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したらばSS作品 ◆LMBwMUyKG.

158 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:45:41 ID:q/ZGGaaw

 俺の毎日の習慣はテレビの【今日の占い】を見ること。これがなければ始まらない。
 日々変動するこの順位、それが一日の潤滑油になるかはさておき、それが一日の楽しみであることは間違いがないのだ。
 洗面台から持ち出した歯ブラシを口に突っ込みながら俺は、キラキラした画面に現れる数字と文字に釘付けになっていた。
「またテレビにかじりついて運河ちゃんよー、まったくどこのキッズですか?」
 そんなとこで寝起きなのにやっぱり軽いノリで話しかけてくるルームメイトのアホ眼鏡が居るが、無視。
 優先順位はテレビに映る順位の確認に向いている。俺のライフワークに水はささせんよ。
 さらに言えば、今テレビに映る順位は四位、俺の星座である射手はまだ出てきていない。
 ってことは俺一位なんじゃね? 凄いじゃないか俺。久々だよこれ何日ぶりだよバカ野郎が……!
『三位の射手座さんh―――』
「ああ、そんな事だろうと思ったよチクショウッ……! テレビ局は便器に下半身突っ込んで俺に土下座しろ!」
 歯磨き粉が飛んだ。知るかそんなもん。
「どした? また最下位か?」
 無常にも……。いや三位か、なかなかいいじゃないか。最近はだいたい四位までに出てきちまってたしな。
 いいな、うん、三位はいいよ、最高だ。来てる、今日は俺、行ける気がする!
「おっしゃあ波久ぁ! 食堂行こうぜ!」
「オッケェェェイ!! モーニングパスタライスをスキヤキパーリィだぜ!!」
 ルームメイトのキチガイ野郎――雷電波久(らいでん なみひさ)――は俺のそこそこ仲の良い奴。
 こいつの妙な能力は俺のポリシーに反するものだが、まあそれはそれだ。こいつはアホだ。
 クローゼットのハンガーから制服をするりんりん、っと抜き取り、高まるテンションとともに着替えを済ませる。
 波久は既に着替えを済ませていて、部屋の出入り口でふにゃふにゃ気持ち悪い踊りを繰り広げていた。
「おいフジツボ!」
「俺は小野運河(おの うんが)だけど」
「我らが電波神からのありがたいお言葉だ!」
「我らってお前以外に誰がいるんだよ」
 始まっていた。これがこいつの能力、『我らが電波神(ミラクル・オラクル・ラブ)』。
 わけわかんない他人に理解させる気なんざ谷底にぶん投げてるんじゃねえかって踊りと奇声をあげると、
 やっぱわけわかんない「電波神」からのありがたいお言葉をいただけるそうだ。
 こんな言い方だと能力ってよりただの狂った眼鏡野郎の妄言のように聞こえるかもしれない。
 だが事実、俺はこいつ(電波神?)の「ありがたい言葉」でプラスに動いたことが何度かあった。
 もともと俺は若干運が悪いんだが、要するにこの助言で助かったことがあるってこと。あとは割愛。
「今日は素敵な出会いがあるってよ! 早速ハネムーンの準備をしながら全屈しようぜ!」
 ああ、マジでなに言ってるかわかんない。面倒だから浮かれるアホを無視して、俺はさっさと食堂に向かった。

159 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:47:28 ID:q/ZGGaaw
「なに食おう……」
「パスタで」
 食券販売機の前。朝は後ろがつかえるのがわかっていたのに、何を食べるか考えていなかった。
 失策だ、パスタ以外の選択肢、それもあまり高価ではなく、朝の俺にやさしいものを早く選ばねば。
「モーニングセットAだな!」
「てめっ! パスタどうしたんだよ!!」
 横のメガネは本当に朝からパスタを選んでた。これが電波神様の呪いなら、ぜひ無関係でありたい。
 それから配膳スペースの人の波にのまれながら、なんとか給仕のおばちゃんのところへ到達した。
「モーニング、っふ! セットAです!」
 脇腹に固いものがぶっ刺さった、いたい。だがこれはいつものことだ、人が多いのだここは。
 人の激流に耐える。ひたすらに耐える。でもおばちゃん、もうほんの少しくらい早くしてくれ。
「はい」
 渡されたパンやサラダ、目玉焼きなどの乗る皿をトレイに乗せ、軽く持ち上げながら抜け出した。
 それから適当に壁際の空席に到達し、軽く背を伸ばす。なかなか今日はスムーズにいけたんじゃないんですかね。
「って、これ考えてみればモーニングセットBじゃねえか……」
 ご飯を食べるつもりであったのだが、そういえばパンを中心としたメニューが広がっている。
 まあこれも俺の宿命で、仕方がないので受け入れることにしよう。こいつだって、いつものことだ。
「やっぱ早いなモーニングセット!」
 波久もへらへらしながらトレイを抱えて持ってきた。
「そりゃパンは茹でないからな」
「ん? Aじゃなかったのか?」
 トレイを覗きこんで言う。長めの髪が俺のサラダに触れそうになっていて不快。
「奇遇なことに、今日はAとBがシャッフォゥされたみたいで」
「あー、また例のな。毎日毎日休みもしないでよくやるねえ」
「慣れれば面白い。多分」
 例の。これは俺の能力に関することだ。俺の周囲の確率はいい加減なんだよ。
 力は『確率逆転(アンチギャンブラー)』。その書き文字の通り、俺の周りの確率はひっくり返る。
 普通に過ごしていて、人込みで脇腹をド突かれたり、モーニングセットを間違われるのは偶然かもしれない。
 だけど俺はその『偶然』が、たまーに必然であるかのような振る舞いを見せる時がある。
 影響が出るのはせいぜい俺の目の届く範囲みたいだからそこまで不幸ってほどでもないのが救いだ。
「全っ然面白くないだろうけど、深く考えてもしょうがないな。ってこの会話いままで何回ループしたっけ」
「さあ。とりあえず飯食おう」
 もしゃもしゃとバターロールを咀嚼し、付属のパック牛乳でそいつを流し込む。
 横のトマトソースをしぱしぱ撒き散らす波久と適当に会話しながら、俺は今日の時間割をぼんやり思い出していた。

160 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:50:40 ID:q/ZGGaaw

「グーテンモルゲン!! やぁやぁグーテンモルゲン!!」

 早速飛ばしてる俺の隣を歩くメガネ。すれ違う生徒に片っ端から挨拶をけしかけている。
 俺は以前何度もやめろと言ってたんだがどうもコイツは頑固みたいで、絶対にこの無差別挨拶をやめようとはしない。
 この行動、相手によってはトラブルに発展しそうなもんだが、なんか風紀委員の人達がすんごいらしくて
 今まで一度も喧嘩やらになったことはない。そもそもコイツを無視する人間が大半なんだけど、さ。
「あらグーテンモルゲン、波久君は今日も元気ね~」
 でも、無視しないお方もいらっしゃる。ご丁寧に毎日変わる挨拶をきっちり返す人。
「どうもケフィアさん!」
「いいえ、イーエって呼んでよ」
「おはようございます、先輩」
「波久くんはどんな女の子が好みなのかな~?」
 俺の存在を華麗にスルーしたややこしい名前の彼女。イーエ・ケフィアさん。
 なんだか理由は知らんがこの人は波久がなかなかのお気に入りのようで、今の台詞とともに波久の顎をすりすりし始めた。
 気に入るのにパッと思いつく理由が容姿しかないというのは俺の嫉妬なのだろうか、むしろ蔑みなのだろうか。
「流れ星への願い事が『流れ星を見られますように』とか考えちゃうアホの子ですよ!」
 顎の手をさりげなく払い、妙なステップで話す波久。アホの子筆頭は間違いなくこいつだろう。
 ケフィアさんはその姿を見ながら微妙に考え事をするように、自分の頬を指でトントンと叩く。
 うん? と呟き、顔を横に捻ると彼女のブロンドのショートヘアが軽く揺れ、次の瞬間にはその指を素早く波久に向けていた。
「それ、私じゃない!?」
「えぇぇぇぇ………」
 違うと思う。でもこの人もちゃんとしたアホだと思う。
「波久、先行ってるから」
 朝っぱらから元気な人についていくのは大変だ。溜め息を吐く体力すら勿体ないので、俺は二人を放置することに。
「待ってくれ運河! この人ぶっちゃけ面倒なんだ!」
「まあまあ、ゆっくりしていきましょ~」
 素が出てしまった友人は無視する。俺は非情な冷血人間、最低最悪鬼畜野郎なんだ。これ、語呂がいい。

「いってぇ!」
「あ、ごめんね」
「おっふ!」
「悪いな下級生!」
 授業に向かうために校舎内を歩く途中、何度か人にぶつかったり、なんだかよくわからないものが飛んできた。
 今日は固い人とぶつかってないだけまだマシな方だ。酷い時なんて金属バットが側頭部に命中したりする。
「おう運河!」
 と、背後から波久の声がかかった。あくまでもそれは、『波久の声』だ。
 放置してきたあいつがこんなにサラッと声をかけてくるはずがないのだよ。となれば、
「おう。って小羽戸さんさぁ、バレバレだわそれ」
「くっそぅ、バレたか」
 悔しそうな声をあげ、その場で崩れ落ちる波久。正確には波久の皮を被ったもの。
「もっとキチガイ染みてないと」
「じゃあ私に雷電君の真似はできないなぁ……むしろしたくないなぁ」
 少女の声での呟きを聞きつつ観察していると、波久の顔や、擬似的に作られた体がぽろぽろと空気中に拡散していった。
 人の皮が崩れ、中からまた人が出てくるこの光景。やたら神秘的に感じるのは俺だけかもしれない。
 そして両サイドで結った黒髪をぴょこぴょこさせてぬるぬる立ちあがったその人は、俺と同学年の
小羽戸 ハル(こばと はる)だ。今のように、彼女は他人の姿を借りて色んな人にちょっかいを出している。
 俺が特別なわけではなく、彼女は周りのいろんな人間に悪戯を仕掛けるのだ。たまたま今日のターゲットは
俺だったらしく、一発で正体を看破される結果になってしまったわけで、本来的には普通に接してくると全然わからないものである。
 声とか姿はもちろん、場合によっては口癖だって真似してる時がある。授業中に教室を徘徊する先生が
二人になった時は、驚くと同時に笑いを堪えられなかった。そのあと小羽戸さんはお灸を据えられてたらしいけど。
「波久の真似なんてしても面白くないしね」
「そうかな? 個人的には面白いと思うよ?」
 そして、へら、と笑ってどこかに行ってしまった小羽戸さん。やっぱり彼女もちょっと変わってる気がするな。
 おそらくはまたどこかに悪戯をしに行ったのであろう、その背中を薄目で見送る。授業には急がないのかな。

161 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:52:52 ID:q/ZGGaaw
 一時限目はリフィター、つまり俺や波久のような非戦闘能力保持者の合同授業だ。
 適当に知ってる奴の姿を探し、その長机に座る。なにしろランクの方は関係ない授業なので人が多いのだ。
 寂しがり屋ってわけでもないが、知ってる奴が居るのに一人で座るのも味気ないじゃないですか。
「やあ、小野君」
「昨日も大変だったそうじゃないすか吉富さん」
「僕に出来ることなんだ、文句なんて言わずに承るさ」
 吉富さん、なんて言ってみたが別に尊敬はしてない。確かに凄い能力らしいけども。
 ぶっちゃけた話俺から見れば波久の上位互換のような力だったと思う。話に聞いただけであんまよく知らない。
 でも色んなとこから吉富にはオファーが来るようで、吉富はどれも無下にしたりはしない。それは個人でも、団体でも。
「あーしんどい……あの人全然離してくれなかった……」
「おはよう雷電君」
「グーテンモルゲニア………」
 始業ギリギリ、息を切らせて波久が俺の隣に飛び込んできた。毎度毎度お疲れさんです。でもちょっと羨ましい。
 そういえば今日は素敵な出会いが波久にはあるらしい、どんだけ女性に縁があるんですかこの阿呆め。
 同学年には変な目で見られてるくせに。俺はどんな目でも見られてないけども。
 俺にも素敵な出会いが訪れれば良いのにな。思春期的に考えてそういうのには憧れるんだ。
 ちょっと変わった人が多いけど、その分魅力的な人も多いわけで。ああ無情、こいつは受身の俺には関係なかったぜ。
「はーい、みんな揃ったわね? それじゃ、リフィターのクラス合同授業を行いますよ」
 保険医の加賀先生が声をかけた。今日は戦闘時での各自の基本行動とかだったっけ。
 実際俺達は戦闘なんてまったく関係の無い職に就く場合も少なくなかったりして、あんまり有意義な時間ではないと思うんだよな。
「………では次は~、人工呼吸の演習です。周りの人と六人程度の班を組んで、AEDで遊んでてください」
 話を九割九分九厘聞き流していたつもりの俺だが、ここはしっかり聞きとった。
 なんという反応。我ながら天を仰いで「俺様の耳は(良い意味で)ロバの耳!」って叫んでしまいたくなる。
 ていうかどうなの、「遊んでてください」って教育者が言っていいの?
 まあいいさ、今こそ本日第三位の運を誇る俺のテンションを発揮する時だ、やってやるぜ、ストロベリー!

「波久! かぁいいこ捕まえようぜ! 吉富! お前評判良いからこっちな!」
 吉富の肩を引っ張る。
「まかせろムッツリ!」
 素早く親指立てるメガネ。
「別に構わないよ」
 悪意のなさそうな顔で笑う吉富。
「行こうぜ! 行こうぜ!」
 浮かれる俺、
「あ! 小野くん組もうよ!」
 は、小羽戸さんに声掛けられた。
「うん!」
 ノータイム零秒、脊髄反射で勢いよく頷く。……あれぇ?

「運河ぁ……俺女の子に総スルーされたぁ……なんか珍獣を見るような目だったぁ……」

 半泣きの波久は例によって無視。とりあえず集まった面子を眺めた。
 男女で机を挟むように座り、俺は右端にポジションを取っている。
「どれが私でしょう?」
 正面に小羽戸さんが三人いて、右から俺と、波久と、吉富。いい感じにおかしいでしょうよ。
「小羽戸さん、とりあえず二人を解放して」
「どれが私なんだろうね!」
「僕は釈さんを誘ったよ」
 ここでなぜか吉富。なぜ、本当になぜこのタイミングで。
「うん。でもね、吉富君はいいんだけど、雷電君はちょっと……」
 左端の小羽戸さんが申し訳なさそうに呟いた。それを聞いた波久は口をパクパクさせている。南無。
「もう一人は?」
 小羽戸さんが連れてきたらしいのだが俺は周りをチラッチラ見てたので気付かなかった。ので聞いてみる。
「どれが私だろうね! 誰が私なんだろうね!」
「私はどれで、私は誰なんだろうね!」
 右と真ん中の小羽戸さんがややこしい。クラス合同だからそんなノリのいい子に見当がつかない。
 そんな中、おもむろに波久が机に身を乗り出し、ツイン小羽戸さんの額を指で突いた。
「へめっ!」
「ぬ」
 多分「へめっ」の方が小羽戸さんだと思う。「へめっ」っぽいし。
 ていうか考えてみれば、タイミングから見て吉富は既に知っていたんじゃなかったのか。なんで独りでニヤニヤしてんだよ。
 波久の突いた右の小羽戸さんが塵と化していく。スーパースローカメラならなかなかエグい映像になっていそうだ。

 ぱらり、ぱらり。

162 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:54:58 ID:q/ZGGaaw

「どうも、鈴村千鶴です」

 皮が剥がれた。中に隠れていた空に漂っていそうなほど白い肌に、艶のある黒髪がぱさりと軽くかかる。
 その持ち主の目は閉じているが、そこからの長い睫毛もこれまた艶めかしく(ryうん、要するに美人。
 彼女はまるで、万象一切何事もなかったかのような無表情で膝に手を置く。
「「いや知ってますけど!」」
 俺と波久の呼吸が合ってしまった。そりゃあリアクション被りもするだろう。
 普段見ていた「ああ、綺麗でおとなしい人だなあ、ドゥフ、かわいい」とか思っていた人間が、
 ついさっきまで「どれが私なんだろうね!」とか言いながらくねくねしてたんですもの。
「鈴村様そんなキャラだったの!? そんなファンキー少女だったの!? かわいい!!」
「違いますよ。ファンシー少女、です」
 波久に対し、やはり目を閉じたまま、ふふふ、とか言いながら手をふよふよ振ってる。すごく……優雅です。台詞以外。
「自分でファンs……うーん、鈴村さんの意外な一面を見ちゃったなぁ」
「そうですか? 私は普通ですよ」
「あらららどこまでもファンシー!!」
「それより早く始めないの?」
 次に話し始めたのが釈さん。たじろく波久。いや、なんかもう波久はどうでもいいや。
 釈さんはあまり話す機会がなくてどんな人かいまいちわからないが、とりあえずこの場では一番真面目なようだ。
 今時おさげなんて珍しい髪型に、メガネ。波久の眼鏡はスマートなタイプの銀縁だが、彼女のは太い黒縁。
 傍から並んで座っているのを見ても、外見の段階で既にあまり息の合った二人には見えない。外見的印象って大事だよね、鈴村さん。
「そーだねぇ、そうですねぇ!」
 そんな釈さんに小羽戸さんも同意した。なので、俺達は机に乗ってるAED練習用の肌色人形に次々と襲いかかることに。
 AEDで心肺蘇生の練習なんて別にどうってことはない。それ自体には取り立てて話すことなんて無いさ。面倒なわけじゃないよ。
「そういやこいつジェームズ君なのにおっぱいあるよな! ダブルスタンダードか? それそれぇ!」
「なんだいそのダブルなんとかって」
 吉富と一緒に肌色の胸を撫でまわす。ダメだこいつら。
「あーっ! もう! 雷電君はあっちいってて!」
「うわああああごめんなさいごめんなさい! 世界遺産に謝罪の言葉彫ってくるから!」
 顔を真っ赤にする釈さん。どうも本気で波久が嫌らしい。俺の存在には触れてこないからまあいいや。
「吉富君も真似しちゃだめです!」
「え? あ、ごめんなさい」
 ぴし、と言い放つ釈さんに吉富も頭を下げた。
「まあまあ、そんな怒っちゃだめだよ」
 なんとそこでなだめにかかったのは小羽戸さん。普段周りを引っ掻き回す割に以外と空気が読めるようだ。
 俺も便乗しよう。
「そうだよ、ピリピリしっぱなしなのもあんまりよくないよ?」
 我ながら無難なことを言いながら、貧乳のジェームズ君に手を添えた。
 その時。

163 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 20:57:48 ID:q/ZGGaaw

「うおおおおおぅ!!」

「きゃっ!」

 俺はその場から飛び退いた。
 なんだか知らんがジェームズ君が凄まじい音量で奇声をあげたのだ。
 ドリフトに失敗した自動車が観客席に飛び込む際、たまたま絶対不可避の位置に大柄なおばさんが居た時の悲鳴のような。
 うん、我ながら例え話のセンスは無い。

 それより、だ。
 まずいことになった。

 俺はさっきジェームズのおっぱいを撫でまわしていた二人を馬鹿にしていたんだが、
「まって、まって、まって」
 びっくりして足をもつれさせてしまった結果、二人を馬鹿に出来ないほどのなんとも奇遇なことになってしまっていた。
 なんという事故、俺の下には釈さんが居る。

「ついにムッツリが覚醒した! これが『素敵な出会い』ということか! これで大手を振って路上変態行為だな!」
 違うだろう、確かに俺の掌は人生初だと思う素敵な出会いを果たしたとは思うけども。
 うわ、小羽戸さんが青い顔してる。ていうか鈴村さんなんでニヤニヤしてんの? どこを見てるの?
「待ってくれ! これは事故だ!」
 咄嗟に起き上がり、両手を掲げながらの必死の弁解をする。くそう、運が悪い。
 いきなりジェームズ君が発狂するなんて予測できるか。あのジェームズ君は大至急焼却処分されて海に撒かれろ。
「や、や、や」
 釈さんは倒れたまま放心状態だ。声をかけようにも俺は怖がられてしまうんじゃないか。
 それにしても、顔面蒼白? そんなにショッキングなのか? 女の子は大変だな……。
 吉富も彼女のそんな様子を見つめ、俺に不思議そうな視線を送ってきた。
「雨乃ちゃん! 忘れるの! 何もなかったの!」
 なんか小羽戸さんの様子まで尋常じゃない。一体どうしたんだろうか。
 肩を揺する。揺すられた釈さんは糸の切れた人形のようにも見える、気がする。
「おにいちゃん……おにいちゃぁん……」
「ほ、うおぁ、すいませんでした!!」
 真っ赤な顔の真っ赤な目から滴をこぼしかけていたのを目撃、俺は瞬間的条件反射的な土下座を床にぶちかました。
 柔らかかったっす! すいません! あ、この部分伝わったら死ぬかも! もうどうしよう俺!
「落ち着いて雨乃ちゃん! 大丈夫だから!」
「うぇぇぇぇん!!」
 必死な小羽戸さんの声に反応したのか、彼女はついに堰を切ったように泣き出した。

「あなたたち、どうしたのー?」

 泣き声を聞いたのか、加賀先生がやってきた。
「ひっく、ひっく」
「うん? どしたの?」
「う、ぅ……」
「ふーぬ、じゃあ落ち着くまでちょっと来なさい」
 かったるそうな表情をしながら、とりあえず、ということで先生は釈さんを連れて行ってしまった。

164 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2009/12/25(金) 21:00:16 ID:q/ZGGaaw
「………」

 とりあえず机に座る俺達。抜けた部分を除き、席順はさっきと同じだ。
「どういうことなのか見当がつきません」
 そして、周囲の目が掃けてきた頃に俺は小羽戸さんに問う。
 明らかにすんごいパニック状態で俺も小パニックなんだ。困惑の二文字が俺の後頭部を幾度か駆け抜るくらいに。
「うーん……小野くん、落ち着いて聞いてね」
「何?」
「小野くんはこれから少なくとも数日間は、風紀委員に命を狙われる」
「いや……俺死ぬの……?」
 まるで冗談のような内容を見たこともないようなマジトーンで言われ、一瞬虚を突かれたような気分になる。
 小羽戸さんは腕を組みつつ、脇の下から出た指で鈴村さんの髪をくりくりいじった。
「うわぁぁいさらさら~! いいなぁ千鶴は綺麗な髪で~」
「ん。そうでも、ない」
 鈴村さんはサイドの髪を束ねて掴み、小羽戸さんの顔をくりくりいじくりまわした。
「くすぐったいー!」

 なんて微笑ましい光景だろう。
「そんな場合じゃないから! 俺なんで死ぬの!? なんで風紀委員!?」
「心にノリツッコミしたな? 見えたぞ! 筒抜けマインド、ニー・マル・ハチだぜ運河ァァァ!!」
「うっせえ黙ってろ意味わかんねえんだよ! 俺が死ぬんだぞ! ついでにお前は死ね!」
「そうだね、それだけ元気なら死にはしないと思うよ」
「正論は承っておりませんのでお前は後で俺を占ってください! 後生だから!」
「別にいいけど……」
 よし、これくらい焦っておけば小羽戸さんもかわいそうに思って情報を伝えてくれるはずだ。
 チラ見。

「千鶴って結ってもかわいいんじゃない? ほれほれ」
「あまりいじられるのは、恥ずかしい……」

 なんて微笑ましいんだろう。女の子っていいね。
「――あれっ!? ナチュラルスルーは一級品!?」
「なんだ運河ついに俺の真似か? そのリズム感なかなかやるじゃねえか!」
「ちげえよ焦って気が動転だよ! 俺が死ぬんだぞ! せっかくだからお前は死ね!」
「多分だけど、それだけ叫んでいられるなら簡単には死なないと思うよ」
「簡単にはって俺なんかされる前提かよ! 占いよろしくね! あとでね!」
「うん、もうさっき聞いたよ……」
 今度こそだ、これくらいの動揺を見ればさすがに哀れんでくれるんじゃないだろうか。
 チラ見。

「い、ない…………?」

「騒いでる間に授業が終わりました。二人はさっさと釈さんを迎えに行っちゃいましたぜ旦那ァ」
「あ、僕は次授業分かれるね、それじゃ」
 吉富は俺を見捨て、教室をいそいそと出て行ってしまった。
 どうすればいいんだ、頼れる人間が居なくなってしまった。寂しい、かなしい、一人ぼっちだ。
「俺らはどうせまた教室一緒だな。あ、平行移動で行こうぜ運河! 頭動かしたら負けな!」
 ああ、独りぼっちだ。

 それにしても、小羽戸さんの言葉は本当なのだろうか。
 俺はまだ死にたくない人なんだけど。

176 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:50:15 ID:QRsQcHxs

 結局それから放課後まで、少なくとも直接的に命を狙われることは無かった。
 小羽戸さんは『女の子を泣かしたら社会的に死ぬんだよ』的な意味で言ったのだろうか。
「吉富のとこ行くんだろ? 暇だし付き合ってやんよ!」
「ああ」
「爆乳のお姉さんでサーフィンしてえなあ……そうは思わないかい?」
「なんで悲しそうな顔してんだよ……そうは思わねえよ……」
 こいつと普段から一緒なんだから、きっと俺は社会的には死んでる。だからそっちの心配はしなくていいな。
 真面目に考えれば考えるほど虚しくなってくるんだが、それはもう俺のアイデンティティ。個性と思い込むべきだ、ああ。
 いきなり風紀委員の接触があるようなら、そこからうまい具合に逃げればなんとかなるかもしれない。とりあえずそう思っておく。
「吉富のルームメイトって誰居たっけ」
「あんまり面識ないような」
「別にいいか! 野郎ならなんとかなるだろうよ!」
 吉富の部屋は寮の一階、四人部屋だ。俺達がお邪魔することを考えれば、ムサイ六人の野郎が顔を突き合わせることになる。
 いやあ、やっぱり女の子とお近づきになりたいなぁ……。おpp……いや、うん。
「あ! 波久君! 待ってたわよ! 偶然ね!」
 校舎から出た途端、俺じゃない方に黄色い声が掛けられた。なんとケフィアさんである。
 彼女が珍しく出待ちなんて、やっぱり今日は何かあるのだろうか。とは言っても、やはり考える余地はない。
 ケフィアさんは頭のてっぺんの髪を摘まみながらこちらにゆっくりと歩いてきていた。
「発言の瞬間からすごい矛盾ですねさようなら!」
 叫びながらメガネを外した波久。全力で走る時、コイツはメガネを外すのだ。視力について? 知りません。
 前傾姿勢で今出てきた校舎に駆けこんでいく。俺は別に無関係なのでスルー。適度に頑張ってください。
 考えてみればあいつが妙な発言をしないのはあの人が居る時くらいじゃないか、すごいなケフィアさん。
「ちょっと待ってよ!」
 そんなケフィアさんは俺の横を微妙な速度でふらふら走っていき、校内へと消えていった。
「なんつーか、」
 俺も女の子とか年上の女性に追われてみたい、そう思った。

「はっ!」
「…………」
 寮への帰り道女の子が明らかにこっちを見て奇声を上げたのだが、多分気のせいだと思う。俺は自意識過剰だ、そうだ。
 でもなんだかあまり良い予感はしなかったので、早足で吉富の部屋に向かうことにした。厄介事は少ないに限るじゃないですか。
 その子は携帯の画面を見つつ、ゆっくりと俺に背を向けた。

 で、吉富のドア前。まずノック。横山。
「吉富ー、きたぞー」
「うむ」

 ……?

「えーっと、失礼しま……っ」
 おかしい。なんかいっぱい文字書いたでっかい円盤みたいなのがある……。
 そして暗い。なんで締めきってんだよ……部屋の真ん中に蝋燭立てんなよ……危ないだろ……。
 机に、古そうな……本? そういえば部屋の人はどこ行ったんだ? それに、
「座るといい」
 なんだこの微妙に高圧的な口調は、いつもと雰囲気が違う。怖いよ、怖いよお。
「えっと……」
 木製の机の前に座ることを手で促された。その前に吉富も座る。うわ、なんかすんごい見てくる。
「準備はできているね?」
「準備っtt――」
「始めようか」
「え」
「占いだよ」
 あら、そう。

177 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:51:08 ID:QRsQcHxs

「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
 あ、蝋燭なくなったんだけど……。
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
 トイレいきたいな。
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「吉t」
「ワレォォォァァァァァァッ!!」
「!!」
「……」
「……」
 今のなんだよ……。
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
 膀胱が限界に近い。
 止まらない尿意。
 そわそわする足。
 ブツブツ言う吉富。
 喋ったら『われぉぁ』。
 四面楚歌だ。
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「トイr」
「アーライサァァァァァァァァァッ!!」
「!!!」
「……ブツブツ………」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
 だから今のなんだよ!!
 今度はアライサンって絶対言ったぞ!! 
 ほんとは何してんの!?
 アライさんと交信してんの!?
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
 くそ、真の限界……。
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブツ……」
「……」
「ブツブ……」
「吉富!!」
 止められなかった!! よっしゃ俺勝利!!
「うん、丁度占いが終わったよ」
「なんと」
「お疲れ様」
 ……いや、何時間経ったんだよ、トイレ行かせろよ。
「占いの結果を簡潔に言おうか。どれがこうだった、なんて言ってもわからないだろうしね」
「はい」
「君はねぇ……。少なくとも、寮を出ればエライことになる、ってところかな」
「そっか。じゃあトイレ行ってくるわ」
「え?」
「もれる」
「………」

 部屋を出た。吉富が何を言ったかなんてもう覚えていない。
 ただ尿を出したい、今の俺にはそれしかなかった。
 尿道には今か今かと過去に摂取した水分達が出番を待ち望んでおり、先っぽは決壊寸前だ。
 寮の共用トイレに掛け込む。もう俺にはそのことしか頭にない。
 放尿。そうだ、放尿だ。放出の宴、さあいこうか。そこの小便器よ。

178 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:52:08 ID:QRsQcHxs
 とりあえず吉富の部屋に帰ってくる。
「ただいま!」
「小野君は人の話を聞かないな……」
「んで? なんだって?」
「人災パねえから気をつけろ、ってことだよ」
「やっぱ風紀委員? 理由はわかんないの?」
「理由まではわからないね、でも小野くんが襲撃されるのは間違いない」
「具体的には?」
「撃たれる」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやなんでそっちはわかるんだよ」
「まあ、そんな感じだよ。明日以降気をつけてね」
「まじで………?」
「確実に起こる危険だよ、頑張って」
「吉富」
「なんだい?」
「この世に絶対なんてないんだぜ?」
「………カッコつけたところ悪いんだけど、絶対とは言ってないよ」
「……」
「じゃ、お開き」
 背中を押されながら締め出された。俺はもう完全に見捨てられたような気がするな。
 それから部屋の前で二分くらい立ちつくしていると、波久から携帯に連絡が来た。
『逃げ切った! 逃げ切ったぜ! 早く帰ってこいよ! 暇だ!』
 あいつにしては随分さっぱりめなメッセージ。別に文章でテンションあげられても困るけど。
 つーか何時間逃げてたんだよ、下手な訓練より苦労してんじゃねえか。死ぬぞ。
 よし! 黙って立ちつくしてても虚しいだけだし、行こう。呼ばれたのに無視するなんて可哀想じゃないですか、俺優しいんですよ。

 ―――さぁて、勢いよく部屋に突入して驚かせてやろう。

「ただいましんがん! この部屋は占領させてもらうぜ!」

「……は?」

 ………。

「ごめんなさい」
「いや、なに?」
「本当にすいませんでした」
「マシンガン? え?」
「これは事故なんです、浮かれててちょっと……」
「なに言ってんの? 今もう十二時過ぎてるんだけど。君常識ないね」
「すいません、ホントすいませんでした」
「まあ、一回くらいそういうこともあるんだろうけどさ、ちょっとは考えてほしいな」
「申し訳ないです……」
「あー、もういいから早く出てってくれないかな?」
「はい、ごめんなさい……」

 部屋を間違えた。上級生の部屋だった。死にたい。
 これが人災か、吉富めなかなかやるじゃないか。
 ここが一階であることを逆手に取ったトリックだな。俺らの部屋は二人部屋で、二階なんだ。
 それにしても上級生四人部屋からの視線は怖かったよ。でも対応してくれた人がまともな人で本当に助かった。
 あ、そう考えると俺達の部屋の真下にはあの人たちが居るんだ。これからは騒ぐのを控えよう。

「はぁ……」

 最悪だ。さっさと帰ろう。

「そぉぉぉい!!」
「させるか!」
 もうアレ、部屋に入った瞬間にルームメイトが飛び蹴りしてくるとかわかってるから。
 すかさず腰を低く構え、伸びてきた足を受け流すように体の軸をふんって右回転。
 飛んでくる方向は何故か知らんが俺の左前から(多分いつもテレビ見てるからだと思う)で、するりと奴は通過する。
「やるじゃねえか!」
 とりあえずよろける波久の後頭部にチョップをかまし、疲れた体を二段ベッドに突入させた。
「早速寝るのか? 歯磨けよ」
「長さんかよ」
 もうだるい、全てがだるい、何もかも忘れて寝てしまいたい。でも歯を磨いてないと認識させられると気になってしまう。
「吉富はどうだった?」
「フン、この世に絶対なんてない」
「あーあー可哀想に……」
 歯ブラシをごそごそと取り出しつつ、波久がさらになんか言ってくるのをスルーする。
 どう警戒しても警戒している以上の事態になれば俺は口をあんぐり開けて突っ立ってることしかできないんだ。
 だったら最初から諦め、いやむしろ開きなおって楽しく過ごせれば。死ぬ前くらい良いよね、それくらい。

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最終更新:2010年01月22日 19:03
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