未来の記憶(後編) ◆LKgHrWJock
「クソッ! このガキは化け物か!?」
罵倒が彼女の根幹を抉り、激痛に耐えかねて自我を手放したチキの感情を呼び起こした。
――チキは化け物なんかじゃないもん!
怒りが自我を統合する。自我があの夢を統率する。
――チキは化け物なんかにならないもん!
マルスおにいちゃんが大丈夫って言ったもん!
脳裏に映る悪夢の予感に抗うことでチキは自分を取り戻した。
己の非道を棚に上げて彼女を化け物呼ばわりした恥知らずな男をねめつけると、
若いならず者は感嘆したように目を見開いた。
「こりゃすげえ。あんだけ痛い思いをしてまだそんな顔ができるのか」
男は長剣を地面に突き立て柄から手を放し身を屈めると、
熱を失った大地に横たわるチキの上半身を強引に起こした。
片方の手はチキの右腕を、もう片方の手は肩を掴んでいる。
痛い。チキは男の腕を振り払おうとしたが、相手の力が強すぎて思うように動けない。
「触らないで! チキは物じゃないもん!」
「こんな危ないモンを握られてちゃあ放すワケにはいかねえだろ?」
言葉とは裏腹に男は余裕の笑みを浮かべる。
チキの右手は男から奪ったナイフを今もしっかりと握っていた。
痛みに自我を手放してもナイフだけは放さなかったらしい。
しかしそこに希望はなかった。
よみがえるのは男を刺そうとしたときの絶望的な手応えのみ。
それでもチキの中には“この男に屈する”という選択肢はなかった。
「放して! チキに触らないで!」
チキは男に噛み付こうとした。
しかし腕と肩を固定されてしまってはどうすることもできない。
足をばたつかせて抗おうにも石のような男の膝が太股を押さえつけている。
男がチキの顔を覗き込む。卑屈な笑みを浮かべながら。貪欲な目で見据えながら。
「なあガキ。いや、チキちゃん。ちょいと聞きたいことがあるんだがねぇ。
チキちゃんの体はどうしてすぐに怪我が治るのか、その理由を教えてくれないか?
正直に話してくれればこれ以上手荒な真似はしねえ。本当さ、約束するぜ。
だからさ、なぁ、教えてくれよ。チキちゃんだってこれ以上痛い思いはしたくないだろう?」
怪我が治る? 一体何のことだろう。
チキは自分の身体を見下ろした。
素肌や衣服のいたるところが血で赤黒く染まっており、
怪我が癒えたようにはとても見えない。
しかし言われてみれば先程からほとんど痛みを感じていない。
重い怪我をしているときは、体をほんの少し動かしただけで
とても痛い思いをするはずなのに。
でも、どうして?
チキは男の顔を見た。男の表情がぱっと輝き、笑みがいっそう卑屈になった。
「さっきのことは謝るよ。俺はただ怪我の具合が悪くて怒っていただけなんだ。
大人げなかった、反省してる、本当さ。
俺はチキちゃんが羨ましかったんだ、
チキちゃんみたいになれればもう怒ったりなんかしねえ、
だから頼む、教えてくれよ、なぁ、どうすれば
魔法も使わずに怪我を治せるようになるんだい?
包丁で刺した傷も消えるんだ、この剣に理由があるってワケじゃねえだろう?
俺の怪我はちっとも塞がらねえし、
あの香水に秘密があるってワケでもなさそうだ。……だろ?」
男は眼を細め、にやりと笑って見せた。
彼が何故そんな風に笑うのかチキにはよく分からない。
男は軽くため息をついた。
へつらうような笑みはその顔から失せ、陰鬱な苦悩が影を落とす。
しかしその目に宿る貪欲な炎は亡者のように生を食らおうとする。
「なぁ、チキちゃん。俺は拷問なんてしたくねえ。ああいうのはシュミじゃねえんだ。
でもな、チキちゃんの態度如何では俺も不本意なことをしなきゃならねえ。
こう見えて俺は気が小せぇんだよ。子供に泣かれるなんざ耐えられねえ。
でも耐えなきゃ生きていけねえから悪ぶって現実と折り合いをつけてるだけなんだ。
頼むよ、チキちゃん。俺に酷いことをさせないでくれよ」
涙を浮かべてチキにすがりつく男の姿はまるで命乞いをする罪人のようだ。
チキは男に憐れみを覚えた。言葉の意味はよく分からないが、
彼が好き好んで非道な人間になったわけではないということだけは理解できた。
マルスおにいちゃんがいればこのお兄さんもこんな風にはならなかったのだろうか。
しかしいくら想像してみてもマルスおにいちゃんに意地悪なことを言って
困らせている場面しか浮かんでこない。
マルスおにいちゃんにもこのお兄さんは救えないのだろうか。
そう思うと胸が苦しくなり、あの夢が脳裏に現れた。そしてチキは幻視した。
獣と化した彼女が人々を殺戮すべく襲い掛かったあの村に立つこの男の姿、
戦うすべを持たぬ者のために剣を取る彼の勇姿を。
その面差しは精悍で眼には力強い信念が宿り、揺るぎない自信すら感じさせた。
しかし現実の彼は真逆だった。
今にも泣き出しそうな表情でチキにすがりついていたはずの男は
先程までの苦悩など最初から存在していなかったかのように猜疑と敵意に顔を歪め、
苛立たしげに舌打ちした。
「だんまりか。人が下手に出りゃあつけ上がりやがって。なめんじゃねえぞ、コラ!」
男は凄み、チキの身体を掴む両手に力を込めた。
痛い。チキは小さく悲鳴を漏らす。
男は口元を歪めながらチキの顔を眺めていたが、やがて喉の奥でククッと笑った。
「なあガキ。あっという間に傷口が塞がっちまうってことは、だ。
処女膜も再生するのかねぇ?」
男の言葉の意味することなどチキにはまったく分からない。
しかしその表情と声色から、おおっぴらに口にしてはならない話題なのだと
察することはできる。チキは何も言わなかった。
迂闊なことを口にすれば先程よりもさらに恐ろしい目に遭うような気がしたのだ。
その具体的な内容をまったく想像することができない点が
ことさら恐ろしく感じられてならず、チキには何も言えなかった。
男は残忍な、そして下卑た笑みを浮かべながら言う。
「その顔は俺の言葉を理解してねえな。どういう意味か教えてやってもいいんだぜ?」
怖かった。どうしてこのお兄さんはチキを見ながらこんな風に笑うのだろう。
相手はその理由を完全に把握しているにも拘わらず、自分はまったく理解していない。
その落差に恐怖する。
自分の心や人格に汚物を塗りつけられたかのような不快感に襲われ、
自分の身体に触れる相手の指が汚らわしく思えてならず、
チキは男の腕から逃れようと必死でもがいた。
「はっ、放して……、チキに触らないで! 気持ち悪い、やだ!」
しかしいくら力を込めても相手の身体はびくともしない。
心だけでなく体までもが汚濁していくような感覚に蝕まれる。
このままではたとえ生き延びたとしてもマルスおにいちゃんのそばには行けなくなるだろう。
それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。チキはあらん限りの声で叫んだ。
「助けて! マルスおにいちゃん助けて!」
男がチキの右腕をひねり上げる。
チキは大声で抗議するが、次第に激しさを増す苦痛にやがて声も出なくなる。
目を硬く閉じて痛みに耐えるチキの耳に男の嘲笑が流れ込む。
「馬鹿だなぁ、冗談に決まってんだろ? ガキとヤる趣味なんざ俺にはねえよ。
しかし意味は分からなくても恐怖は感じるモノなんだなぁ、本能ってヤツなのかねぇ。
ま、そんなことはどうでもいいんだがな」
男の体がチキから離れた。
次の瞬間、チキは胸に衝撃を受けその背を地面に打ちつけた。
それが男に蹴り飛ばされたことによるものだと気付いたのは、
長剣を再び手に取った彼の姿を目にしてからのことだった。
「さあて、そろそろ俺の質問に答えて貰いたいんだがね」
襲い来る痛みを警戒し、チキの身体が強張った。
いくら驚異的な速度で傷が癒えるとはいえ、苦痛は確実に自我を蝕む。
逆らわなければ、戦わなければ、マルスおにいちゃんに会えなくなるだろう。
チキは自らの掌に未だ木製の柄があることを確認し、力を込めて握り直した。
マルスとの絆をその手に繋ぎ止めておこうとするかのように。
チキは身を起こし、男が右足に負った傷をナイフで再び抉ろうとした。
しかし体が動かない。男の背後に立ち昇る亡者に意識を奪われてしまったのだった。
映るはずのない場所に暗い影が伸びている。
黒いはずの影の中に白い顔が浮かび上がって見える。
美しい女の姿をとりながらその眼窩は深淵の闇、
白目があるはずの場所にすらも黒一色しか存在しない。
男は恐怖に凍りつくチキを見下ろし、その口元に酷薄な笑みを浮かべた。
怯える獲物をからかうように長剣で空を切りながら、まとわりつくような声で言う。
「しかし拷問ってどうやるんだ?
よく分からねえから適当に切り刻ませてもらうとするかね」
しかしその言葉が現実のものになることはなかった。
不意に鈍い音が聞こえ、チキの下半身に覆い被さるように男が大きく転倒した。
男がいたはずの場所には別の人影が立っていた。
月明かりを受けた銀の髪が闇に白く映えている。
現れたのは、色とりどりの宝石に彩られた金の棒を両手で握り締めた
レンツェンハイマー。
杖だったはずのそれは折れて潰れ、随分と短くなっている。
レンツェンは肩で息をしながら怒りに満ちた表情で男の後ろ姿を見下ろしていた。
レンツェンがチキを助けてくれた。
でも怖いお兄さんが起き上がったら今度はレンツェンがやられちゃう。
チキもレンツェンを助けなきゃ。早くマルスおにいちゃんのところに帰らなきゃ。
悪いことする人はやっつけなきゃ。
チキからマルスおにいちゃんを取り上げようとする人なんて大っ嫌い。
チキのことを化け物なんて言う人は大っ嫌い。
チキはナイフを握り締めた右手にもう片方の手を添えた。
――マルスおにいちゃんをチキから取り上げようとする人なんて、しんじゃえ!
チキは男の目を突いた。調理用の薄い刃が男の眼球に深々と刺さる。
男は絶叫した。人間のものとは思えない獣じみた悲鳴を上げて壊れたようにのた打ち回る。
その姿にチキは衝撃を受けた。あの夢に現れる人々の姿によく似ていたからだ。
獣と化したチキに襲われ逃げ惑いながら殺されていく人々の姿によく似ていたからだ。
軍隊の一員として戦場に立つ身でありながら、チキ自身には人を殺した記憶がない。
戦場で敵兵と対峙するときチキは決まって竜になる。
竜と人間の脳は違う。
大きさも機能もものの見え方も感じ方も考え方もすべてがまるで違っている。
竜化していたときの記憶を人間の脳で完璧に再現することなど不可能だ。
いくら思い出そうとしても夢のように曖昧でいとも容易く己の空想に塗り替えられ、
何が真実なのか分からなくなる。
だから“人間として生きた10歳の少女チキ”には人を殺した記憶がない。
生身の少女のまま誰かに危害を加えたのはこれが初めてのことだった。
――わたし……やっぱり化け物なの……?
声も出せずに震えているチキの視界でレンツェンが男を足蹴にしている。
「ははは、この天才軍略家レンツェンハイマー様の知略のほどを思い知ったか!
貴様のような虫けらには地べたを這い回るさまが実によく似合う。
だがそう簡単には踏み潰してなどやらんぞ、
この俺様に相応しい高級ブランド製の靴が汚れてしまっては困るのでなぁ。
そんなことより貴様、この俺に何か言うべきことがあるのではないか?
虫けらに相応しい扱いを受けて感激のあまり声も出ないか?
ならばせめて礼の一言くらい述べてみてはどうだ?
……ああ失礼、虫けらごときに人間の言葉など話せるわけがなかったな。
それ以前に感謝や感激などという概念が虫けらに存在するはずもない。
貴様があまりにも人間の真似事をしたがるものだから俺も勘違いをしてしまった。
これからは虫けらに相応しい扱いを徹底してくれよう、はっはっは!」
やめてレンツェン! チキはそう叫ぼうとした。
しかし脳裏に言葉が溢れるばかりで身体に命令を下せない。
チキは血とそうでないものによって薄く汚れたナイフを
両手でしっかりと握り締めたままレンツェンの足を眺めている。
レンツェンがおかしくなっちゃった。悪いレンツェンになっちゃった。
どうして? わたしのせい?
チキがひどいことをしたからレンツェンまでおかしくなっちゃったの?
レンツェンは黒い頭を踏みつけながら男のデイパックに手をかける。
「虫けらには支給品などいらぬだろう、この俺様が貰ってやろう」
チキの視界にレンツェンの取り出した支給品が映る。
それを見たレンツェンは一体どんな顔をしたのだろう。頭上から声が降ってくる。
「ははははは、虫けらへの支給品は石か!
この小さな石で貴様を叩き潰せば良いのか?」
やめてレンツェン! 酷いこと言わないでその石を捨てて!
チキの鼓動が加速する。
チキはその石を知っていた。
それは竜石、チキをはじめとするマムクートが竜に変化する際に用いるものだった。
竜石にはいくつかの種類があるが、マムクートの長である神竜族の王女チキは
あらゆる竜石の力を自在に行使することができる。
しかしそんなチキであってもその石にだけは触れたことがなかった。
何故ならそれは世界の征服と人類の滅亡を目論んだ
地竜王メディウスのものだったからだった。
「クク……ハハハッ……」
青く透ける靴の下で不意に男が笑い出した。レンツェンが慌てて飛びすさる。
「な、何がおかしい! 貴様、気でも触れたか!」
男はレンツェンの言葉などまったく聞こえていないかのようにただひたすら笑い続ける。
「ちと長居しすぎたな。
チキ、逃げ……いやいやいやいや戦略的撤退を開始するぞ!」
すぐそばにいるはずのレンツェンの声が
どこか遠くの世界から聞こえてくるかのように思えた。
デイパックに軽い衝撃を感じ、身体がすっと地面から離れる。
レンツェンが竜石と折れた杖をチキのデイパックにねじ込み、
空になった両手で彼女を抱え上げたのだった。
背中にあったはずのデイパックが腹の上で揺れている。
膝の裏側と背中にレンツェンの熱を帯びた腕を感じる。
「まったく、貴様は手のかかるガキだ」
その声に以前のような刺々しさはなかったが、
今のチキの心には何の変化も生まれなかった。
◇ ◆ ◇
してもいないことで責められる。それが
ヴァイスの人生だった。
幼い頃から町で何か問題が起きると真っ先に彼とその父親が疑わた。
自分のことをヴァイス・ボゼッグという一人の人間ではなく“ジャンの息子”としてしか
見ようとしない人々のことを彼は決して好きにはなれなかった。
彼の心は頑なになった。
拒絶に満ちた眼で自分たちを睨みつける彼を見て人々は
「これだからあの男の息子は」と蔑んだ。
やがて何か不都合が起きると彼のせいにされるようになった。
どうせこんなことをするのはあの男の息子に決まっている、と言わんばかりの顔で。
それでも彼が自分の生まれ育った町を襲った暗黒騎士団の長を殺害すべく
剣を取ったのは幼馴染の
デニムと
カチュアがいたからだった。
もしパウエル姉弟がいなければ彼は戦うことすら放棄していただろう。
こんな腐り切った連中など暗黒騎士団に惨殺されてしまえばいいと思いながら。
しかし結局はパウエル姉弟も自分とは違う世界の住人だった。
自分のような歪んだ人間をあの二人が受け入れることはない。
それをバルマムッサで思い知った。
無抵抗の民間人を虐殺したとき、彼の中で何かが弾けた。
自分からは何もしようとせず不満ばかり述べる連中など死んで当然だ。
だから心の中で不満をくすぶらせていながらそれを行動に出さずにいた良心的な彼も死んだ。
堕ちることによって彼は覚醒した。
血に血を重ねながら自らの神経が研ぎ澄まされていくのを感じた。
生まれて初めて自分がいるべき場所に存在していることを実感した。
しかし結局そのような感覚は幻だったことを思い知った。
他人の罪を着せられての処刑。
してもいないことをしたことにされて存在を否定される。
幼い頃に放り込まれた見えない牢獄から彼は最後まで抜け出せなかった。
何故自分がこんな理不尽な思いをしなければならないのか
彼にはどうしても納得できなかった。
しかし今なら分かる。
あいつらは、俺が非道な極悪人であることを望んでいたのだ。
自らの正当性を証明し、世の不条理を体現する万能の悪を欲していたのだ。
だったら俺がソレになってやろうじゃねえか。
ただし、どんなことになっても文句は言うなよ?
この俺にそれを望んだおまえらが悪いんだぜ?
そこに思い至った途端、ヴァイスの口から笑いが漏れた。
――あいつらが望んだから?
……馬鹿だなぁ。
それじゃあまるで俺は他人に認めて貰いたくて仕方のないガキじゃねえか。
あいつらの望みなんざ俺には関係ねえ。気に入らねえから殺る。殺りたいから殺る。
そして俺は何もかもすべてが憎くて憎くて仕方がねえってだけの話さ!
ヴァイスは尚も笑い続ける。
降り注ぐ罵声が止まり、後頭部から重みが消えた。
「な、何がおかしい! 貴様、気でも触れたか!」
その声は震え、上ずっている。
先程まで勝ち誇ったように罵詈雑言を浴びせ掛けていたにも拘わらず。
背中に何かを叩きつけられ突き飛ばされたときは
あまりの剛力にそうとは気付かなかったが、
この声は俺がひと睨みしてやっただけで腰を抜かした貴族風の派手な男だな。
あの身の程知らずな罵倒の数々は
小心な臆病者が自らの弱さを隠すためにしていたことだったか。
そう思うと楽しくてならない。
自我が拡散し溶けていくような愉悦が腹の奥底から込み上げる。
虚飾の貴公子がチキを連れて逃亡し、その声が聞こえなくなってもなお
ヴァイスは狂ったように笑い続けた。
二人の気配が完全に消え失せた今も剣の柄は己の手の中にある。
剣の強奪に成功した。これで殺れる。俺は無敵だ。
剣の帯びる魔法的な冷たさを認識した途端に笑いの糸はぷつりと途切れ、
ヴァイスの意識は闇に落ちた。
……どれほどの時間が経過しただろう。
鼓膜だけでなく首周りの筋骨すらも振わせる声にヴァイスは意識を取り戻した。
クソガキに刺された左眼が痛む。
視力を奪われた目の奥が熱を帯びて疼き、重い頭痛を併発している。
死神の加護がなければどうなっていたか分からないが、
そんなことを気にかけるなど無意味だと思い直した。
顔面にかかる圧力を減らすべく重い四肢を動かして仰向けになり、
大地に身体を投げ出したまま不快な声色に脳を委ねる。
キュラーによる
臨時放送を聴きながらヴァイスは脳裏で彼に答える。
――もう
ルールなんざどうでもいいぜ。
……制限時間の短縮? いちいち時間を気にしながら殺るなんざ面倒だな。
昼も夜も関係なくこの俺がいくらでも殺してやるぜ、オッサンは黙って見物してな。
……武器庫の解放? ハハッ、今更遅いぜ。
俺は最高の得物を自力でこの手に掴んでやった。
オッサンらの“救いの手”なんざアテにしねえ。
まあ、他の連中に揺さぶりをかけてくれたことには感謝してやってもいいがね。
右往左往する連中を片っ端から殺して回るのも一興だ。
ヴァイスはゆっくりと身を起こし、先程の民家に戻るべく歩き始めた。
しかし、数歩足を進めたところで、不意に大地が大きく揺らいだ。
――不味い、また眩暈が……。
慌てて前方に手を伸ばし、壁にしがみつこうとするが、指は虚しく空を切るのみ。
あるはずのものに手が届かず、ヴァイスは危うく転倒しそうになる。
片目の視力を失っているため、距離感を把握できないのだろうか。
ほうほうの体で民家に転がり込んだヴァイスは、視覚ではなく記憶を頼りに前進する。
さっきは丸腰の子供が相手だったから命拾いしたものの、
相手が凶器を持っていたらどうなっていたことか。
こんな身体でこれ以上動き回るのは危険だ。ひとまず休息を取らねばならない。
本心を言えば自分をこんな目に遭わせた連中を今すぐにでもブッ壊して回りたいが、
今から一眠りするという選択肢にもそれなりの利点はある。
何故なら、目覚めた頃には深夜を過ぎているはずだからだ。
人間誰しも睡魔には勝てない。
連中が深い眠りに入った頃に俺は活動を再開する。最高だ。
ヴァイスは寝室に侵入し、扉を閉めて内鍵をかけた。
ここでゆっくりと怪我の処置を――しかし、彼の思考はそこで途絶えた。
眩暈を起こして昏倒し、その場で意識を失ったのだった。
【C-3/村:東端の民家/夜】
【ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:失神中(死神甲冑の効果により回復は比較的早いと思われます)
左眼に肉切り用のナイフによる突き傷(未処置/失明の危険)
背中に軽い打撲(死神の甲冑装備中はペナルティなし)
右腿に切り傷(縫合済みの傷から再び出血/未処置/軽症)
右の二の腕に裂傷、右足首に刺し傷(全て処置済)、やや酷い貧血、
死神の甲冑による恐怖効果、および精気吸収による生気の欠如と活力及び耐久性の向上。
[装備]:ブリュンヒルト@TO、死神の甲冑@TO、肉切り用のナイフ(2本)、漆黒の投げナイフ(4本セット:残り4本)
[道具]:支給品一式、栄養価の高い保存食(2食分)。麦酒ペットボトル2本分(移し変え済)
[思考]1:意識を失っているため思考不可。
[備考]:チキの驚異的な自己回復能力の原因を探る過程において
割れて砕けたシャンタージュの瓶から香水を数滴身につけました。
効果自体は得られませんが女物の香水の匂いを漂わせています。
※不明支給品(道具)は「地竜石@紋章の謎」でしたが
レンツェンに奪われチキの手に渡りました。
「肉切り用のナイフ」をチキに1本奪われました。
「調理用の包丁」を失いました(民家の前に放置中)
※チキの不明支給品「ブリュンヒルト@TO」を入手しました。
ブリュンヒルトには異界の扉を開く力がありますが、
本ロワのヴァイスはCルートにて処刑されたためそれを知りません。
【C-3/村/夜】
【レンツェンハイマー@ティアリングサーガ】
[状態]:疲労、空腹、やすらぐかほり、顔面に赤い腫れ
[装備]:ゴールドスタッフ@ディスガイア(破損。長さが3分の2に)、エルメスの靴@FFT
[思考]1:チキの手当てを急ぐ
2:保身第一、(都合のいい)仲間を集める
3:ただしチキを守るためなら戦う
4:手段を問わず、とにかく生還する
5:あの少年(ヴァイス)は極刑。
[備考]:ヴェガっぽいやつには絶対近寄らない(ヴェガっぽいのが既に死んでる事に気づいてません)。
第一回放送で
オイゲンの死を知り、喜んでいます。
※基本的には保身第一ですが、チキの危機に際しては打算抜きで行動します。
本人は「チキに救われた。チキのお陰で真人間になれた」と思っておりますが
レンツェンの人間性に変化が生じたわけでもなければ過去を悔いたわけでもなく
実際は「チキのためなら積極的に残虐行為を行う人間」になっています。
むしろチキという免罪符を得たことによって本来の外道ぶりに磨きがかかっています。
※「ゴールドスタッフ@ディスガイア」が破損しました。
先端部分が失われ、長さが3分の2程度になりました。また残りの部分も変形しています。
【チキ@ファイアーエムブレム紋章の謎】
[状態]:精神的ショックによる自失(時間がたてば治ります)、失血による貧血、空腹
[装備]:シャンタージュ@FFT(一瓶すべて使用済み。瓶は破損、一部のみ所持)
[道具]:地竜石@紋章の謎、肉切り用のナイフ(1本)
[思考]1:マルスおにいちゃんに会いたい
2:マルスおにいちゃん助けて
3:地竜石なんて早く捨てて…
4:今度竜になったらもう二度と元に戻れない気がする
5:レンツェンがなんか変でやだな
[備考]:放送は聞いてはいましたが、その意味をよく理解していません。
よって、マルス達が既に死んでいる事に気付いておりません。
※シャンタージュを一瓶丸ごと浴びたため制限を解除された状態で効力を得ています。
自己再生能力が極限まで高まっているため傷はすぐに回復します。
ただし首輪の爆発など即死攻撃を防ぐことはできません。
また自己再生能力が効果を成さないような方法であれば即死攻撃以外でも死亡します。
※「やたらと重いにぎり」の正体は「ブリュンヒルト@TO」でした。
「ブリュンヒルト@TO」はヴァイスに奪われました。
ヴァイスの不明支給品「地竜石@紋章の謎」を入手しました。
ヴァイスの所持品「肉切り用のナイフ」を1本入手しました。
※チキの召喚時期が判明しました。「第二部20章『暗黒皇帝』開始後」です。
「封印の盾」が完成しなければいずれ野生の竜となり人間を無差別に襲うようになります。
完成には「封印の盾」本体のほかに「光のオーブ」「
闇のオーブ」「命のオーブ」
「星のオーブ」「大地のオーブ」の5種類が必要になります。
「封印の盾」本体はマルスの装備品として武器庫に収容されているでしょう。
最終更新:2011年01月28日 15:26