~とある古代王国魔導師の覚え書き~


青き水の月より喚び出した、かつて彼の地にて神と奉られ打ち捨てられた犬狼神の魂は、喚びかけにまさしく尻尾を振って応えたといって良い反応を示した。

『その世界にとって忘れ去られたモノ』
これは今後の召喚標的を模索する上で、非常に重要な要素の発見であったと言えよう。

檻に捕えた後は、これまでと同様に強い反抗の色を示したがこれは想定内である。
召喚した魂自体が、誇り高いという特性を持っているとも考えられたが誤差の範疇とする。

当初、こちらの世界に存在する狼を祖霊として奉る獣人との融合を試みたが、親和性があろうとの仮定に反して魂の反発が強く、失敗。

狼の捕食対象である兎、羊等の獣人を用いても同様の結果を示した。

『人馬』等の前例から、魔力劣勢遺伝種であるヒトを用いたところ、良好な反応を得ることに成功。
群れのリーダー格である、つがいの犬狼神は既に前述の実験によって魂の崩壊をみていたが、つがいの子にあたるまだ幼い雌の犬狼神の魂は、見事ヒトの魂を喰らった後に肉との融合を果たす。

同様の手法で、同時に召喚した群れのうち24体まで受肉に成功。

人の身と魂を喰らった異界の魂は、本来の世界との繋がりが薄れ、こちらの存在として囚えることが可能となることはアルメイダ筆頭導師の実験によって立証されている通りだ。

我々は今実験の成果物を『人狼』と呼称することとした。

今実験の成果は、複数の異界の魂を一つ身の内に宿して、異界への次元の扉を開く自在鍵を造り出す研究に大いに寄与するものと強い確信を抱いている。


~日付の異なる別の記述~

エーゼンバッハ研究室が先日造り出した、異界とこちらの竜種との融合を試みた『半竜』に対し、我が研究室の人狼は固体能力は劣るものの、繁殖力に優れ、能力遺伝の力も高いことが判明している。

さらに受肉後の体形が極めて人に近い姿であったことから、劣勢遺伝種であるヒトを与えてみたところ、交配に成功。
混合種を生み出す能力もあることがすでに明らかとなっている。

またその牙は意図的に自らの能力を他者に賦与する力を持つことも判明しており、非常に興味深い存在である。
この能力が最初の群れの固体にのみ備わる力であるのか否かについては、量産実験の中に項目を追加し、経過確認が必要と思われる。

これらは半竜には無い、貴重な能力であるといえる。


~最後のページ~

問題が発生した。

犬狼神の基でもある狼の帰巣本能によるものなのか、青き月の極大が近付くに連れ精神制御に不安定を発しはじめた。
一部または全身の獣身化や、凶暴性増大……主に我々への殺傷衝動の傾向を示しており、我々が与えた従属の暗示から逃れるものも現れはじめている。

年に一度とはいえ青き月の極大によって強まる望郷の念により、こちらの世界への憎悪が強まってしまうのではないかという仮説を立てた研究員もいるが現在のところ、有効な策は打てずにいる。

特に世代が下がるにつれこの特徴は顕著であり、人狼の量産による兵器化を標題として掲げている我が研究室に暗い影を差す兆候であると言えよう……





記述はここで途切れている……
最終更新:2012年06月21日 20:21