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  • 暁と夕暮れ

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暁と夕暮れ

最終更新:2019年10月13日 21:16

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暁と夕暮れ


北での戦闘は乱入者が登場したことで新たな局面を迎えていた。
見事な夕焼けが村を照らす中、赤みがかった差し日が彼らの顔に光と影を作り出す。
崩壊した軒の残骸が、そこはもはや廃墟と言っても差し支えないと証明しており、どこか退廃的な心持を抱かせる。
その中に立つ少年2人は、実に純粋で愚直と言えるだろう。
朽ちた家の木々は夕の光を浴びても暗い影を落としているだけだというのに、
2人は互いに質の違う金髪にたっぷりと光を宿している。
夕陽は彼らのために用意されたスポットライトのようだった。

少し、語弊があった。
「立つ」といっても、1人は箒にまたがって宙に浮いている状態で、「少年」といっても片方はゆうに大人の体躯に到達している。
だが、そんなことはこの際どうでもいい。
「立つ」も「少年」も、事実に照らし合わせれば真実の1つなのだから。
少年の1人、箒に乗っているカイル・デュナミスは、目の前の男をじっと睨みつけていた。
「……ミトス」
その男がもう1人の少年、ミトス・ユグドラシルである。
カイルは冷酷な目を持ったこの男を、以前少しばかり共にいたミトスと理解していた。
ちょうど昨日、同じような黄昏の中で見た、あの悪意に満ちたようで全てを見透かしたような目を忘れる筈がない。
今でも、例え目の前に同じ人物がいなくともありありと思い出せる。
故に彼はミトスに対して睨みをきかせることしか出来なかった。
先に進めば、あの時のように殺しかねないような気がした。
この少年は自分の琴線に触れるものがあるのだ。それが良いものか嫌なものかは、正直彼にも曖昧で分からない。
「ふ、はは、あははは」
1歩前でセーブしているカイルに対して、ミトスは鬱屈そうな、陰険そうな笑い声を上げた。
乾いた音韻は、正におかしくてたまらないといったようだった。
「カイル・デュナミス、そうか、お前か」
何の因果の巡り合わせか。ミトスは存在こそ把握していても、まさかこのタイミングでこの少年と再会するとは思ってもいなかった。
「翼を落とされてもがいているかと思えば、まさかとは思ったけど、こうしてのうのうと生きてたなんてね。
 リアラもスタンも死んで心地よかっただろう? 大切なものを同時に手離したんだから!」
自らの精神をなぐさめる慰撫の時を逃したミトスは、代わりに現れた新たな玩具で満たそうとするかのように言葉を畳みかける。
否、なぐさめるというほど目的がはっきりしたものではないかもしれない。
ただ、苛立ちをぶつけているだけだ。
これでカイルが窮すれば副次的に宥めすかされるというだけなのだ。
今の彼は冷静に、人体の皮をゆっくりと1枚1枚剥がしていくように言葉を弄ぶ策士ではなく、単にわめき散らす子供だった。
「2人を愚弄するなっ!」
しかし、カイルが窮することはない。
「……俺がしっかりしてなかったから、2人を死なせてしまったのかもしれない。でも俺はだからって絶望したりなんかしない!」
落ち行く陽の中で彼の声は雄々しく響き渡る。
後方に座り込んでいるミントは、暗闇の中にかつて見た少年の幻を重ね合わせる。
自分よりほんの少し背の小さい、まだあどけなさの残る少年。
その彼がこうして目の前でしっかりと立っているという事実そのものが、彼女には嬉しくてたまらないことだった。
まだ家の柱に縛りつけられていた頃にミトスが言った言葉を、彼は跳ね除けてみせた。
それだけで心が満たされる。一筋流れた筈の涙がもう1度だけ伝う。


彼女とは相対的にミトスの反応は少し驚いたものだった。
だが、それがむしろ苛立ちを掻き消したしまったらしい。
表情はすぐに鳴りを潜め、おもむろに笑い出し、その声は低くなり始めた空の全てに行き渡ったとさえ思えた。
軽蔑された、と感じたカイルは身体を前にのめり込ませる。
「また僕の玩具は1つ消えたって訳だ。つまらない、本当につまらない」
そう言って、ミトス――外見はユグドラシルである――首だけで後方へと振り向いた。
仰向けに倒れている緑の蓬頭の青年、ティトレイ・クロウ。
意識が濁りろくに思考も動くこともままならない彼をミトスは一瞥し、嘲笑を投げかける。
この少年にしてみれば滅することが叶わなかったのは腹が煮える思いだろうが、どうせいつでも殺せるのだ。
例え動いたところであの生気に満ちた気配を消せるとは思えない。
虚ろの住人だった筈のティトレイが、本来はあんな腑抜けた人間だったということにミトスは失望を抱かざるを得なかった。
失望。彼が弄んできた玩具を捨てるのは、望みどおりに遊べなくなって失望したからなのだ。
積み木が減って家が作れなくなったように、人形の手が取れてままごとが出来なくなったように、
少しでも彼が望む遊びが出来なくなれば、それは躊躇いもなく即廃棄の流れとなる。
そうして彼は嘆くのだ、「またオモチャが減った」と。
彼にとってティトレイを評価していた要素は「なにもない」ということだけであり、
それを欠いたのでは無価値化してしまうのも仕方のないことだった。
その熱血ぶりに相応しく、息を荒ますように酸素の足りていない無様な姿がよくお似合いだと、彼は思った。

今目の前にいる自分とよく似た(似ていた、というのが妥当か)少年も、彼にとって少しずつ破棄の流れに乗りつつあった。
――――いや、失望よりも、差異を感じ始めていた。

「あの人は、仲間じゃないのか」
「仲間? まさか。そんな価値すらないよ」
カイルの問いをミトスはすぐさま一蹴する。ミントは声の方を、ぐっと目を細めて見つめた。
それはミトスの言葉への反発であるのと同時に、どこまでも自分を傷つけようとする彼への悲痛だった。
紫色の十字の紋章が描かれた白い帽子、人を癒す使命を持つ法術士の証が戻ってきたことを、彼女は思い出す。
母のように私は誰かを助けることが出来るのだろうか。違う、しなくてはいけない。
彼を見つめる目は、光はなくとも違う意思を代わりの光源にして青く輝いていた。
あれほどの目に遭わされても彼女は健気すぎた。


「意気込むのはいいけどさ、お前どうやって戦うの? まさかその箒で?」
低い声とは対照的な子供じみた口調でミトスは言った。
歪められた口元から発せられたその言葉は、悔しくもカイルにとって図星だった。
弱みを見せまいと箒を強く握り締め形ばかりの凄味を出すが、てんでミトスには通じない。
「その足の血痕、どうせ箒がなきゃろくに動けないってことだろ?
 そんな状態でその紛い物を連れて、僕から逃げおおせられるなんて思ってる?」
「やってみせる。俺がそう決めたんだから!」
尚も笑うミトスに対し、カイルが取り出したのは1本の小刀。
全体的にどこか淀んだ赤みがかかっていて、薄気味悪さすら覚える。
切り刻んだ血で赤い桜を咲かせるという奇譚を持つそれは、忍刀の中でも随一の切れ味を持つ一振り。
1度は殺人鬼が投げつけ、1度は自身の手で首を貫かんとしてカイルの命を奪おうとした刀を、
今はカイル自身が前向きな意思で振るおうとしている。
忍刀血桜、カイルの手の内に握られたそれは、夕陽の中で赤白い剣影を放つ。
しかしミトスからしてみればその光景は滑稽そのものだった。
泣く泣く有り合わせで済ませていることが見て取れる。
身の丈に合わぬ武器だということを理解していない、相変わらず馬鹿なやつだと心の中で侮蔑を贈った。
代わりに、表面には余裕の笑みがしたたかに浮んでいた。
無言のまま、何がおかしいといった表情をカイルは見せる。
「その武器じゃあ空手で突撃するようなもの。箒の長さを埋めるほどの間合いを持っていない。
 小回りが利かない割には相当接近しなきゃ一撃も与えられない。
 結果的に動きは大味になって相手のカウンターを喰らいやすい……ここまで説明して、やっと分かる?
 おまけにその劣悪種も動かさなきゃいけない。実にミスセレクトだ」
カイルの顔が強張る。動揺を抑えるように忍刀を胸元へと引き寄せ、きっと目付きを強くしミトスを見据える。
強い眼光だけは決して退きはしないという意思の表れだった。
どこまでも尽きないカイルの戦意を肴にし、更に酒精を呷るようにしてミトスは嗜虐を強めていく。
「絶望しない、か。それで無様な死に様を晒すなんてね。絶望は心地いいのに!」
大笑しながらミトスは言う。
「スタンが死んだと知った時どうだった? リアラが死んだ時はどうだった?
 あれほど守ることに意固地になって、選んだくせに迷って守れなくて! 無意味に奪われることの意味が分かったか!?」
強く結んだ口の端から赤い滴が垂れる。
ゆっくりと顎に線を引いていき、先でぷつりと切れて手の甲へと落ちていく。
真っ直ぐに落ちていって、肌に接触した瞬間、感情と共に血は弾けた。
「お前がしたのは、奪う側と同じことだっ!!」
――――激昂。こう名付けるのにふさわしい意気が言葉に乗り移る。
「大切な人を失くす痛みなんて、もうとっくのとっくに分かってる! だからって……」
手の中の忍刀を強く握り締め、彼は彼の意志で剣を振るう。
「自分のしたことを、肯定していい筈がないっ!!」


真横に振り抜いた剣筋が生み出すのは、風を凝縮し一閃でありながら弾丸のように疾る一撃。
空を駆ける風の波は一直線にミトスへと向かっていく。カイル唯一のロングレンジからの特技、蒼破刃。
衝撃すら伴った風圧を、ミトスは右手で払い除け相殺する。
こんなもの子供騙しのレベルだ、そう思った。
呆れとすら取れる笑みを浮かべた彼は、カイルを笑ってやろうとして、目を見開いた。
目前に迫る小太刀。
赤を帯びたそれはミトスのハーフエルフの血を啜ろうと目論み中空を飛ぶ。
刃がにやりと笑う。そう思って、笑っていたのは僅かばかり見える刀身に映り込んだ自分だった。
呆れ果てた笑顔に、一体いつまで暢気に笑っているつもりだと失笑して、ミトスの面差しが辛辣なものへと変わる。
身体を逸らしながら片足に力を込め、爪先に集中させエネルギーを一気に後ろへと放出する。
顔面を狙っていた血桜は見事に後方に跳んだミトスがいた位置を通り抜けていき、やがて失速する。
後方に跳んでいる最中にミトスが見たものは、目の前を勢いよく駆けていこうとするカイルとミントの姿だった。
手を繋ぎ、前のカイルが後ろのミントを走らせている。
箒があるため本来は大して違わない伸長に差が生まれ、ちょうどよくミントをまっすぐ立たせる形となっている。
足こそふらついているが、ミトスの下から少しでも離れるために、持ち合わせている限りの力を込めて走っている。
一杯食わされた。その腹中の酸の辛さだけでも彼には動力になった。
反動を堪えながら、彼は1歩踏み込み左足を地に密着させ血の出た右足を振り上げる。
弧を描くように動いた足は、ちょうどカイルとミントの境目の部分を捉えんとしていた。
ユグドラシルの長い脚による回し蹴りを悟ったカイルは、乱暴にも繋いでいた手を思い切り前へと振った。
ミントの身体もつられて前へと進み、バランスを崩しそうになったところを、更にカイルは力いっぱい押し出した。
ごめんなさい、という思いこそあれ心中で謝る暇などなかった。
ミトスの脚とミントの全身が交錯しそうなところで、ぎりぎりタイミングは合わず脚が来る前にミントは前へ大きく転がった。
代償としてディムロスのないカイルは大きくバランスを崩し、あえなく箒から落下した。


どさ、という音とからん、という音が空しく鳴った。
小さくバウンドした箒は地に刺さったファフニールの下へと転がり込む。
痛みを堪えながらうつ伏せのままであるカイルは、顔を起こして前方を見た。
上体を起こしたミントがこちらを切羽詰ったような顔で見ている。
しかし、カイルの作戦は自分を除けば成功していた。
立ち上がろうとして、足の痛みが来る前に別の痛みが彼の身体を走った。
背中を思い切り踏みつけられ、びくんと身体が跳ねる。
鈍痛と肺が圧迫されたような息苦しさが襲いかかり、すぐに頭部が押さえつけられた。
横向きになった顔が地面に擦りつけられ、右頬が潰れ地に擦れた擦過傷が痛む。
ローアングルの風景が映り、赤い夕焼け空は少しだけ高く見えた。
赤とは正反対の、綺麗な白がカイルの目に入った。
目線だけ動かしてその人物を見据える。
長い金髪の中に冷淡な緑の瞳が浮いたように存在する、十二翼の天使。
前髪が垂れていても2つの目と、表情の全容は伺えずともぎらりと歯の見える口元だけは分かった。
「随分とお前にしちゃ味な真似をしてくれたじゃないか、なあカイル?」
更に強く押さえつけられ、あぐと殆ど息に等しい声が漏れる。
靴底からかかる圧力がミトスの静かな怒りは頂点に達しかけていることを示していた。
頭部を圧迫され、足も動かせないカイルは、ただ痛みに堪えながらミトスを見ることしか出来なかった。
「気に食わない」
見えない視界の中、確実にカイルは危機に曝されているとミントは確信していた。
どうにかしなくてはいけない。思いは空回りするばかりで、実際は何も出来なかった。
自分が扱えるのは法術だけで、大した精神力も残っていない。
例えばタイムストップのような、ミトスの行為自体を停止させる術は不可能だ。
第一、唱えたところで目の見えない自分がどうにかすることなど出来ない。
あとはバリアーといった防御力を上昇させるもの。だが、これも一時しのぎにしかならない。
また自分の無力さを呪う。彼女は強く目を閉じた。
暗黒は何も変わらない。ただ、それより更に奥に映るのは、呼吸のように点滅する、輪郭もなく解像度も低い不確かなもの。
ちぎり絵を間近で見た時のような、それは1つの完成されたものであるにも関わらず、
構成するもの1つ1つが大きすぎて実物の姿には至らない。
光、白、命、源……抽象的なワードはいくらでも出る。だが、それら全てが真なる答えではない。
なのに、遠くから見るにはあまりに小さく、薄く、瞬間的に捉えるものなのだ。
それほど手に触れがたく、届かぬ神聖なものだった。そして優しいものだった。
呼吸のように現れては消え、現れては、……呼吸?
ミントは聴覚を研ぎ澄ませる。音の出所はすぐに分かった。――隣だった。
荒々しくはないが、息を吸ったり吐いたりするのを繰り返している。
手探りで音の出所を探す。空振って地面に手が付くのを何回か繰り返して、指先は布地と人肉の感触を探し当てた。
彼女は身体を揺さぶる。


まだ軽微の意識混濁であったことが幸いだった。
振動という刺激によって彼の意識は外界へ反応を見せ、彼女には見えていないだろうが、
倒れたままの彼、ティトレイは彼女の方へと視線を移していた。
何も考えられない、関心が湧かなかったティトレイは、この時だけは正に人形に戻っていた。
なぜミントが前にいるのか、という段階まで思考が回復する。
次に理解したのは、彼女の泣き出しそうな顔。
そんな顔しないでくれ、と感情が湧き上がり、そうさせたのはどこのどいつだと意識が外に向く。
彼の目に飛び込んできたのは、地に伏すカイルと、足で押さえつけるミトスの姿。
頭の中がさっと冴えた。
ぴくりと指を動かそうとして、意思とは裏腹に命令に応えない筋肉は動きはしなかった。
電撃と窒息により弛緩した身体は全くもって役立たずだった。
「ち、く、しょお……」
辛うじて動く顔の筋肉が、か細い声と悔しげな表情を作り出す。
目の前で虐げられている人間を見殺しに出来るほど、彼は冷血な人間ではなかった。むしろ動けと全身の血が熱くなる。
あの時の、藤林しいなの時のように誰かを見殺しにするなど、2度あってはならない。
彼女はあの後すぐ死んだのかもしれないし、11時間59分59秒生きたのかもしれない。
そしてそれ以上生きることも、生かすことだって出来た筈なのだ。それを、自分は死んだと思い込んで見捨ててしまった。
その過去が彼をせめぎ立て、立ち上がれと叫ぶ。
なぜあの少年がここにいるのか、といった疑問は二の次だ。ミトスに襲われている、という事実だけで十二分だ。
動け、動け。目の前で後味の悪い思いなどしたくもないし、させたくもない。
ミントは凄く辛そうな顔をしていた。あの人をまた悲しい思いになどさせるものか!
意志だけが先走りするティトレイは、例えるなら骨子のない水車だった。
水流はあっても、力として受け取る羽根がなければ、ただ意味なく回転する巨大な円形としかならない。
力を送る羽根を、歯車を。
全身に浮いたように存在する痺れがすうっと失せていく。身体に巡るのは暖かい流れ。
彼は視界の横側にいる人物に目を遣った。
手をかざしている彼女は、彼に祈りを託した。


「さて、どうやって死にたい。今までの生すら否定するよう一瞬でか? それとも後悔しながら逝くよう、ゆっくり、じっくりとか?
 選ぶ権利はあげるよ。それが英雄たる資質だからね」
ミトスは、すぐ近くの地面に刺さったファフニールを抜き取り、カイルの顔面にまで近づけて言った。
命を握っているのは自分だとでも主張したいかのように。
「……どっちも選ばない。俺が選んだのは、生きることだ」
頬を押し潰されくぐもり声だったが、ミトスには届いた。
これ以上は耳が腐る、聞きたくないと少年は更に強く押しつけた。
「寝言は死んでから言え。僕をこれ以上失望させるな」
『だめ……もう、止めて!』
頭に響いた声にはっとして、彼は小剣を握る手を小さく揺らした。
『影ならぬ影だからといって……自分を傷つけないで……!!』
忌々しい思念波が彼を揺さぶった。脳裏にちらつくのは、慈愛の笑みを浮かべた愛しい姉の残像。
一体どうして姉の姿が浮き上がってくるのか。
彼は、声の主と姉は別人であることを頭では分かっていた。それなのに、現れるのは重なり合ってはならぬ別人の姿。
自分のイカれた脳ごと捨ててしまいたい衝動に駆られ、その激しさは力として足元のカイルへと注がれた。
鈍い声を上げたカイルが、視線だけで自分を見ていた。
影ならぬ影。実体を持たない日陰の存在が、それ以上のものになるなど有り得るものか。
『現在は、たった1つきりしかないの――――』
「黙れ……何もかも分かったような口を利くなっ!!」
旗から見れば、彼は突然発狂したと思われるだろう。
赤い夕陽が満ちた無音の中、いきなり誰に向かってでもなく叫びを上げたのだから。
そしてそのままファフニールを振り落とす。
刃は、足で押さえつけられた顔面へ。
流れるように光を反射しながら、目にも止まらぬ速度で空を切っていく。
引き絞られた矛先が加速度的に拡大されていく。
……過程を長々と語っているのは、差し迫る命の刻限を延ばそうとしている訳でも、実は落とされているスピードが遅い訳でもない。
結末を言ってしまうのが怖いのだ。――あまりに、あっさりとし過ぎていて。


「ミトスの手は止まった」。
手首に緑の蔓が絡まり、途中で裂けてしまいそうなほどにぴんと張っている。
たぐり寄せていけば、そこには両手で蔓を鞭のように握り引っ張っている青年がいる。
ミトスは驚愕しながら彼を見た。
その男、ティトレイ・クロウは空いた足で足元の地面を蹴り上げる。
いや、実際は地面ではなく、そこに落ちていたものを蹴り上げる。
土煙を上げからからと回りながら転がっていくのは、先程カイルが使っていた忍刀血桜。
名アシストと言える、見事なパスだった。
忍刀は上手くカイルの手元へと転がり込み、彼はそれを掴んでミトスの脚を、運動の要であるアキレス腱を狙って力の限り薙ぐ。
いくら天使といえど、元が筋肉や神経なしでは動けない構造をしている。
死ではなくとも行動不能を陥らせるなら、腱を狙うというのは実に効果的な手法だった。
ミトスもそれが分かっているから、思わず足をどかせてでも避けようとする。
しかし手元に巻きついた蔓はそれを阻む。
回避行動を反射的に起こしてからティトレイの存在を思い出し、それが無駄だと――――彼の身体はふわりと後方へと跳んだ。
忍刀が空振る不本意な音。ミトスは訳が分からなかった。
少しだけカイルから離れ、全景が映る。
自由になった手元の奥に、空拳のままのティトレイがいる。ふふん、としたり顔。
そうしてミトスはティトレイの目的を理解し、その柔軟かつ陳腐な作戦にしてやられたと知って顔を歪めた。
別に姿を現してしまえば、気配も何も関係ないのだ。気配自体が口を持ってはいないのだから、何をするか教える訳でもない。
「おらよ、っと!」
空の手にフォルスの光が宿り、カイルの身体に地から生えた蔦が巻きつく。
何が起きているのか分からないカイルだったが、次の瞬間には彼を持ち上げ、反動をつけてティトレイの方へと投げ飛ばされた。
顔をしかめるも、放物線を描いて空を飛び、ちょうどティトレイのいる位置へと落ちて
彼の身体をクッション代わりにした。
怪我こそないが、むくりと起きてティトレイを白々しい目で見る。
「……いくら何でも方法が荒すぎると思う」
「わ、悪い。でもああでもしなきゃミトスから引き離せねえと思ったんだよ!
 あの時の詫びだと思って、助けたのでプラマイゼロにしてくれ」
「あの時?」
「覚えてないのか? ん……まあ、じゃあそれは後で話す。今はそれどころじゃねえ。……悪かった」
カイルは怪訝そうな表情で、相対する青年を見ていた。
しょんぼりとした犬のような顔をしている姿は、最初に焼けた家の前で対峙した時や、先刻広場で会った時とはまるで印象が違う。
あまりの変わりように別人ではないかとさえ思った。
本心じゃない。自分で言ったその言葉を思い出す。ならば、今のこの彼は本心なのだろうか?



「助けてくれてありがとう。でも……聞いておく。あんたは、俺の味方なのか?」
真剣な表情で問いただすカイルにティトレイは唸った。
「仲間……そうだなあ。敵じゃない、って言っとけばいいのか?」
何とも曖昧な回答に、カイルは傍にいたミントの方を向いた。
焦点は定まっていないが、ティトレイの方を向く彼女の表情は明るく晴れやかで、カイルにはそっちの方が余程説得力があった。
肩をなで下ろす。
実を言えばさっきのカイルの作戦というのは、ミトスがティトレイを仲間ではないと言ったことを信じ、
ティトレイを戦線復帰させ1対3の状況を作る、というものだった。
前提として少しでも彼を信じていなければ選べない作戦であった。
「ミントさんの仲間なら俺の仲間。……あなたがしてきたことは、一応知ってますけどね」
「そうか、お前ヴェイグと一緒にいたもんな。……まあ、信じるかどうかは任せる」
信じるかどうかは任せる、という言葉は投遣りのように思えて、その実とても重い言葉だった。
自分の先非が分かっているからこそ信じるには値しないという負い目と、
信じてもらうだけの行いは示してみせるという実証的な一面があるのである。
カイルは感覚的にそれを悟って、どこか安心感のようなものを得た。
目線を背後へと戻し、荒廃した土地の上に立つ白衣の男を見つめる。
よく見れば、男の身体のところどころには血が付着していた。
今までそれを気に留めなかったのは、一種の冷静さや優雅さ、厳しさをまだ男は持っていて、
それがミトス・ユグドラシルという人物像に結びついて血という存在にフィルターをかけていた。
しかし今は違う。あからさまに怒りを顕わにした形相は、血という野蛮なものによく似合ってしまっていた。
「どいつもこいつも……僕の邪魔ばかりしやがって!」
癇癪を起こしたように思い切り片腕を振り払い、彼は固まった3人を見る。
怪我をしている2人を庇うようにしてティトレイは弓を構えたまま立ち、矢をつがえる。
「しょせん、お前達なんて僕の玩具。オモチャの兵隊ごときが調子に乗るなっ!」
『あなたは、ただ満たされない自分が嫌で、人を弄んでるだけです』
首を左右に振り、ミントは目を伏せて言葉を思う。
『あなたのお姉さまは、こんなことは望んでません』
「劣悪種が……紛い物が語るな!」
再び誰ともなしに叫ぶミトス。
カイルとティトレイは同時に彼女の方を見た。淋しそうな面持ちのミントは双眸を強く閉じている。
丸められた手が豊かな胸元へと当てられ、まるで夢にでもうなされているようにさえ見えた。
『……私を蘇らせようと必死になっているその気持ちはとても嬉しい、でもあなたが選ぶべき道はそちらにはない、そう言ってるんです』
「嘘だ、嘘だっ! 姉さまの声が、お前なんかに聞こえるものか!」
手にマナを集め、光を集中させる。
「それ以上喋るな……姉さまを騙るな!!」
カイルとティトレイがまずいと察した時、周囲に1度消えた筈の白い霧が再び漂う始めた。
夕陽の日差しが白い靄によって遮られていく。3人は何事かと混乱する。
その霧は涼しさというよりも、むしろむわっとした熱気が篭っていた。
「……蒸気?」
製鉄工場や王都バルカでよく目にしているティトレイは、何気なく口走った。
瞬間、彼とカイルの2人ははっとした。片方はだけどと唸り、もう片方は確信していた。


目の前の人間がぼんやりとしたシルエットで映る中、おもむろにミントは立ち上がった。
傍の2人が彼女を見るが、視線に気付くこともなく、1歩踏み出す。
『いいえ、私はあの方が願うように、あなたを癒さねばなりません』
思念波を受け取ったミトスは、その優しい音階に身体を震わせた。
影しか見えない蒸気の靄の中、向こう側にいる女の姿に、彼の自分の目が狂ったと思った。
3つある影の、先頭に立つ者のすぐ傍に立つ女の輪郭に懐かしい幻が結ばれる。
しかし彼は認めない。一体誰なのだ。言葉を失ったミトスはただじっと立っていた。
「私は……あなたを助けたいから」
「止めろ! お前は姉さまじゃない! 姉さまなんかじゃないっ!!」
そう叫ぶも、ミトスは段々と頭の中で聞こえてくる声が、姉のものとしか思えないようになってきていた。
目を閉じれば若葉の色をした髪が映し出され、開ければ目の前に浮ぶ影がたまらなく姉の面影に見えてくる。
頭を抱え込むも、当然それは無駄な抵抗で、声は頭に流れ込んでくる。
矛盾と否認が生み出す精神的拷問だった。
「……ごめんなさい。私はそこまであなたを苦しめていたのですね」
ふと、花の香りを嗅いだ時のように頭から邪魔なノイズが消えていく。
ミトスは自分の耳を疑った。本当に、この声を姉のものと思ってしまったのか? それも無意識で?
心に湧き立つ嫌悪感と、どうしようもない安堵感がぐるぐると回る。
頭の中で聞こえた嘆息を、灰がかった影の微かな動きと繋ぎ合わせてしまう。
なぜなら、目の前には姉と似たマナの匂いの持ち主がいて、姉の声で語りかけてきて、だって、だって。
「私は、あなたを支配してしまっていた」
「……支配?」
思いもよらぬ単語にミトスは思わず口に出す。
「あなたを閉じ込め、外を見せていなかった。そう、窓のない部屋のようなものに。
 暗い部屋に影は生まれない……存在は確立されない。私は、あなたをあなたとして存在させていなかった」
北地区は薄暮に相応しい静寂に包まれていた。
ティトレイは弓を下ろしふらつくミントの身体を支え、奥にいるだろう少年を見つめていた。
カイルもまた同じように、座り込んだまま蠢く影を見つめていた。
「けれど、それではいけません。あなたは、私の影として存在してはいけない。もっと外に目を向けるべきなの」
自分は影だ。そんなことはとっくに気付いている。
ハーフエルフなど居場所のない狭間の存在、皆から疎まれる日陰の存在。
日向に出れば蔑まされ、迫害され……違う。この声が言っているのはそんなことではない。
僕は僕として存在が許されていない。ただのマーテル・ユグドラシルの付属品。
違う、と彼は思いたかった。外の世界なんて4000年前から散々見てきている。
どこにも自分達の場所などなかった。誰も信じてなどくれなかった。
クラトスも、ユアンも、結局は裏切った。


「外になんて……存在出来る場所なんてあるものか!」
「そうではないの。あなたは立ち上がってすらいない。外を見てきたようで、何も見ていない。
 なぜなら、あなたは私の隣で安息してしまっていた。私が閉じ込めてしまっていた」
押し黙り、顔を強張らせて影を見るミトス。
「あなたは、自分の足で立って、光のある場所へ行くべきなのです」
「自分の、足で」
「あなたの罪は内側にしか触れなかったこと。与えられたものをただ享受し、それに満足してしまっていたこと。
 それでは、妄執に生きる虚ろの住人になってしまう」
悲痛な声に、まるで自分のせいであるかのような心持を抱いてしまう。
自分のいたずらで家族が侘びを入れているのを、傍で聞いているような感覚だった。
心が締め付けられ、本当なら起こり得ない筈の動悸が胸を打っている気がした。
声の主は、自分が悪いのだと言う。しかしそうではない。
閉じ込めていたことが悪なのではなく、そこから出ようと行動を起こさなかったことが悪なのだ。
姉の幻の声は、彼をそう考えさせるのに十分だった。
「でも、光なんて1歩踏み出した先にあるものです。だって、まだ子供ですもの」
ミトスは思う。僕は影だ。全ての可能性を否定し、最後に残った道の最果てにいる存在。
全てを諦め、晴れ舞台に出ることを拒んだ、明かりの下に晒されれば息をしていけないモノ。
彼はそう思い至って、目の前の2つの影を見た。
どこか自分に似ているが、けれども決して違っていた。
影ならぬ影――――同じ道を辿る可能性を持ちながら、日向に出ても確固とした存在を保てる者であり、
自分も同じ道を辿れるかもしれなかったという証の名だった。
愛する者を失いながら全てに絶望せず歩ける少年。
執着すら捨てた人の形に憧憬を覚えたのと同時に、そこから立ち直り元の命の形に戻った青年。
そして、最後に残ったのは、別人でありながらどうしようもなく姉の影を引く少女。
玩具には、子供の夢が詰まっているのだ。
一体、自分と何の違いがあるのか分からなかった。
「僕は……僕は、姉さまが傍にいてくれれば、それだけでいい! それ以上なんていらない!
 姉さまがいなくなったら、僕はどうしていいのか分からない!!」
彼は姉に依存していた。姉の在るところが彼の世界だった。
「私も、あなたを束縛してしまうのは辛い。もっとほかに支え支えられる人達を、あなたは見つけなくてはいけないんです」
2人は、多くの人と繋がり、自らの居場所を分かっていた。
その人たちを支え、また思いを支えとして、そして自分をはっきりと持っていた。
それが彼、ミトス・ユグドラシルという影との違いだった。


「そう、自分の足で。居場所は時として与えられるものですが、それが全てではありません。
 自分で求め、探し、決定し、作り出すものでもあるのです」
姉の声は優しく、弟を諭すような口調だった。
「そんなこと、分かってる……」
だが、逆に彼の身体には震えが走る。
「自分で動くのが怖いんだ! 探したって探したって見つからない、少なくともハーフエルフの居場所はそうだった!
 どこにあるかも分からない場所なんて、僕には探すことなんか出来ない!!」
夢を叶えようとして叶わなかった時の努力ほど、空しく恐ろしいものはない。
今まで自分がしてきたことや費やしてきた時間は何だったのか。
歩いても歩いても終わりのない道など、途中で引き返したくなってしまう。
しかし元の道も既に遥か遠く、途方に暮れるよりほかない。
それを実体験したミトスにとって、同じ轍を踏むことなど出来なかった。
だが、語りかけてきた波は、とても穏やかだった。
「忘れないで。あなたはそこに立っている」
「え……」
「自分の足元を見て下さい。自分を見てあげて下さい。居場所は、『ここでもいい』のですから」
ミトスの目が大きく見開かれる。
どこかにある場所ではなく、自分の足下という明確な立ち位置。
ここでもいい、その言葉を彼は2度繰り返した。全身に震えが走る壮麗な言葉だった。
「私はあなたの思いとなり、繋がりとなる。私も世界の一部なのだから」

『だからこそ言います――――あなたのしてきたことは、間違っている』

最後の否定は姉から弟へ贈るアドバイス。
靄が薄らいできて、影が姿を現し始める。
姉の面影はゆっくりと消えていき、みすぼらしい金髪の少女がゆっくりと現れていく。
彼は見開かれたままの目で混ざり合う2つの像を見つめ、手を伸ばしたくなる衝動に駆られた。
ここが姉から発つ場所だった。


茫然と立ちすくむ中、地を蹴る音がミトスの鼓膜を刺激する。
霧に紛れ走り抜けていく影が振るう大剣。それを、彼は振り向きもせず緩慢に指先を動かし、たった2本で勢いを止めてみせた。
「間違ってる。そう、間違ってたんだろうね。今なら少し分かる」
凛としたボーイソプラノが響き渡る。冷静な音色は箍の外れた様子など微塵も感じさせなかった。
彼の体躯は元の少年のものへと戻り、それでも古代大戦の英雄と誉められた実力を以て剣を受け止めていた。
少年が静かに振り返る。
炎のレリーフが刻まれた剣を持つ隻眼の青年は、少し驚いたような様子を見せる。
白刃取りをされたという事実と、外見が少し変わっているということと、陰鬱そうな色を浮かべているからだった。
「なら、僕の4000年も現在も何だったっていうんだ」
外からは拒まれ、代わりに依存した内側も皆が裏切ったり消えてしまったりした。
外も内も居場所がないのなら、それなら僕はどこへ行けばいいのか。
ここでもいいのなら、一体僕は何を求め、探し、決定し、作り出さねばならないのか。

そんなものなど、何もない。
今の自分が最後に残された可能性の、最果てにいる存在なのだから。
遠い昔に、忘れ物はどこかに置いてきてしまった。

ミトスは剣を押さえこんだまま、霧の消えた空を仰ぐ。
空をゆっくり見るなどいつ以来か。こんなにも広く雄大だったかと思った。
そこにはただ雲があるだけで、鳥が飛んでいる訳でもない。それでも彼は何もない一点を見つめていた。
確かに鳥はいない。だが、空を飛ぶ命はあった。
青年が持つ大剣とよく似た意匠で、意思を持つその剣も反応として気付いたようだった。
「ああ、そうか、アトワイト。お前も駄目だったんだな」
刃を止めていた腕を思い切り振り下ろし、目の前の青年を弾く。
青年は戦端が切り開かれたと感じ、体勢を立て直し一撃を加えようとするが、望むような一手は来ない。
「北か。まあ、僕達には都合がいいかもしれないね。いいよ、付き合ってやる」
少年は彼の横をふわりとすり抜け、北へと走り出していた。
浮いているように軽やかな歩調は淀みなく前方へと足を動かしている。
唖然とする青年。敵前逃走を図られたことよりも、その方向に彼は驚いたのだ。
ここはシースリ村である。エリア名をそのまま採用するという単純すぎるネーミングが意味するのは、ここの北はB-3エリアであるということ。
カイルは素早くサックから懐中時計を取り出した。
夕焼け空は段々と紫色の要素を取り入れ始め、どこか振り返させる感傷的な気持ちを起こさせる。
短針と長針の位置が、ある刻限が間近に迫りつつあることを教えている。
一体ミトスがミントと何を話していたのか、カイルには把捉出来ないが、時々発していた悲痛な音は妙にカイルを揺さぶっていた。
詰まる所、ミトスの弱さを見たのだと思う。
聞く耳を持たずわめき散らしていた影は、自殺を選びかけた己のリフレインを見せつけられているようだった。
否、それは現在進行形で続いている。
やはり自分とミトスは同質異像なのだと再認識する。ただ少しだけ何かが違っただけで、それ以外は恐らく同じだ。
だが、その微小な差異がやがては大きな深手となってしまった。
確かにミトスはリアラを殺した要因の1人だ。だが、それを差し置いてもどこか腑に落ちない澱があった。


「大丈夫か?」
近くに寄って来ていた銀髪の青年、ヴェイグ・リュングベルが声をかける。
「あ……はい、大丈夫です。やっぱりこっちに来たんですね」
俯いたまま、ぱっと見ても言葉の通りとは思えない現状にヴェイグは首を傾げた。手の中にあるディムロスも同様である。
しかし、自分達が発生させた蒸気の中で遠巻きにミトスの隙を狙っていた2人にとっては、
感想はそれしか抱けないのは仕方のないことだろう。
ああ、と短く返すだけして、彼はミトスが消えた方に顔を動かす。既に後ろ姿はなかった。
『アトワイトが、北にいるだと?』
「え?」
意思持つ剣、ソーディアン・ディムロスの声が響き、カイルも顔を上げ北へと向く。
ティトレイも同じ方向へと目を配っていたが、1度舌打ちをして、すぐ傍にいるミントの向きを後方へと変えた。
「行け、ミント。もうミトスの心配はしなくていい」
ふぇ、と頓狂な声を出して彼女はティトレイの方を見る。
「もうクレスの時間も少ねえ……早くしないと、あんたの望みも叶わなくなる!」
クレス、という単語をあざとく耳に入れたカイルは、はっとして今度は2人の方へと顔を移す。
それも無視し、ティトレイは困惑げな表情をしたままの彼女をぽんと押した。
ふらりと1、2歩踏み出し、振り返ってティトレイがいるだろう位置を見た。
「あんた以外に、誰がクレスを助けられる?」
彼女が暗闇の中で結んだ像は顔のない男で、しかし確かに真に迫る表情をしていた。
その真剣な言葉に息を呑み、彼女はしっかりと頷いた。
ティトレイは瞬時に蔦を使い遠くに落ちていたホーリィスタッフを回収し、ミントの手をぎゅっと握って渡す。
「今しか言えないだろうから言っておく。……ごめん。あんたに謝らなきゃいけないことはまだあったんだ」
彼の意図を別にしても、ミントは優しく笑いかけ首を横に振った。
何を言っているのか彼女は分からなかっただろう。だが、それでもティトレイの心は少しだけ軽くなった気がして、何てずるいと思った。
そして彼女は杖を使って歩き出した。彼が一緒について行く訳ではなかった。
「ミントさん!」
カイルは手を伸ばすが、振り向いたティトレイの放った矢がすぐ横へと突き刺さり、僅かに蠢くだけで終わった。
すぐにティトレイは次の矢を補填し、カイルへと向ける。
当然ヴェイグは目の前の男の行動に抵抗するしかなかった。カイルの傍へと立ち、ディムロスを振るい構えを取る。


「何のつもりだ、ティトレイ」
細められた親友の目に、ティトレイもまた弦を更に強く引き対抗した。
鳴弦の引き絞られた音が対立する二項に緊迫感を与える。
「これ以上あの人の……ミントの邪魔をするな。カイル、例えお前が一緒に行ったって、ミントが悲しむだけなんだ」
「クレスの所に行かせようなんて、それこそ死にに行かせてるだけだ!」
「それがあの人の気持ちだ。分かってくれ」
ふう、と重く息をついてティトレイは答えた。こうすることが優しい彼女への恩返しなのだと思っていた。
カイルは納得できないような表情を見せ、首を振る。彼女を守ることが彼にとっての恩返しだった。
「でも……でも!」
否定だけを口にするカイルの心を代弁するかのように、ヴェイグが剣先をティトレイへと向ける。
周囲に冷気が漂い始め夕方の涼しさを更に上乗せさせた。
「お前とは戦いたくない。だが、一体お前の目的は何だ? 何を考えている?
 クレスに味方し、カイルの仲間のあの女を助け、お前は何をしたい?」
実に嘆かわしいことだが、ヴェイグはバトル・ロワイアルに毒されていた。
奪う側に回った人間の仲間は同じ奪う側であり、助ける側の人間の仲間もまた同じく助ける側の人間なのだと。
表と裏しかなく、ひっくり返った場合にしか反対側のルールは適用されないと、そんな固定観念があった。
ヴェイグの問いかけに対し、ティトレイは弓を下ろし、不敵な笑みを浮べる。
胸に手を当て、1+1が3でもいいじゃないかと断言するかのように、はっきりと言い切る。
「今こうしてること全てが、俺の目的だよ」
何とも全容の掴めぬ言葉に、ヴェイグはディムロスを構えて応えた。
今までどこか強張っていた全身の力がすうっと抜けていく。
「……なら、俺がこの目で見定める」
『分かりやすいな。時間がない、全力を出して行くぞ』
戦意の高まる1人と1本の刃。カイルは横で不安げにヴェイグを見ながら、同時に手を出してはいけないと思った。
今まで散々気にかけていた親友と再会し、ヴェイグは邂逅の形を決戦としたのだ。
それを彼の覚悟というものだとしたら、彼の罪を見続けると決めたカイルは、この戦闘の行く末を見届けなければならない。
この戦いは彼の中で何かに通ずる意味があるだろうと、直感的にカイルは思った。
沈黙した彼は、奥に消えたミントの無事をただ祈ることしか出来なかった。
ティトレイにとっても、この時は望んでいた時だった。甘んじるつもりはない。
相手にとってこれがこちらを見定める戦いならば、自分も自分を見定める戦いでもあるのだから。
拳を作り、両手を顔の前へと持ち上げるティトレイ。
彼らにとって2度目の殴り合いが始まる。

「決着をつけようぜ、ヴェイグ」


【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:HP20% TP45% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼)
    オーガアクス エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:ヴェイグとの決着をつける
第二行動方針:ミントの邪魔をさせない
現在位置:C3村北地区

【ミトス=ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HP70% TP30% 拡声器に関する推測への恐怖 状況が崩れた事への怒り 大きな不安
   ミントの存在による思考のエラー グリッドが気に入らない 左頬に軽度火傷 右頬に小裂傷 鬱屈
所持品(サック未所持):ミスティシンボル ダオスのマント 地図(鏡の位置が記述済み) 邪剣ファフニール
基本行動方針:???
第一行動方針:北へ向かいアトワイトと合流する
現在位置:C3村北地区→B3

【ミント=アドネード 生存確認】
状態:TP10% 失明 帽子なし 重度衰弱 左手負傷 左人差指に若干火傷 盆の窪にごく浅い刺し傷 どうでもいい変化
   舌を切除された 歯を数本折られた 右手肘粉砕骨折+裂傷 全身に打撲傷 全て応急処置済み
所持品:サンダーマント ジェイのメモ マーテルの輝石と要の紋セット ホーリィスタッフ 大いなる実り ミントの帽子
基本行動方針:クレスに会う
第一行動方針:クレスに会いに行く
現在位置:C3村北地区→西地区

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP35% TP25% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
   右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み) 背部鈍痛
所持品:フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全
    蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ
    魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ
基本行動方針:生きる
第一行動方針:ヴェイグとティトレイの決戦を見届ける
第二行動方針:西へ向かい、ロイドと合流
第三行動方針:守られる側から守る側に成長する
第四行動方針:ヴェイグの行動を見続ける
現在位置:C3村北地区

※ミスティブルームは近くに放置されています。

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% TP25% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持
   両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲
   軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し
所持品:チンクエディア 忍刀桔梗 ミトスの手紙 ガーネット S・D 
    45ACP弾7発マガジン×3 漆黒の翼のバッジ ナイトメアブーツ ホーリィリング
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:ティトレイを見定める
第二行動方針:場合によっては、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
SD基本行動方針:一同を指揮
現在位置:C3村北地区

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