始めに。
この記録は、私、六道 太平による、私個人の目線から見た能力者達の学園の記録を綴ったものである。
能力者とは、なんか手から炎が出たり水が出たりする者から人の心を覗き見る者まで多種多様な、以前の人間が空想と思い描くような事を実際にすることが出来る人間の総称だ。
正式名称は…、なんて言ったかな。変異種だの新世代だのTHIRD PHASEだの、何だか人ならざる者のように呼ばれることもあるが能力者だって能力があること以外は皆と変わりない、ただの人間である。死ぬ時は死ぬし、ご飯も食べるし、恋もする。…一部には殺しても死なないような者もいるが、まぁ、それはそれ。
録といっても、私が生徒会で仕事としてつけている議事録のようなものとはまた別の、私個人のメモや日記のようなものだと思っていただいて結構だ。
私が生きているうちは、この録を誰かに見せるようなことはないだろうが、私の死後、この録を誰かが読んだ時、参考書のような小難しく味気の無いものでは面白くないので、主観をふんだんに加え小説風味に仕上げてみた。
出来る限り詳細に分かりやすくまとめてみたので、好みのお茶でも片手に読んで頂きたい。
タイトルはその内考えるとしよう。
第一章-生徒会戦争
一ページ目-六道太平
春である。誰がなんと言おうと春である。学園へと続く完璧に整備された中央道の左右に等間隔に植えられた桜は見事に咲き誇り、ハラハラとその花を散らしている。この造られた絶景に若干の恐怖を覚えるのは私だけだろうか。
先に、私の能力について話しておこう。私の能力は『一念五百生』と言うものだ。数多の世界を覗き見ることが出来る。勿論、この世界も。この島に来ることも知っていた。ということにしておく。能力が目覚めた時点で私はこの世界のほぼ全てを見た。しかし、それはその時点での世界を基準にしたものである。未来を見ることも当然可能だが、それは確定した未来ではない。多くの場合、様々な要因が複数の葉を芽吹かせ、その葉が未来を形作る。何処にどう流れるかは、それこそ神のみぞ知る、といったところだろうか。
数多の世界を見るという能力なので、例え未来を見てもその数は膨大であり、どれが実際に起こる未来なのかは私には分からない。だが、分からないから面白いとも思う。並行世界を見るのは楽しいものだ。機会があれば一度見てみるといい。
因みに、この能力は、なんでも世界を規律を乱すとかなんとか難癖をつけられ公表できないらしい。表向きには夢でこの世界の自分の過去を見る事が出来る、という最早、能力ですらないようなものにされてしまった。しかもランク判定も同じ理由で『E』。不服である。
ランクとは、その能力に応じて与えられるクラスのようなものだ。別にランクが高いからといって偉くなれるわけではないが、高ランクの能力は非常に強力で希少なものである。つまり、友達に自慢できる。
能力を明かせない私には縁の無い事ではあるが。…そういえば私の元の能力のランクは何なのだろうか。参考までに聞いておけば良かった。
ランクは低い順から、E→D→C→B→A→S、と非常に分かりやすく表記される。まぁ、私の受けた「E」という判定は能力の中では最低のランクということになる。能力者の内わけもランクが低いものほど多い。能力者自体が珍しい存在ではあるが、能力者の中ではよくいるタイプということになる。能力者全体を100%とするなら、その内わけは、E→24%、D→23%、C→22%、B→22%、A→9%、くらい。
Sランクの能力者は極めて特殊で希少な存在なので数えるほどしかいない。故に割合からは省かせてもらった。
Sランクは能力者の住まうこの島の中でも、畏怖と敬意の対象である。その能力により引き起こされる事象は人知を遥かに超えており、並みの能力者ならば容易に圧倒する。能力については一概に「こう」とは言えないが、低ランクの私や無能力者などはAランクならまだしもSランク相手では、いくら束になってもその足元にも及ばない。
別にそういう宗教は無いが、一部では旧約聖書において最も偉大な天使の一人である「大天使ミカエル」の別称に準え「神の如き者」などと称されたりもする。
余談ではあるが、大天使ミカエルの「大天使」とは偽ディオニシウス・アレオパギタが定めた天使の九階級のうち現在、下位二位に属するものであるが、これは中世初期の頃までは大天使が天使の最高階級と考えられていたためとされる。よってミカエルは偽ディオニシウス・アレオパギタが定めた天使の九階級の中では上位一位の熾天使であるといえよう。
少し長くなってしまったが私の能力についてとその状況についてご理解頂けただろうか。
その他については、後述を参照されたし。
さて、桜並木を通り抜け巨大な学園を縦断し、やってきたのは大学部である。ここには大講堂があり、そこで年に一度行われるのが、生徒会総会。
生徒会各部の面々が一同に集まる通例行事。今年の各部の面々を見ておきたい。
何故、生徒会に部が必要なのか。それについては、この学園都市内で能力者をその実力で取り締まる3つ(+1)の組織についての説明から始めなければならない。
一つは、生徒会。学園を総括し、その秩序を守る組織である。学園の方向性を決め、生徒の代表として存在する。アクター、リフィターに関らず有能な能力者が集まり学園内で最も巨大で最も影響力を持つ組織である。この「生徒会」には二つの意味があるのだが、これは下記で記そう。
一つは、風紀委員。その名の通り学園内の風紀を乱さない為の組織である。生徒会からは独立しており、自己の基準で学園内の風紀と平和を維持する為に活動している。生徒会に比べればその数は少ないが、戦闘能力の高い一癖ある能力者が揃っており、組織力も高い。
一つは、自警団。生徒会は正式な組織と認めていない、完全なアウトローである。しかし、その目的は生徒会や風紀委員と同じく学園内外の平和を守る、というもの。8割以上がアクターで構成される武闘派集団である。生徒会や風紀委員が表向きの組織だとすれば、自警団はその枠からはみ出た案件を引き受け処理する裏の組織であるといえよう。
元は区別の為分けられた組織だが、いつの間にか互いに牽制するような間柄となってしまった。生徒会と風紀委員はまだマシな方だが、自警団は完全に浮いているように見える。まぁ、それも他方へのポーズなのかも知れないが。
その他の委員会や組織は全て生徒会傘下として存在することになっている。なっているだけで、実際は殆どの委員会組織は内部で独立しており、基本的に行事くらいでしか各委員会組織は共に動かない。
そして、+1。厳密には生徒の組織ではないが学園内の組織なので紹介しておこう。
理事会。教職員の組織である。生徒会を指導し生徒会と共に学園を形作る、学園内において絶対的ともいえる権力を持つ組織である。登場することは少ないが参考までに。
これがこの学園の組織の概要となる。私が在籍するのは生徒会。小等部から大学部まで総勢200人を越える巨大組織。元々は各委員会組織の頭脳であったが、上記の理由により手足が無くなってしまったのだ。働きかければ無論、各委員会組織は手を貸すだろうが生徒会は自身の強化に走った為、このような大所帯になってしまった。
さて、上記で記した生徒会の二つの意味について語ろう。一つは全体を指した言葉。もう一つは生徒会内で各部の代表達を指す言葉。分かりにくいが生徒会という組織の中に、さらに小さな生徒会(代表部)という部が存在するのだ。
生徒会内の区分は、いくつかに分かれている。学年別の横割りとして、初等部、中等部、高等部、大学部の4つ。業務別の縦割りとして、代表部、諜報部、広報部、総務部、防衛部、特別監査会の6つ。代表部には、各部署の代表10名に加え、どの部にも属していない生徒会長1名とそれを補佐する副会長1名を加えた計12名によって構成され生徒会の総指揮を執る。代表部代表は生徒会長ではなく(最高指揮権に近いものは持つが)あくまで代表部の中でのトップとなっており、生徒会長と副会長はその判断に支障を来さない様に、それら全ての部からも拘束されない存在としている。
生徒会の意思は生徒会全指揮権を持つ生徒会長から副会長・代表部代表→各部代表、という形で、各部の行動については、総務部を通して代表部及び会長の承認が必要となり、見事なまでのお役所体系となっている。
本末転倒な気もするが、それが組織の流れというものだろう。
「防衛部なら風紀委員」とそれぞれの能力に特化した専門組織もあるのだが、生徒会は独自に新たな組織を設立した。これは他から見れば切り捨て同然であり、これが他の委員会組織から生徒会が一気に嫌われることになった最大の要因ともいえよう。
風紀委員が独立→危機感を覚えた生徒会が強化を開始→何故か様々な分野が誕生し巨大組織へ→それを見た各委員会組織は次々と独立。
噛み砕いて言えば、このような経緯である。なんともまぁ、生徒会としては余計な事をした為に無様な結果となってしまった。
(まぁ、それはおいといて)
閑 話 休 題
生徒会には、二つの派閥がある。これも大きさゆえのしがらみというべきか。穏健派と過激派。別の言い方をすれば、ハト派とタカ派。
これが今回の事の発端。説明ばかりでは面白くないので、島の現状。学園の概要。風紀委員の独立理由。その他もろもろは今後記していこうと思う。
大分前置きが長くなってしまった。それでは、最後までお付き合い頂ければ光栄である。
第一章-生徒会戦争
二ページ目-七五三野空海
噴水広場を抜けると、正面には巨大な円形の建物。某国の大統領官邸を思わせる真っ白な建物である。これが大講堂。最大、450人を収容できる、この学園で5番目に大きな建物。大講堂正面からロビーへ、そして正面の厳めしい扉を開けると天井の高い広々とした空間が広がっていた。その造りは、国会議事堂に近い。すり鉢状に非常に緩やかな傾斜がつき、扇状に席が広がっている。奥の中心部には役員の為の席が用意されていた。
予定時間にはまだ早く総務部の人間がちらほらと総会準備に走っている。私はそれを横目に、蹴り上げの小さな階段を下り大講堂の奥へ。今日の総会の為に用意された役員席、その一つ、二席ある書記席の中から一つの席へと座る。暇なので録でも書いていようか。
未来を見れるならさぞかし便利だろうと思われがちだが、私は未来をあまり見ない。見たとしても極々近いものであり、あまり先の事は見ないでいる。何故かというと予習としては意味が無いからだ。前述の通り私の能力はあらゆる可能性を内包した全ての未来を見るので予知が出来ない。現在から近いものであれば、ほぼ同じなので高確率の予測は可能だが、基点から離れていくごとにその世界はまったく違うものになる。その時間軸がどの時点で、どの分岐点で、どちらに事が転ぶのかは分からない。そんなifの世界が幾千幾万幾億と、それこそ星の数ほど存在するのだ。
予定時間が近づくにつれ人が集まり出してきた。小学生から大学生まで様々な生徒会メンバーが続々とやってくる。総務部は準備に忙しない。総務というと聞こえはいいが要するに雑用部である。ただ逆らうと自分達に雑用が回ってくるので、皆逆らわない。因みに書記も総務部の内の一つとして存在する。仕事は各資料の管理と、こういう場では記録するだけなので楽でいい。録を見られると面倒なので仕事用の議事録に変え、以前の記録をパラパラと捲り暇を潰していると、ある男が隣へやって来た。
「お疲れさん。やっぱ書記は真面目だねぇ」
髭面の大学生である。っていうか、ここに座ろうとしている時点でお前も書記だろうが。暇潰しが復習にでも見えたのか気の抜けた声でそう言うと男は私の隣へ腰を下ろす。
生徒会総務部書記長、七五三野空海。大学部の2年、年は20歳だったか。
「いえ、少し早めについていたもので」
こんなアホ面でも、一応は先輩で書記長なので下手は言わない。私の面子もあるし。誰にでも敬語を使うのは癖だ。巨大な生徒会では発生する記録や資料も膨大な量となるので、書記係も私を含め5人いる。記録専門は私ともう一人。資料管理に2人。そして書記長件資料管理件雑用が横の男。
「今日は投票ですね」
「あぁ、今年は穏健派で決まりだな」
「…」
今日は、生徒会第九期に当たる10代目の生徒会長を決めるため、生徒会員による投票が行われる。生徒会における1期とは2年単位であり、投票により選ばれた生徒会長は2年間その職務を全うする。第九期なのに10代目なのは過去に一人、任期満了前に辞めることになった(不信任案により辞めさせられた)会長がいるからだ。
その話も暇がある時にでも語ろう。
今回の候補者は二人。前回より一人少ない。穏健派と過激派から一人ずつ。
「極ヶ原で決まりかなぁ」
「さて…、どうでしょうか」
「まぁ、その役職に対する器だよなぁ」
「向いていないと?」
「そういうわけじゃないんだが…、まぁ、そんな感じだ」
この男、適当に生きているように見えて、よく観察している。
極ヶ原強也。現在、無能力者代表にして、Sランク判定を受けた異端児。穏健派。前生徒会副会長を務めた最有力候補。
本人は自分の能力は規格外の身体能力だけだと語っているが、実際その通りである。ただ無能力者というのは正しくないが。彼の能力の謎が解き明かされるのは、どの未来のいつだったか。
そうしている間にも、続々と投票の為に集まった生徒会員と大講堂の空席を利用して作られた傍聴席にその他の生徒が集まり、ざわざわと騒がしくなってきた。今日は二年に一度の会長選挙。無理もない。学年別代表からそれぞれに注意が飛ぶ。
……。
「来るぞ」
横のバカ面の言葉を聞いた刹那、何も無いところから突然現れた過激派代表が宙に浮いていた。我々、役員には背を向け、投票に集まった多くの生徒会員の目の前に浮いていた。その突然の出来事に全員が言葉を失っている。全く、Sランクは何食わぬ顔で非常識な事をするから困る。
無時間移動&重力無視。別にパフォーマンスではない。これが彼女のいつも通りの移動方法だ。何の準備も無しに空間の連続性を否定し、私を含め地球上の全ての存在が等しくその身に受けている重力を涼しい顔のまま現在進行形でガン無視して浮いている非常識な彼女は、眼下の生徒会員一同の呆けた顔を一瞥すると、無表情のまま一言も発さずフワフワと浮いたまま移動し、役員席中央の指定された席へと着く。
その場所に現れたのは意味があるのだろうか。投票する面子でも確認しておきたかったのか。それとも。
徐々にざわざわとどよめく大講堂。Sランクの能力を見るの初めての人が多いのだろう。能力者だらけのこの島でも普通に生活していれば、そうそう出会えるものでもない。
「流石は最強と謳われる『ダブルス(S-2)』だ。一瞬、登場しただけでこの場を飲み込みやがった」
クックック、と何やら満足そうに笑う。より一層胡散臭くなった男を横目に見つつ、私は視線を蓬世円に戻した。
「…(…ダブルス、か)」
『ダブルス』とは、生徒達が勝手にそう呼んでいる能力者の呼び名である。ダブルエス(S)が訛ったものであり、つまりは二つの能力を持ち、尚且つ、その能力が両方ともSランクであるということ。基本的には、ランクのアルファベットの後ろに、一つの能力を持つのなら1(ワン)、二つの能力を持つのなら2(ツー)を付けて『D-1(ディー・ワン)』や、ダブルスなら『S-2(エス・ツー)』などと表記される。
二つの能力を持ち、尚且つそれぞれの能力のランクが違う能力者の場合は、『B・E-1(ビー・イー)』などと表記される。9割の能力者が一つの能力を持つ単一能力者なので、1は省略される事が多い。
Sランク自体が、異端である能力者の中でも、極めて特殊な存在である上に、その力を二つ所持している。その強大な力はまさに、神の如き者と言えよう。
実際の戦闘では様々な要因が絡むので一概には言えないが、能力は一つランクが上がるとアクターにおいて、その効果を除いた単純な戦闘力がその下位クラスを基準とした場合、E→Dでは4倍。D→Cでは6倍。C→Bでは16倍、B→Aでは28倍。A→Sに至っては114倍にもなると言われている。
この式が正しいかどうかは知らないが、この式に当てはめるとSランクというのが他ランクに対し、どれほど異常な力を持っているのかよく分かると思う。
さらに、希少種である2つの能力を持つ二重能力者は最低でも下位ランクへの2条の戦闘力を有するとのこと。
研究所によれば三重能力者は理論上は存在するらしいが、その個体は未だ確認されていない。三つの能力を会得した時点で脳の情報回路がパンクして、どういう原理かは不明だが死ぬらしい。その説が正しければ、ただ単に人間の情報処理能力を超えていれば死なないという訳だ。三つの能力を持つための方法が不明ならば厳しいが、それが分かっているのなら簡単である。越えればいいのだ、人を。その限界を。既に人知を凌駕しつつある我々能力者にとっては容易い事だろう。まぁ、能力者といっても万能ではないので私には無理な話だが。Sランク辺りで適当に誰か越えてくれ。
(リフィター)E-1の自分と、(アクター)S-2の彼女。その戦力差は一体どれほどだと言うのか。頭が痛くなる。ケンカを売れば瞬殺されるのは間違いない。
依然、大講堂内のざわめきは収まらず、各部の代表が声を荒げている。その原因の蓬世円は知ってか知らずか相変わらずの無表情。椅子に深く腰掛けいつの間にやら茶など啜っている。どこから出した。
そもそもこの投票に興味が無いように見える。過激派にも特に動きは見られず、ざわつく大講堂内を尻目に静かにその時を待っている。暇を持て余した私が議事録の隅に「ざわざわ…圧倒的ざわざわ…」と連続で書き記していると大講堂正面の扉が大きな音を立てて開け放たれた。
「お、主役の登場か」
半分寝ていた横の不真面目な男は、その音で起き、先程の楽しそうな顔に戻った。またしても水を打ったように静まり返る大講堂。長身痩躯の男が真剣な面持ちで大講堂に入ってきた。若干の緊張が垣間見える。
その姿に気圧されたのか大講堂内で言葉を発する者はいない。流石はSランク、身に纏うオーラが違う。極ヶ原強也はそのまま無言で進み、蓬世円の隣へ座る。お互い目を合わせようともしない。仲が悪いというよりは、お互いがその存在に気づいていないような。
割と凄い光景である。Sランクが2人揃って座っているのだ。1人でも珍しいSランクが2人もいるのだ。正直、写真にでも収めておきたいが、この場においてそれは禁止されている。Sランクの能力者は学園都市内でも見かけることは少ない。数自体が少ないという事もあるが。殆ど能力を行使しないというのもある。Sランクの能力解放は重大な責務を負う。無闇な能力の解放は他に甚大な影響を与えかねないのだ。さらに日々行われる能力訓練やアクターの戦闘演習でもSランクは基本的に見かけない。理由はただ一つにして単純明快。他ランク相手では話しにならないから。Sランク相手に演習を行いたい者もいないだろう。いたとすればそれはただの自殺志願者である。まぁ、演習で死ぬことは無いと思うが。その他もろもろの理由も合わせてSランクの能力者はその存在をあまり知られていない。逆に言えば、横に並んでいる極ヶ原強也や蓬世円のように周囲に広く知られているSランクの方が珍しいのだ。殆どのSランク能力者は周囲に余計な波風を立てないよう、ひっそりとこの学園都市で暮らしている。
最後に静まりかえった大講堂に理事会の面々がやってきた。この選挙が公正に行われるかの見届け人。大講堂を取り囲むように16人。
役者は揃った。第9期生徒会総会まであと15分。過激派、穏健派の補佐が代表の隣へやってきた。大講堂を見渡せる役員席には、正面から見て左手から書記長、書記(私)、各部代表5名、過激派補佐2名、蓬世円、極ヶ原強也、穏健派補佐2名、各部代表5名、総務2名という席順。現、防衛部代表は蓬世円その人なので、本日は副代表が防衛部代表席を埋めている。
中央には二人の会長候補。
午後2時。第九期生徒会総会が始まる。
午後2時になった瞬間、大講堂内は耳を劈く様な爆音に包まれた。
「あぅあぅ、キーンとする…、キーンと」
隣であうあう言ってる無様な男は無視して辺りを確認する。大講堂に損傷は見られない。誰かの能力か。
爆音と同時に大講堂に雪崩込んできたのは10人弱。全員が能力者。律儀に入り口から扉を開けて入ってきたのは先程の爆発で大講堂が壊れなかったからだろう。主犯格と思われる人物が講堂内に対し何かの能力を行使しようとした瞬間「ガッ…!」という声と共に卒倒する。その現象に驚いたメンバーが次々と発火していく。残りは漆黒の何かに捕まると壁へ叩きつけられ沈黙する。傍聴席から飛び出して、突如大講堂を占拠しようとした集団をものの十数秒で片付けたのは3人の能力者。気絶したのか、戦意を喪失したのか、死んだのか、動かなくなった者から連行されていく。この選挙の警備を担当している風紀委員と自警団の実働部隊とその他だ。
「左から、稲妻光太郎、スカーレット・メイディランド、影山愛 」
アクターの戦闘を見学し終えた横の男がスラスラと名前を上げる。
「能力は」
「電撃、音波を媒体としたパイロキネシス、生物の影を実体化し操る。3人共Aランク」
「所属と学年は」
「無所属の高3と、自警団の大1、風紀の高3。…あ、まだキーンとするよー」
「どうもです」
その情報も私は議事録の隅にに記していく。
「講堂内はAランクが殆どだなぁ」
「今年は主力級というか、結構有名どころが揃ってますね」
「予算でも厳しいのかね」
「時期会長へのアピールタイムってとこですか」
傍聴席についていた能力者の一部が意気揚々と外へ駆け出していく。
何が起こっているのか説明しよう。
【生徒会「生徒会長選挙」に関する条約】
- 事前の選挙活動の禁止。
- 投票権利は立候補者と役員を除く、全生徒会員とする。
- 生徒会選挙中に限り、能力使用を含めたあらゆる妨害工作を認める。
- その際、生徒会員同士の能力の使用による妨害工作を禁ずる。生徒会員同士でない場合、生徒会員の能力使用も認める。
- 例え能力を含めた妨害工作による投票結果でも、結果は結果とし認める。
生徒会長選挙。
これは生徒会のみならず、学園全体にとって一大行事である。この選挙で今後2年間の学園の基本方針が決まるといっても過言ではない。ならば自分の思い通りにしたくなるのが人の性。どんな能力で無能力者を越え進化しようと人間は人間であるということか。
貴方も、もし、この先の巨大な権利を決める事になって自分にはそれを動かす力があったとしたら何もせずにいられるだろうか。
この妨害工作を期間を指定して認めるという一見奇妙な条約が定められた背景は、能力者が権利を求めて暴走した過去が上げられる。
生徒会第3期に当たる3代目の生徒会長を決める為の選挙活動中に、当時の生徒会を良く思っていなかった能力者による妨害という名の生徒会員狩りが行われたのだ。それは暴力による悪行でしかなかった上に、当時の風紀委員ですら犯人を特定できず愉快犯や模倣犯を生み、被害は生徒会員からその会長候補を支持する一般生徒へと拡大していった。最終的には事態を重く見た理事会と治安機構(軍)が動き、捕らえられた犯人は退学処分となり、その後、隣の刑務島へ送られたと聞く。
その後の当時の生徒会は二度とこのような事態を招かない為にも
- 投票権及び期間を限定し、万が一の場合の被害拡大を防ぐ。
- 全ての能力の無効化は不可能な為、限定的な捌け口を設ける。
この二つに焦点を絞り理事会と協議を重ね、何度かの改定を経て現在このような条約となっている。この考えはさらに飛躍し、先程の集団のように物理的に投票数を変えてしまおうとする者も現れた。学園内の生徒を守る為、生徒会員を人柱に上げるこの考えは批判も多かったが、事実、それからは暴動は起きていない。この力と力でぶつかり合うやり方なら短絡的な犯行が多く、余計に複雑な事態も招きにくい。
ただ、そんな事をしては生徒会員の命はいくつあっても足りない。故に徹底的な警護を学園に申し出た。それから風紀委員や自警団やその他の腕自慢の立候補者による総会警護が始まったのである。選挙が滞りなく行える様にと。勿論、全員が親切心で名乗り出ている訳ではないだろう。様々な思惑が渦巻いていると思われる。実際、6年前の選挙では警護員による生徒会員への攻撃があったそうだ。すぐに他の警護員に取り押さえられたそうだが。
傍聴席に座っているのは見届け人や野次馬ではなく、警護を買って出た者達である。さらに選挙開始時間と共に大講堂の外や学園内、島内のいたる所にも多数の警護を勤める能力者が目を光らせている。今となっては、ただの腕試しに来ている者も多いだろう。襲ってくる方も。
という訳で、ここの生徒会長選挙は外で爆音轟く世界一デンジャラスな雰囲気の中で粛々と行われる。物理的な妨害は物理的に排除し、目に見えない妨害は、同じく目に見えない能力を持った者や理事会の目により省かれる。
基本的には警護に当たる者に任せてはいるが、勿論、生徒会員も自らの身と仲間と選挙を守るためなら戦う。まぁ、良くも悪くも優秀な警護員が揃っているし、投票に差し支えるので生徒会員が戦闘に参加する事は殆ど場合無いが。
この時、選挙の妨害の為、大講堂に突撃してくる者は当然、厳重注意と罰を受けるが、やりすぎなければ少なくとも退学や刑務島送りなどにはならない。せいぜい、切られたり痺れたり凍ったり燃えたり飛ばされたり潰されたり埋められたり爆発したりする程度だ。警護員も深追いすることはないし運が悪くても全治3週間くらいだろう。
能力者流の民主主義、は言いすぎか、能力者だって平和的な交渉も出来るし。まぁ、分かりやすいに越した事はない。
私を含めた役員は選挙権が無いので自動的にこの総会戦争の輪からは外れる。先程の爆音に驚いたのか泣き出した初等部の生徒会員を隣の大学部の生徒会員がなだめている。私も最初は驚いたものだ。この戦場選挙に。
能力者の網を掻い潜り、一瞬の隙を付いて大講堂内に侵入してきたのは招かざる客。ふいに現れた矢印のついた服の男に触れられると、大講堂の外に向かって‘横’に落ちていった。大講堂から追放されたその先で突如、隆起してきた地面の打撃を喰らい、空高く舞う。
「今の二人は」
「陀鳥拘、重力方向の操作で無所属の高2。朝比奈大地、地面を操る自警団の大1。両方Aランク。いい連携だな」
大講堂の外では戦闘狂たちが様々な委員会組織が対立する学園内でその垣根を越えて、攻めと守りの二手に分かれて能力勝負を始めている。今日は運動会では無いのだが…、なんか先程の2人もお互い親指立てて称えあってるし。…まぁ、楽しそうで何よりではある。
おっと…、メモメモ。正直、この選挙よりも能力バトルを見ていた方が楽しそうだと思うのは私だけだろうか。そんな私の思いとは裏腹に、落ち着きを取り戻した大講堂内では、ようやく総会が始まった。
代表部代表による開会の宣言と挨拶。
外では銃撃とも爆撃ともつかない轟音と断末魔。
総務部による毎度おなじみ投票手順の説明。
隠れて入ってきた瞬間見つかり、袋叩きにされて連行されるどこぞの曲者。
戦いに怯える生徒会員と自分も戦いたいに参加したい生徒会員。
静かにその時を待つ会長候補二人。
説明を終えた総務部から、白と青の4cm×1.5cmの石が二つ配られる。一人一色ずつ、計2つ。これで投票が行われる。蓬世に入れるなら白の石、極ヶ原に入れるなら青の石を投票すればいい。因みに、当然ながらこの石はただの色の付いた石ではない。自然石にルーンを刻んだもので、一つとして同じものは存在せず複製する事が出来なくなっている。
ここからが選挙戦本番となる。
生徒会内には二つの派閥があるが、全員がどちらかに属している訳ではない。穏健派5割、過激派2割、無党派3割。事前の選挙活動が禁止されている為、ここから両派閥による無党派の引き込みが始まる。もちろん、生徒会員同士なので能力は使えない。無理矢理、石を奪ったり洗脳しても無効となる上、自身の選挙権も剥奪される。
能力さえ使わなければ何でもいいのだ。能力を使ってもバレなければ問題ない。この状況下でバレずに使える能力があればの話だが。純粋なアピール合戦が始まる。穏健派は勝利を磐石なものにする為に、過激派は逆転を信じて。
最終更新:2010年07月09日 03:50