秋の澄んだ空気の中、淡い色の薄く上品なカーテン越しに透ける様に入り込む、爽やかな朝の日差し。
窓を開ければ少し肌寒いくらいの風が柔らかに入り込み、それが逆に身体を適度に刺激して朝の健やかな目覚めには最適な気候と言える。
だが……
窓を開ければ少し肌寒いくらいの風が柔らかに入り込み、それが逆に身体を適度に刺激して朝の健やかな目覚めには最適な気候と言える。
だが……
「……取れて、ない」
私の目覚めは――――最悪の一言に尽きた。
前に広がるのは、昨夜大量に撒き散らしてしまった液体が、カピカピに乾燥し変色してこびりついたスーツやシーツの無残な光景。そして何よりも目立つのは、私の股間部に今だでろりと生えたままの男性器……もとい『あなたも狼に変わりますか』
「はぁぁ……」
その哀れというよりも、もはやまぬけで滑稽とでも言うべき光景に、深い溜息が漏れる。
幸いにしてクレイドルに腰掛けたまま寝てしまった……というより気絶してしまったらしかったので充電だけは行えたものの、今の私の気持ちは朝から日本海溝のように深く暗いブルーだ。
しかもそんな私の気持ちなど全く関係ないと主張するかのように、昨夜のように隆々と天を向いてそびえ立っているのだ。朝から興奮してる訳でもないというのに……
「静まれ……静まれ……」
念仏のように一心に繰り返すも、そんな私をあざ笑うかのように、見事に屹立したままの男性器。何だのだこの自分の思いのままにならない暴れん坊は……!
「はぁぁ……」
その哀れというよりも、もはやまぬけで滑稽とでも言うべき光景に、深い溜息が漏れる。
幸いにしてクレイドルに腰掛けたまま寝てしまった……というより気絶してしまったらしかったので充電だけは行えたものの、今の私の気持ちは朝から日本海溝のように深く暗いブルーだ。
しかもそんな私の気持ちなど全く関係ないと主張するかのように、昨夜のように隆々と天を向いてそびえ立っているのだ。朝から興奮してる訳でもないというのに……
「静まれ……静まれ……」
念仏のように一心に繰り返すも、そんな私をあざ笑うかのように、見事に屹立したままの男性器。何だのだこの自分の思いのままにならない暴れん坊は……!
「……暴れん坊……暴れん『棒』」
ぷ、と一瞬だけ口元が歪んだ次の瞬間、突っ込むようにベッドに突っ伏す。
思わず出たその発言に激しい後悔を覚え、思わずそのまま死にたくなる。私のAIはたった2日の間にすっかり破壊されつくしてしまったらしい。
しかし……私は死ねない、死ぬわけにはいかない。愛しい主の……アキラの為に。
「……まぁ。それよりも、この光景をまずはなんとかしないと、な」
そう決意を振り返り、少しだけ冷静になった目で部屋を再確認すれば、そこにあるのはどれも昨夜の痴態の残骸、残骸、残骸だらけ……
「はぁぁ……」
本日2度目の深い溜息と共に、アキラのいない長い1日が今日もまた、始まった。
思わず出たその発言に激しい後悔を覚え、思わずそのまま死にたくなる。私のAIはたった2日の間にすっかり破壊されつくしてしまったらしい。
しかし……私は死ねない、死ぬわけにはいかない。愛しい主の……アキラの為に。
「……まぁ。それよりも、この光景をまずはなんとかしないと、な」
そう決意を振り返り、少しだけ冷静になった目で部屋を再確認すれば、そこにあるのはどれも昨夜の痴態の残骸、残骸、残骸だらけ……
「はぁぁ……」
本日2度目の深い溜息と共に、アキラのいない長い1日が今日もまた、始まった。
~ネメシスの憂鬱・ファイルⅨ~
「……よし、証拠隠滅」
私の目の前では、全自動洗濯機が永遠の宿敵たるこびり付き汚れを打倒する為に、鈍い唸りを上げている。
ぐちゃぐちゃになってしまったベッドシーツをそのままにしておく訳にもいかず、ましてやアキラの家族に発見されては更に危険・破廉恥極まりなかった為、家事手伝い用のサブアームと飛行ユニットを使い、早々に洗濯機の中に投入したのだ。乾燥・折り畳みまで全てやってくれる最新型の為、あとはその仕上がりを待つだけで良い。またアキラの家族は基本的に日中は誰も居ない為、洗濯機が作動している事を不審に思われる事もなく、その点も不幸中の幸いと言える。
「さて、残りの問題は……こっち、か」
ひと段落した所で視線を下に落とす。見慣れたピッタリと体のラインにフィットした黒と赤のボディスーツに包まれた私の体なのだが、股間部分には普通ではありえない盛り上がりが、未だその存在感を誇示し続けている。
「全く……何故取れないんだ。説明書には安全だと、アレだけ書いてあったというのにっ」
誰も居ない空間に向かい、思わず1人で愚痴ってしまう。本来使用後には本体とコネクトされている神経接続がカットされてすんなりと取り外せる筈なのだが、何故か神経系とのコネクトがカットできず、取り外す事が出来なかったのだ。あの溜息の後、説明書をよく検索したものの何故そうなるかの原因は不明。器具は神姫自身と神経接続される為に強引な引き抜きは危険を孕む為出来ない。
「うー……全く、何でこんな目に……、ぁっ」
部屋に戻ろうと踵を返した瞬間、スーツが擦れて微妙に情けない声が漏れてしまう。
そうなのだ。神経系が繋がったままという事は、常に男性器からの刺激・感覚が私のAIへと流れ込んで来る事になり、その慣れない感覚に私は戸惑うばかりだ。スーツの滑らかな生地と男性器が擦れあうと、生ぬるいお湯に浸かっているようなゾクゾクとしたなんとも言えない感覚が私を襲う。このままではまた変な事になってしまいそうで……
そう思いつつも、指先がモゾモゾと股間の方へと向かい始め……
「はっ!? いけない、早く何とかしないと……」
寸での所でギリギリ理性を取り戻す。このままでは本当に武装神姫ではなく愛玩神姫、いや性奴隷神姫になってしまう。そんな事は……
「……でも、アキラの性奴隷になら私は……いいか……も」
……は。
「だめだダメだ駄目だ! 私は何を考えてしまっているんだっ!」
『ダメだこいつ、早く何とかしないと……』という無数の突っ込みが何処からともなく聞こえてくる気がする。
急がなければ、私の理性がまずい。最早自力でのリカバリーは不可能になりつつある。……気が進まないが、こういう時の駆け込み寺といえばあそこしかないだろう。また生き恥を晒す事になるが、アキラに晒す事に比べれば、選択の余地など一切ない。
「よし、早速!……あぅっ」
……伸縮性が良くてピッタリとフィットする着心地の良いスーツが、今は恨めしい。
「とりあえず、着替えないと駄目だな……」
私は少しでも現状を改善する服を求めて、ふよふよと二階へ戻っていった。
私の目の前では、全自動洗濯機が永遠の宿敵たるこびり付き汚れを打倒する為に、鈍い唸りを上げている。
ぐちゃぐちゃになってしまったベッドシーツをそのままにしておく訳にもいかず、ましてやアキラの家族に発見されては更に危険・破廉恥極まりなかった為、家事手伝い用のサブアームと飛行ユニットを使い、早々に洗濯機の中に投入したのだ。乾燥・折り畳みまで全てやってくれる最新型の為、あとはその仕上がりを待つだけで良い。またアキラの家族は基本的に日中は誰も居ない為、洗濯機が作動している事を不審に思われる事もなく、その点も不幸中の幸いと言える。
「さて、残りの問題は……こっち、か」
ひと段落した所で視線を下に落とす。見慣れたピッタリと体のラインにフィットした黒と赤のボディスーツに包まれた私の体なのだが、股間部分には普通ではありえない盛り上がりが、未だその存在感を誇示し続けている。
「全く……何故取れないんだ。説明書には安全だと、アレだけ書いてあったというのにっ」
誰も居ない空間に向かい、思わず1人で愚痴ってしまう。本来使用後には本体とコネクトされている神経接続がカットされてすんなりと取り外せる筈なのだが、何故か神経系とのコネクトがカットできず、取り外す事が出来なかったのだ。あの溜息の後、説明書をよく検索したものの何故そうなるかの原因は不明。器具は神姫自身と神経接続される為に強引な引き抜きは危険を孕む為出来ない。
「うー……全く、何でこんな目に……、ぁっ」
部屋に戻ろうと踵を返した瞬間、スーツが擦れて微妙に情けない声が漏れてしまう。
そうなのだ。神経系が繋がったままという事は、常に男性器からの刺激・感覚が私のAIへと流れ込んで来る事になり、その慣れない感覚に私は戸惑うばかりだ。スーツの滑らかな生地と男性器が擦れあうと、生ぬるいお湯に浸かっているようなゾクゾクとしたなんとも言えない感覚が私を襲う。このままではまた変な事になってしまいそうで……
そう思いつつも、指先がモゾモゾと股間の方へと向かい始め……
「はっ!? いけない、早く何とかしないと……」
寸での所でギリギリ理性を取り戻す。このままでは本当に武装神姫ではなく愛玩神姫、いや性奴隷神姫になってしまう。そんな事は……
「……でも、アキラの性奴隷になら私は……いいか……も」
……は。
「だめだダメだ駄目だ! 私は何を考えてしまっているんだっ!」
『ダメだこいつ、早く何とかしないと……』という無数の突っ込みが何処からともなく聞こえてくる気がする。
急がなければ、私の理性がまずい。最早自力でのリカバリーは不可能になりつつある。……気が進まないが、こういう時の駆け込み寺といえばあそこしかないだろう。また生き恥を晒す事になるが、アキラに晒す事に比べれば、選択の余地など一切ない。
「よし、早速!……あぅっ」
……伸縮性が良くてピッタリとフィットする着心地の良いスーツが、今は恨めしい。
「とりあえず、着替えないと駄目だな……」
私は少しでも現状を改善する服を求めて、ふよふよと二階へ戻っていった。
「――――んっ。でも……よし、こんな所だろう」
アキラの部屋、サイドボードに固定された鏡の前でくるりと一回転し、今の服装を確認する。鏡の中で一回転する私の姿は、ピンク色のパーカー付ニットワンピースに、膝上までの黒いスパッツというカジュアルな服装になっている。 ニットワンピースのスカート部分はミニ丈だが、フリルのように大きく広がっていて、……その、不自然に盛り上がってしまう股間部分を隠してくれる。またスパッツも黒い為盛り上がりの陰影が出来にくく、それにややきつめのサイズのを穿いたため、ボディスーツの時よりは固定されて幾分は擦れがマシになったようだ。多少はそれでもきてしまうが、それはもうしょうがない。
「さて……急ぐとしよう」
何時もの飛行ユニットを背中に背負う。
その接続部は旧式の物理ジョイント接続式ではなく、電磁石による電磁接続式のを使用している為、服1枚程度ならば間に挟んでも十分な接続力を持つ事が出来る。使用後の服に若干だが電子臭のような焦げたニオイつくのが少々欠点なのだが……
「よし……発進」
するりと窓ガラスの隙間へ滑り込むようにして、大空へとはばたいてゆく。とにかく、この現状を何とかする為に。
アキラの部屋、サイドボードに固定された鏡の前でくるりと一回転し、今の服装を確認する。鏡の中で一回転する私の姿は、ピンク色のパーカー付ニットワンピースに、膝上までの黒いスパッツというカジュアルな服装になっている。 ニットワンピースのスカート部分はミニ丈だが、フリルのように大きく広がっていて、……その、不自然に盛り上がってしまう股間部分を隠してくれる。またスパッツも黒い為盛り上がりの陰影が出来にくく、それにややきつめのサイズのを穿いたため、ボディスーツの時よりは固定されて幾分は擦れがマシになったようだ。多少はそれでもきてしまうが、それはもうしょうがない。
「さて……急ぐとしよう」
何時もの飛行ユニットを背中に背負う。
その接続部は旧式の物理ジョイント接続式ではなく、電磁石による電磁接続式のを使用している為、服1枚程度ならば間に挟んでも十分な接続力を持つ事が出来る。使用後の服に若干だが電子臭のような焦げたニオイつくのが少々欠点なのだが……
「よし……発進」
するりと窓ガラスの隙間へ滑り込むようにして、大空へとはばたいてゆく。とにかく、この現状を何とかする為に。
「……到着」
道中カラスの妨害を受ける事もなく順調に移動を終え、私は神姫駆け込み寺たる『ホビーショップ・エルゴ』の前に立っていた。
「………………はぁぁ」
だが私の足は鈍重な陸亀のように重く、店内への一歩(と言っても浮遊しているのだが)を踏み出す事が出来ないでいる。
それはそうだ。性行為器具で自慰行為に耽った挙句問題を起こして自らの一番恥かしい所を異性の他人に晒してどうにかして貰おうというのだ。冷静に考えれば最早二度と顔を出せなくなるほどの破廉恥極まる行為だ。それにこの事が万が一にも広まってしまったら、それこそ身の破滅と言える。そんな無茶な事を頼みに行こうというのか、私は。
……だが、あの店長ならば、信用が出来るかもしれない。
確かに普段は頭と胴だけしかない神姫や、凄まじいとしか形容し難い豪腕な姉の尻の下に完全に敷かれている、家庭内では粗大ゴミのように扱われる草臥れた中年サラリーマンのような哀愁さえ漂う頼りなげな男なのだが、確かな技術と無駄なまでに溢れているのが傍からでもわかる程の神姫への愛情……。そして何より、私があれだけの事を起こしたというのに、彼は何も聞かず、何も言わず、私をお客として当たり前のように迎え入れてくれている。まさか気づいていないとは思えないが……。その事に関しては、懐の深さを感じさせるものがあるかもしれない。
それにこのままでは、埒が明かないのも事実。自己解決出来なかった以上、誰かに頼るしか手段は残されていないのだ。そう理屈では理解しているのだが……
「気が重い………………えぇぃ、ままよ!」
半ばやけっぱちに謎の掛け声と共にドアをくぐり、一目散に店長がいるであろうレジの前へと突き進む。
「店長、実はお願いが……!」
「あらいらっしゃい、ネメシスちゃん」
「……あれ?」
返ってきた声に思わず拍子抜けする。レジに居たのは無精髭を生やした店長ではなく、更には金髪が目を引く姉の秋奈女史でもなく、綺麗な黒髪のロングヘアをした美しい女性だった。
「すみません、てっきり店長さんが居ると思いましたので……えぇと」
「店長さんなら少し出ていますよ。何か御用なら私がお伝えしておきますけど、どうしますネメシスちゃん?」
「そうですか、急用なのですが。なら少し待たせてもらって……って」
今の会話の流れが、何か引っ掛かる。そうだ、今彼女は私の名前を……
「あの、何故私の名前を? 失礼ですが、貴方とは初対面の筈ですよね」
「嗚呼、ごめんなさいね。私の方は貴方を知っていたものだから。私は戸田静香。時々此処でバイトしてるの。宜しくね、ネメシスちゃん」
「いえ、此方こそ。でも私を知っているとは……」
「あら、ネメシスちゃんは結構有名よ。Cランクでありながら上位ランカーを次々に倒した黒い疾風・脅威の新人って」
ズキリと、ごく僅かにだが心の傷が疼く。出来れば忘れ去りたい過去だが、まだ若い過去の記憶は早々消え去ってはくれないようだ。
「あ、ごめんなさい。何か悪いこと言っちゃったかしら?」
「いや何でもないです。ちょっと考え事をしていただけで」
心配そうに語りかけてくる彼女に、とっさにそう言ってかわす。そんな事を言われるとは、余程顔に出てしまっていたのだろう。
「それって、さっきの店長さんへのお願いかしら? 店長さん程ではないけれど、私も神姫方面には少し詳しい、もし良かったら相談に乗るわよ」
「い、いいいいえ結構ですっ!」
全力で遠慮する。あんな事初対面の人に言える訳がない!
「あら、顔真っ赤よ? 調子悪いからそのせいなのかしら」
心配そうに顔を近づけて此方を覗き込んでくる。ロングヘアがエアコンの風に揺れてふわりといい香りが……って
「ほ、本当に何でも無いですから、店長さんが帰ってくるまで待たせてもらいますのでっ!」
我ながら矛盾したセリフを言っている気がしなくもないが、とにかくこの場の追求から逃れなければ。
「そう……ちょっと残念」
まるで拗ねた子供みたいな表情を浮かべる彼女。昨日の遠野女史とは別の意味で疲れる……
「そうそう、待つならお茶請けでも如何かしら。ココー、ちょっとお客様にねこたままんお持ちして」
「判りました静香。今もっていきますので少々お待ちを」
そうレジの奥へ声をかける静香さん。すぐに奥から声が返ってくる。
「……お待たせしました。神姫茶とねこたままんになります、どうぞ」
やがて奥と繋がっているレジ横のテーブルの上から現れたのは、とても可愛らしいフリルのついたエプロンドレスを着込んだハウリンだった。
私は腰を下ろしてそれを受け取る。
「有難うございます。……えぇと、初めまして。ネメシスと言います」
「どうぞゆっくりしてください。私はココと言います、以後お見知り置きを」
にこりと優しく笑うハウリン……ココさん。でも彼女の顔を見ると、何か引っ掛かるような。
「あ、はい。その服、とても可愛いですね、似合ってます」
そう思いつつも、場を持たせるためにふと目に付いた事柄を口にする。
「あ、ありがとうございます。これは静香のお手製なんですよ。
静香はコスプ……いえお裁縫が得意なので、バトルでもこういった服を着て戦うんです」
顔を真っ赤にして、嬉しさ半分恥かしさ半分という感じで話すココさん。そうか、バトルの時も……
道中カラスの妨害を受ける事もなく順調に移動を終え、私は神姫駆け込み寺たる『ホビーショップ・エルゴ』の前に立っていた。
「………………はぁぁ」
だが私の足は鈍重な陸亀のように重く、店内への一歩(と言っても浮遊しているのだが)を踏み出す事が出来ないでいる。
それはそうだ。性行為器具で自慰行為に耽った挙句問題を起こして自らの一番恥かしい所を異性の他人に晒してどうにかして貰おうというのだ。冷静に考えれば最早二度と顔を出せなくなるほどの破廉恥極まる行為だ。それにこの事が万が一にも広まってしまったら、それこそ身の破滅と言える。そんな無茶な事を頼みに行こうというのか、私は。
……だが、あの店長ならば、信用が出来るかもしれない。
確かに普段は頭と胴だけしかない神姫や、凄まじいとしか形容し難い豪腕な姉の尻の下に完全に敷かれている、家庭内では粗大ゴミのように扱われる草臥れた中年サラリーマンのような哀愁さえ漂う頼りなげな男なのだが、確かな技術と無駄なまでに溢れているのが傍からでもわかる程の神姫への愛情……。そして何より、私があれだけの事を起こしたというのに、彼は何も聞かず、何も言わず、私をお客として当たり前のように迎え入れてくれている。まさか気づいていないとは思えないが……。その事に関しては、懐の深さを感じさせるものがあるかもしれない。
それにこのままでは、埒が明かないのも事実。自己解決出来なかった以上、誰かに頼るしか手段は残されていないのだ。そう理屈では理解しているのだが……
「気が重い………………えぇぃ、ままよ!」
半ばやけっぱちに謎の掛け声と共にドアをくぐり、一目散に店長がいるであろうレジの前へと突き進む。
「店長、実はお願いが……!」
「あらいらっしゃい、ネメシスちゃん」
「……あれ?」
返ってきた声に思わず拍子抜けする。レジに居たのは無精髭を生やした店長ではなく、更には金髪が目を引く姉の秋奈女史でもなく、綺麗な黒髪のロングヘアをした美しい女性だった。
「すみません、てっきり店長さんが居ると思いましたので……えぇと」
「店長さんなら少し出ていますよ。何か御用なら私がお伝えしておきますけど、どうしますネメシスちゃん?」
「そうですか、急用なのですが。なら少し待たせてもらって……って」
今の会話の流れが、何か引っ掛かる。そうだ、今彼女は私の名前を……
「あの、何故私の名前を? 失礼ですが、貴方とは初対面の筈ですよね」
「嗚呼、ごめんなさいね。私の方は貴方を知っていたものだから。私は戸田静香。時々此処でバイトしてるの。宜しくね、ネメシスちゃん」
「いえ、此方こそ。でも私を知っているとは……」
「あら、ネメシスちゃんは結構有名よ。Cランクでありながら上位ランカーを次々に倒した黒い疾風・脅威の新人って」
ズキリと、ごく僅かにだが心の傷が疼く。出来れば忘れ去りたい過去だが、まだ若い過去の記憶は早々消え去ってはくれないようだ。
「あ、ごめんなさい。何か悪いこと言っちゃったかしら?」
「いや何でもないです。ちょっと考え事をしていただけで」
心配そうに語りかけてくる彼女に、とっさにそう言ってかわす。そんな事を言われるとは、余程顔に出てしまっていたのだろう。
「それって、さっきの店長さんへのお願いかしら? 店長さん程ではないけれど、私も神姫方面には少し詳しい、もし良かったら相談に乗るわよ」
「い、いいいいえ結構ですっ!」
全力で遠慮する。あんな事初対面の人に言える訳がない!
「あら、顔真っ赤よ? 調子悪いからそのせいなのかしら」
心配そうに顔を近づけて此方を覗き込んでくる。ロングヘアがエアコンの風に揺れてふわりといい香りが……って
「ほ、本当に何でも無いですから、店長さんが帰ってくるまで待たせてもらいますのでっ!」
我ながら矛盾したセリフを言っている気がしなくもないが、とにかくこの場の追求から逃れなければ。
「そう……ちょっと残念」
まるで拗ねた子供みたいな表情を浮かべる彼女。昨日の遠野女史とは別の意味で疲れる……
「そうそう、待つならお茶請けでも如何かしら。ココー、ちょっとお客様にねこたままんお持ちして」
「判りました静香。今もっていきますので少々お待ちを」
そうレジの奥へ声をかける静香さん。すぐに奥から声が返ってくる。
「……お待たせしました。神姫茶とねこたままんになります、どうぞ」
やがて奥と繋がっているレジ横のテーブルの上から現れたのは、とても可愛らしいフリルのついたエプロンドレスを着込んだハウリンだった。
私は腰を下ろしてそれを受け取る。
「有難うございます。……えぇと、初めまして。ネメシスと言います」
「どうぞゆっくりしてください。私はココと言います、以後お見知り置きを」
にこりと優しく笑うハウリン……ココさん。でも彼女の顔を見ると、何か引っ掛かるような。
「あ、はい。その服、とても可愛いですね、似合ってます」
そう思いつつも、場を持たせるためにふと目に付いた事柄を口にする。
「あ、ありがとうございます。これは静香のお手製なんですよ。
静香はコスプ……いえお裁縫が得意なので、バトルでもこういった服を着て戦うんです」
顔を真っ赤にして、嬉しさ半分恥かしさ半分という感じで話すココさん。そうか、バトルの時も……
「……ぁ”」
「どうかしましたか?」
服を着て戦っていたというワードで思い出した。彼女は以前私が黒かった時代に戦い、倒した相手の1人だ。
「……いえ、何でも」
つい微妙に目を逸らしてしまう。なんとなしに気まずい。
こういった事態を想定していなかったわけではないが、今思い出すと後ろめたい出来事ばかりなのでどうしても意識してしまう。本当は此処の次元で言えば戦った相手1人1人の事は記憶に残っている訳ではないのだが、彼女との戦いは特に苦戦を強いられた上、あのようなコスチュームだった為に非常に記憶に残るモノとなっている。
彼女たちは私の存在に気づいて……
服を着て戦っていたというワードで思い出した。彼女は以前私が黒かった時代に戦い、倒した相手の1人だ。
「……いえ、何でも」
つい微妙に目を逸らしてしまう。なんとなしに気まずい。
こういった事態を想定していなかったわけではないが、今思い出すと後ろめたい出来事ばかりなのでどうしても意識してしまう。本当は此処の次元で言えば戦った相手1人1人の事は記憶に残っている訳ではないのだが、彼女との戦いは特に苦戦を強いられた上、あのようなコスチュームだった為に非常に記憶に残るモノとなっている。
彼女たちは私の存在に気づいて……
『「私の方は貴方を知っていたものだから。」』
……少なくともココさんのマスターの方は、知っている。
「すみません急用を思い出しまして少し外します。それでは―――あっ!?」
「あ、あぶないっ! わっ!?」
少し気持ちの整理をしたい為、急いで立ち上がり……慣れない靴下を履いていた為にツルツルのテーブルの上でおもいきり滑ってしまう。更に私を助けようとして手を差し伸べてくれたココさんの手を掴み、そのまま一緒にもんどりうって倒れこむ。
「あたた……すみません、って……………ぇ」
一緒になって倒れこんだ結果、ココさんの頭は私の股の間に挟まりこむようにして突っ込んだ形になっていて……
「いえ助けられなくて…………え。
つまり、彼女の顔が私の股間……男性器の前にあって、しかも柔らかな頬が私のアレを刺激して……
「もっこ……り?」
「すみません急用を思い出しまして少し外します。それでは―――あっ!?」
「あ、あぶないっ! わっ!?」
少し気持ちの整理をしたい為、急いで立ち上がり……慣れない靴下を履いていた為にツルツルのテーブルの上でおもいきり滑ってしまう。更に私を助けようとして手を差し伸べてくれたココさんの手を掴み、そのまま一緒にもんどりうって倒れこむ。
「あたた……すみません、って……………ぇ」
一緒になって倒れこんだ結果、ココさんの頭は私の股の間に挟まりこむようにして突っ込んだ形になっていて……
「いえ助けられなくて…………え。
つまり、彼女の顔が私の股間……男性器の前にあって、しかも柔らかな頬が私のアレを刺激して……
「もっこ……り?」
「(し、しまったぁぁぁぁぁぁ!!!)」
私の憂鬱は、終らない。