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奇妙杜王道 1

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奇妙杜王道


「メリー…メリー!」

騒がしい声でメリー――マエリベリー・ハーンは目を覚ました。
左を見ると見事な海景色、右には通路と座席を挟んで綺麗な山の景色。そして正面には。

「ちょっとメリー…寝るのはいいけど私が喋ってる最中に寝ないでくれるかな…?」

呆れた様な口調の自分の相棒――宇佐見蓮子。そこまで見渡してようやく自分が列車の中にいることを思い出す。
そうだった。自分達は秘封倶楽部の活動で出かけている所なのだった。行先はM県S市のとある町。何でも不思議が詰まった不思議な町なのだとか。

「でも眠くなって当然だと思うわ蓮子。私たち何時間列車に乗ってるのよ…」

口を尖らせて抗議するメリー。彼女たちが普段使っているヒロシゲは東京でしか止まらないため、東京で乗り換えての移動である。
しかし悲しいかな、貧乏大学生である彼女たちは東京からは普通の列車に乗って移動しているのだった。
結果、京都―東京間よりも短い距離であるはずの東京―S県間は数時間かけての旅となってしまっている。
移動費をケチったツケは時間という形で払わされている事になる。

「だから寝るのはいいっていってるでしょ。けど、私が喋ってる最中は止めてほしいなぁ…気付かずに喋ってた私が馬鹿みたいじゃない。」
「気付かずに喋ってた事は多分私のせいじゃないと思うわ…ふぁあぁ…」

大きなあくびをするメリー。どうやら眠り始めてからそんなに時間は経っていないようだ。さっきまで蓮子と何を話していたっけ…確か、これから行く町の話だ。
M県S市の…何て町だったかしら?

「杜王町よ杜王町。もぅ、まだ寝惚けてるの?」
「あ、そうそうその杜王町。で、何が不思議なんだっけ…?」
「やっぱりまだ寝惚けてるねメリー?それを説明しようとしたら寝ちゃうんだから!」

一通り抗議した後、ひとつ溜息をつき説明する蓮子。なんだかんだでこの子は優しい。こういうところが好きなのだ、私は。

「褒めたって何もでないよ?で、杜王町の話だけど。」

蓮子が話した杜王町という町はまとめるとこんな感じの町だった。
人口は約5万人。S市の中心から少し外れた大規模なニュータウン。町の花はフクジュソウで、特産品は牛タンのみそづけ。
そこまでなら普通にどこにでもある町なのだろうけれど、この町は10年ほど前に、住人が次々と行方不明になる事件が起こり、全国的に有名となった。
しばらくは行方不明者全国一位という不名誉な称号を持っていたのだが、最近その名前を返上したらしい。

「ってそれ不思議っていうよりもホラーじゃないの。私、その行方不明者のリストに入るのは嫌よ?」
「そうそう事件に巻き込まれるような事はないと思うよ?それに何かあっても私たちが【場所を見失う】ってことはまずないでしょ?」
悪戯っぽく笑う蓮子。彼女は【星を見ただけで今の時間がわかり、月を見ただけで今いる場所がわかる】特技を持っている。
つまり、屋外にいる限り彼女たちが迷うことはまずない、ということだ。

「そりゃあそうでしょうけど…でもその神隠しが不思議なの?」

行方不明者、だと怖いのであえて【神隠し】と表現するメリー。単に気分の問題だ。神隠し、の方が被害にあう確率が下がる…気がする。

「そんな訳ないじゃない。不思議なのは町の中にあるオブジェとか噂話よ。」
「オブジェ?」
「そ。誰がいつ作ったのかわからない大きな岩でしょ、生きた本に当たったら跳ね返る岩…あと鉄塔に十何年も住んでる男の人とか。」
「なにそれこわい。」

やっぱりホラーじゃないか。しかも不気味、とか世にも奇妙な、とかそういう枕詞が前につきそうなレベルの。
私たちが探している不思議は決してホラータイプの不思議ではないはずだ。ならばどんな不思議がいいのかといわれると返答に困るが。
メリーはどちらかといえば、SFチックな不思議の方が好きなのだ。

「ちなみにメリー。そのSFチックってどんな不思議よ?」
「(S)すこし(F)ふしぎ。」
「それ藤子不二雄の短編集じゃないの…」

本当に同い年なのかしらメリーって…と呟く蓮子。しかしメリーは知っている。彼女が藤子不二雄のファンでグッズもこっそり集めていることを。
まぁなんだかんだで似た者同士なのだろう、自分たちは。現に自分もそのホラー混じりのオブジェや噂話に惹かれつつあるのだし。
妖怪、幽霊、怪談、都市伝説。名称こそ違うものの、こういった存在が有り続ける場所というのはとかく何らかの形で不思議が残り続ける場所であるということだ。
現実と虚構の【境界】が曖昧な世界にメリーは惹かれる。蓮子も【そう】だろうと思う。
大学のある京都、蓮子の実家である東京、そしてこれから向かう杜王町。そこには【リアル】だけでは語れない【何か】が存在する。
それを探すのがメリーと蓮子であり、秘封倶楽部の活動なのだ。

「それで、話を戻すけどそのホラースポットは杜王町のどのあたりにあるの?」
「杜王町中にあるみたいよ?かなりバラけてるみたい。」
「まさか一日で回るんじゃあないでしょうね…?」
「それこそまさか、よ。駅前にあるホテルで安く泊まれるみたいだから1泊2日で回るわよ。」
「それはそれで無茶なような気がするわ蓮子…」

私たち車運転できないのよ?と、呆れる蓮子。この友人は時計いらずの特技を持っている癖に時間や予定にルーズな性格をしている。
彼女が建てる計画に沿って物事が進んだことはただの一度もない。毎度のことながら絶対どっかで狂いが生じるなぁ…と自分の頭の中の手帳にチェックを入れるメリーだった。
きっと1日か2日は延長するだろう、と。

『次は~、杜王町駅~杜王町駅~、お降りの方はお忘れ物のないよう~…』

どうやらやっと着いたらしい。
蓮子とメリーはそれぞれの鞄とゴミ袋を引っ掴むとそれぞれの席で食べ散らかしたお菓子を仕舞い込み、列車の出口へと足を運ぶのだった。

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