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不死鳥は失敗を恐れない第十一話

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匿名ユーザー

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「おー! 見える見える。どいつもこいつも変な奴ばっかりね」
 レースが始まって6時間。
 三人は馬の足を緩め、望遠鏡で周囲を確認していた。
「なあ、ちょっとこっちを見てくれ」
 妹紅の隣で望遠鏡をのぞくジョニィが、彼女の肩を叩く。
「何々……うわっ! なんだアイツ?」
 ジョニィと同じ方向を見た妹紅は、ぎょっとして望遠鏡を地面に落とす。
「よく見ると耳に何かをぶら下げているな……でもよく見えない」
「なんか、馬にテープっぽいのを巻いていたわよ」
 馬から降りて、望遠鏡を拾う妹紅。
 再び望遠鏡を覗き込み、不気味な風貌の後続を見る。
「あのテープ、『TRUE LOVE』って書いてあるわね。かーなーり胡散臭い」
 望遠鏡を絞る妹紅の脇で、ジョニィは選手のリストを広げた。
「アイツの名前は……ゼッケンからのリストによると『ミセス・ロビンスン』って男……」
「ミセス!? 男なのにミセスってなんか変ね」
「僕もそれが気になっているんだ。でも、今ここでアイツの名前のことなんか考えても意味ないだろう?」
「そうね。で、アイツとの距離は、どのくらいあるの?」
「ここからおよそ150馬身差だな……尾かず離れず、さっきからこの間隔を保ったままだ……」
「ますます不気味ね」
 望遠鏡を仕舞いこみ、妹紅は馬に乗った。

  不死鳥は失敗を恐れない 第11話『サボテンパニック!』


「さて、ジャイロ、少し聞きたいことがある。スタートしてから6時間。トップが我々だというのは間違いないよな?新鮮な水を手に入れるまで最低80キロはあるルート!」
 ジョニィも望遠鏡を仕舞いこみ、代わりに地図を取り出す。。
「確認するけど、間違いないよな? この方向に、あんな山なんかのってないんだよね? この地図には……」
 再び確認するかのように言って、ジョニィはジャイロの背後にある山を見る。
 ジャイロはジョニィから地図を受け取りると、背後の山を見て、がさがさと地図を見ると、
「ハイ大丈夫ッ! 完璧にあってるぜOK!」
 早口で言いながら地図をジョニィに返し、小さな声で「たぶん」と付け加えた。
 ジョニィの耳がピクッと動いた。
「ちょっと待て! 今小さく『たぶん』ってつけなかったか? たぶん!?」
 ジョニィは、怒鳴った。
 あまりにも適当過ぎるジャイロに生命の危険を感じたからだ。
 その会話を聞いて、妹紅も地図を広げて目の前の山と地図を見比べ始める。
「心配するなって! 合ってるさ! 気球だって後続から来てるんだから合ってるよッ!」
 そういいながら、ジャイロはまたしても小さく「きっと」とつけて馬を歩かせる。
 またしてもジョニィの耳がピクッと動いた。
「なんだよそれ! きっとォォォ!?」
 ジョニィは怒り心頭に来て、ジャイロを指差した。
「水場まで80キロ! それを逃したら死ぬってルートだ! 僕が聞いているのはアンタが砂漠に詳しいかどうかってことだ!」
「だから、これでいいんだよ! 砂漠ってのは大体でいいんだ! それよりもお前『回転』できてるのか? 教えたコルクの回転を――」
 その時、ジャイロとジョニィの間を、何かが高速で抜けた。
 三人の表情が、固まった。
 三人とも、背後を見る。
 背後には、相変わらず距離を保ったままのミセス・ロビンスン。
「どうかしたかい……?」
 不審に思い、ジョニィはジャイロの方を見る。
「何かが、飛んできたよな? 銃弾みたいなの」
 妹紅は、ミセス・ロビンスンを注視する。
「そうだな。何かが飛んできた。もっとも、方向は『前方』だ」
 そういわれて、妹紅は前を見た。
「なにも無いじゃない。サボテンと砂しかない」
 妹紅がジャイロを振り向くと、妹紅は驚きに顔をゆがませた。
「おい、ジャ……ジャイロあんた……」
 口を開いたのは、ジョニィだった。
「その耳……」
 震える指で指差すのは、ジャイロの顔。
 ジャイロの指に、血がしたたり落ちた。
「穴が……いつの間に……」
 妹紅は顔を青ざめさせてジャイロを見つめる。
 ジャイロの耳には、穴が三つあいていた。


 耳から溢れる血を抑えると、再び『前方』から何かが飛んできた。
 それはジョニィの腕に刺さり、ジャイロの腕をかすめ、妹紅の手を貫く。
「やっぱり『前方』だ! 何かが『前方』からやはり飛んできている!」
 暴れる馬をなだめながら、ジャイロは前を見た。
「くそっ! 切られてる! 何かに腕を切られている!」
 ジョニィは自分の腕を見つめ、
「銃弾か? でもどこから!?」
 妹紅も穴の開いた自分の手に戸惑いを覚え、周囲を見渡すと、背後のミセス・ロビンスンが動き出すのが見えた。
「走り出してるぞ! ミセス・ロビンスンが走り出してる!」
 その声に、二人もミセス・ロビンスンの方向を見る。
「並ぼうとしている! アイツなのか! アイツがやったっていうのか!? 俺たちを走行妨害しようとしているのか!?」
 戸惑うジャイロと妹紅をを止めたのは、
「落ち着け二人とも!」
 ジョニィの鋭い声だった。
 二人はきょとんとした。
「攻撃が来る『方向』がおかしい。攻撃は『前方』から来ている。岩陰に身を寄せて、下手に馬を激しく動かすな」
 ジョニィの指示に従い、妹紅とジャイロは岩陰に身を隠す。
 岩陰に隠れて周囲の様子をうかがうジャイロ。
 ジョニィはミセス・ロビンスンを観察していると、妹紅が一つのことに気付いた。
「おい、ジョニィ。腕に何かが刺さっているぞ」
 妹紅に指摘されて、ジョニィは自分の腕を見る。
 針のようなものが刺さっていた。
 ジョニィはそれを摘み上げて、眼前に持ってくると、その針の正体に気付いた。
「これはサボテンの針だ」
「砂漠に詳しいのか?」
 ジャイロがジョニィの方を向く。
「砂漠には針を飛ばす種類のサボテンがあるって聞いたことがある。名前を『チョヤッ』というらしい」
 ジョニィに言われて、周囲を見ると、そこら中にサボテンが生えていた。
 どうやら、ここはサボテンの群生地らしい。
「動物とかが近づくと、その巻き上がる空気の振動に反応して針を飛ばしてくるんだ。なぜならこの『チョヤッ』は針自体が種子でもあるからだ」
 そういって、岩の近くにあるサボテンに向かって、ジョニィは唾を吐きかけた。
 すると、サボテンはものすごい勢いで針を散弾銃のように飛ばす。
「あれが『チョヤッ』らしい」
 そこらへんに『チョヤッ』が群生しているのを見て、ジョニィは舌打ちをした。
「サボテンか……水分豊富なあれを焼くのはちと骨がいるな……」
 攻撃の正体を知った妹紅も、顔をしかめる。
「で、どっちが悪いんだよ? このサボテン地帯に踏み込んだ俺たちか? それとも……サボテンを利用して攻撃を仕掛けているアイツが悪人か?」
 痺れを切らしたジャイロが、ジョニィの方を向く。
「わからない。そしてありえない……あの針を繰り出すには『チョヤッ』にかなり近づかないといけないが……あそこはライフルだって届かない距離だ! 何かを飛ばしているとしても……僕たちを狙えるなんてありえない」
 再びミセス・ロビンスンに注目するジョニィ。
「だけどよ、動機ならわかるぜ。気球審判員にペナルティ喰らわずに俺たちをうまく排除できる。ファーストステージでもコッソリやってたのかもな……」
 総金歯を軋ませて、ジャイロもミセス・ロビンスンを見る。
 すると、眼前のミセス・ロビンスンは方向を急に変えて、こっちへ向かってきた。
「やばいぜ二人とも! とりあえずこの地帯を脱出するぞ!」
 ジャイロの号令に従い、二人は岩陰から飛び出た。
 走るジョニィの手綱に、針が突き刺さる。
 革製の手綱は千切れ、ジョニィは馬上で大きく体制を崩すが、
「危ない!」
 すぐ横に妹紅が並び、ジョニィをフォローする。
 が、次は二人の顔に針が降り注ぎ、二人はもつれて落馬する。
「妹紅! ジョニィ! 二人とも早く馬に乗れ! これは完全に奴の仕業だ!」
「わかってるっつの!」
 妹紅は躍起になってジョニィに肩を貸して立ち上がる。
 だが、今度は妹紅の足に針が飛んでくる。


621 :154:2010/12/24(金) 22:12:15 ID:J4KifQvU0
「そう同じ手は喰らうかっつの!」
 飛んでくる針を炎で防ぐと、やや乱暴にジョニィを馬に乗せる。
 妹紅自身も馬に乗ると、すぐに顔の血を拭いて手綱を握る。
「ジョニィ、大丈夫か?」
 ジャイロが気遣うと、ジョニィは顔の血を拭いながら、
「目に血が入ったが眼球は大丈夫だ!」
 千切れた手綱を握って馬を走らせる。
「二人とも! アタシがしんがりにつく! とにかく急いで脱出するわよ!」
 飛んでくる針を炎で燃やし、妹紅はジョニィとジャイロの後ろにつく。
「クソッ! このままじゃジリ貧だ!」
 四方八方からくる針の弾幕を妹紅が防ぐ中、ジョニィは毒づく。
「いや、そのジリ貧にはなんねーよ」
 馬を走らせながら、ジャイロはにやりと笑って、鉄球を取り出した。
「さぁーて、ここいらで反撃と行きますか」
 そのまま馬の方向を急転換。
 なんとミセス・ロビンスンの方向へと走りこむ。
「おい! 何やってんだジャイロ!」
 突然の行動に、妹紅は思わず怒鳴った。
「鉄球を使ったら失格になるぞ! ヤツが犯人なんて証拠は何もない! それにまたここで攻撃行動なんてとったら、今度はペナルティ程度じゃ済まなくなる!」
「いいから黙って見ていな!」
 叫ぶジョニィにかぶせるかのように、ジャイロは大きく両腕を振りかぶった。
 その行動を見たミセス・ロビンスンの左目が、妖しく光った。
 ジャイロの腕に針が突き刺さり、鉄球を取り落してしまう。
 近い距離まで迫ったジャイロは見た。
 ミセス・ロビンスンの左目から小さな虫が出てきていることを。
 一匹、二匹と虫は羽を広げて眼窩から飛び立つ。
「ある砂漠の村では、揉め事で殺し合いが起こった時……敗者を鎖でサボテンに縛り付けてわざと『死ぬ』のを待つ。サボテンは死人に『呪い』をかける。死んだ後に奴隷にして復讐とか恨んだりできないようにな……」
 ミセス・ロビンスンが口を開いた。
 彼の乗る馬が歩みを止める。
「オレはそんな村で育ち、人に支配されないようにワザを身に着けた。誰にも負けないように体内に虫を飼ってな……」
 ミセス・ロビンスンの目元から飛び立った虫が、『チョヤッ』に近づく。
「今この『虫たち』をお前らの周囲に向かわせた! 虫たちの『高速の飛行風圧』は! チョヤッの針を標的に向けて自由自在に飛ばせるッ!」

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