会場を照らす陽は沈み、夜が訪れた。生き延びた参加者たちにとっては、これからさらに厳しい状況となるだろう。
いつ何時、殺人者に襲われるか分からない。闇は害意持つ者にとって絶好の潜伏場所だ。
とくに単独で行動している者は常に周囲を警戒せねばならず、安んじて睡眠を取ることもできない。
さらに参加者たちは他者と遭っても和を結ぶことが難しくなる。暗黒というものは往々にして人に不安を抱かせ疑心を生ませるものだ。
時には、意志を同じくする者同士でもそれによって争いが生じてしまうこともある。
だからこそ、面白いのだ。
ヴォルマルフは口元を歪めて嗤いを漏らした。
『――諸君、これから第一回目の放送を始める』
抑揚のない、非常に機械的な口調。
ヴォルマルフは手元の文書に目を落としながら、淡々と放送事項を述べてゆく。
『まずは禁止エリアを発表する。
――B-4、E-4、F-8
以上の三箇所だ。現在地が該当エリアの者は速やかに移動をせよ。
ゲームを盛り上げるためにも、つまらん死に様は曝さなぬようにしてもらいたいのでな』
一呼吸。これからが放送の“本命”だ。
“脱落者”の名を聞いて、ある者は悲しみ、ある者は憤り、ある者は逆に意志を硬くするかもしれない。
どうであろうと、感情の高まりはヴォルマルフの思うところだ。その“落差”こそが重要なのだ。
先と同じように平板な声色で、ヴォルマルフはゆっくりと口を開いた。
『続いて、ゲーム開始からこれまでの死者の発表をする。
以上、11名。開始から12時間で約1/5の死者――なかなかだ。このペースでゲームに努めてもらいたい』
ふと、無感情に放送を進めていたヴォルマルフはそこで初めて人間らしい声を出した。
くっくっく、と参加者からすれば不気味な笑い声であった。
キュラーの要請どおり、ヴォルマルフはその言を彼らに伝える。
『失ったものは戻ってこない、と思っている者に一つ教えてやろう。ゲーム開始前に言ったことは覚えているな?
優勝者には望むままの褒賞が与えられる、と。それに例外はない――たとえ死した者を蘇らせることでも、だ』
この話が今すぐに参加者の心に変化をもたらす、とは考えていない。だがさらに死者が増え、参加者の数が少なくなってきたときはどうか?
おそらくほぼ全員が近しい者の死に遭っているだろう。そして、生き残っている者には「優勝」という言葉が否応なく頭をよぎるはずだ。
その一縷に賭ける覚悟をし、なれど死という形で最後の希望をも砕かれる時、果たして人はどれほどの負の感情を抱くのか?
――その極大の絶望感こそ、己の野望への捷径。殺し、殺されよ。報い、報われよ。血で血を洗い負の気を精製するのだ。
『これにて第一回放送を終了する。さあ――殺し合いを再開せよ』
最終更新:2009年05月23日 17:26