氷柱と弾幕が激しくぶつかり合う。
相手は氷柱を回避しつつ弾幕を撃ち、ディアボロは氷柱にぶつからずにこちらにきた弾幕をホワイトスネイクに防御させる。
激しい打ち合いが続くが、ディアボロは高熱を出している。
首筋を冷やすことで強引に抑え込んでいるが、このまま拗らせるとどんな症状が起こるかわからない。
「(確かこの高熱の原因は感染症の類だったはずだ。原因となる菌だけを殺せばまともに闘える)」
ディアボロはメタリカで相手に迫る様に天井から壁を出現させる。
それを見た相手は、壁から逃れるために距離を取りだす。
さらにディアボロに最も近い壁が地面の近くまでせりだしてシャッター代わりになる。
そしてすぐにホワイトスネイクにDISCを作らせて挿入する。
ディアボロが危惧したのは、『高熱』よりも『拗(こじ)らせた場合に起こる症状』。
『退治しても治らない』可能性があるなら、早めに治療したほうが圧倒的にマシである。
「(こいつが別の症状を引き起こすことができなければこれで大丈夫だな)」
ホワイトスネイクのDISCを取り出し、代わりにストレイ・キャットのDISCを装備する。
その後一斉に壁を地中に戻し、ストレイ・キャットで空気を壁代わりに形成して相手への接近を試みる。
それを見た相手は弾幕を撃つが、その全てが空気に阻まれる。
この空気の壁、打撃にはかなり強い。キラークイーンの踏みつけやクレイジー・ダイヤモンドのラッシュを容易に凌げる耐久力がある。
だがそのかわりに斬撃には弱い。仗助がクレイジー・ダイヤモンドを使って水圧カッターのように飛ばした血で切断された前例がある。
キラークイーンも一緒に使えば空気弾を爆弾化できるが、こんな縦に狭いところで使ったら何が起こるかわからない為、今回は使われないだろう。
「……え?」
相手は空気の壁に邪魔されて弾幕が全然ディアボロに当たらないのを目撃するが、今まで見たこともない出来事にしばし呆然としてしまう。
この空気の壁、一見すると壁のある場所が『ただ歪んでいるだけ』にしか見えないため、なおさら理解するのが困難だ。
そしてその隙をついて、ディアボロは空気弾を撃つために狙いを定める。
たかが空気の塊と侮ってはいけない。
人間の女性の右足の爪を引きちぎり、上半身に当たってしまえば血を流して失神させてしまうぐらいの破壊力はある。
狙いを定めたディアボロは、空気弾を壁の向こうから次々と発射する。
『何か撃ってきた』のが分かった相手も弾幕を撃つが、先ほどの氷柱と違って弾幕にぶつかっても簡単は撃墜できない。銃弾のように『抉る』攻撃ではないからだ。
衝撃で軌道を逸らすぐらいはできるだろうが、空気弾そのものを破壊することができない。
更に空気の壁が弾幕を防ぐため、仮に弾幕が空気弾に当たらずにディアボロのほうに向かったとしても、空気の壁に防がれてディアボロがダメージを受けることがない。
つまり……この勝負、相手が弾幕を撃ち続けている限り、相手に一切の勝ち目はないのだ。
相手もそれに気づいたのだろうか。弾幕を撃つのをやめ、ディアボロに接近してくる。
接近戦はディアボロも望むところなので、あえて遠ざけようとはしない。
「こい」
ディアボロはただその言葉だけを発すると、再び空気弾の狙いを定める。
その間に相手の蹴りが空気の壁に命中したのはいいが、その程度では空気の壁を破ることはできない。
それを理解した相手は空気の壁を蹴って、再び天井の近くに戻る。
ディアボロは再び空気弾を発射する。しかし、相手は天井を蹴ってディアボロに接近しつつ(ディアボロから見て)左に移動して空気弾を避ける。
ディアボロが二発目の空気弾の発射体勢に入った瞬間、相手はディアボロめがけてとびかかり、なんと空気の壁に噛みついたのだ。
流石にそれはディアボロにとっては予想外だったが、取り乱すことなく狙いを定める。
しかし、空気の壁は噛み千切られたことにより穴の開いたタイヤのように空気が抜けて萎んでいく。
相手は空気の壁から離れて天井に戻ろうとするが、その瞬間にディアボロが相手めがけて接近してくる。
いや、正確には『何かに引き寄せられているかのように』相手に接近している。しかも空気弾をいつでも発射できる態勢に入っている。
それを見た相手は後ろに下がるが、ディアボロは軌道を変えて相手への接近を続ける。
明らかにおかしい。今のディアボロはジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを装備していないし、仮に装備していたとしても、こんな飛び方はしない。
メタリカで自分を相手に引き寄せていると考えるのが自然だろう。
相手は後ろに下がりながら弾幕を撃つことで離れさせようとするが、その瞬間背中に何か当たったのが感触でわかった。
咄嗟に横に移動しようととするが、左右を空気の壁でふさがれて回避できない。
この状態からして、相手の背中に当たったのも空気の壁だろう。
そのまま(弾幕をくらいながら)距離を詰めながら狙いを定め、腕を伸ばせば相手をつかめるぐらいの距離になった瞬間、空気弾を発射する。
回避と防御が不可能の状態に加え、(あるのかどうかは不明だが)距離による威力の減少は一切ない。
その状態で空気弾をくらったのだから、吐血こそしなかったものの相手はかなり怯んでしまう。
ディアボロはストレイ・キャットの能力を解除してマジシャンズ・レッドを出し、相手は咄嗟に距離を取る。
「……」
ディアボロは無言で相手をにらみ続けながら、装備しているDISCを変える。
マジシャンズ・レッドから…スケアリーモンスターズへと。
そして、迷うことなくスケアリーモンスターズのスタンド能力を発動させる。
スケアリーモンスターズのスタンド能力によって、ディアボロの爪は伸びると同時に鋭利になり、身体能力が向上する。
「……」
顔にヒビが入り、口がある程度裂け、歯は鋭い牙のようになり、爪が伸びて鋭利になっている。
「……」
その『異様』という言葉が似合う姿を見て相手は絶句していた。
初めて会ったときに自分を『人間』だと言っていた男の肉体が、『いきなり変化した』のだから驚くのも当然であろう。
「……えーっと……」
どうすればいいのかわからないらしく、戸惑っている。
だが、ディアボロが無言でこちらめがけて走ってきたのを見て応戦せざるをえなくなる。
ディアボロが右手を相手に突き出す。右手の爪で相手を刺すつもりだ。
相手は咄嗟に(相手から見て)右に回避してディアボロの側面に回り込んで蹴りを入れようとするが、空気の壁で妨害される。
更にディアボロは右手の爪で左上方向へと引っ掻き、相手は咄嗟に後ろにジャンプして回避する。
ディアボロも相手に飛びかかって左手の爪を右下の方向に振り下ろすが、相手はまた後ろにジャンプして避ける。
しかし、ディアボロは相手に走って接近しながら連続で左右の手を交互に相手に突き出す。
普通ならまったく意味のない行為だが、スケアリーモンスターズの能力で手の爪が鋭利になっている今、例えるなら両手に短い刃物を持って刺そうとしているようなもの。
しかも身体能力が強化されているせいで、左右の手を交互に突き出すスピードも上がっている。
「(さっきと闘い方がまったく違う…!)」
相手はひたすら後ろに下がって回避するが、その途中でディアボロが仕掛けた空気の壁に背中がぶつかって下がれなくなってしまう。
そこにディアボロの右足による回し蹴りが襲い掛かるが、相手はディアボロの右足を掴んで踏ん張る。
だがディアボロは氷の槍を作って右手で持ち、自分の右足を掴んでいる相手の右腕の付け根に狙いを定める。
相手が慌てて手を放した瞬間、ディアボロは左足だけでジャンプして氷の槍を投擲した。
それを相手は(相手から見て)左に小さくジャンプして回避すると、弾幕を撃ちながら浮遊して距離を取る。
ディアボロは空気の壁で弾幕を防ぎながら、装備しているホルス神とケース内のDISCを入れ替える。
そのまま右手の人差指で相手を指さすが、それがまるで相手を狙っているようにも見えなくない。
……次の瞬間、人差指の爪が指から剥がれて円盤状に変形し、高速回転を始めた。
さらに両手首には小さな星型マーク、手の甲には甲虫の背中と思われるもの、その周囲には4本の小さな骨に類似したスタンド像が姿を現している。
タスク……ジョニィ・ジョースターのスタンド能力で、『悪魔の手のひら』と呼ばれる特殊な場所で自身の左腕に『聖人の左腕』が憑りついたことで発現したスタンドだ。
爪を高速回転させ、それを弾丸のように発射できる。しかも発射した直後に爪は再生するため、弾数は事実上無限である。
最初は爪で対象を切りつけた際に切断する力を伝導させたり爪の遠隔操作ができたが、いつの間にやら爪を発射する能力に変わっていた。
やがてはここからさらに進化を遂げ、Act4と呼称された最終進化形態の状態で撃った爪弾に被弾した場合、『体の細胞一つ一つが回転する』という異常事態を引き起こす。
しかもその後色々あって運悪くAct4の爪弾をくらった女性は、瞬時に粉々になって異次元に消失してしまった。
さらに、空間にできた『光』にある隙間を『こじ開けたり』、『止まった時の中を動こうとしたり』と尋常じゃない進化を遂げている。
だが今のディアボロはAct4の存在を未だ知らないし、『黄金の回転』も彼にはできないため、Act2以上の進化は見込めない。
いつの間にか、右手の人差指だけでなく両手の全ての爪が回転を始めている。
爪の回転に気づいた相手はディアボロが右手の人差指で自分を指さしている理由に気づいて咄嗟に(相手から見て)右に移動する。
その直後、ディアボロは右手の人差指の爪を相手に対して発射した!
放たれた爪弾は空気の壁をたやすく貫通し、相手の脇腹を掠る。
その一撃を受けた相手は、反撃といわんばかりに弾幕を撃ちだす。
いくら爪が鋭利になったといえども、爪弾の威力自体にはあまり変化はないようだ。
だが爪弾も弾数は無限だ。連射しながらどんどん相手に接近していく。
相手も爪弾を弾き落とすために弾幕を撃ち続けるが、少しずつ後退していっている。
ディアボロもタスクの射程距離から出させないために接近していく。
しかし、相手は手から放つ爪弾に気を取られて、あることに気づいていなかった。
そう、この状態のタスク(Act1)は……
足からも撃てる。
両手足の爪の数の合計は20。
つまり、最大で同時に20発も同時に発射できるのだ。
だがそれでは正確に狙えないため、やるとしても片側の手足の爪全てを一度に撃つぐらいだろう。
相手が手から放つ爪弾に気を取られている隙に、ディアボロは足の爪も発射態勢に入らせていた。
右足を見やすいように前に出して、右足の親指をさりげなく相手の左足と直線上になるように位置を調整し、足から爪弾を発射する。
相手はそれに気づけずに左足首に被弾してしまう。
「…ッ!?」
痛みを堪えたものの、その直後に相手が見たのは、両手の爪をタイヤ代わりにして自分に接近してくるディアボロの姿だった。
相手は浮遊することで左足首の損傷による歩行速度の低下を無視できる状態にする。
だがディアボロが相手に接近するスピードは、先ほど走って接近してきた時よりも速い。
更に距離を取ってもタスクで攻撃できるようになったため、もはや遠距離戦も有利とはいえない。
浮遊して距離を取ろうとする相手と、タスクの能力を使って接近するディアボロ。
相手は全速力でディアボロの上を通ってディアボロの背後を取り、ディアボロは両手の爪の回転を止めてスピードを落とす。
だが『徐々にスピードを落とす』のではなく『急に回転を止めた』ため、慣性の法則で前のめりに転んでしまう。
しかし、『前のめりに倒れる』ということは『自分の後ろを見られる』ということ。
前のめりのまま相手の位置とこいしが視界に入っていないことを確認したディアボロは、狙いを定めて両手の人差指の爪を発射する。
相手は爪弾が発射されたのに気付くも、時すでに遅し。予想外の二撃は相手の腹部に命中し、相手は地面に落下する。
ディアボロはそれを確認して起き上がると、爪の回転を維持したまま相手に近づいていく。
「こ……降参!降参だよ!」
これ以上闘ったら殺されるとでも思ったのだろうか。
相手は降参し、それを聞いたディアボロは恐竜化と爪の回転を止める。
「……わかった」
ディアボロはスケアリーモンスターズとタスクのDISCを額から取り出し、そのまま降参した相手に近寄っていく。
「これから爪弾を取り出す。…動くなよ」
ディアボロはケースに先ほどの2枚のDISCを入れ、ダイバー・ダウンとクレイジー・ダイヤモンドを装備してダイバー・ダウンを相手に潜行させる。
『爪弾を摘出しろ、ダイバー・ダウン』
その状態で爪弾を探させ、摘出させるのだ。
「ディアボロが撃ったのって、『爪』だったの?」
こいしはディアボロの側で腹から血を流している相手を観察しながら質問をする。
…といっても、こいしにスタンドは見えないのだが。
「ああ」
ダイバー・ダウンが腹部に撃ち込んだ二発の爪弾を見つけ出し、その二つを腹部の傷から摘出する。
そして再び潜伏すると、今度は左足首から爪弾を一発摘出する。
「これで全部だな」
ディアボロは命中した爪弾を全て摘出したことを確認すると、クレイジー・ダイヤモンドで相手の傷を治す。
「傷は治しておいた」
ディアボロにそう言われて相手は腹部を触って確認する。
彼の言っていることが本当であることを確認すると、自身の血で塗れた爪弾を拾い
「まさか、爪で撃たれる日が来るとはね…」
そう言って爪弾を置いた。
「流石に予想外だったか?」
「まったくだよ……」
ディアボロは軽く笑いながら問いかけ、相手は呆れながら答える。
「そういえば、私が仕掛けた感染症は?」
「殺菌して治した」
「……え?」
相手の問いかけにディアボロはあっさりと答える。
…その予想外の答えに相手は思わず聞き直す。
「殺菌して治した」
「……どうやって?」
「自分の体をいじって」
「……」
相手はディアボロのわけのわからない答えに沈黙してしまう。
だがあの闘いで彼は爪を撃ってきたため、『自分の体を自在に操る程度の能力』の応用だと思って納得したようだ。
「そういうお前はなんで俺に高熱を出させた?」
今度はディアボロが相手に質問をする。
相手を見ながら質問をしたのだが、その眼は相手を睨んでいる。
「あんたを逃がさないためだったんだけど、それが裏目にでたとはね」
「あれさえなければ俺がお前を攻撃する理由はなかったんだがな」
相手はため息をつき、ディアボロは呆れて文句を言う。
確かにあの高熱とその後の相手の発言で、ディアボロは闘わざるを得なくなったのだ。
「地下に落とされた妖怪の力を見せつけるはずだったけど、まさかあんなに圧倒されるなんて思わなかったよ」
相手は知らないが、ディアボロはこの地底でお燐、こいし、さとり、勇儀と4体の妖怪…内一体は鬼と闘って勝利している。
今更土蜘蛛が敵うわけがないのだが、知らないのだから仕方ない。
「だって、ディアボロは私たちや鬼に勝っているんだもんね」
こいしの発言を聞いて、土蜘蛛はびっくりする。
目の前の人間がさとり2体と鬼に勝っていたのを、たった今知ったからだ。
「なるほど、私が敵わないわけね」
だが同時に、相手の強さに納得したようだ。
「さて……そろそろ行くか。いつまでもここで長話しているわけにはいかない」
ディアボロは立ち上がり、風穴の出口の方向を向く。
「そうだね、あんたは人間だからここじゃなくて地上がお似合いよ」
土蜘蛛は座ったままディアボロを見てそう言った。
「…そうだな」
ディアボロは風穴の出口に向かって歩いていき、こいしもその後についていく。
一方の土蜘蛛は、風穴の奥へと進んでいく。
地上に『自らの意思で』生きる『人間』と地下で生きることを『強制された』『妖怪』。
いつしか堂々とお互いが一緒に暮らしていける日が来るのかどうかは、誰にもわからない。
「もうすぐだな」
「そうだね」
ディアボロとこいしは会話をしながら風穴の出口へと進んでいく。
その時、突然上から何か降ってきた。
……のだが
ディアボロの頭にぶつかる直前で空気の壁にぶつかり、さらに空気の壁の中に潜行していたダイバー・ダウンにディアボロの背中側から持ち上げられた。
「………」
桶に気づいたディアボロが動きを止めて無言で上を向くと、桶からこちらを覗く者と目が合った。
ディアボロの後についていっていたこいしも、彼が動きを止めたことを不思議に思う。
「………」
「どうしたの?」
「上から桶が降ってきた。しかもこっちを見ている奴がいる」
ディアボロはこいしの質問に答え、こちらを覗く者と無言で数秒見つめ合った後、黙ったままクレイジー・ダイヤモンドを出す。
そしてクレイジー・ダイヤモンドでダイバー・ダウンから桶を受け取ると、思いっきり風穴の奥目掛けて投げた。
質問の答えを聞いて桶を見ていたこいしは、風穴の奥へと投げ飛ばされていく桶とその中に入っている者を振り向いて見ることしかしなかった。
「よし、行くぞ」
ディアボロはこいしにそう言うと再び出口に向かって歩き始める。
こいしもディアボロの方を向くと、再び後からついていく。
ここまでくれば、出口まであと少しだ。
……あの釣瓶落としがどうなったかは二人はまったく気にしていない。
だが確実に言えるのは、『ディアボロと闘うことすらなく負けた』ということだけである。
ディアボロとこいしは、とうとう風穴から出た。
地上を照らす太陽の光が、二人の体を照らしている。
「太陽の向きからして……ちょうど昼時か?」
ディアボロは太陽のある位置を見て今の時間帯を推測する。
「こいし、これからお前はどうする?」
「わからないよ。時々私の体は自由が効かなくなるから」
こいしは笑顔でそういっているが、『自分の体を自由に動かせない』というのは相当辛いものだ。
恐らく『無意識を操る程度の能力』の影響だと思われるが、こいし自身はその影響を大して気にもしていないようだ。
「そうか……」
『自分の体の自由が利かない』ことについては、ディアボロも経験がある。
ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力を受けて何度も死んでいたとき、必死で体を動かそうとしても動かなかったことがあるからだ。
そのことをそして二人は出会い、会話し、闘い、交流を深めていった。思い出しても表情一つ変えないところを見ると、今の彼は死に続けていたときと比べて精神的にかなり成長していることがわかる。
「まあ、お前なら心配する必要はないだろう」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドのDISCとジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを入れ替える。
「……お互いに気づかないうちに、またどこかで会うかもな」
「大丈夫だよ。私が気づいたら声をかけてあげるから」
そう言ってこいしはディアボロの側に移動する。
こいしはディアボロに笑顔を向けると宙に浮き、ディアボロもジャンピン・ジャック・フラッシュの能力で宙に浮く。
「俺はこれから命蓮寺に帰る。どこにいったかわからずに心配されているかもしれないからな」
ディアボロはそう言って命蓮寺の方向へと飛び出す。
「私も途中までついていこうかな」
こいしもその後をついていった。
だが、きっといつの間にかいなくなってしまうのだろう。
他人の心を拒絶したこいしが、再び他人の心を受け入れるようになるのはいつなのかは誰にもわからない。
だが、ディアボロとの出会いは彼女が彼のことを『知りたい』と思ったことから始まったのは事実だ。
そして二人は出会い、会話し、闘い、僅かな時間だけとはいえ、交流を深めていった。
彼との出会いが、彼との交流が、たとえ微々たるものでもこいしの『何か』を変えるきっかけになるのかもしれない。
相手は氷柱を回避しつつ弾幕を撃ち、ディアボロは氷柱にぶつからずにこちらにきた弾幕をホワイトスネイクに防御させる。
激しい打ち合いが続くが、ディアボロは高熱を出している。
首筋を冷やすことで強引に抑え込んでいるが、このまま拗らせるとどんな症状が起こるかわからない。
「(確かこの高熱の原因は感染症の類だったはずだ。原因となる菌だけを殺せばまともに闘える)」
ディアボロはメタリカで相手に迫る様に天井から壁を出現させる。
それを見た相手は、壁から逃れるために距離を取りだす。
さらにディアボロに最も近い壁が地面の近くまでせりだしてシャッター代わりになる。
そしてすぐにホワイトスネイクにDISCを作らせて挿入する。
ディアボロが危惧したのは、『高熱』よりも『拗(こじ)らせた場合に起こる症状』。
『退治しても治らない』可能性があるなら、早めに治療したほうが圧倒的にマシである。
「(こいつが別の症状を引き起こすことができなければこれで大丈夫だな)」
ホワイトスネイクのDISCを取り出し、代わりにストレイ・キャットのDISCを装備する。
その後一斉に壁を地中に戻し、ストレイ・キャットで空気を壁代わりに形成して相手への接近を試みる。
それを見た相手は弾幕を撃つが、その全てが空気に阻まれる。
この空気の壁、打撃にはかなり強い。キラークイーンの踏みつけやクレイジー・ダイヤモンドのラッシュを容易に凌げる耐久力がある。
だがそのかわりに斬撃には弱い。仗助がクレイジー・ダイヤモンドを使って水圧カッターのように飛ばした血で切断された前例がある。
キラークイーンも一緒に使えば空気弾を爆弾化できるが、こんな縦に狭いところで使ったら何が起こるかわからない為、今回は使われないだろう。
「……え?」
相手は空気の壁に邪魔されて弾幕が全然ディアボロに当たらないのを目撃するが、今まで見たこともない出来事にしばし呆然としてしまう。
この空気の壁、一見すると壁のある場所が『ただ歪んでいるだけ』にしか見えないため、なおさら理解するのが困難だ。
そしてその隙をついて、ディアボロは空気弾を撃つために狙いを定める。
たかが空気の塊と侮ってはいけない。
人間の女性の右足の爪を引きちぎり、上半身に当たってしまえば血を流して失神させてしまうぐらいの破壊力はある。
狙いを定めたディアボロは、空気弾を壁の向こうから次々と発射する。
『何か撃ってきた』のが分かった相手も弾幕を撃つが、先ほどの氷柱と違って弾幕にぶつかっても簡単は撃墜できない。銃弾のように『抉る』攻撃ではないからだ。
衝撃で軌道を逸らすぐらいはできるだろうが、空気弾そのものを破壊することができない。
更に空気の壁が弾幕を防ぐため、仮に弾幕が空気弾に当たらずにディアボロのほうに向かったとしても、空気の壁に防がれてディアボロがダメージを受けることがない。
つまり……この勝負、相手が弾幕を撃ち続けている限り、相手に一切の勝ち目はないのだ。
相手もそれに気づいたのだろうか。弾幕を撃つのをやめ、ディアボロに接近してくる。
接近戦はディアボロも望むところなので、あえて遠ざけようとはしない。
「こい」
ディアボロはただその言葉だけを発すると、再び空気弾の狙いを定める。
その間に相手の蹴りが空気の壁に命中したのはいいが、その程度では空気の壁を破ることはできない。
それを理解した相手は空気の壁を蹴って、再び天井の近くに戻る。
ディアボロは再び空気弾を発射する。しかし、相手は天井を蹴ってディアボロに接近しつつ(ディアボロから見て)左に移動して空気弾を避ける。
ディアボロが二発目の空気弾の発射体勢に入った瞬間、相手はディアボロめがけてとびかかり、なんと空気の壁に噛みついたのだ。
流石にそれはディアボロにとっては予想外だったが、取り乱すことなく狙いを定める。
しかし、空気の壁は噛み千切られたことにより穴の開いたタイヤのように空気が抜けて萎んでいく。
相手は空気の壁から離れて天井に戻ろうとするが、その瞬間にディアボロが相手めがけて接近してくる。
いや、正確には『何かに引き寄せられているかのように』相手に接近している。しかも空気弾をいつでも発射できる態勢に入っている。
それを見た相手は後ろに下がるが、ディアボロは軌道を変えて相手への接近を続ける。
明らかにおかしい。今のディアボロはジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを装備していないし、仮に装備していたとしても、こんな飛び方はしない。
メタリカで自分を相手に引き寄せていると考えるのが自然だろう。
相手は後ろに下がりながら弾幕を撃つことで離れさせようとするが、その瞬間背中に何か当たったのが感触でわかった。
咄嗟に横に移動しようととするが、左右を空気の壁でふさがれて回避できない。
この状態からして、相手の背中に当たったのも空気の壁だろう。
そのまま(弾幕をくらいながら)距離を詰めながら狙いを定め、腕を伸ばせば相手をつかめるぐらいの距離になった瞬間、空気弾を発射する。
回避と防御が不可能の状態に加え、(あるのかどうかは不明だが)距離による威力の減少は一切ない。
その状態で空気弾をくらったのだから、吐血こそしなかったものの相手はかなり怯んでしまう。
ディアボロはストレイ・キャットの能力を解除してマジシャンズ・レッドを出し、相手は咄嗟に距離を取る。
「……」
ディアボロは無言で相手をにらみ続けながら、装備しているDISCを変える。
マジシャンズ・レッドから…スケアリーモンスターズへと。
そして、迷うことなくスケアリーモンスターズのスタンド能力を発動させる。
スケアリーモンスターズのスタンド能力によって、ディアボロの爪は伸びると同時に鋭利になり、身体能力が向上する。
「……」
顔にヒビが入り、口がある程度裂け、歯は鋭い牙のようになり、爪が伸びて鋭利になっている。
「……」
その『異様』という言葉が似合う姿を見て相手は絶句していた。
初めて会ったときに自分を『人間』だと言っていた男の肉体が、『いきなり変化した』のだから驚くのも当然であろう。
「……えーっと……」
どうすればいいのかわからないらしく、戸惑っている。
だが、ディアボロが無言でこちらめがけて走ってきたのを見て応戦せざるをえなくなる。
ディアボロが右手を相手に突き出す。右手の爪で相手を刺すつもりだ。
相手は咄嗟に(相手から見て)右に回避してディアボロの側面に回り込んで蹴りを入れようとするが、空気の壁で妨害される。
更にディアボロは右手の爪で左上方向へと引っ掻き、相手は咄嗟に後ろにジャンプして回避する。
ディアボロも相手に飛びかかって左手の爪を右下の方向に振り下ろすが、相手はまた後ろにジャンプして避ける。
しかし、ディアボロは相手に走って接近しながら連続で左右の手を交互に相手に突き出す。
普通ならまったく意味のない行為だが、スケアリーモンスターズの能力で手の爪が鋭利になっている今、例えるなら両手に短い刃物を持って刺そうとしているようなもの。
しかも身体能力が強化されているせいで、左右の手を交互に突き出すスピードも上がっている。
「(さっきと闘い方がまったく違う…!)」
相手はひたすら後ろに下がって回避するが、その途中でディアボロが仕掛けた空気の壁に背中がぶつかって下がれなくなってしまう。
そこにディアボロの右足による回し蹴りが襲い掛かるが、相手はディアボロの右足を掴んで踏ん張る。
だがディアボロは氷の槍を作って右手で持ち、自分の右足を掴んでいる相手の右腕の付け根に狙いを定める。
相手が慌てて手を放した瞬間、ディアボロは左足だけでジャンプして氷の槍を投擲した。
それを相手は(相手から見て)左に小さくジャンプして回避すると、弾幕を撃ちながら浮遊して距離を取る。
ディアボロは空気の壁で弾幕を防ぎながら、装備しているホルス神とケース内のDISCを入れ替える。
そのまま右手の人差指で相手を指さすが、それがまるで相手を狙っているようにも見えなくない。
……次の瞬間、人差指の爪が指から剥がれて円盤状に変形し、高速回転を始めた。
さらに両手首には小さな星型マーク、手の甲には甲虫の背中と思われるもの、その周囲には4本の小さな骨に類似したスタンド像が姿を現している。
タスク……ジョニィ・ジョースターのスタンド能力で、『悪魔の手のひら』と呼ばれる特殊な場所で自身の左腕に『聖人の左腕』が憑りついたことで発現したスタンドだ。
爪を高速回転させ、それを弾丸のように発射できる。しかも発射した直後に爪は再生するため、弾数は事実上無限である。
最初は爪で対象を切りつけた際に切断する力を伝導させたり爪の遠隔操作ができたが、いつの間にやら爪を発射する能力に変わっていた。
やがてはここからさらに進化を遂げ、Act4と呼称された最終進化形態の状態で撃った爪弾に被弾した場合、『体の細胞一つ一つが回転する』という異常事態を引き起こす。
しかもその後色々あって運悪くAct4の爪弾をくらった女性は、瞬時に粉々になって異次元に消失してしまった。
さらに、空間にできた『光』にある隙間を『こじ開けたり』、『止まった時の中を動こうとしたり』と尋常じゃない進化を遂げている。
だが今のディアボロはAct4の存在を未だ知らないし、『黄金の回転』も彼にはできないため、Act2以上の進化は見込めない。
いつの間にか、右手の人差指だけでなく両手の全ての爪が回転を始めている。
爪の回転に気づいた相手はディアボロが右手の人差指で自分を指さしている理由に気づいて咄嗟に(相手から見て)右に移動する。
その直後、ディアボロは右手の人差指の爪を相手に対して発射した!
放たれた爪弾は空気の壁をたやすく貫通し、相手の脇腹を掠る。
その一撃を受けた相手は、反撃といわんばかりに弾幕を撃ちだす。
いくら爪が鋭利になったといえども、爪弾の威力自体にはあまり変化はないようだ。
だが爪弾も弾数は無限だ。連射しながらどんどん相手に接近していく。
相手も爪弾を弾き落とすために弾幕を撃ち続けるが、少しずつ後退していっている。
ディアボロもタスクの射程距離から出させないために接近していく。
しかし、相手は手から放つ爪弾に気を取られて、あることに気づいていなかった。
そう、この状態のタスク(Act1)は……
足からも撃てる。
両手足の爪の数の合計は20。
つまり、最大で同時に20発も同時に発射できるのだ。
だがそれでは正確に狙えないため、やるとしても片側の手足の爪全てを一度に撃つぐらいだろう。
相手が手から放つ爪弾に気を取られている隙に、ディアボロは足の爪も発射態勢に入らせていた。
右足を見やすいように前に出して、右足の親指をさりげなく相手の左足と直線上になるように位置を調整し、足から爪弾を発射する。
相手はそれに気づけずに左足首に被弾してしまう。
「…ッ!?」
痛みを堪えたものの、その直後に相手が見たのは、両手の爪をタイヤ代わりにして自分に接近してくるディアボロの姿だった。
相手は浮遊することで左足首の損傷による歩行速度の低下を無視できる状態にする。
だがディアボロが相手に接近するスピードは、先ほど走って接近してきた時よりも速い。
更に距離を取ってもタスクで攻撃できるようになったため、もはや遠距離戦も有利とはいえない。
浮遊して距離を取ろうとする相手と、タスクの能力を使って接近するディアボロ。
相手は全速力でディアボロの上を通ってディアボロの背後を取り、ディアボロは両手の爪の回転を止めてスピードを落とす。
だが『徐々にスピードを落とす』のではなく『急に回転を止めた』ため、慣性の法則で前のめりに転んでしまう。
しかし、『前のめりに倒れる』ということは『自分の後ろを見られる』ということ。
前のめりのまま相手の位置とこいしが視界に入っていないことを確認したディアボロは、狙いを定めて両手の人差指の爪を発射する。
相手は爪弾が発射されたのに気付くも、時すでに遅し。予想外の二撃は相手の腹部に命中し、相手は地面に落下する。
ディアボロはそれを確認して起き上がると、爪の回転を維持したまま相手に近づいていく。
「こ……降参!降参だよ!」
これ以上闘ったら殺されるとでも思ったのだろうか。
相手は降参し、それを聞いたディアボロは恐竜化と爪の回転を止める。
「……わかった」
ディアボロはスケアリーモンスターズとタスクのDISCを額から取り出し、そのまま降参した相手に近寄っていく。
「これから爪弾を取り出す。…動くなよ」
ディアボロはケースに先ほどの2枚のDISCを入れ、ダイバー・ダウンとクレイジー・ダイヤモンドを装備してダイバー・ダウンを相手に潜行させる。
『爪弾を摘出しろ、ダイバー・ダウン』
その状態で爪弾を探させ、摘出させるのだ。
「ディアボロが撃ったのって、『爪』だったの?」
こいしはディアボロの側で腹から血を流している相手を観察しながら質問をする。
…といっても、こいしにスタンドは見えないのだが。
「ああ」
ダイバー・ダウンが腹部に撃ち込んだ二発の爪弾を見つけ出し、その二つを腹部の傷から摘出する。
そして再び潜伏すると、今度は左足首から爪弾を一発摘出する。
「これで全部だな」
ディアボロは命中した爪弾を全て摘出したことを確認すると、クレイジー・ダイヤモンドで相手の傷を治す。
「傷は治しておいた」
ディアボロにそう言われて相手は腹部を触って確認する。
彼の言っていることが本当であることを確認すると、自身の血で塗れた爪弾を拾い
「まさか、爪で撃たれる日が来るとはね…」
そう言って爪弾を置いた。
「流石に予想外だったか?」
「まったくだよ……」
ディアボロは軽く笑いながら問いかけ、相手は呆れながら答える。
「そういえば、私が仕掛けた感染症は?」
「殺菌して治した」
「……え?」
相手の問いかけにディアボロはあっさりと答える。
…その予想外の答えに相手は思わず聞き直す。
「殺菌して治した」
「……どうやって?」
「自分の体をいじって」
「……」
相手はディアボロのわけのわからない答えに沈黙してしまう。
だがあの闘いで彼は爪を撃ってきたため、『自分の体を自在に操る程度の能力』の応用だと思って納得したようだ。
「そういうお前はなんで俺に高熱を出させた?」
今度はディアボロが相手に質問をする。
相手を見ながら質問をしたのだが、その眼は相手を睨んでいる。
「あんたを逃がさないためだったんだけど、それが裏目にでたとはね」
「あれさえなければ俺がお前を攻撃する理由はなかったんだがな」
相手はため息をつき、ディアボロは呆れて文句を言う。
確かにあの高熱とその後の相手の発言で、ディアボロは闘わざるを得なくなったのだ。
「地下に落とされた妖怪の力を見せつけるはずだったけど、まさかあんなに圧倒されるなんて思わなかったよ」
相手は知らないが、ディアボロはこの地底でお燐、こいし、さとり、勇儀と4体の妖怪…内一体は鬼と闘って勝利している。
今更土蜘蛛が敵うわけがないのだが、知らないのだから仕方ない。
「だって、ディアボロは私たちや鬼に勝っているんだもんね」
こいしの発言を聞いて、土蜘蛛はびっくりする。
目の前の人間がさとり2体と鬼に勝っていたのを、たった今知ったからだ。
「なるほど、私が敵わないわけね」
だが同時に、相手の強さに納得したようだ。
「さて……そろそろ行くか。いつまでもここで長話しているわけにはいかない」
ディアボロは立ち上がり、風穴の出口の方向を向く。
「そうだね、あんたは人間だからここじゃなくて地上がお似合いよ」
土蜘蛛は座ったままディアボロを見てそう言った。
「…そうだな」
ディアボロは風穴の出口に向かって歩いていき、こいしもその後についていく。
一方の土蜘蛛は、風穴の奥へと進んでいく。
地上に『自らの意思で』生きる『人間』と地下で生きることを『強制された』『妖怪』。
いつしか堂々とお互いが一緒に暮らしていける日が来るのかどうかは、誰にもわからない。
「もうすぐだな」
「そうだね」
ディアボロとこいしは会話をしながら風穴の出口へと進んでいく。
その時、突然上から何か降ってきた。
……のだが
ディアボロの頭にぶつかる直前で空気の壁にぶつかり、さらに空気の壁の中に潜行していたダイバー・ダウンにディアボロの背中側から持ち上げられた。
「………」
桶に気づいたディアボロが動きを止めて無言で上を向くと、桶からこちらを覗く者と目が合った。
ディアボロの後についていっていたこいしも、彼が動きを止めたことを不思議に思う。
「………」
「どうしたの?」
「上から桶が降ってきた。しかもこっちを見ている奴がいる」
ディアボロはこいしの質問に答え、こちらを覗く者と無言で数秒見つめ合った後、黙ったままクレイジー・ダイヤモンドを出す。
そしてクレイジー・ダイヤモンドでダイバー・ダウンから桶を受け取ると、思いっきり風穴の奥目掛けて投げた。
質問の答えを聞いて桶を見ていたこいしは、風穴の奥へと投げ飛ばされていく桶とその中に入っている者を振り向いて見ることしかしなかった。
「よし、行くぞ」
ディアボロはこいしにそう言うと再び出口に向かって歩き始める。
こいしもディアボロの方を向くと、再び後からついていく。
ここまでくれば、出口まであと少しだ。
……あの釣瓶落としがどうなったかは二人はまったく気にしていない。
だが確実に言えるのは、『ディアボロと闘うことすらなく負けた』ということだけである。
ディアボロとこいしは、とうとう風穴から出た。
地上を照らす太陽の光が、二人の体を照らしている。
「太陽の向きからして……ちょうど昼時か?」
ディアボロは太陽のある位置を見て今の時間帯を推測する。
「こいし、これからお前はどうする?」
「わからないよ。時々私の体は自由が効かなくなるから」
こいしは笑顔でそういっているが、『自分の体を自由に動かせない』というのは相当辛いものだ。
恐らく『無意識を操る程度の能力』の影響だと思われるが、こいし自身はその影響を大して気にもしていないようだ。
「そうか……」
『自分の体の自由が利かない』ことについては、ディアボロも経験がある。
ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力を受けて何度も死んでいたとき、必死で体を動かそうとしても動かなかったことがあるからだ。
そのことをそして二人は出会い、会話し、闘い、交流を深めていった。思い出しても表情一つ変えないところを見ると、今の彼は死に続けていたときと比べて精神的にかなり成長していることがわかる。
「まあ、お前なら心配する必要はないだろう」
ディアボロはそう言いながらクレイジー・ダイヤモンドのDISCとジャンピン・ジャック・フラッシュのDISCを入れ替える。
「……お互いに気づかないうちに、またどこかで会うかもな」
「大丈夫だよ。私が気づいたら声をかけてあげるから」
そう言ってこいしはディアボロの側に移動する。
こいしはディアボロに笑顔を向けると宙に浮き、ディアボロもジャンピン・ジャック・フラッシュの能力で宙に浮く。
「俺はこれから命蓮寺に帰る。どこにいったかわからずに心配されているかもしれないからな」
ディアボロはそう言って命蓮寺の方向へと飛び出す。
「私も途中までついていこうかな」
こいしもその後をついていった。
だが、きっといつの間にかいなくなってしまうのだろう。
他人の心を拒絶したこいしが、再び他人の心を受け入れるようになるのはいつなのかは誰にもわからない。
だが、ディアボロとの出会いは彼女が彼のことを『知りたい』と思ったことから始まったのは事実だ。
そして二人は出会い、会話し、闘い、僅かな時間だけとはいえ、交流を深めていった。
彼との出会いが、彼との交流が、たとえ微々たるものでもこいしの『何か』を変えるきっかけになるのかもしれない。