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ジョジョの奇妙な東方~FF・of・fate~ 第十六話

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shinatuki

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ジョジョの奇妙な東方
~FF・of・fate~
第16話:人間が好きな妖怪 その④


手紙を橙と一緒に見てしまったのは失敗だったッ・・・!!

藍は飛び出してしまった橙を追いかけつつ唇を噛んだ。
あの後、手紙を読んだ藍は橙に当分のマヨヒガからの外出を禁じた。【手紙の内容】が正しいとしたら橙に危害が及ぶと考えたのだ。だが、藍は失念していた。
橙は他人を放っぽって自分だけ安全な所にいるような子ではない事を。藍が気付いた時にはすでに屋敷を飛び出してしまった後だった。
スピードこそ藍の方が上だが、橙は小回りが利く。橙より先に寺子屋へ行く事は難しいだろう。だが、行かなければ・・・【あの手紙】の内容がもし全て真実なら・・・

「私やあの半妖ならともかく・・・橙は死んでしまう・・・ッ!」

走りながら手紙の内容を思い出す。
『慧音の所のガキが特殊な能力を持っているらしい。まぁ、それ事態は別にどうでもいい。実際そんなもん珍しくも何ともねェからな。だが、【問題】は【その事実を隠している】という事がバレちまったてェこった。
【隠す】ってェ事は【隠されたほう】から見りゃあ気分のいい事じゃあねェ。ソイツは【不安】を生んで【疑惑】を生むってーのはわかるな?元々あの寺子屋によくない感情を持ってるヤツがいたってーのが悪かったンだ。
ソイツが周りの連中そそのかして寺子屋へ焼き討ちにいくらしい。』

「急がなければ・・・橙・・・」

藍自身も妖怪・・・と言うより妖怪と仲良くしようとしている人間を嫌う人間がいることは知っていた。だが、まさかここまで過激な連中とは思っていなかった。
連中はスペルカードルールなど知った事ではない。スペルカードルールに則った戦い方しか知らない橙では・・・

「もし・・・もし橙に何かあったら・・・ッ!」

最悪の展開が頭をよぎり、それを振り払うようにスピードを上げる。

「その場にいる全員を殺してやるッ・・・!」



「あの大人を守るだッ!ハーヴェストォッ!」

重ちーには理解が出来なかった。
自分の知っている大人達が睨み合っている事が。妹紅と知らない人が村の人間に攻撃を仕掛けようとしている事が。
だが、理解できることもある。唯一見たことのない女が指を村の人間に向けている。アレは【攻撃】だッ!守らなければッ!
そう考えた時、既に体が動いていた。己のスタンドを数体、盾にしたのだ。ハーヴェストは群体型のスタンドだ。数体潰れた位では何ともない。

「何を考えてるだッ!アンタが何なのかは知らないけれど、ココで村の人を攻撃するのは【ルール】違反だどッ!」

村の人間達を守るように女――重ちー自身は知らない事だが、教師のFFである――の前に立ちはだかる。妖怪なのか【能力】を持った人間なのかはたまたスタンド使いなのかは知らないが、【幻想卿】に住んでいる以上は【ルール】
に従わなければならない事ぐらいは知っているはずだ。それでも村の人間を攻撃する、と言うのであれば自分が相手になってやるッ!
そう目で訴えながら油断なく三人を睨みつける。

「重ちー・・・?」

「【重ちー】?じゃあアイツが矢安宮重清か!」

慧音の声に気付いたFFが正面のスタンド使いの名前を知る。名前からして外の人間だろうとは思っていたが、まさかスタンド使いだったとは・・・
しかも先程のFF弾をスタンドで防いで無傷だったところを見ると【群体型】、しかもかなりの数のはずだ。だが、この寺子屋の従業員ではなかったのか・・・?
そこまで考えたところでFFは奇妙な事に気付いた。もしスタンドを発現させているならば自分の目に見えるはずだ。だが、【見えてない】・・・?

「重ちー!何を勘違いしてるか知らないが・・・」

「止まれ妹紅ッ!アイツ、もうスタンドを【ばら撒いてる】ッ!」

重ちーを連れ戻す為に歩み寄ろうとした妹紅を慌てて止める。
妹紅には見えないが、彼女の足に無数の【小さな何か】が張り付いているのがFFには確認できる。【ハーヴェスト】の射程はわからないが恐らく自分のいる場所も【射程内】であるだろう・・・
群体型で長い射程・・・そして複数がかりではあるがFF弾を止めるだけのパワー・・・なんつースタンドだ・・・
だが、FFですら【忘れてしまっていた】。本来、注意すべき【敵】が一体【誰であるか】を。
手を広げ、村の人間達を守ろうとした【重ちー】に振り下ろされようとしている【何か】に気が付いたときは既に遅かった。

ドボォオオ!

という鈍い音がしたかと思うと、まるでスローモーションでも見ているかのようなゆっくりとしたスピードで重ちーが崩れ落ちるのをそこにいる全員が眺めていた・・・

「重ちぃイイイ!?」

真っ先に反応したのは、やはり慧音だった。慧音の持つ能力は【歴史を食べる程度の能力】。重ちーが生きているうちに『重ちーが殴られた』という【歴史】を喰えば、その【歴史】はなかったことにできる!
そう思い飛び出そうとした慧音を止めるものがいた。重ちーを角材で殴った村人である。初めて人に重症を与えたのだろうか、完全に錯乱してしまっている。

「うっ・・・動くんじゃねェエエ!」

「何を言っているッ!?すぐに治療しないと重ちーは助からないんだぞッ!!」

「う・・・うるせェッ!こっこのガキが、み、妙な力持ってンのは知ってるンだッ!そ、それで何を企んでやがるッ!?」

「何も企んでなどいない!頼む!重ちーを助けさせてくれッ!」

「うっうっ動くなつってんだろォがぁ!」

涙を浮かべた慧音の言葉にも耳を貸そうとしない。というより、聞こえていないように見える。
こうしている間にも重ちーがどんどんと衰弱していっている。死んでしまってはいくら慧音やFFであっても生き返らせる事などできない。だが、今無理にでも動けば目の前の男は倒せてもきっと他の村人が重ちーに何らかの危害を加えるだろう・・・
そこまで考えていたFFは不意に隣にいた妹紅の辺りの温度が異常なまでに上がっているのに気が付いた。見ると、妹紅の背中からまるで鳳凰のような炎の翼が広がっている。
FFよりも先に堪忍袋の緒を切らしていた妹紅の怒りが最高潮に達していたのだった。

「勝手な思い込みで・・・手前の勝手な不安で・・・自分を護ろうとしてくれた重ちーに危害を加えておいて・・・言うに事欠いて『何を企んでいる』だァ・・・?ふざけるのも大概にしろよ貴様等・・・」

妹紅の炎はどんどん強くなっていく。炎が爆ぜ、己の体すらも焦がしていく。それでも、妹紅の怒りは収まらない。

「手前等、どうやって読み書きを覚えたんだ?どうやって計算を学んだ!?大妖怪が【ルール】を作るまで誰に護ってもらったッ!?貴様等の親もッ!!その親もッ!!」

炎に怯えたのか、村人達は少しずつ離れていく。その隙にFFと慧音は重ちーを連れ戻す事が出来た。
重症ではあるが、まだ生きてはいる。歴史を喰うには時間がかかるらしいので応急処置として、フー・ファイターズを詰めて治癒を早めておく。だが、万全ではない。
妹紅は重ちーが助け出されたのを確認すると、ゆっくりと村人達に向かって歩んでいく。妹紅が歩いた分だけ村人達は下がっていく。振り出しに戻った形ではあるが、今度は脅すだけで済ますつもりはない。

「そりゃあな。手前等は何の能力もない一般市民だろうよ。妖怪やら妖精やらを恐れる気持ちはわかるし、信じたくねェって気持ちも理解できるさ・・・だがな。人里で暮らしている妖精や妖怪が手前等に何かしたか!?物を盗んだか!?何かを傷つけたか!?人を殺したかッ!?」

妹紅は、人として生きる上で最も大切な事は【信頼】であり、最も忌むべき事は【侮辱】であると思っている。今でこそ不死者となってはいるが、それでも考え方は変わっていない。それは人として大切なことだと思っているから。
だが、目の前の人間達は慧音の彼等に対する【信頼】を【侮辱】した。彼女自身にとって、最も許せない事をしたのだ。

「ここに来た目的もどうでもいい。さっきも聞いた事をもう一度聞く。私達にソイツを向けるって事は【攻撃されるかも知れない】っつー【覚悟】をしてここに来たんだよな?」

背中の炎が膨れ上がる。もうそろそろ限界だ。後は目の前の愚か者共に向けるだけ・・・死ぬ事こそないだろうが、無事ではすまない。恐らく重ちーと同程度の重症を負う事になるだろう。

「やめろ妹紅!重ちーは助かったッ!後は話し合うだけだ!」

FFの言葉にも耳を貸さない。それほどまでに怒り狂っているのか、それとも能力が暴走しているのかこの位置からでは判断できない。
そして、妹紅の炎が膨れ上がった・・・

『彼』が妖怪を憎むようになったのは、ある意味では自業自得の事であった。
『彼』は昔から妖怪の山へしょっちゅう山菜狩りをしに行って生計を立てていた。その事をしてはいけないとは知っていたが、【楽にたくさんの金が取れる】という目先の欲に囚われていた『彼』は気にすら留めていなかった。
結果として妖怪の山の天狗達に見つかってしまい、喰われることこそ逃れたものの足を撃たれ、二度と山に登る事が出来なくなってしまったのだ。
そんな『彼』を、村の人々は同情こそしたが助ける事はしなかった。ある意味では当然とも言える結末に『彼』は納得しなかった。

何故、自分がこんな状態にならなければならないのか・・・決して自分のせいじゃない・・・【たくさんある中から】少しだけ山菜を【貰った】だけだ。別に危害を加えたわけじゃない・・・なのに何故、村の連中は自分と同じ気持ちになってくれないんだ・・・
そうか、誰もが妖怪の事を【恐れている】から【何も言えない】のだ!本当は自分達だって山に行きたいに違いないッ!

当然ながらこの理論は身勝手な【エゴ】であり、【思い込み】に過ぎない。だが、【思い込み】も思い続ければ本人の中では【真実】に成り代わる。
そして、『彼』は待ったのだ。【人間の味方をする妖怪】が【何らかの己を危険に晒すモノ】を持つのを、ただひたすらに。
その結果として、【上白沢慧音】は【矢安宮重清(ハーヴェスト)】という【モノ】を持ってしまった。
『彼』は天狗達に襲われた教訓を生かし、慎重に動いた。【慧音】のそばには【藤原妹紅】がいる。アレは自分達に対して容赦はしないだろう。ならば正面から行くのは得策ではない。
幸い『彼』以外にも妖怪にいい感情を持っていない者は何人もいる。その連中をそそのかし、学校を襲わせたのだ。
当然ながら、襲った連中は無傷では済まないだろう。だが、【寺子屋】は【子供たちだけになる】。

「オレは・・・オレは、【英雄】になるんだッ!この【寺子屋】を壊して・・・妖怪を追い出して・・・ガキ共はッ!尊い【犠牲】になって貰うッ!」



巨大な爆発が起きた!だが、妹紅ではない。もっと【後ろ】だ。FFや慧音よりも。
まさかッ!?

「なんだとォオオオッ!?」

叫んだのは一体誰だったのか。それすらもわからなかった。
【寺子屋】が!【燃えている】ッ!
決して大きいとは言えない校舎から火の手が上がっていた!何故今まで誰も気が付かなかったのかッ!?

「まさか!?お前等かッ!?【お前等のうちの誰か】が寺子屋に火をつけたのかッ!!【子供達もいるというのに】!?」

FFの叫びに村人達は反応する。
だが、FFの予感していたモノとは【全く違った反応】だった。まるで、【騙されていた】とでも言うような。

「何だってッ!?【子供がいる】ってーのはどういうことだッ!?」

「ってーことはウチのガキも中なのか!?」

「【子供達は今日は寺子屋にいない】んじゃあなかったのかよぉ!?」

【子供たちは今日は寺子屋にいない】・・・?妙な言葉が聞こえたが、どうやら【こいつ等の中】で【今この場にいないヤツ】が犯人という事か・・・
FFはそう思ったが、今はそんな事を考えている場合じゃない!今は中にいる早苗や子供達を助け出すのが先だッ!

「妹紅ッ!」

「わかってる!慧音ェ!近くの井戸から水を持ってきてくれッ!手前等も自分のガキが大切なら慧音を手伝えッ!」

呼んだときにはすでに妹紅は走り出していた。矢継ぎ早に叫ぶと、木製の扉を蹴り開け中へと入っていった。FFもそれに続く。
残された慧音は重ちーの様子を見、大丈夫である事を確認すると少し離れた茂みへ重ちーを寝かせる。そして、村人達の正面へ歩いていくと正座の姿勢を取り、頭を下げた。

「重ちーが【ハーヴェスト】を隠していたのは私の指示だ。だから私を殴るなり、追い出すなり好きにしてくれていい。だが今は。今だけは、子供達を助けるのを手伝ってくれ!頼む・・・」

村人達の答えは当然ながら、イエスであった。

自分自身すっかり忘れていたが、水がないと単なる微生物の集まりなんだよな私・・・と、今更ながらにFFは己の存在を再確認していた。
子供たちが怪我をしていた時のために水分を温存しておかなければならないFFは臍を噛みながら妹紅に付いていっていた。妹紅は行く手を塞ぐ障害物を殴り抜け、蹴り壊し、弾幕で破壊しながらロードローラーのように進んでいく。

「FF!さっきまで授業やってたのはどの教室だッ!?」

「一〇八だ!一番奥ッ!」

「面倒臭ェな!」

「慧音に言ってくれ!割り振りしたのはアイツだッ!」

「慧音なら仕方ねェな!」

「何でだ!?」

役に立ててない悔しさを感じ取っているのだろうか、破壊しながら妹紅が話しかけてくる。
彼女自身にとっては当たり前の事だろうが、FFにはそれがたまらなく心地よく感じた。それが彼女の魅力なのだろうか?

「アレか!?一〇八!」

「ブチ割れッ!妹紅ッ!」

「おぉよ!」

FFの言葉に景気良く叫んだ妹紅が思いっきり扉を蹴り飛ばす。そして、怪我人を見つけたらすぐに治せるようにFFが素早く入り込む。
入り込んだFFが見たもの。それは、

「あーうー?やっと来たみたいだね!遅かったじゃないの!」

何だかよくわからない帽子を被った子供が、室内で雨を降らせていた・・・

おかしい。何時まで待ってもガキ共のいる教室まで火が回ってねぇ・・・
隣の窓からは既に火が出ているのに対し、子供たちがいるであろう教室には火どころか煙すら見当たらない。だが、所詮は人間である『彼』に中を確かめる術はない。
寺子屋が燃えて子供達が死ねば、村の連中は【上白沢慧音】を追い出すだろう。真相を知っている連中はきっと【藤原妹紅】によくて半殺し、最悪殺される。死んでいればそれでよし、死んでいなくても始末するのは難しい事じゃあないだろう。
そう考えていたのに、作戦が肝心なところで止まってしまっている。

「どういう・・・事だ・・・?まさか小屋の中にまだ力のある妖怪が隠れてやがったのか・・・?」

「おい!そこのお前ッ!何してるんだ!?」

悩んでいた『彼』の後ろから叫び声がした。
慌てて振り向くと、小柄な猫耳少女が睨みつけていた。橙だ。本来なら小屋の中にいるはずだが・・・

「お前か・・・私の友達を傷つけようとしているヤツは!」

「確か、貴様は化け猫の・・・」

全身の毛を逆立てて今にも飛びかかろうとしている橙。
だが、コイツならば対処法は知っている。水をかけてやれば逃げ出すはずだ。冷静に対処すればいいッ!
そう考え、『彼』は懐の水筒に手を伸ばした。だが、探しても水筒が見当たらない。おかしい。この猫と対峙する事を想定して水は持ってきていたはずなのに!
橙は今にも飛びかかろうとしている。焦ろうとする心を素数を数えて落ち着かせながら、注意深く懐を漁る。だが、出てこない!?

「くそッ!確かに持ってきた筈なんだ!水筒はッ!」

「『水筒』って言うのはコレのことかい?」

不意に上から声がしたと思うと、『彼』の頭に水がかかる。驚いて上を向くと、自分が持っていたはずの水筒を持った変な男が木の枝の上で胡坐を掻いていた。
アイツは確か、ウィル・A・ツェペリ・・・センドーとか言うよくわからない健康法を教えてる男・・・

「健康法とは失礼な。仙道は呼吸法だよ。」

「まぁまぁ。波紋なんて最近の人間が知ってるわけないじゃあないの。」

憮然とした顔で言うツェペリに【『彼』自身の真後ろ】から声をかける者がいる。
慌てて振り向くと、真紅の服に身を包み、円状のしめ縄を背中に担いだ女性が妖艶な笑みを浮かべていた。

「さて、人間よ。面食らっているようだから名乗ろうか。我が名は八坂神奈子。妖怪の山の神兼博霊神社のピンチヒッターを勤めている。ま、お前達の一部は私を邪神と呼んでいるようだが・・・」

八坂神奈子!?妖怪の山の神!?何故そんなものがこんな所にいるッ!?理解不能!理解不能!

「私が呼んだのだよ。全く、早苗ちゃんには感謝しないとな。まさか【携帯電話】がこんな所で役に立つとは・・・」

完全に我を忘れている『彼』に親切に説明してやるツェペリ。その言葉も聞こえているのか聞こえていないのか・・・

「さて、橙ちゃんの親も来たようだな。慧音にいらぬ疑いをかけられぬ様に私は橙ちゃんと説明しに彼女のところへ行くかな。橙ちゃん?」

「あ!ハイ!ツェペリさん!」

『彼』と同じように突然の出来事にポカンとしていた橙はツェペリの言葉に我に帰る。確かに耳を澄ますと遠くから「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」と言う敬愛すべき主の叫び声(鳴き声?)が聞こえてくる。
あの様子だと、放っておけばそこら辺の生き物全てを殺しかねない勢いだ。自分が行かないといけないようだ。橙とツェペリは掻き消えるように茂みへと姿を消した。

「あの妖狐にも困ったものだ。あの子もそろそろ自立して己の式を見つけてもいい頃だろうに・・・なぁ?」

二人が去っていった方を眺め、苦笑しながら『彼』に語りかける神奈子。その言葉に『彼』はようやく我を取り戻した。
逃げなければ・・・!逃げなければ、殺されるッ!この邪神に、殺されてしまう!
そう考えて逃げ出そうとするが、足がもつれてうまく逃げる事ができない。しかも【殺される】という恐怖のせいか、昔天狗に撃たれた傷から激痛が走ってくる!

「さて、小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」

凄絶な笑みを浮かべた神奈子の顔を最後に『彼』の意識はプッツリと途絶えた・・・

三日後。
何でも、FFと妹紅、慧音が出て行った後に妙に嫌な予感がしたのだそうだ。だからよく連絡がつかないからと携帯電話を持たせたツェペリに電話し、自分の山の神二人を呼んで貰った、と言うのがこの馬鹿馬鹿しい結末の理由なんだそうだ。

「なんつーか・・・私怪我し損って感じがするんだが・・・」

「あぁ・・・何か下らない三文芝居を見せられたみてぇだよ・・・」

自慢げに豊満な胸を張って「私、すごいでしょ?」と全身で語っている早苗を見て、げんなりと妹紅とFFが言う。言葉と裏腹に怪我などどこにもない。本来の再生力に加え、結局使うことのなかった治療用のフー・ファイターズで治癒力を強化しておいたためだ。
後で知った事だが、早苗の能力が【奇跡を起こす程度の能力】であり、今回はその能力がフル活用された結果がコレなのだそうだ。

またこの事件の真相は、村人達がある一人の男に「重ちーの能力を使って慧音が村を妖怪で溢れさせようとしている」と、言われ不安になっていたところに「今日は生徒がいないから今の内に寺子屋を焼いてしまえば慧音は何も出来なくなる」とそそのかされ、こんな事をしたのだそうだ。
FF個人としてはたった一人の男の言葉に踊らされるなど許せない事であったが、慧音が前に言った【人間が信仰すべき神様が存在しない】という言葉と慧音自身の希望もあって彼等全員は【壊れた校舎を建て直す】という償いのみで許すこととなった。
余談であるが、その首謀者は妖怪の山の近くで首を吊って発見されたらしい。彼自身に妻子はなく、遺体は村の共同墓地に運ばれる事となった。

「これも人間ってーヤツなのかねぇ・・・」

「残念ながら、な。」

FFの呟きに答えたのは他でもない慧音だった。
慧音の後ろでは、毎度の如くツェペリが子供達に仙道を教えている。その中に、無事【怪我をした歴史】を喰われ、元気を取り戻した重ちーも混ざっていた。

「人って言うのは皆、【不安】を抱いてる。だから【信じられる何か】を探すんだ。」

「それが、【信仰】ってヤツだ、と?」

「あぁ。だから自分の事を正そうとする。【確かな言葉】を求めるんだ。人っていうのはそんな儚い存在であるからこそ【信仰】を求めるんだろうな。」

慧音が眺めた先では、男達が神奈子の指示でオンバシラを運んでいる。
どうもついでとばかりに人里に分社を立てる気であるらしい。まぁ信仰ができるのはいい事であるし、慧音自身もそれを望んでいるので問題はないのだが。

「なぁ、慧音。」

ふと、思いついてFFは聞いた。我ながら意地悪な問いだなとは思ったが、是非聞いておきたい事でもあった。

「もし、だ。もし、今回の事のような事が起こったらどうするつもりだ?信仰すら信じられず、確かな言葉も得られないヤツが今回のような事を再び起こしたら・・・」

「私自身が身を引いてどうにかなる問題なら、私は躊躇いなく身を引くだろう。だが、それによって今回のように怪我人をだすようなら・・・」

慧音の目が、一瞬深い紅に染まった・・・ような気がした・・・

「私は戦うだろう。私自身が正しいと思える道を進むために。私のせいで傷つく人を増やさないために、私は人を傷つける。」

そう宣言する慧音の目は凛々しくも、とても悲しそうに見えていた。


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