その名の元に
ああ、兄さんが呼んでいる。
いかなきゃ、いかなきゃ。
いかなきゃ、いかなきゃ。
時は第四回放送前に遡る。
今の今、この会場で消え入りそうな虚ろな魂。
自分から自分が離れてゆくのがわかる。ずっと使っていた肉体から離れ、永遠にも思えた体と精神の楔がゆっくりと抜ける。
元々そこにあったかのように、そう定まっていたかのように、魂が冥界へと帰依してゆくのを感じる。
辛かった。苦しかった。
体中、とにかくどこもかしこも痛かった。
何度飲み込んだかわからない涙で胸は張り裂けそうで悲鳴を上げている。
しかしそれらの心のどす黒く悪い膿が綺麗に抜けて、深い深い場所で昇華される。
ふわりと自分の全てが軽くなる。
心地よい場所。この世の形の真理だろうか、無色の安らぎの宇宙が全てを包み込み抱擁するかのように、招かれるがままにただただ彼女は還ってゆく。
形も思想も善悪も何もない。
それに名前があるとすれば究極の。
今の今、この会場で消え入りそうな虚ろな魂。
自分から自分が離れてゆくのがわかる。ずっと使っていた肉体から離れ、永遠にも思えた体と精神の楔がゆっくりと抜ける。
元々そこにあったかのように、そう定まっていたかのように、魂が冥界へと帰依してゆくのを感じる。
辛かった。苦しかった。
体中、とにかくどこもかしこも痛かった。
何度飲み込んだかわからない涙で胸は張り裂けそうで悲鳴を上げている。
しかしそれらの心のどす黒く悪い膿が綺麗に抜けて、深い深い場所で昇華される。
ふわりと自分の全てが軽くなる。
心地よい場所。この世の形の真理だろうか、無色の安らぎの宇宙が全てを包み込み抱擁するかのように、招かれるがままにただただ彼女は還ってゆく。
形も思想も善悪も何もない。
それに名前があるとすれば究極の。
幻覚だろうか。
今まで戦争で亡くした愛しかった人々が朧気に眼前に浮かび上がっているのを感じる。
そして数多い影の中で尚くっきり浮かぶ一体の影。
それに触れたくて、苦しいほど懐かしく愛おしくて、もう実体のない腕を伸ばした。
今まで戦争で亡くした愛しかった人々が朧気に眼前に浮かび上がっているのを感じる。
そして数多い影の中で尚くっきり浮かぶ一体の影。
それに触れたくて、苦しいほど懐かしく愛おしくて、もう実体のない腕を伸ばした。
『なーんてね』
彼女は伸ばしかけた手をしまい、フッと笑った。
『本っ当に有り得ない程大きなカケだったけどね。まさに命懸けの。まあ天才の私に掛かれば実力が伴った当然可能な行動なんだけど』
死しても尚、彼女はいつもの自信満々の弁調で「兄さん」の影に言い放った。
影はゆらりと不安定に動く。
『大丈夫よ、心配しないで。私がすっごく負けず嫌いなのは百も承知でしょ?もう本当にギャフンと言わせてやるんだから!!』
けらけらっとその声は高く。影はそんな彼女を咎めるでもなくただ見つめていた。
けれどまるで「全く、君は本当に相変わらずだなあ」と柔らかに笑いながら溜め息を吐いた気がした。
『きっと兄さんの手を取れば幸せよね。
生は基本的に苦痛だもの。
私は充分もうそちらに行ける権利がある。だからその手を取ってもいいんだけれど…』
彼女は一度しまった手のひらを見た。
一瞬名残惜しそうな目をするが、開いた手を握りしめる。
まるで一つの決心を握りしめるかの様に。
再びその決心で命の火を灯すかの様に。
朧な魂が光を纏ったかのように輪郭がはっきりと輝く。
既に無い心臓が更に力強く脈打ち、既に無い血流が巡る。
『本っ当に有り得ない程大きなカケだったけどね。まさに命懸けの。まあ天才の私に掛かれば実力が伴った当然可能な行動なんだけど』
死しても尚、彼女はいつもの自信満々の弁調で「兄さん」の影に言い放った。
影はゆらりと不安定に動く。
『大丈夫よ、心配しないで。私がすっごく負けず嫌いなのは百も承知でしょ?もう本当にギャフンと言わせてやるんだから!!』
けらけらっとその声は高く。影はそんな彼女を咎めるでもなくただ見つめていた。
けれどまるで「全く、君は本当に相変わらずだなあ」と柔らかに笑いながら溜め息を吐いた気がした。
『きっと兄さんの手を取れば幸せよね。
生は基本的に苦痛だもの。
私は充分もうそちらに行ける権利がある。だからその手を取ってもいいんだけれど…』
彼女は一度しまった手のひらを見た。
一瞬名残惜しそうな目をするが、開いた手を握りしめる。
まるで一つの決心を握りしめるかの様に。
再びその決心で命の火を灯すかの様に。
朧な魂が光を纏ったかのように輪郭がはっきりと輝く。
既に無い心臓が更に力強く脈打ち、既に無い血流が巡る。
「何か」と共鳴し、第二の生命の声が吹き荒れた。
呼んでいる。まだまだ他に帰る場所はある。
出来ること、やらなきゃいけないことが沢山ある。
彼女自身が刻んだ遺伝子と魂のプログラムが彼女の眼光を鋭くした。
ニヤリと不敵な笑いも健在だ。
呼んでいる。まだまだ他に帰る場所はある。
出来ること、やらなきゃいけないことが沢山ある。
彼女自身が刻んだ遺伝子と魂のプログラムが彼女の眼光を鋭くした。
ニヤリと不敵な笑いも健在だ。
それを見ると影は彼女の前から姿を消した。
暖かい風が周りに穏やかに吹いた気がした。
『兄さん、ありがとう。
ただあと少し、あと少しこの波乱の行動ばかりする妹を見守っていて下さい。
ま、何があろうがばっちり生き残るつもりだけどね!』
鼻息荒くそう言うと、踵を返すかのように彼女の魂はどこかへと引きつけられるように飛んでいった。
その先にあるのはあのまがまがしい玉座。
そこにいる人物、そして携える獲物は―――――
暖かい風が周りに穏やかに吹いた気がした。
『兄さん、ありがとう。
ただあと少し、あと少しこの波乱の行動ばかりする妹を見守っていて下さい。
ま、何があろうがばっちり生き残るつもりだけどね!』
鼻息荒くそう言うと、踵を返すかのように彼女の魂はどこかへと引きつけられるように飛んでいった。
その先にあるのはあのまがまがしい玉座。
そこにいる人物、そして携える獲物は―――――
どうしようもない程の負けん気。
自分の命、死さえも利用する度量。
そしてそれを彼女自身が動かせる切り札として使う事を可能にする、凡人を遙かに凌駕した頭脳。
そんな事が出来る人物がこの世にいようか。
いや、ただ一人いたのだ。
かの天才科学者。
自分の命、死さえも利用する度量。
そしてそれを彼女自身が動かせる切り札として使う事を可能にする、凡人を遙かに凌駕した頭脳。
そんな事が出来る人物がこの世にいようか。
いや、ただ一人いたのだ。
かの天才科学者。
彼女の名はハロルド。
ハロルド・ベルセリオス―――――
ハロルド・ベルセリオス―――――