ハイ・プレッシャー◆j893VYBPfU


走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ



――――――――走れ!!


奇行師、もとい貴公子である俺様は駆ける。
危険極まりないこの村から、駆けて全力で逃げる。
こらそこ、どう見ても奇行師です本当にありがとうございましたとか思ったそこの貴様、
俺がラゼリアに戻ったら極刑。


走り方がゴキブリのように見苦しい限りだと?
貴族の優雅さとか気品が見受けられないだと?
ましてや窮地にある女子供を助けようという、
「貴族の義務」を背負う気概はないのかだと?
それで一生良心の呵責に見舞われないかだと?


わっはっはっはっはっ。
そこの一平民に過ぎない貴様にはそう写るか。
だがこの天災軍略家であるこの俺様の深慮遠謀など知る術もあるまい?


「後味の良くないものを残す」とか、「人生に悔いを残さない」だとか…。
便所ネズミのクソにも匹敵する、その下らない物の考えの方が命取りよ!

このレンツェンハイマーにはそれらはない…。
あるのはシンプルな、たったひとつの目的だけだ…。
たった一つ!『この舞台から脱出して、ラゼリアに生還する』!
それだけよ…、それだけが目的よ!
誇りや……!義務なぞ………!どうでも良いのだァーーーーーーッ!!


迫り来る死への恐怖やらあのガキへの苛立ちによって気分は変な方向へと
「最高にハイって奴」になりながら、俺様は村の郊外へと走っていた。
いや、走り抜けようとしてた。

だが、その怒涛の走りを渾身の力で妨害するものがいる。
そう。あのガキである。あのガキは大地に足を踏ん張り、
地面を靴裏で抉りながらもこの俺様の走りを妨げていた。
このままでは、満足に走れそうにない。

本当はこんなガキいち早く切り離したいのだが、
秘策「コバンザメ作戦」を成功させる為には、
必要不可欠の存在だから流石に我慢するしかない。

満面に不満そうな表情を浮かべて俺を睨むガキ。
とりあえず、一旦停止してガキの言う事を聞いてやる。

「…あぁん?なんなんだガキ?」

「ガキじゃなくてチキ。でも、レンツェンここから逃げたらダメ!」

「…何がダメなんだ、ガキィ?」

俺様は首の辺りが熱くなる、形容し難いムズかゆさを抑えながら
眼の前のガキに凄味を利かせながら睨みつける。
って、首が痒いってよく考えてみたらぁあああ!!
首が痒くなるって、このガキと同じじゃないかぁあああああ!!!
あせもじゃないッ!あせもじゃないから恥ずかしくないもんッ!!


そんなこの俺様が感じた屈辱と葛藤を知らずに、
ガキは手前勝手にこの俺様にご意見しやがった。

「ダメーッ!えらいひとが女の人見捨てたりしちゃダメーッ!」

「なんでさ?」

「…だって、マルスおにいちゃん達がそう言ってたもん。
 えらい人には、その地位にともなう責任と、義務があるんだって。
 だから、えらい人は困った人や弱い人がいれば助けなきゃいけないの。
 えらい人ってのは、皆がそういう人じゃなきゃダメだって。
 レンツェンも、マルスおにいちゃんと一緒でとってもえらい人なんでしょ?」

うん、言っている事がさっぱり理解出来ん。
というか、理解する必要性を全く見出せん。
偉い人っていうのには同意するが、それ以外はどうでもいい。
って、またこいつ俺様のことレンツェンって省略しやがった。

「…ところで、“せきにん”と“ぎむ”って何?」

「その人間が“しなければいけない事”と、“従うべきとされる事”だ。
 なんだガキ。そんな事も知らずに俺様に偉そうな口を利くのか?」

そもそも、貴族というのは特権階級であり、支配する側の階級だ。
貴族は支配する権利は有しているが、支配する責任などないのだ。
支配する為の階級が、家畜や財産の様子を気にかけることはあっても、
それを自分の生命まで賭けて助けてやるだなどと、絶対にありえない。
なによりそのような事をする意味がない。

ガキにも分かりやすく言った方がいいな?
よし。いっちばん分かりやすく、平民の農夫にでも喩えてやろう。
そっちが分かりやすいだろ。よく聞け、糞ガキ。


 お前ら平民にしたところで、家畜どもをどう扱っている?
 確かにあれは上手く管理しているだろ。自分の為にな。
 だからこそ色々と気を配りもするし、大事にも育てる。
 だが、あれらは老いるまで育てても意味がないんだ。
 むしろ金食い虫にしかならん。
 第一、若いうちにバラさないと旨い肉が喰えんだろ?
 あいつらは、喰われる為だけに生かされているんだ。

 それは責任じゃない。都合が良いからそうするだけだ。
 それは義務じゃない。自分の為だけにやっているんだ。

 第一、骨折ってやらんと家畜は自分で生きられんだろ?
 喰われるまで生かされる事に、むしろ感謝すべきだろ?

 だったらガキ。泣き叫んで命乞いをする鶏や牛や豚を、
 お前ら平民は必死に止めようとするか?…止めないだろ?
 止めたら肉が食えなくなるし、育てた農夫も生活が出来ん。
 俺にとっての領民とは、農夫にとっての家畜と同じだ。
 だからお前の言う事など聞く耳持たん。
 マルスおにいちゃんか、リュナンにでも言え。

 どうだガキ、これでわかったか?
 それと一緒だ。義務や責任なんてものはな、最初からない。
 それは自分が「良い事をやっている自分が気持ちがいい」って
 感じてるからやってるだけの、ただの悪趣味って奴だ。
 だったら、この俺様にそんな偉そうな口を聞くんじゃない。
 わっはっはっはっはっ…。


うん、俺様偉い。我ながら改心の出来映えの喩え話だ。
わざわざ分かりやすく同じ平民レベルの生活の話に落すとは、
中々に配慮も行き届いている。これでもう生意気な口も…。

そんな俺様の素晴らしい説得に、ガキは感じ入り反省する所か
顔を紅潮させてこの俺に大声で怒鳴り付けやがった。

「…レンツェンなんて大キライッ!しんじゃえ!」

そう言うや否や、チキは俺様に背を向け、走り出そうとする。
それを察した俺様、偉い。後ろから抱き付いてそれを抑え込む。

あー、念のためはっきり言っておくがそこで読んでるお前。
おれはこんなガキに欲情するような妙な趣味嗜好はないぞ。
俺の好みは肉感的でなおかつ腰は細く、
それでいてなお髪が長ければ背も高い、
神秘的な雰囲気を漂わせる高貴な女性だ。
今のこいつは全然それに当てはまらんからな。
俺はこのガキを担ぎ上げて、早々にこの村からの脱出を試みる。

――だが。

ガブゥ!!

「くぁwせdrftgyふじこlp;!!」


さっきの顔色の悪そうな男よりもっと大きく支離滅裂な絶叫を挙げて、
俺様は転げ回り、のた打ち回った。左の二の腕には、盛大な歯型が付いている。
このガキが力一杯に噛み付きやがったからだ。

「いてえよぉおおおおお!!いてえよぉおおおおおおおお!!」

あまりの痛さに転げまわり、のたうち回る俺を尻目に、
あのガキは何かマジになった目で村の方角に目を向ける。

「いいもん!チキ一人であのお姉ちゃん達、全員助けにいくもん!!」

そういうや否や、村に向かって全力で疾走を始める。
それは瞬く間に村の外れへと辿り着き、
すぐにその立ち並ぶ家々の陰に隠れ見えなくなった。

これは、不味い。
非常に、不味い。

このままでは、あのガキは危険人物達のどれかに
立ち所に見つかり、殺されてしまうではないか!
そうなれば、秘策「コバンザメ作戦」も台無しになってしまう。
そうなれば、俺様が一人であがいてもどうにもならん。
今の俺様には、あいつがどうしても必要なんだ。

 ………でも、もういない。
 ガキはもう…いない……。
 残されたレンツェンハイマーはまた…独りぼっち……。

なにより、この殺し合いの中で一人でいる事は危険すぎる。

そうなれば、俺は死ぬ。
遠からず、絶対に死ぬ。

「逃がすか、ガキィイイイイ!!!」

ガキを追いかけて、俺様は村に戻った。
貴重な、かけがえのない命綱を探しに。
あのどう見ても尋常ではない雰囲気のものどもが潜む、
どう考えても危険な村へと――。


          ◇          ◇  


太股と足首の傷の縫合を、無事終える。
意識が少しだけ、ぼんやりとする。これ以上の失血は、不味いな…。
だが、血が抜けた分、幾分かの冷静さは取り戻せたようだ。

あの女は犯して犯して犯し抜いた後、最大の苦痛を与えて、そして殺すッ。
まあ順番が逆になってもいい。出来ればその悲鳴を長く聞きたいのだから、
出来れば前者となってくれるほうが俺は嬉しいのだが。

あるいはあの黒騎士だろうが、
あの偉そうなオッサンだろうが殺すッ。
生き残りは誰だろうが、必ず殺すッ。

だが、それはゆっくり時間をかけたあとでも良いだろう。
順当に考えるならあのオッサンが軍馬がある分優位だが、
黒騎士の方もどうも得体の知れないものを感じていた。
ランスロット・タルタロスのような、人間離れした不気味な何かを。

その勘が本物だとすれば、あのオッサンも無事ではすまないだろう。
そしてあの女とがぶつかり、最後に生き残った一人を始末すればいい。

俺は台所の料理を見てふと思い直し、
その調理に使われたと思われる包丁を手に取った。
手の込んだ手料理が作れるってことは、
調理用の器具もまたあるってことだ。
晩飯は一運動終えた後でもいいだろう。
だが、包丁は今刃物代わりとして必要だ。

それに、近くに見かけた民家に、たしか鋤や鍬程度ならあったはずだ。
それらと包丁を荒縄等で括りつければ、簡易槍にでもなるだろう。
耐久性は全く期待できないが、なぁに。一人殺れればそれで充分だッ。

最終的に、全員死ねばあとはどうでもいい。
俺はそう考えて玄関のドアノブに手を掛けようとしたが――。

随分と騒がしい二つの声がこちらに近づいてくる。
これはあの女でも黒騎士でも偉そうなオッサンのものでもない。
だがこれは聞き覚えの…、ある声だ。そう、一度だけ聞いてある。

――銀髪の男と、緑髪のガキの二人組だ。
  オレはこの声を覚えている! 覚えているぞッ!!

俺はこのクソッタレな奴らの大声のお陰で注意をそらしてしまい、
その為にあの殺れるはずの女相手に無様を晒しちまった。
下手すりゃ、こっちが殺られてたほどの醜態だった。
そう。あの邪魔さえなければ、俺はあの女を始末出来たはずだった。
つまり、今のこの俺の怪我は、全てあいつらのせいだってことだッ!

…ま、肩慣らしにゃちょうどいいか。
これまでの鬱憤晴らしにも格好の素材だ。
この危機管理意識の欠片もない大声から察するに、
どう考えても間抜けの類だろう。
戦闘力など無いと考えてよい。
なら、ちょうどいい。
早々に始末して、そいつらの支給品を奪っておくとするか。

――俺は威嚇するようにドアを全力で蹴破り、その屋外へと躍り出た。

          ◇          ◇  

「待て、待つんだガキィイイイイイ!!」

俺は駆ける。駆ける駈ける翔ける掛ける賭ける書ける描ける架ける掻ける…。
って、違うだろぉがあああああああこの俺様を書いている奴よぉおおおおおおお!!!


『――諸君、これから第一回目の放送を始める』


立ち上がり、ガキを追いかける直前に、例のヴォルマルフという男の言う
放送とやらがあった。その声はどう聞いたって楽しんでやがる。
こういう時でも流石俺。優先順位は弁えている。
ガキは後からでも追いかけられるが、放送は今を逃せば二度と聞けない。

俺様は素早く参加者名簿を袋から取り出し、
城で失敬してきた筆記用具で死亡者の名前と
禁止エリアの三か所ににチェックを入れていく。
やがて作業が終わり、その内容を読み返していく。

って。あれ?アレアレアレレ?

死者の名前にチェックをまんべんなく入れていくが、
その十名の名前のうち、三つが…。


おい。おいおいおいおいおいおいおい……。
ちょっと待ってぇええええええええ?!!

秘策「コバンザメ作戦」、早くも破綻の兆しか?
もう残りはオグマおじちゃんしか残ってねえ?!

ガキ、もう見捨てちゃおうかな…。
いや、まだオグマおじちゃんがいる。
それにはまだ早計というものだ。

ふ。ふふふ。俺はこのオグマおじちゃんこそが頼れる男であると見た!
逆を言えば他のヘタレ三人衆どもと違って、
この男だけは立派に生き残っているのがその証拠だ!
ならばガキをどうあっても確保しなければならない。
そうだ。それが最も正しい選択肢なのだ。
第一、こんな夜道に一人で置き去りにされるっていうのは…。


ゲフンゲフン!!
お、おいそこのお、おっおおおお前。
か、勘違いなんか、し、しないでよねッ?!
べ、別にこんなこの殺し合いが起こってるまっただ中、
一人っきりになるのが怖いって訳じゃないんだからねッ?!

俺はどこかに向かって自己弁護の限りを尽くすと、
見えなくなったガキを探しに村の中を駆け抜けた。

「…ガキはいねえぇがあ?…ガキはいねぇえがあ?」

民家を一軒一軒捜索し、声を掛けてみるが…。
目的のガキはおろか、さっきの赤毛の女やメガネをかけた優男も見当たりはしない。
当然、遠くで戦っている物騒を絵にかいたような黒騎士と赤い貴族は言うに及ばず。
でも、なんか物凄い金属の悲鳴がこっちまで聞こえてきてるような気がするんですけど…。
まあいい。聞こえないことにしよう。

やがて、橋が見えるほどの位置に来た所で。
探し回っていたガキが、とある民家の前で立ち止まっていた。
なにやらそこから漂うほのかな匂いに鼻をひくつかせている。
あ、涎だ。やはりガキはこれだからこそみっともない。

思いだしてみれば、俺様もこの半日は満足な休憩も食事も取ってなかった。
おそらく、ここで殺し合いをおっ始めている物騒な連中とは程遠い関係にある、
心優しい誰かがこの哀れな俺様の為に用意して下さったのだろう。
ユトナの加護に、こればかりは感謝感謝。

よし。あのガキをとりあえず食事で釣り、
休憩を取ってからこの村を離脱するとするか。
ガキはなんとでも言いくるめればいい。
そう考えてガキに背後から声をかける。
出来る限り、優しい声色で。

「…おいガキ。赤毛の女とメガネの男は見つかったか?」

「ううん。見つからない。でも、チキ。お腹すいたぁ…。」

「じゃあ夕餉でも頂いてから、この後の事を考えるとするか。」

「…ううー。でも、女の人と男の人が…。」

「腹が減っては戦は出来んというだろう?それにどこかで隠れているかもしれん。
 あいつらを探すのは、休憩を入れてからでも遅くはないんじゃないのか?」

「……うん、じゃあレンツェンの言う通りにする。チキ、昼ごはんもまだだったし。」

「よしよし。じゃあとりあえずはディナーにでも招待しよう。」

ふふふ。舞踏会で数々の女性を魅惑してきたこの俺様のテクニックにかかれば、
年端もいかぬガキを虜にするなど造作もないことよ。

俺様はそういってガキの肩に手を回し、エスコートするように民家の目の前にまで近づいたが。


唐突なる破裂音。
玄関の扉が轟音を立て、蝶番さえも付いたままに
この俺様に向かって物凄い勢いで吹き飛んでくる。
「アサルトドアー(強襲する扉)」って、そもそもこの世界にはいないだろうがぁあああ!!

俺様の脳内での抗議も虚しく、現実は覆らない。
俺様はちょうとガキを庇うような形になり、
その迫り来る扉を顔面で受け止める形となる。
そう、顔面で。


がつぅうううううううん!!


『でたァーーーーーー!!レンツェンハイマー君の顔面ブロックが炸裂!!』
『その伝家の宝刀で、見事チキ選手を守ったぁーーーーー!!』
…脳内で、何者かの“放送”による絶叫が聞こえたような、そんな気がした。


自分でも惚れ惚れするような、小気味よく響き渡る音を立てる。
意識が少し途切れ、天国の能無し親父と口煩い母親が一瞬かいま見えた気がした。
あ、今ものすげえ嫌そうな顔して「こっち来んな」って手を振ってやがる。
うぜえぞてめえら。っていうか、意地でもそっちなんか逝ってやるものか。
両親への反発心で、俺様はなんとか意識を取り戻す。

「…レンツェン。だいじょうぶ?」

大丈夫な訳ねぇだろうが、と大声を張り上げる直前。
眼の前には、どう見ても血に飢えた狼とか悪鬼の類にしか見えない、
顔色の悪い少年がいた。それは、先ほど赤毛の女を殺そうとした
者と人相と声もが一致している。…ヤバい。
赤毛の女や眼鏡の男が潜んでいるって事はだ。
こいつも潜んでいる可能性があるという事だ。
それを忘れてはならなかったのだ。
しかし。しかしだ。

この天才軍略家の目をもってしても見抜けぬとは!
このレンツェンハイマー、一生の不覚!

「…よお。はじめまして。いや、ひさしぶりだなって言うべきかな?」

そういって、少年は二コリとこちらに微笑みかける。
おお、何故か友好的な気配?これも俺様のカリスマ性のなせる業か?

「お前らの馬鹿騒ぎのお陰でな。こっちは足首に怪我背負っちまったんだ。
 その怪我のお礼を、今ここでたっぷりとさせて貰いたいんだがね?」

…前言撤回。
顔だけはにこやかに。実に穏やかな口調で。
だがしかし、声色には殺気を溢れださせて。
ああ、だめだ。これはもはや敵対的だとか、害意があるとか、
そういう生半可なレベルをぶっちぎりで超越してやがる。

この顔色が悪い少年は白い歯を剥き出しにして笑いかけるが、
あれはどうみたって、これから襲う獲物を物色する野獣の瞳だ。
シュラムの死神の刃物のような危険さとは違う野生の危険性を、
この少年は全身から醸し出してやがる。

やがて、少年は気が付いたかのように、俺の後ろにいるガキに…。
正確にはガキの背負っている鞄からはみ出した柄に見入っていた。

「…へえ。そこのガキ。相当良さそうな剣持ってるじゃねえか。
 その柄、どう見たって普通の剣なんかじゃ有り得ねえだろ?
 それを寄越しな。そうすりゃ見逃してやることも考えてやるぜ?」

チキは置かれている状況が理解できるのか、それとも理解できていないのか?
怪訝そうな顔を目の前の少年に向けて浮かべていた。…ああ、まずい。

あの身体にはおろか、頭にさえも栄養が足りなさそうなガキのことだ。
いわれたままに「ハイ、どうぞ♪」だなんて言ってあの剣を渡しかねない。
当然、あの男に剣を渡したからとって見逃すつもりは一切ないだろう。
そうなれば最期。俺はあのガキと仲良くなます斬りにされるだけだ。

だったら、命懸けでこいつと戦う?それも、問題外だ。
シュラムの死神には劣るものの、一般兵士など軽く凌駕した殺気の持ち主。
まともにやりあえば、たとえ素手でも瞬殺されることはまず間違いない。

では、ガキを置いて逃げるか?
このままでは、どうせガキと共に殺されてしまう。だったら…。
そう判断し、せめて自分一人でも逃げられる方角を模索するが――。


「おれを あまくみるなよ!!」

とっくに みぬかれている!
しょうねんは そういって このおれさまに どうもうな えみをうかべる。

ああ なんということだ! いつのまにか しへのきょうふのあまり 
のうないが 8びっとの せかいに なりかわって しまったらしい!

ぬたりと しろいはをみせながら けんを とりあげようと 
かおいろのわるい しょうねんは ガキにちかづこうとする。

…きょうふに こしをぬかしながら このおれさまの めにうつったものは…!!
あのしょうねんが せにまとった しにがみだ!!

それはこのおれさまを とらえようと みみもとに つめたいといきを ふきかける
…こわくてきな じょせいのすがたを とりながら…。


ざんねん! 
このおれさまの ぼうけんは これで おわってしまうのか?


【C-3/村:東端の民家/夜】
ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:右の二の腕に裂傷、右足首に刺し傷、右腿に切り傷(全て処置済)、やや酷い貧血、
    死神の甲冑による恐怖効果、および精気吸収による生気の欠如と活力及び耐久性の向上。
[装備]:死神の甲冑@TO、調理用の包丁、肉切り用のナイフ(3本)、漆黒の投げナイフ(4本セット:残り4本)
[道具]:支給品一式(もう一つのアイテムは不明)、栄養価の高い保存食(2食分)。麦酒ペットボトル2本分(移し変え済)
[思考]1:手始めにガキから剣を奪い、眼の前の二人を殺す。
    2:殺せる場合は殺すが、無理はしない
    3:アティたちに復讐


【レンツェンハイマー@ティアリングサーガ】
[状態]:疲労、空腹、やすらぐかほり、顔面に打撲(軽度)、左の二の腕に噛み痕(出血は無し)
    混乱のあまり思考が8ビット化(次の冒頭で必ず戻ります)、軽度の恐怖
[装備]:ゴールドスタッフ@ディスガイア、エルメスの靴@FFT
[思考]1:眼の前の災難(ヴァイス)から取りあえず逃げ切りたい。
    2:保身第一、(都合のいい)仲間を集める
    3:手段を問わず、とにかく生還する
    4:コバンザメ作戦、どうしよう…?
[備考]:ヴェガっぽいやつには絶対近寄らない(ヴェガっぽいのが既に死んでる事に気づいてません)。
    放送内容でオイゲンが死んだ事に内心で物凄く喜んではいたのですが、
    今はそれどころではなく死神の甲冑の恐怖効果により打ち震えています。
    首輪の感情増幅効果により混乱の度合がより一層酷くなっていますが、
    元よりそんな事には一切気付いておりません。


【チキ@ファイアーエムブレム紋章の謎】
[状態]:健康、空腹
[装備]:シャンタージュ@FFT
[道具]:やたらと重いにぎり(柄部分のみ確認、詳細不明)
[思考]1:レンツェンといっしょ (でも、ちょっとだけきらいになった)
    2:仲間をさがす
    3:首輪かゆい
    4:かえりたい
    5:目の前のお兄さん ものすごくイヤ
[備考]:放送は聞いてはいましたが、その意味をよく理解していません。
    よって、マルス達が既に死んでいる事に気付いておりません。

097 そして輝きは続く 投下順 099 Agitation
097 臨時放送・裏 時系列順 106 想いこらえて(前編)
092 夕日の下の苦悩 レンツェンハイマー 102 未来の記憶(前編)
092 夕日の下の苦悩 チキ 102 未来の記憶(前編)
092 夕日の下の苦悩 ヴァイス 102 未来の記憶(前編)
最終更新:2011年01月28日 14:25