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したらばSS作品 ID:QXN48.8.

真夏の夜。
 寝苦しさとは別種の感覚で、秋坂カヤは目を覚ました。
 ストレートのブロンドをベッドの上に広げたまま、彼女は頭を持ち上げることさえできずにいた。
 何かが体内で蠢いている。
「あ……」
 秘部から発せられる快楽の波に耐えかね、秋坂カヤは小さな嬌声を洩らした。性に関する情報など興味がないので殆ど持っていないが、
ひどく淫らな行いをされているという自覚はぼんやりとあった。
 陶器のように白い手で、自らの汗で湿ったシーツを掴む。下着はおろか、白いネグリジェまで体液でぐっしょりと濡れていた。
 体内の何かは、徐々に身体の奥深くへと入ってくる。それに併せて、快感もまた増大してゆく。異物は休むことなく身体の穴を広げ、
愛液を物ともせずに秋坂カヤの中心を目指している。
 やがて訪れた絶頂と共に、彼女は気を失った。数十秒後には、その命も。

 同じ寮内の別の部屋では、秋坂カヤの二重存在――ジェミニがむくりとベッドから起き上がっていた。
 汗のせいで額に張り付いていた髪を取り払いながら、ジェミニは記憶の襞をまさぐる。基本的にもう一人の自分とは、あらゆる感覚や思考を否応なく共有する
ことになってしまうのだが、さすがにこちらが寝ている最中のことまでは明瞭に把握できない。ただ、向こうに異常があったのは間違いなさそうだった。
初めは男でも私室に呼び込んであれこれやっているのかと思ったのだが、そうでもないらしい。相手の姿がなかった。なら大人の玩具でも使って
自分を慰めていたのだろうか。そんな物を買ったり使ったりしたのならば、こちらが憶えていそうなものだが。
 向こうからの情報が途絶してから少しして、一瞬だけ激痛が寄こされてきた。あれで起きないということは、恐らくあちらは死んだのではないだろうか。
 周りを見る。大体片方が死んだ場合、すぐ横に同じ格好をした相方が即座に出現するのだが、姿はない。ということはつまりまだ生存している、はずだ。
 ――本当に?
 もう一人の安否が気になる。

 翌日、学校の廊下でジェミニは秋坂カヤと偶然顔を合わせ、戦慄した。
「幽霊でも見つけたの? 顔色悪いけど」
 滅多に表情を変えない秋坂カヤが、すれ違いざまジェミニに言った。造作の整った顔に、美しい微笑を浮かべて。
「……別に」
 それだけ言い返すと、動揺を気取られないようにジェミニは自分の教室へと退散した。
 初めて遭遇する状況だった。もう一人の自分は死んでいない。気味が悪い程の上機嫌で、
女子トイレのある方に向かっていた。何の異常も見てとれなかった。
 ならば何故、彼女の情報が一切伝わって来ないのだ。
 すれ違ったもう一人の姿を思い出し、ジェミニは疑念に駆られる。
 あれは本当に、生きているのか?

 左手首に白い包帯を何重にも巻いた白衣姿の朱羽淡は、深夜のナースコールにも嫌な顔一つ見せない稀有な看護師だ。
 非常口のランプだけが点った暗い病棟を、ショートカットの黒髪を規則的に揺らしながら音もなく歩く。靴音が煩いと苦情を訴えてくる患者もいるため、
緊急時以外、その辺りは徹底されている。朱羽淡は、コールのあった病室に入る。どの病室も、扉は基本的に開けっぱなしにされている。内側から鍵を掛けられたりすると
面倒なためだ。
「どうぞ」
 返事があるということは、そこまで切羽詰まっていないということでもある。ひとまず安心しながらも、赤羽淡は入室した。
ベッドは四つ。コールしたのは窓際の右奥の患者だ。仕切りのカーテンはどれも閉まっており、サイドテーブルの明かりも消えている。
「どうかされましたか、秋坂さん」
 秋坂カヤのベッドのカーテンをくぐりながら、赤羽淡は訊いてみた。白い肌に自然な金髪を持った、一見して外人の血が入っていると判る少女は、
行儀良く布団をかぶっていた。
「あの、頭がぼうっとするんです。寝付けなくて」
 生理不順から来る体調不良で入院しているその患者は、弱々しく答える。良くある話だ。昼間からベッドの上に拘束されて、夜もぐっすり眠れる人間など
それほど多くはない。
「失礼しますね」
 断りを入れてから、赤羽淡は左手を患者の額に当てた。と、患者が声を発する。
「て」
 赤羽は無言で首を傾げた。
「怪我されたんですか」
 それでようやく包帯の存在を思い出す。いつも着用しているので、改めて注目されることなどあまりないのだ。
「ええ。少し」
 すっと布団の中から伸びてきた秋坂カヤの青白い手が、赤羽淡の腕を掴む。丁度包帯の巻かれている箇所だった。
「細いですね」
「秋坂さん程じゃ……」
 突然腕を引かれ、ベッドの上に倒された。患者の上に圧し掛かるような体勢になってしまう。
「あ、秋坂さん?」
「それに美人ですね。赤羽淡さん」
 ネームプレートを見つめながら、患者が言った。窓のカーテン越しに降る月明かりしかないのに、彼女はあっさり読み上げた。
 下手をしたら自分よりも十歳以上幼そうな少女が、首に両腕を回してくる。
「身体が疼いて、頭も朦朧として困ってるんです。――赤羽さんの身体を貸してくれませんか」
 見た目からは想像もつかないような腕の力で、赤羽淡は拘束される。もがきながらも、あくまでも丁寧な口調で拒絶する。
「こういうのは、困ります」
「あ、何だか断り慣れてる感じですね。やっぱり嫌らしい患者さんに、色々されたりしてるんですか」
 頬を上気させて、患者が笑う。その顔が急に近づいてきて、強引に唇を奪われる。
「んっ……」
 舌を入れられ、言葉を発することさえできなくなった。貪られながらも、赤羽淡は左手の傷に意識を集中させる。包帯を突き破って出現したのは、
凝血能力で生み出された赤黒い刃であった。それを首筋に当てて、患者はやっとキスを止めた。顔が離れる際、唾液が糸を引いていった。即刻ベッドから離れる。
「ごめん、なさい」
 悄然とした様子で、秋坂カヤが呟いた。
 そしてたどたどしく、彼女は続け、頭から布団をかぶってしまった。
「早く、逃げて下さい」
 翌朝。ベッドに大量の血痕だけ残し、秋坂カヤは消息を絶つ。ジェミニのすぐそばで、あっさり復活していただけなのだが。

 夜。寮でシャワーを浴びていた小早川瑞稀は、ひどく苛立っていた。
 薄気味の悪い虫のような物が、浴室に侵入していたためだ。しかも何故か、性器の辺りを目指して一直線に身体を這い上がってきたのが、不愉快なことこの上ない。
「このエロ虫」
 足の裏で容赦なく踏み砕いた。肉片と血、それに小さな骨を破裂させて散ったのを確認すると、彼は室内の光を能力で操作して、自分の姿を眼前に映し出した。
濡れそぼった髪。赤い唇。アーモンド形の、どこか悪戯っぽい目。なだらかな曲線を描く肩。
 肉棒を屹立させながら、彼は溜息をついた。そして思う。
 これが理想の女だ。美女を狙って胎内を食い破る寄生者、黄金夜叉だって、きっとこの身体を狙っているに違いない。

おわり

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最終更新:2010年08月18日 21:33
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