生
【これから終焉を遂げる人の物語】
『ただ、自分が救われたかっただけなんだと言えばそれまでなんだ』
“自分らしい”って何だろう。正直言って、俺は分からないんだ。
今の自分が自分らしく生きているのか、そうでは無いのか。その境界線すらも曖昧だ。
俺は、ジーニアスですら簡単に解いてしまうインスウブンカイとかいう計算すら出来ない馬鹿だからさ。
うん。だからそんな事すら理解出来ないんだ。
ただ、俺はあいつの叫びと約束を聞いて、なんとなく今までのものが吹っ切れた。そんなことどうでもよくなった。
そんな気がした。いや、まぁ気がしただけだけどな。
別にどっちが間違ってるとかどっちが正解だとか、そんなレベルの話じゃないと思うんだ。
あの瞬間、何となく俺の中での“やりたいこと”が形になった気がした、それだけの事。
……話は変わるけどさ。
人は多分、自分の為に何かを得る為には何かを棄てなくちゃならないんだって何処かで潜在的に気付いていた気が“した”。
何だろうか。何時か、何処かで、大切なものを守れなかった時に感じた気がする。
己の死という絶望の狭間で、俺はそれを知った……そんな気がする。
はは。おかしいよな? 死の感覚が此所じゃない別のとこにあるなんてさ。これじゃあ変な人みたいだよ、俺。
……なぁんかさ。今思えばよ、俺自身の自由は今まで無かった様に思えるんだよな。
半ば使命感の様な“世界を救う”と云う事。詰まりミトス=ユグドラシルを倒すと云う事。
大切なものを守りたいと云う事。詰まりコレット=ブルーネルを救うと云う事。
強大な敵を倒したいと云う事。詰まりクレス=アルベインを倒すと云う事。
俺の手は二つしか無い。無茶して三つの理想を握る俺に、自由はほんの少しでもあったのかな?
そもそも何が自由なんだろう? しかしそれを確立するには自由な心が必要だ。
縛られた心で自由を掴むなんて烏滸がましいじゃないか。
理想に縛られ翔べない俺。それが自分らしさ?
今目の前にあるやらなければならない事すら選べない、いや分からない俺。
それが自分らしく自由に生きているとでも? 馬鹿言えよ。
いや……それでも理想を追求するのが俺らしいんだと言ってしまえばそれまでか。
……そうなんだよ、誰もがきっとそうなんだ。
結局の処―――俺にもお前にも分からないんだ。俺が何なのか。お前が何なのか。俺らしさって何なのか。
今の自分が自分らしく生きているのか、そうでは無いのか。その境界線すらも曖昧だ。
俺は、ジーニアスですら簡単に解いてしまうインスウブンカイとかいう計算すら出来ない馬鹿だからさ。
うん。だからそんな事すら理解出来ないんだ。
ただ、俺はあいつの叫びと約束を聞いて、なんとなく今までのものが吹っ切れた。そんなことどうでもよくなった。
そんな気がした。いや、まぁ気がしただけだけどな。
別にどっちが間違ってるとかどっちが正解だとか、そんなレベルの話じゃないと思うんだ。
あの瞬間、何となく俺の中での“やりたいこと”が形になった気がした、それだけの事。
……話は変わるけどさ。
人は多分、自分の為に何かを得る為には何かを棄てなくちゃならないんだって何処かで潜在的に気付いていた気が“した”。
何だろうか。何時か、何処かで、大切なものを守れなかった時に感じた気がする。
己の死という絶望の狭間で、俺はそれを知った……そんな気がする。
はは。おかしいよな? 死の感覚が此所じゃない別のとこにあるなんてさ。これじゃあ変な人みたいだよ、俺。
……なぁんかさ。今思えばよ、俺自身の自由は今まで無かった様に思えるんだよな。
半ば使命感の様な“世界を救う”と云う事。詰まりミトス=ユグドラシルを倒すと云う事。
大切なものを守りたいと云う事。詰まりコレット=ブルーネルを救うと云う事。
強大な敵を倒したいと云う事。詰まりクレス=アルベインを倒すと云う事。
俺の手は二つしか無い。無茶して三つの理想を握る俺に、自由はほんの少しでもあったのかな?
そもそも何が自由なんだろう? しかしそれを確立するには自由な心が必要だ。
縛られた心で自由を掴むなんて烏滸がましいじゃないか。
理想に縛られ翔べない俺。それが自分らしさ?
今目の前にあるやらなければならない事すら選べない、いや分からない俺。
それが自分らしく自由に生きているとでも? 馬鹿言えよ。
いや……それでも理想を追求するのが俺らしいんだと言ってしまえばそれまでか。
……そうなんだよ、誰もがきっとそうなんだ。
結局の処―――俺にもお前にも分からないんだ。俺が何なのか。お前が何なのか。俺らしさって何なのか。
理想に縛られた自由。自分らしさを優先するがあまり蔑ろにされた本当にやりたい事。
自由を求めるのは俺らしい事なのか。
目の前にあるやらなければならない事をやるのが俺らしい事なのか。そうでないのか。
むしろ“やらなければならない”と決めているのは俺らしさ故になのか。
そうでないのか。
それはもしかすると、偽善の念が心の奥底で囁き掛けて無意識の内に造った遊びに過ぎないのか。
そう思うと嫌になるな。
心の奥で俺は俺より無力な人を助ける事でそいつを嗤っていたのかも知れない。
自分が無力って知ってしまったから、だからもっと無力な人間を探していたのかも知れない。
人は……不幸な生き物だから。
ただ、俺にはそんな事は考えるだけ無駄だったんだ。
だって幾ら考えようと答えは出ないし、何よりやっぱどうしようも無く俺は馬鹿だったんだ。
自由を求めるのは俺らしい事なのか。
目の前にあるやらなければならない事をやるのが俺らしい事なのか。そうでないのか。
むしろ“やらなければならない”と決めているのは俺らしさ故になのか。
そうでないのか。
それはもしかすると、偽善の念が心の奥底で囁き掛けて無意識の内に造った遊びに過ぎないのか。
そう思うと嫌になるな。
心の奥で俺は俺より無力な人を助ける事でそいつを嗤っていたのかも知れない。
自分が無力って知ってしまったから、だからもっと無力な人間を探していたのかも知れない。
人は……不幸な生き物だから。
ただ、俺にはそんな事は考えるだけ無駄だったんだ。
だって幾ら考えようと答えは出ないし、何よりやっぱどうしようも無く俺は馬鹿だったんだ。
“だから全部をやらなければならない事だと認識した”
それが俺の出来る事だ、と。……いや違うか。
俺にしか出来ない事だと、心の何処かで思ってたんだ。愚かな事この上無い驕りだけど。
俺にしか出来ない事だと、心の何処かで思ってたんだ。愚かな事この上無い驕りだけど。
“何処かで感じていた諦観”
俺は俺だけでは生きていけない。他人があってこその俺だ。
いくら自分が驕っていようと、いくら自分が卑屈だろうと、それを認め、否定し、受け入れてくれる他人がいなければそれは成立しないんだ。
そんな事は、とっくの昔に理解していた。
いくら自分が驕っていようと、いくら自分が卑屈だろうと、それを認め、否定し、受け入れてくれる他人がいなければそれは成立しないんだ。
そんな事は、とっくの昔に理解していた。
“なら俺自身にしか出来ない事だなんて誰が言ったんだ?”
いや、じゃあ理想とか云うものって何だ。理想を持つ事が悪い事なのか?
そうじゃない。
駄目だったのは、理想に縛られた俺の心なんだと思うんだ。
そうじゃない。
駄目だったのは、理想に縛られた俺の心なんだと思うんだ。
“誰かを、何かを助けたい”
それが本当に俺にしか出来ない事なのか?
そう思う理由は何?
そう思う理由は何?
“強大な敵を倒したい”
何故それを使命として認識する?
時間が無いから?
肉体的に死んでいるから? 皆への贖罪の念?
その位しか出来る事が無いとでも?
時間が無いから?
肉体的に死んでいるから? 皆への贖罪の念?
その位しか出来る事が無いとでも?
“俺にしか出来ない事って何?”
両手に一杯に抱えちまった理想。何処にもそんなモノが入るスペースなんて無いよ。
自由な心がなきゃ自由は手に入らない。自由じゃなきゃ本当にやりたい事が分からない。
それでも! それでも、俺はやりたい事を見つけたい。
“でも理想が俺にはあった”。……理想よりも大事なものって何?
そこにある無限の輪廻的循環が示すは矛盾。
でも答えは簡単だ。理想を手放せば済むだけの事なんだから。
自由な心がなきゃ自由は手に入らない。自由じゃなきゃ本当にやりたい事が分からない。
それでも! それでも、俺はやりたい事を見つけたい。
“でも理想が俺にはあった”。……理想よりも大事なものって何?
そこにある無限の輪廻的循環が示すは矛盾。
でも答えは簡単だ。理想を手放せば済むだけの事なんだから。
だけど理想こそが俺を支えてきた全てであり、人生であり、俺の世界だった。
理想を、人生を棄てるなんて真似が出来るか? 常識的に考えてみろよ。
今まで培ってきたものだぞロイド=アーヴィング?
だったらそれが俺らしさなんじゃないのか?
理想論者。とことん甘い自分。諦めない自分。それが俺なんじゃないのか?
理想を、人生を棄てるなんて真似が出来るか? 常識的に考えてみろよ。
今まで培ってきたものだぞロイド=アーヴィング?
だったらそれが俺らしさなんじゃないのか?
理想論者。とことん甘い自分。諦めない自分。それが俺なんじゃないのか?
“でもそれを、誰がいつ何処で決めたんだ?”
人は他人が居てこその人じゃなかったのか?
自分が人だと思っていても、他人が居て“お前は人だ”と認めてくれなければその証明にはならない。
目の前の景色が本物なのかさえ、他人が居なければそれは幻想の中の景色に過ぎないのかも知れない。
もしかしたら、死体の山を花畑だと思い込んでいるだけなのかも知れない。
……それでも、他人に俺は“優しい理想論者”だと言われてきた。そうだろ?
ならば俺はそうであるべきじゃないのかよ―――“本当に?”
そんな時だ、目の前の馬鹿は言った。どうしようもなく、ただ心に蟠っていた憂いを吹き飛ばす様に言った。
半ば呆れてしまう程の馬鹿らしい演説をした。
でも、でも、でも!
自分が人だと思っていても、他人が居て“お前は人だ”と認めてくれなければその証明にはならない。
目の前の景色が本物なのかさえ、他人が居なければそれは幻想の中の景色に過ぎないのかも知れない。
もしかしたら、死体の山を花畑だと思い込んでいるだけなのかも知れない。
……それでも、他人に俺は“優しい理想論者”だと言われてきた。そうだろ?
ならば俺はそうであるべきじゃないのかよ―――“本当に?”
そんな時だ、目の前の馬鹿は言った。どうしようもなく、ただ心に蟠っていた憂いを吹き飛ばす様に言った。
半ば呆れてしまう程の馬鹿らしい演説をした。
でも、でも、でも!
“世界を救えるのがお前だけだと思うなよ”
何でだろう。何であんな気持ちになったんだろうか。
どうしてあんなにも心地良かったのだろう。
どうしてあんなにも心地良かったのだろう。
憎い程の笑顔で呟かれたその嘘こそが―――俺が一番欲しかった言葉だったんだ。
きっと誰かに言って欲しかったんだ。俺にしか出来ない事なんかじゃないと。
きっかけが欲しかったんだ。休んでいいよと、やりたい事をやれよと、その気持ちが欲しかったんだ。
自由が欲しかったのかも知れない。
……自分には今しか無いんだ。無力さを痛感した時それを知った。だからクレスの元へと走った。
だって俺にはもう時間が無かったから。“なのに理想を追求する自分がそこに居た”。
如何して? 時間が無いんだろう?
俺には今しか無いんだろう?
だったら何で未来に、理想に生きるんだ? ……“だってそれが俺らしさだから”。
今しか無いのに。未来の為に生きて、人の為に生きて。
じゃあ俺って何の為に居るんだ? 自分の為って何だ?
俺にしか出来ない事って何だ?
―――でもあの時の俺には、答えは出ず、ただ走る事しか出来なかった。
きっかけが欲しかったんだ。休んでいいよと、やりたい事をやれよと、その気持ちが欲しかったんだ。
自由が欲しかったのかも知れない。
……自分には今しか無いんだ。無力さを痛感した時それを知った。だからクレスの元へと走った。
だって俺にはもう時間が無かったから。“なのに理想を追求する自分がそこに居た”。
如何して? 時間が無いんだろう?
俺には今しか無いんだろう?
だったら何で未来に、理想に生きるんだ? ……“だってそれが俺らしさだから”。
今しか無いのに。未来の為に生きて、人の為に生きて。
じゃあ俺って何の為に居るんだ? 自分の為って何だ?
俺にしか出来ない事って何だ?
―――でもあの時の俺には、答えは出ず、ただ走る事しか出来なかった。
“やりたい事って、何?”
でもそれを決めたのは自分? 自分らしさ故に?
それとも使命感? 矢張り只の理想? 綺麗事? 偽善?
それとも使命感? 矢張り只の理想? 綺麗事? 偽善?
どれだけ並べようと、それでも俺は、分からないんだよ。
選べないんだ。
どうしようもなくただただ……怖いんだッ!
それを選んだ時、俺は俺で居られるのか? 俺は他人に俺として認識して貰えるのか?
それを理想より優先した結果、俺という個の存在は破綻しないのかッ!?
何が正解なのか。何が間違いなのか。分からないんだ、分からねぇんだよ。
……そう、ずっと分からなかった。
どうしようもなく、ただ俺の中の自分が無言で項垂れるだけだったんだ。
握られた拳の重さだけが、ただ募っていった。
選べないんだ。
どうしようもなくただただ……怖いんだッ!
それを選んだ時、俺は俺で居られるのか? 俺は他人に俺として認識して貰えるのか?
それを理想より優先した結果、俺という個の存在は破綻しないのかッ!?
何が正解なのか。何が間違いなのか。分からないんだ、分からねぇんだよ。
……そう、ずっと分からなかった。
どうしようもなく、ただ俺の中の自分が無言で項垂れるだけだったんだ。
握られた拳の重さだけが、ただ募っていった。
“本当にやりたい事って、何?”
でも、もしかしたら―――!
そう思えたんだ。
考えるから駄目なんだ。いっそ放棄してみればどうか、と思った時―――漸く俺はそれに気付けたんだ。
やりたい事の根源が何であろうといいのかも知れない。
やりたい事の先にあるものが何であろうと、元が何であろうと、それを選んだのが俺ならそれでいいかも知れない。
だって、なぁ?
そう思えたんだ。
考えるから駄目なんだ。いっそ放棄してみればどうか、と思った時―――漸く俺はそれに気付けたんだ。
やりたい事の根源が何であろうといいのかも知れない。
やりたい事の先にあるものが何であろうと、元が何であろうと、それを選んだのが俺ならそれでいいかも知れない。
だって、なぁ?
“俺が本当にやりたい事って、何?”
瞳を閉じて最初に描いたそれは、半ば反射的に出て来たんだぜ。
そこに根源が何とか、そんな事を考える時間は無いだろ?
ほら、俺って馬鹿だから尚更そうなんだよ。瞬間的に考えられねぇから。
だからそう思えた。
な?
瞬間的に出て来る最初の答えにさ、自分らしさとか理想とかさ、関係無いだろ?
そこに根源が何とか、そんな事を考える時間は無いだろ?
ほら、俺って馬鹿だから尚更そうなんだよ。瞬間的に考えられねぇから。
だからそう思えた。
な?
瞬間的に出て来る最初の答えにさ、自分らしさとか理想とかさ、関係無いだろ?
“なぁ、俺が本当にやりたい事って、何?”
思えば自分らしさなんて最初からどうでもよかったのかも知れない。
だから縛られていたのかも知れない。苦悩する理由なんて何処にも無かったのかも知れない。
そう、“そんな事は関係なかった”んだ。
だから縛られていたのかも知れない。苦悩する理由なんて何処にも無かったのかも知れない。
そう、“そんな事は関係なかった”んだ。
“俺は”
分からなくていいんだ。
ほら、それに答えなんてよ、計算が苦手な俺にとって分からなくて当然なのかも知れないじゃんか。
そうだろ? それにさ、
ほら、それに答えなんてよ、計算が苦手な俺にとって分からなくて当然なのかも知れないじゃんか。
そうだろ? それにさ、
“俺はコレットを”
分からなくちゃいけないなんて、何処の誰が何時決めたんだよ。
だから分からなくても大丈夫なんだよ、多分な。
他人がどう思おうと、俺がどう恐怖しようと、絶対に俺という存在は破綻しない。
だって俺は、俺なんだから。
それだけはずっと変わらない。
だから分からなくても大丈夫なんだよ、多分な。
他人がどう思おうと、俺がどう恐怖しようと、絶対に俺という存在は破綻しない。
だって俺は、俺なんだから。
それだけはずっと変わらない。
俺は此所に居る。
そうだろ? ジューダス。
そうだろ? ジューダス。
“俺は、コレットを笑わせたい!”
『でもそれだけは、本当の気持ちなんだ』
【間接的に彼を殺した人の物語】
『それならば、俺は彼女が笑える様にしてやるのが筋というものなのだろうか』
既に呼吸の必要性が無い自らの肺に、鯨飲の如く酸素を取り込む。
夕暮れ時の少し冷たい空気は、だがしかしグリッドはそれを感じないが、確かに身体中の神経を研ぎ澄まさせた。
断っておくが何もわざわざこの時だけ呼吸をした訳ではない。
グリッドは今し方天使化を行なったばかりである。呼吸の必要性が無くなったとはいえ、呼吸の癖が天使化した途端に抜けた訳では無い。
常識的に考えて、呼吸の様に無意識の内にしてしまう行動を直ぐに忘れられる方がおかしいだろう。
夕暮れ時の少し冷たい空気は、だがしかしグリッドはそれを感じないが、確かに身体中の神経を研ぎ澄まさせた。
断っておくが何もわざわざこの時だけ呼吸をした訳ではない。
グリッドは今し方天使化を行なったばかりである。呼吸の必要性が無くなったとはいえ、呼吸の癖が天使化した途端に抜けた訳では無い。
常識的に考えて、呼吸の様に無意識の内にしてしまう行動を直ぐに忘れられる方がおかしいだろう。
グリッドは何の気なしに夕日を背負うクレスの目に一瞥を投げた。
鷹の様に鋭利でワインの様に紅に染まった目に、素直に化け物かコイツはと感想を抱く。
血走りや鋭利なだけでは無く力強さも兼ね備えるそれは、何か強く譲れない一つの意志があるかのように思えた。
同じ橙の空に抱かれるというのに、同じ人だと言うのに、どうして刃を交えるのだろうか。
いや、違うか。だからこそだ。“だから面白いのか”。
グリッドは首を左右に振り骨を鳴らす。
……いいだろう。
さあ闘ろう、いや、演ろうぜクレス?
鷹の様に鋭利でワインの様に紅に染まった目に、素直に化け物かコイツはと感想を抱く。
血走りや鋭利なだけでは無く力強さも兼ね備えるそれは、何か強く譲れない一つの意志があるかのように思えた。
同じ橙の空に抱かれるというのに、同じ人だと言うのに、どうして刃を交えるのだろうか。
いや、違うか。だからこそだ。“だから面白いのか”。
グリッドは首を左右に振り骨を鳴らす。
……いいだろう。
さあ闘ろう、いや、演ろうぜクレス?
“お前の戦いと俺の戦いの一騎打ちだ”
朽ち、緋色に染まり荒れ果てた廃村で漆黒の天使はぎこちなく、だが不敵に笑った。
その形骸の笑みは今にも壊れてしまいそうな程儚く、脆い。
だが、理屈では無い何か強いものがそこにある。その目の中に確かに強い煌めきがある。偽りで塗り固められた黒き輝きの中に何かを訴える力がある。
その目はバトルロアイヤルと全てを越えた先にある、何を見ているのだろう。
グリッドはその眼球でクレスの目を睨み返し虚勢を張った。
歯は恐怖で音を立てている。全身の筋肉は緊張で力が抜け、弛緩している。
それでも鴉の顔には憎らしい程の嘘で造られた三日月が浮かんでいた。
その形骸の笑みは今にも壊れてしまいそうな程儚く、脆い。
だが、理屈では無い何か強いものがそこにある。その目の中に確かに強い煌めきがある。偽りで塗り固められた黒き輝きの中に何かを訴える力がある。
その目はバトルロアイヤルと全てを越えた先にある、何を見ているのだろう。
グリッドはその眼球でクレスの目を睨み返し虚勢を張った。
歯は恐怖で音を立てている。全身の筋肉は緊張で力が抜け、弛緩している。
それでも鴉の顔には憎らしい程の嘘で造られた三日月が浮かんでいた。
合図は、全てのしがらみを吹き飛ばすかの様な迷い無き白銀の一閃……否。
それは人知を超えた速度での剣撃による火花。
虚ろな劇場で踊るはどちらとも無く動き出した幾千もの彼等の残像。
その劇場を抱く橙に螺旋に散るは黒き羽根。
合図は既にして必要が無かった。それは半ば必然的。
かつて一羽の鴉が世界に叩き付けた大呼により、新しき幕は疾うの昔に開いていたのだから。
「はあああぁぁッ! 瞬雷剣ッ!」
此所は二人の舞台。そこに囚われるべき糸は無かった。
その舞台は蜘蛛の巣を越えた遥か彼方にあるのだから。
蜘蛛の存在など、彼等にとって取るに足らないもの。
「……真空破斬ッ!」
落雷の突きと真空の三日月が火花を散らせた。
お互いの想いは一つ。
それは人知を超えた速度での剣撃による火花。
虚ろな劇場で踊るはどちらとも無く動き出した幾千もの彼等の残像。
その劇場を抱く橙に螺旋に散るは黒き羽根。
合図は既にして必要が無かった。それは半ば必然的。
かつて一羽の鴉が世界に叩き付けた大呼により、新しき幕は疾うの昔に開いていたのだから。
「はあああぁぁッ! 瞬雷剣ッ!」
此所は二人の舞台。そこに囚われるべき糸は無かった。
その舞台は蜘蛛の巣を越えた遥か彼方にあるのだから。
蜘蛛の存在など、彼等にとって取るに足らないもの。
「……真空破斬ッ!」
落雷の突きと真空の三日月が火花を散らせた。
お互いの想いは一つ。
―――全てを棄ててでも譲れないものが、そこにある。
始める事に、終わる事に、第三者の合図は最早要らない。必要性が全く以て無い。
世界は、確かに突き抜ける虚空の色彩を境界線として現実――バトルロアイヤル――から乖離していた。
世界は、確かに突き抜ける虚空の色彩を境界線として現実――バトルロアイヤル――から乖離していた。
21回目の世界に煌めく閃光にして、二人は漸く始めて剣を休めて距離を取る。
漸く、とは言ったが数にして優に21もの閃光が煌めいたのは時間にして凡そ4秒。
既に常人の可視領域を遥かに陵駕していた。
蜘蛛に囚われたキール=ツァイベルはその光と影が飛び交う全てを越えた先にある新劇を見て何を思うのだろうか。
「なかなかやるじゃねぇか……いいだろう、合格だ」
グリッドはうんうんと腕を組み頷く。
勿論、只の時間稼ぎである。
「お前に本気のグリッド様と闘える権利をやろうッ! ど、どうだ、素晴らしいとは思わんかね!?」
剣を地に刺し苦しみながらにも不敵に笑うグリッド。
その身体には……既に一の貫通した刺し傷、二の深い裂傷に七の小さな裂傷。
対するクレスは一の小さな裂傷。
グリッドの想像以上に目の前の敵は強大であった。
漸く、とは言ったが数にして優に21もの閃光が煌めいたのは時間にして凡そ4秒。
既に常人の可視領域を遥かに陵駕していた。
蜘蛛に囚われたキール=ツァイベルはその光と影が飛び交う全てを越えた先にある新劇を見て何を思うのだろうか。
「なかなかやるじゃねぇか……いいだろう、合格だ」
グリッドはうんうんと腕を組み頷く。
勿論、只の時間稼ぎである。
「お前に本気のグリッド様と闘える権利をやろうッ! ど、どうだ、素晴らしいとは思わんかね!?」
剣を地に刺し苦しみながらにも不敵に笑うグリッド。
その身体には……既に一の貫通した刺し傷、二の深い裂傷に七の小さな裂傷。
対するクレスは一の小さな裂傷。
グリッドの想像以上に目の前の敵は強大であった。
(何と言うカオス……)
高が4秒でここまでの差。
此所は彼等の新しきバトルロアイヤルの中。
しかしそれでも悲しくなる程の切実な現実がそこにあった。
“どうしようもない実践経験と実力の差”
グリッドには、どう足掻こうとも目前のクレス=アルベインに勝てる要素が無い。
絶望的とまで言えるものがそこにある。
しかしだからとは言えグリッドの思考内では“退却”の二文字は埒外であった。
それは当然である。
「相変わらず見た目と違いちょこまかと五月蠅い奴だ……コングマン」
此所は彼等の新しきバトルロアイヤルの中。
しかしそれでも悲しくなる程の切実な現実がそこにあった。
“どうしようもない実践経験と実力の差”
グリッドには、どう足掻こうとも目前のクレス=アルベインに勝てる要素が無い。
絶望的とまで言えるものがそこにある。
しかしだからとは言えグリッドの思考内では“退却”の二文字は埒外であった。
それは当然である。
「相変わらず見た目と違いちょこまかと五月蠅い奴だ……コングマン」
「まァたあのハゲの話かよ。俺はコングマンじゃないっての。
まあ、だが悪ィなぁ。受けたからには60秒、このグリッド様がお前を止めなきゃならんのだ!」
『頼む』―――――そうロイドに言われたから故に。
それは仲間からの絶対の信頼の証。
「感謝しろよ、このハイパー魔法剣士(になる予定)の高貴なるウルトラスーパーサンダーハイパーユアンアンドグリッドセイバー(ダブルセイバーの名前/勿論今名付けた)の相手になった事をなッ!
周りに自慢していいぞッ!? 何なら俺のサイン(色紙ないけどな)をやってもいいぜッ!」
グリッドの中でリーダーとは、仲間の信頼には何があっても全力で応えるべき位置にあるものであった。
故に退かない。彼の中では退くという選択すら存在し得ない。
「ほざけ。その口、二度と開かぬように焼き繋げてやる」
クレスは口の片端を吊り上げ、黒炎を剣に燈し構える。
「そんな貴方に朗報です。……残念だったなァ! 俺様の口は765つあるんだぜッ!?」
対するグリッドは紫電を右手に握り直させ、ダブルセイバーをクレスに向けた。
最初に仕掛けたのはグリッド。雄勁な音と共にグリッドが“居た”場所に土煙と岩の破片が飛び散った。
まあ、だが悪ィなぁ。受けたからには60秒、このグリッド様がお前を止めなきゃならんのだ!」
『頼む』―――――そうロイドに言われたから故に。
それは仲間からの絶対の信頼の証。
「感謝しろよ、このハイパー魔法剣士(になる予定)の高貴なるウルトラスーパーサンダーハイパーユアンアンドグリッドセイバー(ダブルセイバーの名前/勿論今名付けた)の相手になった事をなッ!
周りに自慢していいぞッ!? 何なら俺のサイン(色紙ないけどな)をやってもいいぜッ!」
グリッドの中でリーダーとは、仲間の信頼には何があっても全力で応えるべき位置にあるものであった。
故に退かない。彼の中では退くという選択すら存在し得ない。
「ほざけ。その口、二度と開かぬように焼き繋げてやる」
クレスは口の片端を吊り上げ、黒炎を剣に燈し構える。
「そんな貴方に朗報です。……残念だったなァ! 俺様の口は765つあるんだぜッ!?」
対するグリッドは紫電を右手に握り直させ、ダブルセイバーをクレスに向けた。
最初に仕掛けたのはグリッド。雄勁な音と共にグリッドが“居た”場所に土煙と岩の破片が飛び散った。
「……なぁクレス、お前がバトルロアイヤルに乗ってる理由は何だ? 何故闘う?」
クレスの背後を取る時間は正に刹那。半秒を余裕で切っていた。
同時に短剣から伸びた雷光の巨大な刃を振り下ろす。
「ミクたんの商品でも信じてんのか、よおッ!!」
しかし全てを呑む蒼黒き炎は悲しい程簡単に雷の刃を相殺し、死角から振り下ろされたダブルセイバーを抑える。
超速の剣線をさも容易く捌いた張本人、クレスはその問いに下らない、と鼻で笑った。
「バトルロアイヤル? ミクトラン? 商品? “そんなものはどうでもいい”」
空を焦がす焔の様な紅のマントが風に揺れ躍る。
手元で怪しく猛る黒の波動が収束し、刹那的に幽邃な空気が世界を抱擁した。
その異様な空気に、まるで異次元にでも自分が迷い込んだかの様な錯覚をグリッドは感じる。
同時に短剣から伸びた雷光の巨大な刃を振り下ろす。
「ミクたんの商品でも信じてんのか、よおッ!!」
しかし全てを呑む蒼黒き炎は悲しい程簡単に雷の刃を相殺し、死角から振り下ろされたダブルセイバーを抑える。
超速の剣線をさも容易く捌いた張本人、クレスはその問いに下らない、と鼻で笑った。
「バトルロアイヤル? ミクトラン? 商品? “そんなものはどうでもいい”」
空を焦がす焔の様な紅のマントが風に揺れ躍る。
手元で怪しく猛る黒の波動が収束し、刹那的に幽邃な空気が世界を抱擁した。
その異様な空気に、まるで異次元にでも自分が迷い込んだかの様な錯覚をグリッドは感じる。
「……ッ!?」
(何だよコレ? 空間が歪んでる……?)
(何だよコレ? 空間が歪んでる……?)
かつて体験した事が無い感覚に腹の底から唸る。一瞬が永遠に感じられる程に体感時間が圧縮された。
全身の毛が弥立ち、何かが脳内に警告の鐘を鳴らす。
何故、あれだけ大気を焦がしていた黒炎が一点に収束するのか?
目の前の化け物は一体何をするつもりなのか?
全身の毛が弥立ち、何かが脳内に警告の鐘を鳴らす。
何故、あれだけ大気を焦がしていた黒炎が一点に収束するのか?
目の前の化け物は一体何をするつもりなのか?
……分からない。只、嫌な予感がする。
知識では答えが出ない問いにグリッドは瞬間的に、本能的に解を導く。
それは半ば勘に近いものであった。
知識では答えが出ない問いにグリッドは瞬間的に、本能的に解を導く。
それは半ば勘に近いものであった。
“真逆、新しい四つ目の時空剣技ッ!?”
記憶を頼りに時空剣技を思い浮かべる。
次元斬―――似て非なるものだ。動きは大体同じだが先ず刃の間合いが違う。従って有り得ない。
空間翔転移―――予備動作が違う。それに密着状態で発動するメリットが何一つ無い。有り得ない。
虚空蒼破斬―――身体を取り巻く時空の粒子が無い。よってこれも有り得ない。
ロイドらから聞いた時空剣技のどれとも合致しないそれには、“四つ目の時空剣技”その結論しか付けようが無かった。
「俺はただ彼女……ミントを救う為に、お前を、コングマンを倒す為に居るんだ」
剣の刀身に輝く誘蛾灯のような炎が禍々しさを増し、そして。
次元斬―――似て非なるものだ。動きは大体同じだが先ず刃の間合いが違う。従って有り得ない。
空間翔転移―――予備動作が違う。それに密着状態で発動するメリットが何一つ無い。有り得ない。
虚空蒼破斬―――身体を取り巻く時空の粒子が無い。よってこれも有り得ない。
ロイドらから聞いた時空剣技のどれとも合致しないそれには、“四つ目の時空剣技”その結論しか付けようが無かった。
「俺はただ彼女……ミントを救う為に、お前を、コングマンを倒す為に居るんだ」
剣の刀身に輝く誘蛾灯のような炎が禍々しさを増し、そして。
「理解したら失せろ―――零・次元斬」
群がり蠢く黒き羽虫の命を奪わんと、極限まで圧縮されたそれは球体となり空間そのものを喰らい尽くす。
「っくしょおおぉぉォォォ! 間に合いやがれええぇぇッ!!!」
戦闘開始から時の秒針はこの瞬間、漸く10と弱を刻んだ。
絶望的なまでに長い一分はそれだけで正に一戦争単位である。
言うならば“60秒戦争”。
ただ一匹の黒翅を携える蛾を潰す為に生まれた誘蛾灯は、果たして何を飲み込んだのか。
「っくしょおおぉぉォォォ! 間に合いやがれええぇぇッ!!!」
戦闘開始から時の秒針はこの瞬間、漸く10と弱を刻んだ。
絶望的なまでに長い一分はそれだけで正に一戦争単位である。
言うならば“60秒戦争”。
ただ一匹の黒翅を携える蛾を潰す為に生まれた誘蛾灯は、果たして何を飲み込んだのか。
空を飲み込む様な膨張した漆黒が土埃を添えて霧散してゆく。
その漆黒の創造主は舌打ちをし、ゆっくりとクレーターの中心から腰を上げる。
「逃げ足だけは一人前か、忌々しい奴だ」
確かにクレス=アルベインの秘刀による絶対的威力を持つ一撃は発動した。グリッドも側に居た。
しかし、クレスには分かる。手応えが無かった事が。
クレスはぎり、と唇の端を噛み、土煙の段幕の先の舞台を細目で警戒する。
グリッドが何処に居ようとあの脚力と速度。
そして此所には先の何者かに因る光の柱により破壊された家屋や岩の破片。今立ち込める煙。
故に敵の位置は五感を研ぎ澄ませば確認可能、クレスはそう踏んでいた。
その推理は兼ね正しい。誤算があるとすればそれは―――
「…………」
さあ、何処から来る?
何処から来ようと……
その漆黒の創造主は舌打ちをし、ゆっくりとクレーターの中心から腰を上げる。
「逃げ足だけは一人前か、忌々しい奴だ」
確かにクレス=アルベインの秘刀による絶対的威力を持つ一撃は発動した。グリッドも側に居た。
しかし、クレスには分かる。手応えが無かった事が。
クレスはぎり、と唇の端を噛み、土煙の段幕の先の舞台を細目で警戒する。
グリッドが何処に居ようとあの脚力と速度。
そして此所には先の何者かに因る光の柱により破壊された家屋や岩の破片。今立ち込める煙。
故に敵の位置は五感を研ぎ澄ませば確認可能、クレスはそう踏んでいた。
その推理は兼ね正しい。誤算があるとすればそれは―――
「…………」
さあ、何処から来る?
何処から来ようと……
「―――お待たせしたなッ!
まだ俺の舞台が始まったばかりだ、こんな所で全身ユッケになってたまるかってんだよッ!」
まだ俺の舞台が始まったばかりだ、こんな所で全身ユッケになってたまるかってんだよッ!」
誤算があるとすればそれは、グリッドが想像を絶する馬鹿だったと言う事だろう。
だがしかしそれ故に彼の戦法は実に自由であり、奔放だ。何よりグリッドは戦闘に関して“ド”が付く程素人だ。
だからこそ型に縛られず、故に“型”に重点を置くクレスの想像を裏切る。
時として予想だにしない行動に出るのだ。
従ってクレスにとってグリッドは、ある意味での“穴”であり、弱点でもあった。
「あ、因みに俺はユッケよりクッパが好きだッ!!」
だがしかしそれ故に彼の戦法は実に自由であり、奔放だ。何よりグリッドは戦闘に関して“ド”が付く程素人だ。
だからこそ型に縛られず、故に“型”に重点を置くクレスの想像を裏切る。
時として予想だにしない行動に出るのだ。
従ってクレスにとってグリッドは、ある意味での“穴”であり、弱点でもあった。
「あ、因みに俺はユッケよりクッパが好きだッ!!」
続く静寂なんてお構いなし、と空気を張り割く様な心底どうでもいい絶叫が辺りに轟く。
クレスは顔を顰め辺りを見やるが、しかし土煙や音に変化は無い。
「真逆」
魔法でも詠唱しているのだろうか?
……否、それは有り得ない。
新しい武器を手に入れた様だがコングマンは間違い無くインファイターだ。
ヘビィボンバーは魔力を練り放出してはいるが、魔法の類では無いのだ。
そして何より詠唱する人間は光源となる。詰まる処、黄昏時の今詠唱は目立つのだ。
隠れる建造物ま破壊され尽くしている。故に詠唱は十中八九無い。
ならば答えは自ずと出て来る。相手に気付かれず、煙に乗じて接近戦を仕掛けるならば!
「衝破ッ―――」
一番ポピュラーな解は、自分の頭上ッ!
クレスは可及的最高速で空を仰ぐ。
切り抜いた様な白の空間の中にある橙の中心に、確かに憎らしく微笑む漆黒の天使は居た。
瞬時の判断で小細工は出来ない。それだけにこの奇襲は敵に読まれ易く、相手がクレス程の手垂れなら尚更だった。
疎漏とまでは言わないが、グリッドは白眉を、クレスの実力を見誤っていた。
いや、正確に言えば見誤りでは無く計り切れなかったのだ。
奇襲を本の刹那に見切られるとは思っていなかった。
しかし、グリッドの計り損ねは何も悪い方向ばかりでは無かった。
計り損ねはクレスにとっても言えた事であったからだ。即ち、“計り損ねの計り損ね”だ。
グリッドと出会った時、クレス=アルベインには既にして物理的余裕と精神的余裕は無かった。
“満身創痍な状態で邂逅した者は今まで会った誰よりも最速な人間”
皮肉にもそれが自分が求めたマイティ=コングマンであった事実は、クレスの精神に確かな衝撃を与えていた。
何よりもう戦闘を開始してから20秒前後経過していると言う事実にも関わらず、敵に致命傷を与えられていない。
そもそも精神、肉体。それらの損傷とは無関係に敵の速度がクレスの常識から一線を画していた。
クレスは顔を顰め辺りを見やるが、しかし土煙や音に変化は無い。
「真逆」
魔法でも詠唱しているのだろうか?
……否、それは有り得ない。
新しい武器を手に入れた様だがコングマンは間違い無くインファイターだ。
ヘビィボンバーは魔力を練り放出してはいるが、魔法の類では無いのだ。
そして何より詠唱する人間は光源となる。詰まる処、黄昏時の今詠唱は目立つのだ。
隠れる建造物ま破壊され尽くしている。故に詠唱は十中八九無い。
ならば答えは自ずと出て来る。相手に気付かれず、煙に乗じて接近戦を仕掛けるならば!
「衝破ッ―――」
一番ポピュラーな解は、自分の頭上ッ!
クレスは可及的最高速で空を仰ぐ。
切り抜いた様な白の空間の中にある橙の中心に、確かに憎らしく微笑む漆黒の天使は居た。
瞬時の判断で小細工は出来ない。それだけにこの奇襲は敵に読まれ易く、相手がクレス程の手垂れなら尚更だった。
疎漏とまでは言わないが、グリッドは白眉を、クレスの実力を見誤っていた。
いや、正確に言えば見誤りでは無く計り切れなかったのだ。
奇襲を本の刹那に見切られるとは思っていなかった。
しかし、グリッドの計り損ねは何も悪い方向ばかりでは無かった。
計り損ねはクレスにとっても言えた事であったからだ。即ち、“計り損ねの計り損ね”だ。
グリッドと出会った時、クレス=アルベインには既にして物理的余裕と精神的余裕は無かった。
“満身創痍な状態で邂逅した者は今まで会った誰よりも最速な人間”
皮肉にもそれが自分が求めたマイティ=コングマンであった事実は、クレスの精神に確かな衝撃を与えていた。
何よりもう戦闘を開始してから20秒前後経過していると言う事実にも関わらず、敵に致命傷を与えられていない。
そもそも精神、肉体。それらの損傷とは無関係に敵の速度がクレスの常識から一線を画していた。
実の処、クレスはギリギリでグリッドのスピードに追い付いているのだ。
現に、彼はまだ空間転移を行なっていない。クレスの全力を以てしても空間転移の時間より敵の移動速度の方が僅かに上なのだ。
仮に空間転移に成功したとしても、グリッドの速度ならば簡単に移動先の座標からズレてしまう。
それはグリッドの数少ない作戦の一つでもあった。
先にミトスと剣を交えグリッドが学習した事の一つに、“動き続けて速さで翻弄さえすれば空間転移は無力化出来る”という点がある。
クレスはその作戦に嵌まらざるを得なかった。敵の速度にはもう慣れてはいる。が、悲しいかな僅かに自分のスピードが足りない。
故に半ば必然的に自分から攻める戦法は除外された。
相手の剣を捌き反撃。しかしそれは牛の様に突進を繰り返すグリッドに対して非常に有効な戦法であった。
スピードを除いた接近戦の技量は、大味なユアンのそれより遥かにクレスの方が格上であり、それは力や間合い、手数、思考の柔軟性にも言えた事なのだ。
そしてグリッドの性格がユアンの技を更に大味にしていた。
従って今の時点ではクレスが圧倒的に有利であった。
「爆、雷……」
天からダブルセイバーを構え、急降下するグリッドは、クレスの視線に気付き殺られると覚悟した。
しかしそれは間違い。クレスには反撃の余裕は無かったのだ。
スピードの面で一歩劣るクレスに出来るのは反撃では無く、回避であった。
これがグリッドにとって“良い誤算”である。
バックステップを取ったクレスは油断は決してしないものの少なからずの安堵を抱いていた。
その安堵の念は地面に生じた魔方陣から自分が外側に居る事に起因する。
しかしクレスの誤算はそこにあった。
衝破爆雷陣は、魔方陣の“外側”に雷撃を与える技なのだから。
如何に百戦錬磨を誇るクレスもこの瞬間に確かな隙が生じた事は否めない。
着地したグリッドの目はクレスからは前髪で隠れて見えない。
ただニヤリ、とグリッドが嫌らしく口を歪めたのを視界の端で確かに認めた。
現に、彼はまだ空間転移を行なっていない。クレスの全力を以てしても空間転移の時間より敵の移動速度の方が僅かに上なのだ。
仮に空間転移に成功したとしても、グリッドの速度ならば簡単に移動先の座標からズレてしまう。
それはグリッドの数少ない作戦の一つでもあった。
先にミトスと剣を交えグリッドが学習した事の一つに、“動き続けて速さで翻弄さえすれば空間転移は無力化出来る”という点がある。
クレスはその作戦に嵌まらざるを得なかった。敵の速度にはもう慣れてはいる。が、悲しいかな僅かに自分のスピードが足りない。
故に半ば必然的に自分から攻める戦法は除外された。
相手の剣を捌き反撃。しかしそれは牛の様に突進を繰り返すグリッドに対して非常に有効な戦法であった。
スピードを除いた接近戦の技量は、大味なユアンのそれより遥かにクレスの方が格上であり、それは力や間合い、手数、思考の柔軟性にも言えた事なのだ。
そしてグリッドの性格がユアンの技を更に大味にしていた。
従って今の時点ではクレスが圧倒的に有利であった。
「爆、雷……」
天からダブルセイバーを構え、急降下するグリッドは、クレスの視線に気付き殺られると覚悟した。
しかしそれは間違い。クレスには反撃の余裕は無かったのだ。
スピードの面で一歩劣るクレスに出来るのは反撃では無く、回避であった。
これがグリッドにとって“良い誤算”である。
バックステップを取ったクレスは油断は決してしないものの少なからずの安堵を抱いていた。
その安堵の念は地面に生じた魔方陣から自分が外側に居る事に起因する。
しかしクレスの誤算はそこにあった。
衝破爆雷陣は、魔方陣の“外側”に雷撃を与える技なのだから。
如何に百戦錬磨を誇るクレスもこの瞬間に確かな隙が生じた事は否めない。
着地したグリッドの目はクレスからは前髪で隠れて見えない。
ただニヤリ、とグリッドが嫌らしく口を歪めたのを視界の端で確かに認めた。
「―――陣ッッ!!!!」
蒼い電流が掛け声と共に世界を白に染める。
それはクレスの全身を駆け巡り、強制的に身体を強張らせた。
蒼い電流が掛け声と共に世界を白に染める。
それはクレスの全身を駆け巡り、強制的に身体を強張らせた。
「……何…………だと!?」
グリッドの髪の隙間から鋭い右目が覗く。
根拠の無い嘘を積み重ねて造った自信がその奥で力強く光っていた。
根拠の無い嘘を積み重ねて造った自信がその奥で力強く光っていた。
「俺様の駿足、いや、神足にあんなチンケな攻撃が食らうと思ったら大間違いだぜクレス君。続けて喰らいやがれ! 瞬ッ」
「く……獅子、戦吼!」
皮膚の焦げた匂いがグリッドの鼻を突く前にクレスが練った闘気の獅子が牙を剥く。
何度も同じ電撃に怯むクレスでは無い。
グリッドは元々魔力を扱う修行を積んでないどころか素質そのものが無い。
故に扱える雷は所詮ライトニング級の電撃に限られる。
クレスにとってそれは有って無いようなものだった。
「ッく……!」
受け身を取りグリッドはバックステップで距離を取る。
凄まじい脚力は本当に便利なもので、バックステップ一回でかなりの距離を取る事が可能だ。
僅かな追撃を赦さぬそれにクレスは足を止め舌打ちをする。
「一筋縄ではいかねぇってかよ? いいね、ゾクゾクすんぜ」
恐怖を紛らわせる様に口上を張り、グリッドは口から溢れる黒い血を袖で拭う。
……ははっ。これがたかが獅子戦吼かよ!?
化け物め、何て威力だよ。洒落になってねぇぞ。これが奥義でも時空剣技でも何でもねぇだと!?
特技ってレベルじゃねーぞッ!
「く……獅子、戦吼!」
皮膚の焦げた匂いがグリッドの鼻を突く前にクレスが練った闘気の獅子が牙を剥く。
何度も同じ電撃に怯むクレスでは無い。
グリッドは元々魔力を扱う修行を積んでないどころか素質そのものが無い。
故に扱える雷は所詮ライトニング級の電撃に限られる。
クレスにとってそれは有って無いようなものだった。
「ッく……!」
受け身を取りグリッドはバックステップで距離を取る。
凄まじい脚力は本当に便利なもので、バックステップ一回でかなりの距離を取る事が可能だ。
僅かな追撃を赦さぬそれにクレスは足を止め舌打ちをする。
「一筋縄ではいかねぇってかよ? いいね、ゾクゾクすんぜ」
恐怖を紛らわせる様に口上を張り、グリッドは口から溢れる黒い血を袖で拭う。
……ははっ。これがたかが獅子戦吼かよ!?
化け物め、何て威力だよ。洒落になってねぇぞ。これが奥義でも時空剣技でも何でもねぇだと!?
特技ってレベルじゃねーぞッ!
グリッドは目を細め、指を直撃した部分に這わせ、損傷を確認する。
この呼吸の違和感と胸の凹み……肋骨が二、三イったか。
おまけにこの吐血。
恐らくは肺と胃に刺さったか? 畜生が、馬鹿野郎。
上等だよ、馬鹿野郎。
あとついでにもう一つ、馬鹿野郎。
「……そういやぁお前はミクトランに関係なく闘ってるって言ったな。
実に結構じゃねぇか、この野郎。悔しいぜ。
皮肉なもんだ。お前はもうとっくに“お前のバトルロアイヤル”を始めてたって訳なんだから。
ルール、ミクトラン、バトルロアイヤル。んなもん全部ひっくるめて、どうでもいい。やりたい事だけやってるお前は立派だぜ? クレス=アルベイン」
へへ。いいじゃねぇかよ。お前は最初からそうだったんだな。
お前の為したい事、お前がやりたい事。お前が救いたい者、倒したい者。
それは全てを無視したお前自身の強い意志。
ある意味、お前が一番バトルロアイヤルから突き抜けた存在だった訳だ。
無意識の内に蜘蛛の巣から開放され、囚われの俺達を空から見ていた。
成程、そりゃあ強い訳だ。
だがしかしッ!
だからこそ俺も負けられない。今漸くお前と俺は同じ土俵に立てたんだからな。
これから華麗なる食たk……じゃなかった、華麗なる逆転劇が……ッ!?
おまけにこの吐血。
恐らくは肺と胃に刺さったか? 畜生が、馬鹿野郎。
上等だよ、馬鹿野郎。
あとついでにもう一つ、馬鹿野郎。
「……そういやぁお前はミクトランに関係なく闘ってるって言ったな。
実に結構じゃねぇか、この野郎。悔しいぜ。
皮肉なもんだ。お前はもうとっくに“お前のバトルロアイヤル”を始めてたって訳なんだから。
ルール、ミクトラン、バトルロアイヤル。んなもん全部ひっくるめて、どうでもいい。やりたい事だけやってるお前は立派だぜ? クレス=アルベイン」
へへ。いいじゃねぇかよ。お前は最初からそうだったんだな。
お前の為したい事、お前がやりたい事。お前が救いたい者、倒したい者。
それは全てを無視したお前自身の強い意志。
ある意味、お前が一番バトルロアイヤルから突き抜けた存在だった訳だ。
無意識の内に蜘蛛の巣から開放され、囚われの俺達を空から見ていた。
成程、そりゃあ強い訳だ。
だがしかしッ!
だからこそ俺も負けられない。今漸くお前と俺は同じ土俵に立てたんだからな。
これから華麗なる食たk……じゃなかった、華麗なる逆転劇が……ッ!?
「!!? ッア……ガハッ、ゴホォッ!!ゲボッ、オォォ…!
く……そッ! こんな時にッ! まだだ、まだここからなんだよ畜生ッ……!!」
突然前触れ無く痙攣し始め倒れかける身体に鞭を打つ。
ありとあらゆる全身の穴から血が吹き出るその様は“天使”のイメージとは背筋が凍る程に離れていた。
「……お、お前も俺も、自分のバトルロアイヤルをしてるんだぜ。愉快じゃねぇかよ、実にいい。
だがな、いかんせん俺様はお前を止める様に頼まれている」
(……参ったな)
グリッドは言葉とは裏腹に憂患を感じていた。
術技を使用する事によるリバウンドが有り得ない程に激しくなっているのだ。
(そのうち身体が使いもんにならなくなっちまう……! その前になんとか!)
「さぁ、残り33と少し。……愉しもうぜ、“新生漆黒の翼の団員、ヤク中のクレス=アルベイン”ッ!!」
壊れた様にミントという名を繰り返す少年の目の奥にグリッドは何かを見る。
「いいだろう……受けて立ってやる」
クレスはその口の両端をゆっくりと歪め、血の様に真紅に染まるマントを左手で翻しながら剣先に黒炎を燈す。
く……そッ! こんな時にッ! まだだ、まだここからなんだよ畜生ッ……!!」
突然前触れ無く痙攣し始め倒れかける身体に鞭を打つ。
ありとあらゆる全身の穴から血が吹き出るその様は“天使”のイメージとは背筋が凍る程に離れていた。
「……お、お前も俺も、自分のバトルロアイヤルをしてるんだぜ。愉快じゃねぇかよ、実にいい。
だがな、いかんせん俺様はお前を止める様に頼まれている」
(……参ったな)
グリッドは言葉とは裏腹に憂患を感じていた。
術技を使用する事によるリバウンドが有り得ない程に激しくなっているのだ。
(そのうち身体が使いもんにならなくなっちまう……! その前になんとか!)
「さぁ、残り33と少し。……愉しもうぜ、“新生漆黒の翼の団員、ヤク中のクレス=アルベイン”ッ!!」
壊れた様にミントという名を繰り返す少年の目の奥にグリッドは何かを見る。
「いいだろう……受けて立ってやる」
クレスはその口の両端をゆっくりと歪め、血の様に真紅に染まるマントを左手で翻しながら剣先に黒炎を燈す。
「いざ、勝負ッ!」
運命がどうした。ルールがどうした。才能が無いからどうした。結果がどうした。
バトルロアイヤル? それがどうしたッ!
自分の為に、自分の力で、自分で!
奪って、望んで、殺して、進んで未来に待つ旗を掴もうとしているのは俺もお前も一緒だッ!
そこに悪も正義もねえ。
神だろうが何だろうが、この唇から謳われる言葉は奪えねえ!
バトルロアイヤル? それがどうしたッ!
自分の為に、自分の力で、自分で!
奪って、望んで、殺して、進んで未来に待つ旗を掴もうとしているのは俺もお前も一緒だッ!
そこに悪も正義もねえ。
神だろうが何だろうが、この唇から謳われる言葉は奪えねえ!
誰もが最初は蜘蛛の巣で足掻く蝶だったんだ。
だが誰もが本当は抗えるんだ。
翔び方はずっと前から知ってたんだ。
世界という鎖とルールという鉄球に翼を縛られていただけなんだ。
こんなチンケな翼でも、世界から開放された俺達は何処へでも自由に目指して翔べるんだッ!
「天翔オォォオォッ……」
一羽の鴉が宇宙にまで轟く様な雄叫びを上げて翔ぶ。
死ぬか生きるかの瀬戸際にいるという事実さえ忘れ、自分の戦いを貫く為に。
夕日を背負う鴉は、更なる酷な代償を覚悟で五番目の門の錠前に鍵を入れる。
これが俺の覚悟だ。そう言わんばかりにダブルセイバーを掲げた。空高く、何処までも高く。
その先の約束を守る騎士の様に。
「雷斬撃イイィィッ!!」
合わせて四のユアンの遺志を継いだ雷が大地を割り、大気を切り裂き、世界へ轟く。
一羽の鴉が宇宙にまで轟く様な雄叫びを上げて翔ぶ。
死ぬか生きるかの瀬戸際にいるという事実さえ忘れ、自分の戦いを貫く為に。
夕日を背負う鴉は、更なる酷な代償を覚悟で五番目の門の錠前に鍵を入れる。
これが俺の覚悟だ。そう言わんばかりにダブルセイバーを掲げた。空高く、何処までも高く。
その先の約束を守る騎士の様に。
「雷斬撃イイィィッ!!」
合わせて四のユアンの遺志を継いだ雷が大地を割り、大気を切り裂き、世界へ轟く。
騎士は鴉が飛び上がる瞬間にゆっくりとバンダナを絞め直していた。
それは余裕の現れでは無い。
「時空……」
彼はただ、願いに忠実過ぎた悲しき剣士。
強過ぎる願い故に彼は目的と過程を取り違える。
そしてもう一つの世界では一義的なものを見落とし、命を落とした。履き違えた靴に気付く事無く。
だがヒントは幾度と無く彼の目前に現れた。
何時か、何処かの森で、正しき靴を履いた人が問うた。
『さあ、もう一度問うよ。“君は、誰だい?”』
だがしかし現実は非情だった。気付けない彼にとって過程こそが目的であり、全てであった。
故に現れた彼を認める事が出来なかった。その瞬間にそのクレス=アルベインは偽者と成り果て、空っぽになるからだ。
それは目的を失うも同然であり赦されざる事だった。
“何よりも強く、ただ、強く”
彼女を救うにはそれしか無いのだ。
『答えは“剣”だ』
形骸化した彼は彼を保てない。
目の前の人間が本物である事に気付けない彼は恐怖に苛まれた。“自分が怖い”。
本物の己を殺すべく彼は剣として立ち上がる。が、偽りの剣は本物に敗北した。
そして終焉の刹那、彼は気付くのだ。
履き違えた自分が近付きたかったのは本物の彼であり、過程でなく“真の目的”だったのだと。
だがその刹那まで彼はその目的から遠ざかっていた。
『来いよ、“僕”』
巡り巡ってこの世界で漸く理由に辿り着いた彼の目はより力強く、精神的に更なる強さを得ていた。
ただ一つ、自分の求める解の為に剣を振るうこの世界の少年は、最初から何も間違えてなどいない。
それは余裕の現れでは無い。
「時空……」
彼はただ、願いに忠実過ぎた悲しき剣士。
強過ぎる願い故に彼は目的と過程を取り違える。
そしてもう一つの世界では一義的なものを見落とし、命を落とした。履き違えた靴に気付く事無く。
だがヒントは幾度と無く彼の目前に現れた。
何時か、何処かの森で、正しき靴を履いた人が問うた。
『さあ、もう一度問うよ。“君は、誰だい?”』
だがしかし現実は非情だった。気付けない彼にとって過程こそが目的であり、全てであった。
故に現れた彼を認める事が出来なかった。その瞬間にそのクレス=アルベインは偽者と成り果て、空っぽになるからだ。
それは目的を失うも同然であり赦されざる事だった。
“何よりも強く、ただ、強く”
彼女を救うにはそれしか無いのだ。
『答えは“剣”だ』
形骸化した彼は彼を保てない。
目の前の人間が本物である事に気付けない彼は恐怖に苛まれた。“自分が怖い”。
本物の己を殺すべく彼は剣として立ち上がる。が、偽りの剣は本物に敗北した。
そして終焉の刹那、彼は気付くのだ。
履き違えた自分が近付きたかったのは本物の彼であり、過程でなく“真の目的”だったのだと。
だがその刹那まで彼はその目的から遠ざかっていた。
『来いよ、“僕”』
巡り巡ってこの世界で漸く理由に辿り着いた彼の目はより力強く、精神的に更なる強さを得ていた。
ただ一つ、自分の求める解の為に剣を振るうこの世界の少年は、最初から何も間違えてなどいない。
“クレスさんは、まだ負けてませんッ!!”
純粋に、非力な彼女の淡い夢に答える為に。だからこそ負けられない。
世界なんて、ルールなんて、バトルロアイヤルなんて放り出してでも譲れないものが、そこにある。
「―――蒼破斬ッ!」
世界なんて、ルールなんて、バトルロアイヤルなんて放り出してでも譲れないものが、そこにある。
「―――蒼破斬ッ!」
ミクトランのバトルロアイヤルから開放された戦いは、こんなにも華麗にして、圧倒的だった。
「はああああぁぁぁッ!」
「うおおぉあぁあぁぁッ!」
クレスの零次元斬をグリッドが辛うじて避ける。そして辺りを包む砂埃の中からグリッドが奇襲を掛ける。
クレスがそれを捌き、雷撃が来る前に距離を取る。
この間凡そ一秒。
二人の攻防は多少のパターンの違いはあるものの大体がこの繰り返しであった。
「うおおぉあぁあぁぁッ!」
クレスの零次元斬をグリッドが辛うじて避ける。そして辺りを包む砂埃の中からグリッドが奇襲を掛ける。
クレスがそれを捌き、雷撃が来る前に距離を取る。
この間凡そ一秒。
二人の攻防は多少のパターンの違いはあるものの大体がこの繰り返しであった。
「また砂埃に乗じる気か? 馬鹿の一つ覚えとはこの事だな」
何度目かの砂埃の先に蠢く影にクレスは嗤う。……いい加減マンネリだ。そろそろ狩るか。
クレスは腰を落とし、戦闘開始から始めて迫るグリッドに向かって走る。
砂埃を黒炎で割き、晴れた先の雷刃をエターナルソードで弾く。
後は身体を捩り懐へ入り一撃。クレスの算段は確かに完璧だった。
「……!?」
だが、弾いた刹那にクレスの脳天から爪先まで違和感が駆け抜ける。
(おかしい。軽過ぎる!?)
グリッドの一撃は確かにそれ程重くは無い。だがこの軽さはどう考えても異常だった。
クレスは前方の確認を急くが雷光の眩しさとスパークの音がそれを許さない。
この瞬間、クレスの五感は間違い無く一瞬奪われる。彼はその煩わしさに短く舌打ちをした。
同時に脳の中で一本の可能性の糸が現実を紡ぎ出す。
(真逆奇襲そのものが布石? いや、ならばこの剣は?)
いや、五感を奪われたクレスは意味を想像せざるを得なかった。
情報が得られないのだからそれは必然であり、“グリッドもそれを理解している”。
(違う? 影を囮に自分は……ッ?)
クレスは剣を弾いてから0.3秒、五感を奪われた上理解する為己の行動を凍結した。
(……否! それこそが真の罠!)
そして真意に気付く為に更に0.3秒を要した。
“自分が思考する様にグリッドが仕向けた”のだと。
何度目かの砂埃の先に蠢く影にクレスは嗤う。……いい加減マンネリだ。そろそろ狩るか。
クレスは腰を落とし、戦闘開始から始めて迫るグリッドに向かって走る。
砂埃を黒炎で割き、晴れた先の雷刃をエターナルソードで弾く。
後は身体を捩り懐へ入り一撃。クレスの算段は確かに完璧だった。
「……!?」
だが、弾いた刹那にクレスの脳天から爪先まで違和感が駆け抜ける。
(おかしい。軽過ぎる!?)
グリッドの一撃は確かにそれ程重くは無い。だがこの軽さはどう考えても異常だった。
クレスは前方の確認を急くが雷光の眩しさとスパークの音がそれを許さない。
この瞬間、クレスの五感は間違い無く一瞬奪われる。彼はその煩わしさに短く舌打ちをした。
同時に脳の中で一本の可能性の糸が現実を紡ぎ出す。
(真逆奇襲そのものが布石? いや、ならばこの剣は?)
いや、五感を奪われたクレスは意味を想像せざるを得なかった。
情報が得られないのだからそれは必然であり、“グリッドもそれを理解している”。
(違う? 影を囮に自分は……ッ?)
クレスは剣を弾いてから0.3秒、五感を奪われた上理解する為己の行動を凍結した。
(……否! それこそが真の罠!)
そして真意に気付く為に更に0.3秒を要した。
“自分が思考する様にグリッドが仕向けた”のだと。
「残念、それは私の紫電さんだ」
刹那、クレスは己の身体を凍結から解除しようと試みるが、それよりも速く背後から斬撃が襲う。
脚力を味方に着けた一撃の圧力はクレスの残った鎧を手当たり次第に全て破壊し、更に体を吹き飛ばした。
グリッドの眼球がクレスの苦痛に歪む顔面を捉える。
暫く見ぬ鮮血の緋色が鎧と共に宙に弾けた。
「お……のれッ…!」
雷刃を纏わせた紫電を投げ、己はその脚力を生かし投げられた刀よりも早く僕の背後へ回ったのか!
迂闊ッ!
「味な真似を……!」
下唇を前歯で噛み、宙を舞うクレスは血を傷から吹きつつ腹の底から唸った。
傷は悔しいが深かった。中々の痛手。それは敵も把握しているだろうと想われた。
(ならば僕を追撃するのは至極当然の流れ。
奴の脚ならば僕が地に伏す前に僕を待構え串刺しにする程度不可能じゃない……だが、そうはさせない)
騎士は剣に左手を添え身を煌めく蒼に包む。
一方、グリッドは紫雷を右手でキャッチし、クレスの読み通り彼を追撃すべく空へ飛んでいた。
脚力を味方に着けた一撃の圧力はクレスの残った鎧を手当たり次第に全て破壊し、更に体を吹き飛ばした。
グリッドの眼球がクレスの苦痛に歪む顔面を捉える。
暫く見ぬ鮮血の緋色が鎧と共に宙に弾けた。
「お……のれッ…!」
雷刃を纏わせた紫電を投げ、己はその脚力を生かし投げられた刀よりも早く僕の背後へ回ったのか!
迂闊ッ!
「味な真似を……!」
下唇を前歯で噛み、宙を舞うクレスは血を傷から吹きつつ腹の底から唸った。
傷は悔しいが深かった。中々の痛手。それは敵も把握しているだろうと想われた。
(ならば僕を追撃するのは至極当然の流れ。
奴の脚ならば僕が地に伏す前に僕を待構え串刺しにする程度不可能じゃない……だが、そうはさせない)
騎士は剣に左手を添え身を煌めく蒼に包む。
一方、グリッドは紫雷を右手でキャッチし、クレスの読み通り彼を追撃すべく空へ飛んでいた。
リーダーの一瞬の読み違い。
彼はクレスがここで反撃――それも真逆空間転移――を行なうとは思っていなかった。
クレスは天使とは違い痛感はあり、それ故に傷を受け直ぐに動けるとは思っていなかったのだ。
しかしその希望はこの瞬間に、先程自分がクレスの鎧にそうしたように見事に打ち砕かれる。
(あ、あの傷を負って直ぐに反撃に出れるのかよ……ッ!?)
未だ鎧の破片すら地に落ちていない。
その状態で平然と転移を行なうクレスにグリッドは驚嘆を隠し切れなかった。
運悪く自分の現在位置は空中。座標をずらす事は叶わない。
「……ッ!」
自分の頭上に現れたクレスの剣をダブルセイバーで受けつつ、グリッドは喉の奥から喘ぎを上げた。
誓いの両刃が小さく悲鳴を上げる。
「お、らあぁぁッ!」
苦悶に染まる顔を更に歪め、グリッドは火花を散らす剣を弾き距離を取る。
(追撃すら許さない、それにもう同じ手は喰わないだろうな……じゃあどうすればいいってんだよ、一撃で仕留めろとでも?
はッ! 寝言は寝てから言えってんだよ馬鹿野郎ッ!)
ここで漸く空中に散った鎧の破片が鈍い音を立て地へと落ちる。
グリッドが起こした本の刹那の逆転劇はこうして幕を閉じ、勝負は再び振出しに戻った。
いくら傷を負おうとも時間は過ぎず、グリッドの心には焦躁の糸が痛い程に絡まってゆく。
残酷な現実は、小さな希望さえ掴む事を赦さない。
彼はクレスがここで反撃――それも真逆空間転移――を行なうとは思っていなかった。
クレスは天使とは違い痛感はあり、それ故に傷を受け直ぐに動けるとは思っていなかったのだ。
しかしその希望はこの瞬間に、先程自分がクレスの鎧にそうしたように見事に打ち砕かれる。
(あ、あの傷を負って直ぐに反撃に出れるのかよ……ッ!?)
未だ鎧の破片すら地に落ちていない。
その状態で平然と転移を行なうクレスにグリッドは驚嘆を隠し切れなかった。
運悪く自分の現在位置は空中。座標をずらす事は叶わない。
「……ッ!」
自分の頭上に現れたクレスの剣をダブルセイバーで受けつつ、グリッドは喉の奥から喘ぎを上げた。
誓いの両刃が小さく悲鳴を上げる。
「お、らあぁぁッ!」
苦悶に染まる顔を更に歪め、グリッドは火花を散らす剣を弾き距離を取る。
(追撃すら許さない、それにもう同じ手は喰わないだろうな……じゃあどうすればいいってんだよ、一撃で仕留めろとでも?
はッ! 寝言は寝てから言えってんだよ馬鹿野郎ッ!)
ここで漸く空中に散った鎧の破片が鈍い音を立て地へと落ちる。
グリッドが起こした本の刹那の逆転劇はこうして幕を閉じ、勝負は再び振出しに戻った。
いくら傷を負おうとも時間は過ぎず、グリッドの心には焦躁の糸が痛い程に絡まってゆく。
残酷な現実は、小さな希望さえ掴む事を赦さない。
五十数合目の剣撃が乾いた空に響き渡る。
彼等を中心として半径十数メートルは最早戦闘前の地形の原型を止めていなかった。
地震で地割れでもしたかと疑う様なひび割れやクレーター、隆起、そして血飛沫と鎧の破片。
グリッドの身体に傷は順調に刻まれてゆくが、クレスの傷はと言えば先の一撃程度。
グリッドの負けは客観的に見ても確実であった。
それでも、それでも約束の60秒は訪れない。戦争はまだ終わらない。
彼等を中心として半径十数メートルは最早戦闘前の地形の原型を止めていなかった。
地震で地割れでもしたかと疑う様なひび割れやクレーター、隆起、そして血飛沫と鎧の破片。
グリッドの身体に傷は順調に刻まれてゆくが、クレスの傷はと言えば先の一撃程度。
グリッドの負けは客観的に見ても確実であった。
それでも、それでも約束の60秒は訪れない。戦争はまだ終わらない。
クレスは最早、いや当然と言うべきだろうか。グリッドの動きを完全に見切っていた。
確かにグリッドの剣は自由奔放さはあるが、彼はどうしようもなく馬鹿だった。攻めや奇襲のパターンが10程度しか無いのだ。
一度パターンを見せればクレスは完全に見切ってしまう。
既に皮膚にさえ刃が届かない現実。ダブルセイバーもユアンの動きも紫電のサンダーブレードも、クレスの前では玩具も同然となっていた。
それでも助かっているのは致命傷を避けられる持ち前のチート的速度のお陰か。
確かにグリッドの剣は自由奔放さはあるが、彼はどうしようもなく馬鹿だった。攻めや奇襲のパターンが10程度しか無いのだ。
一度パターンを見せればクレスは完全に見切ってしまう。
既に皮膚にさえ刃が届かない現実。ダブルセイバーもユアンの動きも紫電のサンダーブレードも、クレスの前では玩具も同然となっていた。
それでも助かっているのは致命傷を避けられる持ち前のチート的速度のお陰か。
だがグリッドには第五の門を開いたリバウンドもあり、大幅に動きが鈍っていた。
故にその結末は至って必然的。
地平線の彼方に沈む太陽はそんな残酷な現実を黙したまま凝視する。
故にその結末は至って必然的。
地平線の彼方に沈む太陽はそんな残酷な現実を黙したまま凝視する。
「そら、右腕だ」
一羽の鴉が生み出した影が分離するその様も、ただ黙したまま凝視する。
いや、何億年も物語を繰り返す陽にとってそれは取るに足らない昼下がりのコーヒーブレイクの様なモノなのだろうか。
霞みそうな程に長い歴史の中でのほんの一刹那。
眠り掛ける落陽にとってそれは凝視より無視に近いものだったのかもしれない。
それでも遠い空と落陽は確かに一羽の鴉を見ていた。
グリッドは刮目する。
それは一瞬の、しかし致命的な油断。
リバウンドにより疲労していた彼の目では追い切れない驚異的な速度の抜刀が左に煌めいた。
凛と紅黒く血塗れた腕と、握られた紫の刃が空を舞う。
虚空に咲いた薔薇は己で吐き気を覚える程に黒かった。
黄金に抱擁された世界の中で、鴉は騎士の鼓膜を劈く様な絶叫を上げる。それを受け、騎士はさも不快そうに眉間を皺を寄せた。
それでも鴉の眼は少年を正確に捉える。逃げる事無く、戦意を喪失する訳でも無く。
(まだだッ! まだやれる。せめてあと十秒、いや五秒ッ! まだ一分には足りねェッ!!)
空を自由に流れる茜雲を剣を構える少年の背後に見る。
実に優雅なもんだ。人の気も知らないで。
……そりゃそうか。皆、自由にやりたいようにやってんだから、当然だ。
自分で大層に言ってやった癖に俺は何を考えてんだが。
いや、何億年も物語を繰り返す陽にとってそれは取るに足らない昼下がりのコーヒーブレイクの様なモノなのだろうか。
霞みそうな程に長い歴史の中でのほんの一刹那。
眠り掛ける落陽にとってそれは凝視より無視に近いものだったのかもしれない。
それでも遠い空と落陽は確かに一羽の鴉を見ていた。
グリッドは刮目する。
それは一瞬の、しかし致命的な油断。
リバウンドにより疲労していた彼の目では追い切れない驚異的な速度の抜刀が左に煌めいた。
凛と紅黒く血塗れた腕と、握られた紫の刃が空を舞う。
虚空に咲いた薔薇は己で吐き気を覚える程に黒かった。
黄金に抱擁された世界の中で、鴉は騎士の鼓膜を劈く様な絶叫を上げる。それを受け、騎士はさも不快そうに眉間を皺を寄せた。
それでも鴉の眼は少年を正確に捉える。逃げる事無く、戦意を喪失する訳でも無く。
(まだだッ! まだやれる。せめてあと十秒、いや五秒ッ! まだ一分には足りねェッ!!)
空を自由に流れる茜雲を剣を構える少年の背後に見る。
実に優雅なもんだ。人の気も知らないで。
……そりゃそうか。皆、自由にやりたいようにやってんだから、当然だ。
自分で大層に言ってやった癖に俺は何を考えてんだが。
“何だ、もう終わりか? リーダー”
「馬鹿。終わってたまるかよ……」
グリッドは自嘲し左手に力を入れ、倒れそうになる身体を両足でしっかりと支えた。
そう、まだ左手がある。左足は、右足も、この口もまだ動いている。
俺だって。
俺にだって。
グリッドは自嘲し左手に力を入れ、倒れそうになる身体を両足でしっかりと支えた。
そう、まだ左手がある。左足は、右足も、この口もまだ動いている。
俺だって。
俺にだって。
「何があろうと譲れないんもんがあんだよッ!」
仲間と約束したんだから。
それが例え結果的に嘘の塊でも、貫きたいから。
『世界を救えるのがお前だけだと思うなよ』
仲間に頼まれたんだから。
それだけは、天変地異があろうと絶対に嘘に出来ないから。
『90、いや、60でいい!! 頼む!!』
それが例え結果的に嘘の塊でも、貫きたいから。
『世界を救えるのがお前だけだと思うなよ』
仲間に頼まれたんだから。
それだけは、天変地異があろうと絶対に嘘に出来ないから。
『90、いや、60でいい!! 頼む!!』
決してそれは愛他主義なんかじゃない。エゴイスト? 甘んじて認めるさ、大いに結構ッ!
―――何よりも“俺が”そうしたいのだからッ!!
―――何よりも“俺が”そうしたいのだからッ!!
大きく羽ばたけよグリッド、立ちはだかるがどんなに強い敵だろうとこの心に背負った黒き翼は、漆黒の翼だけは!
絶対に折れねぇッ!
「うおおぉおぉぉおぉらああぁぁあああああぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁあぁあぁあああぁぁぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁッ!!」
凄まじい形相で一匹の天使は魔獣の如く啼く。
血を口から撒き散らそうと知った事では無かった。形振を構っていられる程隙を作っていい敵では無い。
クレスの斬撃を渾身のダブルセイバーの一撃で未然に防ぐ。
ふと見ればダブルセイバーの刃も既にボロボロだった。
よく頑張ったと褒めてやりたい。
だが、まだだ、まだなんだッ!
約束の60秒まではせめて、俺と一緒に―――
絶対に折れねぇッ!
「うおおぉおぉぉおぉらああぁぁあああああぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁあぁあぁあああぁぁぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁッ!!」
凄まじい形相で一匹の天使は魔獣の如く啼く。
血を口から撒き散らそうと知った事では無かった。形振を構っていられる程隙を作っていい敵では無い。
クレスの斬撃を渾身のダブルセイバーの一撃で未然に防ぐ。
ふと見ればダブルセイバーの刃も既にボロボロだった。
よく頑張ったと褒めてやりたい。
だが、まだだ、まだなんだッ!
約束の60秒まではせめて、俺と一緒に―――
突然目の前が真っ暗になる。
形容し難い音。だがいつか聞いた記憶があるのは気のせいだろうか。
グリッドは客観的にそれを捉えていた。否、気のせいでは無い。
そう、あれは確か落とし穴に落ちた時。
「獅子、」
どずん、と腹部から肉を貫く様な音。そして骨が砕ける音。
実に不快で耳を塞ぎたくなる様な不協和音が戦場を駆け抜ける。
「戦吼」
同時に身体に浮遊感を覚える。前を見ていた筈の眼球が風により姿を変えた茜雲を認めた。
ふと腹部を見る。言葉を飲む程に白く、橙を反射する何かがあった。
気が遠くなり掛けるが、それでもグリッドはダブルセイバーを持つ手の力は抜かない。
受け身を取り、足を破壊され尽くした地に引き摺る。
ダブルセイバーを地に刺し飛び出た肋骨を無理矢理抜き、グリッドは尚も血濡れた顔で笑う。
痙攣する腕で口から止まるを知らぬ血液を拭う。
「へ、へへ……クレス、お前も大した事ねぇなぁ? こんなもんかよッ!?」
その言葉にクレスは不快そうに目を細めた。
「……こ、こんくらいでお前の姫様助けられると思うなよ。来い、フルボッコにしてやんよ」
すう、と中指を立てて自分の方へくい、と動かす。勿論それは虚勢だ。
だが多少の時間稼ぎにはなっただろう。
本来ならもうこっちが逆に即フルボッコだ。即乱闘だ。乱闘パーティだ。
それを防いだだけでも良しとしようではないか。
「……殺す」
片腕の天使はもう一度笑ってみせる。
自分でも驚く程、笑い声が弱々しかった。
形容し難い音。だがいつか聞いた記憶があるのは気のせいだろうか。
グリッドは客観的にそれを捉えていた。否、気のせいでは無い。
そう、あれは確か落とし穴に落ちた時。
「獅子、」
どずん、と腹部から肉を貫く様な音。そして骨が砕ける音。
実に不快で耳を塞ぎたくなる様な不協和音が戦場を駆け抜ける。
「戦吼」
同時に身体に浮遊感を覚える。前を見ていた筈の眼球が風により姿を変えた茜雲を認めた。
ふと腹部を見る。言葉を飲む程に白く、橙を反射する何かがあった。
気が遠くなり掛けるが、それでもグリッドはダブルセイバーを持つ手の力は抜かない。
受け身を取り、足を破壊され尽くした地に引き摺る。
ダブルセイバーを地に刺し飛び出た肋骨を無理矢理抜き、グリッドは尚も血濡れた顔で笑う。
痙攣する腕で口から止まるを知らぬ血液を拭う。
「へ、へへ……クレス、お前も大した事ねぇなぁ? こんなもんかよッ!?」
その言葉にクレスは不快そうに目を細めた。
「……こ、こんくらいでお前の姫様助けられると思うなよ。来い、フルボッコにしてやんよ」
すう、と中指を立てて自分の方へくい、と動かす。勿論それは虚勢だ。
だが多少の時間稼ぎにはなっただろう。
本来ならもうこっちが逆に即フルボッコだ。即乱闘だ。乱闘パーティだ。
それを防いだだけでも良しとしようではないか。
「……殺す」
片腕の天使はもう一度笑ってみせる。
自分でも驚く程、笑い声が弱々しかった。
さあ、マジでくたばる五秒前! ……って、オイ。冗談になってねぇぞ? 全く以て笑えねぇ。
黒く煌めく翅を散らし、グリッドは自嘲しつつ瞼をゆっくりと閉じる。
―――アホ毛迷探偵、プリムラ!
―――何気に惚気やがるカトリーヌ!
―――牛さん……じゃなかった、おっぱい大好きトーマ!
―――ブラコン極まったシャーリィ!
―――俺に関わってきた皆!
―――何気に惚気やがるカトリーヌ!
―――牛さん……じゃなかった、おっぱい大好きトーマ!
―――ブラコン極まったシャーリィ!
―――俺に関わってきた皆!
―――そしてかけがえのない我が“親友”、ツンデレドジっ子のユアンッッ!!
「……俺に、俺に力をくれッ!!」
力強い一閃と共にグリッドは刮目し世界を翔ぶ。ロイドとの約束を果たすべく、目の前の敵を止める為に。
不敵に微笑む少年にダブルセイバーを振るわんと振り上げる。
冷えた風の調べが心地良く響く。ふいに自分が翔ぶ後押しをしてくれているのでは、等と思う。実に下らない。勘違いもいい所だ。
「終わりだ、彼女は僕が助け出す」
黄昏時に、二人は翔ぶ。
「お前は死ね―――零・次元斬」
グリッドは思う―――これが最後のフライトかも知れねぇ、と。
「残念。そりゃこっちの台詞だよ!」
グリッドが口上を吐いたこの瞬間、時は40と僅かを刻んでいた。
「天翔ッ、雷斬撃ッ!!」
約束の戦場に黒炎が吹き荒び白雷が轟き駆け巡る。
続いて一拍遅れ、重い金属音が廃村に響いた。
モノトーンの余波が荒れた大地を飲み込みクレーターを作ってゆく。
誓いのダブルセイバーが遠い空に吸い込まれる様に高く高く打ち上がった。
酸素を失った黒い血液が半球状に抉り取られた大地を濡らす。
クレスは衝撃波により翻るマントを払うと腰を上げる。
そして地に伏している筈の天使の方へと髪を掻き上げながら振り返った。
「………………………!?」
騎士は驚愕に目を見開き、続けてわなわなと震え拳を握る。
土煙の向こう側には、胸を大きく裂かれた堕落寸前の漆黒の天使が“しっかりと二本の足で地を捉え立って居た”。
「何故だ……」
歯を軋ませ、一秒の間を置いて騎士はそう呟く。
「まだだ」
天使は揺れる前髪の下の眼球がずっと向こうのロイドとコレットへと一瞥を投げる。
(状況の理解は出来ない。が、まだ一緒に居るって事は何も解決していないって事だ。)
ならば時間を稼げグリッド、まだ60秒には些か足りない。
まだだ。そうだろう?
お前が教えてくれたんだ、大食らいハーフエルフ。
天使は脳裏に浮かぶ青髪の男を鼻で笑い、静かに詠唱を開始する。
「へへ……まだ、まだだって俺の中のアイツが叫ぶんだよなァ」
項垂れた首を上げ、その真っ直ぐで煌めく瞳を前髪から覗かせる。
クレスはその力強さに息を飲む。……如何してだ。
不敵に微笑む少年にダブルセイバーを振るわんと振り上げる。
冷えた風の調べが心地良く響く。ふいに自分が翔ぶ後押しをしてくれているのでは、等と思う。実に下らない。勘違いもいい所だ。
「終わりだ、彼女は僕が助け出す」
黄昏時に、二人は翔ぶ。
「お前は死ね―――零・次元斬」
グリッドは思う―――これが最後のフライトかも知れねぇ、と。
「残念。そりゃこっちの台詞だよ!」
グリッドが口上を吐いたこの瞬間、時は40と僅かを刻んでいた。
「天翔ッ、雷斬撃ッ!!」
約束の戦場に黒炎が吹き荒び白雷が轟き駆け巡る。
続いて一拍遅れ、重い金属音が廃村に響いた。
モノトーンの余波が荒れた大地を飲み込みクレーターを作ってゆく。
誓いのダブルセイバーが遠い空に吸い込まれる様に高く高く打ち上がった。
酸素を失った黒い血液が半球状に抉り取られた大地を濡らす。
クレスは衝撃波により翻るマントを払うと腰を上げる。
そして地に伏している筈の天使の方へと髪を掻き上げながら振り返った。
「………………………!?」
騎士は驚愕に目を見開き、続けてわなわなと震え拳を握る。
土煙の向こう側には、胸を大きく裂かれた堕落寸前の漆黒の天使が“しっかりと二本の足で地を捉え立って居た”。
「何故だ……」
歯を軋ませ、一秒の間を置いて騎士はそう呟く。
「まだだ」
天使は揺れる前髪の下の眼球がずっと向こうのロイドとコレットへと一瞥を投げる。
(状況の理解は出来ない。が、まだ一緒に居るって事は何も解決していないって事だ。)
ならば時間を稼げグリッド、まだ60秒には些か足りない。
まだだ。そうだろう?
お前が教えてくれたんだ、大食らいハーフエルフ。
天使は脳裏に浮かぶ青髪の男を鼻で笑い、静かに詠唱を開始する。
「へへ……まだ、まだだって俺の中のアイツが叫ぶんだよなァ」
項垂れた首を上げ、その真っ直ぐで煌めく瞳を前髪から覗かせる。
クレスはその力強さに息を飲む。……如何してだ。
敵の武器は既に無い。身体も満身創痍だ。……なのに、如何して。
「如何してお前はまだ立っていられる」
唸る様に喉から言葉を捻り出す。それは半ば無意識の内に口から出ていた疑問だった。
そして再認識する。
こいつは、コングマンは、確実に此所で息の根を止めておかなければならない相手だ。
「僕の一撃を受け、何故立っていられるんだ、コングマン」
顎の先から滴る水滴にクレスは気付く。
それは血では無く、汗。
(馬鹿な、この僕が)
目の前の羽虫に焦り、恐怖しているとでも云うのかッ!?
「馬鹿かお前は。てか馬鹿だろ、ヴァーカ!“俺様が立ちたいから今此所に立ってるんだよ”」
武器が無くなったから翔べない? そんな馬鹿な話は無いだろう?
ユアンだってダブルセイバー無しで闘ってたじゃないか。
俺達を守る為に。串刺しになりながらも、骨を折ろうとも、銃弾を何発も浴びようとも。
必死に、必死に。
ただ諦めなかった。強大な力を目の当たりにしながらも折れなかった。
あいつはそれでも最後まで負けなかった。
“堕落していても地に着くまでは空を飛んでいる”のだ。
「……そんなお前に何が出来ると言うんだ」
クレスは再びぎり、と歯を軋ませる。
理屈では有り得ない。あの傷を負って立っていられるなど、有り得てはならない事だ。
なのに、なのに目の前の敵は!
何度倒しても何度斬っても、どうして立ち上がるッ!?
「何が、出来るかだって?」
(ユアンの動きと技を真似た俺に出来る事はあと一つだけ……それが出来るか否かは賭けだ。
おい筋肉馬鹿、悪いがお前の技、借りるぜ。レンタル料は俺様のサインだ)
ゆっくりとグリッドは大地への一歩を踏み出す。
最後の六つ目の門の鍵を開ける準備は調った。
正直、開けばリバウンドも半端じゃないだろう。
けれど、“そんなのは関係無い”。
「如何してお前はまだ立っていられる」
唸る様に喉から言葉を捻り出す。それは半ば無意識の内に口から出ていた疑問だった。
そして再認識する。
こいつは、コングマンは、確実に此所で息の根を止めておかなければならない相手だ。
「僕の一撃を受け、何故立っていられるんだ、コングマン」
顎の先から滴る水滴にクレスは気付く。
それは血では無く、汗。
(馬鹿な、この僕が)
目の前の羽虫に焦り、恐怖しているとでも云うのかッ!?
「馬鹿かお前は。てか馬鹿だろ、ヴァーカ!“俺様が立ちたいから今此所に立ってるんだよ”」
武器が無くなったから翔べない? そんな馬鹿な話は無いだろう?
ユアンだってダブルセイバー無しで闘ってたじゃないか。
俺達を守る為に。串刺しになりながらも、骨を折ろうとも、銃弾を何発も浴びようとも。
必死に、必死に。
ただ諦めなかった。強大な力を目の当たりにしながらも折れなかった。
あいつはそれでも最後まで負けなかった。
“堕落していても地に着くまでは空を飛んでいる”のだ。
「……そんなお前に何が出来ると言うんだ」
クレスは再びぎり、と歯を軋ませる。
理屈では有り得ない。あの傷を負って立っていられるなど、有り得てはならない事だ。
なのに、なのに目の前の敵は!
何度倒しても何度斬っても、どうして立ち上がるッ!?
「何が、出来るかだって?」
(ユアンの動きと技を真似た俺に出来る事はあと一つだけ……それが出来るか否かは賭けだ。
おい筋肉馬鹿、悪いがお前の技、借りるぜ。レンタル料は俺様のサインだ)
ゆっくりとグリッドは大地への一歩を踏み出す。
最後の六つ目の門の鍵を開ける準備は調った。
正直、開けばリバウンドも半端じゃないだろう。
けれど、“そんなのは関係無い”。
「―――お前を、止められる」
血が吹き出る口で思い切り三日月を作る。
翔べ、力の限り。諦めるな。動け。謳え。闘え。
―――詠唱、完了。
「集え、蒼雷ッ!」
墜ちるなら、それも良し。
墜ちないならば、尚良し。
地に着く瞬間まで、それは分からない。
翔べ、力の限り。諦めるな。動け。謳え。闘え。
―――詠唱、完了。
「集え、蒼雷ッ!」
墜ちるなら、それも良し。
墜ちないならば、尚良し。
地に着く瞬間まで、それは分からない。
さあ、開け、集え、響け、魅せてやれッ! これが俺“達”の最終奥義だッ!
白雷が黒い羽根を螺旋に巻き込み、グリッドを、グリッドの右手のソーサラーリングを包み混んだ。
本来は直径3メートル超のそれを可及的最少までに圧縮する。
本来は直径3メートル超のそれを可及的最少までに圧縮する。
一方クレスは普段の冷静さからは到底伺えない口をあんぐりと空けた様子で、その像に別のものを紡いでいた。
いや、そうさせる様にグリッドが仕向けたとも言えよう。
「成程」
“それは、クレスの肉体さえ消滅させる、超高電の塊”
クレスはそれを見て最高に愉しそうに嗤った。
壊れ掛けのテレビの様に写し出される像が不鮮明な記憶が、ぱたぱたと色彩と明瞭さを取り戻して行く未知の感覚。
それは―――そう、更なる覚醒。
「矢張り最後に立ち開かるはその技か」
何と言う皮肉だろうか。
最後の扉の先にあった奥義が、少年が斬るべき魔王の最終奥義に見た目がそのものだなんて。
六番目の扉が今開かれる。
かの天使が化け物を吹き飛ばすべくして死の間際に撃ち放った魔法が、今同じ様に目の前に形成される。
いや、そうさせる様にグリッドが仕向けたとも言えよう。
「成程」
“それは、クレスの肉体さえ消滅させる、超高電の塊”
クレスはそれを見て最高に愉しそうに嗤った。
壊れ掛けのテレビの様に写し出される像が不鮮明な記憶が、ぱたぱたと色彩と明瞭さを取り戻して行く未知の感覚。
それは―――そう、更なる覚醒。
「矢張り最後に立ち開かるはその技か」
何と言う皮肉だろうか。
最後の扉の先にあった奥義が、少年が斬るべき魔王の最終奥義に見た目がそのものだなんて。
六番目の扉が今開かれる。
かの天使が化け物を吹き飛ばすべくして死の間際に撃ち放った魔法が、今同じ様に目の前に形成される。
「こいつがユアン(と筋肉ハゲ)が俺に遺した最後の記憶だ」
零次元斬は何度も見た。威力も把握してる。
……そしてこの左手のこいつはもう俺にも制御出来ねぇ位ヤバい威力だ。
魔力も30%程度なら余裕で使ってんじゃねーかって位にな。
昔闘技場でさ、見た事あったんだよこれ。……イカスヒップの事じゃねーぞ、バーロー。
多分これが最後になるし、これならお前も本気になってくれると思うんだ。
どうせならお前にもマジになって貰わねーと、俺が浮かばれねぇよ。
まぁ、それにな。こいつなら、奴の零次元斬と同等に渡り合える気がするんだ。
あとは、まぁなんだ。見た目がイカすだろ? ……いやだからイカスヒップじゃねーよッ!
……そしてこの左手のこいつはもう俺にも制御出来ねぇ位ヤバい威力だ。
魔力も30%程度なら余裕で使ってんじゃねーかって位にな。
昔闘技場でさ、見た事あったんだよこれ。……イカスヒップの事じゃねーぞ、バーロー。
多分これが最後になるし、これならお前も本気になってくれると思うんだ。
どうせならお前にもマジになって貰わねーと、俺が浮かばれねぇよ。
まぁ、それにな。こいつなら、奴の零次元斬と同等に渡り合える気がするんだ。
あとは、まぁなんだ。見た目がイカすだろ? ……いやだからイカスヒップじゃねーよッ!
グリッドは一人漫才に苦笑いする。この後に及んで自分はまだ余裕ぶっているのか。
とことん救えない奴だ、自分は。
「さあクレス、これがお前に受け切れるか?
四千と十数年と60秒近くに渡り培ったモンが、この技には詰まってるぜ」
確かに、雷球を生み出す事すら初めての凡人が魔法の形状変化、圧縮応用と言った事が可能であるか否かは甚だ疑問ではある。
しかし現実にそれをグリッドは無理矢理やってのけた。
マナの味方へのマーキング等と言う高等技術を学んだ事すら無い彼の左手は、故にズタズタだ。
とことん救えない奴だ、自分は。
「さあクレス、これがお前に受け切れるか?
四千と十数年と60秒近くに渡り培ったモンが、この技には詰まってるぜ」
確かに、雷球を生み出す事すら初めての凡人が魔法の形状変化、圧縮応用と言った事が可能であるか否かは甚だ疑問ではある。
しかし現実にそれをグリッドは無理矢理やってのけた。
マナの味方へのマーキング等と言う高等技術を学んだ事すら無い彼の左手は、故にズタズタだ。
爪は剥がれ皮膚は切り裂かれ、白骨や神経がダイレクトに見える部分さえあった。
下手をすれば今にも自分の左手と輝石を破壊し兼ねない。
「愚問だ。それを斬るべくして僕は此所に来たんだ、マイティ=コングマン」
剣を纏いし黒炎が一瞬にして揺れ踊りながら拡散し、沈む夕日の彼方に消える。
それは時空剣技を放棄し、アルベイン流の本来の味を出す為の行為。
クレスは瞼をゆっくりと下げる。彼もまた、本気だった。
いや、違う。語弊がある。彼は本気に成らざるを得なかった。
それ程までにグリッドが作り出したヘビィボンバー……もとい、スパークウェブは凄まじいエネルギーを秘めていたのだ。
故に剣士として相手への最高の讃辞とも言える判断を下す。“今こそアルベイン流最終奥義を繰り出す時である”と。
クレスが“クレス自身の心情で”笑った瞬間だった。
下手をすれば今にも自分の左手と輝石を破壊し兼ねない。
「愚問だ。それを斬るべくして僕は此所に来たんだ、マイティ=コングマン」
剣を纏いし黒炎が一瞬にして揺れ踊りながら拡散し、沈む夕日の彼方に消える。
それは時空剣技を放棄し、アルベイン流の本来の味を出す為の行為。
クレスは瞼をゆっくりと下げる。彼もまた、本気だった。
いや、違う。語弊がある。彼は本気に成らざるを得なかった。
それ程までにグリッドが作り出したヘビィボンバー……もとい、スパークウェブは凄まじいエネルギーを秘めていたのだ。
故に剣士として相手への最高の讃辞とも言える判断を下す。“今こそアルベイン流最終奥義を繰り出す時である”と。
クレスが“クレス自身の心情で”笑った瞬間だった。
「来いよ」
グリッドの低く轟く挑発を合図に二人は再び走り出す。
幻想中の城すら崩壊させ兼ねない咆哮、そして全てを断ち斬る最強の剣閃と全てを滅する雷球。
お互いに腕を伸ばす。どちらが求めるモノへの距離が短いのか。
どちらの手がその先に待っている光に届くのか。
初撃は互角、煌めく白銀の光は黄金の世界を飲み込み、白昼の如く世界を染め上げる。
グリッドはユアンの記憶を辿り、更に左手に魔力を込める。鈍い音が響き、指の関節が外れる感覚がグリッドを襲った。
最早一寸先は白銀の光でどうなっているかも定かでは無い。
ただ必死に足を踏ん張り左手を伸ばす。背から抜けた羽根を衝撃の余波により数十と散らせながら。
此所で全てを使い切ってでも、“嘘”にしたく無い約束があった。
幻想中の城すら崩壊させ兼ねない咆哮、そして全てを断ち斬る最強の剣閃と全てを滅する雷球。
お互いに腕を伸ばす。どちらが求めるモノへの距離が短いのか。
どちらの手がその先に待っている光に届くのか。
初撃は互角、煌めく白銀の光は黄金の世界を飲み込み、白昼の如く世界を染め上げる。
グリッドはユアンの記憶を辿り、更に左手に魔力を込める。鈍い音が響き、指の関節が外れる感覚がグリッドを襲った。
最早一寸先は白銀の光でどうなっているかも定かでは無い。
ただ必死に足を踏ん張り左手を伸ばす。背から抜けた羽根を衝撃の余波により数十と散らせながら。
此所で全てを使い切ってでも、“嘘”にしたく無い約束があった。
白銀の空間、その中に一際目立つ緋色の雨が散る。
蒼白い雷光が縦に裂け、その隙間から騎士が覗いた。
泡沫の夢が消えて行く。
アルベイン流の至高の最終奥義、冥空斬翔剣の最後の一撃。
天に昇る紫の切り上げの剣閃が鴉の胸を縦に深く、真紅の一文字に斬り裂く。
それは戦争開始から丁度秒針が60を刺した瞬間だった。
雷は儚く霧散する。
身に降り注いだ漆黒が差した緋色の雨は、氷の様に冷たかった。
蒼白い雷光が縦に裂け、その隙間から騎士が覗いた。
泡沫の夢が消えて行く。
アルベイン流の至高の最終奥義、冥空斬翔剣の最後の一撃。
天に昇る紫の切り上げの剣閃が鴉の胸を縦に深く、真紅の一文字に斬り裂く。
それは戦争開始から丁度秒針が60を刺した瞬間だった。
雷は儚く霧散する。
身に降り注いだ漆黒が差した緋色の雨は、氷の様に冷たかった。
「約束の時間だ。畜生」
橙から紫に変わる空を見ながら小さく呟く。
堕落したのは、漆黒の天使であった。
堕落したのは、漆黒の天使であった。
再び黄金が世界を満たした時、倒れた鴉は目の前に立つ血塗れの騎士を見る。
騎士は覆い被さる様に鴉に跨がり、剣を構え―――左胸を勢い良く刺した。
「……ッ!」
騎士は覆い被さる様に鴉に跨がり、剣を構え―――左胸を勢い良く刺した。
「……ッ!」
己の中から鈍く不快な音が響く様をグリッドは客観的に聴いていた。
グリッドは何も言わずその行為を見つめる。いや、言えなかった。
スパークウェブを打った反動は凄まじく、身体を一ミリたりとも動かす事が出来ない。
(不甲斐ねぇ……ッ!)
暫くは治らないだろうと思われるそれにグリッドは怒りを露にする。
しかし現実は非情だ。グリッドの身体はぴくりとも動かない。
グリッドは何も言わずその行為を見つめる。いや、言えなかった。
スパークウェブを打った反動は凄まじく、身体を一ミリたりとも動かす事が出来ない。
(不甲斐ねぇ……ッ!)
暫くは治らないだろうと思われるそれにグリッドは怒りを露にする。
しかし現実は非情だ。グリッドの身体はぴくりとも動かない。
「……今行くからね、ミント」
二、三回左胸を刺した後、クレスは寒気がする程優しく呟き、立ち上がる。
―――う……け。
自分が作った黒い血の海の中でグリッドは口を半開きにしたまま天を仰いでいた。
朧気な視界は紫に染まりつつある空を映していた。
朧気な視界は紫に染まりつつある空を映していた。
―――うごけ。
クレスが辺りを見渡す。直ぐにコレットを見つけ、細目で状況を確認していた。
「ミント……!」
小さく叫び側に居たロイドを睨み、剣と身体に蒼に煌めく衣を纏う。
「ミント……!」
小さく叫び側に居たロイドを睨み、剣と身体に蒼に煌めく衣を纏う。
―――動け。
空間翔転移、と呟く誰か。
「……………ド……ろ」
小さく等間隔の痙攣と吐血を行なうだけの役立たずの口をグリッドは微かに動かす。
「……………ド……ろ」
小さく等間隔の痙攣と吐血を行なうだけの役立たずの口をグリッドは微かに動かす。
―――動け!
「ロ…ド……逃……ろ…………!」
朧気な視界が残酷にも消えて行く蒼の粒子を認める。
奥には確かにロイドとコレットらしき人物が居た。
不味い。不味い不味い不味い。今行かれては意味が無いのだ。
朧気な視界が残酷にも消えて行く蒼の粒子を認める。
奥には確かにロイドとコレットらしき人物が居た。
不味い。不味い不味い不味い。今行かれては意味が無いのだ。
―――動け!!
「………ロイ、ド……ッ!」
しかし友を呼ぶその声は、悲しい程に小さ過ぎた。
1と半秒後、彼の視界に赤黒い飛沫が写る。
歯を鳴らしつつゆっくりと目線を動かすと、その先には残酷過ぎる未来が待っていた。
しかし友を呼ぶその声は、悲しい程に小さ過ぎた。
1と半秒後、彼の視界に赤黒い飛沫が写る。
歯を鳴らしつつゆっくりと目線を動かすと、その先には残酷過ぎる未来が待っていた。
『勿論それで済むとは思ってない。……けれどお前の笑顔は……そう、思っていいんだよな? 出来たん、だよな?』
【二人の王子様の物語】
『やっとだ。漸く君の元に行く事が出来た。ごめんね、随分待ったかい? 大丈夫。もう大丈夫だから』
身体の様々な隆起や傷がその死体に陰を落とす。
漸く、宿敵の巨漢は倒れた。
少年は目の前の血塗れて動かぬ男を見下しながらゆっくりと立ち上がった。
彼の目前に在る、腕を失い全身を滅多刺しにされた骸は実にグロテスクだ。
「……今行くからね、ミント」
暴れた前髪を手で払いながら少年は仔犬をあやす様に優しく呟いた。
紫の剣を転がる死体から抜く。
同時に、到底顔を顰めずには居られない様な奇怪な音が辺りに響いた。
少年は目の前の血塗れて動かぬ男を見下しながらゆっくりと立ち上がった。
彼の目前に在る、腕を失い全身を滅多刺しにされた骸は実にグロテスクだ。
「……今行くからね、ミント」
暴れた前髪を手で払いながら少年は仔犬をあやす様に優しく呟いた。
紫の剣を転がる死体から抜く。
同時に、到底顔を顰めずには居られない様な奇怪な音が辺りに響いた。
と、少年は顔を上げると地平線の向こうの姫様を見て目を細めた。どうしたと言うのだろうか。
「ミント……!」
(誰だ、もう一人は?)
(誰だ、もう一人は?)
クレスは剣を強く握り、再び緩んだ神経を研ぎ澄ませた。
オールバックの赤尽くめの青年が何故ミントの元に居るのか。
クレスは一瞬真意を計ろうと試みたが、半秒で考える事を止めた。
よくよく思えば考える必要性は全く無い。理由なんてどうでもよい事なのだ。
障害があるならば消せば良いだけなのだから。
「どいつもこいつも……!」
蒼の粒子が螺旋状に彼を抱擁してゆく。
粒子は光となり、掲げられた剣を合図に眩いばかりに輝いた。
その刹那、少年は翔ぶ。
終焉を告げる蒼の残滓が、大地に伏す骸に降り注いだ。
オールバックの赤尽くめの青年が何故ミントの元に居るのか。
クレスは一瞬真意を計ろうと試みたが、半秒で考える事を止めた。
よくよく思えば考える必要性は全く無い。理由なんてどうでもよい事なのだ。
障害があるならば消せば良いだけなのだから。
「どいつもこいつも……!」
蒼の粒子が螺旋状に彼を抱擁してゆく。
粒子は光となり、掲げられた剣を合図に眩いばかりに輝いた。
その刹那、少年は翔ぶ。
終焉を告げる蒼の残滓が、大地に伏す骸に降り注いだ。
「……!!」
半ば瞬間的に足が出ていた。目の前の少女への力の加減すら忘れる程に。
そう、それは反応では無く反射と冠した方が適切だと言えるだろう。
ロイドには恐怖が全くと言っていい程に無かった。反射なのだから当然なのだが。
その蒼に煌めく領域は実に芸術的だった。残酷なまでに美しい蒼。
しかしそれの本来の名は地獄の門だ。美しさに迷い踏み込む者を堕とす悪魔が統治する領域。
天使には叫ぶ暇すら与えられなかった。従ってそれすらも思考の埒外だ。
ゆっくりと足がその領域に入る。
綺麗な外見とは対照的な空間の澱みを肌で感じた。
そう、それは反応では無く反射と冠した方が適切だと言えるだろう。
ロイドには恐怖が全くと言っていい程に無かった。反射なのだから当然なのだが。
その蒼に煌めく領域は実に芸術的だった。残酷なまでに美しい蒼。
しかしそれの本来の名は地獄の門だ。美しさに迷い踏み込む者を堕とす悪魔が統治する領域。
天使には叫ぶ暇すら与えられなかった。従ってそれすらも思考の埒外だ。
ゆっくりと足がその領域に入る。
綺麗な外見とは対照的な空間の澱みを肌で感じた。
全てが蒼色になる様な、自分すらその空間に溶けてしまう様な、そんな違和感を覚えた。
自分は茜空の下に居た筈なのに。
それなのに。
目の前の世界はこんなにも、残酷な程に、蒼くて、青くて、碧くて、あおくて――――――――
「ロイド…?」
――――――――あかい。
自分は茜空の下に居た筈なのに。
それなのに。
目の前の世界はこんなにも、残酷な程に、蒼くて、青くて、碧くて、あおくて――――――――
「ロイド…?」
――――――――あかい。
震える右手をそれに近付ける。
壊れ掛けのテレビの様に揺らぐ視界の中で、真っ黒なコマと、自分から出たそれが何度か交互に再生された。
壊れ掛けのテレビの様に揺らぐ視界の中で、真っ黒なコマと、自分から出たそれが何度か交互に再生された。
……なんだか、にくをさくようなみょうなおとがきこえたきがした。
自分の胸から生えたそれが縦に、上に、ゆっくりと、裂きながら、移動する。
喉まで来て、そこから捩じれ、液晶画面が本来向かぬ方向を向く。
壊れゆくテレビが映したのは、地に伏した友と、息を飲む程に真っ赤に染まった空だった。
喉まで来て、そこから捩じれ、液晶画面が本来向かぬ方向を向く。
壊れゆくテレビが映したのは、地に伏した友と、息を飲む程に真っ赤に染まった空だった。
『ただいま。迎えに来たよ、ミント』
【終わりゆく人の物語】
『皆』
血潮の様な紅い空を見上げていた。沈まぬ夕日を見上げていた。
崩壊した建物の歪な影が視界に走っていた。
天使に出る筈の無い涙が溢れて、溢れて。止まらなかった。
茜雲が頭上に泳ぐ。
視界が良く分からない緋色に染まる。
世界が、俺の世界が、ゆっくりと、幕を下ろしてゆく。
俺が、終わる。
崩壊した建物の歪な影が視界に走っていた。
天使に出る筈の無い涙が溢れて、溢れて。止まらなかった。
茜雲が頭上に泳ぐ。
視界が良く分からない緋色に染まる。
世界が、俺の世界が、ゆっくりと、幕を下ろしてゆく。
俺が、終わる。
“ああ、俺、此所で死ぬんだな”
ロイドは一旦喉から抜かれ、脳天に振り落とされる刃を見て漠然とそう感じた。
頭蓋内へ刃が進入する音を聴きnaがら、以前、の俺ならどう思っていただろウ…と考えて、みる。
この身……体の、頭の中に入る刃ヲ見て、以前の俺は何を感じていただろ宇か。
諦観、だロうか。それとモまだ死にたくないと足……掻、くのか。
未来…に実現すべき理想の為に死ぬ直前まデ足掻くだろうか。
この身……体の、頭の中に入る刃ヲ見て、以前の俺は何を感じていただろ宇か。
諦観、だロうか。それとモまだ死にたくないと足……掻、くのか。
未来…に実現すべき理想の為に死ぬ直前まデ足掻くだろうか。
……何だ労。この達観にも似た安らぎは何処かラ来るのだろ、う。
死ぬのハ怖、いと言うのに、どう死て。
如何シてこうも落ち着いて居ら、れるのだろうか。
…この、血の雨の中、何故俺はこ…うも満たされているんダろう。
如何して後悔が無いんだろウ。何故未来が気にナ……ラないんだろう。
死ぬのハ怖、いと言うのに、どう死て。
如何シてこうも落ち着いて居ら、れるのだろうか。
…この、血の雨の中、何故俺はこ…うも満たされているんダろう。
如何して後悔が無いんだろウ。何故未来が気にナ……ラないんだろう。
……あれ? 俺、喪…しかして未来が心、配じゃない、のか?
いや、と言うよりは興味が無いのダろ、う、か。
そUか。俺、今自…分が本当にやリたい事ヲ遂げたから―――極端………な話“後はどウデモいイ”、のか?
アはハ……なるほdoなぁ、や、ッぱり俺のやりタい事は一つだったんだな。
だからコ、ンN…Aニも執着心ga無い、そう、だ、炉?
いや、と言うよりは興味が無いのダろ、う、か。
そUか。俺、今自…分が本当にやリたい事ヲ遂げたから―――極端………な話“後はどウデモいイ”、のか?
アはハ……なるほdoなぁ、や、ッぱり俺のやりタい事は一つだったんだな。
だからコ、ンN…Aニも執着心ga無い、そう、だ、炉?
「 」
ドれ……だけ今まで荷を背負って来たのだロウ。
俺がこんな事言うなんて、どうかしてる。そう思ウ…………………よ、“今までNO俺なら”。
俺がこんな事言うなんて、どうかしてる。そう思ウ…………………よ、“今までNO俺なら”。
「 」
全てヲ棄ててたッタ一………個を守ったくせ……………………………死て…、何自分勝、手な、事言ってんだ! っテ。
馬、鹿野郎! 後に残サREタ人の気持Ti考えやガれ! って、怒鳴るだ…ろウナぁ、今ま、で………の俺なラさ。
でmO、いいん……………打、俺はやりたい事をやれ他から、い……いンDa。
未…来に、理想に動くんジャない、俺…は今に全てを捧げて生きた。そ…レ…で、きっと良イんだ。
…だッて、sOREが間……違いダなんて、誰にも、言エナ………………イだrO?
答え…名ン手、気っと…ごまんトアるん、Da。
馬、鹿野郎! 後に残サREタ人の気持Ti考えやガれ! って、怒鳴るだ…ろウナぁ、今ま、で………の俺なラさ。
でmO、いいん……………打、俺はやりたい事をやれ他から、い……いンDa。
未…来に、理想に動くんジャない、俺…は今に全てを捧げて生きた。そ…レ…で、きっと良イんだ。
…だッて、sOREが間……違いダなんて、誰にも、言エナ………………イだrO?
答え…名ン手、気っと…ごまんトアるん、Da。
……………………こ、れガ、俺…ノ見つケタた、Ko、た…絵だ。
な……ラ、ソれD、EIイん、だと、汚モu。
な……ラ、ソれD、EIイん、だと、汚モu。
コレ、っ……………トヲ救う木っ書kEに少死でもNareたN………………………a…ら。
だ、ッテ子r、E、は俺…………の心……………………………我決めた…事、な、ん…daか、R、A…。
だ、ッテ子r、E、は俺…………の心……………………………我決めた…事、な、ん…daか、R、A…。
…名…あ…ァ…何、出、だろウ…na。
……瞼が、都…………M………o…………………重………………て。
目……の魔……………………の………コれッ…………………………と………Ga、
…………と……も…梨ソう…………………………な顔…………。
……瞼が、都…………M………o…………………重………………て。
目……の魔……………………の………コれッ…………………………と………Ga、
…………と……も…梨ソう…………………………な顔…………。
「………、な…」
ご…………e……n。
……………ア…蛾………、…t………う。
砂……y……、…ナ………Ra。
……………ア…蛾………、…t………う。
砂……y……、…ナ………Ra。
『後、頼むぜ』
【彼の生き様を影で見届けた人々の物語】
『分かっていた。幾らこの滴を吸い取ろうとも、その跡は消えない事も、全て』
学士はその結末を見て五秒間目を細めたまま硬直する。
本来喜ぶべき展開の筈だ。が、彼の顔にはその色が全く浮かばない。
如何してだろうか。素直に心の底から喜べなかったのだ。
そんな自分が実に腹立たしく、彼は奥歯をぎりと鳴らした。
鴉の戯言に少しでも心を動かされた自分が実に呪わしい。
自分に関係する何もかもが馬鹿馬鹿しく思えた。
本来喜ぶべき展開の筈だ。が、彼の顔にはその色が全く浮かばない。
如何してだろうか。素直に心の底から喜べなかったのだ。
そんな自分が実に腹立たしく、彼は奥歯をぎりと鳴らした。
鴉の戯言に少しでも心を動かされた自分が実に呪わしい。
自分に関係する何もかもが馬鹿馬鹿しく思えた。
彼は溜息を漏らし、視線と共に頭を上げる。
綺麗な筈の黄昏時の景色は、凡人の心一つすら洗わない。
何処からか吹いた微風が彼の青髪を靡かせる。
空に掠われる毛髪が額の脂に捕らわれ、本来涼しく心地良い筈の風は心底不快だった。
が、しかし鎮魂歌とでも言うのだろうか。辺りに生える草花は風に戦ぐ。
彼は足元の草を恨めしそうに踏みながら、額に吸い付く髪を人差し指で払い耳に掛ける。
黄昏時の少し冷めた空気が、彼の黒い心を何故か逆撫でた。
ふと手中のクレーメルケイジを一瞥する。
何時もより重く感じるのは気のせいだと思いたい。
(所詮、)
鬱憤を晴らすべくそう口を動かそうとするが、しかし上手く口が開いてくれない。
開く為に三秒を要し、漸く学士は言葉を小さく吐いた。
「……所詮、凡人の戯言なんだ」
綺麗な筈の黄昏時の景色は、凡人の心一つすら洗わない。
何処からか吹いた微風が彼の青髪を靡かせる。
空に掠われる毛髪が額の脂に捕らわれ、本来涼しく心地良い筈の風は心底不快だった。
が、しかし鎮魂歌とでも言うのだろうか。辺りに生える草花は風に戦ぐ。
彼は足元の草を恨めしそうに踏みながら、額に吸い付く髪を人差し指で払い耳に掛ける。
黄昏時の少し冷めた空気が、彼の黒い心を何故か逆撫でた。
ふと手中のクレーメルケイジを一瞥する。
何時もより重く感じるのは気のせいだと思いたい。
(所詮、)
鬱憤を晴らすべくそう口を動かそうとするが、しかし上手く口が開いてくれない。
開く為に三秒を要し、漸く学士は言葉を小さく吐いた。
「……所詮、凡人の戯言なんだ」
頭を項垂れ、地面の小石を何の気なしに見つめる。
「いくら叫ぼうとそれは夢幻に過ぎない」
そうなのだ。
正しい式で無いと結果は導けない。そして結果はどんな場合であろうと一つ。
夢や理想や奇跡なんて下らない。愚かな事だ。何を今更。
最初から嘘で塗れたそこの地に伏す馬鹿の様に、どれだけ抗おうと結果はそれだ。
お前らのバトルロアイヤルとやらが砕かれた気分はどうだよ?
お前達が幾ら影響を及ぼそうとも、この世界はそんなものをものともせず廻るのさ。
1+1が、4-2+1-1になっただけの事なんだよ。
全ては予定調和に過ぎない。あいつが天使化するなんて多少のイレギュラー、無いに等しいのさ。
何が俺のバトルロアイヤルだ。笑わせてくれる。
夢を見るのも大概にしろ馬鹿共が。
「下らない。ああ、実に下らない茶番だった。
お前もそう思わないか? メルディ」
彼は拳を握り締め、隣の彼女に同意を求める。
「いくら叫ぼうとそれは夢幻に過ぎない」
そうなのだ。
正しい式で無いと結果は導けない。そして結果はどんな場合であろうと一つ。
夢や理想や奇跡なんて下らない。愚かな事だ。何を今更。
最初から嘘で塗れたそこの地に伏す馬鹿の様に、どれだけ抗おうと結果はそれだ。
お前らのバトルロアイヤルとやらが砕かれた気分はどうだよ?
お前達が幾ら影響を及ぼそうとも、この世界はそんなものをものともせず廻るのさ。
1+1が、4-2+1-1になっただけの事なんだよ。
全ては予定調和に過ぎない。あいつが天使化するなんて多少のイレギュラー、無いに等しいのさ。
何が俺のバトルロアイヤルだ。笑わせてくれる。
夢を見るのも大概にしろ馬鹿共が。
「下らない。ああ、実に下らない茶番だった。
お前もそう思わないか? メルディ」
彼は拳を握り締め、隣の彼女に同意を求める。
「……メルディ?」
隣に並ぶ彼女はぼうっとただ一点を見つめていた。
彼は彼女の目線を追う。
吸い込まれる様な紫が写していたのは―――地に伏した、笑顔の人間だった。
彼は彼女の目線を追う。
吸い込まれる様な紫が写していたのは―――地に伏した、笑顔の人間だった。
「……どうして、メルディがロイドと同じなのに。
どうしてそんな顔が出来るか」
その暗い瞳は、微かに潤んでいる。
彼は彼女の肩を掴み口を開いた。
「メルデ「わかんないよ!」
しかしそんな彼の言葉を遮り、彼女はスカートを握って俯く。
「わかんない。メルディは、そんな風に笑えないよ」
わかんないよ、ロイド。
最後に、彼女はまるで全てに置いていかれたかの様な力無い言葉を呟き、くたびれた笑顔を浮かべる。
それは理解出来ないというよりかは理解したくない、そう自分に言い聞かせている様だと学士は感じた。
煌めく紫がかった紅を反射する滴が、彼女を抱き寄せる彼の服に吸い取られてゆく。
彼にはただ、下唇を噛み力強く女を抱く事しか出来なかった。
どうしてそんな顔が出来るか」
その暗い瞳は、微かに潤んでいる。
彼は彼女の肩を掴み口を開いた。
「メルデ「わかんないよ!」
しかしそんな彼の言葉を遮り、彼女はスカートを握って俯く。
「わかんない。メルディは、そんな風に笑えないよ」
わかんないよ、ロイド。
最後に、彼女はまるで全てに置いていかれたかの様な力無い言葉を呟き、くたびれた笑顔を浮かべる。
それは理解出来ないというよりかは理解したくない、そう自分に言い聞かせている様だと学士は感じた。
煌めく紫がかった紅を反射する滴が、彼女を抱き寄せる彼の服に吸い取られてゆく。
彼にはただ、下唇を噛み力強く女を抱く事しか出来なかった。
“だから、やっぱり全部消さなければすっきりしない”
そう結論付けた彼女の涙は、ならば何故止まらないのだろうか。
『ただ、それを認める事は自分には決して出来はしない。だからこれは形骸の抱擁。
……本当の馬鹿は誰なんだろうか。身代わりの羊なんて、何処にも居ないと理解しているというのに』
……本当の馬鹿は誰なんだろうか。身代わりの羊なんて、何処にも居ないと理解しているというのに』
【最後の物語】
『ちぇ、こりゃハズレだな』
始めはたった、これから待つ過酷な道を無視したその一言。
思えば、随分と長かった三日間だった様に感じる。
いろんな事があった。出会いがあった。別れがあった。
嘘も吐いた。理想も叫んだ。
希望があった。絶望も見た。
驚き、笑い、泣いて、そして此処までやってきた。
いや、別にそれがどうって訳じゃない。それらは全部“俺”のしてきた事なんだから。
ただ、漠然と長かったなと思うんだ。
思えば、随分と長かった三日間だった様に感じる。
いろんな事があった。出会いがあった。別れがあった。
嘘も吐いた。理想も叫んだ。
希望があった。絶望も見た。
驚き、笑い、泣いて、そして此処までやってきた。
いや、別にそれがどうって訳じゃない。それらは全部“俺”のしてきた事なんだから。
ただ、漠然と長かったなと思うんだ。
『オレさ、実はトマト嫌いなんだよな…』
『今この状況でトマトなんて食材が出るわけないだろ。くだらん心配をするな』
『なんだよ!じゃあジューダスは好き嫌いないのかよ!』
『僕は…』
『…ニンジンとピーマンが嫌いだ…』
『あっははははは!』
『笑うな!食べ終わったならさっさと行くぞ!』
『今この状況でトマトなんて食材が出るわけないだろ。くだらん心配をするな』
『なんだよ!じゃあジューダスは好き嫌いないのかよ!』
『僕は…』
『…ニンジンとピーマンが嫌いだ…』
『あっははははは!』
『笑うな!食べ終わったならさっさと行くぞ!』
あっちの皆は俺を褒めてくれるだろうか?
父さんは、よくやったって言ってくれるよな?
へへ……いや、父さんなら言わないか。
なんだかんだで素直じゃないからな。父さんは。
でも、最後なんだし。それぐらいの夢なら、いいよな?
幸せな夢ぐらい、見てもいいよな?
父さんは、よくやったって言ってくれるよな?
へへ……いや、父さんなら言わないか。
なんだかんだで素直じゃないからな。父さんは。
でも、最後なんだし。それぐらいの夢なら、いいよな?
幸せな夢ぐらい、見てもいいよな?
『…ロイド』
『ん?』
『お前、やることが大胆だな。見ず知らずの人間に…』
『うっ、うるせー!!』
『ん?』
『お前、やることが大胆だな。見ず知らずの人間に…』
『うっ、うるせー!!』
なぁ、何でだろうな。
もう一度死んでるからさ、終わる事に恐怖は無いのに、何でだろうな。
……どうして、涙が止まらないんだろうな……?
もう一度死んでるからさ、終わる事に恐怖は無いのに、何でだろうな。
……どうして、涙が止まらないんだろうな……?
『…どうしてメルディがこと、助けてくれたか…?』
『何で、ってなぁ…ドワーフの誓い第2番、困っている人を見かけたら必ず力を貸そう!
つーか…とにかく、放っておけなかったんだよ』
『何で、ってなぁ…ドワーフの誓い第2番、困っている人を見かけたら必ず力を貸そう!
つーか…とにかく、放っておけなかったんだよ』
もしかすると、やっぱり生きていたかった、のかもしれない。
『なっ、バカはないだろ!バカは!?』
『ただ彼女を助けたいだけで突っ込む行為などバカしかいないだろ?それともお前はバカじゃないとでも言えるのか?』
『だー!もうバカバカうるさい!!』
『あはは、ロイドバカって言われてるー、アハハハ』
『メ、メルディ!お前もバカって言うなよ!』
『フッ』
『ジューダスも笑うなっていうの!』
『ただ彼女を助けたいだけで突っ込む行為などバカしかいないだろ?それともお前はバカじゃないとでも言えるのか?』
『だー!もうバカバカうるさい!!』
『あはは、ロイドバカって言われてるー、アハハハ』
『メ、メルディ!お前もバカって言うなよ!』
『フッ』
『ジューダスも笑うなっていうの!』
でも俺は、此所で終わる。
茫漠としていた死というものがもうすぐ訪れる。いや、今でもよくわからないけどな。
それでも、終わってゆくんだ。死を理解しなくとも、終焉はすぐそこにある。
俺は、“死ぬ”。
だけれど、言い換えれば俺は此処で確かに――――“生きていた”。
それだけは変わらない事実なんだ。
だから、それだけは、忘れないで。
茫漠としていた死というものがもうすぐ訪れる。いや、今でもよくわからないけどな。
それでも、終わってゆくんだ。死を理解しなくとも、終焉はすぐそこにある。
俺は、“死ぬ”。
だけれど、言い換えれば俺は此処で確かに――――“生きていた”。
それだけは変わらない事実なんだ。
だから、それだけは、忘れないで。
『なんだよ・・・何かおかしいか~?』
『いや、すまない。ただ・・・』
『お前らしかっただけだ』
『なんだそりゃ・・・俺はいつだって俺だよ』
『そうだったな』
『いや、すまない。ただ・・・』
『お前らしかっただけだ』
『なんだそりゃ・・・俺はいつだって俺だよ』
『そうだったな』
それでもやっぱり、本っ当にくどい様だけど。これで良かったんだと思うんだ。いや、これで良いんだ。
後悔は無いさ。
間違ってなかったんだと、信じてるんだ。
だってこれは、心が決めた事なんだから。
もう、いいんだよ。だから泣くなよ、なぁ。泣くなってば。
後悔は無いさ。
間違ってなかったんだと、信じてるんだ。
だってこれは、心が決めた事なんだから。
もう、いいんだよ。だから泣くなよ、なぁ。泣くなってば。
『これからヴェイグはどうするか…?』
『あのさ、俺思うんだけど…。
やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?
だから、お前も償いをするために死ぬ、とか考えるんじゃなくて、これ以上の犠牲者を出さないようにがんばれば良いんじゃないのかな?』
『あのさ、俺思うんだけど…。
やってしまったことはどうしようもないけど、これからのことならなんとかなるんじゃないか?
だから、お前も償いをするために死ぬ、とか考えるんじゃなくて、これ以上の犠牲者を出さないようにがんばれば良いんじゃないのかな?』
メルディ、これが俺の答えだ。見ててくれたかな。
……お前の本当にやりたい事って何だったんだ?
……なぁ、何も出来る事が無いなんて言うなよ。
お前は俺をもう一度翔ばしてくれたじゃないかよ。
だからきっと大丈夫なんだ。お前の居場所はそいつの隣にあるから、だから。
そいつはお前の罪を理解出来る。だから……!
……お前の本当にやりたい事って何だったんだ?
……なぁ、何も出来る事が無いなんて言うなよ。
お前は俺をもう一度翔ばしてくれたじゃないかよ。
だからきっと大丈夫なんだ。お前の居場所はそいつの隣にあるから、だから。
そいつはお前の罪を理解出来る。だから……!
『すごく、すごく恐ろしいよ。メルディもいつか、殺されちゃう。誰かに、殺されちゃう。 ファラも生きてても、殺されちゃう』
『俺がそんなことさせない!』
『だけどっ…!』
『俺達は生きなきゃいけないんだ!
俺も、死にたくない!元の世界で待っている人が沢山いる!こんなゲームで殺し合いなんて馬鹿馬鹿しいんだ!お前だってそうだろメルディ!!
ファラだってそう思っているからあんな必死に呼びかけたんだ!この会場の奴らにも、メルディ、お前にも生きて欲しいから!』
『俺がそんなことさせない!』
『だけどっ…!』
『俺達は生きなきゃいけないんだ!
俺も、死にたくない!元の世界で待っている人が沢山いる!こんなゲームで殺し合いなんて馬鹿馬鹿しいんだ!お前だってそうだろメルディ!!
ファラだってそう思っているからあんな必死に呼びかけたんだ!この会場の奴らにも、メルディ、お前にも生きて欲しいから!』
だー……ったく畜生、走馬灯も五月蠅いし、ろくろく眠れやしねぇなぁ。
『そういう割にはやけに嬉しそうではないか。男がそのような装飾品を見てニヤつくのはあまり良い趣味とは言えんな。娘が背中から落ちそうだぞ』
『おっとっと…うっせーな、この指輪は特別なんだよ。さっき親父達の声を聞いた気がしたから、
父さんから貰ったこれを思い出しちまってさ。あ、ひょっとしたら父さんなら あんたと良い勝負できるかもしんねーな。性格も少し似てるし』
『おっとっと…うっせーな、この指輪は特別なんだよ。さっき親父達の声を聞いた気がしたから、
父さんから貰ったこれを思い出しちまってさ。あ、ひょっとしたら父さんなら あんたと良い勝負できるかもしんねーな。性格も少し似てるし』
……あぁ、そうそう。
そういやぁ最後に皆に聞いて欲しい事があんだぜ。
そういやぁ最後に皆に聞いて欲しい事があんだぜ。
『早い話が俺達の強さを知りたいんだろ?だったら手っ取り早く…』
『手合わせ願うぜロイド』
『いいなそれ。俺も難しい説明とかは苦手なんだよなぁ。頭で無理なら体で覚えろってね』
『もういい好きにしろ。だがやるなら西の海岸沿いでやってきてくれ。ここじゃ音が響いて回りに位置が知らされてしまう』
『『分かった!』』
『手合わせ願うぜロイド』
『いいなそれ。俺も難しい説明とかは苦手なんだよなぁ。頭で無理なら体で覚えろってね』
『もういい好きにしろ。だがやるなら西の海岸沿いでやってきてくれ。ここじゃ音が響いて回りに位置が知らされてしまう』
『『分かった!』』
メルディ、キール、グリッド、ヴェイグ、カイル。
『僕がどんな理由を持っていたとしても、それは無意味だ。 少なくとも君に何の影響を及ぼさないし、僕にも影響を及ぼさない。
君は人を斬るその瞬間に一々理由を確認しながら斬るのか?』
『そんなんじゃ剣が鈍るよ。剣士とは剣を持つ者じゃない、剣になる者だ。剣に善意も判断も要らない』
『ふざけろ!そんなんで納得できるか!!』
君は人を斬るその瞬間に一々理由を確認しながら斬るのか?』
『そんなんじゃ剣が鈍るよ。剣士とは剣を持つ者じゃない、剣になる者だ。剣に善意も判断も要らない』
『ふざけろ!そんなんで納得できるか!!』
しいな、ゼロス、ジーニアス、ジューダス。
『お前、誰だ…』
『ティトレイ、お前らをあそこで火に掛けた奴だよ』
『…ヴェイグの…ダチが何でこんな事をするんだよ…!!』
『元、な。元親友だ。俺は、恩を返してから死ぬ。それだけだ』
『ティトレイ、お前らをあそこで火に掛けた奴だよ』
『…ヴェイグの…ダチが何でこんな事をするんだよ…!!』
『元、な。元親友だ。俺は、恩を返してから死ぬ。それだけだ』
ジェイ、リッド、ダオス、スタンのおっちゃん。
『消えろ…皆、消えろおぉぉぉぉぉぉっ!!!』
『俺が証明してやる! 絶対に、死なないって!!』
『俺が証明してやる! 絶対に、死なないって!!』
俺の大好きな父さん……俺に関わってきた皆。
『…命を賭けてとか、そういうのは絶対に許さん』
『仲間だからかよ?』
『それもあるが、…そうしてまで助けてくれようとした奴がいたのだ。それこそもう、ボロボロになるまでな。
だが、俺は結果的にカトリーヌを死なせてしまい、プリムラを人殺しとさせてしまった。
命を賭けてまで守ってくれたのに…俺は』
『もしかして…ユアンの事か?』
『仲間だからかよ?』
『それもあるが、…そうしてまで助けてくれようとした奴がいたのだ。それこそもう、ボロボロになるまでな。
だが、俺は結果的にカトリーヌを死なせてしまい、プリムラを人殺しとさせてしまった。
命を賭けてまで守ってくれたのに…俺は』
『もしかして…ユアンの事か?』
そして―――――――
『俺はどうしたら良いと思う?』
『分かんないよ。メルディバカだから』
『彼奴には嘘付いたけど、実は俺もそうなんだ』
『メルディと同じだな』
『でも、ロイドは、ロイドのままで良いと思うよ』
『…そう思うか?そう思って良いのか?』
『多分、ヴェイグもジューダスもそう言うよ』
『分かんないよ。メルディバカだから』
『彼奴には嘘付いたけど、実は俺もそうなんだ』
『メルディと同じだな』
『でも、ロイドは、ロイドのままで良いと思うよ』
『…そう思うか?そう思って良いのか?』
『多分、ヴェイグもジューダスもそう言うよ』
コレット。
『……僕は……あれを見て……気が狂いそうなほど恐ろしいのに……!
全てを諦めたくなるくらい怖いのに!
生きることを放棄したくなるくらいの絶望に負けそうなのに!!』
『なのに! どうしてロイドは憎たらしいくらい平然としていられるんだよ!?
これじゃあ……これじゃあ僕が丸っきりの臆病者みたいじゃないか!!』
『いや……俺だって……俺だって、怖くないわけないだろ?』
全てを諦めたくなるくらい怖いのに!
生きることを放棄したくなるくらいの絶望に負けそうなのに!!』
『なのに! どうしてロイドは憎たらしいくらい平然としていられるんだよ!?
これじゃあ……これじゃあ僕が丸っきりの臆病者みたいじゃないか!!』
『いや……俺だって……俺だって、怖くないわけないだろ?』
ありがとう。
『…………か……よ……』
『これが……お前の望みかよ……!』
『本当に、これがお前の望みだったのかよ……!』
『それで……お前は満足だったのかよ……!?』
『お前の兄貴は、満足なのかよ!?』
『ちくしょう……!』
『ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!!!!』
『これが……お前の望みかよ……!』
『本当に、これがお前の望みだったのかよ……!』
『それで……お前は満足だったのかよ……!?』
『お前の兄貴は、満足なのかよ!?』
『ちくしょう……!』
『ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!!!!』
ありがとう。
『間違い、だったのかな……』
『俺の願いじゃ、』
『誰も』
『ここに、いるよ。ロイド助けた人、ひとりいるよ』
『ロイドには、助けてもらったから。メルディみたいになって欲しくないよ。それだけ』
『メルディ、みたいに?』
『メルディ、もう動けないから』
『俺の願いじゃ、』
『誰も』
『ここに、いるよ。ロイド助けた人、ひとりいるよ』
『ロイドには、助けてもらったから。メルディみたいになって欲しくないよ。それだけ』
『メルディ、みたいに?』
『メルディ、もう動けないから』
ありがとう。
『……あの形が少し厭だったよ。あの形を‘消したかった’』
『メルディは弱虫で、一人でそれをする勇気も無くて、だから』
『メルディは弱虫で、一人でそれをする勇気も無くて、だから』
ありがとう。
『でも、ロイドがそうするように、やっぱりリッドを忘れるなんて赦してもらえない。
ホントは分かってる。隠したってメルディのしてきたこと何も変わらない。全部消さないと消えないよ。そう、全部』
『やめろよ』
『だから、やっぱり、全部消さないとすっきりしない』
『云うな!!』
ホントは分かってる。隠したってメルディのしてきたこと何も変わらない。全部消さないと消えないよ。そう、全部』
『やめろよ』
『だから、やっぱり、全部消さないとすっきりしない』
『云うな!!』
ありがとう。
『じ、冗談だろ? な、なぁ、冗談だって言ってくれよ』
『何でだ……』
『何でだよ……どうしちまったんだよッ! コレットおぉぉおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
『何でだ……』
『何でだよ……どうしちまったんだよッ! コレットおぉぉおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
ありがとう。
『世界を救えるのがお前だけだと思うなよ。
レンタル料代わりにお前の理想はお前の代わりに受け取ってやる。この音速の貴公子グリッドが!!』
『だから、お前は“お前にしか救えないものを救って来い!!”』
レンタル料代わりにお前の理想はお前の代わりに受け取ってやる。この音速の貴公子グリッドが!!』
『だから、お前は“お前にしか救えないものを救って来い!!”』
本当に、ありがとう。
『それでも、俺はコレットに笑ってほしかったんだ。コレットの笑顔が見たかったから、ここに来た。
いつもにこにこ笑ってて、たまにドジで壁を破ったりして、それでも笑ってるコレットが見たくて来たんだ』
『……無理だよ、私は、もう笑えない』
『約束もしないし頼みもしない。辛いときは、立ち止まって思い切り泣いたりしていい。それで、十分泣いたら』
いつもにこにこ笑ってて、たまにドジで壁を破ったりして、それでも笑ってるコレットが見たくて来たんだ』
『……無理だよ、私は、もう笑えない』
『約束もしないし頼みもしない。辛いときは、立ち止まって思い切り泣いたりしていい。それで、十分泣いたら』
『いつかもう1度、笑えばいい。――――それできっと……』
――――――――さよなら。
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP20% TP20% 善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(禁断症状発症は18時頃?)
戦闘狂 殺人狂 殺意が禁断症状を上回っている 放送を聞いていない
背部大裂傷×2 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴 軽度の痺れ
重度疲労 調和した錯乱 コングマンを倒した事による達成感
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:ミントを守る?
第一行動方針:ミントを救う
第二行動方針:その後コングマン(=グリッド)の遺体を完璧に消す
第三行動方針:ティトレイはまだ殺さない?
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
※今のクレスにはコレットとミントの区別が付きません
※数点のキーワードからグリッドをコングマンと断定しました
※クレスは天使化を知らない為、彼が左胸を刺したグリッドは死んだと思っています
状態:HP20% TP20% 善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(禁断症状発症は18時頃?)
戦闘狂 殺人狂 殺意が禁断症状を上回っている 放送を聞いていない
背部大裂傷×2 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴 軽度の痺れ
重度疲労 調和した錯乱 コングマンを倒した事による達成感
所持品:エターナルソード クレスの荷物
基本行動方針:ミントを守る?
第一行動方針:ミントを救う
第二行動方針:その後コングマン(=グリッド)の遺体を完璧に消す
第三行動方針:ティトレイはまだ殺さない?
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
※今のクレスにはコレットとミントの区別が付きません
※数点のキーワードからグリッドをコングマンと断定しました
※クレスは天使化を知らない為、彼が左胸を刺したグリッドは死んだと思っています
【グリッド 生存確認】
状態:HP5% TP15% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失
左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 全身に裂傷及び打撲
左胸部、右胸部貫通 左腕損失 全身にリバウンドによる痙攣と痺れ、吐血
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石
ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×4
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する
第一行動方針:体を動かし状況の把握をする
第二行動方針:その後のことはその後考える
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
状態:HP5% TP15% プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失
左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 全身に裂傷及び打撲
左胸部、右胸部貫通 左腕損失 全身にリバウンドによる痙攣と痺れ、吐血
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石
ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×4
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する
第一行動方針:体を動かし状況の把握をする
第二行動方針:その後のことはその後考える
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
【コレット=ブルーネル 生存確認】
状態:HP90% TP15% 思考放棄? 外界との拒絶?
所持品(サック未所持):苦無×1 ピヨチェック 要の紋@コレット
基本行動方針:悲しくしか笑えない
第一行動方針:???
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
状態:HP90% TP15% 思考放棄? 外界との拒絶?
所持品(サック未所持):苦無×1 ピヨチェック 要の紋@コレット
基本行動方針:悲しくしか笑えない
第一行動方針:???
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
【メルディ 生存確認】
状態:TP50% 色褪せた生への失望(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
神の罪の意識 キールにサインを教わった 何かが見えている? 微かな心情の変化?
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド C・ケイジ@C(風・光・元・地・時)
ダーツセット クナイ×3 双眼鏡 クィッキー(バッジ装備中)漆黒の翼のバッジ
基本行動方針:もう少しだけ歩く
第一行動方針:もうどうでもいいので言われるままに
第二行動方針:???
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
状態:TP50% 色褪せた生への失望(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
神の罪の意識 キールにサインを教わった 何かが見えている? 微かな心情の変化?
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド C・ケイジ@C(風・光・元・地・時)
ダーツセット クナイ×3 双眼鏡 クィッキー(バッジ装備中)漆黒の翼のバッジ
基本行動方針:もう少しだけ歩く
第一行動方針:もうどうでもいいので言われるままに
第二行動方針:???
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP50% 「鬼」になる覚悟 裏インディグネイション発動可能 ミトスが来なかった事への動揺
ロイドの損害に対する憤慨 メルディにサインを教授済み 先行きに対する不安 正しさへの苦痛
所持品:ベレット セイファートキー キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 首輪×3
ハロルドメモ1 2(1は炙り出し済) C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) 魔杖ケイオスハート マジカルポーチ
ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ミラクルグミ
ハロルドの首輪 スティレット 金のフライパン ウィングパック(メガグランチャーとUZISMG入り)
基本行動方針:願いを叶える
第一行動方針:インディグネイション(裏)でクレス他を殲滅する
第二行動方針:カイル・ヴェイグを利用してミトス・ティトレイを対処
第三行動方針:磨耗した残存勢力を排除。そして……
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
状態:TP50% 「鬼」になる覚悟 裏インディグネイション発動可能 ミトスが来なかった事への動揺
ロイドの損害に対する憤慨 メルディにサインを教授済み 先行きに対する不安 正しさへの苦痛
所持品:ベレット セイファートキー キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 首輪×3
ハロルドメモ1 2(1は炙り出し済) C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) 魔杖ケイオスハート マジカルポーチ
ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ミラクルグミ
ハロルドの首輪 スティレット 金のフライパン ウィングパック(メガグランチャーとUZISMG入り)
基本行動方針:願いを叶える
第一行動方針:インディグネイション(裏)でクレス他を殲滅する
第二行動方針:カイル・ヴェイグを利用してミトス・ティトレイを対処
第三行動方針:磨耗した残存勢力を排除。そして……
現在位置:C3村西地区・ファラの家焼け跡前
放置アイテム:ダブルセイバー 忍刀・紫電 ウッドブレード ロイドの荷物
【ロイド=アーヴィング死亡】
【残り10人】
【残り10人】