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~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第十七話

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匿名ユーザー

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ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「ッ!」
上空から放たれた弾幕を、キラークイーンの脚でバックジャンプし避ける。
「くそっ、いきなりだな…!」
嵐のように降り注ぐレミリアの弾幕をサイドステップでかわしつつ、吉影は
反撃に出る。
「『ストレイ・キャット』!」
ガバッ!
キラークイーン腹部のシャッターが開き、『ストレイ・キャット』が咆哮する。
「ギャアァァァァァス!」
無数の空気弾が撃ち出され、竹林の中の更地に四散していった。
「美鈴、咲夜を連れて行きなさい。」
「分かりました、お嬢様!」
美鈴が気絶した咲夜を抱え、空気弾の包囲網から逃れる。
空気弾は更地の上空を覆い尽くし、レミリアを完全に取り囲むと、ガシィィン!と空中に固定された。
「………開戦の合図も無しにいきなり攻撃とは……部下が倒されて怒ったのか?」
吉影がレミリアを睨み、口を開いた。
「ふん、部下だって?違うね、掃除洗濯料理に手品、戦闘までこなす、歌って踊れるだけの下等な人間よ。」
ぞんざいに鼻を鳴らし、レミリアは答える。
「人間は使えないくせに脆いからね、丁重に扱ってくれないと困るのよ。『あれ』は私の所持品よ、私の物を汚した奴は誰だろうと殺してやるわ。」
レミリアが吉影を見下ろし、冷酷な声で言い放った。
「ふーん、君の持ち物か……だったら、早めに竹林の医者に診せに行った方が良いと思うぞ。酸素中毒は後遺症が残るからな……」
他人事のように言う吉影に、レミリアは怒りの目線を向けた。
「……貴方、『覚悟』は出来てるわよね…?」
「無論だ。わたしは常に『生きる覚悟』を持って事に臨んでいる。」
吉影の目が細められる。
「そして『生きる覚悟』があるという事は……君を『生かさない覚悟』もあるという事だ!」
吉影がパチン!と指を鳴らした。その瞬間、
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの側の空気弾が爆発した。
「ッ!」
レミリアは人間離れした反射速度で爆圧半径から逃れ、辺りを見回した。
空中に固定された無数の空気弾の中には、全て『紙』が入っていた。
「わたしの『爆弾』は一発ではない……『スタンド能力』で『爆発』を『紙』に変えておけば、何発でも発射出来る!そして、お前は既に『機雷原』の只中にいる!」
吉影の声に、レミリアは嘲笑で答える。
「フン、これしきで私を封じたつもり?五世紀後に出直して来なさい!」
ギュゥゥンッ!
レミリアの翼が空を打ち、空気弾の隙間を縫って紅い彗星のように吉影に迫る。
「無駄だ!全ての空気弾を一斉起爆する!小蝿一匹逃がさないッ!」
『ストレイ・キャット』が空気弾を弾けさせ、『紙』が風圧で一斉に開く。
ドグオオオォォォォォォォォォォォォ!!
大爆発が更地を襲った。圧倒的な爆風風圧が竹林を駆け抜け、竹を揺さぶる。
蟻一匹も生き残る隙間の無い、完全な爆発包囲網。翼を広げたレミリアのシルエットも、完全に爆炎に呑み込まれた。



「――――紅符『不夜城レッド』」
ドドドドドオオオォォォォォォ!!
爆炎を突き破り、深紅のオーラが吉影に襲い掛かった。
「ッ!」
『空気の防壁』の中にいた吉影は、咄嗟に『ストレイ・キャット』の能力を解除し後ろに飛び退き回避した。
ズドオオオォォォォォォン!!
オーラは彼が寸前まで立っていた地面に直撃し、巨大なクレーターをぶち開ける。
「チッ、ボムか……」
オーラの向かって来た方向を見上げると、レミリアが紅いオーラを身に纏い彼を睨んでいた。
「さっきは『埃』でよく見えなかったけど、二度目は無いわよ。」
ギュンッ!!
障害物が消化され、何物の邪魔も受けなくなったレミリアが、宙を打ち叩き一直線に吉影に突っ込む。
「紅符『不夜城レッド』!」
吉影に急接近しながら、焔のように揺らめくオーラを全身にみなぎらせ、吉影目掛けて解き放とうとした時だった。
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの眼前で、何の前触れも無く爆発が起こった。
「っ!?」
突然の攻撃に、レミリアは怯んだ。放たれたオーラは間一髪爆発を掻き消したが、身体の軸が僅かにぶれ、発射角度がずれた。吉影のサイドステップで容易く避けられ、地面に大穴を穿った。
「―――『ストレイ・キャット』の『空気弾』が見えるのは……『密度』が大きいからだ……」
困惑しているレミリアに向けて吉影は言った。
「空気を固める以上、いかに『スタンド能力』と言えども物理法則には逆らえず、僅かに『密度』を高めてしまう。そのため、周囲の空気との密度差で屈折率が変化し、『透明だが見えてしまう』――丁度ガラスと同じようにな……
だが、もし『空気と同じ密度の空気弾』を作ることが出来れば、それは一切見えない『完全なステルス弾』になる……」
「ギャアアァァァァァァァァス!!」
キラークイーン腹部の空間で、『ストレイ・キャット』が吼えた。その横に置かれているのは、可燃ガスの詰まったボンベだった。
「『ストレイ・キャット』が固めるのは自然の空気だけではない……
ガスの密度は空気よりも小さい。そしてそれを固めた『ガス弾』の密度は、空気と同じになるよう調節されている。もはや妖怪の目であっても見切ることは不可能だ!」
吉影が勝ち誇ったように言う。
「そしてッ!既にお前の周りに『ガス弾』を配置した!勿論、『爆弾』以外の『ガス弾』自体も爆発する!今度こそ終わりにしてやるッ!」
キラークイーンが、スイッチを押した。
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの半径二メートル以内まで接近していた『爆弾』が、爆発した。その他の『ガス弾』にも引火し一斉に爆発する。レミリアの姿は爆炎に呑まれ、見えなくなった。だが―――
ビュゥンッ!
爆煙の中から、黒い影が高速で飛び出した!
「紅符『不夜城レッド』!」
膨大な紅のエネルギーが吉影に向かって発射される。
「なッ!?」
吉影は驚愕の色を浮かべ、反射的に飛び退き『空気の防壁』で身を護った。
ドオオオォォォォォォンッ!!

爆弾に変えた『防壁』が爆発し、『不夜城レッド』と相殺される。
「ぐうッ!?」
強力な二つのパワーが激突し、生じた爆風を受けて吉影の身体は吹き飛ばされる。キラークイーンの脚で着地し、ズザザ――ッと踏み止まった。
「―――『芸術は爆発だ』――
……そんな事を言った芸術家の巨大作品が思い出されるな……」
地面に突き刺さった、巨大な十字架の墓標のような『不夜城レッド』を眺め、彼は呟いた。もっとも、彼は自身の『能力』を芸術だとは思っていないが。
「―――さっきは『見えない弾』『ステルス爆弾』とか言ってたけど………」
レミリアが空中から吉影を見下ろす。
「貴方、人間の規格に囚われ過ぎよ。満月の晩の吸血鬼の視力、嘗めて貰っては困るわ。
二メートルも接近すれば、人間には知覚出来ない僅かな月光の反射も見抜くことが出来るの。」
レミリアは黒焦げになり炭と化した右手を、ハンカチでくるんだ。
そっとハンカチを取り去ると、そこには何の外傷も無い綺麗なままの右手があった。
「―――以前、お前の妹と闘った時もそうだったが……何度見ても化け物だな。」
忌々しげに吉影は吐き捨てる。
「―――それと……今気付いたけど、もう一つ『見えるもの』があったわ。」
吉影の反応を見て機嫌を良くしたレミリアが、口を開く。
「貴方の後ろの『それ』………それが『スタンド』という奴かしら?」
「――――――?」
レミリアの指差す背後を振り向き、吉影は言葉を呑んだ。
―――――キラークイーンが、ショッキングピンクの淡い光を全身に纏っていた。
「――――見えるのか?我が『キラークイーン』が……?」
満月の光を浴び続けた仕業か、蠱惑的な輝きを放つキラークイーンから目を離し、レミリアに向き直る。
「ええ、良く見えるわ……なかなかに素敵なデザインじゃない。野良妖怪だったならペットにしてみたいくらいよ。」
「―――残念だがこいつはわたしと運命共同体でね、君の飼い猫になる事はあり得ないな。」
「そう、残念ね。」
二人は互いに挙動を観察し、身構える。
(―――くそッ、まずいな……)
レミリアの趣味はさておき、彼女にはキラークイーンのデザインまで把握されている事は分かった。恐らくシルエットだけでなく、『スタンド使い』が見えるのとそう変わらないほど、はっきりと見えているのだろう。
(となると、奴が仕掛けて来る攻撃は決まってくる………)
ジリッ――
片足をひき、キラークイーンに構えさせる。
レミリアが、ニィっと悪戯っぽく笑った。
「弾幕勝負も面白いけど………『こっち』の方が性に合ってるわね!」
翼を翻し、紅い矢のように吉影に向かって急降下する。
(やはり肉弾戦か……ッ!
クソッ、姉妹揃いも揃って……!!)
胸の内で舌打ちし、吉影は対応に出る。
(吸血鬼相手に肉弾戦は自殺行為…この間の地下室での決戦で身に染みて分かった。それだけは絶対に避けなければならない!)
懐から『紙』と液体の詰まった瓶を抜き、キラークイーンの右手に投げ渡す。
「うおおおおぉォォォォォォッ!!」
満身の力を籠め、瓶を投擲した。瓶はレミリアの眼前に迫る。
「―――ふん、芸が無い。」
フッ――
軽く身体を捻り、瓶をかわした。そのまま吉影に突っ込んでいく。
「――――――――よし、着火。」
キラークイーンが右手のスイッチを押した。
ドグオオオォォォォォォ!!
レミリアの手前で、『ガス弾』が爆発した。まだ視覚可能範囲の外だったため、予期せぬ爆発に思わず怯む。
「ッ!!(また『見えない爆弾』!?でも、一体何を………
っ!?)」
レミリアのすぐ横を、炎の線が飛び去って行った。
「えっ!?」
驚き、レミリアは振り返る。炎の線は、空中を飛ぶ瓶へと向かっていた。
「この匂いは……っ!」
瓶の口から漏れ出る灯油のレールを、『ガス弾』の爆発によって引火した炎が駆け抜け、ゴールテープを切った。
ボッ!
瓶の中に残っていた灯油に火がつき、瓶内部の『紙』に引火した。
ドグオオオォォォォォォ!!
紙化を解除された爆発に吹き飛ばされ、『封印』されていた大量の水が更地に撒き散らされた。
「―――――ふん、ちょっとは考えるじゃない。」
滝のように襲い掛かる水を見上げ、レミリアはスペルカードを抜き、掲げた。
「紅符『スカーレットマイスタ』」
巨大な弾幕がこれでもかというほどに全方位に放たれる。覆い被さるように降ってきた水のカーテンを大玉弾幕が迎撃し、弾き飛ばした。25メートルプールいっぱいに相当する水は地面に降り注ぎ水浸しにし、紅符『不夜城レッド』が創ったクレーターに溜まる。
「ぐッ!!」
吉影にも紅符『スカーレットマイスタ』が襲い掛かって来た。キラークイーンの脚で後方に跳躍し、『紙爆弾』をばら撒いて巨大弾幕を打ち消す。
「キラークイーン!」
レミリアの背中を狙い、爆弾に変えた拳銃弾を撃ち出した。
「っ!!」
レミリアは振り向きざま身を翻し、亜音速で飛翔する弾丸を避けた。
「休みもくれないってわけね……!上等じゃない!」
蝙蝠のような両翼を力強くはためかせ、再度吉影への接近を試みる。
常人では目で追えないほどの速さで向かって来るレミリアを、吉影はキラークイーンの目で凝視する。
レミリアが、水の貯まったクレーターの上を通過しようとした。
「――――――よし、やれ、『ストレイ・キャット』」


ドオオオォォォォォォ!!

クレーターの上を飛び去ろうとしたレミリアの真下で、突如巨大な水柱が起きた!
「なっ!?」
轟音を上げ襲い来る水柱を、レミリアは咄嗟に身体を捩り回避する。だが、彼女の脅威は水柱だけではなかった。
「はっ!!」
水柱によって巻き上げられた『紙』が、レミリアの周囲を舞う。
「(ナトリウム結晶は空気や水と触れただけで激しく反応する……一欠片マンホールに落としただけで、数メートルの水柱が上がるくらいな……
そのためナトリウムの結晶は普段灯油中に保管されているが、『ストレイ・キャット』の能力でナトリウムを『真空パック』しておけば、例え水中に投げ込んでも反応は起こらない。
『真空パック』されたナトリウム結晶を、『不夜城レッド』を避けた際にクレーターに放り込んだ!ついでに同様に『パック』した『紙』もな……!
さあ、どうする?)」
『紙』は一斉に開き、レミリアを襲った。

ドグオオオォォォォォォ!!

ドバアアァァァァァァァァァァァァ!!

紙に封印されていた爆発・水が、レミリアに降りかかる。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度はまともに受け、さすがの彼女も苦痛に叫ぶ。
「ぐっ…………!」
今すぐ接近するのはまずいと判断し、レミリアは吉影との距離を開いて着地する。爆発等を封印していた使用済みの『紙』が舞い落ち、ぬかるんだ地面に落ちる。
「――――――ぐっ……………ううっ…………」
呻き、翼に手をやる。水を浴び爆炎に焼かれた翼は痛々しく爛れ、特に右翼は膜が破れ骨が剥き出しになっている。
「(やっぱり『水火傷』は治りが遅い………まあ、翼が無くても飛ぶのに支障は無いけどね。)」
レミリアは悠然と自分を眺めている吉影を睨みつける。
「純水を浴びせるなんて、やってくれるじゃない。私の妹もこうやって痛め付けたのかしら……?」
憎悪の籠った声で問い掛けるが、吉影は依然落ち着いた態度を崩さない。
「君らは強すぎるからな、『弱点』を突くしか倒す方法はない。一点の曇りも無い正論じゃないか。
―――それと………」
吉影は冷たい瞳で彼女を眺め、のんびりとした口調で言う。
「なるほど、天狗と肩を並べると言われるだけある……物凄く敏感過ぎる動きだ。
だがな……ゆっくりした動きなら………『安心』して避ける気にならないだろう?
………宙を飛んで来たり、速く動く物は『警戒』するが、とても攻撃されているとは思えないような動きなら………鋭く身をかわしたりしないはずだな……『油断』して……」
「…………?」
吉影の意味深な言葉に、レミリアはいぶかしむ。と、その時、
バシャァァァァ!
レミリアの背中に、液体が降りかかった。
「きゃあぁぁぁ!?」
避ける間も無く、彼女はもろに液体をおっかぶる。
ジュウウゥゥゥゥ――――――
肉が焼け、骨が溶ける激痛に、レミリアは地面に伏せ泥の中をのたうち回る。
「ううう……………な…何よこれ……!?」
暴れたため翼がボロリと折れ、レミリアは泥にまみれ涙を浮かべた目で吉影を見上げる。
「『王水』、濃塩酸3対濃硝酸1、金さえ溶解させる史上最強の酸だ。」
理科の授業のように吉影は説明する。
「さっき舞い上がった『紙』の中に、『王水』を『空気弾』に封入した物を仕込んでおいたのだが、『ストレイ・キャット』の空気の膜の保護を解除しないままにして、他の使用済みに紛れてばら撒いておいたんだよ。
そうすると、案の定君は油断してくれた。
そして、君と話している間に『ストレイ・キャット』の能力で『紙』を開き、封印の解けた『空気弾』を操作したんだ。」
淀み無く説明し、吉影はそっと『紙』をポケットから取り出す。キラークイーンの背後にいるため、レミリアからは見えない。
「わたしは非力な人間だからね……君のような化け物には近付かないよ。」
キラークイーンの指で『紙』に触れ、『爆弾化』する。
「吸血鬼というのは…人間離れした反射神経や運動能力、獣のように殺気を感じ、恐ろしい馬鹿力を持つ。
人間の殺気を感じ動きを読み、心を盗んで鋭く動く。
銃撃や剣撃をたやすく避け 相手を襲い血を貪るのだろう?」
『紙』を背中に隠し、水浸しの地面に落とす。『紙』は開き、封印が解かれた『それ』は紙を飛び出して、勇んで地表を駆け抜けて行く。
「――――――ならば こういうのはどうだ?」
吉影は、『それ』が確実にレミリアの足下に潜伏した事を確信していた。なんせ『それ』の足は音より速いのだから。
吉影はキラークイーンの脚で跳躍し、スイッチを押した。
ドグオオォォォォォォォォ!!
更地一帯の地表が、大爆発してぶっ飛んだ。
「キャアあァァぁぁぁぁァァァ――――――!!」
泥の中に這いつくばっていたレミリアの幼い身体は、派手に吹き飛ばされた。血飛沫を上げ、10メートルも弧を描いて宙を舞い、グシャッという音と共に地面に叩き付けられる。
「『紙化した電気』を爆弾に変え、水浸しの地面に放電させた……『王水』をぶち撒けたのはお前を溶解させるためだけではない、地表の水分に電解質を加えるためだったのだ。そして、爆弾として『固定』された電気は地中やわたしの身体に逃げて行く事なく水中に拡散する。
点でなく避けられない面攻撃、避けられるものなら避けてみろ。」
ストッ
吉影は着地すると、仰向けに倒れているレミリアに向けライフル弾を構える。彼女の四肢は無惨に破壊され、右手は肉が吹き飛んで骨が剥き出しになり、両足はふくらはぎ膝下が見るに耐えないほど痛々しく抉られていた。泥の中に血溜まりを広げ、ピクリとも動かない。
彼女の心臓に照準を合わせ、キラークイーンに射撃体勢をとらせる。
「トドメだッ!死ね――」

ゾクッ――――――

「――――――ッ!?!?!?」
吉影は全身に戦慄が走るのを感じた。心臓が冷たい手で掴まれたように縮み上がり、身体の芯が凍てつくように冷える。
ボオォォォォォ――――――
レミリアを囲む血溜まりから、緋色のオーラが立ち上った。燃え盛る業火のようでいて静かに揺らめく光のカーテンが、吉影に言い様のない焦燥感を与える。
「―――――――――――――――――――」
ムクリ、レミリアは起き上がる。鮮血のような深紅の陽炎の中、両足で大地を踏み佇む。彼女の腕は、足は、翼は、さっきまでのダメージが嘘のように傷一つ無かった。
「――――――――――…………………」
レミリアの紅い眼(まなこ)が、吉影を睨んだ。
「ッッ――――――!?」
突然、視界が真っ暗になった。月明かりも更地も消え失せ、暗黒の空間に輝くレミリアの双眸しか見えなくなった。
地獄から現れた無数の魔物の眼光が、吉影を射抜いた。
無数の悪鬼達の哄笑が、耳鳴りのように吉影の耳をつんざく。


「(――――――――――――)
――――……はッ!?」
正気に戻った吉影の目に飛び込んで来たのは、自分の喉元に迫る紅い鉤爪だった。
「うおぁッ!」
間一髪レミリアの一閃を避け、後方に飛び退く。
「えぇい!!」
完全復活したレミリアは生え揃った両翼で空を叩き、一気に距離を詰め猛追撃を掛ける。
「キラークイーンッ!!」
ズドドドドドドドドドドド!!
キラークイーンのラッシュでレミリアの攻撃をいなしていく。だが、元々パワーに勝るレミリアに対し、吉影は劣勢に立たされた。
「ぐおッ!?」
右ストレートに左腕のガードを弾かれ、姿勢がぐらつく。さらに繰り出された左足の蹴りを右腕で受け止めるが押し切られ、キラークイーンの体勢が大きく崩れた。
「しまっ――――!」
キラークイーンの喉元に、剃刀のように鋭利な爪が、蛇のように俊敏な動きで伸びる。咄嗟に仰け反り回避し、キラークイーンの脚で距離を開く。
「――――――っ!」
レミリアの真紅の瞳が、足下に落ちるライフル弾を捉えた。
ドグオオォォォォォォォォ!!
人間離れした反射神経でライフル弾の爆圧半径から離脱し、ストンと着地する。
「ハァ――――ハァ――……
(……さっき見た物…あれは……何だったんだ…?)」
痛む両腕を押さえ、吉影は歯を噛み締める。
パクッ――――――
左肩が裂け、血が流れ出た。
「(――――――気圧された……と言うのか…?このわたしが……?)」
鋭い目付きでレミリアを睨む。
「――――――――――――――――――」
レミリアは顔を上げ、吉影に憤怒の眼差しを向ける。
「――――――二度も私の顔に泥を塗ってくれたわね……
赦さないわ……お前は、『殺す』。私自身の手でね。」
高位悪魔の殺気を受け、吉影はたじろぐ。
「(そうだ………こいつは吸血鬼、幻想郷中指折りの最強種。
しかもこいつはフランドールとは違う……彼女と対峙した時、感じた恐怖は『狂気と純粋さ』……嵐と同じ、方向性が無く手のつけようも無い『脅威』だった。
だが、こいつは違う。『理性』に基づき力を奮う、最悪の『暴君』だ。『脅威』の矛先はわたしのみに向けられている………『恐怖』を感じないわけがない。)」
ジリッ――――――
後退り、全身を緊張させレミリアの挙動を観察する。間合いは7、8メートル、レミリアの速さなら一瞬で詰め寄られる距離だ。
「(恐怖は決して害悪ではない……痛みと同じく、危険を知らせ生存の可能性を高めるための物だ……胸の内の恐怖を否定してはならない。
だが、恐怖に呑まれる事は避けなければならない。恐怖に支配されれば目が曇り、身がすくむ……そうなれば、敵の思う壺だ……)」
レミリアが翼を広げ、地面を蹴り飛び掛かった。
ゴオオォォォォォォォォ!
風圧で泥が飛び散るほどの速さで、吉影に急接近する。
「せえぇいっ!」
加速を載せた拳を、吉影の顔面を狙い突き出す。
「しばッ!」
常人ではありえない反応速度でキラークイーンの腕を交差させ、ガードする。だが――――――
ミシッ――
「ッ!?(う、腕が……ッ!)」
腕がビリビリと痺れ、反動で吉影は後退する。
「えぇぇい!」
間髪入れず繰り出された拳を、咄嗟の判断で右脚でガードする。
「しばばッ!」
両拳のラッシュで反撃に出るが、目にも留まらない瞬発力で回避され、左側面に回り込まれた。
「せいッ!」
重い蹴りが左側頭部を襲う。ギリギリで反応し、左エルボーを繰り出した。
バギィッ!
「くッ……!(足の方が……!力が…強いっ…!)」
足は腕の三倍の力を持つと言われる。ただでさえパワーに劣るキラークイーンではひとたまりもなく弾かれてしまい、グルンと右を向かされる。無防備な背中を晒したキラークイーンを、レミリアが急襲する。
「もらったわっ!」
蹴った反動を利用し身体に縦回転を加え、右拳を振り下ろした。がら空きのキラークイーン後頭部に、吸血鬼の拳が襲い掛かる!
「キラークイーンッ!!」
ドバギャァ!!
弾かれた衝撃を利用し、さらに全身を一回転させ、キラークイーンの右腕で裏拳を見舞った。
恐るべき悪魔とはいえ、姿形は10にも満たないレミリアに競べ、リーチに勝るキラークイーンの意表を突く一撃。レミリアの拳はキラークイーンの脳天に届く事は無く、裏拳が命中した右肩がミシミシと軋む。
「ぐっ……!」
肩の関節が砕け、肉が裂けたが、意に介さずキラークイーンの突きを避ける。
「くっ……速い……!」
キラークイーンの動体視力で見切れない速さではない。だが、『天狗並の速さ』の上に『鬼のパワー』、『不死性』、『再生力』、さらには『膨大な魔力』まで兼ね備える吸血鬼に対し、吉影は確実に劣勢を強いられていた。


日光、流水、鰯の頭、炒った大豆――――――吸血鬼は弱点だらけだ。
それでも吸血鬼は無敵の怪物と呼ばれる。何故か?
反射神経 集中力
第六感 身体能力
特殊能力 耐久力
吸血能力 変身能力
不死性 etc etc――
しかし最も恐るべきはその純粋な暴力…『力』だ。
人間達を軽々とぼろ雑巾のように引きちぎる。
そしてたちの悪い事に吸血鬼達はその力を自覚している。
単一能としてでなく彼らの理知(ロジック)を持って力を行使する『暴君』だ。
吸血鬼との近接戦闘は死を意味する。
吸血鬼とは知性ある血を吸う『鬼』なのだ。
これを最悪といわず何をいうのか。


「(動きは直線的で単調……だが『パワー』が有りすぎる…!いったいこのチビの何処にこんな力が…!?)」
吉影の後ろに回り込んだレミリアに、キラークイーンが突きを繰り出すが、触れる寸前に逃げられた。
「(一般にフランドールの方が姉より危険視されていると聞くが……それは『スペルカードルール』を無視しかねない不安定さと、あらゆる物を破壊する『能力』のためだ………
どちらにせよ外来人であるわたしにはスペルカードルールなど適用されず、さらに『破壊の能力』を無効化出来るキラークイーンにしてみれば、寧ろ姉の方が脅威だ。
フランドールと闘った時、戦場はわたしに有利な地下室だった。だが、今回は障害物の一切無い更地。
さらに……こいつ、フランドールに比べ闘い慣れしている。フランドールは殆戦闘経験がなく戦闘に関してずぶの素人だったが、姉の方は僅かに『キレ』がある……
フランドールを『喧嘩の弱い子供』とするなら、姉は『ボクシングの真似事を始めた子供』と言ったところか……)」
「えぇい!」
頭上からの踵落としを、両腕を交差して受け止める。
ググググ………
重い一撃を受け、吉影の身体が沈み込む。
「(ぐっ……やはりパワー負けしている…!)」
腹部に収納されている『ストレイ・キャット』を使おうかと考えたが、今彼にはガスボンベを与えており、『ガス弾』を射って至近距離で暴発されては困る。シャッターを閉じて月光を遮り、余計なことはさせないよう眠らせておく。
「(だが……『キラークイーン』が見えているからと言って、肉弾戦を選んだのは誤算だったな……ッ!)」
キラークイーンの後ろで、吉影は不敵に笑う。
「(我がキラークイーン『第一の爆弾』は、触れた物を爆弾に変え、内側から跡形も無く爆殺する!
例えどれほど頑丈だろーと再生しようと、塵さえ残さず消滅させる!ほんのちょっとわたしに触れられるだけで、お前は負けるのだ!!)」
ビュウゥン!
レミリアが真正面に現れ、左腕を引き絞る。満身の力を籠めた突きが、キラークイーンを切り裂こうと迫る。
「(今だッ!)キラークイーン!!」
キラークイーンの突きが、レミリアの左手と激突しようとした!だが――――――

スパァァン――――――……

キラークイーンが反撃するのを見て、レミリアの口元がニヤリと笑った。
レミリアの左手の中指は、親指のストッパーを外され、蓄えられた力を解放された。
デコピンの要領で弾き出された中指の鉤爪が、キラークイーンの人指し指を切断した。
「うぐッ――――――!?」
切り飛ばされた人指し指が宙を舞い、地面に落ちる。彼の指の断面から、鮮血が迸った。
「――――――『触れるだけで勝てる』……
そんな甘い考えで私に勝てるなんて、本気で思ってたのかしら?」
怯んだ吉影を狙い、レミリアの右ストレートが叩き込まれた。
グシャアァァ――――――
「――――――え?」
レミリアの右拳を、キラークイーンの手刀が切り裂いていた。
「わっ!?」
キラークイーンの右拳を、持ち前の反射神経で回避する。空を飛び距離を開き、傷を確認する。
「――――――ある医者がイエスの聖骸布が実物である事を証明しようとした時の話だ………」
人指し指の傷を気にもかけず、吉影は口を開いた。
「……12本以上の腕を使って、手首の中で直径八ミリの釘を打ち付けるのに最適な場所を追い求めた。この時期、些細な手のけがでピエール・バルビー博士の診察を受けに訪れた元気な男性は災難だった……
…屈強そうな男性の片腕を三分の二ほど切断したので、直径八ミリの釘(受難の釘)を手のひらの真ん中に打ち付けた……肘に四五キロ、身長180センチぐらいの人の半分の体重の重みをそっとかけた。十分後、傷口は長く伸びていた。……そこで、本当に穏やかに振ってみた。
……どうなったと思う?」
吉影の目が細められる。
「……突然、釘が二つの中手骨頭の間を走り抜け、皮膚に大きな裂け目ができた……もう一度そっと振ると、残りの皮膚も引き裂かれてしまったそうだ………何の抵抗も無くな……」
レミリアの右腕が、パックリと肘まで裂けた。唐竹割りされた骨の断面やら筋肉やら神経やらが剥き出しになる。が、動脈から噴き出した鮮血がすぐにそれらを覆い隠した。
「――――――確かに……わたしは甘えていた………『触れただけで勝てる』と、温い考えを持っていた……
だが、これからはそんなものは『捨てる』。死に物狂いで貴様を殺しに掛かる。」
キラークイーンが吉影の前に立ちはだかり、ファイティングポーズを決めた。
「――――――ふーん、肉体の隙を突いた、と言うわけね。」
レミリアは冷酷な表情で吉影を見下ろす。
「――――でも……物覚えは致命的に悪いようね……
言ったはずよ、『人間の尺度で測るな』と。」
レミリアは左手を右腕の肘に添えた。そこから先は二股に分かれた腕が、血を噴き出しブラブラと揺れている。
レミリアは左手で肘を掴み、腕の先に向かってしごいた。左手が分かれた腕を一つに束ねていくと、ジッパーが閉じるように腕が接着される。
左手が右手の指先から離れる時には、彼女の右腕は完全に接合されていた。
「どう、しっかり目に焼き付けたかしら。満月の夜の吸血鬼は無敵なの。貴方が何をしようとも、『貴方の敗北という運命』は変わらないわ。
しかも頼みの綱の『爆弾』も使えなくなったわね。ここからどう足掻くのか、見物――――――」
ドギュン!!
キラークイーンの背後、レミリアの死角から発射されたドングリ型の拳銃弾が、レミリアの眉間を撃ち抜いた。
何があったか気付く間も無く、着弾した瞬間、レミリアの頭部が爆破される。
ドグオオォォォォォォォォ!!
爆炎が噴き上がり、全身が粉砕され、爆圧に煽られ塵に消えた。
オオォォォォォォ――――――
爆音が止み、完全に塵さえ残らず爆死したのを見届けると、吉影は独りごちた。
「『思い込む』という事は、何よりも『恐ろしい』事だ……
しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い。
我が『キラークイーン』の爆発は……『スイッチを押した時』に爆破するとは限らない…それが『思い込み』なのだ…レミリア。
『自動着火』で爆撃ができるのだ。人指し指を切り落とそうと…いくらお前が素早く『再生』したり『ボム』などでガードしようとも、『接触弾』は触れた物を内側から爆砕する。
―――そして……キラークイーンにばかり注意するあまり、わたし自身を見ていなかったな。もっとも、キラークイーンの陰から撃った弾丸は、幾ら注意して観察しようとも見破る事は出来なかったろうがな………」
吉影の右手に握られた自動拳銃の銃口から、煙が立ち上っていた。
「キラークイーンを透過して撃った『接触弾』だ……さしもの吸血鬼も、反応出来なかったというわけか……
チビガキが背伸びしているから脳天に風穴があく。弾にだけは当たらんよう、頭は低く生きていけ。」
硝煙の匂いが鼻をつく。
「さあて………主が倒された事に、あの門番は気付いているだろうか……」
顔を上げ、吉影は辺りを見渡す。竹の密集した竹林の様子が見えるだけだった。
「恐らく、既に気付いているとみた方が良い。竹林を歩いていたわたしを上空から発見したのは、きっとあの門番だ……会話の内容から『スタンド』が見えているようだったことからも、『生命エネルギーを探知する能力』を持っていると考えるべきか。
そうなると厄介だな………
以前対峙した際の門番の身のこなし、そして『スタンド』を殴り麻痺させる力、非常に手強い相手だ。
さっき倒したメイドも『生命エネルギー』で治癒しているかもしれない。しかも今度は『スペルカードルール』を無視して襲ってくるだろうしな。そうなると勝ち目は薄い………」
キラークイーンの左手を掲げる。
「『シアーハートアタック』に探知させ、メイドが復活する前に早急に倒すとしよう。『ストレイ・キャット』の『ガス弾』で、近寄る間も与えず爆破してやる。」
自動拳銃を懐に仕舞い、『シアーハートアタック』を発射しようとした。


「――――――神槍『スピア・ザ・グングニル』」
「ッ!?!?」
背後から聞こえた声に、吉影は咄嗟に振り返る。だが、遅かった。
ズドオオォォォォォォォォン!!
超高速の真紅の槍が吉影の右肩を貫通し、右腕を肩から吹き飛ばした。
「があァ………ッ!?」
対物ライフルの弾丸を受けたかのように関節が千切れ飛び、続いて襲って来た爆風とも言える飛行風圧に彼の身体はぶっ飛ばされる。
「あぐあぁァ……!!」
爆破されたように抉られた肩の断面から鮮血を撒き散らし、吉影は宙を舞う。
ドグシャアァ………!!
吉影の四肢はぬかるみに投げ出され、車の窓から投げ棄てられた空き缶のようにゴロゴロと転がる。泥が口の中に入り、ジャリジャリとした不快な感覚が口内に広がる。
「ぐ…………があぁ…………!」
泥を跳ね上げ血飛沫を散らし、二、三度バウンドして漸く吉影は止まった。
「ゲホッ――――ゲホッ――……
…ぐ………うううぅ……………」
泥を吐き出し、顔を上げ、吉影は右肩の様子を見た。そして、絶句した。
彼の肩はグシャグシャに崩れていた。首の僅か一センチ下の辺りからかつて脇下だった場所に掛けて、完全に骨肉が消し飛び、ほぐれた筋肉繊維や骨の名残が、月光を受け潰れたトマトのような姿を晒している。大量の血が流れ出て、彼の身体が倒れている水溜まりに朱色を広げていた。
見るに堪えないほど痛ましい傷に脳が付いて来れず、しばし茫然と現実感が消失して受け入れられなかった。だが、直ぐに焼けつくような激痛が彼を苛み始める。
「ぐおお…………あぐあぁぁァ………………!」
呻き、吉影は左手を着いて立ち上がろうとした。だが、顔を上げた瞬間、自分にはその余裕も無い事に気付く。
「ッ!!」
ヒュゴオオォォォォォォォォ
レミリアが水溜まりを蒸発させながら滑空してくるのが見えた。紅い槍を構え空を切り、超高速で迫ってくるその姿は、真紅の矢のようにも見えた。
「うッ――――――………
うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉォォォォォォォォッ!!」
吉影は懐から『紙』の束を取り出すと、キラークイーンの左手で爆弾に変え、投げ付ける。レミリアに向かって飛ぶ『紙』を、自動拳銃で撃ち抜いた。
ドグオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
水、硫酸、ガスボンベ、消火器――――――『紙』に封印されていたあらゆる物が炸裂した。
「ぐおおぉぉぉォォォォォォォォォッッ!!」
滅茶苦茶な威力の爆風に吉影の身体はぶっ飛ばされる。
ボォォン!!
身体を霧に変化させ、爆圧をものともせずに爆炎を突っ切って飛び出したレミリアに向け、吉影は余りにひ弱な反撃を加えた。
「うおおぉォォォォォォ――――――ッ!!」
空中で身体を捻り、レミリアを見据えると、右肩から溢れる血を左手で掬い、満身の力を籠めて飛ばした。
ビュッ!
「っ!!」
もうもうと立ち込める消火器の粉やら水蒸気やらの粉塵の中から飛び出したレミリアは、自分の目前に迫る赤い物体に気が付いた。
ヒュンッ!
左手の『スピア・ザ・グングニル』の一閃で、物体はいとも簡単に叩き落とされたかに思われた。
スパァッ!
「えっ!?」
赤い物体は『スピア・ザ・グングニル』に触れた瞬間脆く砕け散り、流動的な挙動を見せてレミリアの肩を切り裂いた。
「っ――――――!
この匂い…………!」
竹林の中へ飛び込んで行った吉影を追い、レミリアは紅い弾丸のように竹林に向かう。
「血を高圧カッターのように飛ばしたというわけね………フフ、吸血鬼に自ら血を差し出すなんて、イカれてるとしか言い様がないわ。」
右手の人指し指で肩に付着した血液を拭い、ペロリと舐める。これ以上ないほど新鮮な、業深き殺人鬼の鮮血の風味が、口いっぱいに広がり、鼻腔を充たす。神経が興奮し、闘争本能が掻き立てられ、彼女の瞳が一層紅く輝く。
この上なく愉快な気分になり、レミリアは竹林の中へ突っ込んでいった。
「――――――っ!?(えっ?暗………!?)」
突如、目の前が真っ暗になった。竹の葉が月光を遮っているとはいえ、異常な暗さだ。一筋の光も無い、完全な暗黒。
レミリアは怯み、急ブレーキを掛けた。この視界ゼロの状態で『接触弾』をぶつけられてはひとたまりもない。全身を魔力でガードし、暗闇に目が慣れるのを待とうとした時、
ガンッ!
何かが魔力のガードにぶつかる音。そして――――――
ドグオオォォォォォォォォ!!
「きゃあっ!?」
ゼロ距離での爆発。ダメージは防いだものの押し切られ、レミリアは後退する。


――――――――――――――――――

「コッチヲミロォ~」
「!
そこかッ!」
『シアーハートアタック』の声を聴き、吉影は即座に行動した。チャンスは一度きり、しかも一瞬だ。絶対に逃すものか。
『ルーミアの闇』をファイルしていた『紙』を捨て、『シアーハートアタック』の示す方向へキラークイーンの健脚で跳躍した。

――――――――――――――――――


「――――――はっ!?」
突然闇が晴れ、レミリアの目に『シアーハートアタック』の禍々しいドクロが飛び込んできた。
「せぇいっ!」
反射的に空いている右手で殴り付けると、カチリという音とともにドクロの球体が爆発する。
「きゃあァァっ!?」
噴き出す爆炎を腕を交差させ防御する。だが、パワーAのスタンドの爆風が直撃し魔力のガードが解けてしまった。
「はっ!?」
爆炎が収まると、『シアーハートアタック』の背後に人影が現れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
レミリアの目前まで迫っていた吉影が、『シアーハートアタック』を足場にしレミリアに飛び掛かった。
「しまっ――――!」
腕を交差していたため、素早い反撃は出来ない。レミリアは翼で空を打ち後退すると、同時に裏拳の要領でグングニルを振るった。
「貰った!」
飛行能力を持たない吉影に、空中での攻撃を避けられる筈がない。間一髪危機を脱し反撃に出たレミリアは、勝利を確信する。



ガシィッ!


キラークイーンの脚が、『空気の足場』を蹴り、グングニルの必殺の一撃を飛び越えた!
「なっ――!?」
レミリアの両目が驚愕に見開かれる。
「しばっ!!」
キラークイーンの手刀が、レミリアの脳天に振り下ろされた。


シュバッ!
紅い閃きが、吉影とレミリアの間を駆け抜けた。
「―――ッ!?」
グラリ、吉影の姿勢が傾く。空中で前方につんのめるように、頭から落下していく。
「―――?」
顔が地面へと向かう直前、吉影が見たのは、レミリアの右手に握られた二本目のグングニルだった。
「――――――……ぐおッ!」
頭から地面に落下し、吉影は咄嗟にキラークイーンの左腕で身体を保護する。
「(な……何があった?あとほんの少しで、奴を両断し丸ごと爆弾に変えられたというのに……)」
ドサッと倒れ込み、即座に立ち上がろうとする。が、膝に力が入らず、また倒れてしまう。
おい膝、笑うな、そんな場合ではない。
立ち上がれ、身構えろ、立って闘え。
『平穏』をわたしのもとに、取り戻す――の――――だ―――
―――――――――?
吉影は倒れたまま、自分の足を見た。
両足の膝から下が消え失せ、真っ赤な血の奔流が竹林の土を湿らせていた。
「…………ふん、ようやく大人しくなったわね……。」
レミリアが優雅に吉影の前の地面に降り立つ。
「どう?手足をもがれて、虫けらみたく地べたに這いつくばる気分は…」
過度の出血により、意識に霧がかかり始めた吉影を見下ろし、レミリアは冷酷な声で言う。
「わたしの妹も、こんな風に痛め付けられたのよ。貴方の手でね。
………このまま、貴方が失血死するのをただ眺めているのも良いけど……生憎、そこまでおしとやかなつもりはないの。」
口角を吊り上げ、悪魔の微笑みを浮かべる。
「館に持ち帰って、強引に延命させて、酷く責め抜いて殺してやるわ。血が凍るくらい恐ろしいやり方で拷問して、泣き叫ぶ悲鳴を聴きながら………」
ペロッと舌を出し、レミリアはグングニルに付着した血を舐める。
「………ワイングラスを片手に、じっくりと堪能するわ………貴方の血をね。」
右腕が無くなり、立ち上がる事さえ出来ず、なす術無く地面に伏せる吉影は、しかし、最後の抵抗とばかりに不敵な笑みを浮かべ、レミリアを見上げた。
「………フン、下品な餓鬼だ……
…どうやら、わたしの血は相当吸血鬼の口に合うらしいな……
……だが、親に教わらなかったか?知らない大人から貰った食べ物を無闇に口にするのは良くないとな……」
ギラリ、吉影の瞳が光った。
ボォォォォォォン!
レミリアの左肩、そして内臓が、爆音と共に破裂した。
「な―――……えっ―――?」
レミリアがグラリと揺れ、膝を折る。
「――――――わたしが飛ばした血のカッター………キラークイーンの『第一の爆弾』で、爆弾に変えておいた……
通常、『第一の爆弾』は固体しか爆破出来ない……気体や液体だと『破壊の目』を刺激出来ないからだ。
だが……!爆弾化した後、その物体が固体化すればッ!『破壊の目』も固体となり『押す』事が出来る!
血液は空気に触れると固まり、固体に変化する。その性質を利用したのだ………
わたしの時限爆弾だ…」
「―――――うぐっ………
……ぐはっ!」
体内で爆ぜた内臓がのぼってきて、ビタビタと吐き出す。
「ハァ―――ハァ――――
―――この血の染み………!
この血の染みが………!」
うっ、と呻き、左肩を押さえる。傷口から内部に侵入していた血が爆発したため、かなり酷いダメージを負っているようだった。
「このためだった………気付かなかったか?お前に血のカッターを飛ばした後、わたしは一度も爆弾を使っていない……あの時点で既にわたしの勝利は決まっていたのだ……」
意識が朦朧とし始めているのだろう、くぐもった声で吉影は言う。
「――――――………はッ!」
キッと吉影を睨み、レミリアが立ち上がる。
「誰が……勝つですって………?こんな小細工を弄したところで、何も変わりはしないわ!わたしの勝利という『運命』はね!」
膝を振るわせ、なんとか立ち上がった。
「(――――ううっ………治りが……遅い……?)」
腹部のダメージを確認し、レミリアは胸の内で悪態をついた。
「――――――フフフ……
……フフフフフ……
……フハハハハハハハハハハハハ…………」
吉影の口から、哄笑が漏れる。
「小細工……か、フフハハハ………確かに、君の出鱈目なポテンシャルの前では、わたしの足掻きはどうあっても小細工でしかないかもしれない………
…………だがな……」
吉影の双眸は、笑っていなかった。
「どんなに念入りに造設した堤防でも……蟻の穴一つで脆く瓦解する事も起こりうるッ!」
ドグオオォォォォ!
レミリアの背後に迫っていた『シアーハートアタック』が、爆発した。
「ああああああぁぁァァァァ――――――ッ!!」
二度目の不意打ちを喰らい、レミリアの小さな身体は人形のように吹き飛ぶ。
ドシャッ――――――
レミリアは吉影の上を飛び越え、地面に叩き付けられた。
「ぐっ……………ううっ………………」
反射的に翼で身体を護ったが、『シアーハートアタック』の爆風は薄い翼の皮膜を容易に突き破り、レミリアの背中を抉り取った。
「どうだ……?翼を破られ、地べたに這いつくばる気分は……?
その翼だと、もう素早く飛び立つ事は出来ないな……」
レミリアは屈辱に歯を食い縛り、四つん這いになって吉影の方を睨む。吉影はニヤリと笑みを浮かべ、彼女の目を見返した。
「こんな格言がある………
【二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。
一人は『壁』を見た。もう一人の囚人は鉄格子からのぞく『星』を見た。】
ならばわたしはッ!!『森』を見るッ!」
吉影が何かを吐き出した。キラークイーンの左手が、それをキャッチする。
「なっ!?」
それは、切り落とされた吉影の人指し指だった。
「竹は地上では一本一本が独立しているように見える………だが実際は!地中に張り巡らした根で全て一つに繋がっているッ!
つまりこの竹のどれか一本を爆弾に変えれば!この竹林を丸ごと爆破する事が可能なのだッ!
『スタンド』とは精神の力……我がキラークイーンの身を削った爆弾だ、半径二十メートルの竹は全てぶっ飛ばせるッ!
そして…!そのぼろ雑巾のような翼で、爆破圏内から脱け出せるか?例えさっき銃弾に撃ち抜かれた時のように霧に変化しても、『スタンド』の爆圧は『魂』を破壊する!もはや逃げ場は無いッ!!」
キラークイーンの左手で人指し指を握り締め、振りかぶる!
「わたしの勝ちだッ!!」
近くの竹に狙いを定め、渾身の力で投げ付けた!
ズドオオォォォォォォォォン!!
「――――――が………ッ!?」
真紅の閃光が目の前を過ぎ去り、吉影の左手首を貫通した。
ビチャアァ――――
人指し指は呆気なく吉影の手前に落ちた。
左手は挽き肉のように砕け散り、『シアーハートアタック』も呼応して粉砕された。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』――――――
逃げ場なんて最初から必要ないのよ。」
レミリアの左手から、シュウゥゥ……という音と共に煙が立ち上る。どれほど強力な魔力をどれほどの力で投擲したのか、その様子から知る事は容易だった。
「ぐっ………………はぁッ……」
ガグン、吉影は崩れ落ちるようにして倒れた。
ビュッ――――――
ビュッ――――――
両足、右肩、左手首から、脈動と共に鮮血が迸る。だが直ぐにその勢いも弱り、静かに彼の臥せる血溜まりを広げる。
「もう流石に動けないようね…………人間の身体構造には詳しくないけど、それだけ出血すれば、もって数分といったところかしら……?」
優雅に笑い、レミリアは吉影に歩み寄る。
「――――――――う――――うう………………………」
吉影はどう見てもあと数分も持ちそうにないほど、衰弱しきっていた。脈が弱り、呼吸が細り、青白い顔で地面に横たわっている。
「美鈴、咲夜。」
レミリアの一声に、いつの間にか接近していた美鈴と咲夜が現れ、彼女の脇に控える。
「咲夜、もう平気なの?」
「いえ、まだ気分は優れません…………」
まだ酸素中毒のダメージが治癒していないのだろう、咲夜は具合が悪そうに額に手を当て、そう答えた。
「そう。じゃあ美鈴、貴女が奴を捕らえなさい。」
「御意。」
美鈴が『気』の探知で『キラークイーン』を観察する。どんな妖怪も消し飛ばす極悪スタンドも、芋虫のように手足をもがれた今、本体吉影と同じく息も絶え絶えであった。
「動く力も無いようです。ですが、まだお腹に飼ってる『空気猫』と『紙』がありますから、まだ油断は禁物です――――――」
美鈴が話を切った瞬間だった。
「――――――――――――――――――――――――」
ピクリ、吉影が動いた。
「っ――――――!」
レミリア、咲夜、美鈴は反射的に身構え、挙動を監視する。
「――――――――――――『キラ…………ヨシカゲ』……だ――――――」
「――――――?」
吉影の口から、謎の言葉が吐き出された。
「――――――キラ…………なんと言ったの?」
意味を理解出来ず、レミリアが聞き返す。
「――――『吉良吉影』……………わたしの名前だよ……………………」
首を回し、レミリア達を見上げる。
「川尻浩作は………外の世界で一時期使っていた偽名だ…………本名は『吉良吉影』………………これまで四十九人の手の綺麗な女性を殺してきた………………」
「………………………?」
吉影の行動に、レミリアはいぶかしむ。今際の際になって突然本名を明かし、己の『業』を語る利点など、一切無い。
自身の死を自覚し、罪の意識に目覚めたのだろうか?いや、彼に限ってそんな殊勝な事はあり得ない。
それに――――――
吉影の目を見て、レミリアは不安に駆られる。彼の瞳は死にかけた鹿のそれなどではない。飢えにギラギラと輝く、肉食の羊のような双眸だった。
「(この男…………!やはり何か考えが――――――!!)」
――――――パラリ
吉影の懐から一枚の写真が滑り落ち、土の上に落ちた。
「――――――フフ………
………フフハハハ……………
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……………………」
吉影の口が大きく開かれ、愉悦の笑いが溢れ出す。愉快で堪らないと言った、腹の底から沸き上がる哄笑。
「――――――さて、お前らはわたしの『正体』を知ったわけだ………………わたしの『正体』を知った者は、生かしてはおけない……………………」

突然口を閉じ笑うのを止め、吉影はレミリア達を睨み付ける。
「さあ、お前の出番だぞ、『フランドール』!!」
『任せて吉影っ!』
写真の中から聴こえた声、写真から飛び出した紅い爪の手。どれも三人のよく見知った物だった。
「うそっ――――――
そんな…………フランが…………!?」
妹の乱入と、吉影との協力関係を知り、レミリアは愕然と目を見開く。
「君の姉だッ!彼女の『目』を奪えッ!」
吉影の声に従い、フランの手がレミリアを向く。
「えいっ!」
レミリアの身体から『目』が抜き取られ、フランの手のひらに引き寄せられる。その瞬間を逃さず、吉影はキラークイーンの身を乗り出す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァ!!」
キラークイーンの身体が、フランの手のひらに達するより早くレミリアの『目』に触れた。
ドギュウゥゥン!!
レミリアの『目』に、キラークイーンが憑依する。『目』が逆行しフランの手のひらから離れていき、レミリアの体内に戻っていった。
「何故……わざわざ、毎晩写真を通してフランに血を与え、手懐けておいたのか?
このためだったのだ!フランドールの『【目】を奪い取る能力』は………キラークイーンの『爆弾』に応用出来る!!
全てはレミリア、この時のためだったのだ!!」
吉影の会心の咆哮が、竹林に轟く。
『ちょっと吉影!?話が違うじゃない!わたしはお姉さまをおどかして貴方を助けて、【目】は私が持ってる約束だったでしょ!?吉影、吉影――――――!』
「お嬢様!今お嬢様の身体に奴の『スタンド』が………!」
美鈴の言葉に、咲夜ははっと振り向き、口を開く。
「お嬢様、奴は一体何を――――――」
『カチリ』、『スイッチ』は、入った。
「ああっ――――――!」
レミリアが驚きに叫ぶ。
「キラークイーン『第3の爆弾』BITE THE DUST(負けて死ね)!!」
レミリアの肩に、ミニチュアサイズのキラークイーンが出現した。
「はぁッ!」
「せいッ!」
美鈴の拳、咲夜のナイフが、キラークイーンを攻撃する。だが、空しく空を切るだけだ。
「すでに咲夜、美鈴、お前達の『瞳』の中に入っている!見えているのはそれだッ!
そしてもう遅い!お前達はわたしの『正体』を……探った!『キラークイーン』第3の爆弾のスイッチも既に!作動している!」
ビシッ――――――
咲夜と美鈴の顔に、亀裂が走る。
ドンドンドンッ!
咲夜の背中が裂け、美鈴の腹から爆炎が上がる。
「『キラークイーン第3の能力』それはレミリアに仕掛けた『爆弾』……
わたしを追って来る者全てを消し飛ばすために作動する。わたしの正体を探ろうと『レミリア』に近づく者には全て作動する。レミリアがわたしの正体を言葉でしゃべっても『作動』するし、わたしの事を文章で書いてもその場で『作動』する!」
ドグオオォォォォォォォォ!!
二人の身体は崩壊し、爆炎を上げ消滅した。
「咲夜ァァァ!メイリィィィィィン!!」
レミリアが泣き叫び、悲痛な悲鳴を上げる。
「そしてここからがッ!真の『キラークイーン第3の能力』なのだッ!」
ドグオオォォォォォォォォ――――――――――――
地面が
竹林が
空が
月が
景色が
空間が

歪(ひず)む 歪(ゆが)む
爆ぜる 壊れる

「うわああああああああああああああああ――――――――――――………………………
……………………………………」


――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――――――――――――

「――――――はっ!?」
気が付くと、レミリアは椅子に座っていた。
辺りを見渡すと、自分は紅魔館のテラスにおり、ティーカップを持っている事に気付く。
「これは――――――いったい……………」
茫然とレミリアはそう呟く。
サッ――――――
「―――――――お嬢様、天狗からの伝書烏が。」
咲夜が現れ、レミリアに手紙を差し出す。
「手紙………?」
胸に込み上げる焦燥感を抑え手紙を受け取り、目を通す。
「――――――………っ!?(全く同じ文面……!まさかこれは…………!)」
時計搭を見上げ、戦慄とする。
「(時間が一時間…………巻き戻っている……!)」


――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
―――――19:26―――――――
「――――――、……………」
吉影は辺りを見渡した。彼が立っているのは竹林、妹紅の家から歩いて数十分の場所だ。
吉影は懐から新品の腕時計を取り出し、現在時刻を確認する。
「戻ったぞ………
フフフ………………
フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
吉影の口から、笑みがこぼれた。


「お嬢様、手紙にはなんと…?」
咲夜がいぶかしがりながら訊ねる。
「(咲夜は覚えていない……?記憶があるのは私だけなの?)」
さらに、彼女は見てしまった。彼女の従者達にこれから起こる、最悪の『運命』を。
「(っ!!『運命』が……!固定されている!彼女が『爆死』するという『運命』が……!!)」


「フフフフフフ………成功したぞッ!これでわたしは自由になれる!」
「コッチヲミロォ~」
『シアーハートアタック』が吉影の隣に姿を現す。
「感じるぞ……『運命の流れ』を!レミリアに憑依する事で彼女の『運命を操る程度の能力』を下敷きにして得た、『キラークイーン』の新たな段階だ!」



「――――――?
どうなさいましたか?御具合が悪そうですが…?」
何も知らない咲夜が、首を傾げる。
「(私が……私がこの娘を助けなくちゃ………!
そうしないと、咲夜も美鈴も………)」
「――――――咲夜、これから私の言う通りにしなさい…………」



「わたしにとっての『吉良』を残し!『害悪』のみをぶっ飛ばす『能力』!『吉良(きちりょう)』………フフ、よくぞ言ったものだ……!」
吉影の快活な笑いが、竹林に響き渡った。



「(私の『運命操作』を利用している……!私自身でさえ扱いきれない能力なのに……!
…………あの男………本当に人間なの………?)」
レミリアが小刻みに震え、唇を噛み締める。



「これがわたしの新たな『能力』――――――」
吉影が凶悪な笑いと共に言う。



「――――――これがヤツの真の能力………」
レミリアが唾を飲み、震える声で呟く。



「――――――『バイツァ・ダスト スカーレットデビル』――――――」

「――――――『バイツァ・ダスト 全世界ナイトメア』……………」
レミリアの手の中で、ティーカップが独りでに砕けた。



――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――
「――――――……………………おかしい…………どういうことだ………………?」
人里、寺子屋。慧音は机に向かい、不安に駆られ何度も歴史を見返す。
「………………………………っ!そうか……!やはり…………!」
慧音が小さく声を上げ、窓を見る。
「(しかし…………いったい誰がこんな事を……………並の妖怪なんかじゃない………!もっと大きく、『事実』を根底から覆す、恐るべき力……………っ!!)」
慧音が睨む満月は、何時もと変わらぬ様子で狂気を振り撒いていた。
「――――――――――――『歴史』が…………
『断絶』している…………………ッ!!」



ED曲 Unlucky Morpheus 『XXI』

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