Unavoidable Battle◆j893VYBPfU
「おい、貴様そこで何をしている?」
背に投げかけられた、青髪の青年の冷えきった言葉に。
わたしは血も凍る思いで声のした方へと振り返った。
どうやらミカヤ君の知り合いであるその青年は、
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。
第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!
いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!
「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
これは海よりも深い事情があってだな…」
このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
なんとか弁解する方法を見つけねば!
「…今更、言い訳と命乞いか?
無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」
――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。
猛烈に悲しんでいる!
◇ ◇ ◇
俺は沸き上がる雑念を今一度振り払うと、城内の探索を再開した。
まだ何か使えそうなものがあるかも知れず、
あるいは他の参加者がいるのかもしれない。
あと、肉があれば言うことはないのだが…。
だが、俺の期待は全て裏切られ、徒労のまま一時間が経過する。
そして――。
「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。」
――卑劣な手を。
俺はヴォマルフと協力関係にあるらしき男の、自己陶酔めいたその放送を。
軽蔑と嫌悪感を抱きながら、一言一句に及ぶまで聞き覚えた。
臨時放送の意図など、もはや考えるまでもない。
だが、考えさせられることは多々ある。
このゲームに積極的に乗った“貢献者”とやらが存在するという事。
放送の間隔と制限時間が等しくなった為、積極的に動き回らねばならぬという事。
首輪が全ての参加者にとって特別な付加価値を得たという事。
武器庫が全て施設に集中するため、その周辺での遭遇と戦闘が加速するであろう事。
このままでは、この殺し合いは否応もなく加速することだろう。
俺はこれから予測される事態の数々に重い溜息を吐きながら、
まずは“武器庫”とやらの確認に、城内の地下室へと向かった。
やがて、俺はそれを見つけ扉の前に立つ。
その先には、神殿の如き威容を感じさせる、純白の博物館があった。
“武器庫”という呼び方から、傭兵団にある倉庫のような猥雑なものを想像していたが。
世界が異なれば、武器庫の形式も大きく異なるのか?
いや、違うな。これも
ヴォルマルフ達による演出と考えるべきだろう。
ただ、その純白に清められた空間には。
大義の欠片もない殺し合いで無辜の人間の首を狩り、その証を捧げて回る外道を
『神聖な儀式』だと来訪者を唆すような、製作者達の悪意が透けて見えた。
だが、奴らの思惑に大人しく従ってやる気は更々にない。
ならば――。
一度、「特別な処置」とやらが万全か否か試してみるか?
俺は庫内へと踏み込むと、まっすぐに俺の名が刻まれた台座の前へと向かい。
昔、俺の親父から貰った剣が収められている硝子の箱を確認すると。
掌を組んで一つに固めたその拳を、渾身の力で叩きつけた。
――衝撃音が、庫内に響きわたる。
腕にまで伝わる、異様な手応え。
だが肝心の硝子の箱は傷一つ、罅一つ入ることはなく。
常軌を逸したその健在ぶりを、この俺に見せつけた。
――なんだ、これは?
硬い。
異常なまでに、硬い。
硝子本来の硬度を完全に超越した、その異常極まる堅牢。
まるでかつての
漆黒の騎士の鎧に斬り付けた時のような
その異常性に、俺は少なからず動揺を覚えた。
この手応えには、散々に覚えがあるが故に。
そして、キュラーの「特別な処置」への自信に納得する。
もし、これがあの『女神の祝福』と同等の処置が施されているのなら?
主催者側の意図を無視して武器だけを得ようとする、
参加者達のあらゆる努力は無に帰すだろう。
だが、俺は鼻を鳴らす。
敵が犯した、致命的な不手際に。
もし、これが俺の想像通りの措置を施しているならば。
それに傷を与える術も、また俺の手元にある。
――ぬかったな、キュラー。
俺は同じく『女神の祝福』が施された神剣――エタルドを鞘から引き抜き。
深く腰を落とし、大きく脇に構え。
――俺にこれを与えた事を、後悔するがいい。
構えた神剣を、水平に薙ぎ払う。
ぱかん、と乾いた音が鳴り。
俺の斬撃は、硝子の箱の天板を見事切り裂いた。
だが、 硝子の天板がゆるりとずれ、地面へと落ちたのと同時に。
「……台座が、光っ――――?」
閃光、轟音、そして強烈な衝撃に俺は吹き飛ぶ。
その原因が、台座自体が爆発したものである事に気づいたのは、
俺がすぐ後ろの台座に叩きつけられて気を失い、
しばらくして意識を取り戻した後の事であった。
「……ぐっ……」
身体中の突き刺すような痛みが、意識を鮮明にする。
いや、“それら”は実際に突き刺さっていた。
見れば爆発で砕け散ったものが俺を装飾し、赤と透明の無骨な彩りを添えている。
ただ硝子が目に突き刺さらなかったのは、不幸中の幸いというべきか。
俺は己の愚かさを恥じ入る。
そもそも、考えておくべきではあったのだ。
これだけ周到に多くの人間を拉致し集めた連中が、
初歩的な手抜かりをするはずがあるのかという事を。
案の定、収められていた俺の剣は、爆発の衝撃で根元から折れていた。
これでは、殆ど使い物になりそうにない。
無事であるのは、手に持つエタルドのみである。
つまり、俺は無駄に傷だけを負ったという事か。
だが、今更悔いた所で仕方ない。
俺は体中に突き刺さる硝子を一つ一つ引き抜き。
ばらばらになった形見のリガルソードを仕舞い、
傷の応急措置を行うと、この場を後にした。
◇ ◇ ◇
――しばらくして。
俺は武器庫の向かい側にある、三つの木製の扉の前へと立っていた。
やはりというか、どの扉も施錠され「特別な措置」が施されている。
だが、それは裏を返せば扉を破壊して先を行く事は可能という事になる。
そして、付け加えればそれもまた爆発する可能性があるという事になる。
「………………………」
――いや。一度や二度程度の失敗で懲りるなど、俺らしくもない。
俺は俺を貫き通せばよい。賢しく考えて危険を避けるなど性に合わん。
やれることをやり、失敗を繰り返しても。
そのまま前に突き進めばそれでいい。
そう開き直ると、俺は中央の扉の前へと立ち。
俺の敵にして師の動きを記憶より呼び起こし。
その何物をも断つ剛剣を模倣、――もとい再現を行う。
「月光――」
その一撃は、外壁と施錠ごと『措置』の施された扉を見事両断した。
俺は爆発に備えて身構えたが、その扉が爆発することはなく。
崩れ落ちた扉の上半分が、その先へと消える――。
「………?」
破壊した扉の向こう側は、先の見渡せぬ漆黒があるばかりであった。
まるで物質化した闇を敷き詰めたような、その空間の先に扉は落ち。
だが、それが地面に落ちた音は聞こえず。
俺は扉があった場所に頭を突き入れ、その先を覗き込むと。
そこにはこことはまるで別の、地下通路があるばかりだった。
そして、その真下には俺が切り落とした扉が落ちている。
「…行ってみるか。どの道、他にあてもない」
俺は破壊した扉をくぐり抜けると、その正面にも
『武器庫』と書かれた部屋が目の前にあった。
怪訝に思い通り抜けた道を引き返すと、
確かにそちらにも俺がいた『武器庫』は存在する。
「…どういう事だ?これは、一体…」
だが、論拠もなく一々考えた所で答えなど出るはずもない。
俺は先へと進み、新しく見つけた『武器庫』の扉を開け、
その中を覗くと――。
――その部屋の中で、俺の戦友を相手に言うもはばかる不埒な行為に走る、
不審な中年男を発見した。
◇ ◇ ◇
「はあっ…、はあっ…」
わたしは右腕の切傷を治療の杖で塞ぎ終えると。
意識を失ったままのミカヤ君を背負い、
薄暗い地下通路を、長い間さ迷い歩いていた。
ミカヤ君は血を失い過ぎた事により、低体温症を起こかけていた。
この夜空の中薪を起こせば、ゲームに乗った敵にまで居場所を教えかねない。
なによりこのまま外気に彼女を晒せば、最悪凍死すら有り得ると判断し、
近くの塔へと戻り、毛布や暖炉といった暖を取れるものを探していたのだが。
――残念な事に、そんな都合の良いものなど一切なく。
ただ徒に時間を浪費している内に、キュラーとやらの臨時放送を迎えてしまった。
その邪悪に思う所は多々あるのだが、今はミカヤ君を救う事こそが先決と思い至り。
放送内容にあった地下室へと向かい、そこに一縷の望みを託していた。
だが…。
――ない。
そこも純白の大理石による悪趣味な空間があるばかりで、
暖を取れる空間などどこにも見当たらなかった。
――どこにも、ないではないかっ!
運命の無情さを憤ろうとも、どうにもならない。
ミカヤ君の体温は、こうしている間にも奪われ続けている。
ならば――。
「仕方あるまい…」
――ミカヤ君、許せよ…。
わたしはミカヤ君の服を脱がして肌着だけの姿にすると、
それにならってわたしも半裸になり、彼女を優しく抱き寄せる。
――酷く、冷たいな。
まだ女性としての成熟が始まる前の、か細く未熟な少女の身体。
だが、女性特有の柔らかさは健在で、その感触に戸惑いはするものの。
触れている箇所が凍える程に冷たく、わたしは身震いを起こす。
だが、これこそが彼女が今味わっている、
いや、わたしが徒労により味あわせてしまった寒さなのだ…。
――わたしは、彼女とより密着の度合いを深くする。
そうだ。どうかわたしから多くの熱を受け取り、
その元気をいち早く取り戻して欲しい…。
だが、ここでわたしは一つ残念な事を思い出す。
ここは『武器庫』だ。
このままでは“武器を調達しに”このゲームに乗った者が
他の参加者の首輪を提げてやってくる可能性がある。
そして、今のわたしはミカヤ君とともに無防備を晒しているのだ。
――これは非常に不味いぞ、ゴードン。
第一、この光景を誰かに見られれば、あらぬ誤解を受けかねない。
特にあの悪魔達に見つかれば、何を言われるか知れたものではないではないか!
わたしは思い直すと、ミカヤ君を抱きかかえたまま
『武器庫』からいち早く退避しようとしたのだが。
「おい、貴様そこで何をしている?」
――どこかしら冷ややかな声が、庫内に響き渡り。
退避するよりも早く、わたしの懸念は見事的中してしまった…。
◇ ◇ ◇
背に投げかけられた声のした方へと、血も凍る思いで急ぎ振り返ると。
武器庫の入口の前に、蒼髪の鍛え抜かれた身体を持つ男が立ち塞がっていた。
その顔には覚えがある。詳細名簿に記載されていた「
アイク」という青年だ。
確か、彼はミカヤ君の知り合いだったはず?
そして、彼はその名簿に記す所によれば――。
「誰もが古い友のように親しげにその名を口にする。
【蒼炎の勇者】と」
その内容が正しければ、彼は我々の敵ではない。むしろ味方だ。
そして、おそらくは誰にでも優しい気さくな好青年なのだろう。
しかも、彼は【蒼炎の勇者】…。
そう、わたしと同じ勇者なのだ!
――おお、素晴らしいぞゴードン!これは、実に幸先がいい!
わたしはどこかしら強ばった面持ちの異世界の勇者に、
小粋なジョークを交えた小話でその緊張を解きほぐそうと話しかけるよりも早く。
「ミカヤに一体何をしていると聞いている?」
…………………はい?
警告というよりは威嚇に等しい程に、低く声を唸らせ。
ゆっくりと背中の剣を引き抜き、大股で近付いてくる。
おい、どういう事だゴードン?
好青年と評される割には、何だか空気が酷くおかしくはないか?
彼はこのわたしを“仲間”というよりは“敵”を、“敵”というよりは
“穢れきった汚物”を見るような目で睨み付けてきた。
――そこで、唐突にわたしは思い出す。
このわたしとミカヤ君の状態が、今どうなっているかという事に。
そして、ミカヤ君の知り合いがそれを見れば、
どういう誤解を招きかねないのかという事に。
な、な、ななななななな!何ということだ!ゴードンッ!!
一体、何の為に剣を抜いたのかなど、もはや考えるまでもない。
つまりは、わたしを斬り捨てるつもりなのだ。
第三十七代地球勇者である、このわたしを!
意識のない少女に暴行する変態と見倣して!
いかん!
いかん!
いかん!
いかんぞ―――!!
「NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
これは海よりも深い事情があってだな…」
邪悪なる敵と戦って、敗れて散るのはまだいい。
悪は残るが、このわたしの遺志を引き継ぐものは必ず現れるし、
命懸けで悪に立ち向かってこそ地球勇者の本懐でもあるからだ。
――だが、この挑まれた戦いは違う!あまりにも酷すぎる!
わたしが卑劣極まりない強姦魔と誤解され、正義の裁きを受けるだなどと!
このままでは、わたしがかの青年に対して誤解を解かぬ限り!
どう転んでも「強姦魔」の評価は揺るぎないものと成り果ててしまう!
屈辱だ!
地球勇者としてあまりの屈辱だ!
魔界勇者などというレベルを、はるかに超越した屈辱だ!
このままでは本当に変態と見倣された挙句、殺されてしまう!
しかも、この空間には逃げ場がない!
なんとか弁解する方法を見つけねば!
――だが、かの青年は酷く冷ややか声でわたしの弁明を拒絶する。
「…今更、言い訳と命乞いか?
無様だな。貴様も戦士ならせめて武器を取れ。
せめてもの情けだ。最期の死に華程度なら咲かせてやる。
それとも、女子供相手にしか勇敢には振る舞えないのか?」
剣の切っ先をこのわたしに突き付ける青年。
その声は、まるで死刑判決を述べる裁判官のように。
漂白された庫内に、無慈悲に響きわたった。
わたしの声は、彼には決して届かない。
誤解を解ける唯一の鍵であるミカヤ君は、未だ眠りについたまま。
これでは、説得など出来ようはずがない。
――話しを聞いてくれ青年よ!わたしは、わたしは今…。
猛烈に悲しんでいる!
【B-2/塔の地下武器庫/初日・夜中】
【ゴードン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:半裸、右腕に切傷(応急処置済)
[装備]:
ダグザハンマー@TO、回復の杖@TO、バルダーダガー@TO
[道具]:支給品一式×2
参加者詳細名簿(写真付き)@不明、
呪いの指輪@FFT
[思考]1:NOォォォォオオオ!! 違う、違うんだ青年よ!
2:目の前の青年(アイク)の誤解を、なんとか解きたい。
3:ミカヤ君!どうか早く、早く目を覚まして欲しいっ!
[備考]:ゴードンは何故
オリビアがアンデット化したのかは把握していません。
右腕の負傷は、治療の杖により傷口は塞いでいますが、完治していません。
激しい運動をした場合、再び傷口が開く可能性があります。
【ミカヤ@暁の女神】
[状態]:半裸、昏倒
[装備]:スターティアラ@TO
[道具]:支給品一式、
[思考]1:疲労による昏倒により思考不能
【アイク@暁の女神】
[状態]:全身にかすり傷・硝子による刺し傷・軽度の火傷
左肩にえぐれた刺し傷・右腕に切り傷(全て応急処置済み)
貧血(軽度)、中程度のダメージ。
[装備]:エタルド@暁の女神、リガルソードの柄@蒼炎の軌跡
[道具]:支給品一式(アイテム不明、ペットボトルの水一本消費、地図は禁止エリアに穴が開いている)、応急措置用の救急道具一式
[思考] 1:『蒼炎の勇者』として、この場で為すべきことを為す。
(テリウスの未来の為、仲間と合流しゲームを完全に破壊する)。
2:主催と因縁がありそうな者達(ラムザ・アティ)と合流し、協力者と情報を得たい。
3:
リチャードと
シノンの死体を見つけ次第埋めてやる。
4:漆黒の騎士に出会ったら?
5:今度
ネサラに出会った場合は、詳しく事情を問い詰める。
6:目の前のミカヤに手を出そうとしている変態を始末する。
[備考]:リガルソードは殆ど柄のみになってます。
折れて粉々になった刀身は、支給品袋に回収しています。
[共通備考]:【B-2】の塔、【E-2】の城、【H-7】の城、【C-6】の城の
武器庫前の地下通路の扉はそれぞれがワープ装置で繋がっています。
支給品の鍵で解錠するか、『女神の祝福』が施された武器で
破壊する事が可能です。
【B-2】の塔と【H-7】の城を繋ぐ扉が、アイクによって破壊されました。
【H-7】の城にある武器庫のアイクの台座が硝子ごと爆発しました。
内部にあったリガルソードは折れましたが、アイクが持ち去っています。
最終更新:2012年09月04日 10:30