205 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:15:35 ID:mqoorPSY
「後編はあらすじ抜きの不親切設計ですっ、ご不明な描写等は後ほど
職員室まで質問に来てくださいね…何、コレ?
…ま、いっか。先輩、さっさとその犯人とやらを捕まえて下さいよ…っと」
しらせはこの日新聞部を休んだ。
一週間を切った新聞の締め切りを意識してか相変わらず授業の片手間にも
ミニノートpcに原稿をうち続けるものの気分はブラック、
それもこれも全てはゴルゴムの仕業である。
…犯人は先生の中、って言ってもなぁ。――聞こえないように呟いたはずだ。
メールの受信から一夜明けて、情報屋の証言から容疑者は随分と絞られてきた。
部室には男二人と女二人。ただ、居慣れない三人は少し複雑そうな顔をして
部屋の少し端に陣取ってコーヒーとインクの境目を嗅ぎ続ける。
とは言え様子は三者三様。
「…この学園は生徒もそうだガ、先生が多すぎル!」
「その割には資料が案外ありませんね…」
有田 祐一郎(アリタ ユウイチロウ)、高等部一年男子。
派遣された三人の中では最年少。
冷静沈着。毒を持って敵を制する剣闘スタイルは盤石の強さ。
今朝7:00の着任からずっと教師陣のデータを洗い直すマメさを見せる。
「どうも近年の急激な私達(能力者)の増加で
『精神的に自立した教師たる器を持つ能力者』の枠も随分広がっタ様だしネぇ」
「もう一度、ホシの特徴を教えて下さいな」
神宮寺彩愛(ジングウジ アヤメ)、高等部三年女子。
自警団屈指のドS姫であり、それに付き従う下僕達の規模は
自警団の一派閥にも数えられるほど。
自由自在な爪による攻撃は生半可な能力者では数瞬で刻まれてしまうだろう。
着任時からずっと爪を磨いたり紅茶を嗜みつつ、時折口を出す。
彼女からしてみればこの派遣を左遷フラグに感じたのだろうか。
「まず、本土以外の大陸人で有ること、本土の施設であルこの学園には大陸人の先生は少なイ。
次に強化人間であルこと、現代の改造技術にだって限界は有ル。
確実に薬物反応か金属反応のどちらかハ出るはずなのデ、
大陸人の教師陣にこの両検査をすれば確実に割り出せル…が」
「相手が相手だけにそんな大がかりには出来ないんじゃないか?
それに、探知にかからない鉱物で改造されていたら『確実』には該当しなくなる」
黒崎 良成(クロサキ ヨシナリ)、大学部二年男子
今回の派遣部隊の最年長。
律義と潔癖の固まり。作戦に完璧を期す為の後詰めとも言える存在。
ルールの意味を理解できない輩を許してはおけない、許さない。
彼の能力は自分の影を入り口とした無縁の閉鎖空間の創造。
空間内に入れられた物質は外世界の理から昇華し、その形を変えずに存在出来る。
中に入れた物質を取り出すことも可能。
今回同行している神宮寺彩愛の傍若無人な所行には同業ながらウンザリしている。
着任時からまず生徒の名簿をチェックしている。
流石にそれは気を張りすぎでは無かろうか。
206 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:16:03 ID:mqoorPSY
「確かに、大陸製の強化兵だかラそれも考慮の内ダ。
プラスチックで作られてたら、洒落にもならネ」
「真面目に考えろ!…協力する気はあるのか?」
良成は確実性の無い計画に苛立ち、デスクを叩く。
「ッ!!」
負けじと叩き返す
「…まず、健康診断を装っテ教師全員に接触すル。
確実度の低い本土出身者にはX線+薬物検査剤inバリウム。
確実度の高い大陸出身者にはX線+薬物検査剤inバリウム
と、此処までは同じダ。
此処までで判明しない場合は次のステップに移る。
大陸出身者の彼等には『名簿のデータ不足』を理由に
検査後に別個に呼び出し、採血する。
逆に、コレで判明しなかった場合は本土出身者からも時期をずらして
『献血』の名目で血を取れば良いまでダ」
「貴女、そんなに時間をかける余裕は有るの?」
彩愛は爪を磨く手を止めて、つり上がった横目で慶を見据えた。
「血液は確実ダ、二つの関門を突破して緩みきった容疑者を
揺さぶるには十分な素材になりえル」
「…そう言うことを聞きたいんじゃないの。
公式の時期を外した健康診断なんて怪しい以外の何者でもないわ。
ホシだって今まで平穏に潜んできた人間よ。
逆に言えばそれだけ尻尾を数えるほども見せなかった用心深さ、
並大抵の物じゃないわ」
「ほう、神宮寺にしては良く頭を回して考えたな。100点満点中の62点だ」
良成は点数を付けてはみたものの自分でも100点の回答が思い浮かばないことに
更に苛立ちを募らせていた。
慶の案は上手く行けば確実な手段として採用しても良い。
だが、やはり敵に感づかせるのは囮をやっている新聞部員、
また、臨戦態勢継続中の自警団員に危害が加わりやすくなる
リスキーなことこの上無い。
「…導、お前の案は70点だ。リスクを考えなければ80-90点代にはなるだろうが」
「リスクなんか出させる物カ、私は私の後輩を全力で守るつもりダ!
お前達にはそんな覚悟が有るのカ?」
しゃん、と白い刃が風を切った。
あと数ミリの所で慶の頬を切り裂いたであろう爪はラメで銀の輝きを見せている。
一瞬のうちに視界から消えた彩愛の身体はいつの間にか慶の後ろに回っていた。
「へぇ、言ってくれるじゃない」
「爪を納めろ神宮寺、今回の指揮権は俺に一任されているはずだろ?」
「…気に入らないわね」
爪は瞬く間に元の指に帰っていった。
彩愛もまた一瞬で自分の席に戻り、荒々しく爪を研ぐ。
良成の仲裁に納得が行っていないようでカリカリカリカリ。
「有田、君はどうしたい?意見を聞かせて貰おう」
すっかり蚊帳の外で教師陣の名簿チェックに勤しんでいた祐一郎は少し悩んで
「自警団は仲間を見殺す組織ではありませんよね?
…なら、導先輩の案に俺は賭けます。絶対にみんなを…」
言葉を言い終わる前にわさわさと祐一郎の頭を撫で回す良成。
「ちょ…ちょっ」
「…馬鹿者。誰が、いつ、自警団は血も涙もない組織と言った?
自警団は一つの家族であり、自らアウトローを狩るアウトローの道を進む
人間にしては素晴らしい選択をした畜生共だ。
生徒会、風紀委員などと型にはまった動きしか出来ない家畜共とは訳が違う、
俺達は自由に守り、戦い、生きていく地上最強のつながりなんだ。
分かっているな有田、俺も答えは決まっている!」
「熱くなってるところ悪いけど、部長さんどこかへ行ったわよ」
「「?!」」
彩愛はデスクチェアの背もたれに両腕を載せてやや眠い目を擦りつつ
抱き合い熱狂する二人を観察していた。
「…あと黒崎先輩、貴方と兄妹なんてこちらから願い下げですわ。
高貴な遺伝子が神経質に変質してしまいますわ。
あ、有田君は何時でも私の所へいらっしゃい♪…弟下僕として可愛がってあげるわよ」
「え、遠慮しておきます…」
身体全体を使って拒否を表現する祐一郎。
「覚えていろ…神宮寺、いずれケリを付けてやる」
握り拳一つに己の昔年のストレスを溜める良成。
「やれるものなら、ね…」
そして眠りこけ始めた彩愛。
三人の明日はどっちだ。
207 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:17:51 ID:mqoorPSY
『検診大作戦』前夜、學生寮女子棟 3階 j-05室
升目しらせの部屋番号である。
私が今日ここに来たのは心配なのカ?それだけなのカ?
インターホンを押しても無機質に着色された声しか返ってこない。
扉が開かれる様子はない。
今日は帰ろう。明日の朝また来るよ
顔を見れば、そんな不安すぐに忘れるヨ
「…逃げてばっかりだな、あたし。大人って嫌いだ、図々しいから…」
慶は開かないドアに背中を預けた。
目を瞑り、ただ想いをぶつける為のチャージをかける。
深呼吸。文句の確認。他の部屋の人間は起きてこないか。
全てが一瞬黙り込んだ瞬間、意識を上位空間に持ち上げる。
彼女の意識は上位空間を漂い、彷徨っていた。
もう、その手を放しはしない。
「(扉の向こうから失礼するよ)」
「(…)」
「(喋りたくなかったら喋らなくていい。ただ、聞いてくれ)」
「(…)」
「(実は升目、お前には保険をかけてあるんだ)」
「(…?)」
「(お前の生徒手帳に私のとっておきの符、転身符を入れておいた。
いざと言うときに所持者の心拍数を感知して私と入れ替わる様になっている)」
「(…え?)」
「(どうせ、お前のことだ。もっと前に聞かせてたら正義感云々の
理由を付けて破り捨てただろうね)」
「(そんな)」
「(いいか、私は検診会場を固めなきゃならない。
恐らくお前を守りに行くことは難しい。だから私のとっておきを託したんだ)」
「(…要りません)」
「(嘘を付くな。…その符の意味をよく考えてからなら燃やすなり好きにしてくれ。
ただ、自分の上辺の正義感だけで使いたくないと言うのなら、
私はそんなちっぽけな尺度が原因で死んだお前を許しはしないだろう)」
「(先輩、話を、話を聞いて下さい!)」
「(…寝ないのは毒だ、朝早く起きてから考えると良い)」
「(…一生許してくれなくても、あたしはこんな符にすがったりしない。
あたしなんかの為に死ぬ先輩を許せないだろうから)」
「(答えを焦る必要は無いんだ。…でも、やっぱりお前は私の後輩だな)」
「(ありがとう…ございます)」
「(…良い夢を見ろよ、なるべく良い夢だ)」
「(が、頑張ります!)」
「(おやすみ、しらせ)」
「(おやすみなさい、部長)」
「(…編集長な)」
翌日、遂に疑惑の検診は実施された。
まずこの作戦を発動するに至って協力を要請した
情報を共有する二人の協力者を紹介しておこう。
一人は学園のイベントを自由に施行できる校長先生。
ただ現在はアメリカの『学園』に出張中であり、
検診の許可をメールで貰っただけで今回の作戦には参戦していただけなかった。
もう一人はイベントの発動権を持つ学園理事、大門寺 源重郎。
快く『許可』の返事を貰えた上になんと直々に参戦して頂けるらしい。
彼の能力を見たことがある生徒は少なく、現場勤務の自警団員間でも
理事の能力について憶測が飛び交っている。
理事は検診の列に紛れ混み、教師陣を監視すると言った手筈である。
女性教師陣は保健の加賀先生がチェックして下さるとのこと。
久々の検診に腕が鳴るらしい、何故に。
検診は男性陣が多目的ホール、女性陣は保健室で行われるとのこと。
幸いにも今日は日曜、自警団の少数の有志が学園の各出入り口の見張りや
學棟内の巡回に当たっている。
この行動に風紀委員も目を光らせるものの動員されている兵数から敵を侮り、
結局この日、他勢力同士の衝突は無かったとされる。
勿論、ホシに気取られてはいけない。
有志達は見張り員、巡回員を回して『同じ場所にとどまっている数人の生徒』
という矛盾をなるだけ少なくした。
208 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:18:23 ID:mqoorPSY
この作戦のメインとなる四人は男子が多目的ホール前、
女子が保健室前で詰めることとなる。
結局、しらせからはメールも念話も無かった。
慶は自分なりの決断をしたんだとくみ取り、保健室の入り口を眺め続ける。
「で、勝算はあるの?」
彩愛は相変わらず爪磨きに余念がない。
不真面目さの演出でやっていることではなく、能力の精度を上げるために
『媒介』と繋がるためにしているらしい。
「相手のポテンシャルは未知数ダ。だけど、教員試験を通るエリート相手…
不安が無い訳じゃないネ」
「そうね。さっさとブチ裂いてスッキリしたいわ」
「…やっぱり昨日の事ハ」
「当然、私はまだ貴女を認めた訳じゃないし、隙さえ有れば貴女もブチ裂きたいわ。
…でも、お仕事はキチンとしないと。黒崎先輩の雑言を聞いてストレスを溜めたくありませんし」
「昨日は先輩達の事を良く知らないであんな事を…本当に済まなかっタ」
慶は頭を深く長く下げた。
しゃん
彩愛の人差し指から伸びる銀の刃は頭を上げた慶の喉笛を
切っ先で二、三度つついた。
しかし慶は顔色一つ変えず立ち続ける。
彩愛は不満そうに爪を戻す。
「…ビビってくれないとやり甲斐も有りませんわ。
ま、実力も見せずにあんな事を言った奴なんてタダじゃ許しません。
あんな大見栄切るなら最後まで通しなさい、そうしたら許してあげなくもないわ」
「分かっタ、約束すル」
「ところで…貴女はS(サド)?」
「ええ、どっちかと言うとSかナ」
「…終わったら、打ち上げ会に付き合いなさいよ」
「喜ンで行かせて貰いますヨ」
二人はSという繋がりだけで
今までのしがらみが少し解き放たれた―――気がした。
209 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:19:23 ID:mqoorPSY
多目的ルームに疑惑の男が一人。
米国の技術の粋を結集して作られた超技術を学園調査の為に宛われた
超改造人間且つ現Alt教師、ダニエル・ターナーがその人である。
勿論調査の件は学園には秘密。
薬物強化でもなければ強化外骨格改造でもないため
血液を採られても出る物は普通の人間のそれだ。
要はアナログの肉体改造である。普段は身に付ける超技術の代物で能力を補強している。
ぱっと見、怪しい所はない。
ただ、『大陸人がホシ』の情報を聞かされた理琵戸は列の後ろから
ずっと睨みを効かせていた。(理事は列の前方)
勿論ダニエルもその視線に気付き、少し慌てているのは言うまでもない。
「…ア、アノ、リビットセンセイ?」
「何回も言っているがリビトだ。で、何の用ですかダニエル先生」
「ソノシセン、コワインデスケオ…」
「生まれつきだ、それより静かにしたまえ」
「スイマセンセ…」
理琵戸がこの場で睨みを効かせている教師は多い。
あらゆる言語学習に対応するため、
世界各国から集められた教師陣もこの場に集まっている。
特に睨みを効かせているのは自分の名前を間違えるターナー、
そして、実力もない癖にしゃしゃり出て邪魔なフランス語教師、
今はターナーの更に前方に居るため声はかけられないが
思い出すだけでイラッとするため名前すら覚えてやらない。
そして後ろに控える中国語教師の珍を含めた三人が自分なりの見立てである。
珍は肉体派の能力であり、ともすれば外界でも製作できる能力者なのだ。
そして、試し蹴りだなんだと言って私の『ギャレン』をボドボドにした。
こいつらじゃないのか。
理事長源重郎はルームに入ってからというもの、
ずっと気の蜘蛛の巣をルーム中に張りめぐらせていた。
少しでもおかしな動揺を見せれば神速の拳をお見舞いするつもりである。
(フム、何時の世も外界の奴らは能力者を改造する玩具としか見ていないらしいな
侵入者だからとて手をかけるのは気が引けるのだが…)
ホシの特徴を思い出す、大陸人、改造人間、国家機関
(まずは)
足下を見る。国家機関に勤めていた人間なら歩き方に癖が付いていることが推測できる。
自分の前方の教師達にはそう言った癖が見当たらない。
(…後ろか?)
心眼を開き、気の流動で後ろにいる室内の人間全ての動きを感じ取る。
(…珍備殿の歩き方は拳法の型も入っているが、
やはりあの国独特のリズムを刻んでいる。少しカマを掛けて見るか…)
「(先生。そう言えば昨日、学園に人民軍を名乗るメールが届いたのですが、
学園に一体どう言った用件だったのでしょうかな?)」
蜘蛛の巣の獲物が少し動いた。
「(私には計りかねますな、用件は聞かなかったのですか?)」
「(同士珍よ、経過報告はまだか。…だそうだが、ご存じ有りませんかな先生)」
珍は焦る。先日は環凪島全体のメールシステムのダウンで
報告のメールが本国まで届かなかったのだ。
幸いにして他の生徒、教師から情報を漏れていない所から察するに―――
これ以上シラを切っても無駄と言うことを悟った。
「チッ」
一人列を飛び出す珍、それに気付いたリビトは慌てて珍を追おうとするも
騒ぎで列が乱れてなかなか追いつけない。
後ろの方で理事長も混雑から抜け出そうと必死に大きな腕で
人波をブロック単位で掻き分けている。
白衣のポケットから取り出したインカムに怒気を込める
「星は流れた。室内では見えず外に出る様だ、付いていってやれ」
210 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:20:13 ID:mqoorPSY
多目的ルームの入り口を固めていた良成と祐一郎も臨戦態勢に入る。
「先輩、俺達はどうするんですか?」
「珍先生の体術のキレはお前も知っているだろう。
その戦闘包丁も一瞬で――」
良成は祐一郎の包丁を持つ右手に右ひざ蹴りを寸止める。
「…追尾だけですか?」
「無事に追尾させてくれる優しい人なら良いのだがな…そろそろ来るぞ」
扉が外側に蹴破られ、男が一人飛び出した。
「邪魔だ!!」
男は入り口前に陣取る二人の生徒を一瞬の蹴りで薙ぎ払い、
廊下を巡回する自警団員を蹴散らしながら何処かへと走り去っていった。
「ゲホ…せ、先輩」
「…俺達の出番はここまでだ」
あえて簡単に倒される振りをして逃走者に発信器を付着させるのが真の目的であった。
アクター生徒一人で教師のランクb以上のアクターを相手することは困難である。
戦闘経験、力の利用法、この二つを凌駕しない限り勝つことは出来ない。
「悔しいが神宮寺に花道を譲る時間だ…あいつなら」
「…肩、貸して下さい。こんな所でぐずぐずしてたらまた神宮寺先輩に言われます」
「そう…だったな、済まない」
二人はヨロヨロと肩を貸し合いながら起きあがり、既に男が逃げ去った後の道を
微弱な発信器の信号を頼りに追尾を始めた――
保健室側にも通信は既に届いている。
程なくして、携帯端末のレーダーに移動する光点も現れた。
「…ふーん、珍公が犯人だったなんてね」
「珍先生は本国から逃げて来タ私を優しく迎えてくれタ…」
「状況が別よ。ホシにどんな面が合っても不純物は不純物、
これ以上学園に仇成す前に塵に返してあげるわ、珍公」
二人は光点の動きの先を回るように動いた。
レーダーの上の光点の動きはゆったりとした物だが
実際の距離、動きに換算するとそれはとんでもない逃げ足になる。
相手は学園の構造を熟知した先生。
自ら短縮路を通るため、なかなか二人は(男子も含む四人は)追いつけない。
「珍…先生」
「…ま、行きますわよ。興奮した珍公が片っ端から生徒を襲っているって話だから、
さっさと取り押さえなければ私の下僕達が減ってしまいますわ」
「それこそ知らねぇヨ。…付き合ってはやるがナ」
「物わかりの良い子は出世できるわ。この調子なら5分で接敵ね」
「確実に捕らえて罪を償わせないト!」
「良いけど、…口が訊けるほど綺麗に珍公を裂けるかしら」
「裂くにしても綺麗にナ」
「貴女、先生の命惜しいの、惜しくないのどっちなのよ?」
「惜しイ。だけど、こうでも言わないと先輩は先生を真っ二つにしそうダ」
「…冗談よ。口が訊ける程度には生かしておく様に厳命されてるの、団長様に」
昇降口に向かって走る珍、
昇降口には既に自警団並びに事の顛末を聞いた教師陣が集結し、
もはや袋の鼠と言った状況だ。
しかし、何時かはこうなることは分かっていてはずだ――
珍は突如向き直り学生棟に向かって走る。
学生棟前の通路に差し掛かった時
眼前には女生徒が一人、両手を拡げて立っていた。
女生徒は顔をこちらに向けて話しかけてくる。
「誰を捜して居るんですか?」
「お前は…?!」
男に声をかけたのはしらせであった。
男は新聞部が情報を掴んでいたことは知っていたものの
此処まで早く動かれるとは思っていなかった。
「丁度良い、少し付いてきて貰うぞ」
「人質ですか」
「お前とて知ってるはずだ、不純物の話をな。
…メールを受け取ったのはお前か」
何のメールの話をしているのかは分からなかったが
手に入れていれば自分は間違いなく情報を流した本人として殺され、
手に入れていないにしろこの件に関して、珍の執拗な尋問が入る。
答えは黙秘か――
「…だんまりか。賢いとは言えんな」
女生徒の腹部に蹴りを一発入れる。
倒れ込む女生徒を肩に担ぎ、男はまた何処かへ向かって走る
211 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:20:42 ID:mqoorPSY
昇降口を一応の本部とした珍捕獲部隊は多目的ルームを抜けた男性教師陣を加えて
更に強固な軍勢となっていた。
そこには理琵戸と理事長の姿もあった。
二人は珍の刺激を抑えるためにあえて後ろに回っている。
「理事長先生、珍は屋上に向かっている様です。私の人形を差し向けますか?」
「よろしく頼む。珍…良い教師であったが、こうあっては仕方有るまい。
この島の戒律を知らぬ訳ではあるまい。苦しみ抜いて貰うぞ」
――この島は他国の如何なる軍事的干渉も認めない。
この戒律がこの島の独立の旗頭となっている。
それは『本土』に対しても同様のはずだが、
自衛軍の駐屯地が存在するといった矛盾も存在する。
『本土』としては「独立を認めたつもりはない」そうだが。
「人形から報告では逃げている生命反応が二――どう言うことだ?」
「途中で脱出を手引きする誰かと合流したか、人質を手に入れたか――
いずれにせよ、そろそろ容赦出来る時では無くなったようだな」
理事長の気が膨れ上がっている。
気を感じ取る能力もないのだが理琵戸はそう感じた。
強者独特の近寄るだけで肌が泡立つあの感覚―――。
「…先回りするぞ、先生もなるだけ早く来て下さい」
「う…ム」
言葉を言い放つや否や、理事長は外に出た。
――そして飛び上がった。
ジャンプという軽いレベルではない、一瞬で数十階建ての屋上の小さなスペースまで跳躍したのだ。
「…あれが、理事長」
これは勝てそうにない――そう思うとMの血が騒ぎだした。
しかし、すぐに本来の目的を思い出し自分も屋上を目指す。
「あら、貴方達は休んでいても良かったのに」
彩愛と慶は犯人を追尾していた良成のチームを見つけ、合流していた。
明らかに犯人を追える傷じゃない――それでも追い続けていたと言う話を聞いて
彩愛は保健室行きを勧める。
「そうは行かない。ここまで来た以上は我々も…」
良成が言い終わる前に彩愛は走り出していた。
「って、オイ!」
「着いて行きたいなら着いてくれば?
私が珍しく情けを掛けているというのに、少しは感謝なさいよ!」
彩愛達は走り去っていった。
取り残された良成と祐一郎の身体は既に限界ギリギリであった。
「有田、動けるか?」
「何とか…ッ!」
「これ以上は傷に障る、俺の影に入れ。…悔しいが本当にここまでだ」
「先輩…」
「ぐずぐずするな、さっさと傷を治して次の任務には全力を出すまでだ」
212 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:21:37 ID:mqoorPSY
珍がアテにしていることは一つ。
本国の『人民力研究場』のテレポ能力者に自らをワープして貰うこと。
ただ、それには向こうからも見える高い場所に上る必要があり、
何より向こうがその気にならなければならない。
――自分のような潜入員にそんな情けを掛けるとは思えないが。
珍は兎に角屋上を目指し、そして扉に手を掛けた。
「――どうも、珍先生。この度は随分と騒いでくれましたな」
扉を開けた瞬間見えない一撃が顔面を撃った。
一瞬見えた笑顔…?それとも冷笑か。この声には聞き覚えがある――
肩に担いでいた生徒も私の手を放れて飛んでいく――構うものか。
「大人しく捕まっていれば殺しはしませんでしたが、残念ですな」
バスッと乾いた音が聞こえた。
だが、地面にぶつかるには早すぎる。
「生徒は確保した。安心して逝くが良い」
さっきまで宙を舞っていた女生徒はいつの間にか理事長の肩に横たわっていた。
しかし珍にそれを確認することは出来ない。
「ああああ…助けてくれ、助けてくれ…殺される…」
「心配せずとも――」
パキュン
珍のこめかみから血とドロドロの何かが吹き出す。
理事長は暗殺か、と視力20の目で左右を見回すも何者も確認できない。
「…罪は、償わせるつもりだったのだがな」
少しして彩愛と慶も屋上にたどり着いたが、
その頃には理事長も珍の姿もなく血痕だけが残されていた。
大陸侵入者掃討事後報告。
被告 珍 備(元中国語、気孔、中国武術教師、)
罪状 島内の警備体制、設備等の本国への漏洩。
刑 学園地下牢獄での終身刑。
この後の経過報告
理事長の判断により死体はすぐに片づけられた。
頭部の傷は銃による狙撃だと思われるが、理事長の証言によると
近くに硝煙反応を持った狙撃者がいなかったことから
何らかの能力者による『暗殺』であることが有力視される。
表向きには『捕縛後、治療の後上記の刑が執行された』事になっている。
213 名前:新聞部 ◆Yx1H.SDyn6[sage] 投稿日:2010/01/16(土) 21:29:01 ID:mqoorPSY
――居酒屋『いざよい』には今日も智和が訪れていた。
物陰から事の顛末を見ていた智和は晴枝さんへの土産話に鼻を膨らませる。
「――って訳、変な話でしょう?」
「うーん、ちょっと気になったんやけどね。どうやってその珍さんの事を掴んだん?」
智和は虎のステッカーが貼られた携帯をポケットから取り出すと何やら弄り始めた。
「これ」
智和が見せた物はあるメール、題名には人民解放軍特務―――
「んま、珍さんの報告メールを持ってたんかいな」
もう見ることもないであろうメールを消すと、智和は携帯を閉じた。
「…幸か、不幸か。アイツらはこの島を拿捕するために島の構造を
アイツに調べさせていたらしい。学園側はもう中国語教育を打ち切るってヒス起こすし。
とりあえず、これで暫くは平和が続くんじゃないかな」
「良かったです、外界の人らとこの島の人らが殺し合うなんて考えただけで悲しいもんやね。
奥村さんも、ここに飲みに来てるみんなも大切な家族なんやからね」
テーブル席から拍手と野太い歓声が上がる。
「いいぞー!」
「妻帯持ちですが家族に入って良いもんでしょうかー!」
「ババアー!俺だー!!、結婚してくれー!!!」
どさくさに紛れて告白した男は周囲の客からビールジョッキや灰皿をブツけられ昇天した。
「んもぅ、うちはみんなの嫁さんや言うとるやろ?独り占めは禁止やで♪
あと、家族がおるにしても、ここに来た時はここの家族の一員や!誰も咎めたりせえへん」
いざよいの夜は騒がしく更けていく――
最終更新:2010年01月22日 19:18