城の一階を調べ終えた
ガフガリオンと
レシィは、地下への階段を下りていた。
上方一定間隔ごとに点灯しているランプがあるので、地上階ほどではないが十分な明るさはあった。
これならだれかが潜んでいても、不意打ちを受けるということはないだろう。
「あとは、ここだけのようだな」
とはいえ、そのような心配もする必要はなかった。参加者との遭遇はなく、無事に最後のドアの前まで来ることができた。
「ほかとは少し違いますね……」
取っ手部分が金属の木製ドア。その取っ手をよく見ると、鍵穴がある。
ガフガリオンは試しにそのドアを開けようとした。が、施錠されており微動だにしない。
これまで調べた全てのドアは、最初から開錠されていたか、そもそも鍵穴がないものだった。
これにだけ鍵がかかっているということは――
「だ、だれか中にいるんでしょうか?」
レシィが不安げな表情を浮かべる。
ガフガリオンはそれを横目で流すと、ゆっくりとドアに手のひらを押し当てた。そして力を込めて押すが――手応えがない。
続いて耳を密着させるが、中から音はしない。
「人の気配はないな。……下がってろ」
ガフガリオンの言葉に、レシィは素直に従い数歩退いた。それを確認すると、ガフガリオンも一歩だけ下がり――
ドアを蹴った。渾身の力で。
「ガフおじいさんっ!? な、何を……?」
「びくともせンか。魔法の類がかけられているな」
普通のドアなら衝撃を受けた様子が見えるはずだが、まるで壁を蹴ったように動かなかった。
ガフガリオンは肩をすくめた。あまりこういうことに詳しくないので、魔法を解除して入るという方法もできそうにない。
鍵穴があるということは鍵もあるはずだ。おそらくそれは、参加者のだれかに支給品として渡っているのだろう。
「中はどうなってるんでしょうか……」
「分からンが、今の状況では調べようがないだろう。レシィ、戻るぞ」
ガフガリオンは踵を返した。これで城内はあらかた回ったことになる。
それほど時間を食わなかったのは僥倖だった。まだまだすべきことは山積みなのだから。
「あ、待ってください!」
背にレシィの声を受けて、ガフガリオンは足取りを少し緩めた。
これまでにも何回かレシィを煩わしく思うことがあった。そして、その度に彼にペースを合わせていた。
だがそれもレシィと行動することにメリットがあるからだ。いざとなれば、彼を囮にすることもできる。
そう、だから今は我慢しておかなければならない。全ては自分のために――
「あ……ごめんなさい」
やっと追いついてきたレシィは、申し訳なさそうな顔をして謝った。
ガフガリオンは心中で嘆息しながら、いつの間にか止めていた足を再び動かしはじめた。
はっきり言うと、探索による収穫はほとんどなかった。
包丁の一つぐらいは期待していたのだが、厨房と思われる部屋に食事用のナイフとフォークがあっただけだ。
しかもこんなもの使い道が見つからない。
唯一の有用な獲得物といえば、小麦粉や生肉などの食材や、種々のワインだった。
支給品の食料はパンだけだったので、栄養価の高い肉は重宝する。
ワインなども物によっては飲酒以外の用途がある。アルコール度が高ければ引火にも使えるのだ。
ガフガリオンはいくつか試飲をして、とくにアルコールの強い酒のボトルを一つ袋に入れた。
「さて」
ガフガリオンはレシィを連れて、軽食を取った最初の部屋に戻っていた。
城の調査を終えた今、次の行動を決めなければならないが――
「――これからどうする、と言う前に、確認しておきたいことがある」
ガフガリオンは中央の丸テーブルに置かれているものに目をやった。レシィの支給品袋である。
「おまえの支給された道具は何だ?」
ガフガリオンの質問に、レシィは少し困ったような顔を浮かべた。一瞬の逡巡のあと、彼はおもむろに袋を探りはじめた。
やがて取り出されたものを見て、ガフガリオンは眉をひそめた。
指輪だ。
それも一目で値打ち物だと分かる。はめ込まれている貴石は、魅入ってしまいそうなほどの漆黒の輝きを宿していた。
そしてこの指輪は、あの魔剣と同じ雰囲気に包まれていた。
「魔剣といい、これといい、妙なものばかり支給されているな」
「だから僕も、朝からほとんど触ってないんです」
ガフガリオンは舌打ちしそうになったのを、既のところで押し止めた。
とにかく、レシィの支給品が役に立たないことだけは理解できた。やはり戦闘にはいくらかの不安が残る。
ガフガリオンが黙考していると、レシィはおずおずと口を開いた。
「ねえ、ガフおじいさん。ガフおじいさんの道具って何だったんですか?」
「……ン?」
しばらく思考を巡らしてから、やっとガフガリオンは思い至った。
そうだ、こうして“目の前”に見えているが、それが支給品だとは知らせていなかった。
ガフガリオンはコツコツ、と自分の胸を叩いた。
「この鎧だ」
ゲーム開始直後、明らかに袋に入りきらない大きさの鎧が袋からでてきたのには驚いた。
そして次の吃驚は、もともと着込んでいた鎧と物を比べた時だった。
それに気づかなければ、過信をしたままこの危険に満ち溢れた島を歩いていたかもしれない。
「レシィ、おまえに見せてやる」
ガフガリオンは自分の支給品袋を手に取った。酒が入っていることもあるが、重さの一番の要因は別のものだ。
どうやら支給された武器と道具だけは袋に入れているかぎり重みを感じず、もともとの持ち物や施設内で入手したものは袋に入れても重量があるらしい。
“それ”を持ち続けていたのは、単に余裕があったからだった。しかしこの城を回った今、袋はこのままでは体力を無駄遣いするだけの重さに達していた。
ならば、もうここで破棄しておいたほうがいいだろう。
そう判断して、ガフガリオンは部屋の隅にある一人用の小さい丸テーブルに歩み寄った。
そして支給品袋から“それ”を取り出し、テーブルの中心に置くと――おもむろに抜剣して構えた。
ガフガリオンがテーブルに置いたものを見て、レシィは目を丸くした。
それは兜だった。ゴト、と重たい音を立てて、それは真ん中に鎮座した。
「えっ……」
そしてガフガリオンの取った次の行動に、今度は驚愕した。彼は剣を抜いたのだ。
レシィは一瞬、ガフガリオンが何をしようとしているのか分からなかったが、彼が兜を見据えて上段に構えたのを見て、やっと理解に及んだ。
そう、兜を両断しようと――
紫電一閃。
その刹那の妙技に、レシィは思わず息を呑んだ。
それまでガフガリオンの真上にあったはずの剣は、唐突に兜とテーブルを通り抜けてその下に静止していたのだ。
まるで瞬間移動をしたかのように――だがしかし、確かに“それら”は斬られていた。
ガフガリオンが静かに剣を収めた。そして彼はトン、とテーブルを軽く蹴り上げた。
止まっていた時が動き出した――そのようにレシィは思えた。真っ二つのテーブルが頽れ、真っ二つの兜が床に音を立てて転がり落ちた。
レシィは足元に転がってきた兜の片割れを見た。その断面は驚くほどの滑らかさだった。戦慄ともいえる感覚が背中を走り抜けた。
「切れ味がいい。やはり業物は違うな。……まぁ、それ以外の要因もあるンだが」
ガフガリオンは目を細めながら兜を見つめていた。
レシィはゆっくりと深呼吸すると、まだ興奮が収まらぬまま嬉々として賞賛を送った。
「す、凄いですっ! こんなにいとも簡単に兜を両断するなんて――」
「レシィ、残念だがタネがある」
レシィの言葉を遮って、ガフガリオンは足元にある兜を指差した。そして彼は「手に取ってみろ」と言った。
レシィはそれを拾い上げた。ずっしりとした鉄の重みを感じる。タネとはどういうことだろうか。
「その兜を、力を入れて曲げてみろ」
「……は、はいっ?」
「やってみるンだ」
レシィは困惑した。曲げる、といってもどうやったら鉄を素手の力で曲げるのだろうか。
逡巡をしているレシィに、ガフガリオンが「早くしろ」と急かす。半信半疑ながらも、レシィは兜を持つ手に力を込めてみた。
曲がった。
とはいっても少し湾曲しただけなのだが、それでも確かに曲がったのだ。
レシィは驚きとともに、木の板のような鉄の兜を奇異な目で見つめた。
「こいつがタネだ。最初から装着していたモンだが、重さはそのままで強度が極端に下がっている」
ガフガリオンは、おそらくゲームバランスを保つためだろう、と推測を述べた。
ということは、ほかの参加者の鎧なども全て性能が落ちていることになる。
しかも、ガフガリオンは支給品が鎧だったからこのことに気づけたが、そのような場合でなければ重量が変わらないので変化を知らぬままという可能性が高い。
「あ……
ルヴァイドさん」
そう、彼も鎧を着ていたままだったのをあの会場で見た。となると、防御面での過信を抱いたままである危険性があるのだ。
「知り合いに心当たりがあるのか? ……まぁ、今ここで心配してるだけじゃ始まらン」
ガフガリオンは話しながら、自分の荷物をまとめはじめた。
レシィもルヴァイドに対する不安を抱いたままだったが、ガフガリオンに急かされて支給品袋を手に取った。
すでに準備を終えていたガフガリオンは、それを確認すると、「さて」と前置きをして口を開いた。
「レシィ、これからどう動くかだ――」
【E-2/城前/1日目・午後】
【レシィ@サモンナイト2】
[状態]: 健康
[装備]: サモナイト石[無](誓約済・何と誓約したものかなど詳細は不明)@SN2or3
[道具]: 支給品一式(1/2食消費) 碧の賢帝(シャルトス)@SN3 死者の指輪@TO 生肉少量
[思考]1:ガフおじいさんと同行する。
2:
マグナ達と合流する。
3:マグナにガフおじいさんに貸している剣を渡す。
4:殺し合いには参加せず、極力争いごとは避ける。
【ガフ・ガフガリオン@FFT】
[状態]:健康
[装備]:(血塗れの)マダレムジエン@FFT、ゲルゲの吹き矢@TO、絶対勇者剣@SN2 天使の鎧@TO
[道具]:支給品一式×2(1/2食消費) 生肉少量 アルコール度の高い酒のボトル一本
[思考]:1:(どんな事をしてでも)生き延びる
2:今後の行動を決める
3:一応、マグナとやらは捜してやる。
4:必要があれば、もしくは足を引っ張るようならレシィでも殺す。
5:
アグリアスには会いたくない。
備考:
ガフガリオン、レシィの今後の行動は次の書き手にお任せします。
二人が食事を取った部屋に、両断されたテーブルとガフガリオンの兜が放置されています。
不死の秘法を実現するために欠かせない魔法の指輪。魔力を高める効果がある。
魔術師としての十分な能力を備えた者が、装備した状態で呪文を唱えるか死亡するかで「リッチ」に転生できる。
ただし、肉体の損傷が激しい状態での死亡はリッチ化不可能。
※リッチ
「死者の指輪」の力によって復活を遂げたことで、更にハイレベルの能力を身につけた魔導士。
そのため、竜言語魔法などの特別なものを除いたほぼ全ての魔法を行使できる。
各属性はもちろんのこと、物理攻撃に対しても耐性がある。
天から舞い降りたエンジェルナイトが身につけていたという伝説の鎧。
物理防御力だけでなく魔法防御力と暗黒耐性も上昇。
さらに装備者にHP自動回復効果あり。
最終更新:2009年04月17日 10:53