日も暮れだし、徐々に夕闇が迫る中で僕達は城に向かう足を止める事無く、
マグナさんが話すことに耳を傾けていた。
彼が息をつき、話を終えた。

「…話は分かりましたが、俄かには信じがたい内容ですね」

マグナさんの話を聞いて、受けた第一印象は正直な所は信じ難いというものだった。
彼が言うにはラハールさんが持っている剣は魔剣と呼ばれ、
ヴォルマルフの裏に潜んでいると思われるディエルゴに対抗しうるものである事。
だが、それを扱う事ができるのは一握りの抜剣者と呼ばれる者だけで、
名簿を見る限りではアティベルフラウの二人だけが彼の知る限りの抜剣者だという。

だけど、僕が困惑したのはこの事ではない。

彼が言うには、彼は僕達とは違う別世界の「リィンバウム」と呼ばれる世界の住人で、
その世界では僕の知っている召喚術とは別の召喚術が有り、
それは別世界の住人をリィンバウムに呼び出す事も可能なのだという。

その話を聞いた時、一人で困惑している僕を置いてラハールさんは以外にも平然としていて、
「面倒臭い術だな。 直接行け、直接」などと無茶な事を言っており、
アルフォンスと名乗った隻眼の男も何か思い当たる節があるのか黙り込んでいた。

異世界。

僕の中でも思い当たる節は…ある。

『ルカヴィ』…そもそも彼らはいったい何処から来たのか?
それは彼らとの決着をつけた後でも正直分からなかった。
もしかしたらあの悪魔達もその異世界から来た者達なのかもしれない。
けど、結局はこれは僕の憶測に過ぎないし、奴らの正体に繋がるものではないだろう。

もう一つ重要な事はマグナさんは今話してくれたことを先程まで忘れていたという。
なら何故、僕はヴォルマルフ達のことを何一つとして忘れていないのかということだ?
奴らの正体を記憶から封じれば、それだけで優位性を獲得できるものであるというのに…
ここから導き出せる仮定はヴォルマルフとディエルゴは協力関係にはあるが、
互いに信頼関係はないという事だろう。
ともすればディエルゴ側はヴォルマルフを捨て駒程度に考えているのかもしれない。

今までは正直な所は奴らへの対抗手段はなかったが、上手くすればこれを利用できるかもしれない。


「そうすると、僕達はマグナさん達の世界の召喚術でこの島に集められた…ということですか?」

僕の質問に話を終えたマグナさんが首を捻りつつ、考えている。

「う~ん、だと思う…けど、俺もここまで大規模に異世界の人間を集めた召喚術なんて初めて聞くから
 何か別な媒体も関わってるのかもしれない」

マグナさんにも分からない何か?
僕の頭の中で『聖石』が一瞬よぎったが、それまで黙り込んでいたアルフォンスが小さく呟いた言葉に打ち消された。

「『神聖剣』を奴らが?」

僕がその呟きを聞き逃さなかった事にアルフォンスが気づいたのか、ほんの一瞬だけ不快そうに眉を顰めたが
ゆっくりと話し出した。

「私の世界には天界と下界とがある。この二つは神が施した封印により通常での行き来は不可能だが、
 唯一、天界の騎士が授けた剣『ブリュンヒルド』だけがこの封印を破る事ができた。
 神の封印をも破る剣だ、異世界を繋げる媒介としては十分だろう」

僕と似た衣装のこの男もまた、どうやら僕とは別世界の人間だったという事か。
それにしてもこの男はそんな重大な事を何一つマグナさんには伝えていなかったらしい。
彼が驚き、アルフォンスに食って掛かっていく。

「何だよ! アルフォンスこそ、俺に失望しただの何だの言ってたのに隠し事してたんじゃないか
 それなら、お前だって人の事言えないって訳だ」

どうも、マグナさんが怒っている理由というのが隠し事をされていた事よりも
この道中で小言を言われ続けていた事への意趣返しのように感じられるけど。

「落ち着け。 ブリュンヒルドはそれ自体はただの『鍵』にすぎん。
 お前のような知識を持っているものならいざ知らず、
『門』を見つけなければ意味の無い物をすぐに連想できるか?」

マグナさんが考え込み、押し黙ってしまった。
多分、アルフォンスが説明した事に誤りは無いのだろう。
それでも、僕は彼が説明した話に何かの引っ掛かりを感じるのだけれど。

「何をグダグダとさっきからやっておるのだ! それよりも目的地が見えてきたぞ」

ラハールさんの声で我に返る。
確かに視界には既に城の形が見えてきている。
あの茶髪の青年、リュナンもここにたどり着いているのであろうか?
隣で邪気しか感じられないようなラハールさんの笑顔を見て、
本当の所は別な場所に逃げていてくれていた方がいい気がしてきた。

「いいですかラハールさん。 くれぐれも、く・れ・ぐ・れも勝手な事はされないでくださいね!
 相手は混乱されている方です、不用意に刺激しないでくださいよ?」

無理やり振り向かせ、面と向かって厳しく注意しておく。
そんな僕に対して「分かっている」と妙ににやついた顔で返事を返すラハールさんに不安を覚える。

絶対に何か企んでいる顔だ。

アルフォンスにも注意は必要だけど、目下の問題はこっちだろうな。
僕は溜息をつきながら、城へと向かう。

異変にはその場にいた者、全員がすぐに気づいた。

「誰か…いますね、一人ではなく複数…」

僕の目配せにマグナさん達が黙って頷く。
城の中から聞こえる喧騒は明らかに何者かが争っている事を物語っている。
可能性としてはリュナンと誰かだろうか?

「皆さん、ここは慎ちょ……」

「おー、緊急事態だー、これは俺様の出番だなー」

………やっぱり守る気なんて無かった。

慎重に行こうと僕が言う前に、棒読みな台詞を言いながら、
傍をものすごい勢いでラハールさんが駆け抜けていってしまった。
ラハールさんを止めるために慌てて僕も後に続く。
一度、マグナさん達に振り返ったとき、アルフォンスがマグナさんに何かを聞いている姿が見えた。
その動きは気になる所だけれど、それを確かめている暇はない。
なぜならラハールさんは今にも城の内部へと突入しようとしているのだから。

「ワハハハ!! 俺様、参上!」

勢いよく城門を開け、ラハールさんが飛び込んでいく。

「しまった、間に合わなかった!」

罠を確かめている暇もない、中にいるのが予想通りの人物ならラハールさんは容赦無く襲い掛かってしまう。
急いで僕も中に飛び込む。
だけど、最初に目に見えた光景は予想とは別のものだった。
金髪の青年がラハールさんのマフラーを掴んで何か叫んでいたが、
舌打ちをすると彼はラハールさんを突き飛ばし、城の奥へと走っていく。
続いて突き飛ばされたラハールさんが怒って彼を追いかけようとしたが、それは僕がマフラーを引っ張って止めた。

「グェッ! く、首が絞まる… ゲホッ、ゲホッ! き、貴様何をする!」

「それはこっちの台詞です! ラハールさんこそ何をしているんです、最初に言った事を忘れたんですか!」

さすがにこの身勝手な行動には頭に来た。
真正面から思い切り睨み付けながら、彼を問いただす。

「ふん、約束など破るものだッ!」

悪びれもせず、あっさりと言いのけられた。

「…そうですか、それならこっちにも考えがあります」

僕の態度が変わった事にラハールさんが少しだけ警戒している。

「ふん、だったらどうするというのだ? なんならお前がさっきの奴の代わりに俺様と…」

「愛こそ全て!」

満面の笑顔で爽やかに言い切る。
僕の言葉を聞いたラハールさんの表情が見る見ると青褪め始めていく。

「…お、おいラムザ…」

「友情、努力、勝利!」

「ぐぁァアアアッ」

ムスタディオをやっつけろ☆」

「ヌワァーーーーー」

「給料上げるッス!」

「「ん?」」

変な声がした方をラハールさんと同時に振り返る。
そこに、僕が着ている着ぐるみを一回り小さくしたような鳥と綺麗な身なりの少女が居た。

「君は…」

僕が少女に何者かを尋ねようかとした時にマグナさんが駆け込んできた。

「ご、ごめん、アルフォンスの奴に急に呼び止められたもんだから遅くなった…
 って、そこにいるのはサナキか?」

マグナさんが驚いたように少女の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれた少女の方がマグナさんの方に目を向ける。

「お主は…マグナ殿か?」

…サナキ?

思い出した、確かホームズという青年と一緒に行動している少女の事だ。
そうすると、さっきの金髪の青年がホームズか。
あまりに咄嗟の出来事過ぎて人物を確かめている暇もなかった。
なら、さっきの状況はどういうことだ?
マグナさんの話通りの人なら好戦的な人物ではない筈だけど?

「…ラハールさん。 説明してもらいましょうか?」

僕の隣で素知らぬ顔をしていたラハールさんにあくまで満面の笑みで説明を求める。
僕の態度で断ったらどんな結果が待っているのか理解したラハールさんが渋々話し出した。

「説明も何も、俺様がここに来たらさっきの奴とあの茶髪の奴が殴り合っておったのだ。
 優しい俺様が金髪の奴に代わって茶髪の奴をボッコボコにしてやろうとしたら、
 なぜか俺様が金髪の奴に止められて、その間に茶髪の奴は城の奥に逃げてしまっただけだ」

ホームズは交戦していた相手をわざわざ守った?
あのリュナンとホームズの間には何か関係があるのか?

「初対面でいきなりすいませんが、サナキ…さん?、でいいかな?
 君と一緒にいたホームズさんとそこで戦っていたというリュナンには何か繋がりが?」

僕にいきなり話しかけられてサナキさん(ちゃんの方が良かったかな?)は
少し驚いていたようだけどすぐに我を取り戻して僕に答えてくれた。

「あれは…戦っていたのではなくホームズ殿がリュナン殿を止めようとしておったのじゃ。
 リュナン殿は錯乱しておったようで友人であるホームズ殿のことも分からぬような状態だったようなのじゃ、
 もう少しで止められるという時にそこのお主が割って入った所為でリュナン殿は…」

成る程、それでさっきの状況に繋がるという訳か。
それなら…

「ラハールさん、マグナさん僕達もすぐにリュナンの捜索に加わりましょう。
 ホームズさんと面識のあるマグナさんには申し訳無いですが単独で、
 ラハールさんは僕と一緒に行動してもらいます。
 ………エッ?」

慌ただしく動いていた所為で気がつくのが遅れてしまった。
あの男は、アルフォンスはどこだ?

「マグナさん、アルフォンスは何処へ?」

僕に言われてマグナさんも今気づいたのだろう辺りをキョロキョロと見回して首を捻っている。

「あ、あれ? そういえばあいつ遅いな、さっきは俺に『他に忘れている事は無いか?』
 とか言ってわざわざ呼び止めてた癖に」

矢張り、こちらも目を離すべきではなかった。
こちらからの情報を全て入手したと判断したうえで僕らとの行動を止めたという事か。
正直、中々にしたたかな人物だと思う。
だけど、これで問題が出てきてしまった。

「参りましたね…下手をするとネスティさんが危険ですよ。
 このままリュナンさんの捜索に入るよりも、
 先にネスティさんの捜索に切り替えた方がいいのかも知れません」

そんな僕の態度にほぼ同時にマグナさんとサナキさんが抗議の声を上げる。

「そんな、アルフォンスが危ない奴だっていうのかよ!
 そりゃ、あいつはいちいち厳しいし、ちょっと腹の立つような物言いするやつだけど
 そんな奴じゃない筈だって! …多分」

「お主は先ほど邪魔をした上でホームズ殿達のことを見捨てるというのか!
 確かにホームズ殿とリュナン殿は友人の筈じゃが、相手は今錯乱しておるのじゃぞ、
 もしかしたら何かあってもおかしくは無いのじゃ!」

二人の抗議は確かに耳に痛い。
僕はあのアルフォンスという人物を知らない。
印象だけで言えば彼は危険人物だ、ダイスダーグ兄さんに通じる何かをあの男からは感じた。
だが、それも僕の印象なだけであって実際に彼が何かをした訳じゃない。
今こうやって身を隠したのだって僕達に愛想を尽かしただけで、あってそれ以上の理由は無いのかもしれない。
僕の部隊からだって、そういった人物は少なくともいたのだから。

それにサナキさんの言うとおりラハールさんの暴走を止められなかったのは
一緒にいた僕の責任だ。
最初から懸念はあったのに肝心な時にそれを止める事が出来なかった。

どうする?
僕はどうするべきなんだ?

「ワハハハ、こそこそしている鼠はっけーん!」

何で、この人はこんな時でも身勝手なんだろう。
絶対に反省していないんだろうな。
少し頭が痛くなったがラハールさんに目を向ける。
そこには腹這いの状態でラハールさんに踏みつけられ、
ついでに何故か、あの妙な鳥が傍で罵詈雑言を浴びせている
金髪の青年の姿。

「や、やめろ、俺から足を退けろ! このクソ鳥めッ、後で憶えてろよ!」

あれは、まさか!

「アルガスッ!」

「な、何だ、俺はお前らみたいな鳥に知り合いはいないぞ! って、まさかその声はラムザか!?」

ここで奴らの手先であるアルガスに遭遇するとは思いもよらなかった。
アルガスには聞きたいことが山ほどある。
ラハールさんの身勝手な行動ではあるが、結果的にはアルガスを捕える事ができたのだから
この行為も大目に見てあげないといけないな。

僕は着ぐるみのファスナーを上げて、上半身を出す。

「やっぱり、ラムザか! ふざけた格好をしやがって、貴族の誇りを完全に忘れちまったようだな」

もがきながらアルガスが僕を罵倒してくる。

「ルカヴィの手先へと落ちたお前には言われたくないなアルガス。
 それに僕は貴族である事に誇りなんか感じちゃいない!」

僕の言葉を聞いたアルガスが不意にもがくのを止めて、僕をキョトンと見上げている。

「ルカヴィ? 御伽噺のアレか? 何を言ってるんだお前は?」

様子がおかしい。
僕を騙すつもりなのかもしれないが、アルガスのこの態度は何だ?
まるで本当に――

『――諸君、これから第一回目の放送を始める』

僕の考えを遮る様に奴の、ヴォルマルフの声が響いた。
これが奴が始めに言っていた例の放送か。
考える事や、やらなければいけない事は沢山あるけど、これを聞き逃す事は出来ない。

「マグナさん、サナキさん。 すみませんが一旦この放送を聞くことを優先させてもらいます。
 時間が無い事は確かですが、これは僕達の生存にも関わる事ですので。
 ラハールさん、その男をそのまま押さえててください!」

マグナさんは黙って頷き、サナキさんは訴える事はあったのだろうけど、
重要性を分かってくれたのだろうか引き下がってくれた。
ラハールさんはむしろ喜んでアルガスを踏みにじっている。

皆の了承を得た事で僕はヴォルマルフの声に耳を傾ける。
奴の抑揚の無い声が神経をさかなでてくるが、それ自体が奴の思惑の一つだろう。
どうすれば人を甚振る事が出来るのか、それは奴ら『ルカヴィ』の得意とする事なのだから。
最初に告げられた禁止区域。
ひとまず注意すべきなのはここから北東の位置のE-4か。

「ふん、いちいち癇に障る物言いをする奴だ」

奴が一呼吸置いた間にラハールさんが腹立たしそうにしている。
この人の場合は単にヴォルマルフの言葉を気に食わなかっただけなのかもしれないけど。

続いて奴が告げた犠牲者の名前を聞いて僕は唇を噛み締める。

ムスタディオ。

彼が既にこの殺し合いの犠牲になっていたなんて。
せめてこの殺し合いを終わらせ、ルカヴィとディエルゴに止めを刺す事を彼の魂に誓う。
そして、アグリアスさんやアルマが無事だった事に少しだけ安堵する。
最後に奴は嘲るように『報酬』について語り、放送を終えた。

周りの反応を確認する。
サナキさんは犠牲者の中に名前だけは知っていた人物がいたようだ。
ラハールさんはのほほんとしている。

「マグナさん?」

マグナさんの様子だけがおかしい。
犠牲者の名前を聞いた彼は呆然としている。
僕は少し前に彼から聞いた話を思い出した。
主催者打倒の鍵になるであろう人物。
その名前が先ほどの放送で呼ばれた事を。

かける言葉が見当たらない。
僕達にとっても希望の芽であったものが無情にも悪魔達によって刈り取られてしまった。
でも、少し事情が違ったらしい。

「嘘だろ…アメル達が死んだなんて! まだ一日も経ってないんだぜ?
 何で、皆こんなに殺しあってるんだよ!
 あいつ、死者だって蘇らせられるって言ってたけど、俺、どうしたら…」

取り乱し、僕の方を揺さぶりながらマグナさんが叫んでいる。
この人は……純粋だ。
多分、ここに来た間も彼はこの殺し合いに乗る人物がいないと信じていたのだろう。
でも、それは彼の親しい人物達の死によってあっさりと打ち砕かれてしまった。

「…落ち着いてください。 奴らの言う蘇生をそのままの意味で鵜呑みにしないでください。
 奴らの力で生き返ったとしても、そこにいるのはあなたの知っている人物ではありません」

自分の言葉がマグナさんにとって、どれほど酷な事なのかは理解している。
それでも、取り乱した彼が奴らの甘言のままにこの殺し合いに乗ってしまうことの方が恐ろしい事なのだから。
それに、奴らの力で蘇らせられた人間の悲しさも。

マグナさんは力が抜けたようにへたり込んでしまった。
今となってはアルフォンスの捜索も困難になってしまった。
彼は僕達がこうしている間にも離れてしまっているのだから。
となればやるべきことは二つ。

「リュナンさんを僕も探しに行きます」

マグナさんを気遣っていたサナキさんが僕の方に期待を込めた眼で振り向いてくる。

「時間にして数分です、きっとまだ中に―」

「あいつなら、外に逃げちまったよ」

突然、背後から声をかけられた。
振り向いた先で金髪の青年、ホームズがこちらに向かって歩いてきていた。
彼はロビーに投げられていた自分の荷物を拾い上げるとサナキさんの方に向き直る。

「サナキ! お前はそいつらと一緒にいろ。
 さっきの話は俺も聞こえてた、そいつらなら安全だ。
 俺はリュナンの奴を追う」

それだけを言うと彼はそのまま出て行こうとする。
それをサナキさんが呼び止めている。

「お主は一人で行くと云うのか、リュナン殿は正気じゃない
 死ぬかもしれんのじゃぞ!?」

「だからこそ、俺が行くんだろうが! あいつは俺が止めてやらなくちゃ駄目なんだ。
 例え、俺が死んだってな」

彼の怒声がロビーに響く。
自分の命を賭けるほど、彼とリュナンとの絆が深いゆえの行為か。
でも、たんなる自殺行為を僕も黙って見過ごすわけには行かない。

「あなたの気持ちは分かりましたが、その行動は有効とはいえません。
 サナキさんの言うとおり、命を粗末にしているだけです」

「お前らと一緒に行けって事か? 悪いがそこの小僧は信用出来ない。
 それに、マグナだってへたり込んじまってる。
 お前だって、そこの七三に何か聞かなきゃいけないんだろう?
 それなら、俺一人の方が身軽で良い」

言動から短慮な人なのかと思っていたが、間違っていた。
荒れているようでもこの人は冷静な部分を保っている。

「だからといって、単独行動は危険すぎます」

駄目だ。
これでは堂々巡りだ、こんな言葉を続けたって彼は説得できない。
それは分かっているのに上手く言葉を選ぶことが出来ない。
僕自身が状況の変化に付いて行くので精一杯なのだから。

「悪いが、お前らといつまでもこうやっている暇はねぇんだ。
 こうして面を合わせてるのだって、サナキに一言告げてから追いかけたかったからなんでな」

矢張り僕の説得は無意味だった。
彼は僕達に背を向けて一人で出て行こうとしている。
それを僕はどうすることも出来ない。

「俺が一緒に行くよ」

へたり込んでいたマグナさんが立ち上がり、ホームズさんを呼び止めた。
その顔からは迷いこそ感じられるものの気力は取り戻しているようだ。

「今でもアメル達が死んだなんて信じることは出来ない。
 でも、そうやって俺が進むのを止めたらきっと俺はアメル達に怒られると思う。
 それにこれ以上、誰かが死ぬかもしれないってことを見過ごすわけには行かないから」

ホームズさんは無言でマグナさんを見つめている。
彼は困ったように頭を掻くと僕の方に振り返った。

「悪いが、そういう事だ。 マグナは俺が借りていく。
 お前にはサナキのことを頼む…あ~、っとそういや名前聞いてなかったな」

マグナさんの表情が幾分か明るくなっていく。
この状況ではこの選択が一番正しいかもしれない。

「ラムザです。 分かりました彼女は僕が身命をとして守ります。
 僕はこの男から聞きだす事がありますが、
 その後は申し訳ありませんがネスティさんの捜索を優先させてもらいます」

僕の言葉の意図を察したのかホームズさんの表情が険しくなる。

「あいつの姿が見えねぇな、確かにあいつより先に会っとく方が良い、あいつは信用できねぇ。
 分かった、俺は俺で動かさせてもらう。 お互い生きてりゃどっかで会えるだろうしな」

ホームズさんはマグナさんの背中を叩き、マグナさんをシャンとさせると
連れ立って外へと出て行った。
その背中をサナキさんが追いかけて、彼らに向かって叫んでいる。

「ここを出る時はお主達も一緒じゃ、誰一人として欠ける事は余が許さんからなッ!」

彼らはそれに振り返らずに手を振って応えている。

「ば~か、ば~かッス…ハッ、おいらを忘れてるッスよ~!!」

ラハールさんと一緒にアルガスを虐めていたあの鳥も慌てて飛び出していった。
……あれはいったい何なんだろう?

「…さて、それじゃアルガス。 お前には聞きたいことがある。
 正直に答えてもらおうか!」

ラハールさんに押さえつけられているアルガスは既に諦めたのか、うつ伏せの状態で頬杖をついている。

「ハッ! お前が俺に聞きたいことだと? 何だ、あの平民の妹を俺が殺した事か?」

「ふざけるなッ! ルカヴィに蘇らせられたお前なら、奴らの目的も何か知っている筈だ」

この男は僕をわざと刺激しようとしているのか?
ティータの事を持ち出されて僕はつい怒りを押さえ込めずに激しくアルガスを追及する。

「理由が分からないが、俺は確かにお前らにジークデン砦で殺されたよ。
 あのときの感覚は忘れる事は出来るかよ!
 だが、さっきからお前が言っているルカヴィってのは本気で何の事だよ?
 俺がこうしてるのもそいつのおかげなのか?」

アルガスは何も知らないのか?
いや、知らされずにその復讐心だけを利用されている可能性も確かにある。
でも、それなら彼のこの態度は何なんだ?

「お前はランベリー城で奴らに魂を売って僕らに挑んできた。
 それなのにルカヴィ達の事を知らない訳は無いだろう」

僕の言葉を聞いたアルガスの表情がどんどん呆けていく。

「ハァ? ランベリー城はエルムドア伯の領地だろ?
 それと御伽噺の悪魔がどう繋がってんだよ?」

ふと、このアルガスの態度である疑念が僕の中で湧いて来る。
でも、それを認めるのははっきり言って無理だ。

時間を遡っているなんて有り得ない。

「お前が何も知らないのは分かった、悪いがお前はこの城に拘束させてもらう。
 お前のような奴を放置しておくわけには行かない」

貴族主義者であるアルガスは平気でそれ以外の人の命を奪える人間だ。
彼はここの一室にででも閉じ込めておかなくては。

「ラムザと言ったか? お主、ちと顔が青褪めておるがどうかしたのか?」

何か縛るものを探そうとした僕の顔を心配そうにサナキさんが覗き込んでくる。

「いえ、ちょっと立て続けに事が起きたので疲れただけです。
 アルガスを拘束次第にすぐに僕らも出発しますので、サナキさんも休んでいてください」

取りあえずは納得したのか彼女は傍のソファーに腰掛けた。

青褪めている、か。

僕の不安はいつの間にか表情に出ていたようだ。
もし、もしも本当に時間が遡っているとしたら、
アルマはいったいどの時点でのアルマなのかを考えてしまうなんて。
最早、たった一人の肉親を僕は一瞬でも「聖アジョラ」を名乗るルカヴィとして
転生してしまった時の事で疑ってしまった。

有り得ない。
…でも、本当にそう言い切れるのか?

【E-2/城内ロビー/1日目・夜(18時)】

【ラムザ@FFT】
[状態]: 健康、後頭部にたんこぶ
[装備]: プリニースーツ@ディスガイア
[道具]: 支給品一式(食料1.5食分消費)、ゾディアックストーン・サーペンタリウス@FFT、
     サモナイト石詰め合わせセット@サモンナイト3
[思考]1:ヴォルマルフ、ディエルゴの打倒
    2:アルフォンス(タルタロス)よりも早くネスティと接触
    3:白い帽子の女性(アティ)と接触しディエルゴについての情報を得る
    4:ゲームに乗った相手に容赦はしない
    5:ラハールの暴走を(今度こそ)抑える
    6:アルガスを何処かに閉じ込めないと…
    7:アルマが…まさかね
[備考]:現在プリニースーツを身に付けているため外見からではラムザだとわかりません。
    ジョブはシーフ、アビリティには現在、話術・格闘・潜伏をセットしています。
    ジョブチェンジやアビリティの付け替えは十分ほど集中しなければなりません
    自分の魔法に関することに空白のようなものを感じている。(主に白魔術)
    一部の参加者が過去から参加している可能性がある事を疑っています。
    その為、一時的にルカヴィ化した事のあるアルマに対して一抹の不安を感じています。

【ラハール@ディスガイア】
[状態]: 健康
[装備]: フォイアルディア@サモンナイト3(鞘つき)
[道具]: 支給品一式(食料0.5食分消費)
[思考]: 1:取りあえずは七三を虐めて満足
     2:自分を虚仮にした主催者どもを叩き潰す
     3:そのためなら手段は選ばない
     4:何とかして首輪をはずしたい
     5:とりあえず今の状態を打開するまではラムザに同行

【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:左腕に打撲痕
[装備]:リブローの杖@FE
[道具]:支給品一式、手編みのマフラー@サモンナイト3
[思考]1:ラムザ達と行動
    2:帝国が心配
    3:皆で脱出
    4:アイクや姉上が心配


【アルガス@FFT】
[状態]:顔面と後頭部に殴打による痛み、(ラハールにより)うつ伏せに踏みつけられている
[装備]:なし
[道具]:支給品×2
[思考]1:拘束? 逃げなくては、あとラムザはおかしくなったのか?
    2:戦力、アイテムの確保
    3:リュナンとレシィとあの男(ヴァイス)に復讐
    4:ラムザとディリータを殺す

[備考]:ロビーにリュナンのバッグが放置されています。
    ラムザ達はそれに気づいていません。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


「取りあえず、リュナンがどっちに行ったのか分かるのかい?」

城を出て暫くした頃、マグナがホームズに尋ねた。
彼はその質問に少し困った顔をしている。

「それがな、正直わかんねぇんだよ。 城の中であいつを追っかけてた時に
 一室だけ内部からガラスが割られている所があったんだよ。
 真っ二つになった兜何かも転がっててな。
 注意がその部屋に向いちまってた時に別な部屋から外に飛び出しちまったみてぇなんだよ。
 音がした所に着いた時には後の祭りだった」

それだけを最後の方を尻すぼみに言うとホームズは頭を掻いている。

「エェッ!? あんだけ大見得切ってたのに何も分かんないんじゃないか!」

何か当てがあって行動していたのかと思っていただけに、マグナは彼の先程までの短絡的な行動に驚く。

「仕方無いだろ、見失っちまったもんは! 取りあえずはここから北東、
 E-4の辺りにあいつが行っちまってないか確認しとく必要がある。
 今のあいつだと何も分からずにそのままドカンと逝きかねないからな」

マグナも地図を確認し、彼に頷く。

「そうだね、それにもし怪我して動けない人とかいたら助けないといけないしな」

うんうんと頷いているマグナの様子を見て、ホームズは考える。

(こいつは、本気で参加者全員で生き残るつもりなのか?
 さっきまでへこんでたのをそれで無理に誤魔化してる様にしか見えないけどな。
 それに未だにあの隻眼のいけすかねぇ奴の事も信じている。
 …こいつのこの優しさが命取りにならなきゃいいんだがな)

「ん? 俺の顔になんか付いてる?」

マグナは不思議そうに自分の顔を触っている。

「何でもねぇよ……それより、急ぐぞ!」

全ての不安を払拭するかのように彼らは駆け出した。

【E-3/草原/1日目・夜(18時)】

【ホームズ@TS】
[状態]:上半身に打撲(数箇所:軽度)
[装備]:プリニー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式(ちょっと潰れている)、不明(未確認)
[思考]1:リュナンをとっ捕まえて正気に戻す
    2:取りあえずE-4(禁止区域)から捜索。
    3:あのおっさん(ヴォルマルフ)はぶっ飛ばす
    4:カトリ、ネスティと合流したい
    5:弓か剣が欲しい

【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:健康 衣服に赤いワインが付着
[装備]:割れたワインボトル
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています) 浄化の杖@TO
    予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:これ以上の犠牲者は出さない
    2:ホームズと共にE-4の捜索
    3:仲間を探す(ネスティと抜剣者達を優先したい)
    4:皆とともにゲームを脱出したい
    5:…そういや、召喚確かめてなかった

【プリニー@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:ボッコボコ(行動にはそれほど支障なし)
[装備]:なし
[道具]:リュックサックのみ(水と食料も支給されていません)
[思考]1:ちょ、この人ら完全においらの事忘れてるッス
    2:とりあえずホームズを必死で追いかける
    3:あのおっさんから給料貰ってはいるけど黙っとこう
    4:この主人マジで怖いっす

[備考]:ユンヌ@暁の女神 が肩に止まっています。
    アルフォンス(タルタロス)が黙って消えた事にショックを受けてはいますが、
    彼をまだ信用しています。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

暗い。

どこまでも暗い空間を僕は走っている。
さっきまで何処か暖かい感じのする声が聞こえていた気がしたけど、もう聞こえない。
僕は何をしていたんだろう?
僕は何処へ行けばいいんだろう?
何かしなければいけない事があった筈なのに思い出せない。

僕は。

僕は何がしたかったんだろう?

暗い暗い暗い。

助けて助けて助けて。

誰か、僕に教えてくれ!
僕は如何すればいいんだ!

「死ねばいいのよ」

僕の後ろで誰かが囁いた。
振り返るまでも無い。

「私は死にたくなかった、でもあなたが私を殺した。 だから、あなたも死ねばいい」

彼女達が囁いている。
違う。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
僕は間違っただけなんだ、殺したくてやったわけじゃないんだ!

「そう、でもそれは関係無い。 見て、あれがあなたの罪」

彼女達の声に僕は立ち止まる。
背後から伸ばされた腕が指し示す方向に彼女の顔がある。

「ウワァァアアアァァッ!!」

何で?
僕が埋めた筈なのに、嫌だここにはいたくない。

「駄目よ、ほらあそこも見て」

指し示す先に、其処に


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


彼は剣を無言で鞘に収める。
足元には血溜まりに臥した一つの死体。

「錯乱しているとは思っていたが、既に狂気に堕ちたか」

少し前に話は戻る。

タルタロスはマグナからの情報は全て引き出したと判断した。
ならば、するべきことは二つのうちどれか。

用済みであるマグナを始末するか。
殺意を捨ててこの場を去るか。

彼を殺してしまいたいと言う気持ちは強かったが、
あの状況で殺してしまえば疑いを避けることは出来ない。
今はまだその時ではない。
一時の感情で大局を左右してしまうのは愚者のする事。
だから、彼は彼らの元から去ることにした。
これ以上関わればいつかこの殺意を殺しきれなくなる時が来るかもしれないのだから。
それに、彼らには自分を疑っていても危険と判断する決定的な証拠となるものは何一つとしてない。

彼らには見つからぬように踵を返す。
来た道を戻るだけでは簡単に見つかる可能性があった為、近くにあった森にその身を隠した。

そこで彼は興味深いものを見つける。

「墓か? 贖罪のつもりか分からんが、この状況に措いては戯れに過ぎんな」

ただ石を積み上げただけの粗末な墓を彼はあっさりと暴いた。
何か使えるものが手に入ればいい、彼にとってはそれだけの意味しか持っていない。

石を除け、土を少し掘り返し、埋められていた者の顔が見えてきた所で
慌ただしくこちらに向かう者の気配を感じ、近くに隠れる。

気配の主はマグナ達ではなく茶髪の青年、リュナンだった。

リュナンは正気を失くした目で周辺を見回していたが、目線が墓に向いた途端、
彼は大袈裟に取り乱し叫んでいる。
荒い呼吸を整えもせずに不意に動きを止めた彼は、
まるで何かに導かれるかのようにタルタロスが隠れている場所を探し当てた。

「違うんだ、許して、助けて、僕は、誰か…」

ぶつぶつとうわ言を呟きながら救いを求めるかのごとく迫るリュナンを
タルタロスは一刀の下に臥した。

狂人には利用価値が無い。
それだけの事である。

だが、今際の際の筈であるリュナンの表情はまるで罪を許された子供のように安らかなものだった。

「死ぬ事で救われるとでも思ったか…哀れだな、死は終わりに過ぎん。
 そこに救いなどありはしない」

【F-2/森/1日目・夜(18時)】

【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:健康
[装備]:ロンバルディア@TO
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています) ドラゴンアイズ@TO外伝
[思考]1:生存を最優先
    2:ネスティとの接触を第一目的とする。
    3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断
    4:ラムザに対して強い警戒感
    5:『カーチス』という名に興味。ネスティと同じ立場にあるかもしれないと推測。
    6:脱出が不可能な場合は優勝を目指す。

[備考]:マグナの話から魔剣が一部の者にしか使えないと判明したため、強奪を一旦、保留しました。
    マグナ達への殺意はその場を離れた事でおし留めただけで消えた訳ではありません。

【リュナン@ティアリングサーガ 死亡】
【残り39人】

089 若さの秘訣 投下順 091 星に願いを
089 若さの秘訣 時系列順 091 星に願いを
077 Limitation ラムザ 105 アルガスとの再会
077 Limitation ラハール 105 アルガスとの再会
077 Limitation マグナ 104 焦燥
077 Limitation タルタロス 095 セキガンのアクマ
073 黒の公子、金の勇者 リュナン
073 黒の公子、金の勇者 ホームズ 104 焦燥
073 黒の公子、金の勇者 サナキ 105 アルガスとの再会
073 黒の公子、金の勇者 アルガス 105 アルガスとの再会
073 黒の公子、金の勇者 プリニー 104 焦燥
最終更新:2010年03月07日 00:20