Part100記念創作SS
かいたひと フラワリングタイムのひと
「〜♪」
花束を抱えて、トレセン学園を歩くフラワリングタイム。今日はチームカオスの記念日。祝いの花束を用意して、エスキーが再建した部室へと向かっていく。
「部長、おはようございます!」
「おはようございます。フラりんさん。あら?その花束は……」
「はい!今日のお祝いに持ってきました。この花束は部室に。それと、これは部長さんに。いつもありがとうございます!」
そう言って渡したのはシンプルなピンクのバラ。日頃の感謝を伝えるべく用意した造花だ。花言葉はもちろん感謝。簡単に髪に留められる髪留めになっていた。
「ありがとう、フラりんさん。つけてみても良いですか?」
「もちろんです!」
すっと髪の毛に添えると、それだけで部長の美女っぷりが更に際立つ。オウカムーンの名前の通り、花が良く似合う女性なのだろう。
「可愛い!とってもお似合いですよ!」
「そうですか?ありがとうございます。大切にしますね」
ぽんぽん、とフラワリングタイムの頭を撫でる。そんな微笑ましい光景を他所に、部室内ではとんでもない事件が起こっていた。
「よーす!おめでとさーん!」
「……なんでゴルシがいるんですか」
「いたっていいじゃねえか!アタシとバラカちゃんの仲だろ?」
「なんの仲だこのバ鹿芦毛。というか貴方はチームスピカでしょう」
「お前知らねえのか?カオスはギリシャ神話において原初の宇宙を司る神だ。つまりカオスの中にスピカも含まれてるっつー寸法だ!」
「またそうやって屁理屈を……おや。これはボバーさんの贈り物ですね。なんの人形でしょう?」
「あん?……オイオイオイ!やべぇってこれ!ジャスタウェイじゃねぇか!」
「じゃすたうぇい?なんですそれ」
「こんな危険なもの置いとく訳にはいかねぇ!これはゴルシちゃんが遠くに捨ててくる!」
「えっ?あっ、こら!待てやコラーッ!!」
────ガコォン!!!
扉が勢い良く開いたかと思ったら、芦毛の二人が勢い良く駆け抜けて行った。何かあったのかと思い、フラワリングタイム達も後を追いかける。
「ゴルシーッ!泥棒なんて真似は止めて止まれー!」
「誰が止まるか!これは危険なものなんだぞ!お前達の為だ!諦めろ!」
「だからさっきから何を言ってんだ!」
────ダンッ!
一気に加速し、ゴルシを猛追する。鍛え上げられた脚は強く鋭く加速し、一気に芦毛の背中まで近付いていく。
「う、嘘だろ!バラカちゃん強くなったな……!」
「いい加減に、それを返せッ!!」
と、腕を伸ばした次の瞬間。ジャスタウェイはふわりと宙を舞い、偶然近くに座っていたトウカイテイオーの手元に渡る。
「ン?ナニコレ?」
「テイオー!それを持って逃げろ!それは危険なものだ!絶対チームカオスのメンバーに渡すなよ!」
「エ?ナニイッテルノサ……」
「急げ!間に合わなくなっても知らんぞーッ!」
「エェー!?モ、モウワカッタヨー!」
そう言って、トウカイテイオーは呼び止める間もなく逃げていってしまう。バラカ達も疲れて息が上がっていた。
「ぜェ……はァ……クソ……」
「はぁ……はぁ……あぶねーあぶねー…」
「おーい!バラカさーん!ゴルシさーん!なにかあったんですかー!?」
「フラりんさん……ちょうど良かった。今走っていったトウカイテイオーさんを追いかけてください……泥棒です」
「泥棒!?わ、分かりました!部長さん、バラカさんのことお願いします!」
ぴゅーっと追いかけていくフラりん。部長はというと、バラカを介抱しつつゴルシが何故こんなことをしたのか問いただすことにした。
「どうして贈り物を盗んだりしたんですか?」
「ん?もしかして知らないのか?ジャスタウェイってのは爆弾なんだよ!あのサイズなら部室ごと吹っ飛ばす程だぞ!」
「爆弾……?まさか。ゴルシのいつもの嘘でしょう?」
「バラカちゃん、嘘ならアタシはこんな真似しねえんだ……本当に爆弾なんだよ」
その顔は至って真剣だ。ゴルシの説明を受けて、二人はゾッと青ざめる。もし本当にそんな代物だとしたら、今追いかけているフラりんも危険だ。というか、そんなものを持ち込んだボバーも危険だ。
「テイオーさーん!それを返してくださーい!」
「ムゥ、ナンデボクガオワレナクチャナラナイノサ!」
テイオーはジャスタウェイを抱えながら逃げていた。とはいえ、追われる理由も実際謎。ドロボウ扱いみたいだし、とっとと謝って返したかった。
「デモ、ゴルシハシンケンナカオシテタシ…」
おそらく本気で渡したくない理由があるのだろう。だとしたら自分のすべきことは、これを持って本気で逃げることだろう。
「ゴメン!フリキラセテモラウヨ!」
「えーっ!?逃がしませんよッ!」
GI級のメンバー二人による本気の追いかけっこ。トウカイテイオーの天性のバネによる神速に、フラワリングタイムはなんとか食らいついていく。だが、それでも追いつけない。
「(速い!……こうなったら本気で……!)」
闘志を燃やし、最後の直線をイメージする。フラワリングタイムの真髄、最終直線での再加速。一気に加速し、トウカイテイオーの真後ろまで迫る。
「(クァー!フラリンチャンメチャクチャハヤイー!コウナッタラ…)」
────バンッ!
だが、それが失敗だった。追いすがられた事でトウカイテイオーのトリガーが発動し、一気に究極テイオーステップで距離を離される。しまった!と思う頃にはもう遅く、テイオーは遥か先まで行ってしまった。
「はぁ……はぁ……ダメですね……応援を呼びましょう……!」
携帯を取り出し、応援要請を行う。たまたま近くにいたチームカオスのメンバーをトウカイテイオーが逃げていった方面に派遣し、自分も後を追いかけていく。
「ゼー、ハー、モウツカレタァー!」
フラワリングタイムを振り切ったテイオーだが、もう体力の限界だった。これからも追われるとなると厄介だ。誰かに託してしまおう。
「あれ?テイオー、こんな所で何してんだよ?」
「ウオッカ!ジツハネ……」
かくかくしかじか。よく分からない経緯をウオッカに説明する。ついでに、これを引き継いで欲しい事も伝える。
「えーっ、嫌だよ。というかそれって泥棒に加担しろって事だろ?素直に謝って返した方が良いって」
「ボクモソウオモッタンダケド……ゴルシノカオハホンキダッタンダ……」
「そうは言ってもなあ……取り返しに来たやつに事情を聞いてからにしようぜ。わけも分からず無意味に逃げ回るのも罪悪感凄いだろ?」
「ソウダネ……ドロボウアツカイハイヤダシ、ソウシテミヨウ」
幸い、追っ手のフラりんちゃんは話のわかる子だ。状況を説明すれば丸く収まるかもしれない。という訳で追っ手のウマ娘を待っていたが……
「えー、こちらライジョウドウ。ジャスタウェイ見つけました、ぶいぶい」
「ハナシツウジナイノガキター!」
「今から取り返しにかかります、あちょー!」
「ウワーッ!ヌンチャク持ってるって!絶対ぶっ叩かれる!こうなったら逃げるしかねぇ!」
「待てーっ。大人しくお縄につけぇーい!」
今度はマイラー同士の追いかけっこ。GI戦線で大金星を幾つも掴み取った彼女の末脚は凄まじく、ジャスタウェイを掴んでいてもライジョウドウは追いかけるので精一杯。まずはそのヌンチャクを離せ。
「返さないとひどいよ〜」
「返さなくても攻撃してきてるじゃねぇかよー!」
ブォンブォンと空を切り裂き飛び交うヌンチャク。柔らか素材なので痛くは無いだろうが、ウマ娘パワーで繰り出される一撃は恐怖でしかない。
「クッソー、埒が明かないな……おっ!スカーレット!ちょうどいい所に!」
「ウオッカ?ちょっとアンタなにやってんのよ?」
「見ての通り追われてるんだ!コイツが狙い……って詳しい話は後だ!逃げるぞ!」
「はぁ?アンタ何言って」
────ビュオッ!!
ヌンチャクが近くを通り過ぎた。このままでは自分もライジョウドウの猛攻に巻き込まれてしまう。ウオッカに続けて、慌てて走りだした。
「ちょっと!?どういう状況なのか説明しなさいよ!?」
「俺もよくわかんねーんだけど……テイオーはコレを渡さないようにゴルシから言われたらしい!」
「それを受け取ったらあの人に狙われ始めたって事ね……こんな目に合ってるんだからもう渡しちゃいなさいよ!」
「それは俺もそう思うんだけどよー!ゴルシ曰くこれは危険な代物だって言うんだよ!あの人に渡したらまずいだろ!?」
「……まあそれは同感ね。良いわ、あの人から逃げるのは協力してあげる。振り切ったら私がチームカオスにコレの事情を聞きに行くわ。それで良いでしょ」
「悪い……そうして貰えると助かる!俺ももう限界だし、後頼んだぞ!」
「任せなさい!」
踏みしめる。それだけで赤い薔薇が湧き出したかのように、可憐に緋色の女王が加速する。流石にウオッカとの追いかけっこで疲れが出たのか、ライジョウドウも追跡を止めて携帯を手に取る。
「えー、こちららいじょーどー。Bポイントで逃がしました。どうぞー」
『了解!次は彼女に任せましょう!ゆっくり戻ってきてください。どうぞ』
「はーい。……はー疲れた〜……」
花束を抱えて、トレセン学園を歩くフラワリングタイム。今日はチームカオスの記念日。祝いの花束を用意して、エスキーが再建した部室へと向かっていく。
「部長、おはようございます!」
「おはようございます。フラりんさん。あら?その花束は……」
「はい!今日のお祝いに持ってきました。この花束は部室に。それと、これは部長さんに。いつもありがとうございます!」
そう言って渡したのはシンプルなピンクのバラ。日頃の感謝を伝えるべく用意した造花だ。花言葉はもちろん感謝。簡単に髪に留められる髪留めになっていた。
「ありがとう、フラりんさん。つけてみても良いですか?」
「もちろんです!」
すっと髪の毛に添えると、それだけで部長の美女っぷりが更に際立つ。オウカムーンの名前の通り、花が良く似合う女性なのだろう。
「可愛い!とってもお似合いですよ!」
「そうですか?ありがとうございます。大切にしますね」
ぽんぽん、とフラワリングタイムの頭を撫でる。そんな微笑ましい光景を他所に、部室内ではとんでもない事件が起こっていた。
「よーす!おめでとさーん!」
「……なんでゴルシがいるんですか」
「いたっていいじゃねえか!アタシとバラカちゃんの仲だろ?」
「なんの仲だこのバ鹿芦毛。というか貴方はチームスピカでしょう」
「お前知らねえのか?カオスはギリシャ神話において原初の宇宙を司る神だ。つまりカオスの中にスピカも含まれてるっつー寸法だ!」
「またそうやって屁理屈を……おや。これはボバーさんの贈り物ですね。なんの人形でしょう?」
「あん?……オイオイオイ!やべぇってこれ!ジャスタウェイじゃねぇか!」
「じゃすたうぇい?なんですそれ」
「こんな危険なもの置いとく訳にはいかねぇ!これはゴルシちゃんが遠くに捨ててくる!」
「えっ?あっ、こら!待てやコラーッ!!」
────ガコォン!!!
扉が勢い良く開いたかと思ったら、芦毛の二人が勢い良く駆け抜けて行った。何かあったのかと思い、フラワリングタイム達も後を追いかける。
「ゴルシーッ!泥棒なんて真似は止めて止まれー!」
「誰が止まるか!これは危険なものなんだぞ!お前達の為だ!諦めろ!」
「だからさっきから何を言ってんだ!」
────ダンッ!
一気に加速し、ゴルシを猛追する。鍛え上げられた脚は強く鋭く加速し、一気に芦毛の背中まで近付いていく。
「う、嘘だろ!バラカちゃん強くなったな……!」
「いい加減に、それを返せッ!!」
と、腕を伸ばした次の瞬間。ジャスタウェイはふわりと宙を舞い、偶然近くに座っていたトウカイテイオーの手元に渡る。
「ン?ナニコレ?」
「テイオー!それを持って逃げろ!それは危険なものだ!絶対チームカオスのメンバーに渡すなよ!」
「エ?ナニイッテルノサ……」
「急げ!間に合わなくなっても知らんぞーッ!」
「エェー!?モ、モウワカッタヨー!」
そう言って、トウカイテイオーは呼び止める間もなく逃げていってしまう。バラカ達も疲れて息が上がっていた。
「ぜェ……はァ……クソ……」
「はぁ……はぁ……あぶねーあぶねー…」
「おーい!バラカさーん!ゴルシさーん!なにかあったんですかー!?」
「フラりんさん……ちょうど良かった。今走っていったトウカイテイオーさんを追いかけてください……泥棒です」
「泥棒!?わ、分かりました!部長さん、バラカさんのことお願いします!」
ぴゅーっと追いかけていくフラりん。部長はというと、バラカを介抱しつつゴルシが何故こんなことをしたのか問いただすことにした。
「どうして贈り物を盗んだりしたんですか?」
「ん?もしかして知らないのか?ジャスタウェイってのは爆弾なんだよ!あのサイズなら部室ごと吹っ飛ばす程だぞ!」
「爆弾……?まさか。ゴルシのいつもの嘘でしょう?」
「バラカちゃん、嘘ならアタシはこんな真似しねえんだ……本当に爆弾なんだよ」
その顔は至って真剣だ。ゴルシの説明を受けて、二人はゾッと青ざめる。もし本当にそんな代物だとしたら、今追いかけているフラりんも危険だ。というか、そんなものを持ち込んだボバーも危険だ。
「テイオーさーん!それを返してくださーい!」
「ムゥ、ナンデボクガオワレナクチャナラナイノサ!」
テイオーはジャスタウェイを抱えながら逃げていた。とはいえ、追われる理由も実際謎。ドロボウ扱いみたいだし、とっとと謝って返したかった。
「デモ、ゴルシハシンケンナカオシテタシ…」
おそらく本気で渡したくない理由があるのだろう。だとしたら自分のすべきことは、これを持って本気で逃げることだろう。
「ゴメン!フリキラセテモラウヨ!」
「えーっ!?逃がしませんよッ!」
GI級のメンバー二人による本気の追いかけっこ。トウカイテイオーの天性のバネによる神速に、フラワリングタイムはなんとか食らいついていく。だが、それでも追いつけない。
「(速い!……こうなったら本気で……!)」
闘志を燃やし、最後の直線をイメージする。フラワリングタイムの真髄、最終直線での再加速。一気に加速し、トウカイテイオーの真後ろまで迫る。
「(クァー!フラリンチャンメチャクチャハヤイー!コウナッタラ…)」
────バンッ!
だが、それが失敗だった。追いすがられた事でトウカイテイオーのトリガーが発動し、一気に究極テイオーステップで距離を離される。しまった!と思う頃にはもう遅く、テイオーは遥か先まで行ってしまった。
「はぁ……はぁ……ダメですね……応援を呼びましょう……!」
携帯を取り出し、応援要請を行う。たまたま近くにいたチームカオスのメンバーをトウカイテイオーが逃げていった方面に派遣し、自分も後を追いかけていく。
「ゼー、ハー、モウツカレタァー!」
フラワリングタイムを振り切ったテイオーだが、もう体力の限界だった。これからも追われるとなると厄介だ。誰かに託してしまおう。
「あれ?テイオー、こんな所で何してんだよ?」
「ウオッカ!ジツハネ……」
かくかくしかじか。よく分からない経緯をウオッカに説明する。ついでに、これを引き継いで欲しい事も伝える。
「えーっ、嫌だよ。というかそれって泥棒に加担しろって事だろ?素直に謝って返した方が良いって」
「ボクモソウオモッタンダケド……ゴルシノカオハホンキダッタンダ……」
「そうは言ってもなあ……取り返しに来たやつに事情を聞いてからにしようぜ。わけも分からず無意味に逃げ回るのも罪悪感凄いだろ?」
「ソウダネ……ドロボウアツカイハイヤダシ、ソウシテミヨウ」
幸い、追っ手のフラりんちゃんは話のわかる子だ。状況を説明すれば丸く収まるかもしれない。という訳で追っ手のウマ娘を待っていたが……
「えー、こちらライジョウドウ。ジャスタウェイ見つけました、ぶいぶい」
「ハナシツウジナイノガキター!」
「今から取り返しにかかります、あちょー!」
「ウワーッ!ヌンチャク持ってるって!絶対ぶっ叩かれる!こうなったら逃げるしかねぇ!」
「待てーっ。大人しくお縄につけぇーい!」
今度はマイラー同士の追いかけっこ。GI戦線で大金星を幾つも掴み取った彼女の末脚は凄まじく、ジャスタウェイを掴んでいてもライジョウドウは追いかけるので精一杯。まずはそのヌンチャクを離せ。
「返さないとひどいよ〜」
「返さなくても攻撃してきてるじゃねぇかよー!」
ブォンブォンと空を切り裂き飛び交うヌンチャク。柔らか素材なので痛くは無いだろうが、ウマ娘パワーで繰り出される一撃は恐怖でしかない。
「クッソー、埒が明かないな……おっ!スカーレット!ちょうどいい所に!」
「ウオッカ?ちょっとアンタなにやってんのよ?」
「見ての通り追われてるんだ!コイツが狙い……って詳しい話は後だ!逃げるぞ!」
「はぁ?アンタ何言って」
────ビュオッ!!
ヌンチャクが近くを通り過ぎた。このままでは自分もライジョウドウの猛攻に巻き込まれてしまう。ウオッカに続けて、慌てて走りだした。
「ちょっと!?どういう状況なのか説明しなさいよ!?」
「俺もよくわかんねーんだけど……テイオーはコレを渡さないようにゴルシから言われたらしい!」
「それを受け取ったらあの人に狙われ始めたって事ね……こんな目に合ってるんだからもう渡しちゃいなさいよ!」
「それは俺もそう思うんだけどよー!ゴルシ曰くこれは危険な代物だって言うんだよ!あの人に渡したらまずいだろ!?」
「……まあそれは同感ね。良いわ、あの人から逃げるのは協力してあげる。振り切ったら私がチームカオスにコレの事情を聞きに行くわ。それで良いでしょ」
「悪い……そうして貰えると助かる!俺ももう限界だし、後頼んだぞ!」
「任せなさい!」
踏みしめる。それだけで赤い薔薇が湧き出したかのように、可憐に緋色の女王が加速する。流石にウオッカとの追いかけっこで疲れが出たのか、ライジョウドウも追跡を止めて携帯を手に取る。
「えー、こちららいじょーどー。Bポイントで逃がしました。どうぞー」
『了解!次は彼女に任せましょう!ゆっくり戻ってきてください。どうぞ』
「はーい。……はー疲れた〜……」
追跡を振り切り、一人息をつくダイワスカーレット。ウオッカから渡されたのは、なんとも名状しがたい無気力な像。ジャスタウェイとか呼んでいたが、なにが危険なのかまるで分からない。
「とにかく、学園に戻って話を聞かないとね。事情が分からない事には下手に動けないわ」
「おっと、そこまでですわ!」
「えっ!?何者!?」
声がしたかと思うと、手元にあったジャスタウェイがパッと消えてなくなる。超スピードでぶんどられたようだ。何かと思って周りを見回すと、背後に芦毛のウマ娘が立っていた。
「やったー!取り返しましたわー!」
「プログレス先輩…!」
「スカーレットさん、貴女まで泥棒に加担していたなんて信じられませんわ!闇堕ちしてしまいましたの!?」
「い、いえ、これには訳がありまして……話を聞いて頂けませんか?」
「?……ええ、構いませんけど……」
かくかくしかじか。これまでの経緯を伝える。イマイチ事情は読み込めないが、これが危険物であるということは分かって貰えたらしい。
「ふむ?つまり、これは危険なシロモノだから学園から遠くへ持っていこうとして盗み出した訳ですのね」
「そうらしいんです。なにが危険かは分からないんですが、さっきみたいに取ったり取られたりしてたら危ないですから」
「それはその通りですわね。して……私はどうしたら良いと思います?学園に持ち帰ったら危険ですし、かと言って皆を裏切る訳にも……」
「そうですね……ひとまず停戦状態な事をスピカの皆に伝えますから、プログレス先輩もカオスの皆さんから指示を仰いで下さい」
「了解しましたわ!」
ジャスタウェイを道端においてひとやすみ。話の通じる相手で良かった。これで事件も解決、ひと安心だろう。ハナから危険な事を伝えておけば良かったような気がしないでもないが……
『了解しました、ひとまず待機でお願いします!今からそちらに向かいますので!』
「了解ですの……っと。これで一安心ですわね!」
あとは部長達が来るのを待つだけ。ホッと一安心していると、彼女達の真後ろを荷物を沢山抱えたスペシャルウィークが通り掛かった。
「あっ、スペ先輩!どうしたんですかその荷物?」
「スカーレットちゃん。お母ちゃんから人参を貰ったから、商店街の皆さんに分けに行こうと思いまして」
「そうだったんですね。零さないよう気をつけて運んでくださいね」
「はい!もちろん気を付けてうわわわっ!?」
言ったそばからバランスを崩した。
「スペ先輩危ないっ!」
「ですわー!?」
なんとかスペシャルウィークを支えるも、持っていた風呂敷が開いて人参がバラバラに落ちてしまった。幸い折れてはいなさそうだが、集めるのは一苦労だ。
「あー……ごめんなさいスペ先輩、拾うの手伝います!」
「私も手伝いますわ!パパッと集めましょう!」
「ありがとうスカーレットちゃん!プログレスさんも!」
という訳で、人参を集め直して再出発。二人はスペシャルウィークを見送ってから、再び河川敷でチームカオスの到着を待った。
「そう言えば、ゴルシさんからどんな危険物かお聞きしましたの?」
「はい。なんでも爆発する爆弾みたいですね。……私達、それを取り合ってたんですね」
「爆弾!?ひーっ……ゾッとしますわ……こんな丸っこいボデーなのに……あれ?居ませんわ?」
「えっ?そこに確かに置いときましたよね!?……下に転がってもいなさそうですし……あっ!もしかして!」
「スペ先輩の荷物に間違って入れてしまいましたわ!?」
顔を青ざめ、急いで立ち上がるプログレス。街中で大爆発なんてしたら大変だ。急いで彼女の荷物からジャスタウェイを取り返さなくては。
「私が取り返して来ますわ!スカーレットさんはスペさんに連絡してジャスタウェイに触れないようにお伝えくださいまし!」
「はいっ!」
商店街へかけていく。ウマ娘の脚ならあっという間で、川沿いから見慣れた景色に移り変わる。しかし、スペシャルウィークの姿はどこにも見えない。恐らく人参を配って回っているのだろう。
「私一人で見つけるのは難しいですわね……応援を呼びますわ!」
携帯から連絡を発信し、商店街付近にいたチームカオスのメンバーに応援を頼む。
『私も探しますね。探すのはスペシャルウィーク先輩で良いんですね?』
「そうですわー!」
すると、偶然近くにいたメジロエスキーが探索に加わってくれた。しかし、二人がかりでもやみくもに探しては見つかるまい。エスキーは近くの人に聞き込みを行う。
「ん?スペちゃんならさっきチームの子の車に乗って行きましたよ?」
「チームの子……?もしかして、マックイーン姉さまですか!?」
「ああ、そうそう!その子だy」「どっちに行ったか分かりますか!?」
「あ、あっちだけど……今から行っても間に合わ」
「ありがとうございます!」
ばひゅーん、と一目散にかけていく。ついでに、走りながらメジロ家のlaneにも連絡を入れておく。
『マックイーン姉さま!スペ先輩が変なもの持ってませんか!?』
『え?スペシャルウィークさん?……持ってますわ』
『やっぱり!そればくだn』
トンネルに入って通信が切れた。いまいち意図が分からないまま、電話が切れてしまった。こうなれば全力で追いかけるしかない。
「姉さま達を危険な目に合わせる訳には……!はあああああっ!!」
凱旋門を制した日本の誇りが、道路を一気に突き抜けていく。あっという間に車を何台も抜き去り、メジロマックイーンが使っている黒の高級車が視界に入る。
「見つけた!マックイーン姉様!お待ち下さいませー!」
「エスキー!?……爺や!止めてくださいませ!」
かくかくしかじか。訳を説明する。それを聞いてマックイーンははぁっとため息を付いた。
「ありがとうございます。エスキーのお陰で妙な爆発物を家に持ち帰らずに済みましたわ」
「えへへ……」
「他の皆さんと合流しましょう。どう処分するか話し合うのですわ」
「ですね!」
という訳で、チームスピカとチームカオスが1団となって集合場所の河川敷に集まる。こんなものを持ち込んだボバーと盗んだゴルシは縄でぐるぐる巻きにされていた。
「という訳ですので、皆さんにはご迷惑おかけしました」
「い、いえ、こちらこそ色々ご迷惑を……すみません……」
向かい合って平謝りの部長とスズカ。とにかく全員無事だったので良かったと互いに許し合うことにした。困ったのは、これの処分の仕方。まさかその辺で爆発させる訳にはいくまい。
「これは素直に警察に預けた方が良いんじゃありませんの?」
「プログレスの言う通りですわ……持っててもろくな目に合わなそうですの……」
じゃあそういうことで。と全員が納得しかけたその時。突然ジャスタウェイが音を立てて動き出した。
「ま、まずい!爆発するぞ!早く遠くに捨てるんだ!」
「ええっ!?す、捨てるってどこにですか!?」
「川の中だ!そこなら人は誰もいない!」
簀巻きのゴルシに言われるがまま、オウカムーンは大慌てで川に向かって走り出す。これが爆発したらチームの皆が怪我を負ってしまう。何としてでも遠くに投げなければ。オウカムーンは渾身の力を込めて、川の中へジャスタウェイをぶん投げた。後は自分が逃げるだけだ。しかし、慌てて駆け出したせいか脚を挫いてしまう。
「っ!?……そんな……」
大した怪我ではないが、このままでは逃げられない。こんな事になるならもっと皆と遊んでおけば良かった……
「大丈夫!?私に掴まって!」
「……スズカさん…!」
咄嗟に追いかけてきたサイレンススズカ。彼女は手際良く彼女を背負うと、疾風のごとく飛び出した。あっという間に川から離れる。その時だった。
「ドバイデューティーフリーってどういう意味だと思う?分からんよねー」
ドゴオオオオオオオオン!!!
背中で爆発音が聞こえたが、二人はなんとか無事な場所まで避難することに成功した。
「はぁ……はぁ……ありがとうございます……」
「いえ……お怪我はありませんか?」
「大丈夫です……」
大爆発こそ起こしてしまったが、なんとか怪我人はゼロ。全員の連携プレーで無事に事件を解決したチームカオスなのだった。
……当然、この後テロ紛いの行為を行ったことでカイチョーからお叱りをたっぷり受けたのだった。ところで、ボバニキはどうやってこんな危険物を持ち込んだのだろうか……
「とにかく、学園に戻って話を聞かないとね。事情が分からない事には下手に動けないわ」
「おっと、そこまでですわ!」
「えっ!?何者!?」
声がしたかと思うと、手元にあったジャスタウェイがパッと消えてなくなる。超スピードでぶんどられたようだ。何かと思って周りを見回すと、背後に芦毛のウマ娘が立っていた。
「やったー!取り返しましたわー!」
「プログレス先輩…!」
「スカーレットさん、貴女まで泥棒に加担していたなんて信じられませんわ!闇堕ちしてしまいましたの!?」
「い、いえ、これには訳がありまして……話を聞いて頂けませんか?」
「?……ええ、構いませんけど……」
かくかくしかじか。これまでの経緯を伝える。イマイチ事情は読み込めないが、これが危険物であるということは分かって貰えたらしい。
「ふむ?つまり、これは危険なシロモノだから学園から遠くへ持っていこうとして盗み出した訳ですのね」
「そうらしいんです。なにが危険かは分からないんですが、さっきみたいに取ったり取られたりしてたら危ないですから」
「それはその通りですわね。して……私はどうしたら良いと思います?学園に持ち帰ったら危険ですし、かと言って皆を裏切る訳にも……」
「そうですね……ひとまず停戦状態な事をスピカの皆に伝えますから、プログレス先輩もカオスの皆さんから指示を仰いで下さい」
「了解しましたわ!」
ジャスタウェイを道端においてひとやすみ。話の通じる相手で良かった。これで事件も解決、ひと安心だろう。ハナから危険な事を伝えておけば良かったような気がしないでもないが……
『了解しました、ひとまず待機でお願いします!今からそちらに向かいますので!』
「了解ですの……っと。これで一安心ですわね!」
あとは部長達が来るのを待つだけ。ホッと一安心していると、彼女達の真後ろを荷物を沢山抱えたスペシャルウィークが通り掛かった。
「あっ、スペ先輩!どうしたんですかその荷物?」
「スカーレットちゃん。お母ちゃんから人参を貰ったから、商店街の皆さんに分けに行こうと思いまして」
「そうだったんですね。零さないよう気をつけて運んでくださいね」
「はい!もちろん気を付けてうわわわっ!?」
言ったそばからバランスを崩した。
「スペ先輩危ないっ!」
「ですわー!?」
なんとかスペシャルウィークを支えるも、持っていた風呂敷が開いて人参がバラバラに落ちてしまった。幸い折れてはいなさそうだが、集めるのは一苦労だ。
「あー……ごめんなさいスペ先輩、拾うの手伝います!」
「私も手伝いますわ!パパッと集めましょう!」
「ありがとうスカーレットちゃん!プログレスさんも!」
という訳で、人参を集め直して再出発。二人はスペシャルウィークを見送ってから、再び河川敷でチームカオスの到着を待った。
「そう言えば、ゴルシさんからどんな危険物かお聞きしましたの?」
「はい。なんでも爆発する爆弾みたいですね。……私達、それを取り合ってたんですね」
「爆弾!?ひーっ……ゾッとしますわ……こんな丸っこいボデーなのに……あれ?居ませんわ?」
「えっ?そこに確かに置いときましたよね!?……下に転がってもいなさそうですし……あっ!もしかして!」
「スペ先輩の荷物に間違って入れてしまいましたわ!?」
顔を青ざめ、急いで立ち上がるプログレス。街中で大爆発なんてしたら大変だ。急いで彼女の荷物からジャスタウェイを取り返さなくては。
「私が取り返して来ますわ!スカーレットさんはスペさんに連絡してジャスタウェイに触れないようにお伝えくださいまし!」
「はいっ!」
商店街へかけていく。ウマ娘の脚ならあっという間で、川沿いから見慣れた景色に移り変わる。しかし、スペシャルウィークの姿はどこにも見えない。恐らく人参を配って回っているのだろう。
「私一人で見つけるのは難しいですわね……応援を呼びますわ!」
携帯から連絡を発信し、商店街付近にいたチームカオスのメンバーに応援を頼む。
『私も探しますね。探すのはスペシャルウィーク先輩で良いんですね?』
「そうですわー!」
すると、偶然近くにいたメジロエスキーが探索に加わってくれた。しかし、二人がかりでもやみくもに探しては見つかるまい。エスキーは近くの人に聞き込みを行う。
「ん?スペちゃんならさっきチームの子の車に乗って行きましたよ?」
「チームの子……?もしかして、マックイーン姉さまですか!?」
「ああ、そうそう!その子だy」「どっちに行ったか分かりますか!?」
「あ、あっちだけど……今から行っても間に合わ」
「ありがとうございます!」
ばひゅーん、と一目散にかけていく。ついでに、走りながらメジロ家のlaneにも連絡を入れておく。
『マックイーン姉さま!スペ先輩が変なもの持ってませんか!?』
『え?スペシャルウィークさん?……持ってますわ』
『やっぱり!そればくだn』
トンネルに入って通信が切れた。いまいち意図が分からないまま、電話が切れてしまった。こうなれば全力で追いかけるしかない。
「姉さま達を危険な目に合わせる訳には……!はあああああっ!!」
凱旋門を制した日本の誇りが、道路を一気に突き抜けていく。あっという間に車を何台も抜き去り、メジロマックイーンが使っている黒の高級車が視界に入る。
「見つけた!マックイーン姉様!お待ち下さいませー!」
「エスキー!?……爺や!止めてくださいませ!」
かくかくしかじか。訳を説明する。それを聞いてマックイーンははぁっとため息を付いた。
「ありがとうございます。エスキーのお陰で妙な爆発物を家に持ち帰らずに済みましたわ」
「えへへ……」
「他の皆さんと合流しましょう。どう処分するか話し合うのですわ」
「ですね!」
という訳で、チームスピカとチームカオスが1団となって集合場所の河川敷に集まる。こんなものを持ち込んだボバーと盗んだゴルシは縄でぐるぐる巻きにされていた。
「という訳ですので、皆さんにはご迷惑おかけしました」
「い、いえ、こちらこそ色々ご迷惑を……すみません……」
向かい合って平謝りの部長とスズカ。とにかく全員無事だったので良かったと互いに許し合うことにした。困ったのは、これの処分の仕方。まさかその辺で爆発させる訳にはいくまい。
「これは素直に警察に預けた方が良いんじゃありませんの?」
「プログレスの言う通りですわ……持っててもろくな目に合わなそうですの……」
じゃあそういうことで。と全員が納得しかけたその時。突然ジャスタウェイが音を立てて動き出した。
「ま、まずい!爆発するぞ!早く遠くに捨てるんだ!」
「ええっ!?す、捨てるってどこにですか!?」
「川の中だ!そこなら人は誰もいない!」
簀巻きのゴルシに言われるがまま、オウカムーンは大慌てで川に向かって走り出す。これが爆発したらチームの皆が怪我を負ってしまう。何としてでも遠くに投げなければ。オウカムーンは渾身の力を込めて、川の中へジャスタウェイをぶん投げた。後は自分が逃げるだけだ。しかし、慌てて駆け出したせいか脚を挫いてしまう。
「っ!?……そんな……」
大した怪我ではないが、このままでは逃げられない。こんな事になるならもっと皆と遊んでおけば良かった……
「大丈夫!?私に掴まって!」
「……スズカさん…!」
咄嗟に追いかけてきたサイレンススズカ。彼女は手際良く彼女を背負うと、疾風のごとく飛び出した。あっという間に川から離れる。その時だった。
「ドバイデューティーフリーってどういう意味だと思う?分からんよねー」
ドゴオオオオオオオオン!!!
背中で爆発音が聞こえたが、二人はなんとか無事な場所まで避難することに成功した。
「はぁ……はぁ……ありがとうございます……」
「いえ……お怪我はありませんか?」
「大丈夫です……」
大爆発こそ起こしてしまったが、なんとか怪我人はゼロ。全員の連携プレーで無事に事件を解決したチームカオスなのだった。
……当然、この後テロ紛いの行為を行ったことでカイチョーからお叱りをたっぷり受けたのだった。ところで、ボバニキはどうやってこんな危険物を持ち込んだのだろうか……
夕暮れ時。先程の爆発で野次ウマ達がぞろぞろと集まる川沿い。ジャスタウェイはバラバラに吹き飛んだので当然特に残骸は無いのだが、川にぽっかり穴を開けたせいで水の流れが若干変わっていた。そんな大衆の中に一人、鹿毛が美しいウマ娘が混ざっていた。
「あはは、ちょっと派手に爆発しすぎましたね」
特徴的な流星を靡かせるそのウマ娘は、周りに誰も怪我人が居ないことを確認すると、どちらともなく歩き始めた。彼女の向かう先は、トレセン学園か。はたまた世界か。その行き先は、誰にも分からなかった。
「あはは、ちょっと派手に爆発しすぎましたね」
特徴的な流星を靡かせるそのウマ娘は、周りに誰も怪我人が居ないことを確認すると、どちらともなく歩き始めた。彼女の向かう先は、トレセン学園か。はたまた世界か。その行き先は、誰にも分からなかった。