trust is blind
[戦いに赴く人のお話。]
少し、時は遡る。
防空壕に、5人の人物がいた。
中央に刺し込まれたリバヴィウス鉱は淡い癒しの光を放っており、じっくりとではあるが、各々の傷を癒している。
いわば全体版ホーリーブレス、といったところ。
手に自身が記してきたレポートや、ヴェイグから受け取ったジェイのメモを持ち、進行役を勤めるはキール・ツァイベル。
彼のそばにいる、下手すれば亭主関白のおしとやかな女性に見えなくない無表情の少女はメルディ。
比較的リバヴィウス鉱に近いところで寝転んでいる包帯まみれの少年はロイド・アーヴィング。
壁に寄りかかり、静かに見守るようにしているも、どこか瞳に影を宿しているのはヴェイグ・リュングベル。
ちょうどロイドとヴェイグの間に位置し、心配そうにロイドの様子を見ているのはグリッド。
行われようとしているのは、先程の作戦会議の続き、第二次とでも言うべきだろうか。
「さて…先程話さなかった、最後のマーダー…ミトス・ユグドラシルについて話していこう。
ロイド、頼めるか?」
「ああ。でも、寝たままでもいいか?」
ロイドの申請をキールは承諾する。どうやら、体を起こすのもなかなかに辛いらしい。
ちなみにここまでロイドを運んできたのはヴェイグだ。やっと昨日おぶられた借りを返せた、と満足げだったのは秘密である。
「ミトスはまず、強敵だ。接近戦もできるし、術も2種類使える。
接近戦では周囲に多段の衝撃波を発したりしてきたな。
でも問題は…術の方だ。下級から上級まで一通り使えるし、しかも…デミテルがユニゾン・アタックで使った術、
インディグネイト・ジャッジメントをあいつも使える」
全員が息を呑むのが分かった。
あのE2城一体を消滅させようとした、あのサウザンド・ブレイバー。
その破滅の雷光のエネルギー源となった魔術を、ミトスも使えるというのだ。
正式にはデミテルが使用した術は軍用魔法であるため、ミトスが使用する術とは違うが、
凄まじい威力を秘めていることに何ら違いはないのだ。
他にもディバイン・ジャッジメントやシャイニング・バインドという、
それと引けを取らない技もあることを説明すると、一行はなおさら言葉をなくす結果となってしまった。
しかしここで会議を終わらせるはずもなく、ロイドは言葉を続ける。
防空壕に、5人の人物がいた。
中央に刺し込まれたリバヴィウス鉱は淡い癒しの光を放っており、じっくりとではあるが、各々の傷を癒している。
いわば全体版ホーリーブレス、といったところ。
手に自身が記してきたレポートや、ヴェイグから受け取ったジェイのメモを持ち、進行役を勤めるはキール・ツァイベル。
彼のそばにいる、下手すれば亭主関白のおしとやかな女性に見えなくない無表情の少女はメルディ。
比較的リバヴィウス鉱に近いところで寝転んでいる包帯まみれの少年はロイド・アーヴィング。
壁に寄りかかり、静かに見守るようにしているも、どこか瞳に影を宿しているのはヴェイグ・リュングベル。
ちょうどロイドとヴェイグの間に位置し、心配そうにロイドの様子を見ているのはグリッド。
行われようとしているのは、先程の作戦会議の続き、第二次とでも言うべきだろうか。
「さて…先程話さなかった、最後のマーダー…ミトス・ユグドラシルについて話していこう。
ロイド、頼めるか?」
「ああ。でも、寝たままでもいいか?」
ロイドの申請をキールは承諾する。どうやら、体を起こすのもなかなかに辛いらしい。
ちなみにここまでロイドを運んできたのはヴェイグだ。やっと昨日おぶられた借りを返せた、と満足げだったのは秘密である。
「ミトスはまず、強敵だ。接近戦もできるし、術も2種類使える。
接近戦では周囲に多段の衝撃波を発したりしてきたな。
でも問題は…術の方だ。下級から上級まで一通り使えるし、しかも…デミテルがユニゾン・アタックで使った術、
インディグネイト・ジャッジメントをあいつも使える」
全員が息を呑むのが分かった。
あのE2城一体を消滅させようとした、あのサウザンド・ブレイバー。
その破滅の雷光のエネルギー源となった魔術を、ミトスも使えるというのだ。
正式にはデミテルが使用した術は軍用魔法であるため、ミトスが使用する術とは違うが、
凄まじい威力を秘めていることに何ら違いはないのだ。
他にもディバイン・ジャッジメントやシャイニング・バインドという、
それと引けを取らない技もあることを説明すると、一行はなおさら言葉をなくす結果となってしまった。
しかしここで会議を終わらせるはずもなく、ロイドは言葉を続ける。
「あと、この世界では剣も使ってた」
「うむ。アトワイトという剣を使って、ヴェイグを治療していたようだな」
グリッドが合いの手を入れる。
治療を受けたことは知ってはいたが、剣を使ってなど全く知らなかった
当人のヴェイグは、怪訝そうにグリッドを見つめている。
「ディムロスみたいなやつだ。ソーディアン、っていう喋る剣なんだが…
そいつの話では、そのアトワイトはミトスに脅迫されていたようだ。
'聖女の血は流れ女神咲く’という謎のSOSをディムロスに出してきたらしい。
…うーむ、ここにディムロスがいれば詳しい話も聞けそうなんだが」
そうして、グリッドは残念そうに少量の唸りを発した。
5人揃ってから地下拷問部屋を見に行ったが、そこにはカイルの姿もディムロスの影もなかった。
あったのは首が綺麗に分けられた2つの死体。ここには断頭台でもあるのかと思ってしまった。
そして放送で呼ばれなかった、カイルの名。
カイルが生存しているという事実と共に、1人でここを離れたのか、誰かに拉致されたのか…それだけは、分からなかった。
だがロイドにとっては、死なせてしまったと思っていた友達が生きているという事実だけで充分だった。
そして、たった今ロイドの問題になったのは、カイルとディムロスの行方ではなく、
「女神…咲く?」
グリッドがふと口にした、救助要請の言葉。
ミトスに関する言葉であろうことから、女神というのは恐らく、マーテルだろう。しかし、咲くとは何なのだろうか?
「道が逸れかけてるぞ。ロイド、続きをいいか?」
「あ、ああ」
だがキールにより無理矢理引き戻され、自分の中でモヤモヤとした何かを残しながら、話は続く。
「今のグリッドの話だと、治癒術も使えるってことになる。攻守に秀でるオールラウンダーって訳だな。
しかも、時を止めるタイムストップや、俺らに色んな状態異常を引き起こす技も使ってくる。
あと…これはできるか分かんねえんだけど…」
「少しでも可能性があるのなら話してくれ。対策を立てておいた分だけ有利になれる」
促され、ロイドは頷く。
「ミトスは無機生命体で、体内の時計が止まってる。
輝石の力を使えば、自分の姿を思い通りに変えられる…というよりは成長させられるんだ。
その力を使えたから、あいつはクルシスの指導者ユグドラシルって一面も持ってた。
俺もその姿の時に戦った。ユグドラシルの時は、ミトスの時と違って力に秀でた技をよく使ってきたな。
ダオスが使ってたようなレーザーを撃ったりとか、爆発みたいなマナの衝撃波出したりとか。
もちろん、こっちでも術は使える。大体が光属性だ。
言ってみれば、ミトスがスピード型、ユグドラシルがパワー型ってとこかな」
「なるほど…お前が言うように、ダオスに近いかもしれないな」
キールは1人納得しているように頷く。
ダオスと同等に近い力を持っている…それだけで、脅威として認識する材料は充分だ。
「うむ。アトワイトという剣を使って、ヴェイグを治療していたようだな」
グリッドが合いの手を入れる。
治療を受けたことは知ってはいたが、剣を使ってなど全く知らなかった
当人のヴェイグは、怪訝そうにグリッドを見つめている。
「ディムロスみたいなやつだ。ソーディアン、っていう喋る剣なんだが…
そいつの話では、そのアトワイトはミトスに脅迫されていたようだ。
'聖女の血は流れ女神咲く’という謎のSOSをディムロスに出してきたらしい。
…うーむ、ここにディムロスがいれば詳しい話も聞けそうなんだが」
そうして、グリッドは残念そうに少量の唸りを発した。
5人揃ってから地下拷問部屋を見に行ったが、そこにはカイルの姿もディムロスの影もなかった。
あったのは首が綺麗に分けられた2つの死体。ここには断頭台でもあるのかと思ってしまった。
そして放送で呼ばれなかった、カイルの名。
カイルが生存しているという事実と共に、1人でここを離れたのか、誰かに拉致されたのか…それだけは、分からなかった。
だがロイドにとっては、死なせてしまったと思っていた友達が生きているという事実だけで充分だった。
そして、たった今ロイドの問題になったのは、カイルとディムロスの行方ではなく、
「女神…咲く?」
グリッドがふと口にした、救助要請の言葉。
ミトスに関する言葉であろうことから、女神というのは恐らく、マーテルだろう。しかし、咲くとは何なのだろうか?
「道が逸れかけてるぞ。ロイド、続きをいいか?」
「あ、ああ」
だがキールにより無理矢理引き戻され、自分の中でモヤモヤとした何かを残しながら、話は続く。
「今のグリッドの話だと、治癒術も使えるってことになる。攻守に秀でるオールラウンダーって訳だな。
しかも、時を止めるタイムストップや、俺らに色んな状態異常を引き起こす技も使ってくる。
あと…これはできるか分かんねえんだけど…」
「少しでも可能性があるのなら話してくれ。対策を立てておいた分だけ有利になれる」
促され、ロイドは頷く。
「ミトスは無機生命体で、体内の時計が止まってる。
輝石の力を使えば、自分の姿を思い通りに変えられる…というよりは成長させられるんだ。
その力を使えたから、あいつはクルシスの指導者ユグドラシルって一面も持ってた。
俺もその姿の時に戦った。ユグドラシルの時は、ミトスの時と違って力に秀でた技をよく使ってきたな。
ダオスが使ってたようなレーザーを撃ったりとか、爆発みたいなマナの衝撃波出したりとか。
もちろん、こっちでも術は使える。大体が光属性だ。
言ってみれば、ミトスがスピード型、ユグドラシルがパワー型ってとこかな」
「なるほど…お前が言うように、ダオスに近いかもしれないな」
キールは1人納得しているように頷く。
ダオスと同等に近い力を持っている…それだけで、脅威として認識する材料は充分だ。
「あと、あいつは今は嫌われてるとはいえ、元々オリジンと契約してた…つまり、時空剣士の1人ってことになる。
だから時空を操る力は多少なりともあるんだ。短距離なら瞬間移動もできるし」
「瞬間移動に状態異常…厄介なものばかりだな。
リカバーを使えるのはメルディだけ…だが、あまり負担をかける訳にはいかない。
もう1つケイジがあればいいんだが、残念ながらない。持っているのはグリッド、お前の話じゃプリムラだな?」
ああ、とグリッドは頷く。キールは頭を押さえた。
ミンツ大学で一緒だった彼女。リッド達と旅に出る前には、ちょっとした恩もある。
旅の途中で大学に寄って偶然あいつと会った時も、変わってなかったのに。
いくら生き残るためとはいえ、彼女は絶対に人を殺したりなどしないタイプの人間だった。
それなのに、彼女は刺してしまった。
嘘だと思うことはできない。ここに刺された被害者がいるのに、まだ潔白とでも言い張ることなど。グリッドすら認めているのだ。
僕は彼女を殺せるのか――そんな思いを、過去の彼女の姿を、キールは振り払う。ここではかつての姿など、てんで参考にならない。
非情になると決めたのだ。だから今、マーダーへの対策法を考えているのだ。
彼女はマーダーである、僕はマーダーを殺す、それが全て。
「…つまり。できればミトスとは、ユグドラシルに変化している時に戦いたい。
いくら力に秀でるとはいえ、状態異常にされちゃ明らかにこっちの方が不利になる。
クレスと同じように、発見して見つからない内に術で過剰殲滅するのがベストだとは思うが…。
戦いに関しては、相手が瞬間移動ができる以上、前衛と後衛に分かれるのは翻弄される可能性もあって危険だ。
いざという時の反応ができないし、守るのも間に合わない。
僕はできる限り離れた場所から、回復やディープミスト、アシッドレインといった補助の術でサポートする。
ロイドとヴェイグ、お前ら2人で相手を頼む。1人で戦うには一筋縄ではいかない。
相手の攻撃は防ぐんじゃなく、極力回避するようにしてくれ」
2人は無言で頷く。
「もしミトスの姿の時に戦う羽目になったら、もう短期決戦だ。
お前ら2人で、絶対に相手に動く隙を与えるな。特に、詠唱する時間。タイムストップをされたら終わりだ。
僕も補助術をした後、ディストーションを使って援護する。
メルディ。…1回だけでいい、もしミトスと戦うことになったら、ストラグネイションを使ってくれ」
彼女もまた、無言で頷く。
正直メルディはもう戦わせたくはないが、相手の行動を鈍らせるストラグネイションは、
氷属性と時属性のフリンジにより生まれる術。
インフェリア属性しか行使できない今のキールには決してできない芸当なのだ。
何としてでもマーダーに勝ちたい、そんなキール故の苦渋と悲痛の、とても曲がりくねった長い道の決断。
だから時空を操る力は多少なりともあるんだ。短距離なら瞬間移動もできるし」
「瞬間移動に状態異常…厄介なものばかりだな。
リカバーを使えるのはメルディだけ…だが、あまり負担をかける訳にはいかない。
もう1つケイジがあればいいんだが、残念ながらない。持っているのはグリッド、お前の話じゃプリムラだな?」
ああ、とグリッドは頷く。キールは頭を押さえた。
ミンツ大学で一緒だった彼女。リッド達と旅に出る前には、ちょっとした恩もある。
旅の途中で大学に寄って偶然あいつと会った時も、変わってなかったのに。
いくら生き残るためとはいえ、彼女は絶対に人を殺したりなどしないタイプの人間だった。
それなのに、彼女は刺してしまった。
嘘だと思うことはできない。ここに刺された被害者がいるのに、まだ潔白とでも言い張ることなど。グリッドすら認めているのだ。
僕は彼女を殺せるのか――そんな思いを、過去の彼女の姿を、キールは振り払う。ここではかつての姿など、てんで参考にならない。
非情になると決めたのだ。だから今、マーダーへの対策法を考えているのだ。
彼女はマーダーである、僕はマーダーを殺す、それが全て。
「…つまり。できればミトスとは、ユグドラシルに変化している時に戦いたい。
いくら力に秀でるとはいえ、状態異常にされちゃ明らかにこっちの方が不利になる。
クレスと同じように、発見して見つからない内に術で過剰殲滅するのがベストだとは思うが…。
戦いに関しては、相手が瞬間移動ができる以上、前衛と後衛に分かれるのは翻弄される可能性もあって危険だ。
いざという時の反応ができないし、守るのも間に合わない。
僕はできる限り離れた場所から、回復やディープミスト、アシッドレインといった補助の術でサポートする。
ロイドとヴェイグ、お前ら2人で相手を頼む。1人で戦うには一筋縄ではいかない。
相手の攻撃は防ぐんじゃなく、極力回避するようにしてくれ」
2人は無言で頷く。
「もしミトスの姿の時に戦う羽目になったら、もう短期決戦だ。
お前ら2人で、絶対に相手に動く隙を与えるな。特に、詠唱する時間。タイムストップをされたら終わりだ。
僕も補助術をした後、ディストーションを使って援護する。
メルディ。…1回だけでいい、もしミトスと戦うことになったら、ストラグネイションを使ってくれ」
彼女もまた、無言で頷く。
正直メルディはもう戦わせたくはないが、相手の行動を鈍らせるストラグネイションは、
氷属性と時属性のフリンジにより生まれる術。
インフェリア属性しか行使できない今のキールには決してできない芸当なのだ。
何としてでもマーダーに勝ちたい、そんなキール故の苦渋と悲痛の、とても曲がりくねった長い道の決断。
「それよりも、ミトスの最大の武器は…コレットとミントという女性2名の存在だろう。
グリッドの証言から、ミトスがリアラ、ミント、コレットを連れG3洞窟に向かおうとしていたのは間違いない。
しかし、死亡したのはリアラのみ。
洞窟に残されている可能性も否めないが…残った2人を人質としているかもしれない」
その言葉に、ロイドはぴくりと反応する。顔をキールの方へ向ける。その表情は何とも言いがたいが、あえて言えば「苦悶」だろう。
もしミトスがコレットを盾にしてきたら、彼はどうすることもできない。
1度は世界のために彼女を犠牲にすることを選んだとはいえ、それは間違いだと彼は気付いた。
世界も大切な人も選ぶことを決めたロイド。しかし、どちらか片方しか選べないとしたら――。
「すまんが、1ついいか? その、コレットって子のことなんだが…」
唐突なグリッドのコレットという単語に、ロイドは今度はそちらを向く。
助け舟でも何でもないのだろうが、正直キールは助かったと思った。
ロイドには選べなくとも、キールには選べる。間違いなく、仲間達を選ぶ。
だからと言ってそれを告げるのは、やはり心苦しかったから。
「その子、目の色は青なのか?」
一瞬、ロイドは質問の意味が分からなかった。
コレットの目の色は、確かに青だ。当たり前だ。それが何だという?
一瞬、ロイドの中を嫌な予感が駆け巡る。
「俺が会った時は、赤かったぞ」
グリッドは支給された名簿をしかめっ面で見ながら言った。ロイドの瞳が驚愕で見開かれる。
「何で! それって、天使化…無機生命体化してるってことじゃないか!」
「し、知らん。そんな専門用語で言われても困るぞ」
体を起こしていないせいか、威勢はない。それでもロイドの荒げた声はグリッドをたじろがせるのには充分だった。
彼があげた、彼女への誕生日プレゼント。それが彼女を今まで人間として保たせていた。
外せば力と引き換えに、ウィルガイアに住む天使達のように何の表情も浮かべない無機的な人間…否、天使になる。
自分から外したのか、誰かに外されたのかは分からないが、それはロイドを更に追い立てる要因の1つとなった。
天使化すれば、コレットは保身のためなら相手の殲滅も厭わない。それがもし、この地で殺人という行為に結びついてしまったら。
コレットは、人殺しになる。
シルヴァラント、そしてテセアラの住民ではない4人はそんな事実やロイドの思いも露知らず。
「やや回り道はしたが、以上がミトスへの対策になるな。さて…」
キールはふぅ、と1つ溜息をついてミトスの議題に終止符を打つ。
手に持っていたレポートをしまい込むと、今度は無地の羊皮紙を取り出し、さらさらと文字を記していく。
細かく刻まれる手の動きが止まる。ひら、と羊皮紙を4人の方へと向ける。
彼の瞳が強く光を放つ。
グリッドの証言から、ミトスがリアラ、ミント、コレットを連れG3洞窟に向かおうとしていたのは間違いない。
しかし、死亡したのはリアラのみ。
洞窟に残されている可能性も否めないが…残った2人を人質としているかもしれない」
その言葉に、ロイドはぴくりと反応する。顔をキールの方へ向ける。その表情は何とも言いがたいが、あえて言えば「苦悶」だろう。
もしミトスがコレットを盾にしてきたら、彼はどうすることもできない。
1度は世界のために彼女を犠牲にすることを選んだとはいえ、それは間違いだと彼は気付いた。
世界も大切な人も選ぶことを決めたロイド。しかし、どちらか片方しか選べないとしたら――。
「すまんが、1ついいか? その、コレットって子のことなんだが…」
唐突なグリッドのコレットという単語に、ロイドは今度はそちらを向く。
助け舟でも何でもないのだろうが、正直キールは助かったと思った。
ロイドには選べなくとも、キールには選べる。間違いなく、仲間達を選ぶ。
だからと言ってそれを告げるのは、やはり心苦しかったから。
「その子、目の色は青なのか?」
一瞬、ロイドは質問の意味が分からなかった。
コレットの目の色は、確かに青だ。当たり前だ。それが何だという?
一瞬、ロイドの中を嫌な予感が駆け巡る。
「俺が会った時は、赤かったぞ」
グリッドは支給された名簿をしかめっ面で見ながら言った。ロイドの瞳が驚愕で見開かれる。
「何で! それって、天使化…無機生命体化してるってことじゃないか!」
「し、知らん。そんな専門用語で言われても困るぞ」
体を起こしていないせいか、威勢はない。それでもロイドの荒げた声はグリッドをたじろがせるのには充分だった。
彼があげた、彼女への誕生日プレゼント。それが彼女を今まで人間として保たせていた。
外せば力と引き換えに、ウィルガイアに住む天使達のように何の表情も浮かべない無機的な人間…否、天使になる。
自分から外したのか、誰かに外されたのかは分からないが、それはロイドを更に追い立てる要因の1つとなった。
天使化すれば、コレットは保身のためなら相手の殲滅も厭わない。それがもし、この地で殺人という行為に結びついてしまったら。
コレットは、人殺しになる。
シルヴァラント、そしてテセアラの住民ではない4人はそんな事実やロイドの思いも露知らず。
「やや回り道はしたが、以上がミトスへの対策になるな。さて…」
キールはふぅ、と1つ溜息をついてミトスの議題に終止符を打つ。
手に持っていたレポートをしまい込むと、今度は無地の羊皮紙を取り出し、さらさらと文字を記していく。
細かく刻まれる手の動きが止まる。ひら、と羊皮紙を4人の方へと向ける。
彼の瞳が強く光を放つ。
「次は脱出法について考えていこう」
『口では具体的な真実を触れないようにしていく。
大事なことは筆談で話すから、みんな適当にそれらしい話するなり相槌打つなりしてくれよ――――
『口では具体的な真実を触れないようにしていく。
大事なことは筆談で話すから、みんな適当にそれらしい話するなり相槌打つなりしてくれよ――――
[道を歩みゆく人のお話。]
――そして今。
ヴェイグが防空壕へと戻ってきた時には、やはりもう4人揃っていた。
集まって何かを見ているらしい。恐らく、ロイドが持っている紙のような物だろう。
しかし何故だろうか、空気がどことなく重い。ぴんと張り詰めた、緊迫性のようなものを、確かに持っていた。
その理由が、一同の真剣な顔とロイドが唇を噛んでじっと羊皮紙を見つめていることからだと察したのは、案外すぐだった。
ただ1人状況の把握ができていないヴェイグは、ロイドに声をかけ情報を求めるも、ロイドは全く反応せずにまだ紙を見つめていた。本当に穴が開きそうなくらい。
「コレットが捕まってる。マーテルが死んだ所を見てる。エターナルソードを探してる。
…結局、ここでも同じことを繰り返すのかよ、ミトス…!」
ぐしゃり、という音を立てて用紙にしわが入る。
ヴェイグだけではなく、キールやグリッドにも困惑の色が混じり始めていた。話が見えない。
今この場では、ロイドの突っ走る感情だけが独立していた。
その内ロイドは紙をぐしゃぐしゃに丸め、感情のままに地に投げつける。
ちょうどヴェイグの近くに転がってきたため、未だ掴めぬ彼はメモを広げてみた。
ヴェイグが防空壕へと戻ってきた時には、やはりもう4人揃っていた。
集まって何かを見ているらしい。恐らく、ロイドが持っている紙のような物だろう。
しかし何故だろうか、空気がどことなく重い。ぴんと張り詰めた、緊迫性のようなものを、確かに持っていた。
その理由が、一同の真剣な顔とロイドが唇を噛んでじっと羊皮紙を見つめていることからだと察したのは、案外すぐだった。
ただ1人状況の把握ができていないヴェイグは、ロイドに声をかけ情報を求めるも、ロイドは全く反応せずにまだ紙を見つめていた。本当に穴が開きそうなくらい。
「コレットが捕まってる。マーテルが死んだ所を見てる。エターナルソードを探してる。
…結局、ここでも同じことを繰り返すのかよ、ミトス…!」
ぐしゃり、という音を立てて用紙にしわが入る。
ヴェイグだけではなく、キールやグリッドにも困惑の色が混じり始めていた。話が見えない。
今この場では、ロイドの突っ走る感情だけが独立していた。
その内ロイドは紙をぐしゃぐしゃに丸め、感情のままに地に投げつける。
ちょうどヴェイグの近くに転がってきたため、未だ掴めぬ彼はメモを広げてみた。
『魔剣を持って、追って来い。僕は、いつでも待っている』
ああそうか。取り乱す訳だ。
魔剣、エターナルソード。その存在を確かに知っているのは、ここでは時空剣士と仲間達のみ。
僕――クレスかミトスなのに違いない。
だが、クレスはデミテルに従っていて、しかも呪術の操作を受けていた。
その前はかなりの怪我を負っていたのを、ロイドも知っている。
こんな物を書く暇などあるのか。何よりもクレスは待つどころか、自分から来たのだ。何がいつでもだ。
ミトスが書いた物だと考える方がまだ納得がいく。夕方にはE2城にいて、設置する時間も十分にある。
否、ロイドは直感的に、これがミトスの書いた物だと思ったのだろう。
世界を巻き込み対立してきた者として、手紙に込められた悪意のようなものを感じ取ってしまったのだ。
しかし、4人はその悪意が向く先が分からない。
遂にキールが「ミトスの目的は?」と問いただす。
「あいつは、マーテルを…あいつの姉さんを復活させようとしてるんだ。コレットの体に乗り移らせて!
…それにはかなりの力、つまりエターナルソードが必要なんだ」
理由も合わせて考えれば、この内容も合点がいく。
昼に姉の死に直面し、夕方に姉の復活のために魔剣を手に入れようとする。何ら矛盾はない。むしろ彼らしい行動だ。
時空剣士の1人であるミトスは、本来エターナルソードの真の使い手。
力の使い方はよく分かっているだろうし、それを力として求めるのも理解できる。
何故マーテルを復活させるのにコレットと魔剣が必要なのか、
それは異世界の住人である4人には理解できなかったが、今はミトスも魔剣を探しているという一点のみが重要なのだ。
魔剣、エターナルソード。その存在を確かに知っているのは、ここでは時空剣士と仲間達のみ。
僕――クレスかミトスなのに違いない。
だが、クレスはデミテルに従っていて、しかも呪術の操作を受けていた。
その前はかなりの怪我を負っていたのを、ロイドも知っている。
こんな物を書く暇などあるのか。何よりもクレスは待つどころか、自分から来たのだ。何がいつでもだ。
ミトスが書いた物だと考える方がまだ納得がいく。夕方にはE2城にいて、設置する時間も十分にある。
否、ロイドは直感的に、これがミトスの書いた物だと思ったのだろう。
世界を巻き込み対立してきた者として、手紙に込められた悪意のようなものを感じ取ってしまったのだ。
しかし、4人はその悪意が向く先が分からない。
遂にキールが「ミトスの目的は?」と問いただす。
「あいつは、マーテルを…あいつの姉さんを復活させようとしてるんだ。コレットの体に乗り移らせて!
…それにはかなりの力、つまりエターナルソードが必要なんだ」
理由も合わせて考えれば、この内容も合点がいく。
昼に姉の死に直面し、夕方に姉の復活のために魔剣を手に入れようとする。何ら矛盾はない。むしろ彼らしい行動だ。
時空剣士の1人であるミトスは、本来エターナルソードの真の使い手。
力の使い方はよく分かっているだろうし、それを力として求めるのも理解できる。
何故マーテルを復活させるのにコレットと魔剣が必要なのか、
それは異世界の住人である4人には理解できなかったが、今はミトスも魔剣を探しているという一点のみが重要なのだ。
「なるほど。…クレスに奪われたのは、ある意味よかったのかもしれないな」
キールは顎に手をやり、1人ごちる。
「ミトスにとってクレスの存在はイレギュラーだ。時空剣士であることも知らないだろう。
あいつはお前しか見ていない。つまり、ミトスはクレスが持っているという考えに、そもそも至らないはずだ」
確かに、ミトスはあの時クレスは見ていなかった。その代わり、名の挙がっていないカイルを見ていた。
それも一行は知ることはない。時空剣士でなかっただけ、まだ救いようがあるだろう。
「…エターナルソードがない限り、ミトスはどうしようもできないんだろう?
それならまだ、彼女の身柄は保証されている」
「でも、いつ気付くか分からない! そんな悠長に構えてられなんか…!」
「落ち着けロイド。…僕達は、ミトスもクレスもどこに行ったか分からないんだ。闇雲に探すのは効率が悪いし、かえって逆効果だ。
時間を考えてクレスが西にいることは間違いない。だが、ミトスの行方は分からない。
ミトスも、クレスや僕達がどこにいるか分からないのは同じなんだ。東に行ったと思っているかもしれない。
…それなら、いざという時にどこへでも最小の時間で移動できる、このE2に留まるのが1番現実的なんだ。
下手に動いて何もかも得れないよりは、よっぽどマシだ」
「じゃあ、キールはコレットを見捨てろっていうのか!?」
「そんなことは言ってない!」
ロイドは上体を起こしたまま、論理を繰り広げるキールに食って掛かる。
眼光は鋭い。この時だけは、父親の瞳に似ている。
もっとも、それは冷静に客観的に見た鋭さではなく、実に感情の溢れた主観の鋭さだが。
それに対しキールも負けていない。常日頃からディスカッションをしている強さからなのか、
はたまた仲間を第一に考えている故なのか。
ふっと、キールの肩が下がる。体から一気に熱が抜けたように見えた。何か諦観に近い表情。
「…でも、そうしなければならない場合もあるかもしれないのを…覚悟しておいてくれ」
先程言えなかった言葉を、やっと告げる。
ロイドは口をきつく縛って、キールの告知を受けた。何も言い返しはしなかった。
それは何も彼だけに対してではなかった。この場にいる者全員、自分すらへも向けられた宣告だ。
自然と空気が重くなる。
「…なあ、ミトスはG3洞窟に行くと言っていたな。そこに行けば、ミトスの何らかの手がかりが掴めるかもしれない」
静寂の中、おもむろにグリッドが口を開く。一行の視線が同時にグリッドに向けられた。
思わず咳払い。
「G3にはトーマも来ているかもしれない。俺が行く。
それに洞窟にはハロルドが残した道具も残ってるはずだし、治療に使えるかもしれん」
キールは顎に手をやり、1人ごちる。
「ミトスにとってクレスの存在はイレギュラーだ。時空剣士であることも知らないだろう。
あいつはお前しか見ていない。つまり、ミトスはクレスが持っているという考えに、そもそも至らないはずだ」
確かに、ミトスはあの時クレスは見ていなかった。その代わり、名の挙がっていないカイルを見ていた。
それも一行は知ることはない。時空剣士でなかっただけ、まだ救いようがあるだろう。
「…エターナルソードがない限り、ミトスはどうしようもできないんだろう?
それならまだ、彼女の身柄は保証されている」
「でも、いつ気付くか分からない! そんな悠長に構えてられなんか…!」
「落ち着けロイド。…僕達は、ミトスもクレスもどこに行ったか分からないんだ。闇雲に探すのは効率が悪いし、かえって逆効果だ。
時間を考えてクレスが西にいることは間違いない。だが、ミトスの行方は分からない。
ミトスも、クレスや僕達がどこにいるか分からないのは同じなんだ。東に行ったと思っているかもしれない。
…それなら、いざという時にどこへでも最小の時間で移動できる、このE2に留まるのが1番現実的なんだ。
下手に動いて何もかも得れないよりは、よっぽどマシだ」
「じゃあ、キールはコレットを見捨てろっていうのか!?」
「そんなことは言ってない!」
ロイドは上体を起こしたまま、論理を繰り広げるキールに食って掛かる。
眼光は鋭い。この時だけは、父親の瞳に似ている。
もっとも、それは冷静に客観的に見た鋭さではなく、実に感情の溢れた主観の鋭さだが。
それに対しキールも負けていない。常日頃からディスカッションをしている強さからなのか、
はたまた仲間を第一に考えている故なのか。
ふっと、キールの肩が下がる。体から一気に熱が抜けたように見えた。何か諦観に近い表情。
「…でも、そうしなければならない場合もあるかもしれないのを…覚悟しておいてくれ」
先程言えなかった言葉を、やっと告げる。
ロイドは口をきつく縛って、キールの告知を受けた。何も言い返しはしなかった。
それは何も彼だけに対してではなかった。この場にいる者全員、自分すらへも向けられた宣告だ。
自然と空気が重くなる。
「…なあ、ミトスはG3洞窟に行くと言っていたな。そこに行けば、ミトスの何らかの手がかりが掴めるかもしれない」
静寂の中、おもむろにグリッドが口を開く。一行の視線が同時にグリッドに向けられた。
思わず咳払い。
「G3にはトーマも来ているかもしれない。俺が行く。
それに洞窟にはハロルドが残した道具も残ってるはずだし、治療に使えるかもしれん」
全員がやっとグリッドが発言した意味を理解する。誰もが瞠目していた。
何で彼はこうも常に発言が唐突なのだ。
この場にいる者で最も力を持たない者、それはグリッドであり、当人もそれを自覚している。
それなのに、彼は率先して行動しようとするのだから、仲間達が焦燥して止めようとするのも無理はないだろう。
「危険だ! 戦闘能力のないお前が1人で行動するなんて…!」
「…俺も行く。俺も付いていけば、まだこいつの危険は減らせるだろう」
低い音韻。ただその中で唯一、黙してグリッドを見ていたヴェイグが声を発した。残る2人が同時に彼の名を口にする。
グリッドも意外そうに、しかし嬉々とした目でヴェイグを見つめている。
「ロイドはこの怪我だ。僕もナースをフリンジしなければいけない以上、ここを離れられない。
メルディも単独にするには、少し不安が残る。
確かに、動けるのはヴェイグとグリッド、お前ら2人だが…ここに残る戦力も考えれば…」
キールは頭を抱える。今この状況で、戦力分断はあまりに危険すぎる。
現存するマーダーは自分1人で太刀打ちできるものではない。
ロイドの怪我は完治の兆しが見えないし、メルディは…精神を磨耗させる訳にはいかない。
更にいくら入口付近を偽装しているとはいえ、完全に見つからないとは言いがたい。
しかし、世の中は多数決の原理が広く流布していて、彼に向けられている瞳は――。
「…馬鹿共が。何でそうも危険な状況に身を置こうとする」
目を伏せ、何かの感情を押し殺して、キールはぽつと呟く。
「…そこまで言うってことは、覚悟はできてるんだな」
はっとしたような顔をし、全員が顔を上げる。
キールはやれやれと――否、そんな簡単な諦めではない、非常に重々しいものだが――手を額にあてていた。
「時間があまりない。今から出れるか?」
2人は力強く頷く。G3までの距離を考えれば、今の時間でも猶予があるとは言えない。
「ミトスがそのまま洞窟にいる可能性も考慮できる。…気をつけてくれ」
「危険なのは承知の上だ。ここに安全な場所など、どこにもないからな」
そうは言うが、危険を待つのと挑むのとでは、遥かに度合いが違う。
それを許すのは、未だ自分に残る甘さか…キールは自嘲気味に思う。
だが、何も全てに否定的な訳ではない。デメリットがメリットを上回っているだけで、メリットも確かにあるのだ。
何もせずに待っているだけでは、ミトスを東に取り逃がしてしまうかもしれない。
無論、マーダーとして緊急性が高いのはエターナルソードを持っているクレスである。
脱出だけに焦点を当てれば、ミトスなど実際どうでもいい。
しかし無視できない人物がいるのも確かなのだ。コレットが唯一の仲間となってしまったロイドが。
もし彼女を見捨てようとでもしたら…いや、ロイドはその決断を許さない。
彼は世界とコレット、両方を守ろうとした欲張り者だ。この世界でも、それは変わらないだろう。
それが、甘いというのに。
何で彼はこうも常に発言が唐突なのだ。
この場にいる者で最も力を持たない者、それはグリッドであり、当人もそれを自覚している。
それなのに、彼は率先して行動しようとするのだから、仲間達が焦燥して止めようとするのも無理はないだろう。
「危険だ! 戦闘能力のないお前が1人で行動するなんて…!」
「…俺も行く。俺も付いていけば、まだこいつの危険は減らせるだろう」
低い音韻。ただその中で唯一、黙してグリッドを見ていたヴェイグが声を発した。残る2人が同時に彼の名を口にする。
グリッドも意外そうに、しかし嬉々とした目でヴェイグを見つめている。
「ロイドはこの怪我だ。僕もナースをフリンジしなければいけない以上、ここを離れられない。
メルディも単独にするには、少し不安が残る。
確かに、動けるのはヴェイグとグリッド、お前ら2人だが…ここに残る戦力も考えれば…」
キールは頭を抱える。今この状況で、戦力分断はあまりに危険すぎる。
現存するマーダーは自分1人で太刀打ちできるものではない。
ロイドの怪我は完治の兆しが見えないし、メルディは…精神を磨耗させる訳にはいかない。
更にいくら入口付近を偽装しているとはいえ、完全に見つからないとは言いがたい。
しかし、世の中は多数決の原理が広く流布していて、彼に向けられている瞳は――。
「…馬鹿共が。何でそうも危険な状況に身を置こうとする」
目を伏せ、何かの感情を押し殺して、キールはぽつと呟く。
「…そこまで言うってことは、覚悟はできてるんだな」
はっとしたような顔をし、全員が顔を上げる。
キールはやれやれと――否、そんな簡単な諦めではない、非常に重々しいものだが――手を額にあてていた。
「時間があまりない。今から出れるか?」
2人は力強く頷く。G3までの距離を考えれば、今の時間でも猶予があるとは言えない。
「ミトスがそのまま洞窟にいる可能性も考慮できる。…気をつけてくれ」
「危険なのは承知の上だ。ここに安全な場所など、どこにもないからな」
そうは言うが、危険を待つのと挑むのとでは、遥かに度合いが違う。
それを許すのは、未だ自分に残る甘さか…キールは自嘲気味に思う。
だが、何も全てに否定的な訳ではない。デメリットがメリットを上回っているだけで、メリットも確かにあるのだ。
何もせずに待っているだけでは、ミトスを東に取り逃がしてしまうかもしれない。
無論、マーダーとして緊急性が高いのはエターナルソードを持っているクレスである。
脱出だけに焦点を当てれば、ミトスなど実際どうでもいい。
しかし無視できない人物がいるのも確かなのだ。コレットが唯一の仲間となってしまったロイドが。
もし彼女を見捨てようとでもしたら…いや、ロイドはその決断を許さない。
彼は世界とコレット、両方を守ろうとした欲張り者だ。この世界でも、それは変わらないだろう。
それが、甘いというのに。
「ヴェイグ…グリッド…ごめん、俺のことで」
申し訳なさげにロイドが俯く。
それにグリッドが胸をぽんと叩いて応える。
「大丈夫だロイド。守れん約束など、俺はしないからな!」
「俺もまだ、すべきことがある」
ヴェイグもまた、似たような行為はせずとも、それに同調する。
生きることを目的として、この世界の地を歩む2人。だからこそ怯えという枷がないのだろう。
――いや、ある。仲間を失うかもしれない恐怖を、仲間を奪ってしまうかもしれない恐怖を、それぞれは感じている。
だからこそ、1人は強がり、1人は誰かを拒絶している。
しかし、それを覆い隠す、あるいは克服するために、2人はあえて試練の道を歩むのだ。
申し訳なさげにロイドが俯く。
それにグリッドが胸をぽんと叩いて応える。
「大丈夫だロイド。守れん約束など、俺はしないからな!」
「俺もまだ、すべきことがある」
ヴェイグもまた、似たような行為はせずとも、それに同調する。
生きることを目的として、この世界の地を歩む2人。だからこそ怯えという枷がないのだろう。
――いや、ある。仲間を失うかもしれない恐怖を、仲間を奪ってしまうかもしれない恐怖を、それぞれは感じている。
だからこそ、1人は強がり、1人は誰かを拒絶している。
しかし、それを覆い隠す、あるいは克服するために、2人はあえて試練の道を歩むのだ。
そして2人には、もう1つ依頼をした。
もしトーマと合流できたなら、どちらか片方はE3にあるケイオスハートを探索してほしいと。
幸いにしてグリッドはダオスとデミテルの戦地を知っている。周辺を闇雲に探すよりは、まだ範囲が狭まる。
2人もそれを承諾した。
もしトーマと合流できたなら、どちらか片方はE3にあるケイオスハートを探索してほしいと。
幸いにしてグリッドはダオスとデミテルの戦地を知っている。周辺を闇雲に探すよりは、まだ範囲が狭まる。
2人もそれを承諾した。
こうして2人の男は城址を後にした。
[犠牲を拒む人と犠牲を認める人のお話。]
2人を見送ってからしばらく、ロイドは自分の白亜の包帯を眺めた。
もし俺が動けたら、G3に行くのに。コレットを助けに行くのに。そんな思考と共に。
グリッドの「目が赤かった」という発言から、まずコレットは天使化している。
仮に無理矢理にでも輝石を外されたのなら、ミトスの命令を聞くようにされているに違いない。
グリッドの話ではミトスとミント、リアラの3人と一緒にいたとのこと。
この中でコレットの天使化について知っているのは、世界再生のシステムを作り上げたミトスだけ。
つまり、1番確率が高いのは自然とミトスになる。
1度、小さく舌打ち。
思うように動かない自分の体に苛立ちを覚えながら、未だ会えていないコレットのことを想う。
コレットは今、何をして、何を思っているのか。
「ロイド」
後ろからキールの声がし、振り向く。
やけに真剣な顔つきをしていた。あの時、マーダーをどんな手を使ってでも倒すと決めた時と同じくらいだ。
思わず言葉を呑む。だからか、喉がごくりと鳴った。
ゆっくりと息を吐き出し、一拍置いて、キールは言った。
「もし、ここがシャーリィやクレス達に見つかったら…まずお前に最大限のヒールをかける。そしたらメルディを連れて逃げろ」
ぷつり、と音を伝わらせている線が切れてしまったかのように、静寂がその場を支配する。
一切の音がない。呼吸音すら聞こえなかった。
脳が理解に向いていないのだろう。全ての機能をシャットダウンされている。
しかし、頭にわだかまる停止した思考を何とか振り払い、遅れてロイドらしい怒りの感情がやって来た。
「な、何言ってんだよキール! そんなこ」
「人手を分けるということは、戦力を分断するということだ。マーダーと対面したら高確率で死ぬ」
だがそんな感情もキールにより一蹴される。
「ヴェイグがグリッドについて行った以上、今ろくに戦えるのは僕しかいない。
大丈夫、僕もエアリアルボードで逃げるし、お前らが逃げる分の時間はタイムストップで稼ぐさ」
「そんなこと言ってるんじゃない! 俺は許さない、絶対にもう誰も」
「お前が望むことは、そういうことなんだ!」
痛む体のことなど少しもいたわらずに、キールはロイドの両肩をぐっと掴む。
目の前のキールの瞳は、悲愴に揺れていた。それを見られまいと、逃れるように彼は目を閉じる。
もし俺が動けたら、G3に行くのに。コレットを助けに行くのに。そんな思考と共に。
グリッドの「目が赤かった」という発言から、まずコレットは天使化している。
仮に無理矢理にでも輝石を外されたのなら、ミトスの命令を聞くようにされているに違いない。
グリッドの話ではミトスとミント、リアラの3人と一緒にいたとのこと。
この中でコレットの天使化について知っているのは、世界再生のシステムを作り上げたミトスだけ。
つまり、1番確率が高いのは自然とミトスになる。
1度、小さく舌打ち。
思うように動かない自分の体に苛立ちを覚えながら、未だ会えていないコレットのことを想う。
コレットは今、何をして、何を思っているのか。
「ロイド」
後ろからキールの声がし、振り向く。
やけに真剣な顔つきをしていた。あの時、マーダーをどんな手を使ってでも倒すと決めた時と同じくらいだ。
思わず言葉を呑む。だからか、喉がごくりと鳴った。
ゆっくりと息を吐き出し、一拍置いて、キールは言った。
「もし、ここがシャーリィやクレス達に見つかったら…まずお前に最大限のヒールをかける。そしたらメルディを連れて逃げろ」
ぷつり、と音を伝わらせている線が切れてしまったかのように、静寂がその場を支配する。
一切の音がない。呼吸音すら聞こえなかった。
脳が理解に向いていないのだろう。全ての機能をシャットダウンされている。
しかし、頭にわだかまる停止した思考を何とか振り払い、遅れてロイドらしい怒りの感情がやって来た。
「な、何言ってんだよキール! そんなこ」
「人手を分けるということは、戦力を分断するということだ。マーダーと対面したら高確率で死ぬ」
だがそんな感情もキールにより一蹴される。
「ヴェイグがグリッドについて行った以上、今ろくに戦えるのは僕しかいない。
大丈夫、僕もエアリアルボードで逃げるし、お前らが逃げる分の時間はタイムストップで稼ぐさ」
「そんなこと言ってるんじゃない! 俺は許さない、絶対にもう誰も」
「お前が望むことは、そういうことなんだ!」
痛む体のことなど少しもいたわらずに、キールはロイドの両肩をぐっと掴む。
目の前のキールの瞳は、悲愴に揺れていた。それを見られまいと、逃れるように彼は目を閉じる。
「二兎を追う者は一兎をも得ず…それを両方手に入れるには、リスクが必須だ。
お前は仲間も、コレットも、脱出の方法も得たい。二兎どころじゃないリスクを犯す必要があるんだ。
…何か1つを確実に手にするには、何かを切り捨てなくちゃいけない。ここでは尚更。
けど誰も犠牲にしたくない…お前の気持ちは分かる。
だが、そのためにグリッドやヴェイグが危険を冒していることを忘れるな。そして、僕らも危険を覚悟しなくちゃならない。
そして…分かってるだろ? お前らは死んじゃ駄目なんだ。
…命の優先順位をつけるなら、お前らが上だろう?」
手に込められた力が更に強まる。元々白めの肌が、更に血が抜けて白くなっている。
左手でロイドは肩にかかった手を払う。それにもまた、力が込められている。
「命に順位なんかない! そんなくだらないもの、絶対に認めない!!
…救いの塔の時みたいに、みんなして俺のこと優先して…そんなの…!」
強張っていた体から力が抜けていき、無造作に浮いたままだった手がだらりと垂れる。
開かれた手が丸まっていき、ぎゅっと握られる。
あまりに力を入れすぎているせいか、それとも別の何かからかは分からないが、手が震えている。
「…結局は、犠牲じゃないか…」
犠牲。ロイドが最も嫌うもの。
違う、と言ったようにぶんぶんと首を横に振る。何かのための犠牲など、絶対にあってはならないのだ。
「今なら間に合う、俺が…俺がG3に…ッ!!」
体を動かそうとした途端、全身を痛みが駆け巡る。
勢いよく立ち上がろうとした体は急激に重力がかかったようにして地面に引っ張られていく。
起き上がることを自分の体は許さなかった。どんなに食い縛っても、動いてくれやしない。
「僕は何でここに残る? お前の怪我は、まだ動けるほど治ってない。
移動しながらナースを照射するなんて高等技術、僕にはまだ無理だ。
…これが、『お前のわがままに付き合える最善』なんだよ」
それでロイドは止まった。
酷な物言いだとは、自分も思っている。しかし先のことも見据えれば、本当にこれが今できる最善なのだ。
「安心しろ。シャーリィはクライマックスモードは使えないし、こっちにはスカウトオーブもある。
僕の術さえ発動すれば、僕らは生き残れる。そこまで心配するな。メルディ、お前も分かったな?」
何の言葉も発さぬ彼女に目配せし、頷くのを確認する。
お前は仲間も、コレットも、脱出の方法も得たい。二兎どころじゃないリスクを犯す必要があるんだ。
…何か1つを確実に手にするには、何かを切り捨てなくちゃいけない。ここでは尚更。
けど誰も犠牲にしたくない…お前の気持ちは分かる。
だが、そのためにグリッドやヴェイグが危険を冒していることを忘れるな。そして、僕らも危険を覚悟しなくちゃならない。
そして…分かってるだろ? お前らは死んじゃ駄目なんだ。
…命の優先順位をつけるなら、お前らが上だろう?」
手に込められた力が更に強まる。元々白めの肌が、更に血が抜けて白くなっている。
左手でロイドは肩にかかった手を払う。それにもまた、力が込められている。
「命に順位なんかない! そんなくだらないもの、絶対に認めない!!
…救いの塔の時みたいに、みんなして俺のこと優先して…そんなの…!」
強張っていた体から力が抜けていき、無造作に浮いたままだった手がだらりと垂れる。
開かれた手が丸まっていき、ぎゅっと握られる。
あまりに力を入れすぎているせいか、それとも別の何かからかは分からないが、手が震えている。
「…結局は、犠牲じゃないか…」
犠牲。ロイドが最も嫌うもの。
違う、と言ったようにぶんぶんと首を横に振る。何かのための犠牲など、絶対にあってはならないのだ。
「今なら間に合う、俺が…俺がG3に…ッ!!」
体を動かそうとした途端、全身を痛みが駆け巡る。
勢いよく立ち上がろうとした体は急激に重力がかかったようにして地面に引っ張られていく。
起き上がることを自分の体は許さなかった。どんなに食い縛っても、動いてくれやしない。
「僕は何でここに残る? お前の怪我は、まだ動けるほど治ってない。
移動しながらナースを照射するなんて高等技術、僕にはまだ無理だ。
…これが、『お前のわがままに付き合える最善』なんだよ」
それでロイドは止まった。
酷な物言いだとは、自分も思っている。しかし先のことも見据えれば、本当にこれが今できる最善なのだ。
「安心しろ。シャーリィはクライマックスモードは使えないし、こっちにはスカウトオーブもある。
僕の術さえ発動すれば、僕らは生き残れる。そこまで心配するな。メルディ、お前も分かったな?」
何の言葉も発さぬ彼女に目配せし、頷くのを確認する。
「…俺は」
地に伏したまま、彼は呟く。
「俺は、確かにわがままだよ。俺のせいで、みんなが命を危険にさらしてる。最低だ」
ぎゅっと閉じられたままの目。ただ自分の不甲斐なさに震える拳。咽びが入った声。それらが今のロイドの象徴だった。
天使化してまでヴェイグとグリッドを追おうと、ロイドは思った。
しかし、そうすればキールとメルディはどうなる? もしその一時の間に、マーダーが来たら。
赤く染まった物言わぬ亡骸を見た時、またロイドの無力感は増す。2人を、守れなかったと。
言い様のない矛盾。自分の望みのために、どこかで犠牲が生まれるかもしれない。
しかしその犠牲を守れば、また別の場所で犠牲が生まれるかもしれない。
か細い縄、糸とでも表現した方が自然だろうか、マーダーでない彼らはその上を渡っていかねばならない。
少しの微風、悪性のアクシデントが起きれば、深い深い谷底へと簡単に落下していってしまう。
そして現実という名の底部へと叩きつけられ、誰かの嗤笑を聞きながら、その眼を閉じていくのだ。
それが自身が最も拒むものの永久回廊、理想と現実のギャップ。その中に、ロイドは取り残されている。
良くも悪くも、彼は甘い。
いっそ全て捨ててしまえば、何もかも楽になれるのに――…それが、彼にはできない。
キールは彼の心中を推した。やさしい理想主義者の彼には、この犠牲の世界は地獄だろう。
しかしそれが現実なのだ。現実を見れない者に、理想を語る権利はない。それでは所詮ただの夢想だから。
だが、キールとて、彼を追い詰めたい訳ではない。
彼だって辛い上に、全ての犠牲を認めた訳ではない。できるなら最小限に留めたい。
認めたのはマーダーに属する者だけだ。
ふぅ、と重い二酸化炭素のこもった息を吐き出す。
「…ゲームに乗ってない者全員で脱出するのが1番だからな。
更に、これからのことを考えれば仲間を募るのも必要だ。
それに2人がG3に向かうのは、お前を思ってこそ…お前にとっての大事な人を失わせたくないからだぞ? 仲間思いじゃないか。
危険に踏み切れるのも、お前を信頼しているからだよ」
キールの言葉は確かな波紋を持って、ロイドの瞳を大きく揺らす。
今はもうここにいないヴェイグとグリッド、そして仲間達の影が浮かぶ。
命を賭けて。危険を呈して。
グリッドの時はあんなことを思っていたが、今更泣いて当然だと理解する。悲愴な覚悟を持つ仲間を思って、誰が泣けないだろうか。
ロイドも、グリッドも、そんな単純な冷血漢ではないのである。
胸から湧き上がる思いが、目を通じて溢れ出してくる。
「何でだ…何でだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
吼えた。
この世界のどうにもならない自然の摂理に、ロイドはただただ吼えた。
「キール…早く治してくれ! 俺は、約束を守ることしか…!」
涙を拭うことすらできない。今はそうする気さえ起きなかった。
地に伏したまま、彼は呟く。
「俺は、確かにわがままだよ。俺のせいで、みんなが命を危険にさらしてる。最低だ」
ぎゅっと閉じられたままの目。ただ自分の不甲斐なさに震える拳。咽びが入った声。それらが今のロイドの象徴だった。
天使化してまでヴェイグとグリッドを追おうと、ロイドは思った。
しかし、そうすればキールとメルディはどうなる? もしその一時の間に、マーダーが来たら。
赤く染まった物言わぬ亡骸を見た時、またロイドの無力感は増す。2人を、守れなかったと。
言い様のない矛盾。自分の望みのために、どこかで犠牲が生まれるかもしれない。
しかしその犠牲を守れば、また別の場所で犠牲が生まれるかもしれない。
か細い縄、糸とでも表現した方が自然だろうか、マーダーでない彼らはその上を渡っていかねばならない。
少しの微風、悪性のアクシデントが起きれば、深い深い谷底へと簡単に落下していってしまう。
そして現実という名の底部へと叩きつけられ、誰かの嗤笑を聞きながら、その眼を閉じていくのだ。
それが自身が最も拒むものの永久回廊、理想と現実のギャップ。その中に、ロイドは取り残されている。
良くも悪くも、彼は甘い。
いっそ全て捨ててしまえば、何もかも楽になれるのに――…それが、彼にはできない。
キールは彼の心中を推した。やさしい理想主義者の彼には、この犠牲の世界は地獄だろう。
しかしそれが現実なのだ。現実を見れない者に、理想を語る権利はない。それでは所詮ただの夢想だから。
だが、キールとて、彼を追い詰めたい訳ではない。
彼だって辛い上に、全ての犠牲を認めた訳ではない。できるなら最小限に留めたい。
認めたのはマーダーに属する者だけだ。
ふぅ、と重い二酸化炭素のこもった息を吐き出す。
「…ゲームに乗ってない者全員で脱出するのが1番だからな。
更に、これからのことを考えれば仲間を募るのも必要だ。
それに2人がG3に向かうのは、お前を思ってこそ…お前にとっての大事な人を失わせたくないからだぞ? 仲間思いじゃないか。
危険に踏み切れるのも、お前を信頼しているからだよ」
キールの言葉は確かな波紋を持って、ロイドの瞳を大きく揺らす。
今はもうここにいないヴェイグとグリッド、そして仲間達の影が浮かぶ。
命を賭けて。危険を呈して。
グリッドの時はあんなことを思っていたが、今更泣いて当然だと理解する。悲愴な覚悟を持つ仲間を思って、誰が泣けないだろうか。
ロイドも、グリッドも、そんな単純な冷血漢ではないのである。
胸から湧き上がる思いが、目を通じて溢れ出してくる。
「何でだ…何でだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
吼えた。
この世界のどうにもならない自然の摂理に、ロイドはただただ吼えた。
「キール…早く治してくれ! 俺は、約束を守ることしか…!」
涙を拭うことすらできない。今はそうする気さえ起きなかった。
そしてキールは、ぼろぼろと涙を零す彼の姿を見つめる。
これが現実だ。自分の無知と、仲間の温かさに甘えた結果だ。
きっと仲間達との絆が、俺達を結び付けてくれる――そんな精神論など、ここでは通用しない。
全てを求めるあまりに多くを失くしてしまうかもしれない、愚者の選択。
だが、それは…それは、自分にも言えるのではないだろうか?
グリッドとヴェイグを送り出したのも、心のどこかにそんな気持ち、甘さがあったからだ。
またみんなと会える。そんな確証もない淡くぼやけたものを、彼は抱いていたからだ。
それなのに、何故1人分かりきったような目で僕はロイドを見ている?
ただ、その愚かさをロイドに押し付けているだけじゃないか。
これが現実だ。自分の無知と、仲間の温かさに甘えた結果だ。
きっと仲間達との絆が、俺達を結び付けてくれる――そんな精神論など、ここでは通用しない。
全てを求めるあまりに多くを失くしてしまうかもしれない、愚者の選択。
だが、それは…それは、自分にも言えるのではないだろうか?
グリッドとヴェイグを送り出したのも、心のどこかにそんな気持ち、甘さがあったからだ。
またみんなと会える。そんな確証もない淡くぼやけたものを、彼は抱いていたからだ。
それなのに、何故1人分かりきったような目で僕はロイドを見ている?
ただ、その愚かさをロイドに押し付けているだけじゃないか。
――最低だ。誰よりも最低だ。
キールはいたたまれなくなり、思わずロイドにヒールを唱える。
彼の放つ悲痛がミクトランには聞こえていて、実に愉快に笑っていると思うと、自身でも恐ろしいほどの憎悪が溢れ出してくる。
まるで自分ではない自分の存在に、キールは身震いする。
この世界は、人が秘める裏の姿を、抉り出す。
彼の放つ悲痛がミクトランには聞こえていて、実に愉快に笑っていると思うと、自身でも恐ろしいほどの憎悪が溢れ出してくる。
まるで自分ではない自分の存在に、キールは身震いする。
この世界は、人が秘める裏の姿を、抉り出す。
1つ、彼は嘘をついた。
彼の操る晶霊術に、時の流れを遅くするものはあっても、
(…『時を止める術』なんて便利なのはないよ。あるのは…その時は応えてくれ、ゼクンドゥス)
BCロッドに取り付けられた、セレスティア属性の入ったクレーメルケイジを彼は見つめる。
あの後、ケイジを持つメルディと出会ったキールは、ケイジの中を確認した。
彼はてっきり、晶霊だけが入っていると思い込んでいた。
しかし、内には大晶霊に匹敵する…むしろそのものの、時属性の力が在ったのだ。何故かそれだけ。
いつの間に力が加わったのか、元からなのか、それだけは彼のあずかり知らぬ所であったが、これほどの力があれば召喚まで至れる。
しかし、問題はゼクンドゥスの力を借りて時を止めたとしても、時空剣士であるクレスが相手なら、破られる可能性も無視できない。
(その時は、僕が本当に身を呈して…)
あの時、自分はリッドを守るためなら、自分の命を犠牲にしても厭わないと思った。
しかし彼は死んでしまった。あろうことか自分を助けて。
その理由がずっと分からなかった。リッドがこの状況を見越していたとは、とてもではないが思えない。
だが、自分の命は、リッドやロイドのような希望を守るためにある――そう思うだけで、少しは気が楽になった。
救われた命を再び無駄にするような真似に、彼は怒るだろうか。…怒ったってどうせ天国でだ。遅い。
彼の操る晶霊術に、時の流れを遅くするものはあっても、
(…『時を止める術』なんて便利なのはないよ。あるのは…その時は応えてくれ、ゼクンドゥス)
BCロッドに取り付けられた、セレスティア属性の入ったクレーメルケイジを彼は見つめる。
あの後、ケイジを持つメルディと出会ったキールは、ケイジの中を確認した。
彼はてっきり、晶霊だけが入っていると思い込んでいた。
しかし、内には大晶霊に匹敵する…むしろそのものの、時属性の力が在ったのだ。何故かそれだけ。
いつの間に力が加わったのか、元からなのか、それだけは彼のあずかり知らぬ所であったが、これほどの力があれば召喚まで至れる。
しかし、問題はゼクンドゥスの力を借りて時を止めたとしても、時空剣士であるクレスが相手なら、破られる可能性も無視できない。
(その時は、僕が本当に身を呈して…)
あの時、自分はリッドを守るためなら、自分の命を犠牲にしても厭わないと思った。
しかし彼は死んでしまった。あろうことか自分を助けて。
その理由がずっと分からなかった。リッドがこの状況を見越していたとは、とてもではないが思えない。
だが、自分の命は、リッドやロイドのような希望を守るためにある――そう思うだけで、少しは気が楽になった。
救われた命を再び無駄にするような真似に、彼は怒るだろうか。…怒ったってどうせ天国でだ。遅い。
キールは空を見上げる。
空よりも深く青い色の蝶が、防空壕に小さな影を落としていた。
空よりも深く青い色の蝶が、防空壕に小さな影を落としていた。
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP50% 治療専念 「鬼」になる覚悟
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド C・ケイジ
キールのレポート(キールのメモを増補改訂。キールの知りうるあらゆる情報を記載済み)
ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
ジェイのメモ(E3周りの真相、およびフォルスについての記述あり)
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:「防空壕」に篭城し、仲間達を治療する
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
状態:TP50% 治療専念 「鬼」になる覚悟
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド C・ケイジ
キールのレポート(キールのメモを増補改訂。キールの知りうるあらゆる情報を記載済み)
ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
ジェイのメモ(E3周りの真相、およびフォルスについての記述あり)
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:「防空壕」に篭城し、仲間達を治療する
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
【メルディ 生存確認】
状態:TP35% 火傷は完治 精神磨耗(TP最大値が半減。上級晶霊術の行使に匹敵する精神的負担で廃人化)
所持品:スカウトオーブ(起動して気配を消去中) (サック破壊)
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下)
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
状態:TP35% 火傷は完治 精神磨耗(TP最大値が半減。上級晶霊術の行使に匹敵する精神的負担で廃人化)
所持品:スカウトオーブ(起動して気配を消去中) (サック破壊)
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下)
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP20% TP30% 治療専念(右肩に打撲、および裂傷 胸に裂傷)
右手甲複雑骨折(ロイドはこの部位を最優先で治療中。ヴェイグのフォルスで凍結させ固定)
天使化可能 信念を曲げる覚悟 時空剣技に対する見切り(完成度70%) 時空剣技をラーニング(不完全)
アルベイン流に対する見切り(完成度30%) 無力感と悲愴
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ムメイブレード ホーリィリング
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:治療に専念する
第二行動方針:約束を果たすためにバッジとダブルセイバーを作る
第三行動方針:治療後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
状態:HP20% TP30% 治療専念(右肩に打撲、および裂傷 胸に裂傷)
右手甲複雑骨折(ロイドはこの部位を最優先で治療中。ヴェイグのフォルスで凍結させ固定)
天使化可能 信念を曲げる覚悟 時空剣技に対する見切り(完成度70%) 時空剣技をラーニング(不完全)
アルベイン流に対する見切り(完成度30%) 無力感と悲愴
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ムメイブレード ホーリィリング
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:治療に専念する
第二行動方針:約束を果たすためにバッジとダブルセイバーを作る
第三行動方針:治療後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2城跡地の『防空壕』
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% TP50% シャオルーンの力を解放可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア
エルヴンマント ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う
第一行動方針:グリッドと共にG3に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:E2城跡地の『防空壕』→G3洞窟
状態:HP30% TP50% シャオルーンの力を解放可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア
エルヴンマント ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う
第一行動方針:グリッドと共にG3に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:E2城跡地の『防空壕』→G3洞窟
【グリッド 生存確認】
状態:不屈の正義感
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ヴェイグと共にG3に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
第五行動方針:ロイドの作るバッジにwktk中
現在位置:E2城跡地の『防空壕』→G3洞窟
状態:不屈の正義感
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ヴェイグと共にG3に向かう
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:マーダー排除に協力する
第五行動方針:ロイドの作るバッジにwktk中
現在位置:E2城跡地の『防空壕』→G3洞窟