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Justice

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Destiny/Justice ◆H4jd5a/JUc


正義。
正義とは、どのようなものなのだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼女が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
もっと明白な、精神的な―――正義という存在を求めていた。
「………………」
その正義を掲げて―――ひたすらに歩く少女。
名は、白雪宮拳―――剛力番長。その手には、可憐な外見には似合わぬ、巨大な武器が握られている。
「……正義……正義……正義のために……」
何かにうなされたように、ぶつぶつと呟きながら剛力番長は進む。
その顔は晴れやかとはほど遠く、今にも泣き出しそうにも見えた。しかし、彼女の中の『決意』と『罪悪感』が、ひたすた彼女の足を動かす。
「……私は……キンブリーさんを優勝させなければなりません」
それだけ、呟き前を向く。
ただずっと、道が永遠に繋がっているように思えた。
『本当にそうか?』
問う。誰かが、彼女に囁きかける。
『本当に、お前のそれは正義なのか!?』
知らない、知らない、知らない。誰なのかも分からない。
人間とは思えぬ巨体の、奇妙な髪型の男が、自分の頭の中で叫んでいた。
それは、彼女の『未来』で彼女に真の正義を教えてくれる男。
しかし、今の剛力番長にはそれが誰か、分からない。

―――知らない人が、私の正義の邪魔をしているようですわね。
―――私は、人を殺してしまったことを償うためにも、彼を優勝させなければいけないのです。

幻聴、あるいは、人を殺したことからくる罪悪感故の妄想だろう。
もう、剛力番長は立ち止れない。
正義を成すために進む、彼女にできるのはそれだけだ。
そうでもしないと―――彼女は、今にも壊れてしまいそうだったから。

はた、と足を止める。
視界の片隅、わずかに見知らぬ人間の姿が映った。
首輪をしていたかどうかまでは見えなかったが、この場にいる以上、自分と同じような参加者に違いない。

―――優勝、しなければ。
―――優勝して、あの子を生き返らせないと―――
―――それが、……私の、そしてキンブリーさんの……正義!

唾を呑みこみ―――彼女は、その人影に向かってそっと歩み寄る。
できるだけ、苦しめたくはない。相手に気づかれないように近寄り、心臓か脳を貫いて一発で殺してあげたい。
甚振り痛めつけるなど、剛力番長の『正義』が許さない。
だから、慎重に。
剛力番長は、そっと足を一歩踏み出し―――

「……僕をつけるなんて……何のようかな?お嬢さん」

その男に、声をかけられた。


運命。
運命とは、どのようなものだろうか?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
運命とはいかに『確実』なのか―――それが知りたいだけなのだ。
「………………」
目の前であっさりと変わった『運命』に翻弄されるがまま、森の中を進む少年。
名は、カノン・ヒルベルト―――ブレード・チルドレンの一人。その手には、麻酔銃が握られている。
「……火澄……」
思わず口から、一人の少年の名前が漏れた。
死なない運命だったはずの少年。ここに来る前に、謎の少女と男に『殺された』少年。
―――どうすればいい?
カノンは思考する。なまじ賢く、天才的故に、カノンは今のありえない状況に対して冷静な判断ができずにいた。

―――運命は変えられる?そういうことなのか、清隆?
―――しかし、それなら、それならアイズを殺した僕はどうなる!?何のために今まで戦ってきた!何のために仲間を手にかけたと言うんだ!
―――そんなの、分からない、……理解できるはずがない!

不意に、何者かの視線を感じた。
カノンはそっと麻酔銃の引き金に手をかけ、振り向こうともしない。
振り向けば、自分がその人間の気配に気づいたことがばれてしまう。
あくまで平静に、何も知らないふりを装う。
一歩進む。相手も、それに呼応するかのように一歩、出る。
……明確な殺意、狂気は感じ取れない。
ほんのわずかな足音などから考えて、相手はおそらく女性。敵意があるとは限らない。
しかし、カノンの本能は告げていた。
この相手は、きっと殺し合いに『乗っている』。
このまま背を向けていたら、相手に隙を見せることになる。
こうなれば仕方ない。……先にこちらから手を打とう。
カノンは警戒を怠ることなく背後に向きなおり、自らをつけていた相手をしっかりと確認した。
慌てて木の陰に隠れようとしていた彼女は、しかし少し遅かった。

「……僕をつけるなんて……何の用かな?お嬢さん」

それは、小柄な少女だった。
柔らかな金髪ショートヘアーに花型のリボンという女性らしい容貌とは裏腹に、その身には男子用の学ランを羽織っており、更に手には巨大な得物を握っている。
普通に考えれば、目の前の少女に到底振り回せる代物ではない。
しかし、カノンは知っている。人の見た目は強さと比例するはずがないということを。
そう例えば、あの竹内理緒のように―――

「……用事……というほどでもありませんが……」

少女は、すっと何の労もなく巨大な武器を構えて、言った。
あまりにも、当然のように。
「……私の『正義』のために―――死んでいただきたいのです」

刹那。
少女は、――-動いた。
そもそも武器など存在していないかのように、跳躍し。
質量が存在するのかすら疑ってしまいたくなるほどの速度で。

『それ』を―――カノンの脳天に向けて振り落とした。


命。
命とは、どのようなものだろう?
辞書で引けば、望む答えは出てくるだろう。
しかし、彼が求めているのは、そんな文学的な定義ではない。
自分は、『命』に関してはすでに定義に当てはまらないイレギュラーな存在なのだから。

「……ニーサン、大丈夫かなあ……ここにいないといいけど……」
アルフォンス・エルリックは、いるかどうかも分からない兄の姿を探していた。
そして、幼馴染のウィンリイも。
アルが向かう先は、東。
特に理由があった訳ではない。強いて言うなら、図書館になら今の状況を判断するための情報があるかもしれない、と思った程度だ。
とにかく自分が今すべきことは、知り合いを探すこと。
地図を見る限りかなりの広さがありそうではあるが、だからと言って待っているわけにはいかない。
……自分が能天気にしている間に、知り合いの命が奪われてしまうかもしれないのだから。
もう一時間ほど歩いているのだが、今のところはだれにも
「……ん?」
そして、アルは、視界の先に見た。
それは本当に、偶然だった。
しかし、その偶然も、ある男にかかれば『運命』なのかもしれないが。

それは。
「……え―――!?」
少女が、青年に切りかかるその光景だった。


「……っ!」
それは、カノンの長い経験が生きた形となった。
人間の限界ぎりぎりの反応速度で繰り出されたドラゴンごろしは、カノンによって寸でのところでかわされ、カノンの脇を滑り抜けた。
「……いきなり攻撃してくるなんて……穏やかじゃないよ」
やはり、自分の勘は正しかった。
カノンはそう思う。やはり彼女は、殺し合いに乗っていた。
一瞬たりとも目を離さず、用心し続けて正解だったか。
「殺し合いに乗るのが、君の正義なのかい?」
少女の攻撃を回避しながら、カノンは問う。
その顔は涼しげに―――内心焦りながら。

―――これは、まずいな。

少女の実力は、先ほど対面した相手―――趙公明に匹敵するかもしれない。
そう簡単に抜ける相手ではない。
そしてまず、彼女は自分を逃がしてくれない。
公明は殺人鬼というよりは戦闘狂だった。だからこそ、自分のことを再び追おうとはせずに、後に再戦するということに喜びを見出していた。
おそらく―――初めに会った時も、全力ではなかったのだろう。それは、殺意よりも戦意が上回っていたから、と考えるのが自然。
しかし、彼女は違う。
彼女は、殺し合いに『乗って』いるのだ。
彼女の目的は戦いを楽しむことではなく、カノンを殺すこと。自分が一旦引いても、追ってくる可能性も高い。
そして何より、彼女は『全力』だ。

もちろん、相手が殺し合いに乗っているというのなら、反撃もやむを得ない。
もっとも―――相手を殺すつもりはない。
カノンは鋼よりも硬い意志で決めている。……ブレードチルドレン以外の人間は、何があっても殺さない。
だから、目の前の少女が自分を殺すつもりであったとしても、カノンは彼女を殺すわけにはいかない。
うまく彼女を捲いて逃げたいが、実力的にそれも難しい。
この麻酔銃で眠らせるのが得策だろう。
しかし、カノンはそれを躊躇っていた。
より正確に言うならば。

―――こんな化け物が、ここにはごろごろいるのか……!

―――カノンは、『現実』に戦慄していた。
決して、自分は弱い存在ではない。
それどころか、ブレード・チルドレン最強と常に謳われ、それだけの戦績も上げてきた。
負ける要素など、ないと思ってきた。
なのに、今の自分はどうだ?
いくら武器が心もとないとはいえ、

―――公明に、この少女に、防戦一方ではないか。

「……そうですわ……」
少女は、剣を振るう。
物理法則を軽く無視した高速攻撃が、細腕の少女の手から繰り出される。
「……これが……私の『正義』です!」

だから、方法は一つだ。
―――隙を作り、その一瞬を見計らって麻酔銃を打ち込む。
それ以外に、彼女を殺さずに止める方法が見つからない。

―――彼女に、精神的な揺さぶりをかけることだった。

「……正義?人を殺すのが正義だなんて―――立派な正義だね」
「何とでもおっしゃってください。……私は既に人を殺した―――殺してしまった彼女のために、私は優勝させなければならない人がいるのです!」
ドラゴンごろしが、宙を切る。
それをひたすらかわし、カノンはとん、と両足を地につけた。
もしカノンが普通の人間であったならば―――きっと、既に10度は殺されているだろう。
知らず、呼吸が上がる。今まで攻撃を受けずにいられたことが奇跡なのだ。
対して少女は―――息一つ乱していない。
体力?この違いはそんなものではないだろう。
根本的に、彼女にあって自分にない何か、努力や才能では埋められない何かがある。

(そう言えば―――何かの本で見たことがあるな)
通常の人間の数十倍筋肉を使うことのできる人間。
もしかして―――彼女もその類なのだろうか?

「……優勝させなければ、ならない……人……?」
その言葉が、引っかかった。
彼女は、『自分が優勝したいのではないのか?』
少女が続いて口にしたのは、衝撃的な一言だった。
「……ええ、そうですわ。……私はあの方を優勝させ、『彼に全ての参加者を生き返らせてもらう!』そのために私は人を殺すのです!」

―――全ての参加者を、
―――生き返らせる、だって―――?

「……そんなこと……できるはずがないよ。君は騙されているんだ」
きわめて冷静に、言葉を紡ぐ。
カノンからすれば、それは当然の回答だった。
しかし、剛力番長はそれを否定する。
「いいえ、彼は言いました。できる、と。その証拠に、彼は何もない場所から、人型を作り出したのですよ!彼は、不思議な力を持っている!」
本当は、土を対価として、なのだが、等価交換を知らない剛力番長からすれば無から作り上げたように見えても仕方あるまい。
「……手品の類じゃないのかい?君は気付いていないだけで、そこには何かトリックがあるかもしれな……」

「……っ!?」
その刃が、自らのすぐ横にまで迫っていた。
先ほどよりも、更に早い。
常に冷静なカノンとて、一瞬ひやりとしても仕方ないことだろう。
……もしあれを買わせていなければ、きっと今ごと自分は五体満足ではなかっただろうから。
「……貴方が私の言葉を信じないのは構いませんが……どちらにせよ死ぬのならば、納得して死んでいただきたいのです。……貴方は私の正義のために死ぬのだと」

―――何が、正義だ。
少女の言葉に、カノンは言葉にならない苛立ちを覚えていた。
人を殺すことが正義?
この少女は、いつまでそんな戯言をほざくのか。

「……それが、正義?……笑わせるないでくれ」
気づけば。
そんな言葉が、カノンの口から零れ出ていた。
全身が痛む。直接の攻撃を受けたわけではないのだが、それでもあれだけの攻撃を受けて無傷であるはずがない。
「……な、貴方……これ以上私の正義を愚弄すると……」
「何が正義だ……君は知らないからそんなことが言えるんだ。
全ての人間を生き返らせるだって?本当にそれが幸せだと思うのか?
『死んでいた方がいい人間もいる』、それくらい君だって分かるだろう!?」
思わず、語気が荒くなる。

―――そう、例えば。
―――生きていても、人を殺す道しか進めない人間ならどうなる?
―――そんな人間に、生きている価値があるというのか?

「……!?」
少女の顔が、歪んだ。
心当たりがあるとでも、言いたげに。
「君は『悪』もろとも蘇らせるつもりなのか?それで正義と言えるのかい?」
「……そ、そんなこと……死んだ方がいい人間なんて……」
「いない?そう思うかい?じゃあもし、存在するとしたら?このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?」

「……君の行為は、『正義』じゃない―――ただの『エゴ』だ」
それは、まるで自分に呟くように。
そっと、カノンは麻酔銃を抜き取り―――
「……ち、ちが、違います……私は……私は『正義』を……!」
じり、と自分から一歩後ずさる少女に向け、光の速度で引き金を引いた。
それは少女の右胸を貫き―――少女は、そのまま声もあげずに倒れ込んだ。


「……っ……はあ……」
カノンは、草叢に倒れ伏した少女を見、大きく息を吐いた。
何とか、なったのか?
とりあえず、殺さずに済んだ。
さすがに少女が並外れた力を持っているとはいえ、麻酔は効くようだ。
すぐにでも立ち去っても良かったが、しかしカノンはそうしなかった。
その理由は―――

―――くそ……思ったより怪我の状態がよくないな……。

それは、少女に負わされた傷のため。
その瞬間は大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、思った以上に事態は深刻かもしれない。
多少の怪我とて侮ってはいけない。そのわずかな隙が命取りになることはよく分かっている。
少女は決してドラゴンころしのみで戦っていたわけではないのだから。
……恐らくは、疲労もあるのだろう。常なら、ここまで吐き気と似た気分の悪さを催しはしない。
軽い治療しようにも、ふさわしい道具が何一つない。武器は麻酔銃と盾、基本支給品は食べ物とランタン、地図と何も書かれていない白紙の紙。
このままの状態でも今はまだ、いい。しかし再び彼女のような強者と出会ってしまった時に、逃げることも難しくなる。
ましてや―――ブレードチルドレンを殺すのも。
彼らの実力をかい被るつもりはない。もっとも、自分の方が彼らより強い自覚も自負もあるが、100%などとは思えない。体調が万全でないなら尚更だ。
であるから。

―――彼女は、何か道具を持っているかもしれないな。

わずかな可能性かもしれないが、見てみる価値はある。
そして可能なら、少女の武器・ドラゴンころしも奪っておきたい。
あれだけの代物―――おそらく、人の首など一振りで落とせるだろう。
少なくとも麻酔銃よりは役に立つだろう―――持てるのならば、だが。
いくら武器の扱いにおいては天才的なカノンとて根本的な武器の重さはどうにもならない。……まともに持つことで精一杯だろうが。
しかし、それでも持っておいて悪いことはないはずだ。
仕組みはよく分からないが、このディパックは入れたものの重さを感じない作りになっているようだ。
この中に入れておいて非常時にいつでも取り出せるようにすればいい。
……この武器では、ブレードチルドレンを殺すこともできやしない。

「……」
彼女が起きないことを確認して、カノンはそっと彼女に近づいた。
そして、その支給品を確認しようとし―――

ここで、たった一つ、イレギュラーが存在していた。
彼の銃撃の腕は完璧だった。
外してなどいない。支給品の説明に嘘が書いてあった訳でもない。麻酔銃の威力は理解しているし躊躇いも手抜きもしていない。
問題など、何一つなかった。―――カノンの方には。
完璧で、本人もそれを理解していたが故に、気付かなかった。
問題だったのは―――

「…………な、」

―――針の莚に落下しても死なない剛力番長に、『銃弾など効くはずがない』という、その事実だった。

本能が、一瞬にして全身を駆け巡る。
コンマ0.000数秒の間に、カノンの脳に警告を鳴らした。

―――殺される、と。

「……っあああああああああああああああああああああああ!」

それは、幸運だったのか。
不幸だったのか。
少女は、叫び声を上げ、ただがむしゃらにドラゴンころしを振るい。
カノンは、それに研ぎ澄まされた『経験』で気づき。

そして。
攻撃行動と退避行動が同時に行われた結果。
残ったのは―――


轟音が、鳴り響く。
それを知覚したのは、誰か。

少女の剣が、男の首を切り飛ばそうと刃物を振るい。
男は、それを並外れた直感で回避しようとした。

その瞬間。
それと―――全く同じタイミングで。

『土』が―――隆起した。
それは人間の握りこぶしの形に変わり、そして。

武器を握る少女の体を―――その大剣ごと弾き飛ばした。



「……っ……く…………」
数十分後。
森の中を、一人の人物が歩いている。
「……!」
がくり、と。
その影は、膝を折って草むらに崩れ落ちた。
「……なんだ……これは……どういうことなんだ……」
影―――カノン・ヒルベルトは、常の冷静さを欠いた、青ざめた顔で呟いた。
確かに、体調もすぐれなければ、疲労もたまっている。しかし、そんなことではない。
それが、彼に暗い影を落としている理由になどなりえるはずがない。
このくらいの怪我で追い詰められるほど、彼は柔ではない。
カノンが絶望しているのは、その事実ではなく。

「…………本当に……本当に彼女の言っていたように……人間を蘇らせる術があるなら……それなら……」
「それなら……僕は何のためにこんなことを……」
自分の前に突きつけられた、『前提』を根本から覆す現実だった。

もはや、否定などできない。
この場には、人間の領域を超えた連中がいるのだということを。
少女はまともな人間では扱えそうもない剣を平然と振り回し、銃をもろともせず―――明らかに人間とは思えない戦いをしてきた。
そしてこの目でしかと見た―――鎧の男が、数秒にも満たない時間で土の物体を作りだしたその瞬間を。
ドイツ人と日本人のクオーターであるカノンは、外国の書物はほとんどと言っていいほど読みこなしている。
(錬金術……か……?)
そしてその中には、先ほどの現象を思い起こさせる知識も存在していた。
しかし、それにしても、『あれ』は錬金術と呼ぶには化け物的すぎる。
錬金術、賢者の石、ホムンクルス―――あんなのは書籍上、伝説上の産物にすぎない。現実に、しかも現代に存在する証拠とするには弱いだろう。
確かなのは、『自分の目の前で、人間には到底できると思えぬ光景が繰り広げられたこと』、それだけだ。
今思えば―――公明もそうでなかったのか、とすら思える。彼の纏うオーラは、明らかにただの戦闘狂とは一線を画していた。

これも、清隆の仕業だというのか?
これが、『運命』だというのか?
例え清隆であっても、死者を蘇らせることなど、できるはずがない。そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
火澄は死んだ。清隆が言っていた運命は、たやすく覆された。
あの男は―――化け物なのか?
まさか、そんなことはない。いくら清隆でも、そこまでは―――

『本当に、そうか?』
本当にそうなのか?
清隆でもそこまでは不可能だと―――言えるのか?
あの、現実的に起こりえない光景を目の当たりにしてからも?
ブレード・チルドレンだとか、ミズシロ・ヤイバだとか、そんな次元でない、何かだと言う可能性は?

そして、もし本当に人が生き返るのだとしたら。
清隆が本当に、そんなことができるなら?
いや、本人がする必要はない。そのようなことのできる『何か』を、清隆が手中に入れていたとすれば。
ここで自分がブレードチルドレンを殺して―――『何になる?』
ここで、だけではない。自分が殺したアイズも、全て。
全て、何の意味もないのだとしたら。
この『殺し合い』のゲーム自体に、初めから『勝利』などないのだとすれば。

―――自らの『覚悟』は、はじめから無意味なものだったとしたら。

運命は、覆される。

「……そんな……馬鹿なことが……!」
ただの、少女の虚言?
動揺の仕方からして、とてもそうは思えなかった。
それにあの少女は、自分の目的のためには手段を選ばないタイプだった。真っ直ぐで、頑固な―――どこか自分とも通じる信念の持ち主だ。
彼女はきっと、その『正義』を曲げることを許さないだろう。
自分が、病的だと言われようと『ブレードチルドレン以外の不殺』を心がけているように。

かつて、とある国家錬金術師は、とある女にこう説いた。
『翼』を持った人間は、太陽にその翼を焼かれて死んでしまうのだ、と。

それでは。
「……あって、……あってたまるか……っ!」
『片翼』になってしまった『呪われた子供』は、太陽から身を焼かれてしまうのだろうか?

【H-6/道路/1日目 黎明】
【カノン・ヒルベルト@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康、混乱(大)、疲労(大)、全身にかすり傷
[装備]:理緒手製麻酔銃@スパイラル〜推理の絆〜、麻酔弾×17、パールの盾@ワンピース
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ブレード・チルドレンは殺すが、それ以外の人は決して殺さない?
1:僕は―――
2:歩を捜す
3:ブレード・チルドレンが参加しているなら殺す?
4:本当に死んだ人間が生き返るなんてあるのか―――?

※剛力番長から死者蘇生の話を聞きました。内容自体には半信半疑です。



……油断、しましたわ―――
剛力番長は、強烈な眠気に襲われながら、先ほどの行動を反省する。
自分は動揺して―――あの男に隙を見せてしまった。
その結果がこれだ。……確かに剛力番長の体は丈夫だし、銃弾ごときで倒れはしない。
しかし、―――それは麻酔銃が効かないこととは別問題だ。もしかすると、これも制限によるものなのかもしれないが。
今眠ってしまったら殺されるかもしれない―――その精神力で、剛力番長はインドゾウさえ三秒で眠りに落ちる麻酔に耐えたのだ。
あの少年を殺すことはできなかったのが残念だが―――焦る必要はない。
最終的にキンブリーが優勝できればいいのだ。まだ、時間はある。
あの少年が天才的ともいえる銃の腕前の持ち主なのはすぐに分かった。だから剛力番長は、銃弾が当たって眠ったふりをしたのだ。

―――私の正義は……私の我儘だと……?

ずきり、と頭痛がする。
意識が、呑まれる。

―――違います、私は、私の正義は―――

(このまま生きていても、大量の人間を殺めると確約されている人間がいるとして、それでも君は彼を、彼女を生かすのか?そして、その行為を『正義』と呼ぶつもりなのか?)

剛力番長は、確かに『正義』のためなら何でも行ってきた。
諸悪の根源はすべて叩きつぶし、笑顔と共にその『正義』を行使してきた。
しかし、彼女は、人を殺したいと思ったことなどなかった。
たとえ悪人であっても、人を殺すことは正義ではない。
邪魔をする人間には、自分の『正義』を分からせてやればいいだけだ。そう思ってきた。

だから、考えたこともなかった。
生きているだけで、『悪』である人間がいるなんて。

本当に、彼の言った通りだとしたらどうだろう。
人を殺して回るような人間は、『悪』だ。
それは今更問わずとも分かっている。正義の名のもとに粛清しなければならない。
そして、その人間に加担するものも悪。当然だ。
……だとすれば。
自分が、その『悪』を生き返らせてしまったら。
それは、自分が『悪』だと言えるのではないだろうか?

悪と善を判別して生き返らせてもらえばいい?
そんなことができるのか?
人のよさそうな外見でも、『悪』を振るうものは数多くいる。
分かるはずがない。

―――そんな、私は―――
ただ、正義のために。
正義のために、人を殺して、生き返らせようとして―――

彼女の思考は、そこまでで。
剛力番長は、糸の切れた人形のように―――意識を失った。


「……どうしよう……この子……」
アルフォンス・エルリックは、こんこんと眠る少女の前で途方に暮れていた。
自分が先ほど、錬金術で吹っ飛ばしてしまった少女―――剛力番長である。

「……困ったなあ……あの人はどこかに行っちゃったし……」
少女が、男に武器を振るう。
それを見て見ぬふりをできるほど、アルは冷血ではなかった。
少女は殺し合いに乗り、男は乗っていないのか。
二人とも乗っており、少女の方が有利であっただけか。
二人とも殺し合いにのっておらず、ただ誤解が生じただけなのか。
アルにはそこまでは分からない、だが、少なくとも身に危険が及んでいる方を助けよう。
そう判断したアルは―――地面にその両手を押し付け、土の拳を錬成し、少女の体を吹き飛ばした。
もちろん、殺さない程度に多少の加減はして。

「……」
今見た状況からして。
この子は、少なからず危険人物であることは確かだろう。
先に考えたように誤解が誤解を呼んであんなことになってしまったとも考えられるが―――そうだとしても、彼女は刃物を人に向けて平然と振るえることには間違いない。
「……だからと言って、放っておくのもなあ……」
ウィンリイや兄と言った知り合いがいるなら、一刻も早く見つけたい。
その気持ちはある。正直、今すぐにでも走り出したい。
しかし、この子を置き去りにしていいのか。

この子を置いて、あとで死なれてしまったら名前も知らないとはいえさすがに心が痛む。殺し合いに乗っているかも定かではないのだから。
……それに、この子が危険人物であるなら、尚更この場に残してはおけない。
目覚めた後再び別の人間を襲い、殺そうとするかもしれない。
そしてそれが―――ウィンリイかもしれないのだ。
兄や自分なら少女に対処できるだろうが、彼女のような一般人には無理だろう。
「……うーん……」
そして、アルの出した結論は。

ちょい、と少女に触る。
つんつんとつついてみる。
……完全に眠っているようだ。いつになったら目覚めるのかも分からない。
「……よいしょ、と」
そしてそれを確認し、アルは―――自らの鎧の頭部を外し、その少女を中に『入れた』。
大人でも入るサイズだ、小柄な少女など造作もない。
そして少女から少し離れた所にあるドラゴンころし(その名前をアルは知らないが)を回収する。
「…………うーん……僕には必要ないかもしれないけど……預かっておいた方がいいよね」
鎧のアルにとって、その剣の重量など全く関係ない。
ただ、ここに残しておくと悪人に利用されるかもしれない、そう思ったが故に、それを拾って自らのバックに詰めた。
「……よし、と。……早く皆を探さないと」
不安要素は、ある。
鎧の中の少女が、暴れ出す可能性だ。
アルの生命は、鎧の中にある兄の地で書かれた錬成陣によって保たれている。もし彼女がそのことに気づき、刻印を破壊したりすれば、アルは死んでしまう。

―――まあ、錬金術師じゃなさそうだし、そこまでの心配はないかな。

いくら彼女が強者とはいえ、武器がなく身動きも取れなければそう危険はないはずだ。
そう信じて、アルフォンスは再び歩き出す。
―――いるかもしれない仲間を探すために。
自分が抱えているものが、爆弾なのか宝箱なのかまだ分からずに。

【I-6/道路/1日目 黎明】
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0‾2(確認済み、武器ではない)、 ドラゴンころし@ベルセルク
[思考・備考]
基本:兄や知り合いを探し、このゲームに立ち向かう。
0:仲間を探しながらひとまずこの子を保護する
1:ウィンリィを探す。
2:できれば「1st」も探してみる。
※ウィンリィを探しているが、いない可能性も考えています。


白雪宮拳(剛力番長)@金剛番長】
[状態]:精神的疲労(中) 、睡眠中、アルの鎧の中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・備考]
0:(睡眠中)
1:全員を救うため、キンブリー以外を殺す。
2:強者を優先して殺す。
3:ヒロ(名前は知らない)に対して罪悪感
4:私は……悪……?でも……
※キンブリーがここから脱出すれば全員を蘇生できると信じています。
※錬金術について知識を得ました。
※身体能力の低下に気がついています。
※主催者に逆らえば、バケモノに姿を変えられると信じています。
※参戦時期は金剛番長と出会う直前です。

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投下順で読む


025:2つの想い……重ならず アルフォンス・エルリック 050:Escape ~逃逸~
028:真夜中のティータイム カノン・ヒルベルト 067:電気羊の夢
012:犠牲になったような、悲しい顔はやめてよ 白雪宮拳(剛力番長) 050:Escape ~逃逸~

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