Maybe the name is ...
「クソッたれがぁ!」
乱暴極まりない声で、しかし辛うじて利かせた理性の歯止めで、マグニスはこの島に響き渡らない程度の大声で悪罵を発した。間に合わせの包帯を巻いた傷に若干こたえた。
そろそろこの島でのゲーム…「バトル・ロワイアル」の一日目にも終わりが来ようとしている。
パルマコスタ人間牧場での、退屈な間引き管理書類の判押し(人口管理などという七面倒な仕事は、普段は部下にやらせてそれを承認するだけなのだ)をやっていたとき、マグニスは突然この会場に呼び寄せられた。
突然のことに最初マグニスはいぶかったが、事情を説明されるや否や、彼は狂喜した。
彼と同じく会場にやってこさせられた他の54人を、思う存分にぶち殺して構わないという、常人からすれば狂気の沙汰のような状況。
しかし、刺激を求めていたマグニスにとって、これはまさにおあつらえ向きの最高のゲームだったのだ。
ありがたいことに、ゲームが始まってすぐ、マグニスは幸運に恵まれた。
他の参加者からしてみれば強力な武装、そして強力な仲間を得ることが出来たからだ。すでに幾名かの参加者を屠り去っているし、上々な戦果を得ている…はずであった。
しかし。
この上なく不機嫌なマグニスの今の心境の原因は、その仲間…バルバトス・ゲーティアにこそあったのだ。
タッグを組んでから対峙した1人目の獲物のとどめは、バルバトスに奪われた。2人目の獲物は、バルバトスが手にした榴弾砲で粉みじんに爆砕された。
その現場にいた残る3人の男女のとどめも、バルバトスが自分の言葉を愚直に捉えたせいで逃した。
一応マグニスもゲーム開始前、1人の男の命を奪っている。だがあんな雑魚は獲物の頭数にも入らない。
マグニスが望んでいるのは血なまぐさい戦い…鮮血に彩られた生々しい戦いと、そして勝利なのだ。
無論泣きながら命乞いする相手を、一方的に虐殺するのも三度の飯より好きだが、三度の虐殺より好きなのは、血みどろの激闘。
獣のような心性を持つマグニスにも、戦士の心は多少なりとも備わっているのだ。
「あの野郎…なめた口を利きやがって…っ!!」
ここは川のほとり。マグニスは半分無意識的に川原の小岩を1つ取り上げ、それを握る右手に渾身の腕力を込めた。
数瞬ののち、ビキリ、という音と共に小岩は粉砕される。
マグニスの頭ほどもある小岩は、マグニスの右手の中で無数の石ころと化した。人一人の首の骨をへし折る握力には、さすがに耐え切れなかったらしい。
マグニスは足元に落ちる小石には目もくれず、今度はべっ、と唾を吐き捨てた。
3人の男女の件で憤懣やるかたないマグニスは、あれからもバルバトスへの恨みつらみを言い続けていた。
そこについ先ほど、バルバトスに浴びせられた皮肉で、とうとう我慢が限界を突破し、喧嘩になってしまったのだ。
下手をすればそのまま一戦おっぱじまる寸前まで煮えたぎったマグニスの頭だったが、ちょうど用事が出来たので、川の土手の上でバルバトスを待たせたまま、川のほとりまで降りてきた。
用事といっても、ただ用を足すだけのことであったが。
用を足し終えたマグニスは、しかしそのまま上に戻ってまたバルバトスとすぐ獲物探しにかかる気分には、到底なれなかった。
もちろんこのままバルバトスのところへ戻っても、またぶつかるだけなのは目に見えていたからなのだが、理由はそれだけではない。
星空を眺めていたマグニスは、柄にもなく思考の海に漕ぎ出そうとしていたのだ。
乱暴極まりない声で、しかし辛うじて利かせた理性の歯止めで、マグニスはこの島に響き渡らない程度の大声で悪罵を発した。間に合わせの包帯を巻いた傷に若干こたえた。
そろそろこの島でのゲーム…「バトル・ロワイアル」の一日目にも終わりが来ようとしている。
パルマコスタ人間牧場での、退屈な間引き管理書類の判押し(人口管理などという七面倒な仕事は、普段は部下にやらせてそれを承認するだけなのだ)をやっていたとき、マグニスは突然この会場に呼び寄せられた。
突然のことに最初マグニスはいぶかったが、事情を説明されるや否や、彼は狂喜した。
彼と同じく会場にやってこさせられた他の54人を、思う存分にぶち殺して構わないという、常人からすれば狂気の沙汰のような状況。
しかし、刺激を求めていたマグニスにとって、これはまさにおあつらえ向きの最高のゲームだったのだ。
ありがたいことに、ゲームが始まってすぐ、マグニスは幸運に恵まれた。
他の参加者からしてみれば強力な武装、そして強力な仲間を得ることが出来たからだ。すでに幾名かの参加者を屠り去っているし、上々な戦果を得ている…はずであった。
しかし。
この上なく不機嫌なマグニスの今の心境の原因は、その仲間…バルバトス・ゲーティアにこそあったのだ。
タッグを組んでから対峙した1人目の獲物のとどめは、バルバトスに奪われた。2人目の獲物は、バルバトスが手にした榴弾砲で粉みじんに爆砕された。
その現場にいた残る3人の男女のとどめも、バルバトスが自分の言葉を愚直に捉えたせいで逃した。
一応マグニスもゲーム開始前、1人の男の命を奪っている。だがあんな雑魚は獲物の頭数にも入らない。
マグニスが望んでいるのは血なまぐさい戦い…鮮血に彩られた生々しい戦いと、そして勝利なのだ。
無論泣きながら命乞いする相手を、一方的に虐殺するのも三度の飯より好きだが、三度の虐殺より好きなのは、血みどろの激闘。
獣のような心性を持つマグニスにも、戦士の心は多少なりとも備わっているのだ。
「あの野郎…なめた口を利きやがって…っ!!」
ここは川のほとり。マグニスは半分無意識的に川原の小岩を1つ取り上げ、それを握る右手に渾身の腕力を込めた。
数瞬ののち、ビキリ、という音と共に小岩は粉砕される。
マグニスの頭ほどもある小岩は、マグニスの右手の中で無数の石ころと化した。人一人の首の骨をへし折る握力には、さすがに耐え切れなかったらしい。
マグニスは足元に落ちる小石には目もくれず、今度はべっ、と唾を吐き捨てた。
3人の男女の件で憤懣やるかたないマグニスは、あれからもバルバトスへの恨みつらみを言い続けていた。
そこについ先ほど、バルバトスに浴びせられた皮肉で、とうとう我慢が限界を突破し、喧嘩になってしまったのだ。
下手をすればそのまま一戦おっぱじまる寸前まで煮えたぎったマグニスの頭だったが、ちょうど用事が出来たので、川の土手の上でバルバトスを待たせたまま、川のほとりまで降りてきた。
用事といっても、ただ用を足すだけのことであったが。
用を足し終えたマグニスは、しかしそのまま上に戻ってまたバルバトスとすぐ獲物探しにかかる気分には、到底なれなかった。
もちろんこのままバルバトスのところへ戻っても、またぶつかるだけなのは目に見えていたからなのだが、理由はそれだけではない。
星空を眺めていたマグニスは、柄にもなく思考の海に漕ぎ出そうとしていたのだ。
マグニスは数百年前、とある集落でハーフエルフとして生を受けた。
母を孕ませたのは行きずりの男であったらしく、父親は分からない。母も物心付く前に死んだらしく、マグニスは親というものを知らず育ってきた。
何せ父も母も、エルフか人間か、はたまたハーフエルフかさえ、マグニスは知らないのだ。
刑務所や牢屋よりかは、辛うじて上等といえるような生活の中、マグニスはやたら強かった腕っぷしと、ハーフエルフの魔力をもってして糊口を凌いだ。
集落の中で名を上げ、それが偶然やってきたディザイアンの目に留まった日を、マグニスは今でも覚えている。
ディザイアンにスカウトを受けてからは、あとはとんとん拍子に物事は進んだ。
他のディザイアンのメンバーで反りの合わない奴は片っ端から力ずくでねじ伏せてきたし、逆に相手にねじ伏せられたとしても、きっちり復讐は遂げてやった。
結果、マグニスは今ではディザイアン五聖刃の一角にまで上り詰めている。
しかしながら、マグニスの栄転の日々は、そこで打ち止めとなった。
衰退世界シルヴァラントにおいて、最も人口数の多い港町、パルマコスタ。マグニスはそこを管理する人間牧場の所長に任命された。
もちろん人によっては、貧民街の乞食から人間牧場の所長に成り上がったのであれば、大出世と評するものもいるだろう。
事実、マグニスの部下の中には、彼の栄転のエピソードに聞き入り、心酔する者もいることは知っている。だが、所長任命の真実を知ってのち、マグニスの自尊心はひどく傷付いた。
(どうせ暴力を振るうしかない虐殺馬鹿には、大雑把な人口調節だけで十分なパルマコスタ人間牧場の所長程度で十分だ。
ユグドラシル様の深遠な計画などに、参加させる必要はあるまい。だからこそユグドラシル様も、マグニスをあそこの所長に任命したのだ。
まったく、ユグドラシル様の適材適所の英断には感服させられる)
ある五聖刃の言葉。マグニスはふとしたことからそれを漏れ聞き、そして怒り狂った。
その日から、自分は他の五聖刃達からは疎まれているという事実に、マグニスは気付いた。
激しい攻撃性と、そしてその裏返しの密かな劣等感という、焦燥の炎に今まで焼かれながら生きてきたのだ。
他のディザイアンからの栄誉ではフォシテスに劣る。魔力ではユグドラシルの懐刀であるプロネーマにかなわない。頭脳ではクヴァルやロディルに勝てないのは明白である。
何より、マグニスは五聖刃の中で、一番卑しい生まれをしている。もとはといえば、マグニスは親も分からぬような乞食の生まれなのだ。
もちろん、マグニスは自らの抱く劣等感など、決して認めるような性格ではありえない。
彼は自分と対等の存在を認めない。認める存在は自分より上か下か。否、究極的には自分より下の存在しか認めない。常に自らが唯一無二、かつ一番でなければ済まない性質なのだ。
そんな彼にとって、他の五聖刃の面々は、最近では目障りな目の上のたんこぶにさえ思えてくる。彼は常に一番であり、対等の者を認めない。そう、対等の者を…
だが、そこでマグニスはふと、素直に割り切れない感情が自らのうちにある事に気付く。
母を孕ませたのは行きずりの男であったらしく、父親は分からない。母も物心付く前に死んだらしく、マグニスは親というものを知らず育ってきた。
何せ父も母も、エルフか人間か、はたまたハーフエルフかさえ、マグニスは知らないのだ。
刑務所や牢屋よりかは、辛うじて上等といえるような生活の中、マグニスはやたら強かった腕っぷしと、ハーフエルフの魔力をもってして糊口を凌いだ。
集落の中で名を上げ、それが偶然やってきたディザイアンの目に留まった日を、マグニスは今でも覚えている。
ディザイアンにスカウトを受けてからは、あとはとんとん拍子に物事は進んだ。
他のディザイアンのメンバーで反りの合わない奴は片っ端から力ずくでねじ伏せてきたし、逆に相手にねじ伏せられたとしても、きっちり復讐は遂げてやった。
結果、マグニスは今ではディザイアン五聖刃の一角にまで上り詰めている。
しかしながら、マグニスの栄転の日々は、そこで打ち止めとなった。
衰退世界シルヴァラントにおいて、最も人口数の多い港町、パルマコスタ。マグニスはそこを管理する人間牧場の所長に任命された。
もちろん人によっては、貧民街の乞食から人間牧場の所長に成り上がったのであれば、大出世と評するものもいるだろう。
事実、マグニスの部下の中には、彼の栄転のエピソードに聞き入り、心酔する者もいることは知っている。だが、所長任命の真実を知ってのち、マグニスの自尊心はひどく傷付いた。
(どうせ暴力を振るうしかない虐殺馬鹿には、大雑把な人口調節だけで十分なパルマコスタ人間牧場の所長程度で十分だ。
ユグドラシル様の深遠な計画などに、参加させる必要はあるまい。だからこそユグドラシル様も、マグニスをあそこの所長に任命したのだ。
まったく、ユグドラシル様の適材適所の英断には感服させられる)
ある五聖刃の言葉。マグニスはふとしたことからそれを漏れ聞き、そして怒り狂った。
その日から、自分は他の五聖刃達からは疎まれているという事実に、マグニスは気付いた。
激しい攻撃性と、そしてその裏返しの密かな劣等感という、焦燥の炎に今まで焼かれながら生きてきたのだ。
他のディザイアンからの栄誉ではフォシテスに劣る。魔力ではユグドラシルの懐刀であるプロネーマにかなわない。頭脳ではクヴァルやロディルに勝てないのは明白である。
何より、マグニスは五聖刃の中で、一番卑しい生まれをしている。もとはといえば、マグニスは親も分からぬような乞食の生まれなのだ。
もちろん、マグニスは自らの抱く劣等感など、決して認めるような性格ではありえない。
彼は自分と対等の存在を認めない。認める存在は自分より上か下か。否、究極的には自分より下の存在しか認めない。常に自らが唯一無二、かつ一番でなければ済まない性質なのだ。
そんな彼にとって、他の五聖刃の面々は、最近では目障りな目の上のたんこぶにさえ思えてくる。彼は常に一番であり、対等の者を認めない。そう、対等の者を…
だが、そこでマグニスはふと、素直に割り切れない感情が自らのうちにある事に気付く。
本当に、自分は対等の者を認めないのだろうか? あの男はどうなのか? バルバトス・ゲーティアは?
ここに来るまでのうちに、マグニスはバルバトスといくらかは言葉を交し合っている。聞くところによれば、彼は歴史に圧殺され、英雄になり損ねた男、らしい。
彼もまた、自分を認めない周囲…いや、歴史そのものを恨み、その内なる憤怒で動き回っていたという。彼もその旅の最中、ここに呼び出されたらしい。
言葉を交わし、互いの身の上やその願いを聞き合ううちに、気が付けばマグニスには、今まで感じた事もないような感情が芽生えていた。今、芽生えていたことに気付いた。
集落に暮らしていた時代、最も頼っていた相棒にさえ覚えたことのない感情。この感情こそ、もしや…
(寝ぼけてんじゃねえぞ俺さまは!!)
そこでマグニスは、首をぶんぶんと振った。赤いドレッドヘアーが、場違いなほど幻想的な月に照らされる中、大きく揺れる。
(俺さまはディザイアン五聖刃筆頭、マグニス! 俺さまはそんな甘っちょれぇ性格じゃねえんだ! …甘っちょれぇ……性格じゃ…!!)
「フン…マグニス、随分と長い小便だな。ついでに糞でもまとめてひり出していたのか?」
マグニスの1人きりの観想は、その声に中断させられた。
「…バルバトスか? てめえ、何の用だ?」
「俺も小便だ。『人を殺した後は小便がしたくなる』というが、どうやら事実らしいな」
今まで沈思黙考していたマグニスは、面白くなさそうに「けっ」と口に出してからそっぽを向いた。
(俺さまが柄にもなく頭を働かせていたのに、こいつと来たら…。ムカつくぐらい落ち着き払ってやがる!! あの3匹の豚どもを狩り損ねたときも…!!)
マグニスの頭に、再び血が昇り始めた。額に太い血管が浮かぶ。思わず怒鳴りつけそうになって、大きく息を一吸いする。
だが、結局怒声はマグニスの口から放たれることはなかった。先ほど芽生えた感情が…それまでのマグニスにはなかった気持ちが、それを押し留まらせた。
今までついぞ味わったことのないような、奇妙な感情。
戦場で覚える恐怖は、全てそれを上回る憤怒で飲み込んできた。悲しみという感情は、とうに自らの生まれたあの集落に置き忘れている。
不満や不平は、暴力で周りの人間を全て自分に従わせることで解決してきた。退屈ならば、劣悪種の虐殺で十分紛らわせる。
だが。この感情は、怒りでも飲み込めない。暴力でも処理できない。先ほどのように物に当たったところで、何ら紛れはしない。
マグニスの知りうるあらゆる解決手段でもってしても、この感情は鎮められない。バルバトスに抱く、この感情は。
もちろんマグニスは、必要になれば即座にバルバトスを裏切るつもりではいる。状況が差し迫っていれば、バルバトスの首をためらわずに引きちぎれる。向こうも、それは同じだろう。
だがその時、自らの嗜虐心は歓喜に打ち震えるだろうか? 否、嫌がりこそしないものの、快楽を感じはしない。しないはずだ。
その時だった。突然にマグニスの脳裏に、その言葉はひらめいた。マグニスの求めていた、その感情の名前が。
ここに来るまでのうちに、マグニスはバルバトスといくらかは言葉を交し合っている。聞くところによれば、彼は歴史に圧殺され、英雄になり損ねた男、らしい。
彼もまた、自分を認めない周囲…いや、歴史そのものを恨み、その内なる憤怒で動き回っていたという。彼もその旅の最中、ここに呼び出されたらしい。
言葉を交わし、互いの身の上やその願いを聞き合ううちに、気が付けばマグニスには、今まで感じた事もないような感情が芽生えていた。今、芽生えていたことに気付いた。
集落に暮らしていた時代、最も頼っていた相棒にさえ覚えたことのない感情。この感情こそ、もしや…
(寝ぼけてんじゃねえぞ俺さまは!!)
そこでマグニスは、首をぶんぶんと振った。赤いドレッドヘアーが、場違いなほど幻想的な月に照らされる中、大きく揺れる。
(俺さまはディザイアン五聖刃筆頭、マグニス! 俺さまはそんな甘っちょれぇ性格じゃねえんだ! …甘っちょれぇ……性格じゃ…!!)
「フン…マグニス、随分と長い小便だな。ついでに糞でもまとめてひり出していたのか?」
マグニスの1人きりの観想は、その声に中断させられた。
「…バルバトスか? てめえ、何の用だ?」
「俺も小便だ。『人を殺した後は小便がしたくなる』というが、どうやら事実らしいな」
今まで沈思黙考していたマグニスは、面白くなさそうに「けっ」と口に出してからそっぽを向いた。
(俺さまが柄にもなく頭を働かせていたのに、こいつと来たら…。ムカつくぐらい落ち着き払ってやがる!! あの3匹の豚どもを狩り損ねたときも…!!)
マグニスの頭に、再び血が昇り始めた。額に太い血管が浮かぶ。思わず怒鳴りつけそうになって、大きく息を一吸いする。
だが、結局怒声はマグニスの口から放たれることはなかった。先ほど芽生えた感情が…それまでのマグニスにはなかった気持ちが、それを押し留まらせた。
今までついぞ味わったことのないような、奇妙な感情。
戦場で覚える恐怖は、全てそれを上回る憤怒で飲み込んできた。悲しみという感情は、とうに自らの生まれたあの集落に置き忘れている。
不満や不平は、暴力で周りの人間を全て自分に従わせることで解決してきた。退屈ならば、劣悪種の虐殺で十分紛らわせる。
だが。この感情は、怒りでも飲み込めない。暴力でも処理できない。先ほどのように物に当たったところで、何ら紛れはしない。
マグニスの知りうるあらゆる解決手段でもってしても、この感情は鎮められない。バルバトスに抱く、この感情は。
もちろんマグニスは、必要になれば即座にバルバトスを裏切るつもりではいる。状況が差し迫っていれば、バルバトスの首をためらわずに引きちぎれる。向こうも、それは同じだろう。
だがその時、自らの嗜虐心は歓喜に打ち震えるだろうか? 否、嫌がりこそしないものの、快楽を感じはしない。しないはずだ。
その時だった。突然にマグニスの脳裏に、その言葉はひらめいた。マグニスの求めていた、その感情の名前が。
「興味」。そう、興味である。マグニスはバルバトスに、並々ならぬ興味を抱いているのだ。
いじめたり虐殺したりして楽しむ対象でも、いずれはねじ伏せ引きずり下ろす対象でもない。純粋に、興味をそそられる対象として、マグニスの目にはバルバトスが映っているのだ。
胸のつかえが、すっと取れた。長年苦しんでいた病から解放されたような、えもいわれぬ高揚が生まれる。
そう思うと、バルバトスに対し今まで燃やしていた怒りが、嘘のように退いてゆく。バルバトスに抱く感情の正体が分かったことが、特効薬となったのだ。
用を足し終えたバルバトスは、川にその両手を突っ込み、ゆすぐ。川面に移る月が、そのときの波紋で千々に乱れる。彼の背を見るマグニスには、次なる感情が湧き上がる。
ならば、この興味深い男と共に戦えば、自分はこのゲームをどこまで勝ち進めるのか? 自分はどこまで、獣のように血みどろの死を撒き散らせるのか?
この男自分が最後の2人となったとき、死闘を繰り広げた後にどちらが地に立っているのか? よしんば袂を分かったとして、その行き着く結果はどうなのだろうか?
想像するだに、面白い。戦士としての、獣としての好奇心が、マグニスを支配した。
もちろん、必要とあらば手にしたおもちゃを、即座に手放す用意はある。
獣は命運尽きた相手をいたぶりながら殺すことこそあれ、反撃の余力を残した…もしくは残していそうな獲物を前に、呑気に舌なめずりなどしないものなのである。
決まった。これなら、話は早い。マグニスは野太い声で、バルバトスを呼んだ。
「おい、バルバトス!」
「…何だ? 貴様、まだ先ほど獲物を逃した恨みつらみを…」
「もうぐちぐち言い続ける気はねぇ。俺さまの機嫌は直ったからなぁ」
「…どういう心境の変化だ、貴様?」
突拍子もない言葉に、バルバトスは思わず眉間にしわを寄せる。
妙なことを企んでいたら、すぐにでも貴様のどてっ腹にもこいつをお見舞いするぞ? バルバトスは藤林しいなを…ミズホの民の女性を屠った榴弾砲を小突きながら言った。
だが、バルバトスの疑念は、それ以上膨らむこともなく、自然と消滅への道をたどることとなる。
「…まあいい。今日の俺は紳士的だ…運が良かったな」
あまりあれこれ詮索するのも性に合わない様子で、バルバトスは榴弾砲を下げた。
いじめたり虐殺したりして楽しむ対象でも、いずれはねじ伏せ引きずり下ろす対象でもない。純粋に、興味をそそられる対象として、マグニスの目にはバルバトスが映っているのだ。
胸のつかえが、すっと取れた。長年苦しんでいた病から解放されたような、えもいわれぬ高揚が生まれる。
そう思うと、バルバトスに対し今まで燃やしていた怒りが、嘘のように退いてゆく。バルバトスに抱く感情の正体が分かったことが、特効薬となったのだ。
用を足し終えたバルバトスは、川にその両手を突っ込み、ゆすぐ。川面に移る月が、そのときの波紋で千々に乱れる。彼の背を見るマグニスには、次なる感情が湧き上がる。
ならば、この興味深い男と共に戦えば、自分はこのゲームをどこまで勝ち進めるのか? 自分はどこまで、獣のように血みどろの死を撒き散らせるのか?
この男自分が最後の2人となったとき、死闘を繰り広げた後にどちらが地に立っているのか? よしんば袂を分かったとして、その行き着く結果はどうなのだろうか?
想像するだに、面白い。戦士としての、獣としての好奇心が、マグニスを支配した。
もちろん、必要とあらば手にしたおもちゃを、即座に手放す用意はある。
獣は命運尽きた相手をいたぶりながら殺すことこそあれ、反撃の余力を残した…もしくは残していそうな獲物を前に、呑気に舌なめずりなどしないものなのである。
決まった。これなら、話は早い。マグニスは野太い声で、バルバトスを呼んだ。
「おい、バルバトス!」
「…何だ? 貴様、まだ先ほど獲物を逃した恨みつらみを…」
「もうぐちぐち言い続ける気はねぇ。俺さまの機嫌は直ったからなぁ」
「…どういう心境の変化だ、貴様?」
突拍子もない言葉に、バルバトスは思わず眉間にしわを寄せる。
妙なことを企んでいたら、すぐにでも貴様のどてっ腹にもこいつをお見舞いするぞ? バルバトスは藤林しいなを…ミズホの民の女性を屠った榴弾砲を小突きながら言った。
だが、バルバトスの疑念は、それ以上膨らむこともなく、自然と消滅への道をたどることとなる。
「…まあいい。今日の俺は紳士的だ…運が良かったな」
あまりあれこれ詮索するのも性に合わない様子で、バルバトスは榴弾砲を下げた。
「さて、じゃあ俺の話を聞け。バルバトス、これからの作戦会議ついでに、少しここで連係しながら戦う練習をしていかねえか? 軽くでいい」
「…ますます妙な風の吹き回しだな…だが、どういうつもりだ?」
ひとまずこの男からは、自分に向いた悪意を感じ取ることは出来ない。それに、先ほどまでの子供じみたわがままな雰囲気も、少し落ち着いたように見える。
バルバトスは、マグニスの話を聞いてみることにしてみた。
「俺さまの世界に伝わるすげぇ戦闘流儀を、てめえにも教えてやろうかと思ってな。俺さまとてめえなら、すげぇデカイのを撃てそうな気がしてな」
「何の話だ…?」
マグニスの顔には、いつの間にか純粋で、しかしそれゆえに残酷な笑みが、ありありと浮かんでいた。
「こいつぁある程度戦いの息のあった奴同士となら、気合十分の時にぶちかませる。
息を合わせて術技を重ね合わせて、もっと強烈な術技を生み出して敵をブチのめす切り札よ」
「…ほう?」
「生まれた世界の違うてめえと上手く繰り出せるかどうかは分からねえが、少なくとも連係プレーの練習には、これからの戦いで無意味なはずはねえからな…
試してみる価値はあるはずだぜ?」
この男が、連係プレーなどという言葉を口にするとは。バルバトスは少し違和感を覚えないでもなかったが、それでも悪い話ではなさそうだ。
マグニスは手にしたオーガアクスを天に掲げ、高らかに宣言した。
「この切り札はな…人呼んで『ユニゾン・アタック』ってんだ」
月光に照らされるオーガアクスは、マグニスの手の内で、より一層の破壊と殺戮を撒き散らせる予感に、打ち震えるように輝いていた。
「…ますます妙な風の吹き回しだな…だが、どういうつもりだ?」
ひとまずこの男からは、自分に向いた悪意を感じ取ることは出来ない。それに、先ほどまでの子供じみたわがままな雰囲気も、少し落ち着いたように見える。
バルバトスは、マグニスの話を聞いてみることにしてみた。
「俺さまの世界に伝わるすげぇ戦闘流儀を、てめえにも教えてやろうかと思ってな。俺さまとてめえなら、すげぇデカイのを撃てそうな気がしてな」
「何の話だ…?」
マグニスの顔には、いつの間にか純粋で、しかしそれゆえに残酷な笑みが、ありありと浮かんでいた。
「こいつぁある程度戦いの息のあった奴同士となら、気合十分の時にぶちかませる。
息を合わせて術技を重ね合わせて、もっと強烈な術技を生み出して敵をブチのめす切り札よ」
「…ほう?」
「生まれた世界の違うてめえと上手く繰り出せるかどうかは分からねえが、少なくとも連係プレーの練習には、これからの戦いで無意味なはずはねえからな…
試してみる価値はあるはずだぜ?」
この男が、連係プレーなどという言葉を口にするとは。バルバトスは少し違和感を覚えないでもなかったが、それでも悪い話ではなさそうだ。
マグニスは手にしたオーガアクスを天に掲げ、高らかに宣言した。
「この切り札はな…人呼んで『ユニゾン・アタック』ってんだ」
月光に照らされるオーガアクスは、マグニスの手の内で、より一層の破壊と殺戮を撒き散らせる予感に、打ち震えるように輝いていた。
【バルバトス
状態:TP全快 無傷
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り3発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル
第一行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第二行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:F4の川のほとり】
状態:TP全快 無傷
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(弾丸残り3発。一射ごとに要再装填) クローナシンボル
第一行動方針:マグニスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する。特に「英雄」の抹殺を最優先
第二行動方針:マグニスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
現在位置:F4の川のほとり】
【マグニス
状態:風の導術による裂傷 顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み)
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する
第二行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
第三行動方針:バルバトスが興味深い
現在位置:F4の川のほとり】
状態:風の導術による裂傷 顔に切り傷(共に出血は停止。処置済み)
所持品:オーガアクス ピヨチェック
第一行動方針:バルバトスと同盟を組み、残る参加者を全員抹殺する
第二行動方針:バルバトスと作戦会議、そして連係プレーの練習を行う。可能ならば「ユニゾン・アタック」を習得する。
第三行動方針:バルバトスが興味深い
現在位置:F4の川のほとり】