放送は終了した。
無慈悲にそして残酷に流される声を
ゴードンは唇を噛み締めながら聞く事しか出来なかった。
彼の唇から血が滲み、口腔内に鉄の香りが沁みる。
(すまない、君たちの無念は地球勇者である私がきっと晴らしてみせる!)
それを心の中で誓うことしか、今の自分が極悪非道たるあの
ヴォルマルフという悪人の為に
死んでいった者達に手向ける事が出来ないのだから。
そんなゴードンの様子を
ミカヤはその能力ゆえに敏感に察知し、
敢えて言葉は交わさずに静かに放送で告げられた禁止区域と死亡者に印を付けていた。
放送が終わり、ミカヤが印を付け終わるのと同時に
ゴードンはがむしゃらにリュックを漁り、
中から出てきた食料を片っ端から口の中に詰め込んでいく。
空腹では満足に動くことは叶わない、
これからの為にも今は腹を満たすことにする。
無理やり食料を貪るゴードンの傍らで、
ミカヤはリュックの中から出てきた
紙の箱に入っているブロック状の物体を不思議そうに眺めた後、
思い切って口の中に入れてみる。
それがさくさくとしたクッキーのようなものだと認識した後、
それを一箱だけ食べて、あっさりと食事を終わらせた。
横でゴードンが流し込むように水筒の水を飲み込むと、彼は勢いよく立ち上がる。
彼を奮い立たせるものは地球勇者としての誇りとその正義。
そして、死者の無念が彼の背中を後押ししている。
「ミカヤ君。 キミが疲れているのは承知だが、地球勇者である私には
これ以上誰かが犠牲になる事を黙って見過ごすことは出来ない!
負傷している君はここで休んでいて貰っても構わないが、
私は他の者達を悪の手から守るためにも行かなくてはならない!」
勢いよく捲くし立てたゴードンに対してミカヤはまず軽く微笑み、
ゆっくりと返事を返した。
「私ならもう大丈夫です。
回復魔法に関してなら私の方がゴードンさんより得意だと思いますし、
それに私だって黙って見過ごすことは出来ないですから」
出血量は甘くなく、今だって大分無理をしている筈なのに
気丈に振舞う少女の姿にゴードンは胸を打たれる。
「…そうか、すまない。 キミに対して休んでいてくれと言ったのは失礼だったかもしれない。
着いてきてくれると言うのなら、これ以上キミを無理に止めはしない。
だが、地球勇者として、いや、一人の男としてこれだけはさせて貰う!」
つかつかとミカヤに歩み寄ると彼はミカヤの身体を軽く抱き上げた。
…所謂、お姫様抱っこの形である。
「えっ? 何ッ! キャッ!?」
急にゴードンに抱き上げられ、ミカヤはさすがに思わず声を上げてしまう。
「HAHAHAHA!! 何、気にしないでくれたまえ。
キミが疲れているのなら私が支えてあげればいい話じゃないか?
移動は私に任せてキミは眠っていてもらっても構わないさ。
キミみたいなプリティレディなら百人だろうが抱き上げられるさ!」
歯の浮くような台詞を歯を輝かせながら至極真面目に言ってのけるゴードンに
ミカヤは最初こそ驚き、戸惑いこそしたが妙な安心感を最後には抱いてしまう。
それは覗き見た彼の心が実際には深い悲しみに覆われているのに、
ミカヤを安心させる為だけにわざと陽気に振舞っている彼の本心を知ってしまったからなのかもしれないが。
「キミがもう少し大きくなったら、その時にお礼のキッスを頂ければそれでチャラさ!」
最後の台詞に少し苦笑いした後、「すみません」と一言だけ力無く返すと
それまでミカヤの意識を保っていた緊張の糸はぷつりと切れ、深い眠りへと彼女は落ちた。
腕の中で静かに寝息を立てている不思議な少女を起こさないようにゴードンは心の中で礼を言う。
(本当にすまない、事が事だけにキミを臨時地球勇者助手に推薦したいくらいだが、
今はこの程度で許して欲しい。 それにしても不思議な少女だ。
まるで相手の事を見透かすような瞳をしている…)
一度、ちらりと彼女の顔を覗いてみたが腕の中の少女からは先程まで感じていた
奇妙な感覚は見受けられないようにも感じられる。
自分の勘違いなのだろうかとも思いながら、近くにあった毛布で彼女の身体を包みこむと
ゴードンはミカヤを起こさぬように慎重に階段を降り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時刻は放送前へと遡る。
淡々と階段を降り続けていた
カーチスの耳に宣言されていた通りの放送が聞こえてきた。
主催者によって無感情に告げられていく放送の内容を彼は何かに記述しようとはせずに、
次々とその天才的な頭脳に叩き込んでいく。
足を止めている暇は無い。
彼の中にもゴードンと同じように流れる地球勇者としての魂がそうさせていた。
前方からは既に足音は響くことも無くなっている。
あの女性は階段を降りきったのかと考える。
とてもじゃないが信じられない話だ。
だが、先程の部屋であの女性と対面した時にぶつけられた殺気を思い起こすと
それも信じるしかないのかもしれない。
「…あれは、人の持てるもんじゃあない…」
まるで全ての生きとし生ける者を呪うかのような殺気。
そんなモノは人は持つ事は出来ない。
出来るとするならば、それは既に“魔”そのものだ。
(ゴードン。 アンタはアレを多分洗脳か何かだと思ってるんだろうな。
だが、アレはそんな甘っちょろいものじゃなさそうだ)
洗脳技術などに関してはゴードンはカーチスの足元にも及ばないだろう。
彼の機械工学の知識の上で学び、時にその手を汚した知識が可能性を否定している。
洗脳を受けた人間からはあのような意思は消失し、目的に沿って行動するだけだ。
それらを考えながら、自分がゴードンのパートナーでもあったジェニファーに
してしまった事を思い起こし、表情を曇らせる。
「…俺はあんたとは違う。 だからこそ、汚れるのは俺だけでいい」
カーチスは再度、決意を固める。
十を救うために一を犠牲にしなければいけないのなら、
それをするのは云わば“裏”の地球勇者である自分の仕事だ。
第一、“表”の地球勇者であるゴードンはその一を見捨てる事なんて出来やしないのだから。
此処でゴードンに会い、先程の言葉でそれを再確認できた。
階段の先に出口が見えてきた。
扉は逃げ出した女性により、半分開いたままの状態の先から入り込んでくる光は既に無い。
それを確認し、階段に掛けられていたランタンの一つを取ると彼は外へと出た。
外へと出た彼はすぐに自分に向けられている殺意に気が付いた。
その殺意の先には深い森が見えるだけで其処に姿を捕えることはできない。
殺意の主だけはそれでも特定できた。
「…本当に追う気は無かったんだがな」
先程ぶつけられた殺意を忘れる訳も無く、
というより忘れることなど出来ない程の殺意の主はあの女性にまず間違いは無いだろう。
逃げたとはいえ、自分たちの事を諦めたという訳でも無さそうだ。
カーチスがこのまま此処を去れば、その殺意はきっとゴードン達に向けられるだろう。
ゴードンと一緒にいた少女は見るからに疲弊していた。
「悪いな、あんたとの約束を破ることになる」
今からの結果で、
例え、ゴードンに恨まれようと。
例え、殺人者と蔑まわれようと。
その全ての責を自らに負い、咎を受ける覚悟で。
彼は森へと足を踏み入れた。
殺意は自分が追うと同時に森の深部へと離れていく。
日が落ちた森の中は一層に闇を増し、
カーチスが持つランタンの灯りすら心もとなく感じられる。
(どうやら、俺を誘っているようだな。
チッ、暗視機能なんかが残っていれば良かったんだがな)
全身を機械化した彼の能力は本来なら、
このような闇の中でも日中の如く捉える事ができただろう。
だが、その能力は制限され、殆ど生身の人間と変わらない身体能力しか残されてはいない。
ある程度、奥へとカーチスが入り込んだ時、不意に殺意が消えた。
森は静寂を讃え、葉が風に擦れる音が聞こえるだけである。
(…ありえない。 それ程の達人ではないはずだ)
塔で衝突した時に女性の体術は承知している。
あの身のこなしは殆ど素人のものだった、
昔の自分と同じで前線で格闘するよりも後方の支援に周っている者の動き。
それがカーチスの女性に対する認識だった。
殺意を消すなど、それこそゴードン以上の達人か
自分が作った命無きアンドロイド位しか出来るものはいない。
(…命が無い? まさかッ!)
ある可能性に気づいた刹那、背後に微かな気配を感じ、咄嗟に身をかわす。
振り下ろされたナイフは彼の背中を掠め、浅い傷跡を残している。
奇襲が失敗したことを悟るとすぐに女性はまた、闇の中へと身を隠した。
背中の傷から流れる血の温もりを感じながら、
カーチスは此処が完全に相手のテリトリーの中である事を理解する。
「これも、あいつらの仕込みか…俺が言えた義理でもないが、人を何だと思っているッ!」
放送で名前を呼ばれた者なのかは分からない、だが奴らの傀儡とされたこの女性は哀れだ。
ランタンを地面に下ろし、剣を構え、次の襲撃に備える。
既に気配は消えている。
奇襲を繰り返しながら、こちらの消耗を待つつもりなのだろう。
先の無線機の改造で不調を抱えている肉体に不安を感じながらも、
もう一人の地球勇者としてカーチスは退く事ができなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先程の放送から時刻にして30分ほど経過した所だろうか。
ミカヤを抱き上げたままの移動ではゆっくりとしか動けず、
思いの外、時間がかかってしまった。
やっと見えてきた出口にゴードンは正直安堵する。
ミカヤの前では余裕であると豪語した手前、
途中で休む事無く階段を降りていたゴードンの足が悲鳴を上げている。
ゴードンが思っていたほど、人一人を抱き上げての移動は楽なものではなく。
ミカヤの体重は軽かったから良いものの、それでもこの階段はきつかった。
(た、助かった…これで、やっとこの段差地獄が終わる)
呼吸が乱れてミカヤを起こしてしまわぬように、
息を整えながら扉を身体を使ってゆっくりと押し開ける。
外は既に暗くなっている。
(カーチスは近くにはいないのか?)
自分とカーチスとの距離は既にかなり離れてしまったのだろうか?
そのようなことを考えながら、ゆっくりと辺りを見回す。
辺りには人影は見えないが、前方の森の中でたまに何かの灯りが煌くのが見えた。
(あれはカーチスのものか? …それともあの女性か?)
ミカヤを襲った女性。
ミカヤが持っていた写真付きの名簿から、
あの女性が
オリビアという人物である事が分かったが
それでも何が彼女を強硬に走らせているのかまでは判断がつかなかった。
どんな理由にせよ、正気を失っているであろう彼女を元に戻すのも地球勇者である自分の使命である。
それにどちらが待っているにせよ、確認しておかなければいけない事は両者共にある。
問題は、今、自分の腕の中で眠りについているミカヤの存在である。
このままの状態でもし襲われればひとたまりもないし、
かといって、この場に蔑ろにする事は彼女に嘘をついたことになる。
基本的に正直な人間であるゴードンは判断に迷いかね、
いっその事と思い、彼女を地面に下ろし声を掛けた。
「…ッぅん…」
低く喉を鳴らし、瞼が重たげに開く。
はっきりとは意識が覚醒していない彼女がぼんやりとゴードンの方を見つめている。
「すまないが、私はこの先の森の中を見てこようと思う。
キミは後から付いて来てくれたまえ」
それだけを言い残すとすぐにゴードンは森の中へと駆け込んでいく。
背後でミカヤがよろよろと動き出そうとしているのが分かったが足を止めることは出来なかった。
静寂を保つ森の中で微かに弾き合う剣戟の音が響くことがある。
焦燥感を憶えながら灯りの先にゴードンが辿り着いた時、
それは予想していたものとは違う光景であった。
息を切らし、全身に切り傷を負ったカーチスの姿が其処にあった。
「カーチスッ!! その傷は!?」
駆け寄るゴードンを横目で確認すると、
彼は眉を顰めた。
「無様な所を見られたな、あんたとの約束を破った罰がこれらしい。
ゴードン、気をつけろ。 あいつは何処から来るか分からない…」
カーチスは周囲を警戒したまま、ゴードンにそれだけを告げる。
「…約束に…あいつ? カーチス、相手はあの女性かッ!
キミは追わないと言った筈だぞッ!」
「状況が変わったんでね…ゴードンッ!」
カーチスが自分の後方を見て叫んでいる事に気がつき、思わず振り返る。
其処には唐突に現れた女性が居り、眼前に煌く何かが振り落とされようとしていた。
咄嗟に両腕を交差させ、白刃を受け止める。
額に寸でのところで防ぎとめた短剣はすぐに引っ込み、
その所有者である女性が闇へと飛び込んでいった。
「…危なかった。 馬鹿な、私に気配を察知されないとは…」
背後に迫られるまで、その存在に気づくことすら出来なかった。
驚愕しているゴードンにカーチスは状況を簡単に話す。
「まんまとおびき寄せられたんだ、俺達は。
この暗闇と時たま聞こえる森のざわめきに感覚を狂わされちまう」
それに妙な引っ掛かりをゴードンは覚える。
「だが、彼女はまるで気配が感じられないぞ?
それに君の能力なら暗闇は関係の無いはずだ」
死角を失くす為に背中合わせになりながら、疑問をカーチスにぶつける。
「一つ目の答え、それは多分あいつが生きている人間じゃないからだ。
だから、生命反応が無いあいつは俺の作ったアンドロイド達の様に気配を感じにくい。
二つ目、今の俺の機能はあんたたちと同じ程度しか残されてない」
「それは無い、それは無いぞカーチス。
あの女性、オリビアの名前は呼ばれてはいなかった。
彼女は生きている!」
カーチスの考えを聞かされたが、それは先程確認済みである。
ゴードンからそれを聞いたカーチスは表情こそ変えはしなかったが
全身から怒気を漲らせ始める。
「原理は分からんが、生きながらに死人にされたか…」
カーチスの態度から彼が嘘をついている訳ではない事を察する。
「それならば、彼女を戻す方法もきっとある筈だ」
だが、その上でなお、ゴードンは自らを殺そうとしているものを救おうとする。
そんなゴードンの様子にカーチスは変わらぬ彼に安堵を覚えると同時に彼に苦言を呈する。
「悪いが俺の技術でもそれは専門外だ。
一度、人の身を捨てた者を戻す事は出来ない。
俺がその証拠だ」
カーチスは自分の身体を指し示す。
彼の身体を理解しているゴードンは返す言葉が見当たらず、
一度は黙り込んだがそれでも食い下がろうとする。
それをカーチスが制止しようとする、その一瞬の隙に彼の眉間に衝撃が走った。
「…グゥオッ!?」
額を押さえ、思わず屈み込む。
暗闇からの投石が彼の眉間に当たった様だ。
幸い、目には当たらなかったようだが
屈み込んでいるカーチスの姿に
これが全て自分がごねてしまった所為だとゴードンは思い込んでしまう。
そして責任を感じた彼は思い切った行動に出た。
「ウォオオオオォォッ!!」
投石された方角にゴードンは雄叫びを挙げながら突っ込んでいく。
背後でカーチスが制止しているがゴードンの耳には届かない。
ランタンの灯も届かない闇の中にオリビアの姿を探す。
不意に闇の中からオリビアが短剣を構え襲い掛かってくる。
オリビアの短剣から逃れようとはせずに正面からそれを受け止めた。
ゴードンの右腕を切り裂き、めり込んでくる感触と激痛が伝わってくる。
だが、それを物ともせずに筋肉を引き締める。
微動だにしない短剣を引き抜くことも叶わずにオリビアの動きが止まる。
そこへゴードンはオリビアの鳩尾を目掛けて正拳突きを叩き込んだ。
「これぞ! 地球勇者流『肉を切らせて骨を絶つ』だッ!」
常人ならば今の一撃で気絶する。
そう、常人であるならば。
衝撃に一瞬、前のめりにはなったがオリビアはすぐに体勢を戻し、
油断して弛緩したゴードンの右腕をより深く切り裂ながら短剣を引き抜いた。
右腕から流れる血により、ゴードンは初めて自分が甘い考えで
オリビアを止めようとしていたことを思い知らされる。
「キミは…本当にもう人じゃなくなっているのか?」
カーチスに散々言われた事をゴードンは否定したかった。
だが、目の前の女性は流れる血を見て嬉しそうに嗤っている。
それは到底、正気の人間が見せる貌とは思えないものであった。
けらけらけらと嗤いながらオリビアが再度、ゴードンに襲い掛かる。
残された左腕で何とかオリビアの腕を掴み、
短剣を止めるが左腕一本のゴードンに対してオリビアは
その全体重をかけてじりじりとその刃先を詰め寄らせる。
窮地に陥ったゴードンをカーチスは助けに向かおうとするが
その足が上手く動かない。
「クソッ! 駆動系が熱をもったか?」
身体から不協和音が鳴り響く。
オリビアの奇襲を捌いてきた事による無理は確実に彼の身体を蝕んでいた。
既に左足は引きずるようにしてしか動けない。
それでも彼はゴードンを助けに行こうとする、
一人の友として。
そのカーチスの後方から草の根を掻き分ける音が聞こえる。
振り返ったカーチスの瞳に一人の少女の姿が映る。
弱弱しい動作でここまで歩いてきたミカヤはまずカーチスに気がつくと、
次にその奥で追い詰められているゴードンの姿を捉える。
「…頼む」
ミカヤを見つめながら、カーチスが一言だけ告げる。
その言葉に頷くとミカヤはゴードン達の方に向かっていく。
「わ、私は大丈夫だ! それよりもキミはカーチスを連れてここから離れ…ゥウォッ!」
ミカヤの姿に気づいたゴードンが彼女を必死に止めようとするが
力を緩めれば即座に詰め寄られてしまう為にそれ以上動くことが出来ない。
「あなたは私を助けてくれました…今度は私があなたを助けます!」
ある程度の距離まで近づいたミカヤは、目を閉じると魔道書を携えて魔力を集中させる。
(この魔道書から感じる暖かい力。 きっと私にも使える筈…力を、下さい!)
貯えられた魔力が魔道書へと流れていく。
目を見開き、彼女は唱える。
「天駆ける星々の輝きよ、我が下に集いて汚れし大地を浄化せん…!」
放たれた魔力は天へと昇り、弾け飛ぶ。
散り散りになった魔力はその姿を星々へと変えて、辺り一面にその輝きを降り注ぐ。
「これは…流星? いや、光か?」
幻想的ともいえる光景にカーチスも思わず目を奪われる。
降り注ぐ輝きは彼の身体に当たる前に消滅し、
彼には何の影響も与えない。
だが、オリビアへと降り注いだ輝きは
まるで彼女を断罪するかの如く、その身を容赦なく吹き飛ばした。
カーチスと同じように何の影響も受けなかったゴードンが
死の束縛から解放されて膝を着いた。
それだけを確かめると、ミカヤはその場に倒れ臥した。
「ミカヤ君!」
ゴードンはすぐにミカヤへと駆け寄り、その身を起こす。
肌は激しい疲労により蒼白となってはいるが、呼吸はしっかりと続けている。
安堵したゴードンはゆっくりとミカヤを寝かせると
吹き飛ばされたオリビアの姿を探す。
オリビアは先程までゴードンのいた場所の少し奥に仰向けに倒れていたが、
それでもなお起き上がろうとしている。
「本当にもう、唯の人ではないのか…」
痛みを意に介さないその動きにゴードンは
改めて彼女が置かれてしまった運命を嘆く。
物理的に彼女を止める為には間接の
何本かを折らなくてはいけないと覚悟を決める。
だが、オリビアが立ち上がりきる前に異変は起きた。
彼女の指先から徐々に光の粒子へと変じていき、
彼女がはめていた指輪が地に落ちる。
「こ、これは…」
ゴードンが突然起こった異変に困惑していると、
オリビアが彼へと振り向く。
その表情は先程までの無機質なものではなく穏やかなものであり、
申し訳無さそうな表情をしたまま、深々と頭を下げた。
その間も彼女の身体は光へと変わっていく。
「待て、待ってくれ! 私はキミを…」
ゴードンの嘆きを彼女は気にしないでというように頭を振る。
彼女は既に腕は消滅していたが祈るような構えで瞳を閉じて天を仰いだ。
最後に微かに、
想い人の名を呟くと、その肉体は光となって闇へと溶けた。
「何て…何て事だッ! 私は地球勇者失格だ…目の前の女性一人も満足に助けられないとは!」
地面を殴りつけるゴードンにカーチスが足を引きずりながら傍に来る。
カーチスは項垂れるゴードンの襟を掴み無理やり立ち上がらせた。
「ふざけるなッ! あんたがそんなんじゃ、あの女が浮かばれねぇだろ!
地球勇者失格だなんて言ってる暇があったら、さっさとその腕でも止血しろ!」
それだけを言うとゴードンを突き放し、彼はオリビアが消滅した辺りに向かう。
彼女の肉体は消滅したが、その場には彼女の衣類等は残されている。
そこからカーチスは残された首輪を拾い上げる。
「カーチス、キミはそれを…」
ゴードンがそれに気づき、彼に問いかけようとしたが。
「今はあんたに言える事は何も無い」
首輪を指でトントンと叩き、カーチスが答える。
その意図を察したゴードンは追求を止め、
代わりに止血の為に腕を縛りながら礼を告げる。
「すまない、カーチス。 確かに私は彼女の為にも地球勇者を辞める訳にはいかなかった。
そうだ! 礼と言っては何だが君の傷を治すことも出来るが?」
ゴードンらしい立ち直りの早さにカーチスは安心しながら、
その申し出は却下する。
「俺のは内部部品の問題なんでね、多分あんたの方法では治せないさ。
それに、俺にもやらなければいけない事がある。
悪いがあんたとはここでまたお別れだ、あの女の荷物はあんたが使いな」
カーチスがその場を去ろうとした時、
一陣の風が吹いた。
はためくオリビアの衣類から一枚の羽が舞い上がり、
思わずカーチスはそれを掴んだが、
握られていた手を開いた時にはそこには何も無かった。
(……幻か?)
フッと鼻で笑いながら、彼は闇夜へと消えた。
カーチスが去った後、残されたゴードンはミカヤの荷物から
回復の杖を取り出すと止血した腕の治療を開始する。
傍ではミカヤが深い眠りについている。
今度は無理に動かす事も出来ないだろう。
この森の中で一夜を過ごすことを決めて
カーチスが残していったランタンの灯りを見つめていた。
【B-2/森/1日目・夜】
【ゴードン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:右腕に切傷(重症、止血済み、治療中)
[装備]:
ダグザハンマー@TO、回復の杖@TO、バルダーダガー@TO
[道具]:支給品一式×2
参加者詳細名簿(写真付き)@不明、
呪いの指輪@FFT
[思考]1:ミカヤを守る
2:休憩と今後の方針決め
3:打倒ヴォルマルフ
【ミカヤ@暁の女神】
[状態]:昏倒
[装備]:スターティアラ@TO
[道具]:支給品一式、
[思考]1:疲労による昏倒により思考不能
【カーチス@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:背中及び数箇所に切傷(軽症)、左足に異常(要修理)、若干の性能劣化
[装備]:オウガブレード@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式
鍵@不明、オリビアの首輪
[思考]1:手に入れた首輪を解析して取り外し方法を調べる
2:一旦、
アティに連絡するか?
[備考]:ゴードンは何故オリビアがアンデット化したのかは把握していません。
【オリビア@TO 死亡】
【残り38人】
最終更新:2012年07月29日 23:51