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したらばSS作品 ◆Yx1H.SDyn6 6

『登校前夜』

何となく活気の無い環凪学園に突如現れた停滞空間。
いわゆる外部(何処の?)のテンションによって
学園内の時間軸が進んでいるようで、学園外ではほとんど進んでいないような事象が発生中。
空間の圧力=世界の停滞感はいかな能力者を駆使しても排除できないほどであった。

ただ、内部の時間軸がいくら進んでも外に合わせて少し戻ったり進んだりしている様で、
これによって生徒各者の時間認識には多少のブレが有るとされている。
~※環凪幾何学研究所資料 A-25~

※環凪島に残して置くと空間の反作用でいずれ掻き消されるので資料は本土のサーバーに存在する



「変だナ、ポッケにしまって置いた発火符が無い――――あれ、まずそんなもンしまってタかな?」

―――我が研究所も所員を本土に派遣しなければ気付くことが出来なかった。
――全くもって、複雑怪奇な空間である。

「まぁ良い。あの島国の能力者…どんナ奴らか楽しみダ!」

女が一人、モーターボートで東シナ海、環凪島近海を突っ走る。
彼女の名は導慶。今はまだ――脱走者の汚名を背負った小さな絶望。



大陸最大の大国は揺れに揺れた。
古代宦官時代の宮廷を改造して作られた政府の最高機関、白金城には
事態収拾の為に軍事の上級官たちが集まっていた。
この国のリーダーたる『書記長』と呼ばれる男は至って冷静に
当事地域である東部方面司令官一人を自室に招き入れた。
「書記長、ターリェンの労働能力者施設から脱走者が一人」
「既に秘書官から聞いているよ。行かせてやれ」
「ハッ!?しかし…」
「止めた所で聞かないのが我々の国民性だろう?
それに施設を一つぶっ壊したそうじゃないか。軍をもって取り押さえるには少々犠牲が過ぎる」
「しかし施設攻撃に巻き込まれた警備兵、能力者たちは怨嗟の声を上げています。何か手を打たれた方が」
司令官の具申に書記長はアゴヒゲを摩りながら少しの間考え込んだ。
「よし、軍は元の配置に戻れ。非常レベルもグリーンまで下げろ、これ以上は民衆に感づかれる。
…行き先は掴めているのだな?」
「日本近海、能力者隔離島『環凪』に向っているものと思われます」
「なら珍が使えよう。奴はあの島の配属も長いから島の勝手も分かっているはずだ、脱走者の処遇は奴に一任する」
「――それだけ、でしょうか?」
「ああ、確かにこれだけじゃ示しがつかないな。んじゃあ、脱走者君には一旦沈んでもらおう。
現場の皆には君の口からよろしく言っといてね、さらっとな」
書記長は赤電話の隣のコントロールパネルをひと撫で―――

           ドガァ

環凪島を目前にしながら炎を上げて大破するモーターボート。
まさか軍の全ての乗り物に遠隔自爆コードが導入されているとは夢にも思うまい。
(やっぱり軍のヤツをパチるんじゃなかっタ…抜け目無い奴ダ、あの男)
断罪者の襲撃にも備えて幾重にも防御を張っていたお陰か怪我は少ないものの、
幾らかの予備符も焼け付き、彼女の火力は半減していた。
しかし、投げ出された身に海の上では休息の文字は無い。
ひたすらに島に向けて泳ぎ続ける。
いつしか精根尽き果てそうになったとき、彼女はようやく島にたどり着いた。
そう『エトロフ』と呼ばれる島に。
どの看板を見ても環凪とはまず書かれていない。
どうも疲れて所々寝ている間に海流に流されていたようだ。
そしてやはり彼女に休息の時は無い。

「択捉島にて高psy反応、至急鎮圧部隊の出動を願う、繰り返す――」
導慶が択捉島にたどり着いた翌日、地上監視の本土軍所属ヘリが彼女の波長を捉らえた。
本土軍鎮圧部隊は万一に備えスクランブル、昼ごろには護衛艦艇が島を包囲していた―――

森の中で行き倒れ同然で眠っていた導慶を起こしたのは本土軍の交渉人だった。
しかし、初めて来た国の事情などほとんど分かるはずも無く―――
「君、環凪学園の人かな?」
「あなたは誰?」
「うん?この発音、外人さんか。えーと、
『私は環凪島から来ました環凪学園の…スタッフです。貴女は何処から来られましたか?』(『会話』←英語的な共通語と思いねぇ)
「大陸東部から来ましタ、貴男は環凪島の関係者ですカ?」
「本当は違うんだけどな…まぁ、しょうがないか」
『はい、少々我々能力者が外を出歩くのはマズいので一旦学園まで、とのお達しで』
「じゃあ、この昨日かラ飛び回ってるヘリ三台と、港の沖合いに展開している艦群は何ダ?」
『無能力者が能力者を怖れるのは何時の世も、どんな場所でも同じということですよ。この島国にも幻滅しましたか?』
「イヤ、そうだったナ。…この国も同じか」


10分後、無血交渉成立の報を受けた自衛軍は前面撤収。
迎えの輸送船にわずかな戦闘要員を乗せて環凪島までの輸送を請け負った。
自衛軍が下出に出るのは無理も無い。
脱走者の情報が既に外交筋で政府中枢に伝わっていたからだ。
『ゴムボートは日本到達前に海軍が撃沈』と報じていたが
死体が引き上げられていないことから生存説は政府内でも既に濃厚であったのだ。

船内では銃を離さず顔を強張らせながら微動だにしない兵が何十人と交渉人と脱走者を待ち構えていた。
導慶は居心地の悪さを感じつつ、交渉人に他愛も無い雑談をしていた。
「…環凪島ってどういう所ダ?」
『ぶっちゃけると能力者の楽園って所かな。
迫害から開放され、キチンと学習を受け能力も更に生かせるという夢のような場所さ』
「関係者にしては随分曖昧な表現を使うんだナ」
『…僕は外部スタッフさ、いくら能力者が揃っていても島という環境だけじゃ自活には支障をきたすでしょ?
だから中のことは良く知らないんだ』
「じゃあ、そろそろその『こっちでの生活に支障を来たさない程度の能力』を教えてくれないかナ?」
「まいったなぁ」
『…こ、こっちのルールではみだりに能力を教え合うのはタブーなんだ』
「そうカ、じゃあこれ以上気まずくならないように寝足りない分寝かせて貰うよ。着くまで起こすナよ…」
交渉人は慶を起こさないように席を立ち、後部デッキに向った。
その際、万一の為に兵士が後から後部デッキに一人追従した。

「…畜生が。こんな生意気な小娘一人始末できなかったのか、大陸の奴等は!」
「冷静に、相手はそれだけのヤツだったと言うことです。ここで我々が動くのは危険です」
「チッ、ただの漂着者なら鉛球一発で解決するような事柄なのになぁ…ああ、船を動かす化石燃料の無駄だ」
「とにかく環凪島に引き渡してしまえば任務は達成されます。
大陸側の公式発表では海の底に沈んだことになっているので、生きていると色々都合が悪いんでしょう」
「分かっている。全く…気味の悪い連中だ、あいつらは」



その日の夜おそく、導慶は環凪島に足を踏み入れた。
出迎える者は環凪島の重鎮たち、その真ん中には環凪学園校長の姿もあった。
ようこそ、ようこそ
事前に調べた大陸式の挨拶をひけらかす重鎮達、しかし校長だけは静かに押し黙っていた。
導慶は校長の行動に興味を持ち、彼だけに念話の回線を開いた。
「(何故黙っている?施設を一つ開放したこの私に恐れをなしているのか?)」
「クハッハハッハッハッハ…」
それを聞いた校長は一転思い切り口をあけて笑い飛ばした。
突然の校長の行動にガヤガヤと談笑していた重鎮達も静かに様子を見守る。
「(面白い冗談だお嬢ちゃん、開放?それは残された者達の環境をより厳しくさせたに過ぎない。
君はまだ世界の広さを知らないと見る。)」
「(フン、お前達こそ、こんな島に閉じこもってて強き者の気も感じ取れないか?)」
「(強き者はいたづらに気を撒き散らしたりはせんよ…やはり、小娘じゃな)」
「小娘だとッ…その言葉を取り消せ!」
導慶は服の裏側のスリットから短冊状の符を取り出し、それを校長に差し向けた。
突然母国語の激昂が聞こえた護衛の珍備は俊足をもってその間に割って入る。
「邪魔をするな!」
「君が脱走者君か。すまないが校長には恩義が有るんでね、任務とは関係なしに沈黙させてもらう」
導慶の脇腹に重く速い蹴りが入る。
蹴りは符術の防御結界を容易に破り、導慶の体を軽々と横へなぎ払った。
意識を飛ばしかけた導慶が見たものは下半身が虎になった男の姿―――
「足が…と、虎ッ…?」
「これが校長の指先にも及ばない私の力だ、これ以上は語るまい。…まだやるのか?」
「…まだだ!」
術者の気に応え、地に伏す前にばら撒かれた符は一斉に珍備の体を拘束しようとする。
突然のことに珍備は完全に拘束されるのだが―――
「獣形態武装!」
―――完全に虎と化した珍備の力の前に拘束符術は紙同然に引き千切られた。
「チッ…」

「(…フン、私の負けダ。働かすなり、犯すなり好きにしろ)」
「(どうじゃ?自分の小ささが分かったか?反省したか?ン?揉ませろ?)」
「(確かにさっきは負けた。だが校長殿、あなたの学校で成り上がってやるさ。)」
「(…あんにゃろ、俺が校長ってバラしたな!…やっぱり揉んじゃ駄目?)」
「(これからよろしくお願いしますね。じゃあ、どうぞ…)」

「校長。何いやらしい手つきで固まっているんですか」
「いやあ、好きにしろって言うから…のぅ」
校長の手には『麻痺』と書かれた札が怪獣のような手つきに沿って張り付いていた。
「えっちなのはいけないとおもいます!」
「えっちは人類の宝じゃ!…どうでもいいからとっとと札を剥がせ、珍よ。
しっかし、またエライのが入ってきたのぅ…」



―――我が研究所ではこの事象を五回ほど確認している。
――時の流れを捻じ曲げるこの空間は本当に何なのだろうか。
―その答えとその終わりは―――未だ発見出来ない。

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最終更新:2010年08月18日 21:21
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