんて!!」
ぼくは雨から逃れるために無人の境内に入り込み、防水加工もばっちりな取材用バッグからスケッチブックを取り出す。
「廃れた神社か…いいな、なんかこう『デ』そうだし。短編の舞台に持って来いかもな」
「短編…ということは連載作家さんですか?」
後ろから鈴の音のように綺麗な声が聞こえる。声の質から察するに若い女の子だろうか。
しかしぼくにとって大切なのは『人との出会い』ではなく『廃れた神社との出会い』だ。
どうせ神社の関係者だろう、とぼくは返事もせずに描き続けた。
少女だと思われる声の主はぼくのスケッチブックを覗き込んでいるらしい。
ぼくが何か描くたびに「綺麗」だの「上手い」だの感想を言う。
こういうのは正直やめて欲しい。
せっかくノリにノっているのに邪魔されるのは誰だっていやだろ。
ぼくはとりあえず描く手を止め、手を払いその少女を追っ払う。
少女はぼくが嫌がっているのが分かったのか、神社の奥のほうに消えていった。
これでやっと集中できる、ともう一度スケッチブックにペンを走らせる。
「いいなこの風景、この眺め!『彼女』の舞台に持って来いだ!!(岸部露伴は動かない エピソード28参照)
貧乏巫女のところとは違った、綺麗な廃れた神社。妖怪が手を加えて住んでいるということにすれば…
なら、二話目の敵は鬼だな。あの飲んだくれの酔っ払い鬼だ」
ガリガリという鉛筆の音に混じってミシミシという木の軋む音が聞こえてくる。
どうやら誰かが、まぁ十中八九先程の少女がこちらに近づいてきているらしい。
ぼくは気にせずに顔を伏せ、一ページ目の仕上げに取り掛かる。
「はかどってますか?」やはり先程の少女のようだ。
ぼくはあえて答えない。
つっけんどんに接していればいつかは彼女の興味もうせるだろう。
しかし少女は思いもよらない行動に出た。
ことりという、床に何かが置かれる音が耳に入る。
「よければ飲んでください」
どうやらお茶を出してくれたようだ。
しかしその行動が気にかかる。見ず知らずの男に普通茶など出すだろうか。
怪しく思ってぼくが顔を上げると、そこには少女の笑顔があった。
ぼくは思わず息を呑む。
綺麗なのだ、とても。それは『彼女』とは違った美しさ。
美しさというよりは可愛らしさだろうか。
にこりと笑った顔はとても穏やかで全てを受け止める聖母マリアのようだった。
…何、神社の巫女に聖母マリアの例えはおかしい?ほっといてくれ。
少女はぼくが顔を上げたのに気がつくと深々とお辞儀をした。
「この神社の巫女をやっています。東風谷早苗です」
ぼくもつられてお辞儀を返す。その行動に何よりも驚いたのはぼく自身だった。
少女、東風谷早苗はぼくの隣に座り、スケッチブックを覗き込む。
今度はぼくも止めない。お茶まで出されて止められるわけがない。
「上手ですね。えっと…」「岸部露伴だ」
「あ、はい。…露伴さんは画家さんですか?」「マンガ家さ。一応有名なね」
そうなんですか、といい早苗はそのままかじりつくようにスケッチブックを見続ける。
こうやって見られるというのはなんだか気恥ずかしいものだ。
ぼくはそんな気持ちを隠すために鉛筆を走らせる。
どうやら誰かが、まぁ十中八九先程の少女がこちらに近づいてきているらしい。
ぼくは気にせずに顔を伏せ、一ページ目の仕上げに取り掛かる。
「はかどってますか?」やはり先程の少女のようだ。
ぼくはあえて答えない。
つっけんどんに接していればいつかは彼女の興味もうせるだろう。
しかし少女は思いもよらない行動に出た。
ことりという、床に何かが置かれる音が耳に入る。
「よければ飲んでください」
どうやらお茶を出してくれたようだ。
しかしその行動が気にかかる。見ず知らずの男に普通茶など出すだろうか。
怪しく思ってぼくが顔を上げると、そこには少女の笑顔があった。
ぼくは思わず息を呑む。
綺麗なのだ、とても。それは『彼女』とは違った美しさ。
美しさというよりは可愛らしさだろうか。
にこりと笑った顔はとても穏やかで全てを受け止める聖母マリアのようだった。
…何、神社の巫女に聖母マリアの例えはおかしい?ほっといてくれ。
少女はぼくが顔を上げたのに気がつくと深々とお辞儀をした。
「この神社の巫女をやっています。東風谷早苗です」
ぼくもつられてお辞儀を返す。その行動に何よりも驚いたのはぼく自身だった。
少女、東風谷早苗はぼくの隣に座り、スケッチブックを覗き込む。
今度はぼくも止めない。お茶まで出されて止められるわけがない。
「上手ですね。えっと…」「岸部露伴だ」
「あ、はい。…露伴さんは画家さんですか?」「マンガ家さ。一応有名なね」
そうなんですか、といい早苗はそのままかじりつくようにスケッチブックを見続ける。
こうやって見られるというのはなんだか気恥ずかしいものだ。
ぼくはそんな気持ちを隠すために鉛筆を走らせる。
沈黙を破ったのは早苗だった。
「きっとこの神社も、喜んでると思います」
「神社が喜ぶ?」ぼくは耳を疑った。
神社は喜ばない。当然だ、感情がないから。
早苗は少しさびしそうに続ける。
「はい。露伴さんみたいな素敵なマンガ家さんに絵として残してもらえて。
きっと、神社も神様も、喜んで…」
そこまでで彼女の言葉は途切れた。
代わりに聞こえてくるのは押し殺した声。
隣から覗き込んでいた少女のほうを見ると、彼女は、東風谷早苗は泣いていた。
その綺麗な顔をくしゃくしゃにゆがめて。
ぼくはスケッチブックが濡れると困るのですぐに自分のハンカチを差し出す。
少女はそれをうけとり、顔をうずめて、今度は声を上げて泣いた。
「きっとこの神社も、喜んでると思います」
「神社が喜ぶ?」ぼくは耳を疑った。
神社は喜ばない。当然だ、感情がないから。
早苗は少しさびしそうに続ける。
「はい。露伴さんみたいな素敵なマンガ家さんに絵として残してもらえて。
きっと、神社も神様も、喜んで…」
そこまでで彼女の言葉は途切れた。
代わりに聞こえてくるのは押し殺した声。
隣から覗き込んでいた少女のほうを見ると、彼女は、東風谷早苗は泣いていた。
その綺麗な顔をくしゃくしゃにゆがめて。
ぼくはスケッチブックが濡れると困るのですぐに自分のハンカチを差し出す。
少女はそれをうけとり、顔をうずめて、今度は声を上げて泣いた。
「落ち着いたか?」「はい…見苦しいところを見せてしまい、すみません…」
早苗はまだ赤い目をこすりながらぼくにそう答える。
早苗が落ち着いたのを確認して、ぼくは気になっていたことを聞いてみた。
「何があったんだ?」「…はい」
信頼してくれているのか、それともただ単にそこにいたからか。
早苗はまた少し悲しそうな顔をしてぼくに語り始めた。
早苗はまだ赤い目をこすりながらぼくにそう答える。
早苗が落ち着いたのを確認して、ぼくは気になっていたことを聞いてみた。
「何があったんだ?」「…はい」
信頼してくれているのか、それともただ単にそこにいたからか。
早苗はまた少し悲しそうな顔をしてぼくに語り始めた。
「露伴さんは神様、信じますか?」
「…信じないわけじゃあない。いないっていう証拠がないからな」
実際、ぼくはいないといわれてきた者に出会ったことがある。
超能力者、快楽殺人鬼、幽霊、怨念の結晶、妖怪。
上げればまだまだきりがない。
「そうですか…」彼女は続ける。
「じゃあ、神様は死ぬと思いますか?」
突飛な質問だ。彼女の涙とこの質問に、何の関係があるんだろう。
「死なないから神格化されてるんじゃないのか」
「…違います。神様も人間と一緒なんです!」
顔を上げ、ぼくに訴えるようにそう叫ぶ早苗。
「神様も、神様も人間と一緒で、泣いたり、笑ったり、怒ったり、喜んだり、するん、です!」
彼女の瞳からは、再び大粒の涙がこぼれだす。
「じゃあ、神も」「死ぬんです。神様も」
ぼくはその言葉を理解するのに少し時間が必要だった。
だってそうだろ。確かにイエスや仏陀は故人だが、神はその崇高な精神の象徴である。
いわばスタンドと同等のもの。それが死ぬはずがない。
ただ、スタンドは消えることはあるだろうが。
「…ん?」
ぼくの頭にある構図が成立する。
神とスタンドは同じ精神の象徴だといえる。
違うとすれば、スタンドは個人、神は大衆の精神の象徴であるといったところだろう。
スタンドは個人が死ねば消える。きっとそれがスタンドの『死』だ。
じゃあ…神は?
ぼくの思考に答えるように、早苗が呟く。
「神は、人に忘れられた時、死ぬんです」
それは小さい声だったが、はっきりとぼくの心に響いた。
「…信じないわけじゃあない。いないっていう証拠がないからな」
実際、ぼくはいないといわれてきた者に出会ったことがある。
超能力者、快楽殺人鬼、幽霊、怨念の結晶、妖怪。
上げればまだまだきりがない。
「そうですか…」彼女は続ける。
「じゃあ、神様は死ぬと思いますか?」
突飛な質問だ。彼女の涙とこの質問に、何の関係があるんだろう。
「死なないから神格化されてるんじゃないのか」
「…違います。神様も人間と一緒なんです!」
顔を上げ、ぼくに訴えるようにそう叫ぶ早苗。
「神様も、神様も人間と一緒で、泣いたり、笑ったり、怒ったり、喜んだり、するん、です!」
彼女の瞳からは、再び大粒の涙がこぼれだす。
「じゃあ、神も」「死ぬんです。神様も」
ぼくはその言葉を理解するのに少し時間が必要だった。
だってそうだろ。確かにイエスや仏陀は故人だが、神はその崇高な精神の象徴である。
いわばスタンドと同等のもの。それが死ぬはずがない。
ただ、スタンドは消えることはあるだろうが。
「…ん?」
ぼくの頭にある構図が成立する。
神とスタンドは同じ精神の象徴だといえる。
違うとすれば、スタンドは個人、神は大衆の精神の象徴であるといったところだろう。
スタンドは個人が死ねば消える。きっとそれがスタンドの『死』だ。
じゃあ…神は?
ぼくの思考に答えるように、早苗が呟く。
「神は、人に忘れられた時、死ぬんです」
それは小さい声だったが、はっきりとぼくの心に響いた。
早苗は続ける。
「神は人間によって生み出されます。
それは飢餓や天災への恐れからであったり、邪な人間の策略であったり、理由はさまざまです。
でも、唯一共通していることがあります。
それが『人に必要とされること』です」
彼女の瞳からはまだ大粒の涙が流れ続けている。
よくよく見れば、その目の下は数日泣きはらしてか、真っ赤になっていた。
「じゃあ、もし、神が人に必要とされなくなったとしたら?」
彼女はそこで口をつぐむ。
焦らしているわけではない、歯を食いしばっているのだ。
悲しみに打ち勝つために。
「拠所をなくした神様は、徐々に徐々に存在が薄れていき、消えてしまいます」
やはりぼくの仮説と同じらしい。
彼女はもう一度口をつぐみ、俯く。
つまりこういうことだろう。
彼女は、おそらく彼女の家系は代々巫女として神に仕えていた。
しかし近代化が進むにつれて信仰も薄れていった。
そしてとうとう、恐れていたことが起こった。それは、檀家(でいいのか?)の全滅。
薄れゆく神の存在。彼女にとってそれはかけがえのないものなのだろう。
しかしそれはどうすることもできない。自分ひとりでは何もできないから。
ただただ、神が消えていくのを見続けることしかできない。
自分の無力さを嘆くしかできなかった。
そして偶然、境内で神社を描くぼくと出会った。
お茶を出してくれたときの彼女の顔を思い出す。
きっととても嬉しかったのだろう。自分以外に、この神社の存在を残してくれる人間がいて。
だからお茶も出したし、手を払われてもにこにこ笑った。
彼女にとって神にできる、最後の恩返しだから。
「神は人間によって生み出されます。
それは飢餓や天災への恐れからであったり、邪な人間の策略であったり、理由はさまざまです。
でも、唯一共通していることがあります。
それが『人に必要とされること』です」
彼女の瞳からはまだ大粒の涙が流れ続けている。
よくよく見れば、その目の下は数日泣きはらしてか、真っ赤になっていた。
「じゃあ、もし、神が人に必要とされなくなったとしたら?」
彼女はそこで口をつぐむ。
焦らしているわけではない、歯を食いしばっているのだ。
悲しみに打ち勝つために。
「拠所をなくした神様は、徐々に徐々に存在が薄れていき、消えてしまいます」
やはりぼくの仮説と同じらしい。
彼女はもう一度口をつぐみ、俯く。
つまりこういうことだろう。
彼女は、おそらく彼女の家系は代々巫女として神に仕えていた。
しかし近代化が進むにつれて信仰も薄れていった。
そしてとうとう、恐れていたことが起こった。それは、檀家(でいいのか?)の全滅。
薄れゆく神の存在。彼女にとってそれはかけがえのないものなのだろう。
しかしそれはどうすることもできない。自分ひとりでは何もできないから。
ただただ、神が消えていくのを見続けることしかできない。
自分の無力さを嘆くしかできなかった。
そして偶然、境内で神社を描くぼくと出会った。
お茶を出してくれたときの彼女の顔を思い出す。
きっととても嬉しかったのだろう。自分以外に、この神社の存在を残してくれる人間がいて。
だからお茶も出したし、手を払われてもにこにこ笑った。
彼女にとって神にできる、最後の恩返しだから。
ぼくは鉛筆を走らせる。
別に彼女の意思に同情したわけじゃあない。
目的は最初と一緒。『彼女』の暴れる舞台にするためだ。
「…すみません、変な話をしちゃって」
ぼくが興味を持っていないとでも思ったのだろうか。
早苗はハンカチを綺麗に折りたたみ、その場に置いて立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってくれ」「え?」
ぼくは大雑把に鳥居その他周辺に影をつけながら手招きをする。
「つまり、信仰を失った神様が消えるんだろう?」
「はい、そうです」
「じゃあ、何で君は勧誘をしないんだ?」
少し意地の悪い質問かもしれない。
「それも試しました。しかし誰も神を信仰する余裕などないんです」
俯き、そう答える早苗。
ぼくは自分の考えに内から込み上げてくる笑顔をこらえながら続ける。
「そうじゃあない、そんなことは分かってる」
「じゃあ…」早苗が顔を上げ、こちらを向く。今がいいだろう。
「何でぼくを勧誘しないんだ?」
早苗はきょとんとしてこちらを見つめている。
本当に予想外、といった表情だ。
「ぼくは神の存在を信じる変わり者だし、神を信仰する余裕もある。
勧誘にはうってつけだと思うけど?」
ぼくはポケットからずぶ濡れの財布を取り出して、その中から濡れていても関係なく使える硬貨と、少し湿っているだけの紙幣を取り出す。
これは同情じゃあない。神に恩を売っているんだ。
それに何の意味があるかって?もちろんお礼目的だよ。
ぼくの前に神が姿を現せば、ぼくは自分の作品に神を出すことができる。
他の追随を許さない、本物の神だ。
ぼくは硬貨を賽銭箱に入れてから、紙幣を早苗に突き出す。
別に彼女の意思に同情したわけじゃあない。
目的は最初と一緒。『彼女』の暴れる舞台にするためだ。
「…すみません、変な話をしちゃって」
ぼくが興味を持っていないとでも思ったのだろうか。
早苗はハンカチを綺麗に折りたたみ、その場に置いて立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってくれ」「え?」
ぼくは大雑把に鳥居その他周辺に影をつけながら手招きをする。
「つまり、信仰を失った神様が消えるんだろう?」
「はい、そうです」
「じゃあ、何で君は勧誘をしないんだ?」
少し意地の悪い質問かもしれない。
「それも試しました。しかし誰も神を信仰する余裕などないんです」
俯き、そう答える早苗。
ぼくは自分の考えに内から込み上げてくる笑顔をこらえながら続ける。
「そうじゃあない、そんなことは分かってる」
「じゃあ…」早苗が顔を上げ、こちらを向く。今がいいだろう。
「何でぼくを勧誘しないんだ?」
早苗はきょとんとしてこちらを見つめている。
本当に予想外、といった表情だ。
「ぼくは神の存在を信じる変わり者だし、神を信仰する余裕もある。
勧誘にはうってつけだと思うけど?」
ぼくはポケットからずぶ濡れの財布を取り出して、その中から濡れていても関係なく使える硬貨と、少し湿っているだけの紙幣を取り出す。
これは同情じゃあない。神に恩を売っているんだ。
それに何の意味があるかって?もちろんお礼目的だよ。
ぼくの前に神が姿を現せば、ぼくは自分の作品に神を出すことができる。
他の追随を許さない、本物の神だ。
ぼくは硬貨を賽銭箱に入れてから、紙幣を早苗に突き出す。
まだ状況のつかめていない早苗の手に紙幣数枚を握らせる。
「信仰は経済力で示せ…ってよく知り合いの貧乏巫女が言っていてね。
賽銭は今はあれで勘弁しておいてくれ。手持ちが少ないんだ。
そしてこっちで、そうだな、神棚でも買おうか」
早苗は手に握り締めたお札とぼくを交互に見て、そしてその目に三度涙を浮かべた。
「…いいんですか?」
「いいもなにも、宗教の自由は国によって承認されてるんだ。
それよりも、神棚やお守り、仏壇…は買えないな。買える分だけ欲しいんだが、お金は足りるかな?」
「は、はい!」
早苗は涙を拭い、離れの方へとかけていく。
やはり他の神社よろしく物品はあちらにあるようだ。
これもぼくの予想通りだ。思わず笑みがこぼれる。
彼女が向こうに行っている間、この神社を見張るものは誰もいない。
三万八千円の失費だが、もっと価値のあるものが手に入る。
それは、『現実性』さ。
ぼくは思いっきり目の前の扉を開け放つ。
そこには大小様々な仏像が仄暗い明かりに照らされていた。
多少気味が悪い光景だが、何事もリアリティが重要だ。
特にここで戦うとなればその構造が重要になってくる。
ぼくは急いで鉛筆を走らせる。
なぜか蛇の唸り声と蛙の鳴き声が聞こえた気がした。
「信仰は経済力で示せ…ってよく知り合いの貧乏巫女が言っていてね。
賽銭は今はあれで勘弁しておいてくれ。手持ちが少ないんだ。
そしてこっちで、そうだな、神棚でも買おうか」
早苗は手に握り締めたお札とぼくを交互に見て、そしてその目に三度涙を浮かべた。
「…いいんですか?」
「いいもなにも、宗教の自由は国によって承認されてるんだ。
それよりも、神棚やお守り、仏壇…は買えないな。買える分だけ欲しいんだが、お金は足りるかな?」
「は、はい!」
早苗は涙を拭い、離れの方へとかけていく。
やはり他の神社よろしく物品はあちらにあるようだ。
これもぼくの予想通りだ。思わず笑みがこぼれる。
彼女が向こうに行っている間、この神社を見張るものは誰もいない。
三万八千円の失費だが、もっと価値のあるものが手に入る。
それは、『現実性』さ。
ぼくは思いっきり目の前の扉を開け放つ。
そこには大小様々な仏像が仄暗い明かりに照らされていた。
多少気味が悪い光景だが、何事もリアリティが重要だ。
特にここで戦うとなればその構造が重要になってくる。
ぼくは急いで鉛筆を走らせる。
なぜか蛇の唸り声と蛙の鳴き声が聞こえた気がした。
それからぼくは神棚、お守り一式、破魔札、破魔矢、注連縄、熊手、蛇と蛙の置物、そしてなんに使うか分からない棒(東風谷早苗曰く「御柱」)をもらって帰路に着いた。
もちろんお釣りは寄付しておいた。これで神様も喜ぶだろう。
予想外に荷物が増えてしまったがそんなことは関係ない。
帰りの交通費も無いが、そんなことも関係ない。
ぼくはポケットから携帯電話を取り出す。この前手に入れた代物だ。
「ええと、確か…」
慣れない手つきでボタンをプッシュする。
誰に電話するかって?こんなときに頼れるのは一人しか居ない。
短いコール音の後、お目当ての彼が電話口に出る。
{はいもしもし、広瀬です}
「あぁ、ちょうどよかった、康一君かい?」
{…露伴先生、ですか?}
「ああ、急に済まないね」
こんなとき他の作家ならアシスタントを呼ぶんだろうな。
まぁ、康一君は半分以上ぼくのアシスタントだし変わりは無いか。
「それで、突然なんだが、荷物が多くなりすぎちゃってね」
{えー、またですかァ!?}
「しかも帰りの交通費もなくなっちゃってね、悪いけど迎えに来てくれないかな?
頼むよ、お礼はちゃんとするからさ。な、いいだろ?」
{…しょうがないですね。で、今どこに居るんですか?}
やはり持つべきものは親友だな。
「えーと今日はだね…」
気がつくと森を抜け、舗装道路の上を歩いていた。
ここからなら康一君が来るまでには駅前につけるだろう。
あらましを伝えると康一君はすぐに行くとだけ言って電話を切った。
ぼくは駅前を目指す。
少しくらい歩いとかないとせっかく来てくれる康一君に失礼だしね。
もちろんお釣りは寄付しておいた。これで神様も喜ぶだろう。
予想外に荷物が増えてしまったがそんなことは関係ない。
帰りの交通費も無いが、そんなことも関係ない。
ぼくはポケットから携帯電話を取り出す。この前手に入れた代物だ。
「ええと、確か…」
慣れない手つきでボタンをプッシュする。
誰に電話するかって?こんなときに頼れるのは一人しか居ない。
短いコール音の後、お目当ての彼が電話口に出る。
{はいもしもし、広瀬です}
「あぁ、ちょうどよかった、康一君かい?」
{…露伴先生、ですか?}
「ああ、急に済まないね」
こんなとき他の作家ならアシスタントを呼ぶんだろうな。
まぁ、康一君は半分以上ぼくのアシスタントだし変わりは無いか。
「それで、突然なんだが、荷物が多くなりすぎちゃってね」
{えー、またですかァ!?}
「しかも帰りの交通費もなくなっちゃってね、悪いけど迎えに来てくれないかな?
頼むよ、お礼はちゃんとするからさ。な、いいだろ?」
{…しょうがないですね。で、今どこに居るんですか?}
やはり持つべきものは親友だな。
「えーと今日はだね…」
気がつくと森を抜け、舗装道路の上を歩いていた。
ここからなら康一君が来るまでには駅前につけるだろう。
あらましを伝えると康一君はすぐに行くとだけ言って電話を切った。
ぼくは駅前を目指す。
少しくらい歩いとかないとせっかく来てくれる康一君に失礼だしね。
いつもならここで取材終了だけど、この話はもう少し続く。
だってここまでじゃあ全然『不思議』じゃないだろ?
だってここまでじゃあ全然『不思議』じゃないだろ?
取材はもう少し続いた。
あの神社は大きいから、あの一回じゃあぼくでも書ききれなかったのさ。
計四回取材に行って、神社を描いた。
そのたびに早苗君からお礼を言われて少し気恥ずかしかったが、まぁ、悪い気はしなかったな。
そして、最後の一回のときにそれは起こった。
あの神社は大きいから、あの一回じゃあぼくでも書ききれなかったのさ。
計四回取材に行って、神社を描いた。
そのたびに早苗君からお礼を言われて少し気恥ずかしかったが、まぁ、悪い気はしなかったな。
そして、最後の一回のときにそれは起こった。
「もう、いらっしゃらないんですよね」
少し寂しそうに早苗君が呟く。
いや、実際に寂しいのかもしれない。
時折ぼくが顔を見せているだけで、そのほかには他人との接点がほとんどないんだから。
「このまま、ここに住むわけにはいきませんか?」
早苗が不意にそう尋ねてくる。
「…それは、愛の告白と受け取るべきなのかな?」
冗談半分でそう茶化すと、早苗君は真っ赤になって否定する。
そこまでされるとぼくも少し傷つくな。
「そ、そうじゃなくて!えっと、その、ですね、あの!」
しどろもどろになりながら説明を始める早苗。
なんと言っているのか分かりにくかったが、要約するとこんな感じだ。
『信仰というのは心の力。当然距離が離れればその力も薄くなる。
神社を動かすことはできない。だからこの近くに引っ越してくることはできないか?』
少し寂しそうに早苗君が呟く。
いや、実際に寂しいのかもしれない。
時折ぼくが顔を見せているだけで、そのほかには他人との接点がほとんどないんだから。
「このまま、ここに住むわけにはいきませんか?」
早苗が不意にそう尋ねてくる。
「…それは、愛の告白と受け取るべきなのかな?」
冗談半分でそう茶化すと、早苗君は真っ赤になって否定する。
そこまでされるとぼくも少し傷つくな。
「そ、そうじゃなくて!えっと、その、ですね、あの!」
しどろもどろになりながら説明を始める早苗。
なんと言っているのか分かりにくかったが、要約するとこんな感じだ。
『信仰というのは心の力。当然距離が離れればその力も薄くなる。
神社を動かすことはできない。だからこの近くに引っ越してくることはできないか?』
ぼくは大きく溜息をつく。
「ごめんなさい、駄目、ですよね…」「そうじゃなくて、早苗君。少しいいかい?」
「はい?」
「君はここを動きたがらないようだけど、本当に神様のことを思うなら、動くべきなんじゃあないのか?」
早苗君は不思議そうに首をかしげる。
その様子はどことなく小動物に似ていた。
「ぼくがここに移り住んだとしよう。確かに神様は存在するだろうがそれじゃあまだ信仰は『二人分』だ。
それじゃあ、いつ神様が消えてしまうか分からない。ここまではいいかい?」
早苗君は無言でうなずく。
「それはここの土地柄の所為かも知れないとしたら?」
早苗君はもう一度首をかしげる。
意味が分からないのだろうか。これでも分かりやすく説明してるつもりなんだが。
ぼくはもう一度、内容を噛み砕いて説明を試みる、
「つまりだ、信仰が集まらないのがここに神社があるからだとしたら?」
早苗君はいつかのようにきょとんとしている。
「それって…?」
「要領を得ないな。単刀直入に言おう。
神様を必要としていて、なおかつぼくの家に近い場所にあてがある。
そこに移ってこないかって誘ってるんだ」
少々厄介なところだけどねと小声で付け足すことは忘れない。
これを言っておかなかったら後々困るだろうしね。
「ごめんなさい、駄目、ですよね…」「そうじゃなくて、早苗君。少しいいかい?」
「はい?」
「君はここを動きたがらないようだけど、本当に神様のことを思うなら、動くべきなんじゃあないのか?」
早苗君は不思議そうに首をかしげる。
その様子はどことなく小動物に似ていた。
「ぼくがここに移り住んだとしよう。確かに神様は存在するだろうがそれじゃあまだ信仰は『二人分』だ。
それじゃあ、いつ神様が消えてしまうか分からない。ここまではいいかい?」
早苗君は無言でうなずく。
「それはここの土地柄の所為かも知れないとしたら?」
早苗君はもう一度首をかしげる。
意味が分からないのだろうか。これでも分かりやすく説明してるつもりなんだが。
ぼくはもう一度、内容を噛み砕いて説明を試みる、
「つまりだ、信仰が集まらないのがここに神社があるからだとしたら?」
早苗君はいつかのようにきょとんとしている。
「それって…?」
「要領を得ないな。単刀直入に言おう。
神様を必要としていて、なおかつぼくの家に近い場所にあてがある。
そこに移ってこないかって誘ってるんだ」
少々厄介なところだけどねと小声で付け足すことは忘れない。
これを言っておかなかったら後々困るだろうしね。
早苗君は少し考えた後、ぼくのほうを見上げる。
「ちょっと、神様に相談してみます」
そう言って奥の部屋へと入っていく。
これは二回目の来訪で分かったことなんだが、彼女は神の後胤らしい。
何でも、この神社は『八坂様』『洩矢様』の二神を奉っていて彼女は『洩矢様』の子孫だとか。
巫女(正確には風祝っていう別の職だとか)である上にその血筋の能力もあいまって、彼女はとある能力を持っている。
それは『奇跡を操る程度の能力』。
…『程度』は必要ない?空間をいじるのに比べればその『程度』だろ。
ならその奇跡で信仰を集めればいいじゃないか、とも思うがそれは不可能らしい。
なんでも彼女が起こせるのは事象に対する奇跡だけであって、人の心までは動かせないとか。
難儀なもんだな、まったく。
まぁ、だからといって別に困るわけでもないだろうが。
…話が変わったな。
彼女にそういう力が宿ってるから彼女は限られた条件下なら神と交信できる。らしい。
ここを動くのを独断で決めるのはやはりいけないことなんだろう。
特に『洩矢様』は数世紀間この辺りの土地が身(土着の神様のことだ)をしていたらしいから、動きたがらないかもしれない。
ただ本当に神社の存続を考えるのなら、悪い話じゃあないはずだ。
ぼくは出されていたお茶をすする。
彼女が入っていった部屋のほうからなぜかドタドタという走り回る音がするが、祈祷なんてそんなもんなんだろう。
くぐもっていてなんと言っているかは聞こえないが、騒ぎ声も聞こえる。
しかも早苗君一人じゃあない。もっと成熟した女性の声ともっと幼い少女の声だ。
「…本当に何があってるんだ?」
ぼくはできるだけ音を立てないように部屋を区切っている襖に近づく。
ぼくが『偶然手が滑って』襖を開けようとした、ちょうどその時だった。
「…話し合いが、終わりました…」
先程よりも少しやつれた早苗君が出てきたのは。
「ちょっと、神様に相談してみます」
そう言って奥の部屋へと入っていく。
これは二回目の来訪で分かったことなんだが、彼女は神の後胤らしい。
何でも、この神社は『八坂様』『洩矢様』の二神を奉っていて彼女は『洩矢様』の子孫だとか。
巫女(正確には風祝っていう別の職だとか)である上にその血筋の能力もあいまって、彼女はとある能力を持っている。
それは『奇跡を操る程度の能力』。
…『程度』は必要ない?空間をいじるのに比べればその『程度』だろ。
ならその奇跡で信仰を集めればいいじゃないか、とも思うがそれは不可能らしい。
なんでも彼女が起こせるのは事象に対する奇跡だけであって、人の心までは動かせないとか。
難儀なもんだな、まったく。
まぁ、だからといって別に困るわけでもないだろうが。
…話が変わったな。
彼女にそういう力が宿ってるから彼女は限られた条件下なら神と交信できる。らしい。
ここを動くのを独断で決めるのはやはりいけないことなんだろう。
特に『洩矢様』は数世紀間この辺りの土地が身(土着の神様のことだ)をしていたらしいから、動きたがらないかもしれない。
ただ本当に神社の存続を考えるのなら、悪い話じゃあないはずだ。
ぼくは出されていたお茶をすする。
彼女が入っていった部屋のほうからなぜかドタドタという走り回る音がするが、祈祷なんてそんなもんなんだろう。
くぐもっていてなんと言っているかは聞こえないが、騒ぎ声も聞こえる。
しかも早苗君一人じゃあない。もっと成熟した女性の声ともっと幼い少女の声だ。
「…本当に何があってるんだ?」
ぼくはできるだけ音を立てないように部屋を区切っている襖に近づく。
ぼくが『偶然手が滑って』襖を開けようとした、ちょうどその時だった。
「…話し合いが、終わりました…」
先程よりも少しやつれた早苗君が出てきたのは。
早苗君は力なく座り込み、お茶に手を伸ばす。
どうも本当に疲れてるみたいだ。
ぼくの中の好奇心が暴れ始める。
襖の奥で何があっていたのか、先程の声は何なのか、ものすごく知りたい!!
「えと、相談の結果動いても別に問題ないそうです。
御二人ともここの人間には失望していたらしく」
「そうか、そいつは良かった」
「ただひとつ条件がありまして…」
条件?
ぼくが首をかしげると早苗君は顔を真っ赤にしながら
「わ、私が言ったんじゃないですからね!ね、念のためですけど」と言った。
そりゃあ条件を出すのは神様だろう。それぐらいぼくにも分かっている。
問題はその条件だ。
早苗君の顔はまだ真っ赤である。
そして蚊の鳴くような声で小さく呟いた。
「『動いてもいいが定期的に参拝に来ること』だそうです」
「そりゃまた、どうして?」
「えっと、八坂様も洩矢様も露伴先生のことがとっても気に入っていて。
会えなくなるのは寂しい、とのことです」
なるほど、とぼくは大きくうなずき思わず笑顔になる。
どうやらぼくの計画はうまいこと進んでいるようだ。
「別にかまわないさ、週単位じゃなければね」
ぼくはこれ以上ないくらいの笑顔でそう答える。
きっとここに康一君がいれば『ちょっと怖いですね…』とか言うんだろうな。
しかし早苗君は恐縮してか、まだ顔を真っ赤に染めたまま俯いていた。
どうも本当に疲れてるみたいだ。
ぼくの中の好奇心が暴れ始める。
襖の奥で何があっていたのか、先程の声は何なのか、ものすごく知りたい!!
「えと、相談の結果動いても別に問題ないそうです。
御二人ともここの人間には失望していたらしく」
「そうか、そいつは良かった」
「ただひとつ条件がありまして…」
条件?
ぼくが首をかしげると早苗君は顔を真っ赤にしながら
「わ、私が言ったんじゃないですからね!ね、念のためですけど」と言った。
そりゃあ条件を出すのは神様だろう。それぐらいぼくにも分かっている。
問題はその条件だ。
早苗君の顔はまだ真っ赤である。
そして蚊の鳴くような声で小さく呟いた。
「『動いてもいいが定期的に参拝に来ること』だそうです」
「そりゃまた、どうして?」
「えっと、八坂様も洩矢様も露伴先生のことがとっても気に入っていて。
会えなくなるのは寂しい、とのことです」
なるほど、とぼくは大きくうなずき思わず笑顔になる。
どうやらぼくの計画はうまいこと進んでいるようだ。
「別にかまわないさ、週単位じゃなければね」
ぼくはこれ以上ないくらいの笑顔でそう答える。
きっとここに康一君がいれば『ちょっと怖いですね…』とか言うんだろうな。
しかし早苗君は恐縮してか、まだ顔を真っ赤に染めたまま俯いていた。
「それじゃあ次の日曜、知り合いと引越しの手伝いをしにくるよ」
「はい、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる早苗君。見慣れた光景だ。これからも見るんだろう。
ぼくはそんな早苗君を確認すると階段へと向かっていく。
『彼女』と連絡を取るのはたやすい。
それに前にこの話をしたときも乗り気だったから明日にでも手伝ってくれるだろう。
『ロハンーーー!ちゃんと約束守ってねーーー!!』
突然、後ろから少女の声が聞こえてくる。
早苗君の声じゃあない。もっと幼い少女の声だ。
『くれぐれも忘れないようにね。早苗も悲しむわよ』
次いで聞こえる女性の声。こちらも早苗君の声じゃない。
もっと年上の女性の声だ。
奇妙に思ったぼくが後ろを向くとそこには三人の女性がいた。
一人は早苗君だ。真っ赤な顔でこっちに向かって手を振っている。
その右側には注連縄と御柱を背負った女性。左側には目玉のついた帽子をかぶった幼女。
それぞれこちらに向かって手を振っている。
「なっ!?」
ぼくが声を上げようとした瞬間、一陣の向かい風が吹き抜けた。
その風圧から目をつぶり、次に目を開けるとそこには。
誰もいなかった。
そこにはただ、先程と同じように真っ赤な顔で手を振っている早苗君しかいなかった。
でも、気のせいなんかじゃあないはずだ。
確かに声も聞こえたし、ぼくの視力は健常だ。
ただ、居ないものを帰って尋ねると不自然だろう。
(…今度来た時にそれとなく聞いてみるか)
そう思い直して、ぼくは階段をゆっくりと下りる。
向かい風がもう一陣吹き、ぼくの背を押す。まるで恥ずかしいから早く帰れと言うように。
なんでそんな風に感じたのかはぼくにも分からない。
秋も近づく空の下。一人で歩く背中に受けるその風は、どこか優しい気がした。
「はい、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる早苗君。見慣れた光景だ。これからも見るんだろう。
ぼくはそんな早苗君を確認すると階段へと向かっていく。
『彼女』と連絡を取るのはたやすい。
それに前にこの話をしたときも乗り気だったから明日にでも手伝ってくれるだろう。
『ロハンーーー!ちゃんと約束守ってねーーー!!』
突然、後ろから少女の声が聞こえてくる。
早苗君の声じゃあない。もっと幼い少女の声だ。
『くれぐれも忘れないようにね。早苗も悲しむわよ』
次いで聞こえる女性の声。こちらも早苗君の声じゃない。
もっと年上の女性の声だ。
奇妙に思ったぼくが後ろを向くとそこには三人の女性がいた。
一人は早苗君だ。真っ赤な顔でこっちに向かって手を振っている。
その右側には注連縄と御柱を背負った女性。左側には目玉のついた帽子をかぶった幼女。
それぞれこちらに向かって手を振っている。
「なっ!?」
ぼくが声を上げようとした瞬間、一陣の向かい風が吹き抜けた。
その風圧から目をつぶり、次に目を開けるとそこには。
誰もいなかった。
そこにはただ、先程と同じように真っ赤な顔で手を振っている早苗君しかいなかった。
でも、気のせいなんかじゃあないはずだ。
確かに声も聞こえたし、ぼくの視力は健常だ。
ただ、居ないものを帰って尋ねると不自然だろう。
(…今度来た時にそれとなく聞いてみるか)
そう思い直して、ぼくは階段をゆっくりと下りる。
向かい風がもう一陣吹き、ぼくの背を押す。まるで恥ずかしいから早く帰れと言うように。
なんでそんな風に感じたのかはぼくにも分からない。
秋も近づく空の下。一人で歩く背中に受けるその風は、どこか優しい気がした。
~取材終了~
おまけ
大晦日前日
とぉるるるるるるん
「露伴先生、電話みたいですよー!?」
「ああ、すぐに出るよ。えーっと、もしもし、岸辺です」
{あ、露伴先生ですか!?私です、東風屋早苗です!!き、聞こえますか!?}
「ああ、聞こえてるからもう少し小さな声でお願いできるかな?」
{は、はい!}
「で、どうかしたかい?そっちから電話してくるなんて珍しい」
{あ、はい、あの、その、えっと、あー、えっと…}
………
「どうした?」
{あ、あの!お正月、暇ですか!?}
「…別に暇だけど、それがどうかしたのかい?」
{えっと、うちの神社で八坂様たちと新年会をするんですけど…お正月、お暇ですか?}
「つまり、ぼくに新年会に来いと?」
{ああ、いや、その!『来い』なんてのじゃなくて、できれば来て欲しいな、なんて…}
「暇だって言ったろ。いいよ。大晦日にそっちに行けばいいかい?」
{は、はい!それじゃあ、御節多めに作って待ってますね!!}
「ああ、それじゃあまた」
{はい!}ガチャ…ツー…ツー…
「露伴先生、誰だったんですか?」
「知り合いの巫女さんから新年会に誘われたんだよ。康一君もついてくるかい?」
「いや、お正月は家族で過ごすことになってるんです」
「そうかい…最近付き合い悪くないか?康一君」
「…そうですか?」
外で雪が降りしきる中、大掃除をする二人。
杜王町は今日も平和。
大晦日前日
とぉるるるるるるん
「露伴先生、電話みたいですよー!?」
「ああ、すぐに出るよ。えーっと、もしもし、岸辺です」
{あ、露伴先生ですか!?私です、東風屋早苗です!!き、聞こえますか!?}
「ああ、聞こえてるからもう少し小さな声でお願いできるかな?」
{は、はい!}
「で、どうかしたかい?そっちから電話してくるなんて珍しい」
{あ、はい、あの、その、えっと、あー、えっと…}
………
「どうした?」
{あ、あの!お正月、暇ですか!?}
「…別に暇だけど、それがどうかしたのかい?」
{えっと、うちの神社で八坂様たちと新年会をするんですけど…お正月、お暇ですか?}
「つまり、ぼくに新年会に来いと?」
{ああ、いや、その!『来い』なんてのじゃなくて、できれば来て欲しいな、なんて…}
「暇だって言ったろ。いいよ。大晦日にそっちに行けばいいかい?」
{は、はい!それじゃあ、御節多めに作って待ってますね!!}
「ああ、それじゃあまた」
{はい!}ガチャ…ツー…ツー…
「露伴先生、誰だったんですか?」
「知り合いの巫女さんから新年会に誘われたんだよ。康一君もついてくるかい?」
「いや、お正月は家族で過ごすことになってるんです」
「そうかい…最近付き合い悪くないか?康一君」
「…そうですか?」
外で雪が降りしきる中、大掃除をする二人。
杜王町は今日も平和。
おまけのおまけ
「は、はい!それじゃあ、御節多めに作って待ってますね!!」
「は、はい!それじゃあ、御節多めに作って待ってますね!!」
「どうやらうまく約束を結べたみたいね」
「ロハンくるの?」
「みたいよ、よかったわね」
「私より早苗のほうが嬉しいと思うけどな」
「それもそうね」くすくす
「八坂様、洩矢様、御節作るから手伝ってくださーい!」
「やっとやる気が出たみたいね」
「急がせるくらいなら最初からちゃんとしてればいいのにね」
「そうね、電話の前で一時間近く予行練習してるからこんなことになるのよ」
「どうしたんですか?八坂様ー、洩矢様ー?」
「はいはい、分かったわ」
「今行くー」
「ロハンくるの?」
「みたいよ、よかったわね」
「私より早苗のほうが嬉しいと思うけどな」
「それもそうね」くすくす
「八坂様、洩矢様、御節作るから手伝ってくださーい!」
「やっとやる気が出たみたいね」
「急がせるくらいなら最初からちゃんとしてればいいのにね」
「そうね、電話の前で一時間近く予行練習してるからこんなことになるのよ」
「どうしたんですか?八坂様ー、洩矢様ー?」
「はいはい、分かったわ」
「今行くー」
同じく外で雪が降る中、御節の準備が始まるとある山の神社。
幻想郷も今日は平和。
幻想郷も今日は平和。
おわり