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したらばSS作品 ◆ll4lON6OZk 5

224 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/30(土) 18:48:41 ID:jDcEkCPA
 かちゃりとノブが回り、個室のドアが開く音がしたにも関わらず、人の姿がない。透明人間?
――んなわけないか。
 谷風良(たにかぜりょう)は、どっこいしょ、と上体を起こす。ついでにサイドテーブルに乗せ
ていた眼鏡を手に取ろうとしたのだが、頼んでもないのに毎日送りこまれてくる花束だのコンタク
トケースだのが邪魔くさくて仕方がない。一度送り主に拒否の手紙でも出してみようか。気は進ま
ないが。
 視点が高くなって、入室してきた人物をようやく視界に収めることができた。子供だ。
とりあえずこんな年齢の知り合いなどいない。部屋を間違えでもしたのだろう。しばし室内をき
ょろきょろした後、谷風に視線を固定させる。背を向けて部屋を出ていくかと思ったのだが――
「おにいちゃん、何してるの」
 とことこと近寄ってきたその子供は、無邪気な口調でそう言ってきた。赤いトレーナーに紺のズ
ボンを穿いているが、男の子か女の子かは分からない。六、七歳だろうか。もう少し成長すれば、
男らしくなるか女らしくなるかして、すくすく大人になっていくんだろうな、と歳寄り気分で思う。
「怪我を直してるんだよ~」
 谷風は語尾を伸ばして優しそうな口調を作ってみた。すべった感じはないが、それほど好感を得
られたという感触もない。
「どんな怪我しちゃったの?」
「うっ」
 この質問は答えに窮した。まさかゲームセンターでサド女に絡まれた挙句、全身を刺され、あま
つさえ背中の肉をぐちゃぐちゃになるまで掻き回された、などと言うわけにはいかない。
「……友達と喧嘩しちゃったんだよ。あちこち痛めちゃってね」
「へえー。ところで寝癖凄いね。バクハツ頭」
 突然話題が飛ぶところも子供らしい。
「普段からこんな感じだけどね。天然パーマって呼ぶんだ」
 うんうん、と子供は素直に頷いている。
「天然パーマのお兄ちゃんは、喧嘩した友達と仲直りできたの?」
「う~ん……」
 そういえばあれ以来、一度もあの女と顔を合わせていない。毎日毎日学校が終わると同時にこの
病院に直行して部屋に押し入ってくる同級生女も若干煩わしい時があるが、完全に姿を消されるの
も気味が悪い。
「まあ会わないに越したことはないんだけどな……」
 これは独り言である。が、子供は反応を示した。
「そんなの良くないよ。次に会った時は仲直りしないとダメ」
 親がまっとうな教育を施しているのだろうか。実に優等生的な意見だ。
「まあ、努力はしてみよう……話の通じる相手とは思えないけどな……」
 後半は子供の耳に入らないよう、呟くだけにしておく。
 ノックの音がした。

225 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/30(土) 18:50:31 ID:jDcEkCPA
「どうぞー」
「やふうさん、元気で――あ、可愛い」
 室内に入ってくるなり、子供の姿に気付いたジャージ姿の工藤真緒(くどうまお)は、谷風への
挨拶を中断して子供をいじり始めた。一緒に怪我したという縁(?)もあってか、こうして時折顔
を見せにくる。
「君もどこか悪いの?」
 元気よく子供が首を振って否定する。
「ううん。お姉ちゃんがここに入院してるから、お見舞いに来たの」
「いいなー。私もこんな子に遊びに来てほしい」
「もう松葉杖はいいのか?」
 谷風は子供の手を持って遊んでいる工藤に尋ねる。最近まで彼女は杖を突いていたのだ。
「ええ。もう部活動に参加しても大丈夫だろうと、担当の先生のお墨付きまでもらえました、でも」
 ヘアピンで留めたショートカットの髪を揺らしながら、彼女はこちらを向いて暗い顔をする。
「谷風さんは、その、中々回復しませんね……」
「言うなよ……俺が一番気にしてんだから……」
「病人服が痛々しいんですよねえ」
「……前から言おうと思ってたけど、最近お前、俺の扱いが雑になってないか?」
「とんでもない! 親近感からくるスキンシップですよ。お互いあの人に苛められてる仲だけど、
力を合わせて乗り切りましょうね」
 窓の外を見上げながら拳を握った工藤が、退屈そうにしている子供に気付く。
「ああ、ごめんね。とりあえずこの子は受付にでも送ってあげましょうか。迷子みたいだし」
「迷子じゃないよ」
 不服そうに子供が言う。
「隣の部屋にお姉ちゃんいるもん」
 最近入院したのだろう。自分が来た時、隣は空き部屋だった。
「そうなんだ。私もお姉ちゃんの部屋に一緒に行っていいかな」
 こんなにアクティブな奴だったか? と不審に思う。苛められ仲間ができたせいで、気が大きく
なっているのかもしれない。
「うん。いいよ」
「谷風さんもどうですか? 少しは動けるんでしょう?」
「俺もか……」
 逡巡していると、子供が谷風の手を握ってきた。
「ほら、決まりですね」
 重い腰を上げ、三人で部屋を出る。子供は廊下を右に折れ、隣の個室の前で立ち止まった。 
 自分は思い出したくもない理由で個室を与えられているが、こんな環境で静養できるというこ
とは、それなりに地位や資産に恵まれた人物なのかもしれない。
ドアの横にある患者名の入った表札がある。そこに記された名前を、工藤が意味もなく口にした。
「皆本 茉莉(みなもと まつり)さんか」
 子供が扉を開け放った。


 中断

226 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:26:02 ID:tSmDHMvI
 山道から少し外れた木々の中を少し歩けば、そこには何かを焼いたような跡がある。
 写真は見たことがあるが、直接現場に来たのは初めてだった。失踪した男子たちの仕業だろうか。
皆本 茉莉はこの近辺で保護されたらしいが、男子たちに拉致されたのか、それとも別の誰かが彼女
を連れてきたのか――
「……まあ正直に言えば、私は興味ないんですけどね、こんな事件。自警団の方々は、かなり熱く
なってるみたいですけど」
 標的がいないとモチベーションが持続しないのがあなたの短所だと、カラオケ狂いの自警団の先
輩に言われたことがある。自らもまた自警団員である神宮司彩愛(ジングウジアヤメ)は、薄い笑
みを張り付けたまま背後を振り返った。
「だったらどうしてこんな寂しいところまで足を伸ばしたのよ? あ、今蜘蛛の巣付いちゃった」
 白い髪を掻き上げながら、坂峰凛(さかみねりん)が近づいてきていた。彼女が身に付けている
のは神宮司の中等部の物よりも少しだけ違う、高等部女子の制服である。
「あなたも危ない人に攫われちゃうかもしれないわよ」
 神宮司は沈んだ声で告白する。
「最近私、背筋が凍りつきそうなくらい、鋭くて冷たい視線を感じる時があるんです。もう、怖く
て怖くて……」
「誰かに狙われてるのかもね」
「否定できません。――今度谷風さんに相談してみようかしら」
 病院送りにした男の名前を出すと、坂峰が冷笑した。
「自警団員の名が泣くわよ。あんな弱っちい男に頼ってるようじゃ」
 そもそも、と継いでから彼女は断言する。
「仮にあんたが誰かに命を狙われてたとしても、やふうがあんたなんかを助けるわけないでしょ」
「そんなことありませんよ。あの人なら多分、面倒くさいとか言いながら私のこと守ってくれると
思いますね。馬鹿が付くほどのお人好しみたいですから」
 神宮司も断言する。
「坂峰さん、お付き合いが長いと聞いてましたが、谷風さんのことは意外と良く知らないんですね」
 対峙していた坂峰の背から、制服を突き破って傘の骨のような物が出現する。瞬く間に肉を纏い、
それは巨大な翼へと形を変えていった。
「いい加減、お礼参りしておかないとなって思ってたのよねえ」
 手足が鱗に覆われ、みるみる身体を膨張させていく坂峰の口から、くぐもった声が発された。
「目障りな取り巻きもいないし、人の気配もないし、最高のロケーションじゃない。思う存分暴れ
ましょうよ、お互い」
 神宮司は優雅に微笑む。
「実は私もそのつもりで、ここに来たんですよ」
 そして彼女もまた、『至高の爪』を発動させて戦闘態勢に入った。

227 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:28:02 ID:tSmDHMvI
 自分の部屋と大差ないレイアウトだな、と一目その部屋を見た谷風は思った。ベッドの真正面に
巨大な薄型テレビが設置されているところも変わらない。
「お姉ちゃん」
 ベッドの上で身体を起こしている女性の胸に、子供が勢い良く飛び込んだ。優しげな顔で、その
女性は子供の頭を撫でた。きょうだいが親しげに会話を始める。
「綺麗な人ですね。美形一家なんでしょうか」
「さあね。それよりあの人、同じ高等部かな」
 見た目から判断しただけだが、年齢は自分と大差ないような気がする。
 女性が出入り口に突っ立っているこちらに視線を向ける。
「ああ、すいません。彼は隣の病室でお世話になっている者です。私はその知人です」
 自分の代わりに工藤が身分を明かす。
「長いお付き合いになるかもしれませんが、仲良くしてもらえると嬉しいです」
「おい、俺は早く出ていきたいんだ……不吉なこと言わないでくれ……」
 谷風と同じ病人服に薄桃色のカーディガンを羽織った女性が、お辞儀をしながら名乗る。肩にか
かるくらいの長さの黒髪が、蛍光灯の光を反射してエンゼルリングを作った。
「皆本茉莉と申します。どうぞ、お入りになってください。妹の亜季(あき)がそちらのお部屋に
間違えて入ってしまったみたいで――」
「遊びに行っただけだよ」
 気の強そうな一面を子供が覗かせている。許しが出たのでベッドの横まで行くことにする。
「亜季ちゃんって言うんですか、その子」
「ええ、それでこっちが――」
 と、皆本茉莉の後ろから、もう一人子供が出てくる。今まで彼女の陰に隠れて、視界から外れて
いたようだ。
「史美(ふみ)です」
 出てきた子供――名前から察するに少女か――は、ぺこりと頭を下げた。黒いセーターを着けて
いる。この子の方が姉と似ているらしい。似たような髪型だというのもあるが、快活な亜季とは対
照的に、物静かな雰囲気を帯びていた。
 皆本茉莉が言う。
「双子なんですよ、この二人」
「あんまり似てませんね。でもどっちも可愛い」
 工藤が改めて双子の名前を呼ぶ。
「亜季ちゃんに、史美ちゃん。たまには隣の病室のお兄ちゃんも見に来てあげてね。寂しがるから」
「おいお――」
 文句を 言おうとして、史美と視線がぶつかった。
「い……?」
 何だ、これは?

228 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:29:25 ID:tSmDHMvI
 身体が急激に重くなっていく。真上から体全体を押し潰されるような感覚だ。
 亜季と工藤、それに皆本茉莉が談笑している。呼吸をするのも難しいような時間が訪れているの
は、自分だけのようだった。
「茉莉さんはどうしてこちらに? 差支えなければ教えていただけませんか?」
「ええ……どうもお腹を打ってしまったみたいで。お恥ずかしい話ですけど、私にはその時の記憶
もないんです」
「記憶喪失、ですか?」
「でもお姉ちゃん、私たちのことは覚えてたよ」
「ごく一部だけ抜け落ちているようだと、お医師様の方は仰っていました」
「金城のおじちゃんだって、すぐに治るって言ってたもんね」
「金城のおじちゃん?」
「ええ、この子たちを引き取ってくれている研究所の人です。とてもいい人ですよ。この子たちを
ここまで連れてきてくれるのも彼です」
「その方はどこに?」
「今は日用品のお使いを頼んでいるんです。もしかしたら市街地まで行ってるかもしれません」
 会話に参加していないのは、自分と史美だけだ。
 いや――
 言葉の正確さを期すならば『会話に参加できないのは自分だけ』だ。
 黒い史美の瞳が、谷風を射抜いている。
 ――どういうことだ。
 発声ができないので、口だけ動かして少女に問う。
 ――お前がやってるのか?
 史美がこくりと、頷いた。
 ――男の人は、嫌いなの。お医者さんとか金城さんは、仕方ないから我慢してるけど。
 彼女の声は、脳内に直接送り込まれた。テレパシーの類だろうか。
「少し珍しい体質を持っていて、この子たちは学校には通えないそうなんです」
 皆本茉莉が、少し寂しそうに言った。
「同年代の友達がいないのは、やっぱり可哀そうに思えてしまって」
 場に湿っぽい空気が流れている。そして谷風は、意識を失いかけている。
 身体を支えることを放棄しかけたその時――
 病院が揺れた。

「……初めて拝見したけれど、醜い姿なのね」
 五メートルはありそうな巨体を震わせている坂峰に、神宮司は素直な感想を述べたが、それへの
返答は、獣の咆哮だった。
 坂峰は鈍く光る爪の生えた前足を高々と上げると、それを容赦なく地面にぶつけた。

229 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:32:04 ID:tSmDHMvI
 動きは鈍い。だから攻撃そのものは容易く回避できた。しかしそれに付随して発生した衝撃と突
風、それに爆音は、神宮司に深刻なダメージを与えた。
 攻撃の位置から数メートルは離れていたはずなのに、神宮司の身体は軽々と宙に浮き、後方の木
の幹に背中を叩きつけられた。
「くっ――」
 空白に意識を漂わせている時間はない。痛みに構っている余裕も。坂峰の爬虫類を思わせる巨大
な頭部が、眼前にまで迫っている。地面はどこも隆起、あるいは陥没しており、足を使った移動な
どできそうになかった。
 右手を側方に突き出し、神宮司は伸縮自在の爪を最速で伸ばす。二十メートルほど先に立ってい
る木の一本に五本の鋼線を結びつけると、一気に爪を縮めて自分の身体を巻き上げていく。
自分の離脱した空間に、元は坂峰だった生物の頭突きが激突した。今度の轟音には、木の裂ける音
や土砂の崩れるなども混ざっている。長引けばこの山そのものが平地になるかもしれない。
 左手の爪で坂峰の首を貫こうとするが、硬い感触と共に弾き返される。充分に敵との間合いを空
けたところで、右手の爪も比較的防御の薄そうな腹部に放ったが、これも有効打にならない。
「坂峰さん。Sクラスに編入することを薦めますよ」
 木々の枝葉に紛れて姿が見えているとは思えないのだが、坂峰は何らかの手段で神宮司の居場所
を性格に把握しているらしい。巨体で森を薙ぎ倒しながら、彼女は一直線に神宮司に向かってくる。
「さすがにここまでやりたくはなかったんですけどね」
 右手五本の指で、手刀を作る。爪で形作られた一本の巨大な剣が出来上がる。これの強度の限界
は、自分でも確かめたことがない。少なくとも人間相手に使うには、硬度や切れ味がありすぎる代
物なのは間違いなかった。
「死んでも恨まないで下さいね」
 樹上から頭部を覗かせた坂峰の首筋に向けて、左手の五本の爪を坂峰の眼球目がけて放つ。それ
と同時に神宮司は、全力で右手の刃を振り抜いた。

 鳴動しているのは、この病院だけではない。恐らく島全体だ。
 勘ではない。なぜなら谷風は、この地鳴りを引き起こしている人物に心当たりがあったためだ。
普段ならもう自分の病室に顔を見せているはずのAクラスの同級生が、今日はまだ来ていない。
 亜季は皆本茉莉に抱きついている。皆本茉莉は彼女を落ち着かせるためか背中をゆっくり撫でて
いる。隣に立っている工藤はおろおろしている。史美は未だに谷風を見つめている。
 ――おい、悪ガキ。
 谷風は念じた。恐らくこれで通じるはずだ。
 ――用事が出来たから、さっさとこの金縛り解いてくれねえかな。
 ――お兄さんが行っても、何もできないよ。すごく弱いんだし。
 感情のないその返事に、谷風は苛立った。
 その時、島を巨大な悲鳴が覆った。人の物ではない。

230 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:32:54 ID:tSmDHMvI
 ――それにもう、白い髪のお姉さんは、死んじゃうと思う。
 なぜそれを知ってる、という問いが一瞬浮かんだが、怒鳴りつけるような気分で相手に意識を伝
達する。
 ――いいから邪魔するなよ。あの馬鹿を止めてくる。
 少女が呆れたような溜息をつく気配が、脳内に伝わってきた。
 ――分かった。じゃあ、送ってあげる。
 白い病室全体が、いきなり大きく歪んだ。

 突然鼻腔を刺激した生木と土の匂いで、むせ返りそうだった。
 緑と茶が好き勝手に混ざりあった世界に、赤色の散った真っ白な身体が一つ、横たわっている。
 足に纏わりつくスリッパを脱ぎ捨てて、谷風は彼女のそばに駆け寄り、その身体を抱き起こした。
べったりとついた返り血が、病院服を汚す。
「坂峰」
 左目だけを開いた坂峰凛は、聞き取るのも難しいような小さな声で言った。
「あれ? ……何してんの、やふう」
 細い首筋に、巨大な裂傷があった。右目も開けられないようで、血液が際限なく溢れている。
「お前が暴れてんのが分かったから、病室飛び出してきたんだよ」
「……着換えくらい、済ませてからでも良かったのに……」
 同級生女は力なく笑う。
「ああでも……ちょっと私死にそうだし、丁度良かったかもね」
 笑顔のまま、坂峰は続ける。
「ごめん。負けちゃった。殺す気でやったのに」
「別に勝たなくていい」
 そのまま谷風は、彼女を背負った。
「怪我……治ってんの?」
「これだけ竜の血を浴びてれば、なんとかなるだろ。つうか何とかする」
 負荷を無視して、谷風は全力で足に力を込めた。

 状況が把握できないまま、工藤真緒は谷風を探していた。
「どこいっちゃったのかなあ~」
 いつの間にか彼は、皆本茉莉の病室からいなくなっていたのだ。地震に驚いている間に、部屋を
出て行ったのだろうが、本人の病室にも戻っていなかった。
 既に揺れは収まっているが、余震の恐れもある。不安がっている患者たちを看護師たちが落ち着
かせている光景をあちこちで目にしながら探し物を続けていると、一階正面玄関で、何やら騒ぎが
起きているようだった。悲鳴や大きな呼びかけの声が複数起こっている。
「――やふうさん!?」

231 名前: ◆ll4lON6OZk[] 投稿日:2010/01/31(日) 13:35:38 ID:tSmDHMvI
 倒れていたのは谷風良だった。そのすぐ横には、全裸の坂峰凛も倒れている。人垣を押しのけて、
工藤は彼らに駆け寄った。
「今までどこに――それより、その怪我はどうしたんですか!?」
 血溜まりの出来かけている床に伏せていた谷風は、ぎこちなく顔を持ちあげた。
「ああ、工藤……坂峰が死にそうなんで、早く診てやってくれ……」
「やふうさんだって、その両足……」
 明らかに異常な方向に曲がっていた。確実に骨折している。背中の傷も、再出血しているようだ。
「悪いけど、今はちょっと寝かせてくれ……久々に身体動かしたら、疲れちまったよ……」
 担架を押して駆け込んでくる医師の集団に、彼らは運ばれて行ってしまった。
「あのお兄さん、少し変だね」
 音もなく寄り添っていたのは、史美だった。
「でも大丈夫かな。あの人が死んじゃったら。亜季に怒られそう」
「大丈夫だよ。きっと、大丈夫だから……」
 形の見えない不安に駆られた工藤は、少女の身体をきつく抱きしめた。



おわり

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最終更新:2010年02月25日 16:43
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