*『深紅の協奏曲 ―嘘と真の三重奏 4― 』より。ネタであり本編とは関係ありません。
逃げ切らなければ。
……いつまで?
逃げ切らなければ。
……本当に?
逃げ切らなければ。
……どうやって?
頭の中には最悪のイメージしか浮かんでこない。必死に脳を回してみても、安っぽい結末しか見えてこない。
それでも、今は自分のために逃げ続けなければならない。そうすることが、せめてもの自分の意思を示すサインとなるかもしれないから。
……わかっている、それくらいで諦める様な者ではないと。
それでも、それでも。私は示し続けるしかないのだ。
……いつまで?
逃げ切らなければ。
……本当に?
逃げ切らなければ。
……どうやって?
頭の中には最悪のイメージしか浮かんでこない。必死に脳を回してみても、安っぽい結末しか見えてこない。
それでも、今は自分のために逃げ続けなければならない。そうすることが、せめてもの自分の意思を示すサインとなるかもしれないから。
……わかっている、それくらいで諦める様な者ではないと。
それでも、それでも。私は示し続けるしかないのだ。
* * *
「でー、そのときのまあ子犬が縋る様なあの目。くりくりーっとしてるそこから涙が出てきて助けてーって。そりゃもう心がざわめくというか惹かれるというか」
「あー、わかるわかる。いいよね、そういうの。んー、私はシチュエーションにもよるけどそこで蹴落とすのもいいなと」
「文ったら下劣ーぅ。あ、椛お茶ー」
「……お前等、ここは休憩所ではないのだが」
「あー、わかるわかる。いいよね、そういうの。んー、私はシチュエーションにもよるけどそこで蹴落とすのもいいなと」
「文ったら下劣ーぅ。あ、椛お茶ー」
「……お前等、ここは休憩所ではないのだが」
妖怪の山の中、川の近場にある一つの小屋。狭いながらに道具がごった返しているその場にかしましく4人で話し合っている。
元々の主であるにとりと、その将棋相手の椛。椛はいつもの仕事である哨戒の合間によく顔を出している。
元々の主であるにとりと、その将棋相手の椛。椛はいつもの仕事である哨戒の合間によく顔を出している。
「でもさー、にとりは自分の時間なわけじゃん? プライベートに押しかけてるのは申し訳ないと思ってるし、そこで厚かましくもお茶請求まではちょっとねー」
「そうですそうです。神社に来る黒白ではあるまいし、ちゃんと頼むべき相手に頼みますよ。というわけで椛、お茶」
「一度閻魔に舌を見てもらったらどうだ、この烏天狗ども!」
「もーみーじー、次の一手まだ?」
「にとり、お前もお前だ! なんでいつも二人を上げては好き勝手にやらせる!? 私はお前が招いてくれたから来ているが二人は違うだろう!」
「そうですそうです。神社に来る黒白ではあるまいし、ちゃんと頼むべき相手に頼みますよ。というわけで椛、お茶」
「一度閻魔に舌を見てもらったらどうだ、この烏天狗ども!」
「もーみーじー、次の一手まだ?」
「にとり、お前もお前だ! なんでいつも二人を上げては好き勝手にやらせる!? 私はお前が招いてくれたから来ているが二人は違うだろう!」
対して文とはたての二人は用もないのに上り込んでは喋くっている。そして、毎度雑用を頼むのは家主ではなく椛にだ。
「そんなこと言ったってさー、私ら河童が天狗様に勝てるわけないだろう? 上下関係は大切だ。ぶっちゃけ、椛にだけだよ、こんなフランクなの。他の白狼の方たちには丁寧だろ、私」
「だから逆らえない、とでも?」
「うん。だから椛一手指してからお二人にお茶を入れて差し上げろ」
「はやくー」
「はやくー」
「ああもう!」
「だから逆らえない、とでも?」
「うん。だから椛一手指してからお二人にお茶を入れて差し上げろ」
「はやくー」
「はやくー」
「ああもう!」
本人たちに言い返しても埒が明かないのはわかっている。それでもわざわざ注意してみたが、やはり変わらなかった。
椛はその意味の無い行動をとった自分にも腹を立て、乱暴に盤面の桂馬を動かすと、台所に茶を入れに行った。
椛はその意味の無い行動をとった自分にも腹を立て、乱暴に盤面の桂馬を動かすと、台所に茶を入れに行った。
「あー、で話戻るんだけどさ。一番来るのはやっぱり抱いた時に素直に抱かれてくれた時ねー。あれ、落としたと勝利を確信したわ」
「どれだけ気ぃ張ってても、所詮は子供、所詮は男か。あー、はたてホントいいの釣れたね」
「でしょでしょ? あーもうマジ次会った時即お持ち帰りだわ。あの時洩矢様にいじめられてたから逃したけど、今度会ったらもう私しか見えないくらいに調教したる」
「そう言って、前にやりすぎて勃たせられなくして結局捨てた悪い天狗だーれだ?」
「あれはノーカン、あっちが悪い! あんなに玉無しだとは思わなかったから。今度のは大丈夫、椛のお墨付きだから」
「……淹れてきたぞ」
「お、そのワンちゃん天狗のお帰りですね。どうもどうも。……んー、相変わらず下手ですね、お茶淹れるの」
「まーた言われてる、椛もなかなか覚えないね。私の水はこれかな?」
「だから脅すのも下手だなんて言われてしまうんですね、椛は」
「……ッッ」
「どれだけ気ぃ張ってても、所詮は子供、所詮は男か。あー、はたてホントいいの釣れたね」
「でしょでしょ? あーもうマジ次会った時即お持ち帰りだわ。あの時洩矢様にいじめられてたから逃したけど、今度会ったらもう私しか見えないくらいに調教したる」
「そう言って、前にやりすぎて勃たせられなくして結局捨てた悪い天狗だーれだ?」
「あれはノーカン、あっちが悪い! あんなに玉無しだとは思わなかったから。今度のは大丈夫、椛のお墨付きだから」
「……淹れてきたぞ」
「お、そのワンちゃん天狗のお帰りですね。どうもどうも。……んー、相変わらず下手ですね、お茶淹れるの」
「まーた言われてる、椛もなかなか覚えないね。私の水はこれかな?」
「だから脅すのも下手だなんて言われてしまうんですね、椛は」
「……ッッ」
けらけらと笑われ、怒りの余りに背中にある大剣に手を伸ばしかけている椛。もっとも、それを振り回してもあっさり退けられてしまうこともわかっているし、狭いこの場ではにとりを傷つける可能性もある。
だから、耐えるしかないのを一番わかっているのは椛本人だ。そして、それを理解してからかいをやめない天狗の二人。
だから、耐えるしかないのを一番わかっているのは椛本人だ。そして、それを理解してからかいをやめない天狗の二人。
「まあま、それもあったからこそあの子の実力が際立って見えたわけでしょ? 下手な鉄砲も使い道、ぴゃぅっ?!」
調子よく回っていたはたての口が、突然の叫び声で止まる。
「どしたん、はたて?」
「ひ、今、何か背中にぃ! わ、ちょ、ぬるぬるする、取って、とってぇ!」
「ひ、今、何か背中にぃ! わ、ちょ、ぬるぬるする、取って、とってぇ!」
突然の異物に困惑し、焦りと羞恥で顔を赤くするはたて。必死に手を伸ばすが、その何かは逃げるように動いているのか全く掴まらないようだ。
「しょうがないなぁ、どれ、ちょっと動かないでねはたてさん」
「ふあぁっ!? つ、つめ、わ、おへそにっ」
「河童の手が冷たいのはしょうがないでしょう……えーと、前のどこだ?」
「前来たなら自分で取るわよッ!!」
「ふあぁっ!? つ、つめ、わ、おへそにっ」
「河童の手が冷たいのはしょうがないでしょう……えーと、前のどこだ?」
「前来たなら自分で取るわよッ!!」
より顔を赤らめながら、にとりを弾き飛ばしブラウスをはためかせて中に入った異物を取り除く。
ごろんと転がったそれは。
ごろんと転がったそれは。
「……へそ、ありませんね」
「さっきのは私のだ! ……で、にとりこんなの飼いはじめたの?」
「あの馬鹿妖精じゃあるまいし」
「さっきのは私のだ! ……で、にとりこんなの飼いはじめたの?」
「あの馬鹿妖精じゃあるまいし」
出てきたのはでっぷり太った蛙だった。
突然の登場に、周りも本人も何が起きたかわからない様子だった。
突然の登場に、周りも本人も何が起きたかわからない様子だった。
「え、でもなんで蛙? ……ッ!!!」
「どうし……ッ!?」
「どうしたんで、お二人方?」
「何やっているんだ、二人とも」
「どうし……ッ!?」
「どうしたんで、お二人方?」
「何やっているんだ、二人とも」
文とはたては、突然何かに射竦められたかのような視線を感じた。
にとりと椛は、何が起きたかわからない様子。先ほどから転がっている蛙のように、丸い目をしたままであった。
にとりと椛は、何が起きたかわからない様子。先ほどから転がっている蛙のように、丸い目をしたままであった。
「……私、帰る!」
「ご無事で」
「ご無事で」
言うや否や、二人は全力でその場を離れる。
「わっ、え、どうしたの!?」
「ぶわっ! あっつ、あちゃちちち!!!」
「ぶわっ! あっつ、あちゃちちち!!!」
残された二人は、何もわからないままその場でぽかんとするしかなかった。椛は火傷した。
* * *
できる限りの全力で飛行し続けたが、それは愚策となった。
突然の乱気流、それも天狗を足止めし、入ってしまえば傷を負わせてしまうほどの。
わかって突入したのなら、そのようなことになるはずがない。それくらいの技量は持っている。だが、焦りからの判断の遅れがはたてをそのまま突入させ、負傷に至らせた。
全力の飛行はできない。だが、滑空の要領で地を飛ぶことなら。
そう判断した彼女は、再び逃走のための全力を続ける。
途中にいた厄神も弾き飛ばし、その抗議の声をあげられる前にその場を突破する。
それでも、それでもまとわりつく視線は離れない。
突然の乱気流、それも天狗を足止めし、入ってしまえば傷を負わせてしまうほどの。
わかって突入したのなら、そのようなことになるはずがない。それくらいの技量は持っている。だが、焦りからの判断の遅れがはたてをそのまま突入させ、負傷に至らせた。
全力の飛行はできない。だが、滑空の要領で地を飛ぶことなら。
そう判断した彼女は、再び逃走のための全力を続ける。
途中にいた厄神も弾き飛ばし、その抗議の声をあげられる前にその場を突破する。
それでも、それでもまとわりつく視線は離れない。
「逃げても無駄だよ」
わかっている。なぜなら、相手は大地を操れるのだから。
坤を創造するのであれば、それに対する理解が必要なのだ。だから彼女はまず羽を奪い、地に近づけた。
あの一瞬の恐怖の時はどちらが狙われていたのかはわからなかった。だから、二人は全力で逃げ出した。その時から気づいていた。狙われていない方は、利用されるだろうと。もし従わないのならば、矛先がまず自分に来るだけだ。
文を責めることはできない。逆の立場であるならば、暴風を起こし足止めを担う事をはたては拒否『できなかった』だろうから。
……後は簡単だ。地を這う鳥から逃げられない蛙はいない。逆説的に、地を這う鳥は蛙から逃げられない。
坤を創造するのであれば、それに対する理解が必要なのだ。だから彼女はまず羽を奪い、地に近づけた。
あの一瞬の恐怖の時はどちらが狙われていたのかはわからなかった。だから、二人は全力で逃げ出した。その時から気づいていた。狙われていない方は、利用されるだろうと。もし従わないのならば、矛先がまず自分に来るだけだ。
文を責めることはできない。逆の立場であるならば、暴風を起こし足止めを担う事をはたては拒否『できなかった』だろうから。
……後は簡単だ。地を這う鳥から逃げられない蛙はいない。逆説的に、地を這う鳥は蛙から逃げられない。
「ちょっと、想いが過ぎるようだね」
耳をつんざく風切音の中に、まるで寄り添うように存在しているかのように、頭の中に流れ込んでくる。
敗北は見えている。が、それでもそれに抗うようにしなければならない。それが神々を満足させる敗北条件だ。
敗北は見えている。が、それでもそれに抗うようにしなければならない。それが神々を満足させる敗北条件だ。
「もう一度、理解させなきゃいけないようだね。神の前では、お前如きは啖呵を切るに値しない矮小な存在なのだと」
そうだ、その通りだ。だからこうして必死に逃げている。貴方を強者と認め、自分を弱者と認めその存在から逃げようとしている!
そう思いながら、はたては地と平行に飛び続けていた。傷ついた翼は動かない。けれど力ある妖怪として得た膂力が大地を力強く掌握し、跳ねるように身体を動かす。
そう思いながら、はたては地と平行に飛び続けていた。傷ついた翼は動かない。けれど力ある妖怪として得た膂力が大地を力強く掌握し、跳ねるように身体を動かす。
「!? ぐ、がぁ……」
急に、自分の首が締まる感覚。慌てて速度を落とし自分の喉元に手をやる。
そこには、一体いつからついていたのかわからない。自分の首よりほんの少し小さいサイズの鉄の輪があった。
そこには、一体いつからついていたのかわからない。自分の首よりほんの少し小さいサイズの鉄の輪があった。
「鼻から下を削いでやらないだけましだよねぇ??」
先の視線の元凶、絶望の大元。
ここに来ることがわかっていたかのように、神は待ち構えていた。
諏訪子が開きかけている手をぐ、と閉じるとそれと共に、はたての首の輪が締まる。
ここに来ることがわかっていたかのように、神は待ち構えていた。
諏訪子が開きかけている手をぐ、と閉じるとそれと共に、はたての首の輪が締まる。
「がっ……ぁぁ……」
「なるほど、縋る様な瞳、そこから出る涙……同感だよ、クるものがある」
「なるほど、縋る様な瞳、そこから出る涙……同感だよ、クるものがある」
苦しみ悶える姿を、愉悦の笑みで眺める。意識が落ちかけ、頭が下がると髪を掴んでその顔が上になるように持ち上げられる。
「でも、どうやら理解していないようだ。神が何も言わなくても理解するべきなんだ。そうだろう? 信心深き者よ、敬い在る者に対してはそうだろう?」
ほとんど息のできない状態のまま、それでも開く口と眼。その口と眼に突っ込むかのごとく顔を近づけ、
「『ディアボロ』は私の物だ お前如きが好き勝手できる物じゃない」
……翌日、山の麓でボロ雑巾のような状態ではたてが発見される。何とか生きてはいたが、しばらく何かにずっと怯え、急に謝り出す様な情緒不安定な様が続いていた。
発見者の烏天狗はこう語る。
発見者の烏天狗はこう語る。
「無茶でしょ、洩矢様には敵いませんて。両方の意味で」