魔法使いと、そうでない人との違い??
ふむん、さすがは最年少で導師課程に進んだだけあって質問内容も深いわね。
ま、アタシはこないだのルリマダラオオクワガタムシの生態についての話も楽しかったけどね♪
って、ああゴメンゴメン、そうねぇ……種族的に特別に二者を隔てるものがあるわけじゃないわ。
いわゆる魔法使いとそうでない人間に確執があったのは、もうずっと昔の話よ。
今は世代を重ねることで、ほとんどの人間に魔力は多かれ少なかれ宿っていると思っていいわ。
魔法使いか、そうでないかを分ける一つの指標は、その力を制御する必要があるか否かってことかしら。
魔力を身に宿していても、その量が極少なら日常生活に支障は無いけれど、一定量以上の魔力を常に体内で練成する体質を有する場合が問題ね。
無意識にでも魔力が『力』として発露するから、制御法を身に着けなきゃいけないわ。
でなきゃ、漏れ出して抑えられない力は周囲の大切な人のみならず、自分自身をも傷つけることになってしまうから……ね。
魔力を制御するだけの量を持たない人に対して、制御を要する能力を身に宿す人のことを『魔法使い』そう呼ぶわけ。
現代でいう『魔法使い』とは魔力の制御法を身につけた者、つまり『魔術士』を表す言葉で、人種や国籍、身分や社会を隔てるものじゃないわ。
確かにまだ魔法が世界にとって珍しかった時代には、互いに傷つけ憎みあう時代もあったけれど、少しずつ時間をかけて両者は理解を深めたのよ♪
『魔法使い』だけれど、人として人と共に生きて行きたいって願いや、魔法使いではないけれど、魔法に対して真摯な理解を示して歩み寄ろうとした人たちが長い長い時間をかけて築いてきた成果よ。
そう、あなたのお父様のような方たちがね♪
だから……ね。
両者が寄り添って育んだ、あなたのような子や、血や種族を越えて愛情や、信頼や、友情を育てる子供達に逢えるのが、あたしは本当に嬉しいのよ。
もう、それだけでね、とっても満足なんだよ♪
あら、なんだか嬉しそうね?
……そっか、もやもやが解けてスッキリできたのか。
うんうん、勉強も大事だけど全力で遊ぶことも大事よ、導師の卵とはいえ、まだ子供だもの。
もう少し……そうね、少なくともあたしより頭一つまるまる追い越すくらいに背が伸びるまでは……ね♪
行ってらっしゃい、マダラクワガタ見つけたらあたしにも見せてね。
あ……ジュカにニール……。
聞いてたんだ?
ケールに、魔術士に対する確執が現代ではもう無いのかって訊ねられて、まだ辺境の一部地域や古い習慣を持つ部族の間にはその名残があるって話はしなかったんだけど、今はまだいいよね?
もしいつか、あの子がそれを知って思い悩む日が来たら、見守っていてあげてね。
きっとそれはアタシには出来ないことだから。
「僕たちも先輩方が重ねてきた想いや努力を裏切らないように、後に続くものとして恥ずかしくないよう自覚しなきゃ……ですね」
うん、本当にそうね。
あたしはそれがわかるまでに時間をかけすぎちゃったし、もう取り返しのつかないことも一杯だけれど、あなた達の世界はこれからだものね。
この先、理解の仕方が異なって誰かと道を分かつことになっても、今のその気持ちがあれば再び同じ場所に立てるはずよ、きっと。
さ、あんた達もケールが木から落っこちないように、ルリマダラオオクワガタ探しに行ってらっしゃいな♪
(……ルクス、セレス。ここは本当に宝石箱みたいな場所だよ、眩しくって泣けるくらいに。いつまで眺めていられるかなぁ……)
最終更新:2012年06月23日 02:02