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したらばSS作品 ◆aFvpgnx8Zk

41 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/21(水) 22:27:45.25 ID:zO8S0r.0
爆音とともに建物が揺れるのを感じる。
音のした方向を鑑みるに、おそらくは運動場で事が起きたのだろう。
こういう時つくづく自分がリフィターで良かったと思ってしまってならない。

リフィター。

この学園における生徒たちはおおよその能力の分類で二通りに区別されている。
一つはアクター。
「戦闘に向いている」と判断された者たちで、訓練も特にその方面に特化したものであることが多い。
一つはリフィター。
「戦闘に向かない」とされた者たちがそう呼ばれ、その能力を伸ばし応用するための訓練に重きを置いている。

ということで私はリフィター。いわゆる非戦闘員だ。
リフィターとはいえ十人十色なので一概にそうとは言えないが、たいていは屋内の訓練で事足りてしまう。
そして今は生徒の一斉訓練の時間。私は黙々と能力の精度向上に努めていた。
その矢先の爆発である。
おそらく運動場で訓練中のアクターの能力だろう。私はぶるりと身震いをした。
つくづく思う。リフィターで良かったと。
アクターには模擬戦があって、血を見ることなど日常茶飯事だと聞く。
考えたくもない……!
「どうした閏矢、顔色が悪いぞ」
「可里奈さん大丈夫? 保健室行く?」
いつの間にか教員と生徒たちが私のことを心配そうに覗き込んでいた。
大丈夫です、とだけ答えて訓練を再開する。……そんなに堪えていたのか私。
ダメだダメだ。保健委員がそんな心配されたとあっては恥ではないか。
「…………」
ふと、隣で訓練している生徒に目をやった。
見る人に心配をかけてしまうくらい目に見えてグロッキーだった私を横目に、ひたすら訓練に励む彼女。
薄情なわけではない。少しだけ周りに対しての興味が薄いのだ。……いや、こういうのを薄情というのだろうか?

49 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/22(木) 01:35:39.39 ID:EqDo59.0
私がじっと見つめていてもそれに気付く様子はなく、彼女は机上のモルモットに集中していた。
現在私が訓練しているこの部屋は、生物に対してのみ効果を及ぼすことのできる能力者が集められる教室であり、すべての生徒の目の前にはケースに入れられたモルモットが置かれていた。もちろん私の前にもいるが、既に能力を使用した後なので先程とは打って変わって元気に駆け回っている。今日も私は絶好調だった。
ふと、再び隣に目をやると、
「…………」
うわっ! 見られた!
自分の能力の成果を自賛してほくそ笑む様を見られた!
「えっと、これは、あの……あれ?」
自身の名誉を守るために言いわけの言葉を探すがそこで、はて、と止まってしまった。
ここ何度かの訓練で隣の席になることはあったが私は彼女の名前を知らなかったのだ。
「えっと、私、閏矢可里奈。あなたは?」
今しがたの羞恥心は一切がどこかへと行ってしまい、私はのんきに自己紹介などしていた。
理由はと問われれば、以前から彼女のことが気になっていたからというのがそれだろう。いつになくフレンドリーな私が出てしまった。そんな私をじっと見つめる彼女。
この瞳だ。このどこか虚ろで、だけど心の中まで見透かされるような瞳。
しばらくの沈黙。
もう一度名前を尋ねてみようかと意を決したところで、
「……高原水喜」
初めて声を聴いた気がした。
何はともあれ私は彼女、高原さんと知り合った。

50 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/10/22(木) 01:37:35.16 ID:EqDo59.0
それから私は、高原さんを見かけるたびに声をかけるようになっていた。
普段の彼女を見るに友達がいる様子ではなかったし、私にもまた、友達と呼べる人がいなかったからだ。偶然にも同学年ということで会う機会が多かったのも、幸いした。
「おはよう高原さん」
やや間があって、
「おはよう」
始めの頃は話かけても返事をしてもらえず、いや、そもそも彼女自身が普段の生活の中で『誰かに話しかけられることなんてない』といった様子で心を閉ざしていたため、会話をするのにも苦労したものだった。しかし今では、
「いい天気だね」
「うん」
「でも夕方から冷えるらしいよ」
「そう」
「英語の予習やってきた?」
「うん」
苦労は続きそうだった……。

23 名前: ◆aFvpgnx8Zk[] 投稿日:2009/10/26(月) 02:49:40 ID:ypbIXXI6
そんな折、校内で事件が起きた。事件と言うより事故と言った方が良いかもしれない。
この学園を抱える島。それを管理するうちの一人(けっこう偉い人らしい)が学園の敷地内で亡くなったのだ。
学園の視察にやってきたその偉い人の乗った車が道を外れて敷地内を流れる川に落ちた。というのがこの事件の概要である。
客観的に見てもそれ以上の発見が無さそうなものではあるが、場所が場所だけに一応の現場検証がなされるらしかった。
しかし生徒にしてみれば不謹慎ながら面白みに欠けると言わざるを得ない事件。翌日には話題に挙がることすらなくなってしまった。
かく言う私も早々に事件のことなど忘れてしまっていた。何故ならそれ以上に気がかりなことがあったからだ。
「失礼します」
初めて入る職員室は煙草とコーヒーの匂いがした。
昼休みということもありほとんどの教員が揃っている。都合が良い。
私は一人の教員を見止めると昼食の最中ということにも構わず話しかけていた。
「高原さん……高原水喜さんについてお尋ねしたいのですが」
きっかけ、と言うにはおかしいかもしれないが、あの事件のあった日以来、高原さんが訓練に姿を現さなくなったのだ。
私は高原さんがどんな能力を持っているのか知らない。というか聞いていない。
稀にではあるが自分の能力を嫌悪する人もいる以上、不躾に能力のことを聞いてはいけないのだ。それは私と高原さんの間でも例外ではなかった。
「そりゃ高原はアクターだからな。お前らリフィターと同じ訓練をしてることがそもそもおかしかったんだよ」
私は己の耳を疑った。
高原さんがアクター? そんなの知らない。
教員は続けた。
「高原たっての希望だったんだよ。持続力を伸ばしたいって自分から言って来てな。珍しくやる気だったもんだから許可したんだ」
「…………」
「ところがこの間いきなり『もういいです』なんて言い出したんだ。しかしまあ、高原が訓練に満足したなら止めることもないしな」
それはつまり、もう対生物の訓練は必要がなくなったということなのだろうか。
それはつまり、もう私と会えなくなってもいいということなのだろうか。
たとえ彼女がアクターだったとして、室内での訓練をやめるというなら一言くらいかけてほしかった。
いや、彼女にそんな気遣いを求める方が間違いというものだろうか……。だがしかし、それでも。
私は考えのまとまらないまま職員室を後にした。
高原さんがアクターだった。それは気にすることではないし、私を騙していたわけでもない。
高原さんが黙って訓練を移ってしまった。彼女がそれを私に伝える義理は、無い。彼女がそれを私に伝える義務も、もちろん無い、
それでも私は彼女のことをこの学園で初めての――――。
「ちょっと、君」
不意に呼び止められて振り返るとそこには見知らぬ生徒が、いや、それが誰かはわからなくてもその腕に巻かれた腕章が、その生徒が何なのかを物語っていた。
「生徒会が、私に何の用でしょうか?」
生徒会役員。学園内に限らず都市全体の治安を取り締まる組織だ。
「そう怖い顔をしないでくれ。……しかし、犯人は現場に戻ると言うだろう?」
私は物思いに耽りながら何となく校舎の外に出て、これまた何となくあの事故が起きた川のほとりを歩いていたのだった。
特に理由はない。ただ、立ち止まりたくなかったのだ。
その行き先として、最近話題に上ることの多かった“ここ”を選んだとしても、やはりそこには何の理由もないのだと思う。
しかしおかしい。事故の現場を調べるなどという雑務に生徒会が出張るなんて。本来は風紀委員に回されるような仕事だろうに。
だがそれ以上に、その言葉にひっかかるところがあった。

24 名前: ◆aFvpgnx8Zk[] 投稿日:2009/10/26(月) 02:50:35 ID:ypbIXXI6
「犯人って……?」
「少し話を聞かせてくれないか」
私の問いかけに答える素振りもなくずいっと踏み出してきた。
疑っている。その態度が、それを言葉にしなくても伝わってくる。その手が、私に伸びる。
「待ちなさい。彼女、閏矢さんの能力では人間はおろか虫一匹だって殺せないわ」
掴まれる寸前で待ったをかけたのは、またしても生徒会の一人だった。
だが助かったと思う以上に、なぜこの人は私のことを知っているのだろうという疑問を抱かずにはいられなかった。たしかに私の能力は少し変わっているとは思うけど、知れ渡るほどの魅力は無いことを知っている。……これが生徒会の情報網というやつだろうか。
名前と能力以外にはどこまで筒抜けなのだろうと気にはなるところだったが、その考えはとりあえずどこかへ追いやることにした。
今聞きたいのはそんなことではない。
「犯人って、どういうことですか?」
そうだ。この件は事故ではなかったのか。
生徒会の二人は少し困ったように眼で合図を送り合うとやがて口を開いた。
「黙って帰したところで、ありもしない噂を流されたら困るからこっそり教えてあげる」
内緒だからね、とひとさし指を立てて見せるがその口ぶりは『話してもいいけど正しく伝えるように』という、暗に、一種命令のようなニュアンスで釘を打たれたようだった。
生徒会の見解はこうだ。
まず見晴らしの良い場所での事故。
そして一切の異常が見受けられなかった事故車。
さらに運転に支障をきたすような突発的な病気の可能性。
「被害者は視察に来る直前まで病院で精密検査を受けていたの。で、その結果が出たのが今朝方。いたって健康だったそうよ」
つまり事故が起きる理由となると不注意か、そうでなければ――――能力による殺害、ということになる。
「あの時間は全校一斉訓練ですべての生徒がただ一人の例外もなく訓練中だったの。トイレのような一時的に訓練を抜け出した者を除いて、ではあるけどね」
一斉訓練。たしかに覚えている。
そう。私は事故の瞬間、その前後、一部始終を見ていたのだ。
いつものように私は高原さんの隣で訓練していた。その間の出来事だった。
三階の教室。その窓から見下ろす形でちょうど事故現場が一望できる。
「訓練を抜け出した生徒がいるかどうかの確認と、いればその能力の調査。事件は半分解決したようなものね」
その日は高原さんが対生物訓練に出席した最後の日。
覚えている。彼女は一度も席を立つことなく、いつものように訓練に没頭して……いや、違う。
その日、高原さんは窓の外を眺めていた。一向に訓練を始めないものだから具合が悪いのかと心配していたのだ。
体調が優れないのか。そう尋ねようとした矢先の事故だった。
覚えている。彼女も、事故の一部始終を見ていた。
「……良かったです。それなら安心ですね」
まだ何か話そうとしていたようだったが、それを区切って足早にその場を離れた。

まさか、そんな。
思考が渦を巻いて気持ちがぐちゃぐちゃになっていたのはさっきまでのこと。
今や私は、ただ一つのことしか考えられなくなっていた。
彼女をよく知る教員が珍しいと評するその言動――。
その日に限って訓練をサボっていた彼女――。
そして訓練を辞退したタイミング――。
ただの偶然かもしれない。
そうだ。たまたま、これらが重なっただけで――――でも、だけど。
だからこそ確認したい。だって、
友達、だから。
高原さんが私のことをどう思っていたのかなんてどうでもいい。その口から、ただ『違うよ』とその一言だけ。
そんなことで疑うなんて、と軽蔑されるかも知れない。早とちりだと馬鹿にされるかもしれない。
それでも私は――――。

25 名前: ◆aFvpgnx8Zk[] 投稿日:2009/10/26(月) 02:51:06 ID:ypbIXXI6
「おはよう」
声をかけるのはいつも私から。
「……おはよう」
一拍おいてからの挨拶。変わらないやりとりだった。
高原さんを見つけたのは放課後になってから。
相変わらず独りぼっちで。その瞳は私の知らない何かを見ていて。
「もう夕方なのに、おはようっていうのはおかしいよね。あはは……」
何から話せば良いのだろう。しかし幸いにも周りには誰もいない。
今しかないと、思った。
「高原さんってアクターだったんだね」
違う。今言いたいのはこんなことじゃない。
「そう」
「……もう対生物の訓練には来ないの?」
これも違う。自分にイライラする。
「うん」
「そっか。……ねえ、聞いてもいいかな?」
握りしめた拳が痛い。掌に爪が刺さって血が出ているかも知れない。
「何?」
「こ、この前の事件って覚えてる、よね?」
「覚えてる」
即答。それだけで私は確信した。
「あの人をころ……」
「私が殺した」
彼女は自ら告白した。
「頼まれたから」
「頼まれたって、誰に?」
「わからない。電話口で、機械で声を変えていたから男か女かも、わからない」
いつもの間の開いた話し方ではない。
彼女は続ける。
「標的が数日中に学園を訪れるから、私の能力なら簡単に殺せると言われた」
殺す。彼女はその言葉を容易く口にした。
「私の能力は『蛇の目(セルピエンテ)』。人につけられた名前だからその意味は知らないけど、わかりやすく言えば視界を遮るだけの能力。車を運転していた標的がカーブに差し掛かったところでこの能力を使った」
窓から覗く夕日を背負った彼女の顔は、逆光でその表情を読むことは叶わない。しかしその声からはおよそ感情と呼べるものを感じとることができなかった。きっといつものあの瞳で、私を見つめているのだろう。
「電話の相手は私の能力を知ったうえで、日時、場所、タイミング、そのすべてを計画して説明してきた」
「ちょっと待って」
淡々と話す彼女に圧倒されていたが、ようやく口を挟むことができた。彼女は私が話すのを律儀に待っている。
頼まれた。彼女はそう言った。でもそれってもしかして、
「もしかしてその相手に何か脅されていたの? たとえばやらなきゃ命の保証は無い、とか、大事なものを失うことになるぞ、とか」
そうだ。もし脅されていたのなら仕方の無いことではないか。誰だって自分の身が惜しいに決まっている。
「何も言われてない。ただ頼まれて、それが私にできることだったからやっただけ」
……それだけ?
そんなの、そんなのって、
「おかしいよ!」
私は声を張り上げていた。
頼まれたからやっただなんて。そんなのが人を殺す理由だなんて。
そんなの、“自分が無い”では片づけられない。
今彼女の言ったことが本当ならば、できることなら何だってやると、そういうことだ。それこそ、言葉どおりに何でも。
「そうかな」
そう言って彼女は振り返り窓の方へ歩き出した。
今まで彼女にそれを注意した人間はいなかったのか。
いや……そうだ、いなかったのだろう。彼女が自分から動かない以上、誰かが踏み込まなければ彼女の異常性に気付かない。たとえば私のように。
それならば、だからこそ確認したい。
彼女がどう思っていようと、などというのは逃げているだけだ。真実を確かめず、自分だけが満足している“振り”をしているにすぎない。
私は息を整えて、
「私たちって……友達?」
その一言だけ。だけどとても重たい、潰れてしまいそうなほど、重たい一言。
彼女は窓際に手をついてゆっくりと振り向いた。相変わらず逆光で表情は判らない。
「……友達」
高原さんは言った。
「それは、友達になってほしいってこと?」
決定的だった。
私は彼女の友達ではなかったのだ。今の質問さえも友達になってほしいという“頼みごと”にしか捉えてもらうことができなかった。
やはり独りよがりだったのだ。友達だと思っていたのは私だけ。彼女にとって私は今でも知り合いのままだった。
なんて馬鹿なんだろう。私だけ舞い上がって、黙って姿を消されたとヘソを曲げて、そのあげく“友達を信じたい”だなんて。
友達ではなかったというのに。
「ごめんなさい。それは無理」
私はすぐには彼女の言ったことが理解できなかった。
「ああ、違う。勘違いしないで。友達になることはできることなんだけど、まだ前の頼みごとが終わってないから」
駄目だ。考えがまとまらない。彼女はいったい何を言おうとしているのか。終わっていないとは何のことなのか。
「電話の相手からの頼みごと。“もしバレたら死んでくれ”って。ね。だから、無理」
彼女は窓枠を飛び越えて、夕焼けの向こうへと落ちていった。

26 名前: ◆aFvpgnx8Zk[] 投稿日:2009/10/26(月) 02:51:32 ID:ypbIXXI6
「高原さん! 高原さん!」
私は階段を駆け下りてさっきまでいた部屋の真下までやって来た。
校舎を見上げる。落ちたのは三階から。
茂みや土ではなくコンクリートへの落下だったが運が良ければ助かるかもしれない。
一見したところすぐに異常を見てとれるのが有り得ない方向へと折れ曲がった右足。それ以外にはそれらしい外傷は見受けられず呼吸もしっかりしていた。
辺りを見渡す。よりによってゴミひとつ落ちていない。行き届いた清掃が恨めしい。
ふと校舎際に目をやると拳大の石が落ちているのを見つけた。
「待ってて高原さん」
私はその石を拾い上げて大きさや掴み心地を確かめる。……うん。これならば仕損じることもないだろう。
私は再び高原さんのもとに歩み寄ると、石を掴んだ右手を振り上げた。
「今、楽にしてあげるからね」
私は力一杯その石で彼女を殴りつけた。

私の能力は『癒装(ヒール・アーマメント)』。
武器で攻撃しても傷を与えるどころか逆に治療してしまう能力だ。
銃で人を撃てば撃たれた部分が回復し、金属バットで人を殴れば殴られた部分が回復する。
今回用いた武器は石だが能力を発動するうえで何の問題もない。あるとすれば石ではなく握った拳の部分が彼女に当たってしまうことだった。
あくまで回復するのは武器を使った場合のみ。素手では発動しない。しかも武器を使えば強制発動という、何とも不便で変わった能力である。
だがそのおかげで“運が良かったら”などという神頼みではなく私の力で彼女を救うことができる。

石で殴りつけた右足が淡い光に包まれた。しばらくすれば傷も残らず元通りだ。
「もう大丈夫……あれ?」
違和感。私は彼女の口元に手をやった。
「息、してない……!」
すでに日は沈みかけて暗くなり始めていたから気付かなかった。いや、そんなことは言い訳にしかならない。
彼女の頭の下には血溜まりができていた。傷は後頭部のものらしかった。
動かすべきではないと、あまり調べなかったのが裏目に出たのだ。
呼吸が止まってからどれだけ経った? 頭の怪我はどの辺り?
私は自分の能力なら命を救えると、そう過信していた。彼女を救えば感謝してもらえると。
何て浅ましい。そんなことで得た繋がりなど友情とは程遠いというのに。その結果がこの事態である。早く助けを呼ぶべきだったのだ。
ああすれば良かった。こうすれば良かった。そんな考えばかりが駆け巡り、私はただ呆然とするしかなかった。
「どうしたの!?」
遠くから声が近付いてきた。後から知ったことだが、それは昼のうちにあった生徒会役員だったらしい。校内を調査中に倒れた高原さんとその傍らでうずくまる私を見つけて駆けつけてくれたそうだ。
その時のことは混乱していてあまり覚えていないのだが、私の能力のことを知っていた生徒会の人の指示で私が高原さんを治療し、迅速な対応で医療班を呼んでくれたとのことだった。
その後どうやって部屋に帰ったのかは覚えていない。
翌朝、血に染まった制服を着たまま目が覚めた。私はその日、学校を休んだ。

後日、ことの経緯を生徒会から問い詰められたが、『高原さんが誤って窓から転落し、私はただパニックに陥っていた』という筋書きで説明した。納得はしてもらえたようだった。
高原さんはというと、記憶に一部障害を負ってしまったと聞いた。頭部への衝撃か、傷そのものか、あるいはその両方か。まあ、原因はその辺りらしい。
記憶に障害、といっても“ここ数日中の記憶が抜け落ちてしまった状態”とのことだった。正確には10日前後。それが本当なら私に関する記憶もおそらく……
私はこの件について黙っておくことにする。
彼女は依頼されたことを忘れている。殺したことを忘れている。バレたことを忘れている。
依頼主も彼女が目的を果たしたことに満足している。私が真相に気付いたことを知らない。
では私は? ……多くのことを知ってしまった。特に、高原水喜という人間について多くのことを。

私は彼女に話しかけないことにした。
彼女の性格上、友達になってほしいと言えば承諾してくれるのは目に見えている。そこから互いを知っていけばあるいは本当の友達になれるかもしれない。
だがそれはフェアではない気がする。対等じゃない。
彼女の人となりについて最も深いところを知ってしまった。そこにつけこんで友達面をするのは、やはり友情とは程遠い気がするのだ。
私は彼女の物語の脇役に徹することを決めた。
いずれ彼女を導いてくれる人間が彼女の前に現れることを信じている。その時、私は彼女を導くヒーローを陰ながら助けたい。私ならそれができるはずだから……。
そう。それが、私が彼女にできる唯一の――――

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最終更新:2010年01月22日 18:53
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