映姫が話の続きを語ろうとしたとき、リキエルが急ぎ足でやってきた。
「え、映姫待ってくれ!話す前にオレのセリフを言わせてくれ!」
紅茶の入った湯のみをカチャカチャと音をたてて机に置き、息を荒くして続きを語りだした。
「お前が神父の目指すものの邪魔をするというならばッ!オレは熱した鉄のような憎しみとともにお前を始末するだろうッ!!誰もオレの、いやオレたちの精神の成長を止めることはできないッ!!オレは『アポロ11号』なんだ―――ッ!」
「ってなことをオレが言ったんだ!」
リキエルの言葉に再び勇気付けられた罪人たちが叫び突き進む
「そうだ!!俺たちは『犬』じゃねえ!」
叫び
「『天国』へ行くことで!俺たちの人生はようやく始まるんだ!!」
突撃し
「俺たちには神父様がついている!!神のご加護があるんだ!!相手が閻魔であろうが負けるはずがない!!」
援護し
「一人でも天国へ行ければ!その時点で俺たちの勝ちだ!!」
鼓舞し
「オレたちも行くぞッ!!『血管針攻撃』!ってあれッ!?ウギャ――――ッ!」
その他がやられた・・・
オレも行こう、とリキエルが進もうとしたとき、プッチ神父が彼の肩をつかんで止めた。
「お前は今はここに残るのだリキエル」
「え?」
いくぶん不服そうな顔をしたが、プッチに言われたら逆らうわけにもいかず従うことにした。後で自分の力が必要になるのかもしれないが、それでもやはり目に見えた形で神父に貢献したいというのがリキエルの心情だった。
「いやぁ・・・すごいですね。アポロさん「リキエルだ」の言葉に触発されて、みんなどんどん閻魔様に向かっています(その他は置いといて)。ほら、もう見えないくらい遠くにまで行ってますよ」
感心したように美鈴が言っている。
その言葉を聞き、プッチは組んでいた腕を解き、前方に行った罪人達を指差して言った。
「門番、君は一番先頭の罪人が見えるかね?」
「?いえ、もう遠くて見えませんね。それがどうかしたんですか?」
美鈴の答えを聞いた後、今度は腕の角度を少し上にあげて言った
「そうか。ならば…一番先頭の罪人の、さらに『前にいる』映姫の姿は…見えるかね?」
「『見えま』…え?」
「そうか。ならばなぜ?遠くにいるものが見えて、近くにいるものが見えないのだと思う?」
「小さくなっている?でもどうして?」
「スタンド使いではない君には見えないだろうが、わたしには今映姫の肩に『赤ん坊』のような像(ヴィジョン)が見える。あれはかつてわたしと同化した『DIOから生まれたもの』と非常に似ている。もしそれと能力の効果が同じならば・・・・彼らが映姫に近づくことは『決してない』」
――――――――――
当時のことを思い出しながら興奮気味に語っているリキエルをよそに
黙って聞いていた吉良が口を挟んだ
「君はスタンド使いになったのか?」
少し驚いたように目をやる
「えっと・・・それはですね」
――――――――――
「何故だかは知りませんが、私に『スタンド』が発現したようですね。ここ最近私の周りには多くのスタンド使いがいました。それに加えプッチ神父、貴方と戦うことが原因となって、能力に目覚めたのでしょう。この能力は、天国を守るために生まれた能力。名づけるならば『Stay away from heaven』っ!!」
くわっ!っと目を見開き小さいがプッチのところまではっきりと聞き取れる声で言った。
「ふん。『Stairway to heaven(天国への階段)』で目覚めた能力が『Stay away from heaven(天国から離れろ)』とはな。うまく言ったものだ」
言ってしまえばかなりヤバイ状況にもかかわらず、プッチは不自然なまでに落ち着いていた。似つかわしくないジョークを言えるほどに。
「感心している場合じゃないでしょうプッチさん!近づけないんじゃあ勝てっこないじゃないですか!」
落ち着いているプッチを見てすこしイラついた口調で言った。場に似つかわしくない行動を取っている人物がいればイラつくものだ。
「落ち着けよぉ。神父が何も考えずにボーっとしてるわけないだろう?だいたいなんでもできるスタンドなんてあるわけねーぜ。ぜってー弱点があるはずだぜ。あとオレの名前はアポロじゃあねぇ」
手首のスカイ・ハイをなでながら言った。
「確かにあのスタンドで物体を凍らせたり、炎をだしたりのは無理でしょうけど、拠点を守るという点においては、近づけないんじゃどうしようもありませんよ?」
「能力発動の鍵があるはずだ。小さくなる原因が。『近づく』ということだけが原因ではない。スタンド能力に同じものは存在しない。小さくなっている者どもの共通点はなんだ・・・まさか・・・『敵意』か?『敵意』が発動条件なのか」
先ほどまで冷静だったプッチが焦り気味に言った。
「待ってくださいプッチさん。『敵意』を失くして倒れている人もいますが、大きさは戻っていません。きっとほかの原因があるはずです」
そして今度は焦っていたはずの美鈴が冷静に状況を分析してプッチの間違いを指摘した。
「……」
リキエルは…なぜか黙ったままだった…。
全員が、例外なく小さくなっているこの状況で美鈴は静かに推測をはじめた。
小さくなっているのは…近づいているもの全て?
着ている服や武器も小さくなっていますし…
影響をうけていないものは…止まっている私達3人だけ?
これだけですと…やはり『近づいたもの全てに影響を与える』ことになりますが、同じ能力は存在しないならば、やはりなにかしら異なる点があるはず…
異なる点?…逆に共通しているところはなんでしょうか?
小さくなっている人全員に共通する点は…
ひょっとして
思い至ったことが正解か不正解かわからなかったため、少し困ったように「うーん」とうなり、自信なさげに脚を半歩だけ踏み出した。
小さく…ならない?
身体にまったく異常がないことを確かめると、今度は大きく一歩踏み出す。
「おい何をしている。能力の発動条件もわからないまま近づくのは危険だ」
「いえ、大丈夫です。私には『条件』がわかりました」
美鈴 小さくならない
「なにッ!?」
「プッチさんも来てください。あなたの言葉が真実から出たものならば、小さくならないはずです」
「何だと」
「それともあなたの言葉はうわっ面から出た邪悪にすぎないのですか?」
プッチ前に出る
小さくならない
それを見て美鈴が言う
「…よかった」
「おい、一人で納得するな。条件とはなんだったのだ?」
「推測ですがおそらく『天国へ行きたいと願うこころ』です。プッチさん、あなたは自分のためではなく、他人を天国へ導くために動いている。だから近づけたんです」
「なるほどな。『幸せになりたいと願うものは幸せになれず、幸せにしたいと願うものが幸せになれる』ということか。しかし・・・君は天国へ行きたくないのかね?天国へ行きたいからわたしと共に行動しているのではないのかね?」
「そ、それはその・・・あ、あはは。プッチさんが無理やり連れてきたんじゃないですか」
ホントのことを言うと、あなたのその強い『信念』が目指すものを見てみたいだけなんですがね、『天国』なんてどうでもいいですよ。強い信念はその人を輝かせますから。
はっ!!
「!!ってあれ?いない」
前に行ってる…
「小さくならないとわかったのだ。さっさと映姫を倒しに行くぞ」
…まったくこの人は
「了解です。神父様」
自分勝手なんですから
「お、オレは?」
「あ、アポロさん。あなたも大丈夫ですよ。あなたも『天国に行きたい』のではなく『神父を助けたい』だけなんですから」
「オレはアポロじゃねえッ!リキエルだ!二度と間違えるな!!」
「はい(リキュール?)」
――――――
のどが渇いたのかリキエルは話を切り紅茶を手に取った。
「ふぅ。うめえな。でだ、そこから何があったかオレが言うと、ややこしいことになるし、正直オレも何があったかはっきりわかってるわけじゃあねえ」
こいつなら知っているだろう。そんなリキエルの視線が映姫に向けられた。
「ではそこから先は私が話しましょう。何があったか私でなければわからないでしょうから。ま、今の話もこれからの話もある意味まったくの無駄なんですけどね」
その視線を受け取った映姫が続きを語りだした。
――――――
どうやらこの能力は『天国へ行きたい』ものにのみ効果を発揮するようですね。あの3人の内誰かが、それに気付くかもしれませんね。
おや?
「どうやら気付いたようですね。しかし・・・気付かずにその場で途方に暮れていれば怪我をせずにすんだというのに」
小さくならないことを確信し、こちらに向かって歩いてくる『3人』に向けて冷たく言い放った。
「プッチ神父、貴方の能力は脅威でした。20m以内に入ってこられれば魂をDiscにされてしまうかもしれない。しかしその脅威も『スタンドはスタンド使いでしか見ることは出来ない』という条件があってのもの。スタンド使いとなって貴方のスタンドが見えるようになった今、貴方のスタンドはそこまでの脅威ではありません」
そういって懐から穢れのない、綺麗な悔悟の棒を取り出した
「わたしは16のころからスタンドを使っていたのだ。ついさっきスタンドを使えるようになった小娘が甘っちょろい口をきくんじゃあないッ!」
迫りくるプッチをよそに、映姫は今出した悔悟の棒を凝視していた。
『異常』
違う!
なにか『異常』なことが起こっている。
悔悟の棒が綺麗?
吉影の血を拭き取らなかったのに…
おかしい
話の進み方が…滅茶苦茶ですね…小学生の夢みたいに…。
ホワイトスネイクの能力は…記憶を取り出すことだけ?
違う!
スタンド能力発動の条件が『天国へ行きたいという意志』?
これも違う!
どこから?
最初から…?
スタンドが発現?
『スタンドが発現』!?
違う!!
ホワイトスネイクのもう一つの能力…
『幻覚』ッ!!
はっと目を覚まし、急いで周りの状況を確認すると、彼女の目に大量のDiscが映った。
「これは…魂そのものをDiscに…」
罪人達はなぜかみなプッチによりDiscにされていた。
映姫は自分が傷を一切負っていないこと、周囲に危険がないことを確認し、最後にあることを確かめた。
「あ、痒かったところに手が届…ってこんなことしている場合じゃありません」
身体が少しとけてほんのちょっぴり柔軟になった映姫であった。
―――――――――
「で、幻覚オチ?無駄に時間とらせるんじゃないわよ」
「そう言うな霊夢。幻覚の中で戦ってた場面なんて全部省略しているじゃあないか。それと、ここからは幻覚ではない実際にあった話だ」
―――――――――
映姫が微妙に柔らかくなった身体を微妙な方法で有効活用しているとき、プッチたちはというと…
ここは地獄の1丁目
「ところでどうして再起不能にしなかったんですか?」
「いや、再起可能だからいいのだよ」
「?よくわかんねーけどオレは神父の言葉に従うだけだ」
特に焦ることもなく、なにやら話し合いをしていた。
「人類が天国へ行くためには、再びわたしのスタンドを進化させる必要がある。進化させるのに必要な要素は既にいくつかは揃っている。DIO!君から生まれたものはあれからずっとわたしと同化したままのはずだ。だが、何故だか知らないが存在が空っぽになっているような感覚がする。しかし罪人の魂は、すでに集め終えた。したがって必要なのは『勇気』と『場所』の二つだけだ」
必要なものは『勇気』である
わたしはスタンドを一度捨て去る『勇気』を持たなければならない
朽ちていくわたしのスタンドは36の罪人の魂を集めて吸収
そこから『新しいもの』を生み出すであろう
「これだ。この言葉を完全に理解しなければ……」
『勇気』…捨て去る…スタンド……スタンドとは精神…精神は魂…スタンド能力は精神の具現化…待てよ
何か思いついたのかプッチはハッと息をのんだ
「理解したぞDIO『捨て去る勇気』が一体なんなのかを…」
そう言うとプッチはスタンドを発現させ、ホワイトスネイクと目を見てから叫んだ。
「空っぽに感じられた原因はこれだ!生前は魂が2つ、そして魂の器も2つあった!わたしの魂と『DIOから生まれたもの』の魂だ!だが一度死ぬことにより『DIOから生まれたもの』の魂は成仏してしまった!結果、わたしには満たすべき2つの器がありながら、1つ、つまりわたしの魂の器だけを満たし、スタンドを発現させ、『DIOから生まれたもの』の魂を満たしていなかった!だから空っぽだったのだ!!ならば『捨て去る勇気』とはッ!具現化した精神、つまりスタンドを魂の器に入れることだ!!『捨て去る勇気』とは『与える勇気』!すなわち!自分の魂を!自分のスタンドを!DIO!君から『生まれたもの』へと『与える勇気』!そしてそれは!『信頼する勇気』だ!友を信頼し、自分の魂を『与える勇気』!これで再びわたしは進化する!」
プッチはホワイトスネイクを、己の中の空っぽの魂に仕舞い込むようイメージし、ゆっくりと、スタンドを体に戻した。
インクが紙にしみ込むようにホワイトスネイクの姿は消えていった。
直後、プッチの体を光が包んだ
「「おお」」
しかし……
プッチを包み込んでいた光は、成長の兆しを見せることなくやがて消滅した。
「なぜ…?」
おかしい。進化の条件は合っているハズなのだ…。
「魂の形が合わなかったのでは?その…DIOというものから生まれたものの魂しか入らないのでは?」
「だとするとまずいぞ!どこにいるかもわからない赤ん坊の魂を探さねばならない!っく…落ち着け素数を数えるんだ…」
敬愛する神父の狼狽するさまを、目を泳がせ不安げに眺めていたリキエルが、やがて意を決して言葉を発した。
「神父よ?」
「なんだ、リキエル?」
「オレではダメなのか?」
「何のことだ?」
「オレも『DIOから生まれたもの』だ。そしてオレも魂だけの存在。ならばオレの魂を使えば、神父の求める力が手に入るはずだろう?」
「でもそれじゃあアポロさんが消滅するんじゃあ?」
「いいや、美鈴(オレの名前はリキエルだ)。いいか?オレは『DIO』という男についてはほとんど知らねえ。DIOが困った時に命を懸けれるか?ときかれたら『いいや』と答えるだろう。DIOのことではオレの心は動かないからだ」
リキエルの声に力がこもっていく
「だがオレに『精神の成長』を教えてくれた神父…あんたのためなら命を懸けれる。オレは神父の役に立ちたいんだ。神父の成長を助けたい。だから…!」
「わかったリキエル」
リキエルの言葉を聞きプッチが手を伸ばした
「ありがとう神父。…これがありがとうを言うオレの魂だ。受け取ってくれ…」
リキエルの心は、穏やかだった。
リキエルの魂は、生まれたての赤子のように、純粋さに満ちていた。
リキエルの頭があった場所から、1枚のDiscが落ちた。
プッチはそれを拾い、頭に差し込んだ。
リキエルは消えた
プッチは無意識に十字を切っていた
祈りの言葉もなにもなかったが、そこには無言の絆があった
魂の絆がそこにはあった
「(アポロさんとプッチさん・・・つまり・・・)アパッチさん・・・」
「名前を混ぜるな。プッチでいい。さて…魂は満たされ、わたしのスタンドは再び進化した。C-MOON、重力を逆転させる能力だ。ほら」
「わわ!上に落ちる!」
「ああ、すまない」
美鈴が上に落ちたので、プッチ能力を見せるために出したスタンドを引っ込めた。
「下に落ちる!って当たり前か。で、これからどーするんですか?天国へは上に落下していくんですか?」
「いや、もう一度スタンドを進化させる。そのためには、『場所』に行く必要がある。ここにもあるはずなのだ。『場所』へと行きさえすれば、『天国の時』が訪れる。そうすれば『重力を逆転させる』ことしかできない能力ではなく、『重力と時間を操る能力』が完成するのだ。お前は幻想郷の住人だろう。知らないかね?どこか『重力』に関係する場所を?」
そうプッチは聞くが
「知りませんよ!」
美鈴、即答である。
「『天国』がどこか知りませんけど、幻想郷(ここ)だって楽園ですよ。あんまり変なことやりすぎると、いいかげん霊夢さんに討伐されちゃいますよ?」
ここが楽園?天国(ヘヴン)みたいなものだと…妖怪たちにとっては避難所(ヘイヴン)だろうが、天国ではない。しかし…
「霊夢…博麗神社か…。重力を操る霊夢がいるあの場所こそが、わたしの求める『場所』に近いだろう」
もっとも…
「プッチさん!あれ!」
今はソレを考えている場合ではないか
「ああ。わかっている」
プッチが顔を上げると、やたらときれいなフォームで走ってくる映姫の姿をその目にとらえた
「……」
「……」
ああ、体が柔らかくなったからか。
映姫はプッチたちを確認すると、さっそく弾幕を放ってきたようだった
映姫の姿をとらえた時、プッチは違和感をおぼえていた。
まだリキエルの魂がうまく馴染んでいないせいか、感覚の目が使えなくなっていた。
『緑の赤ん坊』は生まれたばかりで経験や思考が浅かったので比較的短時間に―それでも不調はあったが―魂に馴染み、プッチ本人にも影響は与えなかった。
しかしいくらこころから捧げると言っても生まれたばかりの赤ん坊と20数年生きてきたリキエルの魂とでは魂の深さ、厚みが違う。やはり安定するまではよきにしろ悪しきにしろ相応の影響を与えるのだ。
その影響というのが、今のプッチに『感覚の目』が使えない、という結果になって現れていた。
いまのプッチはスタンド使いでありながら、スタンドを感じることしかできなくなっていた。
もっともこれは周りにスタンド使いのいない今、ちっぽけな影響でしかないのだが、『弾幕』を『感覚の目』でしか認識できないスタンド使いにとって、この状況は楽観視できるものではなかった。
だがそれも『もしわたし一人しかいなかったら』の話だ
くるりとプッチは美鈴のほうへ向き直り、『感覚の目』が使えず、映姫の弾幕を見切るには美鈴の力が必要だと説明し、彼女に頼んだ。
「門番頼まれてくれるな?おまえがわたしの目の代わりになるのだ。弾幕がどこから来るか教えてくれ」
「わかりました。ですがそれだと私が直接戦ったほうが早いんじゃないですか?」
もっともな意見である
しかし
「いや、今はまだ・・・わたしが戦う必要がある」
プッチは美鈴を見つめ、そう言った
あなたが目指しているものは本当に『天国』なんですか…?
なんだか…もっと『先』を目指しているような…
『天国』にたどり着くことが、ちっぽけなことに感じられるくらいに…何かとてつもないことを…
プッチの言葉に謎めいたものを感じた美鈴だが、ここは既に戦場
冬のナマズのようにじっとしているわけにはいかないのだ。ツバメのように素早く動く必要がある。
そーこー考えているうちにさっそく弾幕が飛んできた
弾幕の位置を伝えるべく、声を張り上げる。
のだが…
「気をつけてください!庚(かのえ)の方角225度0分から来ましたッ!」
「ッ!?庚(かのえ)の!?方角ッ!?」
First attack!
「うぐッ!」
「ああ、何じっとしているんですか!次は丁(ひのと)の方角195度から腰の入ったスゴクいい弾幕がッ!」
「おい丁(ひのと)の方角は!ぐぶえッ!!」Good!
「なんで避けないんですか!次も来ますよ!再起不能になりたくなかったら避けてください!」
「中国式はやめろ!理解できない!」
「ああ!えっと次は、西から東にかけて!」
「どっちが西だッ!?くはッ!」Good!
次から次へとプッチに弾幕が当たっていくのを見て美鈴は焦るどころか逆にフッと笑った
…おもしろい
プッチとしてはたまったものではないが、上から目線でえらそーにしていた人物が(自分のせいとはいえ)滑稽な姿をさらしているのだ。ほんのちょっぴりいたずら心が刺激されても仕方あるまい。
あんまり効いていないようですし、大丈夫でしょう。
「えっと、右から!プッチさんから見て左からきます!」
「ややこしい!ッ!」
避けられずに左目付近に当たった。Good!
「獣(けもの)を英語で!」
「それはビースト!かはッ…東(イースト)か」
今度はお腹に当たり、その衝撃にプッチは思わず膝をついた
「カトリックの聖体はパンにこれを使わない!」
「イースト(菌)!くッ!って今のは東じゃあなかったぞ!」
律儀に答えるが、やはり今度も避けることはできなかった
「大熊座の方角から!」
「む、それはわかる」ディ・モールト!
「えっ?!」
今度は華麗にヒョイと避けた。
「乙(きのと)から西にかけてきました!」
避けられたのが悔しいのか、今度は混ぜて伝える美鈴。
「混ぜるんじゃあない!ぬぐッ!」
そして当然のように弾幕に当たるプッチ。
「素数を数えて落ち着いてください!」
「1」「2,3,5,7,「9」11,13「15」ええい!1は素数ではないッ!9も15も素数ではないッ!」
「また来ました!最小完全数時の方向から!」
「いちいち呼び名をかえるんじゃあないッ!映姫!少し待て!」
業を煮やしたのか戦闘中にも関わらず、弾幕を撃ちつつもう会話ができる距離まで近づいてきた映姫にそう言うとプッチは美鈴のところまで飛んでいった。
「いいかッ!わたしの右からか左からかそれだけでいいッ!東西南北、干支、十干(じっかん)は使うな!謎々をしているヒマもない!Do you understand!」
「わ、わかりました」
あまりの剣幕におされてついうなずいてしまう美鈴。
「よし」
「それから今気付いたんですが・・・」
「なんだッ!?」
「『後ろ』って上ですか?下ですか?」
「は?」
美鈴の言葉を聞き後ろを振り向いたその瞬間
ッ!!
Excellent!!
「あー・・・ほんのちょっぴり言うのが遅かったですかね・・・」
映姫の弾幕がプッチの顔面に直撃した
「(いたそー)」
そしてその瞬間、プッチの頭がプッチンした
美鈴による度重なる妨害、素数を数えることすら邪魔をされ、プッチの精神状態は崖っぷちに追い込まれていた。
さて話は突然変わるが
一流のスポーツ選手には「スイッチング・ウィンバック」と呼ばれる精神回復法がある!
選手が絶対的なピンチに追い込まれた時それまでの試合経過におけるショックや失敗、恐怖をスイッチをひねるように心のスミに追いやって闘志だけを引き出す方法である。
その時スポーツ選手は心のスイッチを切り替えるためそれぞれの儀式を行なう。
「素数を数える」「深呼吸をする」などである。
ショックが強いほど特別な儀式が必要となるが・・・・・・・・・!
この時『プッチのスイッチはッ!』
グググ
「ちょっ!なにしてるんですか!?」
バルスッ!
目を押すことだったッ!!!!
「ぎにゃ―――――ッ!!!」
ただし美鈴の
「これでいい。なまじ見える者がいたからそいつに頼ってしまったのだ。感覚の目もそろそろ慣れてきた。もうぼんやりと見える。これだけ見えたら十分だ。おまえはそこで冬のナマズのようにおとなしくしているのだ!」
「目がァ!目がァ!!!潰れてはいませんけど後遺症で涙目になりそう!涙目の美鈴って呼ばれそう!」
そんなセリフがはけるなら確実に潰しておけばよかったかな
しかし…
「さあ、第二楽章を始めようか」
次回予告
リキエルの魂を受け継ぎついに進化したメイド・イン・ヘブン!
信じ仰ぐ想いを力に、Give me all your LOVE tonight!
プッチは映姫に勝てるのか!?
次回 悪役幻想奇譚第十三話
『プッチ神父は手を汚さないか?』
お見逃しなく!