青娥との会話によって、聖人についての情報をある程度得ることができた。
しかし、百聞は一見に如かずという諺(ことわざ)があるように、実際に会ってみないと、聖人が如何なる者か詳しく知ることができるのには限界がある。
ジッパーを使って潜伏したまま、ディアボロは命蓮寺に戻ってきた。
「(とりあえず逃げることはできた……のか?)」
無事に戻ってくることはできたのだが、青娥が先回りしている可能性は否定できない。
スタープラチナを出したまま、周囲の偵察を開始する。
上空、後ろ、左右、そして前方。
見渡しても、青娥も芳香も姿が見えない。
「(透明になってこの辺りをうろついていたりしていないよな?)」
聖人についての情報は手に入れたが、『青娥の能力』については何一つ情報を得られていない。
彼女がどんな能力を持っているのか知らない今は、警戒を緩めることはできない。
「(とりあえず、物陰からジッパーを出たほうがよさそうだ)」
賽銭箱の陰に移動して、スタープラチナに周囲を確認させる。
左右から賽銭箱に接近してくる者がいないことを確認すると、ジッパーを開いて段差を上るようにそこから出る。
飛び出すこともできるが、今そんなふうにしてでることによるメリットはない。
ジッパーを閉じるとすぐに賽銭箱の物陰に隠れて様子を伺う。
「(あいつが俺のことを諦めてくれたのならありがたいが……)」
警戒しながら、スタープラチナで賽銭箱から身を乗り出す形で向こう側を確認する。
命蓮寺が側にあるため、エアロスミスも炎の探知器も目標の反応を探知するのは難しい。
相手が参拝道の方から来たのなら話は別だが、青娥は真正面から突っ込んでくるタイプではないだろう。たぶん。
「(白蓮達を巻き込んでしまうことになるだろうが、寺の中に逃げ込むというのも一つの手だ)」
寺の中に逃げてしまえば、青娥も芳香もディアボロもお互いを見つけるのは困難になる。
……が、ディアボロは青娥の能力を知らない。
彼女の能力は『壁のすり抜け』。どんなに分厚い壁も、彼女の移動を妨げる役目を果たせない。
さらにどんな壁でも瞬時に穴をあけ、僅かな時間の経過後に跡形もなく元に戻す鑿(のみ)を持っている。
例え青娥が壁の向こう側にいたとしても、彼女に位置を知られたら壁をすり抜けるか鑿で穴をあけるかのどちらかで接近されるだろう。
ディアボロは賽銭箱の背後に隠れたまま、キラークイーンのDISCとキング・クリムゾンのDISCを入れ替える。
「(諦めずに俺を探しているのならどうにかしないといけないが、そのつもりはなくても偶然俺を見つける可能性もありえるな)」
命蓮寺の位置を確認するために、スタープラチナは一度も青娥の位置を確認せずにディアボロと一緒に移動していた。
スタープラチナの視界に入らなかったことから、先回りはしていないようだが……?
「(とりあえず寺の中に入るか。偶然見つかって再び勧誘されるのも困るからな)」
念の為にスタープラチナで時を止めて、命蓮寺に戻ることにする。
ただでさえ賽銭箱の背後に隠れている時点で怪しいと思われてもおかしくなうえに、移動のために立ち上がって見つかったら面倒なことになる可能性がある。
何か疑われても文句は言えない。
時間停止も使って、ディアボロは命蓮寺に戻ってきた。
「(これで偶然遭遇する可能性は低くなったが、まだまだ気は抜けないな)」
スタープラチナもキング・クリムゾンも出したまま。
背後はスタープラチナに守らせ、キング・クリムゾンは側に待機させ、目的地は亀の中。
侵入箇所が一つだけであるあそこなら、迎撃の難易度はさほど高くない。
ココ・ジャンボのいる部屋にたどり着いたディアボロは、すぐに亀の中に入る。
見渡してみても、誰もいないようだが……。
「………………」
ディアボロはストレイ・キャットとエアロスミスのDISCを入れ替え、すぐにエアロスミスを飛ばしてレーダーを確認する。
「(反応はなしか。俺が警戒しすぎているだけなのか?)」
彼以外に誰もいないことを確認すると、エアロスミスを帰還させスタープラチナとキング・クリムゾンを戻す。
「………………」
とりあえず背後を取られないようにするため、部屋の隅に移動して様子を伺う。
だが、彼しかいない部屋の隅で警戒し続けているその姿を事情を知らない者が見たら、幻覚を見ているのか、あるいは見えない何かを警戒しているのかと疑われてもおかしくない。
「………………」
未だに警戒し続けているが、何の気配も感じないし、誰も入ってこない。
それでも警戒は解かない。彼らしい……のだろうか?
壁を背に部屋の隅で警戒をし続けて数分。
未だにその状態を彼は続けている。
「(誰もこないな……あいつらは俺を探さなかったようだ)」
警戒を解き、スタンドも二つとも戻す。
「(さて、あの二人のことは誰かに相談した方がいいのだろうか……)」
青娥は聖人のことを知っており、ディアボロを勧誘した。
彼女の記憶を見ることはできなかったが、存在が世間に認識されて間もない聖人のことを長々と語れることからして、聖人とは昔から縁があったのだろう。
そんな者と会ったのだ。命蓮寺に住む誰かの耳に入れさせておいたほうがいいかもしれない。
だがそれは余計な対立を生む可能性もある。
「(……少し時間をおいてまた考えることにするか)」
警戒は解いたものの、未だに青娥がディアボロを探している可能性がある。
だが彼女が亀の中の存在に気づくには多少時間がかかると思われるため、ここに籠っていれば青娥や芳香に見つかる可能性は大幅に下がる……はず。
時間は流れてお昼頃。そろそろ昼食の時間。
……なのだが、ディアボロはまだ亀の中。
時計もないので今何時なのか正確にはわからない。
「(確かそろそろお昼時だったか?)」
ディアボロはそんな(少し前と比べるとだいぶ平和な)ことを考えるが、先ほども書いたとおりここには時計がないので今何時何分なのかは彼にはわからない。
が、お昼御飯ができたら誰かがディアボロを探すだろう。
出かけるときは一応出かけることを伝えるようにはしているのだが、今日はそうしていない。
そのため、白蓮たちは『ディアボロは命蓮寺にいる』と思っている。
青娥や芳香がディアボロを見失ってからある程度時間は経過している。
さすがに二人ともどこかに行っているだろう。たぶん。
ディアボロは亀の中から出て、部屋で座り直す。
念のためにエアロスミスを飛ばそうかとも考えたが、二人とも亀の中まで追ってこなかったため飛ばす必要はないと判断した。
「(食事中に余計な考えはしないでおこう)」
ついでに、余計な心配をさせずに済むよう、食事中は青娥と芳香のことは忘れることにした。
それからまた時間が経ち、昼食を終えた後。
ディアボロはどうすべきか、再び考え始めた。
「(あの仙人が単に聖人の過去を知っているだけでなく、そいつと繋がっているとしたら……)」
誰かに見られる可能性を避けることを優先したためにヘブンズドアーで記憶を覗かなかったことを悔やみつつも、青娥が聖人と繋がっている可能性を警戒する。
権力や力を振りかざして自分の思うが儘にさせたり、それらを笠ににして好きにやってきた事例など過去に幾千万存在するものだ。
「(単独で偵察に動くべきか、それとも第三者を利用して情報を得るべきか?)」
これ以上の情報を得るために、何も直接彼が動く必要があるわけではない。
射命丸にヘブンズドアーやホワイトスネイクを使って取材をさせて情報を手に入れる方法もあるし、時間はかかるものの、阿求という人物が聖人たちと接触した後に彼女と接触して情報を得る方法もある。
しかし、こういうのにはデメリットもあるもの。
射命丸を利用するパターンでは、妖怪だという理由で追い返されてまともな情報を得られない可能性がある。
一方、阿求が聖人達と接触して情報を得るのを待つパターンでは、時間がそれなりにかかる上、紫が情報を改竄する可能性もある。
まあ、聖人たちが射命丸の取材を快諾応じる可能性はあるし、こちらが変装して聖人と接触する手もある。
あらゆる可能性を否定できない以上、手段を絞り込んだうえでより良い手段を選択しなければならないのだ。
「(そういえばマミゾウの能力は化けさせる能力だったな……。自他問わず化けさせられるが、青娥や聖人に見抜かれないならその手もあるな)」
マミゾウの能力は、変装においてはディアボロの知るどのスタンドよりも上だ。
クヌム神では自分の姿しか変えることができないし、イエローテンパランスも大きさを誤魔化すことはできないうえ、味方に『肉』を纏わせようにも恐らく肉が味方を食らってしまう。
マミゾウの能力ならリスクもないうえに、自分も他人も物体も化けさせられる。
しかも外見上の区別はつかない。大きさも化けたものと同じになる。
外見上に限れば、まさに『完璧』であった。
この能力が仙人や聖人達を騙せるかどうかは分からないが、不審な行動をしない限りは、誰にも怪しまれないだろう。
「(マミゾウの手を借りたほうがいいのかもしれない)」
青娥がディアボロの容姿や名前を聖人側に伝えた可能性を排除できない以上、面倒事を避けるために姿は変えたほうがいい。
「(そうと決まれば……あいつはどこにいるんだ?)」
マミゾウがどこに向かうのか気にしていなかったせいで、今彼女がどこにいるのかまったくわからない。
命蓮寺の中にいるのかもしれないし、どこかにでかけているのかも知れない。
ついでに、でかけていたとしていつ戻ってくるのかも知らない。
「(命蓮寺の中を探してみるか……)」
まずは命蓮寺の内部を捜索することにする。
いないのなら、どこに行ったのかぬえあたりにでも聞くことにしたほうがよさそうだ。
探したものの、命蓮寺にマミゾウはいなかった。
ぬえも見つからなかったので、行先を尋ねることすらできなかった。
「…………」
ディアボロは無言でムーディーブルースとスティッキィ・フィンガーズのDISCを入れ替える。
そして命蓮寺の外に移動し、ムーディーブルースを出して能力を発動させる。
すぐに結果は出た。
ムーディーブルースはマミゾウへと姿を変え、移動を始めた。
ディアボロもすぐさま後を追う。まだムーディーブルースは空を飛び出してはいない。
どうやら行先は人里ではないようだが……?
「(こいつはどこに向かっているんだ?)」
ディアボロはどこに行くのかわからないままムーディーブルースについていく。
勿論エアロスミスによる警戒も怠ってはいない。
ムーディーブルースを追いかけているうちに、どこかの森についた。
「(ここは……)」
ディアボロもこんなところがあるとは知らなかった。
紫の記憶から得た場所の情報は、幻想郷ではそれなりに知名度のある場所ばかりだ。
だがこの森はそれなりに知名度のある場所ではないようで、紫の記憶には名前がなかった。
「………………」
周囲を見回しても、誰もいない。
エアロスミスのレーダーには……10を超える反応がある。
「……!」
一旦ムーディーブルースのリプレイを止め、警戒態勢に入る。
この反応は人間か、妖怪か、あるいはただの動物か……。
それは反応の正体が視界に入っていない今は分からない。
「(誘い出すか、背後を取るか……或は、気にせず堂々と動くべきか……)」
マミゾウがこの森に入ったのなら、この森には妖怪がいる可能性が高い。
マミゾウは狸の妖怪だ。そんな彼女がこの森に向かうとすれば、そこにいるのは……。
「(マミゾウは何の用でここに行ったんだ?同族探しか?)」
マミゾウの記憶には、同族の存在が記されていた。
幻想郷は外の世界よりも妖怪の数は圧倒的に多い。
かつて外界に同族がいたのなら、ここにも同族がいる可能性は高いのだろう。
「(反応はまだ向こう側か……)」
ムーディーブルースを戻し、DISCを取り出す。
まだマミゾウを見つけていないのに、何をするつもりだろうか。
「(もしも反応の中にマミゾウがいたのなら、恐らく近くの反応は狸だな)」
不用意に近づけば、何が起こるか想像はつかない。
ならばすぐさま、何らかしらの対処ができるに越したことはない。
突然、黄色い肉がディアボロの身体から現れると、まるで飲み込むかのように彼の体を覆い始めた。
だがディアボロはそれに全く抵抗することもなければ動じることもなく飲み込まれていく。
そして黄色い肉はディアボロを覆い尽くし、形が変わり始めた。
その姿は……
「(流石に大きさを誤魔化すとなると体格の大きい奴を選ぶしかないか……)」
スタープラチナの『本来の』本体である空条承太郎そのものだった。
黄色い肉の正体はスタンドの一つ、『黄の節制(イエロー・テンバランス)』。
実体を持つ肉を操り、その姿を変えることができる。
だが体格を誤魔化すことはできず、衝撃を受けると肉の形が崩れる可能性がある。
しかし、熱すれば弾け、冷やせばスパイク状に凍る性質を持ち、さらに肉に『食らわせる』こともできるこの能力を破るのは容易いことではない。
本体の慢心がなければ、承太郎は敗北していただろう。
承太郎……ではなくディアボロは、森の中を歩いて進んでいく。
目指すはエアロスミスのレーダーが反応している位置。
肉で作った偽りの鎖を揺らし、エアロスミスに自らの周囲を旋回させ続け、そのまま歩き続けるうちに開けた場所を見つけた。
一旦歩くのを止めてよく見ると、木々が覆わぬその場所にマミゾウが狸と一緒にいた。
「(あの狸たちにマミゾウと同じ『化ける能力』があるのかどうかは知らないが……行くとするか)」
マミゾウと再び接触すべく、肉にその身を覆い隠したディアボロは、森の開けた場所へと進み始める。
人が化け狸を化かそうとするなどというのは滑稽な話だが、はたしてこの変装をマミゾウたちは見破ることができるのか。
そしてマミゾウは、ディアボロに力を貸してくれるのだろうか……。
しかし、百聞は一見に如かずという諺(ことわざ)があるように、実際に会ってみないと、聖人が如何なる者か詳しく知ることができるのには限界がある。
ジッパーを使って潜伏したまま、ディアボロは命蓮寺に戻ってきた。
「(とりあえず逃げることはできた……のか?)」
無事に戻ってくることはできたのだが、青娥が先回りしている可能性は否定できない。
スタープラチナを出したまま、周囲の偵察を開始する。
上空、後ろ、左右、そして前方。
見渡しても、青娥も芳香も姿が見えない。
「(透明になってこの辺りをうろついていたりしていないよな?)」
聖人についての情報は手に入れたが、『青娥の能力』については何一つ情報を得られていない。
彼女がどんな能力を持っているのか知らない今は、警戒を緩めることはできない。
「(とりあえず、物陰からジッパーを出たほうがよさそうだ)」
賽銭箱の陰に移動して、スタープラチナに周囲を確認させる。
左右から賽銭箱に接近してくる者がいないことを確認すると、ジッパーを開いて段差を上るようにそこから出る。
飛び出すこともできるが、今そんなふうにしてでることによるメリットはない。
ジッパーを閉じるとすぐに賽銭箱の物陰に隠れて様子を伺う。
「(あいつが俺のことを諦めてくれたのならありがたいが……)」
警戒しながら、スタープラチナで賽銭箱から身を乗り出す形で向こう側を確認する。
命蓮寺が側にあるため、エアロスミスも炎の探知器も目標の反応を探知するのは難しい。
相手が参拝道の方から来たのなら話は別だが、青娥は真正面から突っ込んでくるタイプではないだろう。たぶん。
「(白蓮達を巻き込んでしまうことになるだろうが、寺の中に逃げ込むというのも一つの手だ)」
寺の中に逃げてしまえば、青娥も芳香もディアボロもお互いを見つけるのは困難になる。
……が、ディアボロは青娥の能力を知らない。
彼女の能力は『壁のすり抜け』。どんなに分厚い壁も、彼女の移動を妨げる役目を果たせない。
さらにどんな壁でも瞬時に穴をあけ、僅かな時間の経過後に跡形もなく元に戻す鑿(のみ)を持っている。
例え青娥が壁の向こう側にいたとしても、彼女に位置を知られたら壁をすり抜けるか鑿で穴をあけるかのどちらかで接近されるだろう。
ディアボロは賽銭箱の背後に隠れたまま、キラークイーンのDISCとキング・クリムゾンのDISCを入れ替える。
「(諦めずに俺を探しているのならどうにかしないといけないが、そのつもりはなくても偶然俺を見つける可能性もありえるな)」
命蓮寺の位置を確認するために、スタープラチナは一度も青娥の位置を確認せずにディアボロと一緒に移動していた。
スタープラチナの視界に入らなかったことから、先回りはしていないようだが……?
「(とりあえず寺の中に入るか。偶然見つかって再び勧誘されるのも困るからな)」
念の為にスタープラチナで時を止めて、命蓮寺に戻ることにする。
ただでさえ賽銭箱の背後に隠れている時点で怪しいと思われてもおかしくなうえに、移動のために立ち上がって見つかったら面倒なことになる可能性がある。
何か疑われても文句は言えない。
時間停止も使って、ディアボロは命蓮寺に戻ってきた。
「(これで偶然遭遇する可能性は低くなったが、まだまだ気は抜けないな)」
スタープラチナもキング・クリムゾンも出したまま。
背後はスタープラチナに守らせ、キング・クリムゾンは側に待機させ、目的地は亀の中。
侵入箇所が一つだけであるあそこなら、迎撃の難易度はさほど高くない。
ココ・ジャンボのいる部屋にたどり着いたディアボロは、すぐに亀の中に入る。
見渡してみても、誰もいないようだが……。
「………………」
ディアボロはストレイ・キャットとエアロスミスのDISCを入れ替え、すぐにエアロスミスを飛ばしてレーダーを確認する。
「(反応はなしか。俺が警戒しすぎているだけなのか?)」
彼以外に誰もいないことを確認すると、エアロスミスを帰還させスタープラチナとキング・クリムゾンを戻す。
「………………」
とりあえず背後を取られないようにするため、部屋の隅に移動して様子を伺う。
だが、彼しかいない部屋の隅で警戒し続けているその姿を事情を知らない者が見たら、幻覚を見ているのか、あるいは見えない何かを警戒しているのかと疑われてもおかしくない。
「………………」
未だに警戒し続けているが、何の気配も感じないし、誰も入ってこない。
それでも警戒は解かない。彼らしい……のだろうか?
壁を背に部屋の隅で警戒をし続けて数分。
未だにその状態を彼は続けている。
「(誰もこないな……あいつらは俺を探さなかったようだ)」
警戒を解き、スタンドも二つとも戻す。
「(さて、あの二人のことは誰かに相談した方がいいのだろうか……)」
青娥は聖人のことを知っており、ディアボロを勧誘した。
彼女の記憶を見ることはできなかったが、存在が世間に認識されて間もない聖人のことを長々と語れることからして、聖人とは昔から縁があったのだろう。
そんな者と会ったのだ。命蓮寺に住む誰かの耳に入れさせておいたほうがいいかもしれない。
だがそれは余計な対立を生む可能性もある。
「(……少し時間をおいてまた考えることにするか)」
警戒は解いたものの、未だに青娥がディアボロを探している可能性がある。
だが彼女が亀の中の存在に気づくには多少時間がかかると思われるため、ここに籠っていれば青娥や芳香に見つかる可能性は大幅に下がる……はず。
時間は流れてお昼頃。そろそろ昼食の時間。
……なのだが、ディアボロはまだ亀の中。
時計もないので今何時なのか正確にはわからない。
「(確かそろそろお昼時だったか?)」
ディアボロはそんな(少し前と比べるとだいぶ平和な)ことを考えるが、先ほども書いたとおりここには時計がないので今何時何分なのかは彼にはわからない。
が、お昼御飯ができたら誰かがディアボロを探すだろう。
出かけるときは一応出かけることを伝えるようにはしているのだが、今日はそうしていない。
そのため、白蓮たちは『ディアボロは命蓮寺にいる』と思っている。
青娥や芳香がディアボロを見失ってからある程度時間は経過している。
さすがに二人ともどこかに行っているだろう。たぶん。
ディアボロは亀の中から出て、部屋で座り直す。
念のためにエアロスミスを飛ばそうかとも考えたが、二人とも亀の中まで追ってこなかったため飛ばす必要はないと判断した。
「(食事中に余計な考えはしないでおこう)」
ついでに、余計な心配をさせずに済むよう、食事中は青娥と芳香のことは忘れることにした。
それからまた時間が経ち、昼食を終えた後。
ディアボロはどうすべきか、再び考え始めた。
「(あの仙人が単に聖人の過去を知っているだけでなく、そいつと繋がっているとしたら……)」
誰かに見られる可能性を避けることを優先したためにヘブンズドアーで記憶を覗かなかったことを悔やみつつも、青娥が聖人と繋がっている可能性を警戒する。
権力や力を振りかざして自分の思うが儘にさせたり、それらを笠ににして好きにやってきた事例など過去に幾千万存在するものだ。
「(単独で偵察に動くべきか、それとも第三者を利用して情報を得るべきか?)」
これ以上の情報を得るために、何も直接彼が動く必要があるわけではない。
射命丸にヘブンズドアーやホワイトスネイクを使って取材をさせて情報を手に入れる方法もあるし、時間はかかるものの、阿求という人物が聖人たちと接触した後に彼女と接触して情報を得る方法もある。
しかし、こういうのにはデメリットもあるもの。
射命丸を利用するパターンでは、妖怪だという理由で追い返されてまともな情報を得られない可能性がある。
一方、阿求が聖人達と接触して情報を得るのを待つパターンでは、時間がそれなりにかかる上、紫が情報を改竄する可能性もある。
まあ、聖人たちが射命丸の取材を快諾応じる可能性はあるし、こちらが変装して聖人と接触する手もある。
あらゆる可能性を否定できない以上、手段を絞り込んだうえでより良い手段を選択しなければならないのだ。
「(そういえばマミゾウの能力は化けさせる能力だったな……。自他問わず化けさせられるが、青娥や聖人に見抜かれないならその手もあるな)」
マミゾウの能力は、変装においてはディアボロの知るどのスタンドよりも上だ。
クヌム神では自分の姿しか変えることができないし、イエローテンパランスも大きさを誤魔化すことはできないうえ、味方に『肉』を纏わせようにも恐らく肉が味方を食らってしまう。
マミゾウの能力ならリスクもないうえに、自分も他人も物体も化けさせられる。
しかも外見上の区別はつかない。大きさも化けたものと同じになる。
外見上に限れば、まさに『完璧』であった。
この能力が仙人や聖人達を騙せるかどうかは分からないが、不審な行動をしない限りは、誰にも怪しまれないだろう。
「(マミゾウの手を借りたほうがいいのかもしれない)」
青娥がディアボロの容姿や名前を聖人側に伝えた可能性を排除できない以上、面倒事を避けるために姿は変えたほうがいい。
「(そうと決まれば……あいつはどこにいるんだ?)」
マミゾウがどこに向かうのか気にしていなかったせいで、今彼女がどこにいるのかまったくわからない。
命蓮寺の中にいるのかもしれないし、どこかにでかけているのかも知れない。
ついでに、でかけていたとしていつ戻ってくるのかも知らない。
「(命蓮寺の中を探してみるか……)」
まずは命蓮寺の内部を捜索することにする。
いないのなら、どこに行ったのかぬえあたりにでも聞くことにしたほうがよさそうだ。
探したものの、命蓮寺にマミゾウはいなかった。
ぬえも見つからなかったので、行先を尋ねることすらできなかった。
「…………」
ディアボロは無言でムーディーブルースとスティッキィ・フィンガーズのDISCを入れ替える。
そして命蓮寺の外に移動し、ムーディーブルースを出して能力を発動させる。
すぐに結果は出た。
ムーディーブルースはマミゾウへと姿を変え、移動を始めた。
ディアボロもすぐさま後を追う。まだムーディーブルースは空を飛び出してはいない。
どうやら行先は人里ではないようだが……?
「(こいつはどこに向かっているんだ?)」
ディアボロはどこに行くのかわからないままムーディーブルースについていく。
勿論エアロスミスによる警戒も怠ってはいない。
ムーディーブルースを追いかけているうちに、どこかの森についた。
「(ここは……)」
ディアボロもこんなところがあるとは知らなかった。
紫の記憶から得た場所の情報は、幻想郷ではそれなりに知名度のある場所ばかりだ。
だがこの森はそれなりに知名度のある場所ではないようで、紫の記憶には名前がなかった。
「………………」
周囲を見回しても、誰もいない。
エアロスミスのレーダーには……10を超える反応がある。
「……!」
一旦ムーディーブルースのリプレイを止め、警戒態勢に入る。
この反応は人間か、妖怪か、あるいはただの動物か……。
それは反応の正体が視界に入っていない今は分からない。
「(誘い出すか、背後を取るか……或は、気にせず堂々と動くべきか……)」
マミゾウがこの森に入ったのなら、この森には妖怪がいる可能性が高い。
マミゾウは狸の妖怪だ。そんな彼女がこの森に向かうとすれば、そこにいるのは……。
「(マミゾウは何の用でここに行ったんだ?同族探しか?)」
マミゾウの記憶には、同族の存在が記されていた。
幻想郷は外の世界よりも妖怪の数は圧倒的に多い。
かつて外界に同族がいたのなら、ここにも同族がいる可能性は高いのだろう。
「(反応はまだ向こう側か……)」
ムーディーブルースを戻し、DISCを取り出す。
まだマミゾウを見つけていないのに、何をするつもりだろうか。
「(もしも反応の中にマミゾウがいたのなら、恐らく近くの反応は狸だな)」
不用意に近づけば、何が起こるか想像はつかない。
ならばすぐさま、何らかしらの対処ができるに越したことはない。
突然、黄色い肉がディアボロの身体から現れると、まるで飲み込むかのように彼の体を覆い始めた。
だがディアボロはそれに全く抵抗することもなければ動じることもなく飲み込まれていく。
そして黄色い肉はディアボロを覆い尽くし、形が変わり始めた。
その姿は……
「(流石に大きさを誤魔化すとなると体格の大きい奴を選ぶしかないか……)」
スタープラチナの『本来の』本体である空条承太郎そのものだった。
黄色い肉の正体はスタンドの一つ、『黄の節制(イエロー・テンバランス)』。
実体を持つ肉を操り、その姿を変えることができる。
だが体格を誤魔化すことはできず、衝撃を受けると肉の形が崩れる可能性がある。
しかし、熱すれば弾け、冷やせばスパイク状に凍る性質を持ち、さらに肉に『食らわせる』こともできるこの能力を破るのは容易いことではない。
本体の慢心がなければ、承太郎は敗北していただろう。
承太郎……ではなくディアボロは、森の中を歩いて進んでいく。
目指すはエアロスミスのレーダーが反応している位置。
肉で作った偽りの鎖を揺らし、エアロスミスに自らの周囲を旋回させ続け、そのまま歩き続けるうちに開けた場所を見つけた。
一旦歩くのを止めてよく見ると、木々が覆わぬその場所にマミゾウが狸と一緒にいた。
「(あの狸たちにマミゾウと同じ『化ける能力』があるのかどうかは知らないが……行くとするか)」
マミゾウと再び接触すべく、肉にその身を覆い隠したディアボロは、森の開けた場所へと進み始める。
人が化け狸を化かそうとするなどというのは滑稽な話だが、はたしてこの変装をマミゾウたちは見破ることができるのか。
そしてマミゾウは、ディアボロに力を貸してくれるのだろうか……。