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テイルズオブバトルロワイアル@wiki

The Meaning of Living

最終更新:2019年10月13日 22:13

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The Meaning of Living


スピリットブラスターの陽炎を纏いながら空へと飛び立つカイルを見つめながらアトワイトは思う。
恐らく、次に交差する時が最後となる。いや、間違いなく最後とするつもりなのだろう。
これが会話できる最後の機会だ。何かを話せば、ひょっとしたら思いもよらないことが分かるかもしれない。
だが、彼女はそれを見送った。彼女らが割り込める余地はもう殆どない。
求められるのは、ただ彼らが全力を発揮できるように尽くすことのみだ。

オーバーリミッツの圧力を放ちながら飛翔を見送るミトスを見下ろしながら、ディムロスは思う。
発進の初動を見逃がされたのは、向こうが攻撃も出来ぬほどに限界だからだけではないだろう。
初撃で切り込まなかったこちらと同じだ。もう、突発的な小技を仕込む余力は無い。
だからこそ蓄えているのだ、力と時を。体中に残った全てを掻き集めた渾身の一撃を、最大の効果で放つために。
陳腐極まりないが、それはつまり陳腐になるまで使われるほどに完成された確実な手法だった。

「アトワイト」

大地に降り立ち、ミトスは静止した。もう飛翔に回す力もメリットもない。
攻撃方向を全方位の半分に限定し、固定砲台と化して完全な迎撃の構えを取る。
恐らく、次にくる突撃は今までで最速のものとなるだろう。
だからこそ、そこに一撃を叩き込めればその戦速をそのまま自らの力と転換することが可能となる。

「ディムロス」

眼下の地にポツンと「休め」にも似た足幅で立つミトスは、まるで通せんぼをしているようだった。
この爪先から爪先までを結ぶ直線より後ろには、絶対に行かせないと。
その矮躯を、永久に越えられない壁と変えて立ちはだかっている。
ミトス=ユグドラシルが立つ地平線こそが、きっと英雄の限界線だ。
退けば問題はなく、迂回すれば釣りがくるだろう。だが、そんなことできるはずもない。

『……本気? あれは間に合わないから、止めるって……』/
                          /『ロイドから聞く限りでは、奥の手は3つ。どれで来るか』
「あいつが僕を越えに飛んでくる。
 全力程度じゃあ、もう踏み台にもならないよ」/
                     /「分からない。
                       でも、きっと全部で来る。出し惜しみは絶対に無い」
『……そう。分かったわ』/
           /『そうだな……つまらんことを聞いた』

ソーディアン達は一秒にも満たぬ間で応じた。その短い時間でさえ、彼らにとっては無限に等しい価値を持った時間だった。
ミトスの心中、カイルの覚悟。ディムロスの決意とアトワイトの願い。
それら全ての中から今直ぐに考えなければならないことを言葉にするにする。

『待ち構えているぞ。易々とは懐へ入れまい』/
                    /『こちらから先に仕掛けるのね?』
「うん。だからもう一度だけ頼むよ。この一撃を入れる間合いまで」/
                              /「ああ。出かかりを潰せ。その後は任せろ」


勝負は奥の手と奥の手のぶつかり合い、純粋な力と力の衝突となるだろう。
となれば、その瞬間までにどれだけ相手の力を削げるかが要となるのは言うまでもない。
真っ向からの速度ではミトスに勝ち目はなく、この距離ではカイルの勝利に届かない。
カウンターを狙うにしても“ただ”待ち構えるだけでは、結果は知れている。先の後の先こそが、反撃の神髄だ。
そして魂を込めた一撃を狙うからこそ、覚悟と速度が要となる。先の先のさらに先こそが突撃の醍醐味だ。

『『了解(した)。ソーディアンとして、お前(貴方)<マスター>に、勝利を』』

だからこそ、マスター達の前座を務められるのは武具の誉れに他ならない。
例えその魂魄が想いを繋ぎ合っているとしても。
否、繋ぎ合っているからこそ“眼前の敵”を屠ることに一切の抵抗は無い。


「悪いね、最後まで」

ミトスはそう朗らかに言いながら、背中の羽を極大にまで羽ばたかせた。
今までのような速度重視の粗い構成などでなく、最後の最後まで丹精籠めるようにして術を組み上げる。
アトワイトと、自らのソーディアンと共に。

『セット、タイダルウェイブ』
「セット、レイ」

アトワイトの詠唱と共に潮騒が辺りを包む。小波を響かせる海は、ここからでは少し遠い。
ミトスの詠唱と共に光球が生れ、夜に向かう世界に輝きが溢れ出す。
光が極小の水滴をプリズムと受けて散乱し、混じり合った白光が純粋な単色光へと分解される。

『「晶魔混交―――――――――――――」』

紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の七色。そして、その中間にある無限の色々。
それら一つ一つが一つの星として満天を覆い、数秒経たない間に彼らの周囲は極彩色の宇宙と化す。
複合技の中でも、精密さと物量において最良の一つと数えられるこの技を以て先陣とする。
英雄という称号がが全人類より賜る呪いなら、この壁は即ち世界に等しい。ならば―――――

『「星虹、宙に輝け―――――――――――――プリズミックスターズ!!」』
“越えて見せろよ”。光速度の極限に見ること叶う虹を号砲として、彼らは最後の壁と立ち塞がった。



(流れ星。あの時も見上げてたんだよな)

夜空に浮かぶ流れ星が、全て自分たちの方へ向かってくる。
願いを祈るべき星の全部が自分を殺しに流れてくるなんて、自分の願いはどれほどまでに叶わないものなんだろう。
だが、カイルは自嘲の笑みさえ浮かべなかった。この願いを誰かに叶えてもらおうなんて気はこれっぽちも無い。

『空が3割か…………来るぞ、覚悟は聞くまでも無かろうなッ!』
「勿論。何が来ても、どれだけ高くても、行く!!」

カイルは剣先をすっと箒の穂先へと向け、ぼろぼろの空き手で柄の先端を握り締める。
流星を前にして組むべき両の掌を、箒を軸に180度別に向ける。
祈るよりも似合うその手をピンと伸ばし、箒と体軸を合致させて、カイルは意思を炎と爆発させた。

「奥義、岩斬滅砕陣」
『属性付与・火属性付加』

虹光が自らの肉体に着弾する前に、彼らは下方へ向けて垂直に飛んだ。
視界全てを覆う草原が、一秒前にいた背後で輝いた花火の如き光に照らされる。
耳朶を掠めるのは音を置き去りにする風の吼音と全天より飛翔する光速の幻音。

「『術技変化―――――――――――――』」

前方より音速で迫る大地、後方より亜光速で襲い来る星虹。絶体にして絶対、絶命への一直線。
だが、死に向かう直線を真っ直ぐ進むその瞳に怖れは無い。
想いは見つけた。だったら、もう一歩たりとも立ち止まってなんていられない。
立ちふさがるならば、星だろうが大地だろうが世界だろうが英雄だろうが――――――

「『邪魔は退けェェェェェェェ!!!!―――――――――――――覇道、滅封ッ!!』」
“超えてやる”。溶解した液体の大地が飛沫と散ちらせて、彼らは最後の空に舞った。

天地が、滅茶苦茶に踊る。夜の黒の夕の赤の上に、虹の光と太陽の輝きをべっとりと塗りたくったかのようだ。
自らの熱量に速度と摩擦熱を合わせ高温高圧の熱剣と化したディムロスを奮うカイルの一刀が、大地を文字通りに溶かす。
平手で叩かれた水のように溶解した岩石が飛び散り、光速に近いが故にほぼ直線でしか動けない星虹が衝突する。
全方位より迫るはずの星々が、次々と爆発していく。その中心に当たるカイル達の姿は、たちまち爆煙の中に消え失せた。

その一瞬の出来事を、アトワイトはレンズに焼きつけるように刻み込んだ。
光弾を配置しようがない鉛直方向へのダイブ、そしてその勢いを全て力にして大地を叩き斬る。
墜落時の衝撃を相殺しつつ、水飛沫のように飛び散るマグマにて背後からの弾丸を撃ち落とす。
馬鹿だ。馬鹿としか言いようがない。
コンマ一秒狂えば、相殺できなかった衝突のエネルギーを全てその身に受けて粉微塵になってしまう。
それでなくとも僅かでも斬り所が悪ければ溶けた岩の飛沫と星の飛礫を同時に浴びてミンチになっていた。
限りなく100%に近い、死の一線。それをこうも迷わず踏み越えてくるなんて。

『許容は出来ないけど…………だからこそ、ディムロスね。“空いたわよ、直線”!!』



アトワイトはその水晶体の奥底で、明快に―――――人の顔があった頃ならば――――笑った。
その馬鹿を、誰もが夢幻と投げ捨てるものを拾い集めるからこそ、彼らは此処にいるのだ。
その瞬間、煙幕の中に大穴が開く。その中心には当然の如く飛翔体があった。

『気付いていたか! 聡明過ぎるのも考え物だな!!』

地平と平行に、敵へと一直線を疾走するカイルとディムロス。
斬撃を撃ち込む角度と出力の微細な調整によって、衝突の際に生じる力を相殺するのではなく、
垂直から水平に転換したその超加速は、あちらとこちらを結びつける最短距離で出せ得る最大戦速だった。
ただ相殺するよりも桁外れに難度が高くなるであろうそれは、最早馬鹿・阿呆以前に気を違えているという他ない。
だが、アトワイトはそれを驚かなかった。驚く理由が無かった。
彼らならやりかねない。いや、絶対にやる。そういう確信があったのだから。
狂っているというなら、もうとっくの昔に狂っているのだ。今更頭の捩子が5、6本吹き飛んだとて大差は無い。
“そして、それはこちらも同じことだ”

『貴方達が分かり易過ぎるだけでしょう!? 頭上、抑えたわ!!』
『時間差ッ! カイル、このまま行くぞ!!』

アトワイトが予備に残していた十数%の星が、地表スレスレを飛ぶディムロス達に降り注ぐ。
既に彼女は狙いなどつけてはいない。しいて言うなら、この大地全てだ。
無限の一割もまた無限。数え切れぬ程に空より降り注いだ正真正銘の雨弓を擦り抜けながら、ディムロスは怯むことなく直進した。
此処で退いたところで得るものなど何もないことを、その本能が理解していた。
全力を奮うべき勝負所を見極められないならば、指揮官に意味は無い。躊躇さえも惜しんで突き進む。

しかし、如何に速く走ろうが雨を避け切ることが出来ぬように、カイルの体が紅く濡れていく。
耳を掠め、肩を傷つけ、腿を割る最悪の雨。しかし、ディムロスもカイルもその速度だけは決して落とさなかった。
血が出るうちは、生きている。生きているうちは、まだ足掻ける。足掻けるうちは、その歩みを止めさせる訳にはいかない。
雨に打たれても、我が身に降り注ぐその血潮がこれほどまでに熱いのだから。

(分かってたけど、速過ぎるッ! 追い切れない!!)
(流石に厚いッ。覚悟はしていたが、抜けきれるか!?)

如何に速くとも弾丸全てを精密には当てられないアトワイト。
速度を維持するために最小限にしか避けられないディムロス。
斬り込まれるのが先か、命が削り取られるのが先か。
生命と距離を詰め合うよりないか、そう2本が思った時だった。

「いい位置だ。代わって」
「ありがとッ 後は任せろ!!」


その言葉が重なった瞬間、ディムロスを両の手で握り直したカイルとアトワイトの腹に掌を当てたミトスの視線が合致した。
アトワイトはミトスが交錯のタイミングを合わせやすい水平状態にまで相手の軌道を限定した。
ディムロスはカイルが最も相手を斬り易い一線で相手までの道を切り拓いた。
叩き潰す/ブった切るに、十分過ぎるこの状況。機は熟した。後は彼らの仕事だ。
数秒経たず至近で見えるであろう、今から粉微塵にする肉の形をしっかりと刻み込むように瞳を見開き、2人は全身より気迫を沸き立たせる。

カイルはミトスのこれがロイドのそれと同じものであることを理解し、己の肌を粟立たせた。
やはり、あの時はまだ全力ではなかったのだ。多分、これがミトスの掛け値無しだ。
ミトスもまた、カイルから迸る魂魄の輝きを見ながら天使の力を軋らせた。
OVLと同系統の潜在能力の解放か。ならばこの突撃より連なるのは、正真正銘の大技だ。

「「はああああああああああぁぁぁ!!!!」」

両手持ちに切り替えたことで生まれる衝撃波の歪が、旋風となってディムロスに纏わっていく。
舞い上がる羽根と共に、天使術の威光が魔法陣と周囲を包んでいく。
D.Sはもう過ぎた。向かう先は、もうFINしかない。
なればこそ全力を以て全力を打倒するならば、秘奥義以外に選択肢は、無い!!

「行くぞッ!」

無数の擦過傷から血の粒を散らしながら、カイルは強く強く剣と風を纏った。
烈火の如き突撃から、神風の如き疾駆へとシフトする。
カイルが持ち得る秘奥義は五種。
その内、一瞬でも立ち止まればたちまち自分の体を蜂の巣以下の肉片に変えてしまうだろうミトスの術撃を前にして、
一度も足を止めずにカイルが狙える秘奥義は一つしかない。
(とう、“スタンさん”、ごめん……斬空天翔剣<受け継いだ技>は、使わない。使えない。俺は、もう貴方と同じ道には進めない)
遥か後方へ投げ送るように、もう一つの剣を捨てる。
憧れは、きっと辿り着けないから憧れるのだ。
アレを使うのは、スタン=エルロンより一子相伝を継ぐに相応しい息子が奮うべきであり、
今から進む穢れた道を切り拓くには、その技はあまりにも清廉に過ぎる。
そして“全力を以て、斬り飛ばす”のであれば、己が持ち得る最大を以て挑む以外に、カイルはその術を思いつかなかった。
例え、相手がどのような技でこの身を阻もうが――――――ッ!?

「格が違うんだよ……ッ!!」

荒れ狂う風の重層の中でもよく通るミトスの声と共に、蒼白き光によってその足元に円の魔法陣が刻まれる。
その魔法陣に、カイルは絶句した。正確には、陣にではない。
複雑な文様を必要とするほどの大掛かりな術式に精通するほど、カイルは術に詳しくはない。
だが、カイルはその恐ろしさを肌で理解した。六感などという浅いものではない。眼球の奥底で焼き付いた光景が脳に疼く。
澄んだ、何処までも澄んだ蒼の翅。そして、跡形と果てた城の躯。固唾を呑む。来るのは、あの人の技だと。


イノセントゼロを除けばミトスが誇る3枚の切札。
内二つは、敵の位置をホーミングしてからの着弾型だ。今のカイルなら狙ってから落とすまでに避け切るだろう。
故に“敷く”。自らを中心として魔陣を描く。自らを囮と化し閉じ込める。
この身を斬り裂くその一瞬、必ずカイル=デュナミスはその射程にいるのだから。
(今更顔向け出来るとは思わない。でも、勝たなきゃならないんだ。使わせてもらうよ。クラトス)
その死体を壊した自分にこの技を使う資格があるとは、ミトスも思わなかった。
ただ、今より勝ち取るべきものに比べれば、そんな煩悶など“どうでもいいもの”でしかない。
だから使う。組み上げたのは天使術系統の秘奥義の基礎にして基点。
此は聖域。悪しき闇の一片の存在さえも赦さぬ、聖なる戒め。

「シャイニング・バインドッ!!」

超高速でミトスに突進していたカイルの前に現れた景色は、文字通り“光景”だった。
七色に燦然と輝いていた星の光とは違う純粋な白光が、ミトスの足元から立ち上る。
細長い光線が無数を重ねて、一つの城塞を形成していた。
カイルは相対的に超高速で接近する光壁を食い入るように見ていた。
強力な光に目を焼かれてしまう危険も厭わずその大きな瞳を開いて、
既に光に阻まれてミトスの姿が見えなくともその壁を見ていた。
絹紐よりも艶やかに細く、茨の蔓よりもしなやかに恐ろしく、鉄の檻のよりも強固に不朽。

人ならぬ天使の御手にて造られし、聖なる鎖がその翼を引き裂こう。

「おっオオオおおおおおおおォォォォぉぉっ!!!!!!!!」

多分、いや“絶対に”そのどれか一本にでも捕まればあの魔陣より抜け出す術はないだろう。
初見の技を前にしてのその断定には、理合という意味ではまったくと言っていいほど根拠がなかった。
だが、理など消し飛ぶほどの直感だけがカイルにはあった。
これが、この技こそが、あの城を吹き飛ばしたのだと。
何かを守るために、あの人が、クラトス=アウリオンが使った最後の技なのだと。
どくんと、ポシェットの中の輝石が震えたような気がした。いや、カイルの意識が輝石に震えたと言うべきか。
クラトスの死体と、あの城址。
その瞬間を見ていない者には絶対に理解が及ばないだろう過程が、眼前の技によってカイルの中で結び付いた瞬間だった。
両の手で握ったディムロスから驚愕と僅かな委縮が伝う。
当然だろう。ディムロスが感じるものの何倍もの怖れで、今にも剣を落としてしまいそうな自分がいるのだから。
秘奥義相手に下がるならともかく、アレに今から突っ込もうというのだから、恐怖が無い方がおかしい。
だが、後ろからプリズミックスターズが追撃している以上、僅かでも立ち止まれば背中が蜂の巣になる。
後門は既に塞がれた。そして前門が閉じられようとしている今、前に進むしかないのだ。
だけど、アレを抜けられるのか―――――――――――――――――――否、抜く。


カイルがその衝撃と共に、壁に攻め入った。
後ろで遠く、虹が爆ぜる音がしたが、それを理解する暇などカイルにはなかった。
生い茂る無数の光条。その僅かな隙間を縫い、時には突撃の衝力で突き破って風の如く突き進む。
未だ震え続けるその両手を、より大きな意思で握り潰す。
光の先に、父と間違えたあの大きな背中を思い出す。よく見れば父とは違う、でも同じように広く、力強い背中。
きっとあの人はその背中で護ったのだ。大切なものを、自分の命を賭してでも。
(クラトスさん。貴方には、何度お礼を言っても足りません)
彼は最後まで、いや、最後が終わってもまだロイドの身を案じていた。
会いたかったはずだ。生きて彼を護りたかったはずだ。
(貴方に会えなかったら、俺はきっと立ち上がれなかった)
それを曲げてでもクラトスは何かを護った。死してなお言葉を紡ぐことのできる力さえも、カイルの為に用いてまで。
彼が護ったものが何だったのは、カイルには知る術もない。ただ、はっきりと分かっているのは。
(貴方がいなかったら、きっと俺とリアラに触れることも出来なかった)
その力で護ってくれたものの中に、リアラもいたということだ。
あの城で、クラトスが護りたかったものはリアラだけではないのだろうけど、
その力で護られたものの中に彼女が居なかったなら、カイルはその死体にさえ再会することはできなかった。
(借りを返す、なんて言って返せる借りじゃないことは分かってる。
 貴方の代わりにミトスを止める、なんて言えるほど俺が強くないことも分かってる)
焦げつく皮膚も厭わず、カイルは目標へ疾駆する。
越える、この壁も。例えそれがかつて彼の大切なものを護った壁であろうとも。
光を掻き分けて進む先に路が拓かれる。この夥しい光の中でもハッキリと分かる、その虹色の翅までの道が。
クラトスが自らの手で清算したかったであろう存在への直線と。

「飛翔せよッ!!!」

交差の刹那にばしゅりと音がなり、ミトスの右腕がカイルの前へと飛び出る。
同時にカイルに遅れて追従する風のうねりが、斬り飛ばした腕を洗濯機に入れたボロ雑巾のように捩じり刻んだ。
右腕一本。この戦いが始ってから初めての決定的な一撃をミトスに与えてもカイルは止まらなかった。
極端に視界が狭まる超高速の世界では吹き飛んだ右腕しか確認できなかったが、
肉体的にも精神的にも、この程度で死ぬ相手ではないことだけは分かっている。
ミトスの存命を裏付けるかのように地面から湧き上がり続ける光の中で、
両手持ちを解いたカイルは左手に箒をしかと握り締め、右手のディムロスを力一杯に地面に突き刺した。
(俺は、父さんやクラトスさんのようには、きっとなれない。俺には誰も守れないかもしれない)
地面を抉るように焼けた土くれを舞い上げながら、ディムロスを軸としてカイルは無理矢理自らを回転させる。
そして左手一本で強引に箒の舳先を曲げて自らの向う先を再びミトスへと固く定める。
一切の減速を行わずに自らの体躯を反転させたカイルが、再び敵を見据える。
右腕を失くしてなお、その翅と左手を広げて立ちはだかる敵を。

“行かせるかよ”。


越えるべき敵の面構えを確認しようとしたその瞬間、その背後の光から虹が溢れ出た。
シャイニングバインドの隙間を縫うようにしてプリズミックスターズの残弾が反転したカイルを襲い狙う。
数少ない縛鎖の隙間を埋めて、虹の飛礫がカイルを狙い撃つ。
壁は、更に厚くより高く聳え立つ。攻める者を阻むように、その後ろにあるものを守るように。
世界を救い、誰かを“守る”ことこそが英雄の力であるというならば、
今カイルの前に立ちはだかるそれは、紛れもなく英雄というものの威力そのものだった。
ミトスは守っているのだ。自らの失い続けてきた過去を、それを取り戻すために更に失ってきたものを。
たとえ歪であっても自分の手で積み上げてきたものを、決して誰かに侵させぬために。
その壁を誰かに越えられない限り、自分の歩んできた道を永遠に諦め続けることができるのだから。

(リオンやミトスのように、本当の本当に大切な物の為に全部を犠牲にする覚悟も無いかもしれない)

だが、それを抜ける。無限の弾点と光線で編まれた壁の毛穴ほどの隙間を抉じ開けて突き進む。
その身を形無き風と成して、唯々加速する。
前へ、もっと前へ。足を砕かれ股間を潰され仲間を失っても前へ。
その背中に守るものがもう無いというのなら、攻めるしかない。
頭皮が少しめくれた。頬が焼けた。肩に小さな穴が開いた。
それでも進むカイルを誰もが愚かと嘲笑るだろう。ありもしない夢想に縋る子どもと嗤うだろう。
それでいい。夢だろうとなんだろうと、この手に掴むべき未来は、きっとこの壁の向こうにしか無い。

(それでも、勝ち取ってやる。攻めて攻めて前に出たその先に、この手に掴んでみせる!!)
「真空のッ!!!!!」

光の園に再び赤が混じった。
切り返しの斬撃が再びミトスの体から肉体の一部を切り離す。
セカンドエンゲージにて左腕を中指と薬指の間から肩口に至るまで縦に斬り飛ばす。
両腕を完全に断った。だが、それでもなおカイルは一切の油断を見せなかった。

“越えさせるかよ”。

再びカマイタチがミトスの肉を刻む音の遠くなるを聞きながらカイルは速度を更に加速させる。
交差の瞬間、ミトスの口元が微かに歪んだのをその眼で見ていたからだ。
その予感に呼応するように、シャイニングバインドが一層の輝きを増す。
陣の中に残された魔力の全てがが、最後の締めとばかりに爆ぜようとしていた。
(俺は、生きるんだ。誰かを守るためじゃない。自分を守るためでもない)
余波の段階で回避や防御が通用するレベルでないと分かるその終の一撃に抗する術は、陣より脱出する以外に無い。
城に賊を入れたまま閉じつつある城門を前にして、カイルはディムロスを真っ直ぐ壁に突き立てた。
閉じられたのなら、突き破るまで。今のカイルに、守るための力など何も意味を成さない。
(生きて、もう一度リアラに会うために!! その為に生きる命だからこそ、俺は戦える!!)

「刃アァア゛ア゛アアア゛アァァァァァッァァッッッッ!!!!!!!」


聖域が解き放たれる。爆発的な光の奔流が天に上っていく様は、幻想そのものだった。
その美麗な幻想より弾き出される染みのようにカイルが飛び出す。
衣服のあちらこちらに焦げ目を造りながらも、生きて死地を抜け出した。
黒ずんだ顔色は露骨に疲労をカイルに訴えているのだろうが、カイルはそれを全て無視した。
まだ終わっていない。求めるのは生ではなく勝利。故に、最後の一撃まで手を緩めない!!

「翔ッ王!」

カイルがまだ熱冷めやらぬ大地をディムロスで再び叩き、反動と共に穂先を天に向ける。
右の剣を地に左の箒を天に、遅れた風とともに空へと昇る。
高く、高く。その高みより壁を一刀の下、叩き斬るために。
虹を失い、もう殆ど夜にしか見えない空を昇り決意を固める。
かけがえのない何かを守れるのが英雄であるならば、きっと俺は英雄にはなれない。
だとしても、それでもリアラを求めるこの想いだけは譲れない。
だから―――――――――――――――――――――

「絶燐しょ」
『カイル、止まれェァァァッッッ!!!』

え?
カイルは莫迦のような反射で今まで耳から抜けていたディムロスへと向いた。
自然と地を見下ろしたカイルの眼に入ったのは、箒の穂に突き刺さった邪剣ファフニール。
なんでこんなものが? 何時?
そんな疑問を抱くより先に、更なる事実に気付く。
箒に絡んだ邪剣、その柄より更に白い何かが伸びている。
まるで地を這う罪人を天より救い上げる蜘蛛の糸のように、それは伸びていた。
上昇しながらその先をカイルは眼で追う。キラキラと輝くそれは、光の柱より伸びていた。
ああ、と莫迦なカイルでも気付く。これは鎖だ。罪人を牢獄より逃がさぬための枷。

“お前は一度堕ちたんだ”

あの二回の接触は腕を斬ったんじゃない。“斬らされたんだ”。

“だったら落ち続けろ”

最初の一撃でファフニールと箒を、次の一撃でファフニールを鎖と縫いつけた。

“何度でも何度でも地面に墜ちろ”
最初から狙いは箒。その翼を毟り取ることの為だけに、シャイニングバインドは放たれた。

“足から体から手から肘・膝・背中、そして頭から墜ちろ”

地を這う聖域より伸びし鎖。微かな希望を夢見る蜘蛛の糸。
だから、其れはつまり“同じ罪人に引っ張られるために存在していた”。



「イふぁふかよホォ、バァャァァァロオオオオオオオオォォォォォッォォオォオオッッ!!!!!!」




鎖を口に銜えた咎人が嗤う。いかせない、行かせはしないと。
口元より伸びた最後の一本が、空を飛ぶ罪人の偽翼に絡みつく。
鉄や金属であるならばたちまち焔に蒸発するだろうとも、光によって鋳造されたその鎖の束縛は絶対。
いや、材質など無意味だ。重要なのは意思。
縛るという意思を極限まで高めた「鎖」は、「紐」や「縄」などより遥かに強い。
そしてそれはつまり、ミトスの持つ明確な怨念の強さだった。

「……ッ、ディムロス!」
『分かっている。このまま千切るぞ!!』

ミトスに捕まっていたことにようやく気付いたカイルだが、既にブレーキを掛けられる速度では無い。
更に速度を上げて上昇し、鎖を強引に引き千切ろうと試みた。
この空の向こう、もっと高く飛ぶならばこの程度の枷に止まってやれるはずもない。

『ミトス! もう無理よ! これ以上は、顎から下が――――――』
「ゃガッガツグズずズジュうゅいあらっあざああああああ!!!!」
『~~~~~~~~~~~歯顎強化<ストレングス>ッ! 晶術治癒なんて“する暇ない”わよ!! 
 これくらい、男の子なら耐えなさい!!」

下に垂れた曲線を描いていた鎖が、忽ちに緩みを失い引っ張られる。
それをミトスは力いっぱい噛んだ。ともすれば鎖が切れてしまうのではないかと思えるほどに噛んだ。
奥歯がたちまち削れ砕け、前歯が一本折れ、口から生えていくように伸びる鎖に血の赤を塗していく。
それでもミトスは食い縛った。超高速で口内を通過していく鎖に口の端の肉を裂かれながらも耐えるように噛んだ。

―――――――――――一人のための、自分の願いよりも、もっと大事なものがあるんだ。
            本当に大切な人の英雄なら、英雄ならーー自分の想い以上に、その人が本当に望むことの方が大事だろ!!

行かせない。絶対に行かせない。
人類が滅多に体験しないであろう人体破壊をその身に感じながら、ミトスは今、初めて他人の道を否定しようとしていた。
例えば、ロイド=アーヴィングような“世界の英雄”の進む道と自分の道は交わらない。
世界と一人を天秤にかけることそのものを肯定できないロイドのような道ならば、
幾ら進まれようがミトスには興味もないだろう。
自分の道を守るために抗いはするだろが、ここまで自らを壊すようなことはしない。
光は影に交わることは無く、逆も然りだからだ。

だが、カイル=デュナミスが今から行こうとする道は、かつてミトスの歩んだ道。“一人の英雄”だ。
一人の為ならばそれ以外のすべて、世界さえ犠牲に出来る。
例えどれほど後で悩み苦しもうと、その選択を行える覚悟を持つだろう。


なんという皮肉、いや、奇遇だろうか。
かたや自らの血に苦しみ、英雄にならざるを得なかった少年。
かたや自らの血に依って、英雄になろうと決意した少年。
カイル=デュナミスはミトスと正反対の開始点からミトスと同じ“英雄”に至ったのだ。

だが、カイルとミトスの道には決定的な違いがある。
カイルの目指すそれは“ミトス=ユグドラシルの進んだ道の先にある”ということだ。

一人の為に世界全てを犠牲にする覚悟を持ちながら、
その覚悟をその一人の願いの為に、例え、それがその人を殺すことになったとしても、
その願いの為に自分を捧げることのできる、真なる“一人の為の英雄”。
もしそんなものが存在するのであれば、真なる英雄の前にはミトスの歩んできた道など中途半端なものでしかない。
ミトスが諦め続けるためには、ミトスがその道の果てに居続ける必要があるというのに。

とっくに理解はしていたのだ。千年王国も、姉さまの蘇生も、所詮は自分の願いに過ぎない。
姉さまの遺言を曲解して、自分の都合の良い言い訳にしてきただけ。何一つ、姉さまの望みにかなっていない。
それを否定する気は、もうない。何せ、この世界で姉さまの口からそれを言われてしまったのだから。

そこまで諦めてさえも、目の前の存在をミトスは許容できなかった。
カイルが“そこ”に至ろうとしているのは認めよう。
だが、もしカイルがそこに至ることがあれば、ミトスの道に、まだ続きがあったということになる。
つまり、英雄ミトスの敗北の原因は外因ではなく内因、唯の努力不足ということになってしまう。

(認めない。リアラには逢う。その為に犠牲を出すこともいとわない。
 “だけどリアラが望まないだろうから犠牲は出さない”。
 リアラの望みを完全に達した上で、自分の意思を叶える。そんな我侭、有り得てたまるか)

それは、できるかどうかの問題ではない。在ってはいけないのだ。
ミトスでさえ、マーテルの真意を曲解しなければ自分の望みをかなえられなかったというのに。
もしそんなものがることを認めたならば、その瞬間ミトスが到達した英雄の限界線は破られ、彼の四千年は無駄と化す。
その先に道がなかったのではない。ただ、その先を見つけられなかっただけなのだと。

「そんなの、認められるかァァァァッァァァッァァッァ!!!!!!!!!!!!!」

ミトスがかぶりを振って、銜えた鎖を大きく引っ張った。
カイルとミトスを結ぶ白い直線が、二人の意思を繋ぎとめる。
越えようとする意志と、越えさせまいとする意志。二つの意思がまるで綱引きのようにぶつかり合う。

そして、その意思の引きあいを結果が空に示され、
カイルの体が箒から弾かれるように飛び出し、カイルの仮初の翼がもぎ取られる。


「お前は、逃がさない! ここで墜ちろ!!
 その意思ごと、滅びてしまえ!! アトワイトッ!!」

ミトスが右足で大地に突き刺していたアトワイトを蹴り上げる。
そこには、プリズミックスターズの操作を終えて、既に詠唱を準備終えた彼女がいた。

『コアクリスタル、ハイエクスフィア共にフルオープン。この状態は保って数秒。成功率は――――』
「100!!」
『―――――――――――――ええ、勿論!!』

子供の無茶と理不尽に応ずるように、アトワイトは気後れを微塵も見せず凛々しく答えた。
彼女の様に裂けた口をかろうじて笑いに歪め、ミトスは残った左腕の内側半分を鞭のように揺らして振った。
中指から親指しかない掌でアトワイトを掴み、ミトスは天使の翅を最大開度で展開する。

「・・-・-・---、-・・・・--・-・・・--(灼熱の業火を纏う紅の巨人よ)」
『第一節・エクスプロード!!』

天空を泳ぐカイルの左上後方に、巨大な轟炎の渦球が現れる。
目まぐるしく動き回る視点の中、ディムロスが発露した術力に声を上げる。
『クッ! 動きの取れぬ中空で、上級術を―――――――!?』
避けるにも防ぐにも、即座に対応しなければ間に合わない。
つまりまだ対応できるレヴェルの攻撃だと彼は判断した。
だが、間断無く続けられたアトワイトの詠唱にディムロスは二重の意味で絶句する。

『-・・--・---、--・・--・・・・-・-・・--・-・-・・(蒼ざめし永久氷結の使徒よ)』
「晶術並列運行!! 第二節・アブソリュート!!」

清涼な音階から形成されるのは、握り拳ほどの大きさもあるやという大きさの氷の弾―――――の“吹雪”。
一粒一粒に明瞭な意思を見つけるのも難しいほどの氷玉がたんまりと詰まったそれには、
カイルの正面を塞ぐ絶対零度の寒気団には、入った人間を凍死させる前に肉塊に変えてやるという殺意が篭められていた。

有り得ない、とさしものディムロスは目の前の光景を疑った。
そして、当然それは魔術が連続して展開することにではない。
マリアンやマーテルと共にいたというダオスなる男は、参加者全員の前で4連続詠唱を成立させたと聞く。
なにより、アトワイトとの戦いでそしてミトス・アトワイトの連携を何十回と見続けた歴戦の兵は、
この連続詠唱のカラクリ、つまりエクスフィアのEXスキルとユニゾンアタック、
そして魔術と晶術の複合による時間差詠唱を正確に理解している。
つまり、これは『四魔術を同時に成立させる一魔術』ではなく、ただの『一魔術の四回連続詠唱』なのだ。
故に、膨大な構成と詠唱を要する上級術はこのテトラスペルもどきには組み込めない。
それがディムロスの導き出した結論であり、恐らくは今までの現象を説明しきる唯一のロジックだ。



「-・-・・--・-・-・--・--、・-・・・---・・・--(三界を流浪する天の使者よ)」
『スペルキープ解凍! 第三節、サイクロン!!』

『上級術を3連だと!?』
ならば、右上後方より巻き上がる嵐の螺旋は、どう説明すればいいというのか。
術の過程において、その効力・規模と詠唱の手間は比例する。
初歩の術ほど詠唱はシンプルであり、上級術ならばその逆だ。
アトワイトとミトスの手法は詠唱の短い初級術だからこそ、成立する方法なのだ。
その証拠に、アトワイトもミトスも四連続詠唱の構成内容は常に初級術にて組んでいる。
上級術では、どうやりくりしたところで詠唱速度がかさんで連続と呼べるほどの連携には繋がらない。
いくらミトスがダオスと類似する能力を幾つも備えていたとしても、
初級四連のテトラスペルを逸脱して、上級術を連続で放つなど―――――――――

『お前の入れ知恵か、アトワイトォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!』

ディムロスが吼えた。この死地に入って一番激したその怒号には恨み辛みはなかった。
ただ、なぜこんな簡単なことに気づかなかったのかという爽快な後悔だけがあった。
ディムロスは、テトラスペルに囚われ過ぎたのだ。

<Turn――――――――――――

遅い遅い遅い。脳に送る血液までその胸に行ってるんじゃないのかい?
よく考えれば簡単に導き出せることだよ? いいかい?
既にこれまでの指し手で以下の情報は提示した!!

『ミトスがテトラスペルを習得できたのはアトワイトを得たから』
『ミトスがテトラスペルを習得したのはダオスを超える力を得るため』
『ミトスのテトラスペルは魔術・晶術問わず内容を変更できる』
『ミトスのテトラスペルは“本当のテトラスペル”ではない』

それを踏まえて、さてさて問題です。
『“アトワイトと出会った”ミトスがテトラスペルと呼称した術は、何の術を原型にして着想を得たでしょうか!?』

テトラスペルをただ真似した所でダオスのオリジナルに勝てる訳もなし。
ならばミトスは何故テトラスペルのイミテーションでダオスを超えようとしたか!?

それで勝てる算段があったから。
イーコール、ミトスが得ようとしたのはテトラスペルより上位の術のイミテーション!!

前回はグチャグチャの木っ端バケモノが相手だったからストレート程度の役で済ませた。
今回は、とっくりと役を組む時間あったからね。確りと揃えさえてもらったよ、ストレートフラッシュ!!
さあて答えあわせのオープンタイム! 御代は、死んでのお帰りだッ!!

 ――――――――――――Shift>



『気づかれた! ミトス!!』
ディムロスの劈くような怒声に、アトワイトは彼がこちら側の手札全てを理解したことを察した。
ディムロスなら遠からず気づくだろうことは分かりきっていた。そして気づかれた以上、ここからは完全に速度勝負になる。
それでも遅い、とアトワイトは素直にそう思った。だが、それは当然でもある。
もし、自分が彼と同じ立場でもそうであろうし、何より知っている立場でも未だ全てを受け止め切れていないのだから。
(本当に、子供は恐ろしい。現実に制約されない発想が、水のように湧き上がるんだもの)
ちょっとした思い付き、ふと頭を過ぎるイメージ。数秒後に『ないない』と直ぐにかき消されてしまうようなもの。
人に空は飛べない、鉄は海に浮かばない。ありとあらゆる“現実”が壁と立ちふさがってきた。
だけど技術の進歩は、文明の開化は、人の歩みは、その壁を越えることでしか成立しなかった。

アトワイトは凝視する。その壁をまた一つ越えようとする、我が身の主を。
「--・----・・--・-・-・--(気高き母なる大地の僕よ)!!」
『乱数装置<ランタマイザー>始動! 第四節、グランドダッシャー詠唱開始!!』

自らの肉体を壊しつくしても一切の淀みなく4番目の詠唱を紡ぐミトスに、
アトワイトは己の作業を進めることで応じた。回復や補助を行う暇さえ、もうないのだ。
今から行おうとしていることは、スピードスペルやミスティシンボルの加護を付加したとしても、
4度も連続して諳んじることが出来るなど精霊王や神々でも至れぬであろう超魔術だ。
普通ならばそこで思考が止まる。現実の前に、想像が阻害される。
だが、諦めない者はその先へ行く。その現実を踏まえた上で、可能性を導き出す。
そしてミトスが至った道が、この運試しだった。
自らの、そしてアトワイトの持つ術能力を全て三節に注ぐ。
己が持つ力を全て注いで、第三節までを絶対に繋げる。
そして最後の一節は、文字通り運否天賦に託す。

<Turn Shift>

「ディムロス、これッ!?」
『うろたえるなカイル、まだ包囲網は完成していない!! 』
目の前で着々と整いつつある処刑台を前に一瞬途惑ったカイルに、ディムロスは檄を放つ。
だが、まだディムロスに諦めの二文字と完全なチェックメイトは存在していなかった。
発動してなお、まだ襲い掛かる様子を見せない三術。
三方を包囲されてなお、まだ閉じられていない地面。
今ミトスたちが仕掛けている術がディムロスの想像通りであるならば、
それらは、ミトスの策がまだ完成していないことを示していた。
(立体を囲むに必要な最小の面数は4。地面までは閉じられておらん。抜ける!!)
ディムロスは自分の推理がミトスの思惑と合致しているだろうことを確信していた。
4つ目の術が発動しない限り、他の3つは仕掛けてこない。
ミトスの目的は完全なる勝利。カイルを“叩き落す”ことだ。
99%の勝利ではなく、100%の必滅を狙ってくるはず。
故に、それが完璧になるまでは仕掛けてこない。だからこそ、まだディムロス達には希望する余地がある。
『最後の最後で、欲に眩んだ――――――――という程度なら、まだ楽なものを』
なのに、ディムロスの眼に写る唯一の突破口は、面白いほどに暗く細く見えた。



『そうね。ハッキリ言って、非合理的。大人しく三連で手を打っておけばいいものを』
ランダマイザーに失敗すれば詠唱時間が常よりも更に伸びる。
いや、それだけではない。
先のプリズムソードとホーリーランスの連続術はただの二連携であったから失敗してもリスクはなかった。
だが、この術は“4つそろってこそ成立する”以上、失敗は許されない。
最悪、必死の想いで繋いだこれまでの術にも影響を及ぼすだろう。
そんなリスクを犯すくらいならば、大人しくトリコスペルで収めておけば、
それでも、9割9分9厘勝利を収めることだ出来たはずだ。
『でもね、ディムロス。どうしてかしら……この運試し、外す気がしないわ』
意思が、世界を捻じ曲げる。不可能が、可能へと摩り替わる。
そう、英雄の前には可能性など無意味。

<Turn>

だって、1%=100%のバトルロワイアルで確率なんて意味ないもの!!

<Shift>

『四殺、徹った……最終セーフティ解除、行けます!!』
「ユグドラシルの名に於いて命ず。四元の精霊、我が前に連なりてッ、大いなる至源の力と化せ!!」

ミトスの命令に従うようにカイルらの真下。溶解した大地のその更に下から、巨岩が一本の杭とせり上り、
カイルの下後方を塞ぐようにして昇り上がる。
声ならぬ声が、天地を伝う。風に、火に、水に、そして土に響く。
アトワイトをタクトとして、今や召喚士ミトスはこの戦場の全てを掌握し、指揮していた。

『まさか、成立させるというのか……クレメンテも、ベルセリオスも無しに……』

プリズミックスターズ、そしてシャイニングバインド。
どちらも決め技とするに十二分の能力を備えた技である。
それらさえも捨て札として、ミトスは紡ぐ。己の全てを尽くし、この呪文を紡ぐ。
最初は、使うつもりもなかった。使えるとも思っていなかった。
それはただの着想に過ぎない。姉を守れる存在であるダオスに一目羨望を抱いたミトスが、
その力にほんの少しでも追いつけるように目指したものの“取っ掛かり”に過ぎない。

テトラスペルを超える力。全てを呑み込む神聖なる力。
晶術の最終形態。四属性上級術一斉放火。
グズグズの口を捨てて、石より響くように、ミトスは最後を唱えた。

「【死力は賭した。越えられるなら、越えてみせろ。カイル=デュナミス】」

大いなる力――――――――――――――それは、いつだって最後に英雄の前に立ちはだかる。



「【ディバイン、パウア!!!】」



<Turn 終了ッ☆ END>



箒から引き離され、絶えず受け続けていた推力から解放されたカイルは、宙ぶらりんに浮いた意識の中で思った。
ああ、死に囲まれている。これはもう逃げられない。
物理的に逃げられないこともあるが、何よりもミトスの殺意を改めて強く思う。

(―――――――なんて、キレイなんだろう)

それが世界の救済だろうと、殺意という醜い我欲だろうと、
望みに向かって一所懸命に尽くすことは、あの星空の瞬きよりも輝いている。
ただ、黒い星の光は夜には見えないだけ。見えていないだけなのだ。
揺らめく視界が見下ろす先に、羽虫の様にボロボロな肉塊がこちらを見上げている。
両腕を壊して、両足も潰して、顎も砕けている。
今にも壊れそうなのに、ただカイルの死を見届けるためだけに留まっている死骸。
だが、カイルの瞳に映るその骸は、どうしようもないほど英雄だった。

(高っかいな……壁。あれだけやっても、届かないのか)

全力を出した。カイル=デュナミスという一個人がもつ全存在を賭けた。
そして確かに、後ほんの少し手を伸ばせば届く位置までカイルはミトスに追いすがったのだ。
だが、それでも超えられなかった。ミトスが、それを上回った。
知識で、道具で、策で、自傷で、力で、運で、ミトス=ユグドラシルという一個人が持つ全存在を以て打ち破ったのだ。
ぐうの音も出ないほどの、決着。それはきっと小指1本分の差でしかないが、絶対的に聳え立つ差。
カイルでは、ミトスに勝てな“かった”。……ならば、カイルにミトスが超えられなかった壁をどうして越えられようか。

(嫌だ……! 諦めたく、ない……のに……!!)
生死の狭間で、カイルの願望と現実がせめぎ合う。
この道はもう大きな壁で塞がってしまっていると分かっているのに、ほかに生き方を知らぬ自分には引き返す道も無い。


――――――――――ならば、祈りなさい。かつて貴方が祈ったときように。
-チガ チヲコバム-

(誰……? 何処かで……聞いたような…………)
張り詰めていた気も遂に尽き、意識を闇に落としていく。

――――――――――弱く哀れなヒトの仔よ、そなたの願いはヒトの手では叶わぬ。“お前がそれを認めている”。
-ココロガ ココロヲクダク-

(それでも、俺は、これしか、望めない)
薄れゆく景色、見上げた双月の夜空に、カイルは今一度両の手を組みたくなった。

――――――――――ヒトが2人いればどちらかの願いが叶わぬのは自明の理。“だが、私ならば2人ともに完全な形で願いを叶えられる”。
-キセキハオトズレナイ-

(逢いたい……もう一度…………思い出なんかじゃない、……未来に、もう一度……逢いたいんだ……!!)
何故ヒトがそうするのか、分かった気がする。
疲れて、どうしようもないこの瞬間。どうしようもなく星空を見上げたくなる。

――――――――――だから、私に望みなさい。失ったものを、全て。
-ユメナド……-

例エソノ星<カミサマ>ガ紛イ物モノダトシテモ、ヒトハ祈ラズニハイラレナイ。

――――――――叶わぬ願いを、叶えられなかった願いを、この神に!!
-ソコニハソンザイシナイノダカラ-



            『でも、俺<君>はまだここにいる』



-アラガウカ!!-


<Turn   え? ちょ、何を――――  Shift>



「っ!!」
その時、自分が見たものを説明する言葉をカイルは持たなかった。
風火水土の殺人空間にいたはずのカイルの目の前にあったのは、
今よりもっと深い夜の空と、雨に濡れて冷え切った石畳の床と、その床を覆う自分の血だった。
ここは何処か、何が起こったか。それを問うよりも先に、響くように声が聞こえた。

「ディム――――」
『きっと、違うと思うんだよ』

ソーディアンとの対話に慣れたカイルは反射的に自分のソーディアンの名前を言おうとしたが、途中で止まる。
それがディムロスの声でなかったから。だが、誰の声かという疑問はなかった。カイルがそれを聞き間違うことは有り得ない。

『君は俺に憧れてくれていると言ったけど。多分、君は俺にはなれない。君の目指している先に、俺はいないんだ』

雨音に混じる呟きは、確かに誰かに伝えるためのメッセージだった。
だけど、そこにはその誰かに伝えたいという意志が感じられない。
使わなくなった蓄音機から、伝えるつもりも無い独白が流れ出すように。

『君がどんな英雄を目指しているかは、分からない。
 でも、君が目指す先にいた人を俺は知っている……2人とも、俺が守れなかった人たちだよ』

ああ、とカイルは雨に打たれ這い蹲る“自分”を感じながら“誰か”の呟く2人を思った。
一人は、女性だ。未来のために、現在を捨てることを選んだヒト。
その姿と理想の高さに眩しいと思いながらも、その高みより墜ちることを止められなかったヒト。
そして、もう一人は……少年だ。
たった一つのかけがえの無いものを守るために、仲間も、世界も捨てた誇り高き騎士。

(リオン…………)
『俺とあいつは、道を違えた。そして俺は生き残って、あいつは死んだ。
 でも、今でも……いや、“今だから”思うんだよ。あいつの生き方は本当に間違っていたのかなって』


胸を深々と穿つ斬痕から、自分以外の誰かの想いが血液と共に漏れ出す。
いくら馬鹿なカイルでも理解できた。自分が受けたことも無いこの傷は、その誰かの傷なのだと。
『誰も失いたくないと思っても、俺は子供一人の命も守れない。
 俺の手の届かない場所で、仲間の命が消えていく。……君が憧れる俺は、ここじゃ“その程度”なんだ。
 多分、リオンの生き方の方がこの世界には“合ってる”と思う』
雨音響く城跡。カイルはその場所を知っていた。
忘れられるわけもない。彼も、その場にいたのだから。
色んなものを失った。一度は掴んだ少女の手も、仮初の平穏も、そして。
『でも、俺にはあいつの生き方が本当にそれで良かったとは思えないんだよ。
 例えそれがこんな世界だったとしてもね。一人の為に生きて、一人で死んでいくなんて、そんなの悲し過ぎるじゃないか』
そんなことを考える“俺が見ている俺”が泣き喚いている。
ああ泣くなよ、よく見とけよ。今から自分の父親の末期を看取る機会さえも無くすぞお前。
『俺のような英雄も、あいつのような英雄も、多分どっちも間違いじゃない。少なくとも、俺はそう信じたい。
 でもどっちも正しくないから、必ず何かを失ってる』
スタン=エルロンの胸から溢れ出す鮮血を自らの胸に浴びながら、
カイルは小瓶を落として嘆き狂う殺人鬼に襲い掛かろうとする自分を見、そしてその死角から滑り込む弾矢を捉えた。
今から、俺はあの奈落に落ちていく。
『知りたいんだよ。君とこの空の下で話して、そう思ったんだ。
 俺もリオンも英雄になれないこの空の下で――――――――“英雄は本当にいるのか?”』
俺の手が、ディムロスを握っていることを思い出す。
それをもうすぐ手放す。何のために? 決まってる。バカで馬鹿で、どうしようもない俺が生かされる為に。
『君なら、俺の道とあいつの道を二つとも知っている君なら……ひょっとしたら……成れるかもしれない。
 俺達が諦めた本当の答えに、君なら届くかもしれない』
握るディムロスから、意思が伝わる。ああ、これは“記録”だ。
レンズに神が宿り、剣に人格が籠もり、エクスフィアに精神が溶け合う。
意思は、願いは、石に刻まれる。

『だから、守るよ。君がこの後どうなるか分からないけど……それでも、この今は守る。
 君が今から歩むだろう、この最初の一歩を守りたい』

(畜生、何で、今になって! こんなしょうもないことに気づくんだよ、俺!!)
カイルを狙い撃つ凶刃が、ディムロスによって弾かれる。
そして、殺人鬼の刃が自分<スタン>の脳天を覆う。
帳を降ろすように、世界が黒く染まる。刃と人が離れ、記録時間が終わりを告げる。
だけど、カイルにはそれ以上の記録は必要なかった。
知っている。俺は、この後を知っている。だって、見たのだから。


『ああ―――――――――生きて、よかった』 
あの、完全な笑顔を。


デッドラインの淵の淵。そこで、俺はやっとその意味を理解した。



『カイル! おい、カイル!!』
中空を舞うカイルにディムロスは懸命に声をかける。
何もかもが“わや”になってしまった死地で、ついに減圧と風圧で体と頭が追いつかなくなったか。
ディムロスのその恐れを安心させるように、カイルは薄らと眼を開けた。
『カイル……ッ!!』
「ディムロスも、守ってくれてたんだよな」
喜びを声に出そうとしたディムロスの口をゆっくりと塞いだのは、カイルの穏やかな瞳だった。
懐かしい夢を見た後のような、まどろみを抜けた後の朝のような。
「ディムロスだけじゃない。ミントさんも、クラトスさんも――――きっと、リオンだって」
眼球だけでディムロスを、そのレンズを見つめる。ディムロスは分かっていないのみたいだ。
アレは夢か幻か奇跡か。そんなことはカイルにとってどうでもよかった。
本当の意味で“生きる理由”を見つけた今だからこそ、
今の自分が多くの人間に守られて生きてきたことを実感する。
カイル=デュナミスの生の下にある夥しい死の数々。だが、今ならはっきりと言える。
その全てが、決して犠牲になるために生きていた訳ではないことを。

カイルが憧れた英雄は、カイルを助けるために自分が犠牲になったとは一欠けらさえも思っていなかった。
守りたい。あったのは、ただそれだけの願い。少なくともカイルにはそう信じられた。

「守りたいって気持ちは、それだけで凄いんだ」

もしそこに打算があったとしても。
例え悪意に満ちていたとしても。
ただのエゴでしかなかったとしても。
誰かを守りたいという意思は、それだけで尊い。
その意思を、“生”を託すということは。

――――――――でも、俺はまだここにいる。まだ仲間が生きてるからとかじゃない。
        こう……何ていうかな、ありきたりだけど、俺の中にいるんだよ、うん。

(やっと分かった。父さん、そういうことなんだね。
 俺は、まだ生きてる。俺の中で誰かがが生きるんじゃない。
 俺を支えてくれた人たちの中で、俺が生きてるんだ)

カイルの手のひらに力が僅かに宿る。
多くを失いすぎて自分を見失った少年が、もう一つの宝を見つける。
自分の願いがなければ、犠牲にしか見えないもの。自分を生かしてくれた人たちの願いを。
空を見上げる。もう殆どが炎と風と雪に隠れてしまった中で、一際輝く星を見つける。
カイルはディムロスを握るその手を伸ばした。足掻くように、震えた指をそこに近づける。
僅かに灯った生は淡く、死は直ぐそこに近づいている。それでもカイルはそれを追い求めた。


(俺の命は、俺だけの命じゃない。生きる理由を見つけた今なら、分かる)

例え誰も守れない生き方だとしても、誰に守られて生きているか位は分かる。

届かない一番星。
ああ、あの一番星だ。
あの星の下で、約束した。

「ディムロス。俺は“帰るよ”―――――――――帰りを、待っている人が居る」



小指が、誰かにひっぱられたような気がした。
冷たい、でも決して冷めてない小指が、カイル=デュナミスの小指を引き上げる。
それはほんの少しの“引力”だった。
かつてのカイルには枷でしかなかった“死ねない理由”。
今ならばそれは杖となる。その歩みを支えてくれる力となる。
ミトスにあって、カイルには無かった力。その微力が――――――カイルの小指一本を、あの壁に引っかけさせる。

「今なら誓える。生きて戻る。あの人に、言わなきゃいけないことがある」

心に火が灯る。紅くて蒼い、魂の炎がカイルを満たす。
生きて帰る。たったそれだけのことを誓うのに、俺は一体どれだけの回り道をしていたんだろう。
あまりに愚鈍でどうしようもなく莫迦だ。でも、無駄だったとは思わない。
守ること、犠牲になるということ、罪と罰のこと、生死の価値。
全部繋がってたのだ。だから今なら答えられる。
生きるという、その本当の意味を。

『この力……レンズパワー……100……140……170……まだ上がるというのか!?』
魂が、剣を伝う。カイルの意思が、ディムロスを包み込む。
これは、神が思召した奇跡か? 否、これは意思の、心の力。
『300オーバ!? まさか、第二形態?……いや、今は問うまい!!
 この力なら……カイル、最終コード起動!! 俺に続けて唱えろ!!』

カイルが頷き、ディムロスを両の手で握り直す。
纏っていたスピリットブラスターの輝きが、ディムロスに集約する。
魂を燃やすその意思が、レンズを介し、剣の魂さえも爆ぜさせる。


【 】

何も無い。黒い雲渦だけが回り続ける場所に、カイルは立っていた。
その向こうにはソーディアン・ディムロスと、それを握る腕。
紅いグローブと、真白い鎧。向かい側の人間が誰かを知るには、それで十分だった。
カイルは誰何すること無く、時を惜しむように言葉を紡ぐ。

「まだお礼も言ってなかった。
 “ありがとう。”俺を生かしてくれて。
 “ありがとう。”俺を死なせてくれなくて」

喜べる。素直に俺が今生きていることを喜べる。
それが例え犠牲と呼ばれるものだとしても、多くの死の上にある命だとしても。
そこから更に踏み出せることが、こんなにも嬉しい。

「それを思い出させてくれて、ありがとう。そして、ごめん――――」


カイルの言葉を遮る様に、放り投げられたディムロスがカイルの眼前で大地に突き刺さる。
男は、世界を救った英雄は、優しげな声で言った。

【分かってる。今の君に改めて託すよ。ディムロスは君をもう認めてる。
 好きに使いな。俺はもう、あの時とっくにこれを託してたんだから】

カイルは何かを言おうとして、それを堪えた。
剣士にとって剣は己が半身だ。それをカイルに向かって投げられたということの意味。
カイルは、あの城でとうの昔に受け継いでいるべきそれを噛みしめてディムロスを握る。

【そのかわり】

先ほどまでと比べ物にならない厳しい音に、カイルの筋肉が強張る。
英雄は大らかに、堂々と、ただ願いだけを言葉にする。

【取り戻してこい。“お前”にとって、かけがえのないものを、一つ。
 きっとその子も待ってる。俺が言うのもなんだけど、女の子は待たせると恐いぞ?』

暗雲が晴れ、払拭された雲の向こうから太陽の光が広がる。
その陽射しの眩しさに、カイルは涙を零し掛けた。
カイルは今から旅に出る。あり得ないものを見つけ出す旅に。
終点は何処にあるか分からない。一歩歩いたその先で終わるかもしれない。

カイルだけが挑む英雄デュナミスの冒険譚。
その旅の始まりに得る餞別として、これほどのものがこの世にあるだろうか。

カイルは英雄に背を向ける。道はこれより違え、もう二度と振り返ることはない。
だから、カイルは語った。今はまだ頼りないその背中で、未来に誓うように。

「知ってるよ。じゃ、行ってきます!」

玄関より駆け出す少年に、父親はただ手を振って見送った。
振り返ることのないその背中に、一抹の寂しさと万感の自慢を覚えて呟く。

【おう、行ってこい。カイル、俺の―――――――――

大丈夫だよ、ルーティ。あいつは、もう自分の翼を持ってる。
越えられないものなんて、何も無い。


「『不死鳥は巨大なる力を秘めし者にのみその姿を現す!!!!」』



――――――――――――――――


嵐・炎・氷・震。ディバインパウアの魔力が収束へと向かう一点を、アトワイトは見続けていた。
ミトスの持つ技術を余す所無く用いて構築された大魔晶術は、文字通り人間を最低でも4回は殺せるだろう威力を顕わにしている。
長い、永い戦いの終着を決して見逃さないよう、それこそが今自分にできる唯一の手向けというように。
(ありがとう、カイル。貴方がいなかったら、きっと私は道具としても死ねなかった)
人間として生を渇望することも出来ず、道具として死を割り切ることも出来ず、
ただぼんやりとした終わりを迎えていたことだろう。
カイルが、自分の心とディムロスと向き合うことを示してくれた今だからこそ、
人としての全てを満たした彼女は、道具として未練なくこの終わりを迎えることが出来る。
(私は、本当に子供に弱いわね……あの直向な顔、髪の色は違うけどあの子そっくりだわ)
未来を見通すように大きな虹彩に、アトワイトは会うことも出来なかった本来のマスターの姿を重ねた。
その記憶さえも疑わしいものであるとはいえ、それも已む無しか。
道具という役割を徹したとはいえ、マスターを鞍替えた事実は揺るがないのだから。
(ごめんなさい、ルーティ。でもどうにも、この子は危なっかしくて放って置けないのよ)
後悔は無い。ルーティと何もかもが違うとしても、彼のとった行動が決して人の為にならぬものだとしても、
我が刃を握るこのマスターもまた、運命に抗おうとした一人の子供だったのだから。
だから、彼女は見届ける。もう一人の運命に抗い尽くした少年の終わりを。
(もう一度、ありがとう、カイル。最後の最後まで、ミトスに付き合ってくれて―――――――)

『――――――――――――――――は?』

そのとき見たカイルの姿を形容する言葉は、千年を永らえた彼女でさえ持ち得なかった。

そう、彼女は“カイルを見ている”自分を正確に認識している。
その決着を一瞬たりとも視界から漏らすまいとその人工の瞳から見続けている。
だからこそ理解できる。“それは絶対に有り得ない”ことなのだと。
(ミトスのディバインパウアは完璧な正四面体を構築している。蟻一匹入る余地も無い)
重ねて自らに問いただす。彼女は、今カイルを見ている。
血まみれで、傷だらけで、生を垂れ流しにしている死に体を見ている。
嵐と豪雪と炎と岩石、術の密室に封じられたカイルを――――――“見ている”。
(なんで、術よりも奥にいるはずのカイルが、見えるの? って、いうか……)

だからこそ見ることの出来ないはずのカイルが、アトワイトには見えていた。
だが、その理由もアトワイトには一見だけで理解できている。“だからこそ、分からない”。

『全長、15.7メー、トルッ……!?』

空飛ぶ飛行竜を見ながらでも、背後の積乱雲を見ることが出来るように―――――――
カイル=デュナミスの姿は大いなる力よりも“巨きく”見えていたのだから。

『巨人、立つ<ビッグ>……?』

この村は、一体何度自分を驚かせば気が済むのだろうか。
赤い巨人。アトワイトは目の前に存在するカイルをそう表現するしかなかった。
夕日のごとき赤さを持つ巨人とディバインパウアは既に接触しているが、
当の巨人は苦しみこそしてはいるが、術を食らったことに痛みを覚える様子も無く、
その威力と効果さえも痛みを感じぬその巨躯の前では巨人の腹の辺りでじゃれる獣程度にしか見えない。


『うそ、だって、アタッチメントディスクは』

違う。“これは違う”。
アトワイトの積み重ねてきた“偽りの記憶”が己の口から漏れ出したそれを否定した。
ここまで何合も至近距離で刃を交えてきたのだ。ディムロスに『きょじんたつ』のディスクは装備されていない。
ならば今まで隠していたか。否、隠す意味も無く“この局面でビッグは有り得ない”。
ビッグは文字通りに術者を巨大化させる晶術であり、
彼女とミトスの前で巨大化するということは、『的を大きくしましたのでどうぞ心置きなく血塗れにしてください』と言うに等しい。
(幻術? 真逆、そんな高等技術クレメンテならともかく、ディムロスに出来るはずも)
だから、これはビッグではない。でも幻でもない。だったら、これは一体。

あまりにもバカバカしく、そして不可解な現象に思考を落とされたアトワイトは巨人カイルが振り上げたディムロスに気づくのが僅かに遅れた。
クレスの次元斬など比べ物にもならない、この大地さえも一薙ぎに出来そうな大剣の刃が彼女らに垂直に持ち上げられている。

『しまっ、ミトス、避け』
「ねぇ、アトワイト―――――――――――――」

アトワイトがマスターに促そうとした喚起と同時に刃が振り下ろされる。
逃げる? そのぐちゃぐちゃな四肢で、どうやって?
圧壊必至の天からの一閃を見上げ、ミトスは裡に溜まった澱を全て吐き出すように呟いて、



【「フェニックスと鳳凰の違いって知ってる?」】


剣とミトスが衝突し、爆風が舞い上がった。


―――――――――――――――

なるほど、成程!! そうか、そういうことか!! 
と、いうことはあれか、ここまでは読んでいたと、そういう訳だ!!!
面白い、すごく面白いよ。いいよ、実に好い。その無駄に大きい乳房は唯の脂肪の塊ではないという訳だ。
“上等”。
ジャッジ・サイグローグ! “<私>”はこの手を許可する!!

お望み通り、最後まで付き合ってあげるよ。その代わり、盛大に死んでもらおうか!!

―――――――――――――――<Turn



吹きすさぶ風の中、アトワイトは目を開けた。
砕けたと思った我が身は依然として硬度を保ち、その精神も保たれている。
あれだけの大きさの刃を受けて、無事で居られるはずがない。
だが、その理をせせら笑う様に彼女の主は空を見上げて嘯いた。

「フェニックスは……アスカの伝承と純粋なモンスターがごっちゃになってるんだけどさ、
 まあ俗に言う、不死鳥だね。火属性を司るから、イフリートの眷属になるかな?」

何も変化がない。あの巨人が消えて、ディバインパウアが集っていく。
変わったといえばせいぜいこの熱風だけ。まるで、あの巨人の残骸が熱になってしまったかというように。
(………熱? 温度差……エクスプロードに、ブリザード……サイクロン……っ)

『蜃気楼ッ!! この温度差を更に上乗せしたというの!?』
【そういう意味では鳳凰も火属性と言われている。でも、実際には違う。
 確かに火の属性も持つが、それは南方を護る火鳥とごっちゃになって後から付属した属性だ】

かつて語られた物理法則に重ねて曰く、光の屈折率は、大気の密度差―――――“温度差”に依存する。
急激な温度差が低くあるものを中空に映し出す様を見て、古代の人間は竜が息を吐いて楼閣を建てたと信じた。
クローナシンボルの一件と同じだ。その温度差そのものは術から生まれたものだとしても、
そこから副産物として派生した物理現象は術そのものではない。
故に、超常現象を自分の説明できる領域で解釈しようとしてしまった晶術のエキスパートはそこに気づくのに一手遅れる。
巨人の幻を抜けたこの奥で、今もなお彼女らのディバインパウアは本当の彼らを殺そうとしていたのだから。

『嘘でしょ? いくらディムロスが万物の火を操れたとしても、ここまで精密に光を曲げられない!!』
【読み違えた。何度潰しても這い上がるから、不死鳥だと思い込んだ。
 あの剣、この焔。僕はあいつをスタン=エルロンの延長線上と“決め付けてしまった”】

あと10秒も待てば、自分たちの奥の手がカイル達を包み殺す。
そう分かっていても、アトワイトはこの怪現象への思考を止められなかった。
あの大きさが幻と分かった今でも、悪寒が絶えない。
まるで、ミトスとカイルの“巨きさ”の差を目の当たりにしたようで。
空気を熱すれば、世界が歪むのは当然。だが、それをどう歪めるかまでは操作しきれるものではない。
その為には直接支配するしかない。大気の温度差を“それによって付随するものを”。


『私のように水を通すか、大気そのものを操れなければ―――――――――――――――あ』
【鳳凰の本当の属性はシルフ。そして】


そして、アトワイトはようやく主の見る先へ視線を移す。
晶魔乱れ合う死の渦の中心。そこで屈折無く輝く、一条の光を。


【カイル=デュナミス……焔の英雄から生まれたのは、風遣いだったのか】


火と水より風は生まれる。鳳凰――――――――――それは英雄が現れるときにのみ現れる。


―――――――――――― Shift>



ディバインパウアの結界。その中の僅かな隙間から輝きが漏れ出す。
その源泉はカイル、いや、彼の持つディムロスだった。カイルの心の内側から放たれる魂の輝き、スピリットブラスター。
体全体から溢れ出ていたその力が、ディムロスという一点に集約している。
人と刃を繋ぐソーディアンの真価が、その輝きを循環・増幅させていく。
それがどういう現象から“そう”なったのか、カイルもディムロスも問わなかった。
自分たちの魂魄が繋がっているという感覚だけで彼らは充実していた。
「カイル、これで最後だ。お前も、俺も」
ディムロスが真剣そのものとして言った。
肉体的には、とうの昔に振り切れてしまっている彼らの限界。それを超越させていたのは彼らの精神だ。
カイルはおろかディムロスの魂までも燃やす以上、その後に残る肉体を保つものなど無い。
カイルはただ首肯して応じた。目を閉じ、体中から血混じりの汗を吹き出しながら周囲の空間に集中している。
ミトスに箒を奪われてなおカイルを宙に留めさせ、本来ならばとっくに収束しているべきディバインパウアの侵攻を遅らせているもの。
鳥が羽ばたくことを止めても、羽ばたいた後に風は残る。
不発に終わったことで行き場をなくした、翔王絶燐衝の膨大な風力を、カイルは再び自らに集めていく。

イメージする。壁を越え、帰るべき場所へ飛んでいく。
渡り鳥。羽? ……少し心許ない。行くべき場所は遠く、越えるべき壁は高い。もっと大きく――――翼のような。

ロイド、そしてミトスの羽を思い出す。
かっこいい蒼い翼、綺麗な虹の羽。

「ぶっ」
『どうしたッ やはり無理が!?』

風が収束するごとに、ディバインパウアがカイルに迫っている。
その死力の中で見当違いの気遣いを見せるディムロスに、心配ないと慌てて制する。
彼らの天使の羽が自分についたときを想像して、
その何ともいえぬ微妙さに耐えられなくなったのだ。
「俺にはああいうのは、似合わないかな。やっぱ」
今の身の回りも今から進む道も、お世辞にも綺麗とは言い難い。
「俺には、こういうのが合ってる」
ディムロスの刀身とレンズの輝きが最高潮に達する。
集められた風が、ディムロスの刃を通る度に熱され、赤く染まっていく。
血のように後ろめたく、太陽のように愚直で――――――――炎のように狂ってる。

「これで最後だ、ミトス。”行くぜ”!!
 燃え上がれ、俺の魂<スピリットブラスター>!!」

熱された風が、ついに着火する。
集められた酸素も、気中の塵も何もかもが燃え広がる。

『レンズパワー300%!!! CODE:BLASTCALIBUR――――――――起動!!』

ディムロスの中に伝わったカイルの意志が、その光を爆発的に輝かせる、
カイルを纏うように燃えていた炎が後方に二つ延びる。
その形は、正に――――――――

「一子相伝在らず! ただ託された意志――――――――絆にてこの技を繋ぐ!!」

“鳳凰、焔を受け継ぎ、今こそ不死鳥と甦る”

「『皇王、天翔翼ッ!!』」




攻囲網の中より突如現れた炎の鳥。
4つの上級術の中でもハッキリとわかるそれを見ながらアトワイトは胸中を吐露した。
「追加秘奥義……ですって……ッ!?」
彼女の驚きは無理からぬことだった。
不発に終わった秘奥義を強化して甦らせたこと。
あの絶対的敗北の境地でまだ諦めていなかったこと。
秘奥義を重ねるという発想にカイルもまたたどり着いたということ。
ここまで積み上げられて声を漏らすなという方が酷だ。

そしてなにより、あれだけの優勢が一転し、ミトスの危地を生み出しているのだから。

「おおおおおおおおッッッッ!!!!」

網にもがく鳳凰が、自らへの戒めを引きちぎろうと自らの正面に突撃する。
逃げる獲物を許さぬように聳える四方の守り。
絶望に打ちひしがれ、ただ祈るように最後を待つのならば
与えられるのは寸分違わぬタイミングで集まる4つの上級術のフルコースだ。
だが言い換えれば、一歩でも前に踏み出せば、打ち破るべきはただ一面だけになる。
(確かに、ただ待つに比べれば一瞬とはいえ威力は25%にまで下がる……けど、本気でやる!?)
無論、口で言うほどたやすくはない。
落ちるといっても、術の頂点に達する上級術。そして、一瞬後には残りの3つが背後より襲い来る。
たった一歩で何かが変わるなどと期待も出来ない絶望の世界。
そんな場所で一歩前へ踏み出すことが、どれだけ恐ろしいことか。

だが、その一歩を踏み出せる意志を持つものだけが、
この活路を見いだせる――――――――ミトスとカイルを隔てる壁、唯一炎属性に有利が付く絶対氷壁へ!!

「ギャガッ、カカカカッ!!」
「ミトスッ!?」

ミトスの口から音が漏れた。顎を自砕したそこから響く音が笑いであったと気づける者が何人いるだろうか。
破壊された大笑とともに既に無くした右腕を振って、ミトスは残りカスの魔力をさらに捨てる。
ピシリ、とミトスの輝石にヒビが走り、12枚の羽の1枚
が弾け飛んだ。
同時に魔力を上乗せされたディバインパウアが、今までよりもさらに暴力的に圧を増す。
カイルが檻を突き破るより早く圧殺する。
愚直なまでの挑戦に、王者は小細工のかけらもない力勝負を挑んだ。

「あああああああああ!!!!!!」



益々の威力を増して迫りくる後方の風火土、
そして不死鳥の業火をもって尚溶かし切れぬ豪雪。
少しずつ吹雪を切っ先をいれつつはある。だが、それ以上にカイルの背後に三重殺が迫っていた。
正真正銘の絶体絶命。だが、カイルには自らに迫る死を一切意識しなかった。否“忘れていた”。

往く。飛ぶ。越える。ぶち抜く。ぶっ飛ばす。

カイルの脳裏にあったモノはただそれだけ。
自分を支え、押し上げてくれる力に後方の全てを託し、
ただ前へ。1mmでも前進し、昇る。不死鳥の嘴を氷へと突き立て、突撃する。
今のカイルはこの吹雪の中でさえ匂ってきそうな「生」に充ち溢れていた。
何度地面に墜ちようと、壁にぶつかろうと、越えるまで飛び続け、突き破るまでぶつかり続ける意志に。
それだけが、その背中を支えてくれたモノへ示せる唯一の光だとでもいうように。
カイルは二度と、その信念を疑いも曲げもしない。

そう、それこそがカイルの生の形。
カイルをカイルたらしめるその信念<ワガママ>に――――――――破れぬモノなど、ありはしない!!

「ミトスァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ガジルァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!」

爆散。不死の鳳凰を殺せる力が臨界に弾けた。



オーバーリミッツの黒い波動が消え去り、ミトスの両膝が地面に落ちた。
度重なる酷使に、その肉体はとっくにグズついている。
アンデットでももう少しマシだろう屑肉の両眼は、己の姿を省みることなくただ目の前の爆煙を眺めていた。
露出した下顎に残った数少ない歯がぷらあんと抜け落ちる。息が上がっていた。

全力だった。出し惜しむもの全てを放り投げた。
一体何百年ぶりだろうか、こんなに疲れているなんて。
疲れるなんて、有機生命体の持つ無駄の顕著な例だ。
なのに、それが今自分の心を満たしている。
本来の自分には絶対にあり得ないものが、死骸には心地よかった。
何故、と問えぬ位の疲れだから気分がバカになっているのだろうか。それでもいいとさえ思えた。
重力と達成感と疲労感に双肩を押され、ミトスの上半身が地面へと下る。
その瞳を空へと向けたまま、ミトスは墜落する中、ヒビの入った輝石に手をかけた。
一切の執着はなかった。
あの英雄が墜ちた。それだけで、彼が満足に死ぬには十分だった。
元々、生きたくもなかったのだ。
無機生命体になって知ったはずだ。死んでいる方が、生きているより優れている。
不安定なノイズだらけの生なんかより、死はよっぽど完成している。
こんなクソのような世界で、奪われるだけで何も得られない世界で、生きる気もなかったのだ。
姉さまが甦ったところで、その心を取り戻すことができないと分かっていたのに。
世界の全てに復讐したところで、満たされないと分かっていたのに。
何をどうしようとしたところで、ミトス=ユグドラシルの生は四千年前に終わっていたのに。
生きて叶わない願いを夢見続ける位なら、死んでしまう方がよっぽど救われている。


ああ、でも。
なら何で今、こんなにも気分がいいんだろう。
苦痛しか無かった僕の生が、今終わるから?
それにしては、やけにスッキリしているように思うのは、僕のノイズだろうか。

それを見つける前に、僕は死ぬ。
未練というほど大きなものでもないから、死ぬには子細無い。永遠にぼんやりし続けるより、よっぽどいい。
だけど、お前なら、
お前なら、その答えを知っていただろうか――――――――

「どっりゃああああああああ!!!!!!!!!!!」

黒煙の内側から一条の筋が走る。その先っぽには、煙の大きさに比べれば豆粒のような影。
既に殆ど帳の落ちた空に、それが何かを捉えるのは難しい。
だが、ミトスには分かってしまった。
千里先を聴く天使の力が、夜を見通すエルフの血が、
そして何より、世界を動かす英雄の真実が、同じ存在を違うはずもない!!

「あ、ぃる」

既に剣の輝きは消え去り、背中に申し訳なさそうについた燃え残りのような鳳凰の残骸も消える。
融解と凍結を繰り返したのだろう顔面と髪先は氷と滴と鼻水に汚れていた。
だが、生きている。先に融合した三術の爆発を背に受けて、その推進力を以て極寒を打ち破り、カイルはここに生きている。

何故などとミトスが問うはずもない。
風も纏わず、墜ちるように落下している。剣だけはしっかと握りしめたその瞳には笑いを作ることもできなくなった自分の笑顔が映っていた。
理由はそれで十分明白。生きて――――生きて、決着をつけるためにカイルは今生きている。

どうやら、頭を完全に叩き潰さないと勝った気になれないらしい。
あのエセ天使といい、こいつといい、何処までも人をバカにする。
こちらはもうとっくに動けないというのに、死ぬだけだというのに。
バカが。そんなことをされてしまったら――――死ねないだろうが。

『ミトス!?』
みじ、ぎち、と筋肉が潰れる音がミトスから響く。
立ち上がろうとする動作をしたくても、それに付随する骨格が機能していないのだった。
痛覚無き無機生命体であろうと骨格には逆らえない。
絞りきった雑巾からさらに汚水を取り出すように、
無理に動かした筋から本来流れるはずのない血液が押し出される。
命だったものが、崩れていく。
だが、ミトスは立ち上がろうとした。両腕の使えないまま、足だけで身体を起こそうとする。
(起きろ。僕の身体、起きあがれよ)
『もう止めなさい!! あんなのじゃ貴方に届かない。待てばカイルは死ぬわ!!』
アトワイトの言葉を意図的に無視してミトスは足掻く。
ぶちぶちばっずん。かつて金の髪と純白の衣に包まれていた天使は、土と血に塗り尽くされていた。
(あいつが、生きている。生きて殺しに来てるんだよ)
ミトスの羽がバタつく。肉体的に起きあがることを諦めて天使の力で体を起こそうとする。
だが、身体が持ち上がろうとしたところで羽がまた一枚、砕けた。
(殺すんだよ。潰すんだよ。二度と英雄なんて言葉吐けないようにグウの音も出ないくらいにぶっ倒すんだよ)


なんという不運。今頃になって落下してきたファフニールがミトスの手甲に突き刺さる。
「あ、ああ”っ」
『ミトス!』
ミトスは苦痛に呻きを隠せず、アトワイトを手落とす。
痛覚制御が効かなくなって、いよいよもって窮まってきた己の身体。
だが、ミトスはそれを不運とは思わなかった。
もう剣を握る握力もない。だったら、いっそ突き刺さっている方が持ち運びやすい。
僅かばかりの魔力にほんの少しだけ渇きを癒したミトスの身体が、ゆっくりと持ち上がっていく。
『どうして!? どうして立ち上がるの!? もう、十分じゃない。そうまでして、どうして!?』
遠ざかるアトワイトの最後の言葉。
(どうしてか、だって? そんなの決まってるだろ)
苦しい。痛い。死にたい。パンクしそうなほどのノイズにミトスの脳は悲鳴を上げる。
だけど、立ち上がり続けることを止められなかった。
(頼むよ。僕の身体、あと1分なんて贅沢言わない。10秒、いや、1秒だけでもいい。保ってくれ)
ミトスの身体が、ついに二本の足で大地に立つ。
止めたくない。1分でも、1秒でも、この時間を終わらせたくない。
1秒あれば、もっと前に進める。それで何かを変えられるかもしれない。
(今だけなんだ。あいつの前に立ちはだかることができるのは、今しかないんだ)
さらに一枚。虹色の破片とともにミトスの身体が宙に浮かぶ。
この一瞬が、今のミトスにとって全てだった。
歩んできた四千年も、かつて夢見た千年の王国も、この一秒に比べれば無価値に等しい。
(畜生。終わりたくない。もっと続けたい。
 まだ行ける。僕は、僕は、まだ―――――“死にたくない”)

その瞬間、ミトスは否応にも気づくしかなかった。
死にたい。死にたいと希っている自分が今、生きたがっていることに。

「はっ…………あは…………あはっ、あはははははは!!!!!!!!!!」

両足を地面に叩きつけ、その反動を脚に蓄える。
同時に、天使の羽が輝きを放つ。二枚が散りて、ミトスの身体を光に包む。
これが、生きているということなのか。死にたい、死にたいと苦痛に喘いで、それでも生きてしまっている。
なんて、なんて――――――――なんて楽しい!!

跳躍、そして転移。
転移後の隙を潰す為に、助走をつけて翔んだ。
この後に及んでまだ僕は勝ちたがっている。
ああ、そうだ。勝ちたい。僕は勝ちたいのだ。
姉様の為でもなく、世界のためでもなく、復讐でさえもなく、
ただ僕が、ミトス=ユグドラシルが、こいつに勝ちたくてたまらないのだ!!
運命、神、世界。そんなもの、今この瞬間に何の価値がある?
だから僕は、追い続けたんじゃないか―――――――――――――――

転移の光が掻き消える。そして、自分を覆う黒い影。
誰と問うまでもなく、左腕に突き刺さった刃を翳す。
怨敵もまた、背中まで回すほどに刃を降り上げている。

「おおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオッッッッツ!!!!!!!!」
「AAAAAAAAAAAAああああああぁぁぁぁぁッッッツ!!!!!!!!」

英雄たちの願い。その意志は高らかに――――――――



この島唯一の村。その北端で、2人は鳳凰が消え去る所を見つめていた。
遠目にも見えた激戦の痕跡は全てが大空に溶けて、残るのは人の記憶だけだ。
「終わったな」
時計を確かめながら、1人がそう呟いた。
この距離ではどちらが勝ったかなど分からない。
ただ、鳳凰が死んだその位置、そこからここまでの距離と
長針短針が直線を貫くまでに残された時間の帳尻が合っていないことだけは明白だった。
「しっかし、驚いたな。まさか巨大化までしちまうとはよ。お前が守る必要なんてなかったんじゃねえの?」
彼は冗談を交え、言外に戻ることを提案した。
回りくどい言い方をしたのは、当然もう1人の意志を案じてのことだった。
僅かばかりに、弓の弦をしならせる。
万が一暴走を始めたならば、即座に覚悟を決めなければならないかとさえ彼は本気で思っていた。

だが、その不安を余所に、もう1人は冷気を発することもなくただ北を見つめていた。

「…………何、お前心配じゃねえの?」
肩透かしを食らった1人は、素直な気持ちで己が疑問を吐いた。
男は振り返らず、呟く。
「心配さ。だけど」
「だけど?」

1人の反芻に、彼は手のひらを、その小指を見つめて言った。

「約束したからな」

ごちそうさまと、ティトレイは首を振った。
勝っておけよカイル。じゃないと、後がマジで洒落にならんぜ。


ぼたり、ぼたりと紅い雫が空に墜ちる。
心臓をめがけて、大剣が天使を貫く。
剣の先から雫が、少年の口から言霊が、同じ意味にこぼれた。

「俺の、勝ちだ。ミトス=ユグド、ら、し…………」

少年の眼から生彩が抜ける。張りつめていた意識をついに奈落へと落とす。
空より大地へと落ちようとする少年を、英雄は抱えた。
「バカかお前。ロイドが言ってただろ。殺すなら頭骸だって」
このまま落とせば、英雄の勝ちだ。
だが英雄はそうせずに心底厭そうに、楽しそうに笑った。
求めた物は生死ではなく勝敗。そして、それはもうついた。
そしてなにより、英雄は生きることの意味を知っていた。
永き闘いの決着は刹那。
その刹那のために、死にたいと願い続ける。
それが生きるということだというのなら、



【ああ、お前の勝ちだよ。英雄】

生きているって――――――――なんて素晴らしいんだろう。





PLAYER OF HOPE  WIN!!

Result

EXP 1
GOLD 0
GRADE 756.0

GET:S・アトワイト


カイル ”鳳凰天駆”修得!!
カイル ”皇王天翔翼”修得!!


――――――――

「…………降参。おめでとう、君の勝ちだよ」
両の手を上げて白旗を上げるような格好をしたベルセリオスは素直に己の敗北を認めた。
自分に絶対的な自信を持つ者にしては珍しいことだが、盤面を見れば当然のことではある。
炎剣は天使を打ち破り、あまつさえ世界に諦観した天使に生きることの価値を認識させた。
下座が対戦席に座った時点での状況から鑑みれば、これ以上の戦果はそうそう得られるものではない。

このゲームの“ルール”さえ理解できずに成す術なく敗退した他の雑魚共とは比べるまでもない。
今までの対戦相手の中では、最強のプレイヤーだ。
ベルセリオスは下座の能力を過つことなく、正確に評価していた。
そして、その力を以てしてでも自分には勝てないということも。
「…………ばっかじゃないの? 何が生きるって素晴らしい、だ。今から死ぬってのに」
大地を這い蹲るアリを空から眺めるかのように、ベルセリオスは酷薄に吐き捨てた。
そこには、今まで散々無理させてあちこちに傷を作った駒に対する労りは欠片もない。
過程に興味を持たずただ結果だけを見据えるベルセリオスにとって、
駒がどのような思いで動いていたのか、その傷ひとつひとつに込められたものなど茶碗についた飯粒一粒の価値もなかった。
ただその役割を、炎剣の死を確かなものとしたことだけが全てだった。
勝負というものは、十中八九始まる前に決している。
それを体現するかのような予定調和の結果が、この戦いの結末であることは疑いようもない。

「…………ベルセリオス様…………貴方のターンです…………」
流石の道化師も不服があったか。
表情こそ変えぬものの、声色に僅かな感情をにじませてサイグローグは手番の移動を告げる。
決着がついた以上、盤の整地を、ゲームの後片付けをしなければならない。
「あー、はいはい。敗戦処理は負け側の役目ってね。
 それじゃ、そっちの健闘を讃えて綺麗に終わらせて上げるよ」

こっちはこいつらが死ねば、それで十分だしね――――――――
既にB3のことなど眼中から外したまま、ベルセリオスの冷たい指が2つの駒を掴んだ。


<Turn RESTART>




殆ど黒く落ちた空。目を覚ましたカイルの眼に映ったのはそれだった。
「俺…………」
微かに赤に微睡んだ夜空に、カイルは自分が生きているのか死んでいるのかさえ曖昧だった。
それほどに、カイルは全てを出し尽くしていた。
自分の存在まで出し尽くしてしまったような稀薄感に、カイルは自分の相棒に自らを尋ねる。

「ディムロス…………俺、って、いっで、痛、いんどお! あづ、熱、うっずいっだ!!」

だがそれを教えてくれたのはディムロスではなく、自分に散々蓄積した痛みだった。
緊張の中に置き去りにしてきた無数の痛みが、待ってましたとばかりに利子をつけてカイルに押しつけられる。
自らを抱き締めるように肩を手で押さえ、カイルは呻きを漏らした。
痛みに半分、そして喜びに半分だった。
「痛、あ、っはは、生きてる。生きてる…………!!」

最後は無我夢中で殆どよく覚えてはいないが、
ミトスの刃が自分に迫っていたことだけはしっかり覚えていた。
どちらが死んでも、どちらも死んでもおかしくなかった一瞬。
その先に生きていることが、嬉しくない訳がない。
だが、同時にカイルはディムロスの不在に気づいた。
スピリットブラスターをリンクさせる域にまで達した相棒が手元に無いことに不安を覚えぬ訳がない。
「ディムロス、一体何処に…………」
【あっちだよ】
カイルの右側から延びた指が、ディムロスの落ちている場所を指し示す。
カイルはその指に導かれるように後ろを向いた。
仰向けに倒れた骸の上に十字架の如くディムロスは突き刺さっている。
「あ、あった。も~ディムロス、心配しちゃったじゃん。
 いるならいるって、言って、くれ、た…………」
カイルはそこでやっとのことで気づいた。
俺の手は二本しかなくて、あそこにあいつがいて、
じゃあこの俺の横から延びてる手って、誰のだ?
というか…………この声って、もしかしなくても…………

「あ、アリガトウゴザイマス…………あの、それで、ドチラサマで…………?」
これだけの激戦の後だ。カイルの感覚が鈍っていても無理はない。
だが、今まで命を奪い合っていた相手の声を忘れるのは如何なものか。

【どこにでもいる、ただのハーフエルフですよ。誰かさんのせいで死んじゃった、な】
「お、おば、オバババ、おっ、オバケェェェェェェェェ!!!!」

尻餅をつくカイルの醜態に溜飲を下げたミトスはクスリと笑った。
【別にとって食いはしないよ。乗っ取れなくもないけど、お前に憑くなんてこっちから願い下げだ】
年相応の微笑を見せる少年の姿は、夜に溶けてしまいそうな半透明だった。



何かを探すように周囲の草群を見渡すカイル。
足を満足に動かせないカイルの杖となったディムロスが小言を吐き続ける。
『アストラル体、という奴か。2度目とはいえ慣れぬものだ。
 にしてもカイル、お前も一度見ていたろうが。
 俺の…………いや、我のマスターとなるつもりなら、この程度のことでいちいち狼狽えるな』
「そ、そこまで言うことないだろ! それに」
『貴方だけには言われたクないと思うわよ』

第三の合いの手がした所をカイルが見れば、そこには草に紛れたアトワイトの姿があった。
『カイルが血を流す度に心配しちゃって。よかッたわね、ソーディアンで。
 人間だったら胃に何コ穴があいていたことか』
『それはお互い様だろう。まったく、無茶をするマスターを持つと、苦労が耐えんな」
「全くね。まあ、そこを含めて認めちゃったんだから、仕方ないんだけど』
やれやれ、と肩をすくめるような口調で同意を促すアトワイトに、ディムロスは反射的に抗った。
『な、何をいうか。誰がいつこいつをマスターとして認めただと!?』
「え、だってさっき」
『アレは…………一時的なものだ! 確かに勝つには勝ったが、その内容は隙だらけの無駄だらけ。
 ヴェイグが我を振るっていたならもっと早く片づいたぞ。そんなことでは、当分はマスターの座はやれんな』
「うわ、ひでえ!!」
『よく言うわ…………最後なんてノリノリで叫んでいた癖に。
大体何よブラストキャリバー!!(キリッ)って、人間的に言えば千歳越えてるのよ? 恥ずかしくないの?』
「いや、アトワイトさんも人のこといえないと思う」
カイルの至極真っ当な指摘に、ディムロスもアトワイトも押し黙ってしまった。
いくらあの時はいろんな意味で発憤していたとはいえ、
今思い返すとシャルティエが基地で秘密にしていたあの日記並に恥ずかしいものがある。

「『『ぷ、ぷは、あっははははははは』』」

誰とも無く、笑い声が広がる。
誰も彼もがボロボロに情けない中で、今更恥ずかしいも何も無いことを思い出したのだった。

『はは…………ねえ、カイル』
アトワイトが笑いを鎮め、カイルに向き直る。
『貴方には、言わなきゃならないことが山ほどあるわ。
 でも、もう時間がないからこれだけ言わせて…………ありがとう。そして、ごめんなサい」
何に対しての感謝で、何に対しての謝罪なにかを彼女は意図的に省いた。
カイルであればそれを間違えないだろう確信があったし、
なにより、そんな数文字を省かなければならないほど彼女も時間がなかった。


『アトワイト、お前』
『うン。もう無様な姿だけは見せたクナかったから、頑張ってたけど。
 もう長クは保たなそう。まあ、仕方ナイわ』
アトワイトのレンズとともに怪しく鳴動するエクスフィアにディムロスは僅かに唸った。
緊張と信念で抑えてきたものの弛緩。反動は、避けられない。
そしてアトワイトがそう望んでしまった以上、ディムロスには投げかけるべき言葉がない。
そんなディムロスの胸中を見透かすように、アトワイトは優しく言った。
『いいのよ。私は、自分が望んでしまったことを否定しない。
 そして、その結果起こしてしまったことの責ニんから逃げるつもリもない。
 子供の貴方たちが分カっていることですもの。大人が、そこを覆す訳にはいかないわ』
『そう、だな。時間はまだある。私も、最後まで付き合おう』
ディムロスは観念したように瞳を閉じた。
もう誓いを違えるようなことはしない。例え彼女が地獄に堕ちようとも、今度は一人にはしない。
『……ありガとう。貴方と一緒になラ、何処へ落ちても耐ヘられる』

カイルは2本のやり取りを黙って聞いていた。口を挟むほど無粋ではない。
だは、決して言いたいことが無い訳ではなかった。
その言葉の裏には、ほんの少し先の未来に関する断定が含まれていたからだ。
ディムロスとアトワイトから目を反らしたカイルの向かう先に、先ほどまで自分の足となっていた箒を見つける。
あわててそこにかけより、箒を手に取る。
「――――っ」
自分の手足の状態が分からない人間はいない。
箒の表面が僅かに焦げていた。飛べはする。だが、全力で飛べばディムロスの熱量に箒の方が耐えられない。
カイルはポケットから時計を取り出して小さく舌を打った。
日没まで5分を切った。全力で飛んでも間に合わない。

カイルは天を仰ぐ。空から見る天空よりも、少し高い。
傾いて天辺だけを残す太陽と夜空は今のカイルの状況を明示しているようだ。
気持ちとか、奇跡とか、絆とか、そんな形のないものじゃどうにもならない
“物理的不可能”がこの空すべてを覆う見えない壁となっているかのようだった。

これでは、もう――――

【終わりだな】
「ミトス」

振り返った先には、柳の下の何某かのようなミトスがいた。
ミトスの言葉にカイルの心が少しささくれたつ。
だが、同時にその言葉は誰に言われるよりも強く響いた。
もう一人の自分が代弁した弱い言葉を素直に受け止め、抗うことができる。

「俺は、諦めないよ。ひょっとしたら、間に合うかもしれない。
 何かが起きて、禁止エリア発動の時間がズレるかもしれない。可能性はある」

――――――――――――先に言っておくけど、誤作動なんて“絶対に”ないからね。
            6時ジャスト、禁止エリアの発動と放送はきっちり行うよ。

【可能性どころの話じゃないな。妄想かよ】
「かもしれない。でも」
【?】

カイルはミトスに向かい合う。その落日を背に浴びて、尚も謳った。

「そうでなかったとしても、俺が俺の冒険を終わらせる理由にはならないよ」


何かを言おうとしたミトスが、それを堪え口を歪めてかき消す。
【ふふっ、そうだな。お前はそういう奴だよ】
「ああ、そうだ。これ」
カイルが、思い出したようにポケットから何かを取り出し、それをミトスに投げた。
とっさに残った指で掴み、一体何かと怪訝そうにそれを見る。
「お前のことは絶対に許さないけど、あの人は最後までお前のこと心配してたよ。俺、一応“止めた”からな」

尽くすべき言葉を全て尽くしたカイルはソーディアン2本を持って北に背を向け、南に進路をとった。
太陽とともに沈んでいくような、悲壮が隠しきれていない。
それでもカイルは歩みを止めなかった。希望がなかろうと、希望を見つけようとする意思は捨てない。

だけど、やっぱり、帰り道が暗すぎる。

<Turn――――――――――――Over>

 「こんなもんかな。夢見がちなガキには過ぎた結末だ。ありもしない希望に、最後まで狂うといい」
 ベルセリオスはむんずと天使の駒を掴んだ。炎剣はB3とC3の境まで移動させなければならないが、
 用の済んだ天使はもう排除して問題ない。残り五分で、身体既存著しい。こんなものは誤差の範囲だ。
 「ご苦労様、私だけのマリオネット。お前とお前の姉は実に扱いやすかったよ。褒美だ。安らかに死ね」
 ベルセリオスは、天使を高く高く放り上げた。役目を終えた駒は、盤の外へと叩き付けられて――――――――――――

真っ暗な道。夕餉の匂いもしない場所で、子供は一人呟いた。
そして、夜の闇が彼らの命を覆い尽くす。
「ごめん。俺、間に合わ―――――――――――――――――」


ゲシッ。


カイルの背中に強い力がかかり、足蹴にされてうつ伏せに倒れてしまう。
いったい何事かとカイルが思うより先に、地面に伏せた顔へ誰かの爪先がヒットする。
うつ伏せから仰向けへひっくり返されたカイルが頭を摩りながら上体を起こす。
そこにはアストラル体ではない、半壊したミトス本人が立っていた。

「てめ、何するんだよ!?」
【クソ、何でこんな奴なんかに。ああもう、クソッタレ】

ミトスが悪態をつきながら転げ落ちたアトワイトを足で拾い上げ、手に移して辛うじてマジマジと眺める。
『ミトス!? 何ヲ』
【……完全にエクスフィアに変性してるわけじゃないな。ギリギリ保ったか
 ――――――――――――おい、カイル。もう一度だけ確認するぞ。リアラに逢えると、本気で思ってるのか】

ミトスの問いに、カイルは怒りにも似た感情を沸き立たせた。
帰れるか帰れないかなどよりも遥かに強い反抗心が戻ってくる。
「それだけは、絶対だ」


今更問うまでもない言葉をミトスは確かに改めた。
【その言葉、絶対曲げるなよ】
そして、自分のボロボロのエクスフィア、そこに鎮座する要の紋に手をかける。

―――――――――――「何、してる?」
ベルセリオスの瞳が、目尻を裂きそうなほどに大きく見開かれた。
盤上より高らかに上げられた天使の駒はまだ床に落ちていない。
代わりにあったのは、床とは比べ物にならない柔らかさの、女性の掌。

「これは異なことを言いますね。要らないと、捨てると言ったのは貴方でしょう……?」

ある一説に曰く。狩人が最も油断する瞬間は、己が目的を完遂する一瞬だという。
その定義に従って言えばベルセリオスはこの一瞬、確かに油断していた。

「ククククク……ッ、確かに……、捨てると言いましたね………このサイグローグが保障いたします……!!」

太鼓判を押すサイグローグが、この瞬間下座の狙いを完全な意味で理解した。
何のことはない。この柔和そうな女神は、最初から“戦略的勝利”もベルセリオスから奪うつもりだったのだ……!!




 聞きましたねベルセリオス。ならばこの駒、私が――――――いえ―――――――



日没まで、後少し。


                      ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・
 ―――――――――――――――――――――お姉さんが使っちゃっても、いいのよねぇ?



要の紋を引きちぎり、天使の座を捨てる。
ハーフエルフとしての体はほぼ崩壊している。
召喚士として破れ天使としてももうじき砕け、英雄としても負けて。残されたのはたった一つ。
それで十分。さあ、最後の悪あがきを始めよう。


「今だけ、その道を支えてやる。この“時空剣士”ミトス=ユグドラシルが」



 ――――――――――――――――Turn Shift――――――――Not Over!!>

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