24時間耐久マラソン、自力で動けない早苗とげろしゃぶには、サポートとして諏訪子とはたてがつくことになる。
「ちょっと文、あんたそろそろ立ち直りなさいよ! 今朝からずっとそのざまじゃないの!」
「いいのよはたて、とって付けたように文だなんて呼ばなくても今の私はげろしゃぶ、もうあややややとさえ口走れない女」
「いいのよはたて、とって付けたように文だなんて呼ばなくても今の私はげろしゃぶ、もうあややややとさえ口走れない女」
欝オーラ全開のげろしゃぶを、何とか立ち直らせようと呼びかけ続けるはたて。
普段張り合ってるライバルが落ち込むと、なぜか物足りなくなって元気付けてしまうこのツンデレ魂。王道である。
普段張り合ってるライバルが落ち込むと、なぜか物足りなくなって元気付けてしまうこのツンデレ魂。王道である。
「ケロロー(早苗、そろそろその格好も慣れたかな?)」
「ケロケロー!(慣れるわけないじゃないですか諏訪子様! いい加減元に戻してください!)」
「ケケロケロ(早苗がいけないんだよ、私が楽しみにしてたバリバリ君限定ver.を食べちゃうから)」
「ケロロゥ……(冷凍庫に二週間以上放ってあったから、食べたくないのかと思っちゃったんですよぉ……)」
「ケロケロー!(慣れるわけないじゃないですか諏訪子様! いい加減元に戻してください!)」
「ケケロケロ(早苗がいけないんだよ、私が楽しみにしてたバリバリ君限定ver.を食べちゃうから)」
「ケロロゥ……(冷凍庫に二週間以上放ってあったから、食べたくないのかと思っちゃったんですよぉ……)」
一方の早苗。こちらは物理的に動けそうにないので、諏訪子がサポートについた。
何やらケロケロと周りにはわからないやりとりをしているが、互いに意思疎通は上手くいっているらしい。
何やらケロケロと周りにはわからないやりとりをしているが、互いに意思疎通は上手くいっているらしい。
「ケロロ?(だいいちこんなんでマラソンとかどうしろっちゅーんですか)」
「ケロケロ……(大丈夫だよ、サポートするから。まずはね……)」
「ケロケロ……(大丈夫だよ、サポートするから。まずはね……)」
さて、そんなこんなでレーススタート。
まずはたて、しょうがないのでげろしゃぶを抱えたまま、自分で走り始める。
あ、ちなみに今回の指定はマラソンですので、空飛ぶのは禁止です。
まずはたて、しょうがないのでげろしゃぶを抱えたまま、自分で走り始める。
あ、ちなみに今回の指定はマラソンですので、空飛ぶのは禁止です。
「ああ、はたてあなた速いわね……全盛期の射命丸文って人の次くらいに速いわ。げろしゃぶな私じゃ到底敵わないわね」
「二重にムカつく! 自慢したいのか自虐したいのかはっきりしなさいよ!」
「二重にムカつく! 自慢したいのか自虐したいのかはっきりしなさいよ!」
一方の早苗たちだが、何と早苗、自力で動くことに成功した。
帽子のツバの部分で、よちよちとハイハイをするように動く。
帽子のツバの部分で、よちよちとハイハイをするように動く。
「ケ、ケロ!(す、凄い! 本当に動けましたよ諏訪子様!)」
「ケロー(でしょ? コツさえ掴めば何とかなるもんだよ)」
「ケケロロ(でもこの歩き方、感覚的には肩と太ももに生えた指で匍匐前進してるみたいで気持ち悪いです!)」
「ケーロー(そこもじきに慣れるよ。それに、この程度で気持ち悪いとか言ってたら先が無いよ?)」
「ケロー(でしょ? コツさえ掴めば何とかなるもんだよ)」
「ケケロロ(でもこの歩き方、感覚的には肩と太ももに生えた指で匍匐前進してるみたいで気持ち悪いです!)」
「ケーロー(そこもじきに慣れるよ。それに、この程度で気持ち悪いとか言ってたら先が無いよ?)」
とは言え、速度が出ていないのは確か。今のところ、げろしゃぶ&はたてに大きく差を明けられている。
さてはて、そろそろ四時間くらい経過。まずはげろしゃぶサイド。
「ぜひー、ぜひー……」
「はたて……そんな無理すること無いわよ。あなたの勝負ってわけじゃないんだし」
「はたて……そんな無理すること無いわよ。あなたの勝負ってわけじゃないんだし」
人一人、もとい天狗一人抱えての力走は、鴉天狗でも流石にきつい。
鴉天狗ならでは、風を味方につけて走ってはいるが、それでも体中に負担は溜まっていく(ちなみに飛行は禁止だが能力は自由)。
ペースが徐々に落ちてきているが、それでもはたては走るのをやめない。
鴉天狗ならでは、風を味方につけて走ってはいるが、それでも体中に負担は溜まっていく(ちなみに飛行は禁止だが能力は自由)。
ペースが徐々に落ちてきているが、それでもはたては走るのをやめない。
「わ……私が頑張るのは勝手でしょ、やる気が無いのなら水を差すようなこと言わないでよ」
「はたて……」
「はたて……」
さて早苗サイド。
「ケロー!(うわ凄い、ジャンプまでできるようになりましたよ!)」
びよーん、とバネ仕掛けのように跳ね上がる諏訪子帽。
その機敏さと初動の無い唐突な動きは、キスメを彷彿とさせる。
その機敏さと初動の無い唐突な動きは、キスメを彷彿とさせる。
「ケロロロロ(ダッシュもジャンプも順当に覚えたね。じゃあ次のステップ行こうか)」
「ケロォ?(え、でもこのくらい動ければ十分では? それにそろそろ追いかけないと、もう追いつけませんよ?)」
「ケケーロ(天狗の速さを舐めちゃいけないよ早苗、普通に追いかけたんじゃ今から走っても追いつけないさ)」
「ケロケロ?(え、じゃあどうするんです?)」
「ケロッケロ(まあやるだけやってみるよ。じゃあ次は、霊力の扱い方だね。弾幕を出せる程度にやってみよう)」
「ケロォ?(え、でもこのくらい動ければ十分では? それにそろそろ追いかけないと、もう追いつけませんよ?)」
「ケケーロ(天狗の速さを舐めちゃいけないよ早苗、普通に追いかけたんじゃ今から走っても追いつけないさ)」
「ケロケロ?(え、じゃあどうするんです?)」
「ケロッケロ(まあやるだけやってみるよ。じゃあ次は、霊力の扱い方だね。弾幕を出せる程度にやってみよう)」
12時間が経過。げろしゃぶサイド。
「ぜぇっ……ぜぇっ……ぜぇっ……」
「……あなた、馬鹿じゃないの? なんでそこまで必死で走ってるのよ」
「うるさいげろしゃぶ、やる気が無いなら……黙ってろ……!」
「…………はたて、あなた」
「あんたは無様に負けるのよげろしゃぶ、名前を変えられた運命に負けたまま、ファイトを私に横取りされてね!
あのケロケロ帽子に勝つのは私、あんたに勝つのもこの私!」
「…………」
「ま、ファイトの形式的な勝者はあんたになるでしょうけど……そのくらいは譲ってあげるわ。
形だけの意味の無い勝ち星。げろしゃぶなんて名前に負けたあんたにはお似合いってもんよ」
「ふっ、言ってくれるわね、はたて」
「ええ言うわよ。言ったがどうしたってのよ」
「そこまで言われて黙ってられるほど、この射命丸文、天狗が出来てはいないわよ。
見てらっしゃい、今からあなたの走った距離を、あなたの半分の時間で追い抜いてやるわ」
「何カッコつけてんのよげろしゃぶ、いいからとっとと…………走ってきなさいよ」
「ええ、その名前も返上してあげるわよ――このファイトに勝った後でね――!!」
「……あなた、馬鹿じゃないの? なんでそこまで必死で走ってるのよ」
「うるさいげろしゃぶ、やる気が無いなら……黙ってろ……!」
「…………はたて、あなた」
「あんたは無様に負けるのよげろしゃぶ、名前を変えられた運命に負けたまま、ファイトを私に横取りされてね!
あのケロケロ帽子に勝つのは私、あんたに勝つのもこの私!」
「…………」
「ま、ファイトの形式的な勝者はあんたになるでしょうけど……そのくらいは譲ってあげるわ。
形だけの意味の無い勝ち星。げろしゃぶなんて名前に負けたあんたにはお似合いってもんよ」
「ふっ、言ってくれるわね、はたて」
「ええ言うわよ。言ったがどうしたってのよ」
「そこまで言われて黙ってられるほど、この射命丸文、天狗が出来てはいないわよ。
見てらっしゃい、今からあなたの走った距離を、あなたの半分の時間で追い抜いてやるわ」
「何カッコつけてんのよげろしゃぶ、いいからとっとと…………走ってきなさいよ」
「ええ、その名前も返上してあげるわよ――このファイトに勝った後でね――!!」
げろしゃぶ復活、風を味方につけて走り出す。その速度は、今までのはたての比ではなかった。
「あの馬鹿、勝手に落ち込んだり勝手に元気になったり……いつも通り身勝手なやつ。
とっとと勝ってこいばぁーか……私もいつか、追いついてやるんだからね……」
とっとと勝ってこいばぁーか……私もいつか、追いついてやるんだからね……」
さて、早苗サイド。
「ケローン?(諏訪子様、スペカも普段通りに出せるようになりましたけど、ここからどうするんです?)」
「ケロケロロ(早苗は霊能力方面は可愛げ無いくらい優秀だよねぇ。まあ良いことだけどさ)」
「ケロロロ?(はいはい、でもどうするんです? 私のスペカには、高速で移動するようなものはありませんよ?)」
「ケロロケロ(うん、だからスペカは使わない。今から教えるのは、私のオリジナル技だよ)」
「ケロ?(へ?)」
「ケッケロロ(さあ教えてあげるよ早苗、祟り神の真髄ってやつをね)」
「ケロケロロ(早苗は霊能力方面は可愛げ無いくらい優秀だよねぇ。まあ良いことだけどさ)」
「ケロロロ?(はいはい、でもどうするんです? 私のスペカには、高速で移動するようなものはありませんよ?)」
「ケロロケロ(うん、だからスペカは使わない。今から教えるのは、私のオリジナル技だよ)」
「ケロ?(へ?)」
「ケッケロロ(さあ教えてあげるよ早苗、祟り神の真髄ってやつをね)」
16時間経過、残り8時間――
前半で体力温存していたげろしゃぶは、まだまだスタミナは十分。
前半で体力温存していたげろしゃぶは、まだまだスタミナは十分。
「ここは、敵情視察しておいたほうがいいかも知れませんね……」
今思い返すと、早苗たちはスタート地点からほとんど動いていなかった気がする。
諏訪子が早苗に何やら教えていたようだが……冷静に考えると、あの諏訪子だ。勝負を簡単に捨てるとも思えない。
まだスタート地点から動いていないのだろうか……とりあえず、戻ってみることにした。
ちなみにコースを定められてるわけではないので、スタートに戻っても走った距離はリセットされない。
あくまで合計距離で勝負、というファイトである。
諏訪子が早苗に何やら教えていたようだが……冷静に考えると、あの諏訪子だ。勝負を簡単に捨てるとも思えない。
まだスタート地点から動いていないのだろうか……とりあえず、戻ってみることにした。
ちなみにコースを定められてるわけではないので、スタートに戻っても走った距離はリセットされない。
あくまで合計距離で勝負、というファイトである。
「――――な」
そして、スタート地点に戻ってきたげろしゃぶは、それを見た。
思わず立ち止まり、それを見てしまった。
思わず立ち止まり、それを見てしまった。
「ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ(ふおおぉおおおおっ……諏訪子様、これ、凄い、凄いですぅっ……)」
「ケーロッロッロ(ふっふっふ、優秀な風祝を持ってわたしゃ幸せだよ)」
「ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ(いやこれ風祝とか絶対関係無いと、ふぁあああん♪)」
「ケーロッロッロ(ふっふっふ、優秀な風祝を持ってわたしゃ幸せだよ)」
「ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ(いやこれ風祝とか絶対関係無いと、ふぁあああん♪)」
げろしゃぶが見たもの――それは、巨大化した諏訪子帽と、その上に乗っかる諏訪子。
いや、それだけならまだいい。問題なのはここからだ。
諏訪子帽の口から――ツバと帽子本体の間にぽっかりと空いた口から――
巨大化する前の、元の大きさの諏訪子帽が、わらわらと産み出されているのだ。
そして産まれた諏訪子帽が、四方八方ばらばらな方向に走り出す。わらわらと、際限無く。
いや、それだけならまだいい。問題なのはここからだ。
諏訪子帽の口から――ツバと帽子本体の間にぽっかりと空いた口から――
巨大化する前の、元の大きさの諏訪子帽が、わらわらと産み出されているのだ。
そして産まれた諏訪子帽が、四方八方ばらばらな方向に走り出す。わらわらと、際限無く。
「ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!
(あっあっあっあっ、私産んでる、私が私を産んでる、私が私に産みだされてる……私が増えていく!)」
「ケロケーロ(そう、産み出したモノもまた早苗自身、だから全ての早苗が走った距離の合計が、早苗が走った距離になるんだよ)」
(あっあっあっあっ、私産んでる、私が私を産んでる、私が私に産みだされてる……私が増えていく!)」
「ケロケーロ(そう、産み出したモノもまた早苗自身、だから全ての早苗が走った距離の合計が、早苗が走った距離になるんだよ)」
例えば。早苗が、毎秒5人(5匹?)の早苗を産んでいるとする。
そしてそれぞれの早苗が毎秒5メートル(時速18キロ、50メートル走を10秒のペース)で走ったとしよう。
最初の1秒は産み出された瞬間なのでゼロ、2秒経つ頃には5人が5メートル走るので25メートル、
3秒経ったら10人が更に5メートル走るので75メートル、4秒で15人が更に5メートルで150メートル……
つまりα秒経つごとに、走った合計距離は25×(1+2+3+4+…………α-1)メートル、
さらに言うと、イコール25×0.5×(αの2乗-α)メートルとなる。
この式に当てはめると、一時間経った頃には、3600秒をαに代入するので、
答えは161955000メートル、つまり161955キロ走った計算になる。
そしてそれぞれの早苗が毎秒5メートル(時速18キロ、50メートル走を10秒のペース)で走ったとしよう。
最初の1秒は産み出された瞬間なのでゼロ、2秒経つ頃には5人が5メートル走るので25メートル、
3秒経ったら10人が更に5メートル走るので75メートル、4秒で15人が更に5メートルで150メートル……
つまりα秒経つごとに、走った合計距離は25×(1+2+3+4+…………α-1)メートル、
さらに言うと、イコール25×0.5×(αの2乗-α)メートルとなる。
この式に当てはめると、一時間経った頃には、3600秒をαに代入するので、
答えは161955000メートル、つまり161955キロ走った計算になる。
「ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
(走ってる、産んでる、聞こえる、産みだされてる、見える、走ってる、跳ねてる、かじってる、味わってる、呑みこんでる!
全部私、私が感じてる、私が動いてる、私が増えてる、私は、生きてる! 全部の命で全部生きてる!)」
「ケロッケロケロ!(そうだよ早苗、精一杯に生を謳歌しな! 土着の神とは本来、そうあるべきものなのさ!)」
「ケロロロロロロロロロロロロロロロ!(はい、諏訪子様! 私、私もう止まりません、止まれません!)
ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」
(走ってる、産んでる、聞こえる、産みだされてる、見える、走ってる、跳ねてる、かじってる、味わってる、呑みこんでる!
全部私、私が感じてる、私が動いてる、私が増えてる、私は、生きてる! 全部の命で全部生きてる!)」
「ケロッケロケロ!(そうだよ早苗、精一杯に生を謳歌しな! 土着の神とは本来、そうあるべきものなのさ!)」
「ケロロロロロロロロロロロロロロロ!(はい、諏訪子様! 私、私もう止まりません、止まれません!)
ケロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」
この瞬間のげろしゃぶに、計算による合計距離の答えまでが理解できたわけではないし、そんな精神的余裕もありえない。
そんなことは、もはやどうでもいい。
この光景を見た瞬間、頭の中はただ一つのことで占められている。
逃げなければ。
この災禍から、全力全霊で逃げなければいけない。
走り出す。
初めは無意識にのろのろと、やがて思い出したように加速、
わずかに理性が戻って――自分が感じているそれが畏れだと理解できた頃には、すでに全力で。
ペース配分など考えない。コース取りを計算する余裕も無い。もはや勝てるとも思えない。
それでも……走ることをやめられない。やめた瞬間、何かが終わってしまう。
そんなことは、もはやどうでもいい。
この光景を見た瞬間、頭の中はただ一つのことで占められている。
逃げなければ。
この災禍から、全力全霊で逃げなければいけない。
走り出す。
初めは無意識にのろのろと、やがて思い出したように加速、
わずかに理性が戻って――自分が感じているそれが畏れだと理解できた頃には、すでに全力で。
ペース配分など考えない。コース取りを計算する余裕も無い。もはや勝てるとも思えない。
それでも……走ることをやめられない。やめた瞬間、何かが終わってしまう。
その後のことを、げろしゃぶはもう憶えていない。
24時間、経過。
気がついたとき、文はぐったりと今にも倒れこみそうな体を、はたてに支えられていた。
はたては文の体をほとんどかつぐようにして、ゆっくりと歩いている。
はたては文の体をほとんどかつぐようにして、ゆっくりと歩いている。
「お疲れ様、文。今日はあんたの勝ちよ。ま、まあ今日のところは、だけどね。次は負けないわ」
「ゼヒュー、ゼヒュー、ゼヒュー……は、はたて……? 私は……?」
「流石のあんたもバテバテね。もう指一本動かせないんじゃない?」
「私……あれ……? そうだ、いっぱい走ってて……?」
「あ、そうそう、名前もう元に戻してあるわよ。それにしてもなんであんな酷い名前になったのかしらね?」
「走ってて……それから……ああ、思い出した……!」
「ほら、そろそろ元のスタート地点に着くわよ――」
「ダメッ! 戻るのは、あそこに戻るのはダメよ!」
「ゼヒュー、ゼヒュー、ゼヒュー……は、はたて……? 私は……?」
「流石のあんたもバテバテね。もう指一本動かせないんじゃない?」
「私……あれ……? そうだ、いっぱい走ってて……?」
「あ、そうそう、名前もう元に戻してあるわよ。それにしてもなんであんな酷い名前になったのかしらね?」
「走ってて……それから……ああ、思い出した……!」
「ほら、そろそろ元のスタート地点に着くわよ――」
「ダメッ! 戻るのは、あそこに戻るのはダメよ!」
突然ガタガタと震えだす文。
だが抵抗しようにも、もう体は動かない。意識を保っているだけマシなくらいに疲弊しているためだ。
それでも文は、はたてに懇願する。あそこに戻ってはいけないと。行けば、アレが待っている。
だが抵抗しようにも、もう体は動かない。意識を保っているだけマシなくらいに疲弊しているためだ。
それでも文は、はたてに懇願する。あそこに戻ってはいけないと。行けば、アレが待っている。
「ダメなのはたて、あそこにはアレがいる、アレが増えてる、今ではきっともっと増えて、今も増え続けて、
私負けちゃう、どんなに走っても負けちゃう、アレに追いつかれる、いっぱい追いかけてくる、
はたてががんばってくれたのに、私もがんばったのに、アレには勝てない、幻想郷のどこに逃げてもきっと追ってくる……!
ごめんなさいはたて、私、はたてのがんばりを守りきれなかった――」
「ああ……あんた確か、アレをいの一番に目の当たりにしたんだっけ。じゃあしょうがないか」
「ごめんなさい、ごめんなさい、許して、あそこに戻るのは許して……」
「いいから見なさい、ほら着いた!」
「ヒィッ!?」
私負けちゃう、どんなに走っても負けちゃう、アレに追いつかれる、いっぱい追いかけてくる、
はたてががんばってくれたのに、私もがんばったのに、アレには勝てない、幻想郷のどこに逃げてもきっと追ってくる……!
ごめんなさいはたて、私、はたてのがんばりを守りきれなかった――」
「ああ……あんた確か、アレをいの一番に目の当たりにしたんだっけ。じゃあしょうがないか」
「ごめんなさい、ごめんなさい、許して、あそこに戻るのは許して……」
「いいから見なさい、ほら着いた!」
「ヒィッ!?」
文が顔を上げると、そこにいたのは、諏訪子と巨大諏訪子帽を懲らしめて荒縄で縛り付けて封印して、
諏訪子帽の上に腰掛けて酒を飲んでいる霊夢、紫、神奈子の姿だった。
諏訪子帽の上に腰掛けて酒を飲んでいる霊夢、紫、神奈子の姿だった。
「ふへ?」
「まあ、あれだけ大掛かりにやったら、異変扱いされてもおかしくないって話よ。
巫女やスキマも本気だったみたいだけど、中でもあの蛇の神様のキレっぷりが尋常じゃなくてね。
幻想郷を身内に滅ぼさせてたまるかとか何とかで、もうとてつもない獅子奮迅ぶりだったわ」
「あ、は……」
「というわけで、二人とも折檻受けちゃったってわけ。
ああ、あの早苗って子は、罰として帽子のままで縛り付けられちゃったそうよ?
まあ、酒盛りが終わる頃には戻してもらえるらしいけどね。忘れられてなければだけど」
「あは、あははははは……」
「増え始めて10分くらいで三人とも動き始めて、2時間経つ頃にはもう終わってたってわけ。
で、結局合計距離ではあんたの勝ちってことよ」
「ちょっとごめんはたて、もう限界……家まで送って(フラッ)」
「うわっ、急に寝るな! 安心して寝るとか、子供じゃあるまいし、全くもう」
「まあ、あれだけ大掛かりにやったら、異変扱いされてもおかしくないって話よ。
巫女やスキマも本気だったみたいだけど、中でもあの蛇の神様のキレっぷりが尋常じゃなくてね。
幻想郷を身内に滅ぼさせてたまるかとか何とかで、もうとてつもない獅子奮迅ぶりだったわ」
「あ、は……」
「というわけで、二人とも折檻受けちゃったってわけ。
ああ、あの早苗って子は、罰として帽子のままで縛り付けられちゃったそうよ?
まあ、酒盛りが終わる頃には戻してもらえるらしいけどね。忘れられてなければだけど」
「あは、あははははは……」
「増え始めて10分くらいで三人とも動き始めて、2時間経つ頃にはもう終わってたってわけ。
で、結局合計距離ではあんたの勝ちってことよ」
「ちょっとごめんはたて、もう限界……家まで送って(フラッ)」
「うわっ、急に寝るな! 安心して寝るとか、子供じゃあるまいし、全くもう」
余談だが、この諏訪子帽増殖事件は、増えている瞬間を撮影したはたてによる花果子念報によって大々的に報道された。
その回の新聞はまさに飛ぶように売れたのだが、増える諏訪子帽の写真があまりに厄いということですぐに発禁処分になり、
泣く泣く自主回収、その後で、写真の入っていない改訂版を発行することになった。
そちらもそこそこは売れたのだが、自主回収の赤字分が上回り、はたてはしばらく倹約生活を余儀なくされたのだとか。
ちなみに文は疲労で熱出して寝込んでて、新聞どころじゃありませんでした。
その回の新聞はまさに飛ぶように売れたのだが、増える諏訪子帽の写真があまりに厄いということですぐに発禁処分になり、
泣く泣く自主回収、その後で、写真の入っていない改訂版を発行することになった。
そちらもそこそこは売れたのだが、自主回収の赤字分が上回り、はたてはしばらく倹約生活を余儀なくされたのだとか。
ちなみに文は疲労で熱出して寝込んでて、新聞どころじゃありませんでした。
編注:作者の意向に沿う形で、計算結果と神奈子たちが動き始めた時間に修正を加えました。