クラフト・ワークは動かせない
第五話「鬼ごっこの終わり」
「なんでだ…何でこうなっちまったんだ…ッ」
「それはあなたが負けたからよ」
紅魔館の大広間で話すサーレーとレミリア。
「なにか文句があるのかしら?敗者に口なしよ。紅茶を淹れる程度の事なのにしたくないの?」
「そこじゃあねえ。…いや、したくねえが、オレが言いたいのは服の事だぜ」
サーレーはひどくキレながらカップに紅茶を淹れている。
レミリアはひどくニヤリとして言った。
「私の元で働くのだから、衣装もしっかりしてもらわないと…いけないでしょう?」
「だからって……オレに……オレにメイド服着せんなあああぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!」
紅魔館にメイドサーレーの怒号が響く。
こんなことになってしまったのは、つい2時間ほど前に原因があった。
―――――――――――紅魔館:廊下――――――――――――
「こんなことが…あってはならないッ!」
「どうした?ショックなのか?意外と繊細じゃあねーか」
狼狽し顔を歪ませる咲夜と余裕綽々のサーレー。
「あ、ありえないわ!なぜ…私の世界で動けるの!?」
この二人は今戦闘のため動いている。
否、二人だけしか動いていない。
窓のない廊下の唯一の明かりである、壁に設置されたランプの炎が止まっている。
そこらじゅうに散乱したナイフも宙に止まっている。
しかし、実際は動いているべき人間は咲夜だけなのだ。
なぜなら、ここは咲夜の世界…時の止まった世界なのだから。
「だからさっきも言ったろ…『クラフト・ワーク・ザ・ワールド』だ」
「それだけで納得できるわけ無いでしょう!」
明らかに咲夜は劣勢、状況的にも、精神的にも。
「納得する必要はねーな。そっちから来ねーんならこっちから行くぜ!」
「くっ!」
サーレーは咲夜に突進を仕掛けた。この状況では、それが一番有効なのである。
普段の戦闘では時間停止と投げナイフによる幻惑するような戦闘方法をとる咲夜。
今はどちらも使えない。走って逃げるのがベストだが、元ギャングに勝てるわけがない。
多少近接格闘の心得もあるとはいえ、メイドがギャングに勝てるとは思えない。
しかし、『サバイバー』によって好戦的に、キレて冷静さを失った咲夜に、その考えは出なかったようだ。
「(何故か今私にはサーレーの弱い所も、スタンドも見える!避けてナイフで一突きよ!)」
咲夜は突進してくるサーレーの「心臓」を狙おうと、低く構える。そして…
「もらったわ!」
サーレーが止まった時の中で動ける事も、咲夜のナイフを遠隔で止めたことも気に留めず…
サーレーの心臓(のあった所)めがけて突進した。
そして次の瞬間、咲夜は動かなくなった。
辺りに浮いていたナイフは重力に従い落下して、ランプも揺らめきを見せる。サーレーの付近を除いては。
「…3mだ」
サーレーは呆れたように言う。
「3m以内に入ってきたお前の負けだ
………そして時は動きだす」
その瞬間、サーレーの付近3m程度のナイフもランプの炎も本来の動きを取り戻した。
床には気絶した咲夜が転がっている。
その顔は、先程までの凶悪犯のような恐ろしい顔ではなく、完璧で瀟洒なメイドの凛々しい顔だった。
「ったく、何だったんだ?さっきとはまるで顔つきが違うじゃあねーか…やっぱりなんかのスタンド攻撃を受けてたのかもな…」
オレのスタンドも見えてたしな、と呟いて逃げようとした時、サーレーは空気の流れを感じる。
風が吹いているのか、と思考したが違った。自分がとてつもない勢いで動いている。
そしていつの間にか壁に叩きつけられ、服に刺さるグングニルによって、壁に縫い付けられていた。
「ぐ…ぐげぇっ…な、なんだ?何が起こったんだ?」
グングニルを投げられる者など、一人しかいない。
「グングニルを同時に投擲してあなたに当たらないように気をつけながら壁に縫い付けたまでよ…サーレー」
そこには胸部をサーレーに吹っ飛ばされたはずのレミリアが立っていた。
「あなたの能力は、よく聞いてなかったけど…固定して返す…といったところじゃないかしら。それで咲夜を倒すなんて、やるわね」
流石に私の体を吹っ飛ばしただけあるわ、と皮肉っぽく拍手する。
「別に、固定して返す、だけじゃあねーけどな」
そう言って『クラフト・ワーク』でグングニルを破壊しようと試みるも…硬い。
「スタンドって奴で壊そうとしてるのね無理よ。伊達に吸血鬼やってないわ。それに、これで私たちの勝ちね。」
「………………は?」
サーレーは思わず間の抜けた声を出してしまった。
「何言ってんだ?ボコボコにしなきゃなんねーんじゃあねーのかよ」
「あら?そんな事言ってはいないわ。『動けなくなったら』負けと言ったのよ。あなたは今立派に動けないわ」
それに、と続ける。
「咲夜と戦ったのなら、時を止められたはず。その時にもあなたは動けなかった。その時に勝負は決まっていたのよ」
「んなアホな…」
もう呆れるしかない。
「鬼ごっこ、ゲームセットね。さあサーレー…死力を尽くして、私に尽くしてもらうわよ」
『リアル鬼ごっこ』:終了
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――
そして、2時間後の今に至る。
「何でメイド服なんだッ!せっかくのオレの髪がッ!ストレートになっちまったじゃあねーかぁぁ…」
蟹のような髪は自分でセットしていたようだ。その髪をストレートにしてメイド服を着たサーレー。需要あるのだろうか。
「異論は認めないわ、と言いたいところだけど…ちょっと…いやかなり気持ち悪いわね。執事服にしてらっしゃい」
「オレは着せ替え人形か?それとも奴隷か?」
もう泣きそうなくらいの顔で聞く。
「大丈夫、これからは執事よ。奴隷より大変かもしれないけれど」
「ジョルノより扱いが雑だぜ…」
咲夜は記憶が欠落しており、フランとパチュリーもなら仕方ないと割り切った。
どうやらもうスタンドも見えてはいないらしい。
一応誰にも怪我は残っていない、結果的にはサーレーが住み込みで働くこととなっただけだ。
咲夜がショックを受けるかも知れないので、暴走は黙っておくよう打ち合わせた。
レミリアの部屋に置きっぱなしの『サバイバー』入り水は、レミリアが「何コレ」と言って捨ててしまった。
サーレーただ一人が損して終了。よーく考えればハーレム状態と言えなくもない。
10分後、咲夜の手によりオールバックで執事服を着た姿で再登場したサーレーは、以外と似合っていたためこれで固定となった。
しかし鬼ごっこが終わっても、サーレーの、幻想郷での物語は、始まったばかりだった。
―――――――――――白玉楼:縁側――――――――――――
…ここは白玉楼。霊魂の集う世界。
そこの縁側に和装の似合わない男と和装の似合う女が座っていた。
「ねえ、あなたはどう思う?」
「何をだね」
男は目の下に模様のある外人、女は純和製の美人だ。
「魂についてよ。死についてでもいいわ。なぜ私たちはそんなものを操ってしまえるのか…考えた事はない?」
「わたしが扱えるのは魂のみだ。そして考えたこともない。仕方ない事だからな」
そう、とうなずいて、和装の女は団子を食べながら、男に酒を勧めた。
「日本酒は苦手なのだが…団子は頂こうか、幽々子」
「あら、そうなのー?冬の花見なのだから飲まないと損よ、ダービー」
仕方ないとでも言いたそうな顔で杯を持った。
「損は困るな、では頂こうか」
幻想郷の各地で、物語は進行していた。
解説
『クラフト・ワーク・ザ・ワールド』
『クラフト・ワーク』の固定能力の範囲を広げた「範囲空間固定」。射程3m程。持久力E(1分続けば良い方)。連発不可。
使うとその後しばらく固定が使えない諸刃の剣。
咲夜が時を操ることにより空間にも影響を及ぼすのと同じで、周りの空間を固定することで時の概念も停止させる。
空間固定>時間停止なので、たとえ停止した時の中を動ける人物がいても、空間に固定されたものを動かすことはできない。
一旦固定したものは、10m程度ならそのまま。これは通常の『クラフト・ワーク』にも言える。
3m以内に停止した時間の中で動ける者が完全に入ると、生命活動が全停止するが時は動いているので気絶する。それ以外は普通に止まる。
3mの範囲でなら固定は解除自由なので、他人が動くことも可能(固定の解除=時間停止の解除)。
3mの範囲は時間停止も無視できる無敵の防護壁だが、スタンド効果が切れてしまえば時の停止を知覚できるだけ。
停止した時間の中では、こちらからの飛び道具なども3mで止まってしまう。
要するに射程距離と持久力に(咲夜に比べたら)難アリだが、『止まった時の中で時を止められる』スタンド能力といえる。
第五話「鬼ごっこの終わり」
「なんでだ…何でこうなっちまったんだ…ッ」
「それはあなたが負けたからよ」
紅魔館の大広間で話すサーレーとレミリア。
「なにか文句があるのかしら?敗者に口なしよ。紅茶を淹れる程度の事なのにしたくないの?」
「そこじゃあねえ。…いや、したくねえが、オレが言いたいのは服の事だぜ」
サーレーはひどくキレながらカップに紅茶を淹れている。
レミリアはひどくニヤリとして言った。
「私の元で働くのだから、衣装もしっかりしてもらわないと…いけないでしょう?」
「だからって……オレに……オレにメイド服着せんなあああぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!」
紅魔館にメイドサーレーの怒号が響く。
こんなことになってしまったのは、つい2時間ほど前に原因があった。
―――――――――――紅魔館:廊下――――――――――――
「こんなことが…あってはならないッ!」
「どうした?ショックなのか?意外と繊細じゃあねーか」
狼狽し顔を歪ませる咲夜と余裕綽々のサーレー。
「あ、ありえないわ!なぜ…私の世界で動けるの!?」
この二人は今戦闘のため動いている。
否、二人だけしか動いていない。
窓のない廊下の唯一の明かりである、壁に設置されたランプの炎が止まっている。
そこらじゅうに散乱したナイフも宙に止まっている。
しかし、実際は動いているべき人間は咲夜だけなのだ。
なぜなら、ここは咲夜の世界…時の止まった世界なのだから。
「だからさっきも言ったろ…『クラフト・ワーク・ザ・ワールド』だ」
「それだけで納得できるわけ無いでしょう!」
明らかに咲夜は劣勢、状況的にも、精神的にも。
「納得する必要はねーな。そっちから来ねーんならこっちから行くぜ!」
「くっ!」
サーレーは咲夜に突進を仕掛けた。この状況では、それが一番有効なのである。
普段の戦闘では時間停止と投げナイフによる幻惑するような戦闘方法をとる咲夜。
今はどちらも使えない。走って逃げるのがベストだが、元ギャングに勝てるわけがない。
多少近接格闘の心得もあるとはいえ、メイドがギャングに勝てるとは思えない。
しかし、『サバイバー』によって好戦的に、キレて冷静さを失った咲夜に、その考えは出なかったようだ。
「(何故か今私にはサーレーの弱い所も、スタンドも見える!避けてナイフで一突きよ!)」
咲夜は突進してくるサーレーの「心臓」を狙おうと、低く構える。そして…
「もらったわ!」
サーレーが止まった時の中で動ける事も、咲夜のナイフを遠隔で止めたことも気に留めず…
サーレーの心臓(のあった所)めがけて突進した。
そして次の瞬間、咲夜は動かなくなった。
辺りに浮いていたナイフは重力に従い落下して、ランプも揺らめきを見せる。サーレーの付近を除いては。
「…3mだ」
サーレーは呆れたように言う。
「3m以内に入ってきたお前の負けだ
………そして時は動きだす」
その瞬間、サーレーの付近3m程度のナイフもランプの炎も本来の動きを取り戻した。
床には気絶した咲夜が転がっている。
その顔は、先程までの凶悪犯のような恐ろしい顔ではなく、完璧で瀟洒なメイドの凛々しい顔だった。
「ったく、何だったんだ?さっきとはまるで顔つきが違うじゃあねーか…やっぱりなんかのスタンド攻撃を受けてたのかもな…」
オレのスタンドも見えてたしな、と呟いて逃げようとした時、サーレーは空気の流れを感じる。
風が吹いているのか、と思考したが違った。自分がとてつもない勢いで動いている。
そしていつの間にか壁に叩きつけられ、服に刺さるグングニルによって、壁に縫い付けられていた。
「ぐ…ぐげぇっ…な、なんだ?何が起こったんだ?」
グングニルを投げられる者など、一人しかいない。
「グングニルを同時に投擲してあなたに当たらないように気をつけながら壁に縫い付けたまでよ…サーレー」
そこには胸部をサーレーに吹っ飛ばされたはずのレミリアが立っていた。
「あなたの能力は、よく聞いてなかったけど…固定して返す…といったところじゃないかしら。それで咲夜を倒すなんて、やるわね」
流石に私の体を吹っ飛ばしただけあるわ、と皮肉っぽく拍手する。
「別に、固定して返す、だけじゃあねーけどな」
そう言って『クラフト・ワーク』でグングニルを破壊しようと試みるも…硬い。
「スタンドって奴で壊そうとしてるのね無理よ。伊達に吸血鬼やってないわ。それに、これで私たちの勝ちね。」
「………………は?」
サーレーは思わず間の抜けた声を出してしまった。
「何言ってんだ?ボコボコにしなきゃなんねーんじゃあねーのかよ」
「あら?そんな事言ってはいないわ。『動けなくなったら』負けと言ったのよ。あなたは今立派に動けないわ」
それに、と続ける。
「咲夜と戦ったのなら、時を止められたはず。その時にもあなたは動けなかった。その時に勝負は決まっていたのよ」
「んなアホな…」
もう呆れるしかない。
「鬼ごっこ、ゲームセットね。さあサーレー…死力を尽くして、私に尽くしてもらうわよ」
『リアル鬼ごっこ』:終了
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――
そして、2時間後の今に至る。
「何でメイド服なんだッ!せっかくのオレの髪がッ!ストレートになっちまったじゃあねーかぁぁ…」
蟹のような髪は自分でセットしていたようだ。その髪をストレートにしてメイド服を着たサーレー。需要あるのだろうか。
「異論は認めないわ、と言いたいところだけど…ちょっと…いやかなり気持ち悪いわね。執事服にしてらっしゃい」
「オレは着せ替え人形か?それとも奴隷か?」
もう泣きそうなくらいの顔で聞く。
「大丈夫、これからは執事よ。奴隷より大変かもしれないけれど」
「ジョルノより扱いが雑だぜ…」
咲夜は記憶が欠落しており、フランとパチュリーもなら仕方ないと割り切った。
どうやらもうスタンドも見えてはいないらしい。
一応誰にも怪我は残っていない、結果的にはサーレーが住み込みで働くこととなっただけだ。
咲夜がショックを受けるかも知れないので、暴走は黙っておくよう打ち合わせた。
レミリアの部屋に置きっぱなしの『サバイバー』入り水は、レミリアが「何コレ」と言って捨ててしまった。
サーレーただ一人が損して終了。よーく考えればハーレム状態と言えなくもない。
10分後、咲夜の手によりオールバックで執事服を着た姿で再登場したサーレーは、以外と似合っていたためこれで固定となった。
しかし鬼ごっこが終わっても、サーレーの、幻想郷での物語は、始まったばかりだった。
―――――――――――白玉楼:縁側――――――――――――
…ここは白玉楼。霊魂の集う世界。
そこの縁側に和装の似合わない男と和装の似合う女が座っていた。
「ねえ、あなたはどう思う?」
「何をだね」
男は目の下に模様のある外人、女は純和製の美人だ。
「魂についてよ。死についてでもいいわ。なぜ私たちはそんなものを操ってしまえるのか…考えた事はない?」
「わたしが扱えるのは魂のみだ。そして考えたこともない。仕方ない事だからな」
そう、とうなずいて、和装の女は団子を食べながら、男に酒を勧めた。
「日本酒は苦手なのだが…団子は頂こうか、幽々子」
「あら、そうなのー?冬の花見なのだから飲まないと損よ、ダービー」
仕方ないとでも言いたそうな顔で杯を持った。
「損は困るな、では頂こうか」
幻想郷の各地で、物語は進行していた。
解説
『クラフト・ワーク・ザ・ワールド』
『クラフト・ワーク』の固定能力の範囲を広げた「範囲空間固定」。射程3m程。持久力E(1分続けば良い方)。連発不可。
使うとその後しばらく固定が使えない諸刃の剣。
咲夜が時を操ることにより空間にも影響を及ぼすのと同じで、周りの空間を固定することで時の概念も停止させる。
空間固定>時間停止なので、たとえ停止した時の中を動ける人物がいても、空間に固定されたものを動かすことはできない。
一旦固定したものは、10m程度ならそのまま。これは通常の『クラフト・ワーク』にも言える。
3m以内に停止した時間の中で動ける者が完全に入ると、生命活動が全停止するが時は動いているので気絶する。それ以外は普通に止まる。
3mの範囲でなら固定は解除自由なので、他人が動くことも可能(固定の解除=時間停止の解除)。
3mの範囲は時間停止も無視できる無敵の防護壁だが、スタンド効果が切れてしまえば時の停止を知覚できるだけ。
停止した時間の中では、こちらからの飛び道具なども3mで止まってしまう。
要するに射程距離と持久力に(咲夜に比べたら)難アリだが、『止まった時の中で時を止められる』スタンド能力といえる。