134 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:29:16 ID:DmGJKGi6
放課後が訪れてすぐに校内放送で職員室に呼び出された副会長、一戸遥(イチノヘハルカ)は、
色黒教師の机の前で一通りの説明を聞いた後に、業務内容を反復した。
「VIPの護衛と島内の案内、ですか」
「ついさっき決まってな。明日の午前中にはこっちに来るそうだ」
元々大きい鼻の穴を更に膨らませて息を抜いた高田真は、頷きながら続ける。
「そういう訳で、お前らは明日の授業を免除され――」
「やったねオイ!」
言葉を遮って小さな歓声を上げたのは、生徒会長の極ヵ原強也(きわめがはらきょうや)だ。
男子にしてはかなり長い黒髪を振り乱して、彼の隣に立っている角松巧(かどまつたくみ)の背
中を容赦なく叩いている。
「会長、痛いです」
哀れな生徒会の平一年生は、やんわりと極ヵ原の腕を掴みながら、教師に疑問を投げかけた。
「それにしても先生、飛び入りで客が来るなんて話、珍しいですね」
珍しいというより、特例である。少なくとも一戸が知る限り、そんなケースを見聞きした事は
一度もない。人の出入りに関して特に制約が厳しいこの地域にフリーパス同然に入れる人間とは、
果たしてどんな人物なのだろう。
「何でもうちの学園――っつうか島全体か、とにかく、ここにアホみたいに金を注ぎ込んでるス
ポンサーの御子息なんだとよ。こっちとしても多少は愛想振りまかないと色々まずいんだろ」
高田が不満げにVIPの素性を明かした。実際に聞いてみれば、なんとも味気ない回答である。
角松がごく真っ当な感想を述べる。
「こんな辺鄙なところによく来る気になりましたね、その人も」
「本人はジャングル探検と同じようなノリらしい。まあ危険な人物が多いって認識は間違ってね
えんだけどよ」
それで護衛か。
「で、お嬢様なんでしたっけ、そのVIP様は」
生徒会長が間の抜けた質問を投げかけた。椅子に掛けていた高田が立ち上がりかける。
「子息だっつっただろうが! 人の話はきちんと聞け!」
「あ、男なんすか。ロリ気味のお嬢様とかだったら、気合い入ったのに……」
意気消沈している会長を無視して、一戸は尋ねた。
「明日は具体的にどう行動すればいいんですか」
低血圧の身としては、明日の起床時間への影響が最も気になる。
「別に。船が港に着く予定時刻が十一時だったから、それまで自宅で待機してて構わない。ああ、
案内する場所の候補くらいは考えといてくれ。プレゼンに関しては、全面的にお前らに任せる」
寝坊ができると胸中でガッツポーズを取っていると、常識人の角松が良い質問を口にした。
「船で来るんですか。てっきりヘリだと思っていました」
135 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:31:00 ID:DmGJKGi6
「デンジャーチェイサーだったか。葉村にはあれで周囲に不審者不審物等が出てこないか、監視
してもらう。現場で動いてる風紀委員の方が、そういう仕事には強いはずだ」
生物を操ってその視野を獲得するとかいうあれか。
「しかし一番警戒しなきゃいけないのが護衛対象っつうのも、笑えますね」
話に割ってきてまるで笑えない皮肉を言ったのは極ヵ原だ。
「とりあえず今の話は全て
決定事項。お前らに拒否権はない。明日は全員制服で来る事。以上、
帰ってよろしい」
これ以上の会話は受け付けないらしい。一戸が手に持っていた資料を奪い去ると、高田は机に
向き合って仕事に入ってしまった。
「はぁ……」
「珍しいですね。福会長がそんな情けない声を出すなんて」
三人揃って出入り口に向かっている最中、角松にそんな事を言われる。
「当り前でしょ。何が悲しくて風紀委員の連中と共同作業なんてしなきゃいけないのよ。こうや
って私たちの独自色が薄れていくんだわ」
「能力の性質もあったんでしょうけど、人格的にも一番摩擦の起こりにくそうな人を連れて来て
くれたんだと思いますよ、高田先生は」
「でしょうね」
その位の配慮を受けている事は分かっている。半ば無理やり風紀委員にさせられた彼女が、組
織に義理立てする可能性はないかもしれない。しかし風紀委員の手を借りたという最も重大かつ
不愉快な事実は動かないだろう。
「あ、一戸。男子寮先に頼むね」
「はいはい」
極ヵ原の指示に相当の苛立ちを覚えながらも、ドアノッカーは廊下に続く引き戸を、軽く握っ
た拳で規則的にノックしていく。
「お、そうだ副会長。仕事がないならいっそ、俺らも風紀委員と一緒に治安維持活動に参加する
ってのは――」
怒りが臨界点を突破した一戸は、扉の向こうに広がる男子寮エントランスに角松と自分が足を
踏み入れた直後、ドアを叩きつけるようにして閉め、極ヵ原を置き去りにしたのだった。
翌日。
定期便が出ている訳でもないので、殺風景な小さなフェリー港は、まるで打ち捨てられている
かのように寂れていた。海岸沿いに設置された隣の大型港湾は毎日貨物船が行き交っているとい
うのに、ひどいギャップである。
普段はジャージしか着ない高田も、今日は背広姿だった。
「葉村、問題ないか」
136 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:31:58 ID:DmGJKGi6
「大丈夫みたいです」
晴天の空の下、リムジンカーの前に整列して、船からコンクリートの桟橋に下りてくるストリ
ート系ファッションの坊主頭に視線を注いでいると、高田と葉村奈々のやりとりがすぐ横から聞
こえてきた。一戸たちには軽い会釈をしただけの目立たない風紀委員も、高田とは明朗なコミュ
ニケーションを取っている。
「今更ですけど、本当の偉いさん方は来てないんすね」
あちこちに視線を走らせている極ヵ原の声に、高田が小声で返す。
「堅苦しい挨拶かましてくるジジイやゴマ擦りしか考えてなさそうな欲得ずくのオッサンは嫌い
なんだとよ。ついでに、常識に縛られた頭の固い人種も」
まともな大人全般が好みに合わないらしい。出迎えがこういう編成になったのも、向こうの意
向に沿った為なのだろう。
「んじゃ行ってくるよ。葉村、ついてこい」
「あ、はい」
代表して、高田が桟橋まで出迎えにいく。不測の事態にすぐ対応するためか、周辺の監視役で
ある葉村も後ろにつき従えていた。葉村は常に一冊は本を持ち歩いているのだが、さすがに今日
は手ぶらである。
「君可愛いね」
彼らが接触した直後、ズボンのポケットに手を突っ込んでいるVIPが葉村に言い放つのが、潮風に乗って聞こえてきた。
「あの見た目でああいう女の子が好みって言うのも意外ね」
言っては悪いが葉村は地味な雰囲気である。一戸がつい洩らした独白に、極ヵ原が乗ってきた。
「分かってないね副会長。男ってやっぱ、ああいう大人しやかな子に弱いんだよな~。な、角松
クン!」
「俺に振らないで下さいよ」
「カッコつけんなよ~。気になってる子がいたらさっさと目を付けちまった方がいいぞ。俺なん
てな~、時期を逸し続けて、いるうちに……そういえば……高校卒業……もう目前じゃん……」
「自分で喋って自分でテンション下げてますよ。会長」
「ちょっと二人とも」
一戸が声を掛ける。
「さっそく雲行きが怪しそうなんだけど」
VIPが葉村の腕を掴んで、もう船に帰ろうとしている。
「何やってるんですか、あれ」
「もしかしたら船に連れ込んで一発やっちまおうなんて不埒な考えを――」
高田が止めに入ると、わずかに揉み合った末、VIPがポケットから手を抜きぬいた。
拳銃らしき物が握られているのが、遠目からでもはっきり分かった。
「到着して早々に何してくれてんだか」
137 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:33:37 ID:DmGJKGi6
そう言って、視界の端に入っていた極ヵ原が姿を消す。それは珍しい光景でも何でもない。少
し遅れて角松も走りだした。さらに一拍置いて、自分も。
一発目の銃声と共に、葉村が悲鳴を上げる。しかし高田も撃たれる直前に上体を大きく仰け反
らせていたのが見えた。恐らく命中はしていないはずだ。
そして葉村に向けられた銃口から二発目が発射される直前、驚異的な速度で接近していた極ヵ
原がVIPを地面に引きずり倒していた。そこで一戸は前進を止める。
「ちょい、ちょっとお待ちに」
何故か相手を制圧している極ヵ原が、坊主頭に向けておどおどした声を上げている。腕を捻じ
り上げられた大学生の手から、拳銃がこぼれ落ちる。
「おい高田ちゃん、生きてる!?」
「……死んでたまるかよ……走馬灯見ちまったけどな……」
「おい、離せよ化け物!」
殊勝にもVIPが喚き散らしている。別に気にはならない。自分たちが化け物なのは、ここで
生活している人間は重々承知している。
「何でこんな事を?」
間の抜けた問いを、既に極ヵ原の傍に立った角松が口にした。
「あのな、お前らを飼ってやってるのは俺たちなんだぞ。女貰うのもやかましいゴリラを射殺す
るのも俺らの勝手だろ」
「このクソガキが――」
体を起こして激昂しかけた高田を、角松が手で制した。
「会長、その人を離してあげてください」
「ん? ああ」
自由になったVIPの体を起こし、角松は彼の手に拳銃を握らせる。
「どうぞ、ここを狙ってみて下さい」
「マジで? じゃあ遠慮なく」
そんなやりとりが終わるか終らないかというタイミングで、VIPが角松の額目がけ、素早く
引金を引き始めた。断続的な銃声が轟く度に、角松の頭部が微かに振動する。
目に見えて、VIPの顔色が悪くなってゆく。
弾が出尽くしたのを見計らい、傷一つ負っていない角松が抑揚のない口調で言った。
「躊躇がないのは結構ですけど、こんな玩具で自分の身が守れると思ってたんですか」
見事な足払いで、VIPの体を再びコンクリートの上に這わせる。そして角松は、彼の頭部の
真上に片足を持ち上げた。
「今度来る機会があったら、バズーカか手榴弾くらいは持ってきた方がいいですよ。あと――」
極ヵ原が呆然としている葉村を小脇に抱えた。高田も角松に手を伸ばしているが、ぎりぎり能
力の発動に間に合わないと踏んだ一戸は、背を向けて桟橋から全力で離脱することにする。
138 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:34:33 ID:DmGJKGi6
「養ってくれなんて、俺は一回も頼んでない」
その角松の言葉の直後、港全体が揺れた。
三角一徹(リノセロンテ)によって限界まで質量と硬度を上げた右足の一撃は、コンクリート
の桟橋を易々と崩壊に導いた。海中に没しようとしている地面の上で体のバランスを取りながら、
角松は油断なく周囲を見渡す。
肝心のVIPの死体がない。
大きく揺れ始めた大型船に、角松は視線を固定させた。
「お前もちょっと落ち着けよ、新米」
自分よりもかなり高い位置、船体の屋根の上に、葉村と坊主頭を両脇に抱えた極ヵ原が、涼し
げな表情でこちらを見下ろしている。
「余計な事を」
冗談抜きで目で追えない速度で動く会長の存在に思わず舌うちを出たが、次に取るべき行動は
すぐに決まった。さすがにあの高さまで跳躍するのは無理だが、船体の横っ腹に蹴りを入れるく
らいなら自分にもできる距離だ。
ここまでやった以上、船の一隻や二隻沈めてでもあの男を殺しておきたい。
しかし地面を蹴って角松が海上へ飛んだ瞬間、周囲の風景が一変した。
毎日通っている校舎の屋上である。西の空に沈みかけた太陽は、屋外の全ての物を橙色に染め
上げていた。先ほどの時間から考えるとありえない状況だが、全ては目の前に立つ高田の心象風
景なのだろう。
「――これが噂のマイセルフですか。しかし発動まで随分時間がかかりましたね。先生の力も相
当鈍ってるようだ」
深い理由もなく噛み付いた。人づてに聞いただけだが、彼が全盛期なら、角松の最初の蹴りが
港の一角を破壊する前に、あらゆる能力使用が不可能なこの異空間を展開できたはずだ。
「その辺で止めてもらおうかな。さっきマジで殺すつもりだったろ、お前」
ああいう人種は高田に負けず劣らず嫌いなのだ。
「いくら何でも、今回ばかりは先生方の判断が間違っていると思いますよ。ああいう人間は、取
り返しのつかない事をしでかす前に処分してしまった方が賢明です」
自分や極ヵ原ならともかく、あの頻度で発砲するような輩では、リフィターや一般人がいつ被
害を被るか分かったものではない。
「あんな奴のために、お前が人生に汚点を残すのも虚しいだろ」
「意外と事なかれ主義なんですね、先生。正直、幻滅しました」
「幻滅でも失望でも何でもしろよ。とりあえず、教え子に人殺しをさせるような恩師にだけはな
らないつもりなんでな」
139 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:36:07 ID:DmGJKGi6
「……先生に勝てば、この空間から現実世界に戻れるんでしたっけ」
「ああ。まあ素手の喧嘩で俺を倒せる奴なんていねえけど、ストレス発散なら付き合ってやるぞ」
一息に距離を詰めた角松は、高田の顔面にハイキックを打ち込んだ。
「あ~、いでえ……。で、その後どうなった」
人気の絶えた職員室で、あちこち腫れている顔に氷嚢を押しあてている高田に、一戸は事後処
理の経緯を語った。
「先生と角松が消えてすぐに、VIPは保護という名目で島内の病院に拘束しました。船の乗員
と合わせて記憶の消去を施すつもりですが、連絡を入れた事務の話によると、先方の両親から
は人格矯正の願い出があったそうです。ここを出る頃には、廃人にならない程度に頭の中をい
じられて大人しい人間になっていると思いますよ」
「そういう事に関しては特に進んでるからな、ここ。今はどんな感じなんだ、あの金坊主」
「ひどく怯えているそうです。当然と言えば当然ですが」
「あの野郎、せっかく俺が助けてやったのに泡吹いて小便漏らしちゃってさ。引いたわホントに」
隣の極ヵ原がどうでもいい事を話し始めたが、声量を上げて続ける。
「係留施設の一つが半壊しましたが、元々人の乗降用に設置された物なので実害はほぼゼロです。
これが物資積み下ろし用の隣の大型港湾で起きた事件なら大問題になってたんでしょうが、そ
ういう意味では不幸中の幸いでした。修復費用はスポンサー側が全て負担するという事で話が
まとまっています。ただの親馬鹿という訳でもなく、今後の関係に支障が出る可能性もなさそ
うです」
「なるほどね」
「騒動に関しては全て終息したと考えて下さって結構です。先生が角松と殴り合っている間に」
「おい、一戸……台詞の後半が凄い強調されてないか」
「当り前です。学校病院に財務局警備局、果ては港湾管理局なんて部署にまで連絡を入れて、そ
の度に状況説明と今後の措置の指示まで求められましたし、現場周辺の交通網の封鎖に関して
も風紀委員会と自警団がどこからともなく出てきて大揉めでした。手際としてはほぼ最悪です。
先生が喧嘩なんてせずにさっさと帰って来てくれれば、あそこまでもたつくような事もなかっ
たんでしょうが、あれでは生徒会の指揮、統率能力に疑問を持たれかねません。会長にはそう
いう方面の活躍など期待してませんが、まさかあなたまで仕事を放棄するとは思ってませんで
した。……これで私に怒る権利がないなんて言いませんよね、先生?」
「……はい……」
「で、角松クンはどうなるのよ?」
極ヵ原が言った。それは一戸も気になっていた事案だ。先ほどまで緊急の職員会議が行われて
いたので、既に彼の処遇も決定されているはずだ。話を反らすためか、高田も即座に答える。
140 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:36:59 ID:DmGJKGi6
「謹慎二週間。生徒会からの除名処分や行動制限が掛けられたりなんて事もない。まあ原因が向
こうにあるし、無許可での島内への銃器持ち込みも重大な条例違反だからな。その辺りを勘案
すれば妥当な軽さだろ」
「角松は今どこに」
一戸が尋ねる。
「さあな。お咎めなしに近い処分だったから、会議が終わったらそのまま解放しちまったよ。真
っ直ぐ寮に帰ってるかもしれないし、どこかをふらついてるのかもしれない。――ああ、もう
下校時刻だな。お前らもさっさと帰れよ」
室内の壁に掛かった時計を見上げた高田にそう言われ、極ヵ原と一戸は職員室を後にする。
「念のため、角松の部屋も覗いていくか?」
「たまにはいい提案しますね、会長」
昨日と同じノックを繰り返し、一戸は廊下へ出る扉を男子寮につないだ。
月明かりの下、臨時に設置された金網のフェンス前に立っているその人影は、夜の海に虚ろな
視線を投げかけていた。フェンスの向こうには、巨大な亀裂が無数に走っている埠頭が広がって
いる。
「何物思いに耽ってんだい、角松クン」
「会長……と福会長もいるんですか」
振り向いた角松を、一戸が咎める。
「とっくに門限を過ぎてるわよ。そもそもあなたは謹慎を言い渡された身でしょう」
「風紀委員みたいな事を仰る」
「その風紀委員に目を付けられると面倒だから私たちが探しに来たのが分からないの?」
目の周りに青痣を作っている角松が、乾いた笑いを浮かべた。
「反省するのはいいけど、それを引きずって別のルール違反を犯すなんて愚の骨頂よ。速やかに自分の部屋に戻りなさい」
「反省……ですか」
またも自嘲的な笑みを作り、角松がぽつりとこぼした。
「確かに、反省すべき事の多い一日でした。殺すと決めた相手を仕留めきれず、敵意を抱いてい
ない人と衝突し、挙句無力化されている。今日ほど自分の無能を実感した日は初めてかもしれ
ません」
「つうかさ、普段温厚なお前が突然切れたのは何で?」
語尾を上げながら極ヵ原が問う。
「平素から自分に判断力が欠けているのを自覚していたので、たまには即決で動いてみようかと
思っただけです。あの時点で対象を殺害するのが、私たちだけでなくこの島全体にとって最も
望ましい行動だと考えました」
141 名前: ◆ll4lON6OZk[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 16:38:10 ID:DmGJKGi6
「何も殺害までする必要はねえだろ」
「高田先生にも同たような事を言われましたよ。やっぱり俺は駄目ですね。個人的な感情が先行して、
加減するという発想が全く出てこなかった」
まあ相手があれでは、力も入ってしまうだろう。
「とりあえず、さっさと帰ろうや。落ち込むのはお前の自由だけど、自分の部屋に戻れ」
「……はい」
「そこの風紀委員の子も、風邪引くぞー!」
背後の闇に向かって、突然極ヵ原が声を投げかけた。かなり遠くに立っていたのは、葉村奈々
のようだった。今まで全く気が付かなかった。
「もしかして私たち、尾けられてた?」
一戸が極ヵ原に耳打ちする。もしそうだとしたら、失態である。
「いや、それなら俺が絶対に気付いてる。だいぶ前からあそこにいたんじゃないか。俺らが来た
のを察知して、さっきそばを通った時は姿を隠してたのかも」
「じゃあさっさと帰らないと。彼女の仲間連中が大挙して押し寄せてくるわ」
「それはねえだろ。あの子に告げ口する気があったなら、今頃角松が取り押さえられてるはずだ」
「じゃあ彼女は今何をしてるのよ」
「そこまでは分かんねえよ。角松と一緒にたそがれたかったのかもな」
「……せっかくだから、寮まで送ってあげませんか?」
提案したのは角松だった。極ヵ原も同調する。
「いいねそれ。せっかく見逃してくれてるみたいだし、あの子も一緒に乗せてってやろうぜ、ド
アノッカーさん」
「人をタクシーの運転手みたいに言うのは止めてちょうだい」
一戸の声を完全に無視して、極ヵ原が葉村へと駆け出していた。
終わり
最終更新:2010年01月22日 18:57