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したらばSS作品 ◆LMBwMUyKG. 2

179 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:53:39 ID:QRsQcHxs
「あ、小羽戸さんだ……」
 で、次の日。朝の占いが12位だったことを除けば最高の朝。相変わらず学食は朝から大盛況。
 寮住まいの大半がここを利用するわけで、それも必然、自明の理。
「こばっちゃん!」
 目ざとく知り合いを見つけた波久が彼女を捕まえた。俺もこいつみたいに他人に慣れ慣れしくいきたいものだ。
 大抵の場合はスルーされそうだが、少なくとも小羽戸さんのようなタイプの人なら構ってくれるだろうし。
 食い物を乗せたトレイを彼女の元まで持って行き、するりと隣に座る波久。俺もついていき、波久の正面に座った。
「おー、おはよう男子諸君。朝から元気だね~」
「名前で呼んで! ナニ久って呼んで!」
「お前死ねよ……最悪だよ……」
「と思ったら小野くんは元気ないねえ。ナニ久、彼はどうしたというんだい!」
 普通に呼び捨てにまで持ち込んだ! 流石じゃないすか二人とも。俺と釈さんならこうはいかないだろうよ。
「運河きゅんは今日ダメな日なの。わがままなの」
「キモいねー。あ、そだ小野くん、今日からは気をつけてね」
 キモい、って誰に言ったんだろう。女声っぽい感じで喋った波久か、わがままな俺か。
「そうだよそれ、マジで気になるんだけど結局なに?」
 バターロールにジャムを塗ったくる小羽戸さんは俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか。
 視線を人混みの方に向け、うんうん唸っている。いや鼻歌か、これ。
「ん」
 ジャム塗り用のスプーンをくわえ、空いた手で視線の向こうを指す。位置的に俺は振り向くことになった。
 あの後ろ姿、おさげがひゅるりんひゅるんしてる。あの背丈、耳の後ろの黒いツル。ということは彼女だ。
「釈さん?」 
「んー」
 頷く。いや、それはわかっているのだけど。
「だからどうして――」
 釈さんの方を見ながら話していた俺は、いきなりキョロキョロし始めた彼女と目が合ってしまった。
 すると釈さんはびっくりしたような顔をし、俯き加減になり耳を赤くさせ、そのまま人でごった返す食堂で一時停止をした。
「ん?」
 こう言うとなんか初々しいアレみたいな感じだが、そこからが随分違う。
 そんな釈さんの肩を抱き、素早く空いてる席に座らせる男性の方がいらっしゃったのだ。
 どうやら釈さんとは親しいらしく、心配そうな目をしながら彼女の顔を覗きこみ、頭を撫でる。
「うわぁ……」
 そして次の瞬間その彼は顔をあげ、食堂の人間すべてに向けて睨みをきかせていた。
 眉間に刻まれた皺は深く、それこそ『鬼のような』という言葉が似合う。その時俺は慌てて視線を逸らした。
 360度全ての威嚇を二周くらいした後、まだ納得していないのかたまにどこかしらへ視線を向け釈さんに何かを話しかける彼。
 それに対し釈さんは首を横に振るが、
「駄目だ!」
 って言った、ていうか叫んだのがそこそこ離れているここまで聞こえた。なーにやってんすか。

180 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:54:54 ID:QRsQcHxs
「ありゃあ……彼氏さんですか?」
 パンをちまちま食べていた小羽戸さんに訊いてみた。意外にも年上の彼氏が居るとは驚きだ。最近の学生は進んでるなあ。
「いや、俺は友達ですよ。仲良くさせてもらってます(笑)」
 魚をつついてきた波久がナチュラルに返事をしてきた。お前にはもちろん聞いてねえよアホ。
 なんだ今回はインタビュー風か? なんだその(笑)は、本当にインタビュー中に笑ってたのか? 嘘を吐くんじゃねえよ糞編集が。死ね。
「おにーさんだよ、あのヒト」
「お兄さん? あんなに顔近いのに?」
「うん、超すんごい仲良いんだよ。で、さっきの見たでしょ?」
「あー、超すんごい怒ってたね」
 怖いよねー。切れる未成年って怖いよねー。
「さらにあの方は風紀委員でいらっしゃいます」
「それって関係ある?」
「大有りだよ。雨乃ちゃん、お兄さんに昨日の話はしたらしいから」
「うおお……もうしたのかよ……」
「不純異性交遊だー、って取り締まりにくるよ?」
「んな横暴な……ていうかそれじゃ釈さんも入るんじゃないのか……?」
「まあ、過去に事例がありますので心してくださいな」
 と、残りのバターロールを口に放り込み、席を立とうとする小羽戸さん。ちょっと待とうか少女。
「ウェイッ!」
 咄嗟に机に飛び込むようにしてうつ伏せになり、逃げそうな彼女の腕を掴む。逃がしゃあせんよ。
「え……何ですか?」
「マジキモいんですけど……私のファンの方?」
 普通に嫌そうな顔と嫌そうな声をブチ込まれたが、そんなもの想定の範囲内。今日十二位だからだもん、絶対そうだもん。。
 あと波久は会話に入れてもらえなかったからって裏声で余計なこと言うな、俺が傷つく。 
「匿って! 全然知らない人に変化させて!」
「やだよー、めんどくさいよー」
「お願いしますよぉ! 死にたくないよぉ!」
 でもお礼もできない、見返りなんてありゃしない。確かに手伝ってくれるなんてよっぽどの暇人かもしれない。
「だって風紀委員……あ、待てよ……風紀委員か……」
 急に呟きと止まる彼女。おっと、ここで攻めれば! 俺は掴んだ腕を放さずに、ぶんぶん振りながら懇願した。
「お願いしますよぉ! なんかおごるからぁ!」

181 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:55:42 ID:QRsQcHxs
「うん、乗りますよ」
 後ろから声がかかった。女の子の声であり、今掴んでる彼女の声でもない。
 そしてこれは昨日聞いた声で、釈さんのものでもない。そう、ファンシー少女である。
「あ、おはようございます」
 振り返る俺。そこには黒髪の女史、鈴村さん。昨日の事故の時みたいに、ほんのりと彼女は笑っていた。
「おはよう。あずきバー、食べたいな」
「お任せあれ!」
 微妙に親しげな話し方、むしろ催促するような言い方のような気もするが、俺は食堂出口付近の自販機に走った。
 協力してくれる人間の言葉を無下にするわけにはいかないじゃないか。あずきバー? 買ってやんよ。
 幸いにも釈さんとその兄は既に食堂を後にしていたので、まごうことなき光速で俺は突き抜ける。
「どうぞ!」
「どうも」
 両手を添え頭を垂れてのあずきバー。見事にパシられた俺は一回目にしてもうなかなか板についているんじゃないだろうか。
 俺はパシりの才能がある……これは、間違いがない。
「よし、千鶴がやるなら私も手伝ってあげるよ。チーズケーキ味ね!」
 腕まくりをするようにオーケーを出す小羽戸さん。いいよその笑顔いいよぉ。
「了解!」
 俺ももう完全に笑ってた。ここまで俺が役に立つ局面がいままであっただろうか。
 これ以上ないと自分で思えるほどの笑顔を振りまきつつ、一旦木綿のような気分でするする走っていく。
「どうぞ!」
「ごくろう!」
「よーし、俺も頑張るぜ! チョコミント味な!」
「お前は歯磨き粉でも食ってろ」
 しかし正気は保っている。よもやこいつの要求を受けてしまうなんてミスを犯す訳がないじゃないか。
「というわけでよろしくお願いします!」
「よろしく」
「風紀委員の皮を手に入れてみせるよ!」
 頼りになる能力を持った二人を仲間に加えた。これで俺は死ななくて済むんじゃないだろうか。
 無力な俺や波久とは違うすんごい二人だ、百人力だ、本土のどっかの物置だ。
 あれ? でも鈴村さんってどんな力を持ってるんだっけ、っていうか聞いてたっけこれ。
「ところであのー、鈴村さんってどんな特技をお持ちになって……?」
「小野君、連絡先教えてください」
「え、あ、はい」
「じゃあついでに私もー!」
「それじゃあ僕ちんもお願いね! 毎日のおはようとおやすみ、それから湿度の情報は欠かさないから!」
 会話になっていなかった気もするけど、連絡先の交換なら万々歳。すぐにぱっと携帯を取り出す。
 波久も紛れこんできたので、結局四人全員で連絡先を交換することになった。
「これで、小野君の周りに危険が迫っていたら連絡できます」
「ほ~、それは素晴らしいっすね」
「ちなみに、私ができるのはそれだけです」
「そうなの……」
 口元を小さく綻ばせる鈴村さんにそれ以上は言えなかった。
 いや、あずきバーで周りの危険を知れるだけでも十分過ぎるほどだろう。かわいい。
 それにわざわざ鈴村さんから連絡が貰えるんだ、これだけ喜ばしいことは無い。うん、そうだ。
「人が接近してるようなら私にも連絡してね千鶴! 小野くんカモフラしに行くから!」
「ども、ありがとう、ございます……」
 大丈夫大丈夫。きっと大丈夫。
 とりあえずこれから授業だ、悪い方向には考えようにしよう。

182 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:56:07 ID:QRsQcHxs
「はっ!」
 昼休み。某ケフィアさんのフォースを嗅ぎつけ敵前逃亡した波久の居ない穏やかな午後、ぷるぷると携帯が鳴りだした。誰だろ。
「はい」
『鈴村です、今中庭で一人さびしくコーヒーを飲んでいますね?』
 いきなり俺の居場所を当てやがった。凄いな、でも寂しくはないよ。
「いるけど、マズイの?」
『そちらに釈さんのお兄さんが向かっているようです。多分私のようなタイプの人が居ますね』
「うお、じゃあ離れなきゃ」
 コーヒーを一気に流し込み、がたりとベンチを立つ。どっから来るんだろ、この辺じゃ校舎が陰になっててわからない。
『はい、そこから正門に最短距離で向かってください。そちらにハルちゃんが居ますので合流を』
 鈴村さんって『ハルちゃん』って呼ぶキャラじゃないと思ってたけど。
 なんだかこの人は結構見た目とのイメージに合わない部分が多いな。ドゥフ、かわいい。
『あの……ニヤニヤせずにさっさと移動してください』
 見られてる!? 迂闊な表情はできないな……。
「ごめんなさい」
『それから通話は切らないようにお願いします。何が起こるかわかりませんので』
「おっけー。それにしても、意外と鈴村さんってきっちり話せる人だったんだね」
『私としては、最低限しか話していないと思いますけど』
「……」
 ちょっと怒らせてしまったかな……。それからは、通話状態なのに特別話すこともなく。
 あー、きっちり、って確かに失礼だったなぁ……お詫びに後であずきバーあげよう。
「おーい、小野くーん!」
 正門の内側にしゃがみ込む小羽戸さんを見つけた。どう見てもノリノリで手を振っている。
 ハルちゃん、俺は遊びでやってないよ! 死活問題だよ! 小野くーん、って叫んじゃマズイよ!
「だが助かった!」
 駆け足で彼女の元へ行き、とりあえず校舎側から見えないように門の外側に移動し、しゃがみ込む。
「だが、ってなに?」
「はやくカモフラカモフラ!」
「あー、うん。誰がいい?」
「どうせ波久が再現率高いよ! 早くぅ!」
 駄々をこねるような俺の頭に、小羽戸さんは手を添えた。
「ぬぉわ……」
 一瞬視界が暗転し、しゃがみ込んでいた体が上下にがくり、と揺れる。
 え、もしかしてこんな一瞬で変わったのか? 掌を眺めると、微妙に手がでかい気もするけど。
「やあナニ久君、調子はどう?」
「不名誉ななま……え、これ誰の声?」
「波久君だよ、自分が他人の声出すとちょっと違和感があるかもねえ」
「へえ……」
 なんか普通にすごいなこれ、違和感もすごいけど得られた結果がすごい。
 俺、他人になってるよ! フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! 今なら何でもできるぜ!
『では、普通に校舎に向かってください。釈さんのお兄さんとすれ違うと思いますが』
 タイミングを見計らったのか鈴村さんから声がかかった。ほんとどこから見てるんですか。
 ていうか釈さんのお兄さんが俺を探してるなら今すんごい怖そうだな。目も合わせたくない。
「りょーかい! 行くよアホ!」
「ちょ……」
 アホだけど アホじゃないのよ 小羽戸さん 五七五。

183 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:56:41 ID:QRsQcHxs
『来ますよ』
 俺達は目立たないようにナチュラル歩行で校舎に向かった。
 こっち側に来る生徒なんて普通は居ないから凄く目立つ気がするが、この際キョドってはいられない。
 堂々と、堂々と行けば怪しまれたりはしないはずなんだ。
「いるいる!」
 小声で俺に声をかける小羽戸さん。その行動ちょっと怪しくねえか。
 俺の左正面を歩くサラッサラの爽やかイケメンさんはギラギラとしたギャップのある目つきで周囲の警戒を怠らない。
 このまま俺達に気付かないで素通りしてくれないかな。マジで。
「ねえ君達、ちょっといいかな?」
 すれ違う寸前に一瞬だけ彼の目が合い、そのまま俺らを通り過ぎたと思った。
 でも足音は後ろで停止し、一度すた、と音を立てこの波久の背中に向けて声を掛けたのだ。
「はい、なんです?」
 小羽戸さんは同様の色を感じさせない声ですぐさま返事をしてくれた。助かった、俺だったらまずかったよ。
「こっちに男、子、生、徒、が、一、人、歩いてきたはずなんだけど」
 俺だよそれ絶対俺……今エラい強調したねえ先輩。怖いですよ。
「ああ、その人なら校外に出て行きましたよ。さぼりですかねー?」
 すごいよ小羽戸さん、その返しスーパーナチュラルだよ。ぐらみぃ賞あげるよ。
 風紀委員に俺のことについてサボりって言うのはセーフなのか甚だ疑問だけども。
「そうかい? その生徒さぁ、ちょっと風紀委員で探してるんだよね」
「そうですかー。お仕事頑張ってください! 行こっ、波久くん!」
 身を翻しさっさと行ってしまう彼女に俺もついていくしかない。背中に視線を感じるが、もう知らん。
 つーかなんでこんなことで風紀委員動くの? 俺そんな悪いこと絶対してないよね。
 この人委員会に嘘の証言をして無理矢理動いてるんじゃないの? だって俺だけ狙われてるよ? どうなるの俺。
「葉村……の…………所……」
 後ろで誰かと連絡を取っているのかお兄さん。いや聞こえない聞こえない。さっさと校舎だ。

184 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:59:11 ID:QRsQcHxs
「なんとか逃げ切ったね~」
「いやぁマジで死ぬ思いだった……動悸が収まらない……」
 校舎内まで入り、一階の自販機横に設置された休憩スペースに倒れ込んだ。
「あ、そんな勢いよくいったら……」
「へ?」
 視界がぼやけたような気がする。何かあったっけ。
「あれ………?」
「ん? なんだろあの子……」
「小野くん、油断しちゃだめだよ? どこで見張られてるかわからないんだよ?」
「あ……れ……?」
「ねえ小羽戸さん、あの子知ってる?」
 なんだかこっちを見たまま両手で携帯を弄っている。すごく驚いたような顔をしているが、彼女は一体。
 そういえば昨日どこかであの子を見たような気がする。事故の時かな?
「うん、同じ学年の葉村さん。確か風紀―――」
 停止する俺達二人。しかし彼女はと言えば、
「あ、の……校舎一階休憩所にて小野運河を確認。えっと、えと……あ、はい。わかりました」
 携帯をしまう彼女。なにやらこっちを見て不安そうな表情を見せている。俺のが不安だよ。
「………あの、」
「これ、ヤバいな……」
「逃げた方がいいよ……」
「そりゃあ、もちろん!」
 俺は体のエネルギーの大半を走ることに遷移させた。よろける体、もたつく足、思った以上は進めない。
 それでも走らねば、死ぬ。吉富に言われた通り、死ぬ。っつーか、吉富役に立たねえなアレ。解決策の方見てくれよ……。
 それからほんの少しもしないうちに玄関の方から慌ただしい音が聞こえた。
「オラァァァァ!! 一年の小野運河ァァァァッ!! 殺してやるから面貸せやぁぁぁぁぁぁ!!」
「先輩! 小野運河はあっちに逃げました!」
 後ろだ、足音が重い、もうアレ鬼が俺を狙ってる証拠。
 おいおいどうすんだよこれ死ぬ、やばい死ぬって。葉村さんだっけそんなこと教えないで。
 さっきの爽やかな態度はなんだったのお兄さん? やめてほんと、ほんとに来ないで。
「そこ走ってるお前だな! 待てコラァ!!」
 うっわ、普通に不良だよあのヒト! 誰か止めろよ! 一人くらい助けてくれてもいいだろ!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 廊下の人が次から次へと障害になる、どうして俺は高速移動とかできないんだよ!
「きゃあ!」
「うわっ!」
「すいません! すいません!」
 ぶつかりながら、ほとんど転がるように俺は学生食堂に走った。人を隠すなら人の中だ。
「はぁ、はぁ……」
 昼も混み入った食堂。校舎に隣接した寮との中継地点であるここなら、多少の時間稼ぎも可能なはず。
 小羽戸さんは流石についてきてくれてはいないだろう。ていうか共犯にされそうだからこれ以上は厳しいか。
 とりあえずもう誰でもいいから匿ってくれないかな、そう言えば鈴村さんから何も指示がない。どうしたんだ。
 逃げ道の処方を望み、俺は携帯のスピーカーに語りかけることにする。
「鈴村さん!」
『………』
 返事がない。まさか風紀委員の妨害に? いや考え過ぎか。

185 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:00:10 ID:QRsQcHxs
「どうする俺……」
「あ、小野君じゃないか」
 呟きをこぼして人の壁が出来ていた地点の近くの椅子に座ると、横で吉富とそのルームメイトが飯を食っていた。なんという偶然。
 この緊急事態、彼らの振る舞いはあまりにもいつも通り過ぎてなんとも言えない気分になるが、どうにか力を貸してはもらえないだろうか。
「なあ吉富、助けてくれ」
「断っていいかな」
「早い!」
「僕はいざこざがあまり好きじゃない」
 吉富からその隣、さらにその正面にも俺は視線を送ってみたが、全て苦笑いや首をひねる動作で流された。
 仕方ないと言えば仕方ない。なら他を当たろうか、
「小野運河が来ただろ!! 知ってる奴は居るか!?」
 なんて考える暇もくれないようで、校舎側の学食入り口、朝利用した自販機の横で鬼いさんは叫んでいた。
 ざわざわとした食堂は一旦時間を止めたように静止し、次の瞬間には別のざわめきが発生する。
 遠くの彼の周囲の視線は全てその一点に集められ、その視線に怯まずに鬼いさんは向けられた全てに噛みつきかかった。
 おっかない。彼はその場で動かずに、一人一人の顔を確認しているようだ。
「……小野君、逃げた方がいいね」
「ああ、なんとかうまくやってやるよ。ありがとうみんな」
 吉富達に小さく手を振り、人垣で見えないことを祈りながら入り口付近まで移動した。
 睨みを利かせるお兄さんをかいくぐる策、そんなものは無い。
 隙をついて逃げるしかない。相手が俺を発見、認知する確率を変えて。それは変動し続けるから無理かも。
「……くそ、やっぱり出てくる気はねえか」
 彼は強烈な視線を投げるのを中断し、頭をふるふると振った。
 自然と周囲の彼への視線もそれぞれの向きに戻り、やれやれといった様子で普段のざわめきは帰ってくる。
「今か……」
 そこで、俺は壁際からスパイのように体を張り付かせつつ、
「ん?」
「っ!」
 お兄さんの真横あたりに来たあたりで一気に走り抜けた。
「な、おいコラ! 待て!」
 ガン無視してやるよ、俺には余裕なんてございません。ただ逃げる、ただ走る。昼休みが終わるまで、か?
「はっ、はっ、くそ、どこ行きゃいいんだよ……!」
 連絡取ってる余裕もない、考えろ、時間稼ぎの出来そうな場所。
「クラン! 力貸せ!」
 後ろの声が近い気がする、ああこっちくんなこっちくんな!
 この先曲がれば階段、違う上に登ればそれこそ袋のねずみじゃないか、階段は使えない。
 どうやって逃げ切る、相手が風紀委員なら俺は悪い奴で、もう捕まる以外が見つからない。
 はっ! 少なくとも校内はアウト?
「止まれ!」
「おふぅっ!」
 後ろで何かが崩れた音がした、ぱらぱら? つーか音がさっきよりもさらに近い! スプリンターかよ!
 なんかぶっ壊したよね今! 考えろ考えろ、人を隠すなら人の中? それさっき実行したわ!
「運河!」
 呼び声、どこだ波久! 今のお前だろ!
「波久! どこだ!」
「中庭だ! 早く来い!」
 中庭、なにか策があるのか。よし。
 確か他棟への渡り廊下はこの先、ここを曲がれば中庭に行ける。

186 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:01:57 ID:QRsQcHxs

「うおぁぁぁぁぁっ!」
 その曲がり角にさしかかるところ、走る俺の視界の右から凄い勢いで棒が飛んできた。
 おそらく警棒のようなもの、少なくとも金属棒だってことは俺でもわかる。それは校舎の壁を粉砕し、その破片と塵が飛び散った。
 思わず足が止まる。壊れた景色に目を奪われたのだ。しかしそれも一瞬に留める、中庭だ中庭。
「おい小野運河! 面貸せよ!」

 ――え?

「なっぶ!」
 走ろうってのに俺なんで振り返った! お兄さん飛んで来たぞバカ!
 あぶねえ、っつーか、なんだ、目が離せない。頭があの人の方を向きたがってんのか?
 んなわけねーだろ。くそ、なにこれ、ほんとなんなんだよ後ろ向きで走るしかねえよ。
 ああもう、今の跳び蹴りの位置交換でお兄さんが邪魔になった……。
「やっとここまで近づけたぜ小野……まあ、腕の一本は覚悟してもらおうか?」
 壁に刺さった警棒を無理矢理に抜き取り不敵に笑う彼。やむを得ず対峙する形になってしまった。
 持っている棒はあの威力だ、俺の体のいろんな部分が吹っ飛ぶ気がする。腕の一本? 嘘おっしゃいよこんちくしょ。
 それにしてもまずい、冷静に考えても。
「行くぞ!」
 一歩。踏み込みは早かった。完全に迷いは無いのだろう。鬼いさんは警棒を肩の上まで振りかぶり、真っ直ぐに俺に突っ込んでくる。
「ひぃっ!」
 思わず壁際に飛び退いた。そして俺の居たところに振り下ろされた警棒はいかにも重そうな風切り音が鳴る。
 よかった、ぎりぎりのところで俺はビビってないのか知らないが、挙動から一瞬も目を離さずに動けた。
「おらっ!」
 だがそれに驚くこともなく、鬼いさんはすかさず壁に向かって横ぶり。振りが高い、行けるか。
「死、ぬわっ!」
 なんとか避けられた。いや、さっき投げられた警棒でぶっ壊れた校舎の欠片に踵を引っ掛けた。
 彼の持つ警棒はやはりとてつもない威力で、空ぶった勢いはそのまま、まだ無事だった壁の一部をぶっ飛ばした。
「くくく、終わりだな小野ぉ……」
 俺は吹き飛んだ破片を浴びながら、その奥に居る鬼と眼が合ってしまう。眼がギラギラしてるってば。
 これは今度こそ詰んだか……波久ヘルプ!

187 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:03:06 ID:QRsQcHxs

「イーエさん! 鈴村さん! 頼む!」
「あ、ちょっとまって千鶴ちゃん!」
 そこで波久の声。俺の背後に居る、のか? 随分声が遠いような。慌てたようなケフィアさんの声は近かったが。
 直後、俺の目の前に大きな白いものが視界の上から飛んできた。それは俺とおっかない人を一時的に隔離する。
「これ布か?」
「オラァ!」
 それを無視した彼の怒声。見えはしないが、何をしたかはわかる。
 固体、金属音が鈍く響く。それは俺のすぐ目の前の炸裂音で、耳の奥まで深く響いてくる。
「かってえ! なんだこりゃ! 邪魔なんだよ!」
 叩き、弾き、布ごしに音は飛び散り続け、彼の怒号も加速していく。
 微妙に安心したらしい。この瞬間俺は純粋に、怒った人間は怖いなあ、って思った。
「お兄ちゃん! 落ち着いて! お兄ちゃん!」
「なっ――雨、乃?」
 さっきの方からまた声が飛んできた。釈さんってことはまさか、助かる流れ!?
 そこで俺の全身にパサリと布が被さった。おおう、完全に前が見えねえ。
「いいの! 小野くんに悪気はなかったの! だから落ち着いて!」
「どういうことだよ雨乃、昨日はあんなに怯えてたじゃないか……」
「違うの、私が悪いんだよ……」
 自分で布をかっさらうと、あの鬼のような人がおどおどした様子で釈さんと話していた。
 この調子なら、一件落着しそうじゃないか。ああ、怖かった。

「無事か相棒!」
 後ろから波久の声が掛けられた。どうやら本当にこいつに助けられたみたいだ。なんて良い奴、親友だよお前。
「いや、マジで、たす、かったわ」
 呼吸が整っていなかったことに今気付いた。どれだけ動揺していたんだ俺。まったくなんて小心者だよ。
「波久君は頭も冴えてるのよ? 惚れたわ!」
 何故か自慢げなケフィアさん。本当に、何故か。
「私も、雷電君には驚いた」
 鈴村さんか、そういえば彼女も居たなあ。
「大したことないっすよ! 俺には電波神がついてる!」
「説明カモン、聞いてやろうじゃないか」
 その俺の言葉にピクリとする三人。
「コンニャクリン!」
「眼球コレクション!」
「俺の起点と釈さんの指輪!」
 なんだこいつら。変なポーズとんな。

 説明を聞けば大したことではなかった。

 鈴村さんが眼球コレクション? で俺達の移動を観察しながら、俺を守るための準備をしていたらしい。 
 まず、釈さんのお兄さんが振るっていた力は明らかに危険だったので、釈さんに説得を頼む。
 あれを防ぐためには適当な大きい物体、さらにケフィアさんの能力と釈さんの力が必要だったのだ。

 ケフィアさんの能力は触れた物体をグニャグニャにする『コンニャクリン』。
 そして釈さんの力は他人の能力の効果を反転させる『カウンターシフト』だ。
 要するに釈さんの能力を使い、ケフィアさんが適当な物体を利用して強力な盾を作るってこと。つーか、よく能力知ってたな波久。

 んで、釈さんの話から波久達は、彼女のお兄さんが一定の範囲まで近づくと視線を彼に集中しなければならなくなる力を
持っていると知り、普段から自分自身の目を使わない鈴村さんがケフィアさんを布ごと引っ張って俺の盾にした、と。
 ああそうか、食堂のアレとあの時の俺がビビって目をつぶらなかったのはそういうことかね。
 それにしても正直よくやってくれたと思う。でも直接釈さんがお兄さんを止めた方が早かったんじゃ……。

「つーか話だけ聞くと、お前自身何もやってないような……」
「叫んでただろ? お前一瞬でも『助かった!』って思ったろ?」
「くそ、否定できねえ……」
「まあいいじゃねえの」
 確かにまあいいわ、神経すり減らし過ぎた。あ、小羽戸さんなにしてるかな。風紀委員の皮欲しいとか言ってたな。
 というか、そんなこと考えてももう昼休みも終わりに近いか。そろそろ次の授業の準備でもしよう。
 俺達は釈兄妹をそっとしておくことに決め、中庭を通って移動することにした。

188 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:03:40 ID:QRsQcHxs

 ばしん。

「ぐえ」
「な、」
「波久くん! どうしちゃったの!?」
 妙な音を聞いた、と思った途端、前を歩いて奇声をあげていた波久が俺の方に倒れこんだ。もちろんその体は避けた。
 ケフィアさんがすかさずその体を抱えたのだが、

 ばしん。

「ふぎゃっ!」
 ケフィアさんの頭にも何かが直撃したようだ。なんとも容赦のない相手がいるものだ。
 とりあえず俺達の正面を眺めてみる。どう考えてもその方向から音がしたしな。
「公序良俗に反する生徒、粛清します」
 訓練用の強化ゴム弾を打ち出すライフルを担いで、中庭の木テーブルにこちらを正面にして寝そべっている女性が居た。
 メガネの青ポニーテール、いや容姿なんてどうでもいい。あの低さでガチな構え取ってる不自然さがヤバい。
 その人はパーフェクトに銃身をキリキリと俺に向けているような気がする。その体勢がスナイパーすぎてもうね。
「わりい小野! 耐えろ!」
 渡り廊下から釈さんのお兄さんの声が投げられた。あら、こっちは完全に解決したっぽい。
 言葉の意味はどういうことだろう、あの人も風紀委員? ていうか耐えろって何?
「あいつの撃った弾は絶対に命中する! 怪我したくなかったら頭と急所を守れ!」
「……絶対?」
「ああ、絶対だ! あいつは絶対精度(アブソルート・スナイパー)、その撃った弾を避けられる人間なんていねえ!」
「………」
 面白いじゃないか、『アブソルート』? 俺のポリシーに反するね。
 俺はどんだけの逆境でも、そんなものは認めちゃいない。
 確率100%なんてありえないんだよ。俺はマンホールにだって落ちる人間だぜ?
 変えてやるぜ、命中する確率をよお……!
「風紀委員長に連絡して公式に止めてもらうまで耐えてくれよ! あいつ変に真面目で話通じないからな!」

 ばしん。
「おっふ!」
 頭に喰らった。

 ばしん。
「うっふ!」
 あ、やばいこれ、避けられない。 

 ばしん。
「いっは!」
 容赦ないよ。ケフィアさんさっきので守って。

 ばしん。
「ぐっへ!」
 うわ、波久みたいにすぐ倒れればよかった。気絶こそしないが、死ぬほど痛い。
 当たったとこ、全部額の一点なんだけど、めっちゃくちゃ熱い。打撲は確定だよ。

 ばしん。
 また、撃たれたっぽい。くそ、かわれ。

 ばたり。

 朦朧とする。脳震盪、か。

「校―――壊し――――!。―――――――自警――――――よ!」
 なんか聞こえる、けど。視界からもう遠い。
 あれ、なんか憎きスナイパーいるところ燃えてる?
 重い頭にぼんやり視界、飛び交う言葉も整理できない。
 黒はゆっくり俺を覆って、どんどん遠くに運んでいった。

189 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:04:46 ID:QRsQcHxs

「いててて……」
 眼が覚めた。まだ頭がずきずき痛む。幸い記憶は飛んでないようで。
「まあ、これくらいで起きるわよね」
 独特な薬品の臭い、全体的に白っぽい壁、白いカーテンに白い椅子。白い棚にはカラフル瓶。
 視線を落とすと体は白い布で隠れている。ていうかベッドに寝てたみたいだ。保健室で。
「あ、どうも加賀先生」
「はい。じゃあ起きたなら帰っていいわよ」
 冷たいなあ。確かこの先生、あんまりいい噂を聞かないから怖いんだけどさ。
 なんだっけ、健康な生徒が保健室に呼ばれて一日出てこなかった、とか諸々。
「それじゃ、失礼します」
 さっさと立ち上がる。戻って波久達にあの後のことを聞こう。
 先生の机の引き出しになにやらゴチャゴチャした配線が飛び出しているのを横目で見ながら、俺はそそくさ、って感じに保健室を後にした。

「つーか、もう放課後じゃねえか……」
 携帯を取り出してみると時刻はもう夕方。昼からだから、三、四時間は倒れてたのか。
 待てよ、頭の衝撃でそれって……結構重傷なんじゃないか? いいのか俺、大丈夫か。
 校舎を出る途中、壁の一部が粉砕されている部分にテープとかロープが張られ、人が近づけないようになっているのを発見。それも複数。
 やっぱ俺は危うく死に掛けたみたい。ああいうのって誰が清掃とか補修の資金出すんだろ。生徒会? 
 そういや倒れる前に人が何人か駆けつけてたような気がしたんだよなあ。あれが生徒会かな。
 お兄さんは校舎内でかなり暴れてたから学園の自警団が止めに来たのかもしれないな。やっぱどうでもいいや。
「お、っと」
 そこで携帯が震える。どうせ波久だろう。
「はい何の用です面倒臭い」
『そうですか。なら、切りますよ?』
 な――にぃ? やらかした!
「うおぉぉぉぉ鈴村さん! ごめんなさい波久かと思いまして! とんでもない失礼をば!」
『……いいですよ、表情に嘘は無さそうですし。では食堂でみんな待っていますので』
 切られた。確実に怒ってたよなぁ……。ていうか一方的なTV電話かよ……。
 そもそもみんな居るなら鈴村さんじゃなくていいじゃないか。ああミスッたなあぁぁぁ。
 それもこれも今朝十二位だったからだきっと。俺はいつも通りだったんだからな。
 しかし猫背になるのは止められず、チンタラボテボテ歩きながら食堂に向かうことにした。

190 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:05:19 ID:QRsQcHxs
「うわぁ、たんこぶできてるじゃん!」
 食堂に入った瞬間、左手の方から小羽戸さんが俺を馬鹿にする声。見れば本当にみんな待っていたみたいだ。
 その証拠に波久と吉富が暇そうに眼球型のおもちゃ? で遊んでいる。
「あーおせえよ運河! 眼球食うか!?」
「誰が食うか。つーか鈴村さん、それが眼球コレクション?」
「そうです、かわいいでしょう?」
 いや、正直どうなんだろコレ……床に凄い活発な奴動いてるし……。
 しかしそれらを手に乗せ、微妙にどや顔をする鈴村さん。俺はもう返す言葉を失ってしまう。
「かわいいです!」
 いやあ、こういうとき率先して動く波久君は本当に便利だと思います。デコイ君って呼ばせてもらおうかな。
「では、いっぱいプレゼントしますよ」
 ふふ、とか言って両手を前に向ける鈴村さん。
 これから先何が起こるかはもうその場の全員が理解していたので、波久以外は鈴村さんの手先から目を背けた。
「で、だよ小野君。だから撃たれるって言ったじゃないか」
 いきなり昨日の話を蒸し返された。もしかしてお前は俺に説教を垂れに来たというのか。
 正面からたんこぶに指をさされ、思わず庇うように両手をかざす俺。
「対処法がありませんでした!」
「例えば外に出ないとか、いろいろあっただろう?」
「屋内でも討たれるかも知れないだろ? 俺は敵将みたいなもんだからさぁ」
「あのねえ……僕は当たらない占いをしているわけじゃないんだ」
 奇声あげてたのに?
「だから占った人間に危険がある、不吉があると出たなら、それを出来るだけ避けてもらえるように動いて欲しいんだよ」
「でもさぁー」
「……ああ。確かに今回はいい、結果的に大したことじゃなかったんだから」
「………」
「でもそれは結果だけを見たときの話だろう?」
「……まあ、その通りかもしれないな」
 吉富の妙に真剣な目に頷くことしかできなかった。
 俺は無意識でこいつのあんまり茶化せない部分に触れてたみたいで、なんだかどうにも申し訳ない。
 色んな人を占ってきたこいつだ、きっとそれらに関して思うところがいくらかあったのだろう。
「すまん、吉富」
「それを少しでもわかってくれれば、いいんだけどね」
 それから間もなく吉富は薄い笑顔を浮かべて席を立ち、寮の方向に歩いていってしまった。
「あ、おい……」

191 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:05:48 ID:QRsQcHxs
「運河、トークが済んだならたすけて……」
 予想通り眼球の海に埋もれる波久が予想通り気持ち悪く、予想通り鈴村さんはニコニコしてた。
 小羽戸さんはさっき目を逸らしていたように見えたのだが、どうやら好奇心には勝てなかったご様子。
「大丈夫? 小羽戸さん」
 うーうー唸りながら、テーブルに顔を伏せて倒れていた。
「やっぱあれはちょっと無理……」
「そういえば風紀委員の皮は手に入ったの?」
「――セイ!」
「いってえ! デコピンはだめっ!」
「小声でなら会話してあげるよ! ほら耳!」
「ひでえ……皮は手に入ったの?」
「それがねー、私が現場に駆け付けた時にはなんか修羅場になっててさあ……」
「え?」

 小羽戸さんの説明は要領を得なかったので噛み砕いて説明しよう。
 あの俺のピンチに平行して、男――釈さんのお兄さんだけども――が校舎を暴れまわっている、
 という話を学園自警団が聞きつけたそうで、その沈静化のためにお兄さんを捕まえるよう動いていたとのこと。
 仕事は早い自警団、すぐにその居場所はわかったらしく、事件現場に来てみればなんと俺が撃たれているところじゃないか。

 ちなみにそこからちょうど小羽戸さんも直接見ていたそうだ。
 そして俺を撃っていたあのポニーの女生徒に対し、自警団の一人が話を聞く前に「事態の沈静化!」と銘打って戦闘を始めたそうな。
 そのあたりからもう修羅場、釈さんのお兄さんが他の自警団の人に事情を説明したりしても自体は収束に向かわない。
 数分間は銃撃戦が続いていたらしく、死んだフリしてた波久とかと、なんとか俺をひっぱって逃げてきたという。

「そう! 皮なんて手に入らなかったの!」
「結局その人たちどうなったの?」
「風紀委員長が止めたようです、気になったのでこの子たちで見てましたから」
「ふーんんんわぁああ!!」
 振り返ったら目玉のバケモノこんにちわだよ! どうなってんだコレ……鈴村さん見えないぞ……。
「それと面白い人が居ましたね」
「どんな人?」
「自警団と風紀委員の争いを止めようとしている人が居ました、それもおそらく、どちらにも無関係の人で」
「へえ、そんな暇な人が居るんだね、っつーか危険だよねそれ」
「トラブルメーカーどころかトラブルファイターだね」
「小羽戸さん全然うまくないから」
「その人の情報、知りたいですか?」
「え? うん、まあ」
 すると、俺の目前にピースサインを向ける鈴村さん。表情は目玉塗れで全然見えないけど。
「あずきバー二本です、それとハルちゃんにも今日の報酬あげてください」
「いちご!」
「俺にはチョコミント……」
「いや……完全に物食う気力ねえだろお前……」

192 名前: ◆LMBwMUyKG.[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 23:07:02 ID:QRsQcHxs

 とりあえず言われた通りのブツを買いに自販機へ向かい、財布を取り出した。
「あ……」
 小銭入れから硬化がこぼれる。ああ、待ってくれ俺のなけなし。
 勢いよく転がっていく奴らは校舎側の廊下へと向かって行く。前傾小走りで追いかける俺。
 まるで腰のひんまがった爺さんみたいな姿勢になりつつ、俺はできる限りの高速移動をかました。
「きゃあ!!」
 すると頭の上から悲鳴。どっかで聞いた声だ。
「うぬぉっ!」
 気付けば目の前にあった生膝。俺はそこに額をぶつけながら飛び込んでしまう。
 たんこぶのダメージは計り知れない。いたいよぅ。
「おい……」
 転倒した足とうつ伏せに這いつくばる俺。これは、ちょっと待とう、これってさ。
 ほらあ、目の前にはおさげの子がいるじゃないですか。大丈夫、そちらは見えていませんよ釈さん。
 人に衝突した時点で嫌な予感はビンビンであったが、起こってしまった事は変えられない。仕方なく見上げてみる。
「委員長から反省文書かされたらこれかよ小野運河……今回は言い逃れできないよな?」
 怒ってしまった事実も変えられないだろう。ヤバいな、どうしよ。
「あの、これは事故ですから……」
「いきなり妹の足元にタックルかます奴の言い訳なんざ聞こえねえな。小野、今度は個人的に半殺しにしてやるよ……」
 俺は迷うことなく、不格好ながら風紀委員会が使ってる部屋に向かって走り出した。
「おい待て! まだ委員会への不信感は拭えてねえんだよ!」
 知るか。絶対逃げ切って辿りついてやる。
 うう、波久達に何か言っておけばよかったかな。

「あーあ、小野くん行っちゃったね」
「……仕方ない、あいつのアイスは俺がおごろうじゃないか」
「雷電君、羽振りいいですね」
「まあ俺だからね! 『移動銀行(立て替え)』の力を持ってるのさ!」
「それにしてもそのトラブルファイターはナニモノなのかな?」
「でっかい剣を使ってたなら、多分俺前に見た人だよ! どうなの眼球ガール!」
「雷電君は知っていましたか? そうです、その人だと思いますよ」
「へえ、変わった人も居るんだね」
「名前なんて言ったかなあ……確か二年なんだけど……」
「それよりあずきバー、ください」
「おまかせあれ!」


「はぁ、はぁ……」

 辿りついたぜ委員会室! この先にはきっと誰かが!

「こんな時間に………」

 中に居たのは一人だけだった。嫌そうな顔だけど風紀委員だよね、きっと助けてくれるに違いないよね。

「あの――」

「ようこそ、風紀委員会へ」

 あれ、いや……勘違い?

 なんだかしらんが有無を言わせぬその声は、逆に俺をここから逃がしてはくれなさそうなオーラを醸し出していた。


 おしまい

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最終更新:2010年01月22日 19:05
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