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  • 貴方と夢見たその先へ(連載)【Part4】

uma-musumeになりたい部 @ ウィキ

貴方と夢見たその先へ(連載)【Part4】

最終更新:2022年11月27日 14:11

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

▽タグ一覧
シュウマツノカジツ メジロエスキモー メジロエスキー メジロドーベル



前:貴方と夢見たその先へ(連載)【Part3】

次:貴方と夢見たその先へ(連載)【Part5】

本編

+ ジャパンカップ〜取っ掛かりは意外な人から
─────
迎えたジャパンカップ。木曜日に発表された枠順では上位人気勢がわりと内枠に入る結果となった。エスキーは2枠2番、ストラテジーバードさんは3枠5番、そして私はその隣の4枠6番に配されている。唯一上位人気で外枠になったのは大外8枠15番のグッチオヌールさんだけ。

控え室ではいつもどおりのルーティーンで気合いを入れ、地下バ道からコースへと姿を現す。やはりこの大一番を見たい人が多いのか、この前の天皇賞の時より観客が増えている気がする。

(いち、に、さん、しっと。準備運動もこれでバッチリ)

ホームストレッチの坂の終わり付近に置かれたゲートの後ろで入念に最後のストレッチを行う。ふと周りを見渡すと、レースが待ちきれずテンションが少し高くなっている者、緊張で若干ナーバス気味な者、周りの喧騒を気にせず静かにスタートを待つ者と各自様々な様相でレース前最後の時間を過ごしていた。

(エスキーは……いつもどおりか。まあそうでなくっちゃね)

奇数番号の枠のウマ娘が先に入れられ、左隣のストラテジーバードさんが静かにゲートへと収まる。奇数番号最後の13番枠の子まで入ると、今度は2番のエスキーから順にゆっくりと目の前の籠の中へと歩を進める。そのあと4番の子を挟み私もゲートへと体を収め、静かにスタートの時を待つ。1回、2回と深呼吸を繰り返し態勢を整える。

『──さあ最後に大外16番グッチオヌールがゲートに収まり、各ウマ娘態勢整います……スタートしました!』

出遅れたのは数名、海外から参戦してきた子と、あとは……

『──おっと、3枠4番ミラクルまたしても出遅れました! その隙に外から8枠14番のトウシが前へ前へと上がっていき1コーナーへと入ってまいります!』

ただ出遅れたミラクルさんも後ろからのレース運びを嫌ったのか、すぐさま外から前へと上がっていきトウシさんを交わして先頭へ立つ。その後ろにエスキーがいて、またその1バ身後ろに水色と白の耳飾りを着けたストラテジーバードさんがエスキーをマークするかのように虎視眈々と前を見つめていた。

『──さあ2コーナーを回って先頭は3枠4番ミラクル、そのすぐ後ろに8枠14番トウシ、少し離れまして……ここにいました1番人気、2枠2番メジロエスキーは前から3番手でレースを進めます』

ペースはそれほど速くはならず、前半は平均ペースで流れていく。この展開であれば、先行していてもある程度後方に待機していたとしてもどこからでも届く、脚さえ残っていれば。

『──向こう正面に入っていきまして最初の1000mをここで通過します……60秒フラット。バ場を考えるとスローにも思える展開、果たしてどこで誰が仕掛けるのか注目です』

残り400m。今はまだその背が遠くても。

『──3コーナーがそこに迫ってきます。少し坂を上ったところで中間地点、残り1200mのハロン棒を左手に見ながら各ウマ娘勝負所を伺っているか』



(あああああああああああああ!!!!!)

“■■■■■■■■■■ Lv.0”

『──おっと!? ここで後方に控えていた2番人気メジロエスキモーが外から前へと迫ってくる! 早仕掛けか? それとも作戦通りか!? 一気にここでレースが動きます!』

(エスキーまではまだ4バ身ぐらい差がある。ただあの子はここからが……!)

─────
(なるほど、そういう作戦で来ましたか)

1000mを過ぎたところで後ろから誰かが勢いよく迫ってくる気配を背中で感じ取る。振り向く必要はない。このプレッシャー、この重圧、わたしにそれを感じさせるウマ娘は今ここで1人しかいない。

(エスキモーちゃん……成長しましたね……)

もちろんわたしもそれをただ見ているだけじゃない。娘の成長を見守る親では終われない。

(ただそれでわたしに勝てるなんてまだまだ甘いですよ……っ!)

残り800m。勝負はまだまだこれからだ。

“貴方と歩んだその先へ Lv.5”

(想いの強さはわたしの方が上だ……っ!!!)

─────
『──残り800m、一気にメジロエスキーがスパートを掛けた! この末脚! この加速力! 我こそが最強だと言わんばかりの切れ味でもうここで先頭へと並びかけ……いや交わした! 直線手前でもうメジロエスキーが先頭に躍り出た!』

残り800mから2ハロン、彼女は尋常ではないスピードで前を交わし後続を突き放し先頭で最後の直線を駆けていく。もちろん全部予想通り。私はただ自分のレースをすればいい……はず……

(いや……これは届かない……?)

残り400m。彼女はここで一度息を入れるため少しペースを落とす。その隙に一気に迫り、最後の1ハロンで叩き合いに持ち込み交わしきる算段だったはずが想定より差を詰めきれていない。彼女はいつもの変わらないペースで走っているはずだからもしかしたらこれは……

(私の脚がまだ万全じゃなかった……?)

間違いなくグングンと伸びている。残り2ハロンの区間で詰めてはいるし、とっくに後ろの集団を突き放しているんだから。

(足りない……まだ足りない……何が……?)

練習? 経験? 一体彼女との差は何なのか。そして……

(スパートを掛け始めた時に一瞬世界が変わって見えた……)

残り1000m、作戦通りにスパートを掛けたその時、周りのウマ娘や観客の動きが遅くなったように感じる瞬間があった。ただ感じたのはわずか数瞬。すぐに周りが元の速さで動き出し、世界は元通りに回帰した。

(分からない……分からない……)

残り200m、息を入れたエスキーが2度目のスパートを掛ける。ただそれでも私は伸び続け4バ身、3バ身と彼女の背中に手が届きそうな所まで近づいた。ただそれは「届きそう」で幕を下ろす。手が届き、追い越すことは叶わなかった。

(ここまで、か……)

『──メジロエスキモーが凄い勢いで迫ってくるがこれは届かないか? メジロエスキー今1着でゴールイン! 1バ身後ろでメジロエスキモーが入線しています!』

またもや2着。トレーナーと作戦を立て、ゲートを決め、万全な態勢で道中を運び、ベストタイミングでスパートを掛けた。ただそれでもまだその背中は遠かった。

「ハァ……ハァ……」

決着タイムはこれまでの記録を1秒塗り替える大レコード。私も当然今までこの距離を駆けたウマ娘より速くゴールを駆け抜けた。ただその前に先に1人ゴール板を通過したウマ娘がいた、ただそれだけで私の名前は記録には残らない。

息を整えてから観客席に向かって手を振るエスキーに声をかけ、お互いの健闘を讃えあう。

「おめでとう、エスキー。届くと思ったんだけどまだ足りなかったな……」
「ありがとうございます、エスキモーちゃん。あの末脚、もう少しで交わされるかと思っちゃいました」

これまでこの子と付き合ってきて分かったのが、彼女はあまりお世辞を言うタイプではないということ。それは言い換えるとウソをつきにくい性格とも言うことができる。だから今のこの彼女の言葉は本心から出たものだろう。私はそれを素直に受け入れ、ありがとうと感謝のハグをする。

「ここでですかっ!? もう仕方ないですねえエスキモーちゃんは。わたしもギュってしてあげますっ」

驚きつつもそっと彼女は抱き返してくれた。5秒、10秒……数える前にお互いパッと体を離しニッコリと微笑み合う。そして盛り上がる観客席に一礼をして地下バ道へと駆けていった。

─────
(何が足らなかったのかな……)

ウイニングライブの時もトレーナーの家に帰る間も晩ご飯を作る最中も、そして今湯船に浸かるこの瞬間も頭の中は延々と今日の敗因が何だったのかで一杯になっていた。

1つ思いついたのはあのラストスパートのあの瞬間に感じたもの。あれを極めることができれば最後交わしきれる可能性は十分高い。ただ問題は……

(どうやってその状態に入るか、そしてそれを維持できるか、なんだよね……)

武器をまだ磨き上げている状態だから入ることができないのか、それとも何か他にトリガーがあるのか。

(あの子に聞いても……教えてくれないだろなあ……)

自分が入りかけたから分かる。たぶんエスキーは残り800mから自分の世界へと完全に入り込んでいるということを。しかもそれ自体を磨き上げることで尋常ではない加速力を実現させていることも感覚ではあるが理解できた。ただ親友ではあるけど私たちはライバルでもある。相手に塩を送るなんて真似、彼女はおそらくしないだろう。

(自分で見つけるしかない、ってことね……)

練習量か、レース経験か、果たして何なのか。そのヒントは予想もしていなかった人物から得ることができた。

─────
「ただいまでーす」
「おかえりなさいッス、エスキモーちゃん……今日は帰ってきたンスね?」

お風呂から出たあとは2人で夕食をとり、片付けをした後早々と帰途についた。もちろん何か喧嘩別れしたということではなく、むしろ逆。レース「前」ではなくレース「後」であるということ、レース明けの月曜日に授業を繰り返し休むのはよくないということ……まあそういうことだ。

「ちょっとカジっちゃん先輩意味深な言い方しないでくださいよ。レースに負けた後輩を慰めないなんて心冷たくないですか?」

ニヤニヤした顔で私を弄ろうとする先輩の言葉をサラリと躱し荷物を整理すると、そのまま自分のベッドへと倒れ込む。スプリングの反発で二度三度と体が跳ねるが、すぐにマットレスに全身が沈み込む。

「ごめんッス、エスキモーちゃん。お疲れさまッス。結果は惜しかったけど……」
「一気にテンション変わって風邪引きそうですよ! 気にしてないことはないですけど、また次のレース頑張るだけですから!」

次のレースはそう、去年初めて戦い負けた舞台、有馬記念。昨年は帰国初戦で少しだけバ群を捌くのに手間取っていたエスキーを尻目に最後の直線で抜け出そうとするも、進路を切り替えて前が開いた彼女が一気に私を捉えて貫禄を見せつけられたレースだった。もちろん今年こそはと意気込むものの、ジャパンカップの敗北をどう糧にしようかと頭を悩ませている。

「それならいいンスけど……次は勝てそうなンスか? あのエスキーちゃん相手ッスし、厳しいのは分かってるンスけど」
「それなんですよね……今日はなんとか1バ身差まで詰め寄れたんですけど、最後は迫ってるのに届く気がしなくて……」

たかが1バ身、されど1バ身。彼女に近づけた分、彼女との差は距離だけではないことをまざまざと見せつけられた結果になった。

「カジっちゃん先輩、もし経験あればなんですけど……レース中世界が遅く見えたことってあります?」

暗い話になりそうだったのを切り替えるためでもあったけど、ダメ元で今悩んでいる話を先輩に打ち明ける。失礼ながら先輩からいい回答が返ってくるとは思ってなかったけど、先輩はあっけらかんとした口調で答えをくれた。

「あー、なんか経験あるッス。なんか自分だけ速く動いてるような感覚のことッスよね? いつかっていうのは記憶ないンスけど、重賞勝った時はその感覚になってたと思うッスよ」

「あの時も確か……」と少し上の方を見つめ自分の記憶を辿っていっている様子のカジっちゃん先輩。これは大きな手がかりになりそうな予感がした。


「ねえ、カジっちゃん先輩。その時って体の調子とかどうでした? 何か考えてたことあります?」

このチャンスは逃したくない。有馬記念を絶対に勝つためにも聞ける情報は全部聞き出したい。

「体の調子は……もちろん良かったとおもうッス。考えていたことは……うーん、ただ勝ちたいとしか思ってなかったような……」
「勝ちたい……想いの力ってこと……?」

勝ちたい、それはレースに臨む限り誰もが持っている欲求。むしろそれがなければ走る意味なんてない。ただ勝ちたい欲求なんて当然私も持っている訳で、それでどうこうとなる話なんだろうか?

「詳細は省くンスけど、私全然勝てなかった時期あったンス。練習はこなせてるし、体の調子は悪くない、なのに勝てない。いろいろ試行錯誤しているうちに頭の中がぐちゃぐちゃになって……そんな状態で走ったレースなんて普通だったら勝てないじゃないッスか? でもその時なぜかトレーナーさんとか友人、家族もいたッスかね……みんなの私を応援する声が聞こえてきて、自分のためじゃなくてこの人たちのために勝ちたいと思えたンス。そうしたらその時フッと見えてた世界の色が変わって、目の前に光る何かを掴もうと駆けていったらいつの間にか先頭でゴールしていて……」
「応援……気持ち……想いの力……?」

先輩の話を聞いて分かったことが1つある。勝ちたいという欲求があることは前提として、そこに他の人からの想いを乗せることが大事だということ。自分だけじゃない想いの力、それがきっかけとなり、自分が考えていた以上の力を発揮することができる。

「あー、こんなの話半分に聞いてほしいッス。最初にその状態に入れてから次のレースからもずっとって訳じゃなかったッスし。他に条件あるかもしれないッスし」
「いえ、なんとなく分かった気がします。あくまでも漠然とですけど」

ありがとうございますと礼を伝え、明日の授業に備えるために部屋の照明を落とす。ベッドに体を預け布団を体に掛けて目を閉じると、想像以上に疲れが溜まっていたのか、すぐに夢の世界へと誘われていった。

─────
「想いの力、かぁ……」

12月に入りすっかり冷え込んだ日、トレーニングの休憩中にポツリと独りごちる。

「想いがなんだって?」
「ああトレーナー。ううん、ちょっと独り言。気にしないで」

私が浮かない顔でため息をついているのが気になったのか、トレーナーが優しく声をかけてくれる。私はそんなトレーナーに甘えて今抱えている悩みを打ち明けた。

「トレーナー、1つ聞きたい、というか相談があるんだけど、いい?」
「もちろん。担当の悩みを聞くのもトレーナーの仕事だからな。よいしょっと、それで?」

コースの外側の芝生に座っていた私の隣に腰を下ろし、真剣な表情で私の話を待ち構えている。私はその顔を見て、少し躊躇いながらも「あのね……」と話し始めた。

「この前のジャパンカップ負けちゃったでしょ? そのあと何が足りないのかなって1人で考えてたら、あの子より勝負に対する想いが足りないんじゃないかって思い始めて…、でもだったらどうしたらいいんだろって考えてたら訳分かんなくなっちゃって……」

話すにつれて抱えていた膝をどんどん引き寄せ、終いには膝の上におでこを乗せて俯きこんでしまう。そんな私の頭をトレーナーは優しく撫でながら「大丈夫」と言ってくれた。

「あのな、エスキモー。オレは君の勝負に対する想いが他の子より劣っているとは全く思わない。むしろ他の子より強いからこそこれまでたくさんのレースに勝ててきたんだから。ダービー、菊花賞、大阪杯、春の天皇賞、宝塚記念、G1だけで5つも勝っているんだ。間違いなく君の想いは強い。それは誇っていい」
「だったら何が足らないんだろ……分かんない、分かんないよ……」

掴みたい勝利、ただそれを手に入れるには何かが足りない。エスキーにあって私にはない何かが。

「なあエスキモー。エスキーと話してみたのか?」
「ううん。だって同じレースを走るライバルだし、そんなの聞いても絶対教えてくれないよ」

もちろんそれは1回考えた。ただどれだけ優しい彼女でも譲れない、他人には言えないものの1つや2つはあるだろう。しかも文字通り敵に塩を送る行為なんてするはずが……

「直接聞いたらそれは教えてくれないと思う。ただ例えば遊びに行ったり2人で過ごしたりする中で垣間見えるものもあるんじゃないかな。彼女が普段何を大事にしているのか、何が心の柱となっているのか」

レースに勝ちたい想い、それが強ければ強いほど普段の生活、レースには関係がない所でも薄っすらと漏れてしまうはず。トレーナーは直接聞けずともそれを彼女から感じ取ることができれば、一体何が足らないのか分かると教えてくれた。

「勝ちたい想い、というのは当然オレにもある。あくまでも君を通してになってしまうけど」
「それってつまり……?」

私がそう返すとトレーナーはニッコリと微笑み、彼の想いを語ってくれた。

「君と夢が見たい。勝利の先にある夢の景色を君と一緒に見たい。それがオレのレースに対する想い、かな」
「私と一緒に夢を……」

彼の想い、期待、そして夢。それを私に託して毎日を共に歩んでくれている。そんな彼に返せるものは私は持ち合わせているだろうか?

「あー、そんなに重く捉えないでくれ。オレが今まで勝手に考えていたことを言葉で表現しただけだから。ほ、ほら練習再開するぞ」

そう言ったトレーナーは「よいしょっと」と呟き立ち上がると、私に颯爽と手を差し出し立ち上がるのを助けてくれる。私はそれに甘えて彼の手を握り力強く引っ張り上げてもらった。

「ありがと。ちょっといろいろ考えてみる」
「少しでも手助けになったら何よりだ。また何か悩み事があったらいつでも言ってくれ」

そう答えてくれた彼の笑顔はいつだって眩しい。だけど少し気が晴れた私はそんな彼を少しだけからかってみたくなり、「あのね」と耳元でこう囁いた。

「誰かさんに愛してもらった次の日、いつも腰が痛くなっちゃうんだけどどうしたらいいかな?」

「なーんて」とクスクス笑って外ラチを潜り抜けコースへと足を踏み入れる私。彼はそんな私に向かって真っ赤な顔で

「な、なに言って……!?」

なんて言っちゃって。かっこいいけど可愛いなあ、私のトレーナーは。

─────
トレーニングはもちろん真面目に終わらせ、練習後のミーティングも無事に済ませた。ミーティングのあとに携帯を見てみると何やら通知が1件届いていた。

「有馬記念のファン投票2位だって。1位は……まあエスキーだよね」
「君が21万4742票でエスキーが26万742票か。まあ実績だとどうしても差が出てしまうから仕方ない部分はあるな」

特別登録をしたウマ娘のファン投票上位10人に優先出走権が与えられるグランプリレース、有馬記念。21万以上もの人に想いを託され私は夢の舞台へと立つ……ってこの想いって……

「あっ、そうそうエスキーにメッセージ送っておかなきゃ。今度の休み空いてる?って」

忘れないうちにあの子にメッセージを送っておく。行き先は決めてないけど、2人でゆっくり話せそうな場所だったらなんなりと見つかるだろう。そう考えている間に既読がつき、『日曜ならいいですよ』と返事が返ってきた。

「『ありがと。場所はまたあとでね』っと。じゃあ今度の日曜出かけてくるね」
「オッケー。日曜は無理できないと……」

携帯をカバンに入れていると何やらトレーナーが不穏なことを呟いた。

「……加減はしてよね」
「……善処はする」

そんなこと言って本当に善処した試しあったかなこの人……

+ エスキーと「秘密」の部屋〜貴方とのクリスマス
─────
有馬記念を2週間後に控え、街もいよいよクリスマスモードに色づいてきた日のお昼すぎ。待ち合わせの駅前で私は少しげっそりとした表情でエスキーを待っていた。

「今日の予定昼からにしておいてよかった……」

善処するとは一体なんだったのか。あの日の台詞をそっくりそのまま彼に聞かせてあげたかった。寒空の下冷たい手を暖めようと口に手を当てて吐いた息はまるでため息のようだった。

「お待たせしましたっ! あれっ? なんだかエスキモーちゃん顔暗くないですか? 調子悪かったり?」

そうこうしている間に待ち合わせ場所にやってきたエスキーに大丈夫だよと返事をして楽しみにしていたカフェへと足を運んだ。入り口の扉が大人用と子ども用の2つあるユニークな店構えをしたこのお店はパンケーキが有名らしい。私たちも他のお客さんに合わせてこのお店名物の物を注文した。

「わぁっ! なんだかおとぎの国に出てきそうですっ!」
「すっごーい……! 噂には聞いてたけど、とってもかわいい……!」

私たちの前に現れたのは何枚かのパンケーキの上にクリームがたっぷり載っていて、さらにクッキーだろうか、小さな雪だるまやクマが隣に並んでいてとっても可愛らしい盛りつけになっている。しかもパンケーキの周りにフルーツも散りばめられていて、私たちは2人してお皿を見る目がキラッキラに輝いていた。

「食べるのもったいないけど食べるしかないよね……いただきまーす! 」
「いただきまーすっ! もぐもぐ……ん〜〜〜〜っ! とっっっても美味しいですっ!」

一口食べて分かるこのとろける甘さ。学園の近くだし前からクラスで話題になってていつか行ってみたいなって思ってたんだよね。来てよかった……

「それにしてもよくこんなお店見つけましたね、エスキモーちゃん」
「あれ? クラスとかで話題になってなかった? クラスのみんな美味しかったよ〜って写真何枚も見せてくれたんだけど」

私のクラスだけだったのだろうか。いやでも駅前数分の所にあるから他のクラスの子も行ってるはず……

「こんな話題に乗るのが得意じゃなくてですね……」

あははと苦笑いを浮かべるエスキー。愛嬌たっぷりでいつもみんなとニコニコ接してるから忘れがちなんだけど、そういえば中身は私のパパなんだよね。それは確かに一回りぐらい違う女の子の話題についていけって方が難しいかもしれない。ファッションにもあんまり興味薄いみたいだし。

「まあ人それぞれだと思うからさ、何に興味持つかなんて」

お互いお腹が空いていたのか凄い勢いで食べきってしまい、既に食後のミルクティーを味わっていた。甘く温かく、体の中を温もりが駆け巡っていく。

「それはそうなんですけど……というよりエスキモーちゃん。このあとどこ行くんでしたっけ?」
「このあと……ぶらぶらーっとカフェ巡りとか街歩きとかどうかなーって思ってたんだけど……」

日常の中で気を解してもらって、何かレースのヒントを得られないかなって考えてたんだけど、他の人からしたらほぼノープランですよって言ってるようなものだよねこれ……

「……だったらエスキモーちゃんを連れていきたい所があるんですけど、いいですか?」

と思っていたらエスキーの方からお誘いを受けた。もちろん断る理由なんてないからすぐに首を縦に振る。

「ちなみにそれってどこなのか聞いてもいい?」
「……着いてからのお楽しみですっ」

そう微笑んだ彼女は手元のミルクティーを静かに飲み干し口を拭くと席を立つ。私も慌ててぬるくなった自分のミルクティーを口から流し込むと、レジへ向かうあの子の背中を追いかけた。

─────
駅から歩くこと10分少々。着いたのはよくある普通のアパートメントだった。特に何か特徴がある訳でもなく、ただただ一般的な造りをしていた。その中の一室の玄関の前へと迷いなく歩いていくエスキーの背中に説明を求めて声をかけた。

「ええっとエスキー? ここは?」

道中いくら聞いても笑ってごまかすだけだった彼女。私の質問にはまだ答えずにショルダーバッグから鍵を取り出し、そのまま鍵穴へと差して回す。ガチャリと音を立てたその扉のドアノブを持って捻ると、彼女は何も言わずに扉の中へと足を踏み入れた。

「入らないんですか?」

躊躇うことなく靴を脱いで部屋に上がり込むエスキー。そんな彼女の姿に少し体が固まったものの、その一言で新しい電池が入ったロボットのように一歩一歩足を前に踏み出していった。そうして彼女に倣い、おそるおそる靴を脱いで部屋に上がると、そこに広がっていたのは見知らぬ誰かの生活空間だった。

「……いい加減教えてくれてもいいんじゃない?」

わずかに怒気を含んだ声でこんな場所でも自然体でいる彼女に声をかける。すると彼女はいつもより低いトーンの私の声に気づいていないのか、あっけらかんとした表情で正解、いやヒントを伝えた。

「周り見渡してみて何か気づきませんか?」
「周り……?」

部屋に広がるのはキッチンや食卓、そしてリビング。リビングに置いてあるソファの真正面にはテレビがあって、そのすぐ側には……

「ママの写真……どうしてこんな所に……?」

それはママがレースで優勝した時の写真だった。満面の笑顔で、優勝のレイも肩にかけたりなんかして。それがいくつも、いくつも。そんなママの隣に常に写り込んでいる男の人はもしかして……

「パパ……?」

間違いない。これはパパの姿。元々ママの専属トレーナーをしていたパパの姿がここにはあった。阪神JFの時は少し距離が離れていたけど、どんどん時が経つにつれて2人の距離は縮まっていって。ついには肩をくっつけるぐらいにまで2人の仲と距離は近くなっていた。

ここで1つの疑念が生じた。こんな写真を何枚も持っているのはどう考えても関係者に違いない。部屋の雰囲気としたら女性の部屋ではなく男性の部屋、そして最近ここで生活をしていたような空気も感じない。ただ掃除は行き届いていて、ホコリがあまり見当たらない。もしかして……

「元々ここはあなた、ううん、パパの部屋だった。そうでしょ?」

私の答えに彼女は普段と変わらない笑顔で、ただ何かを内に秘めたようないつもより低い声で私の推測が正しいことを告げた。

「さっすがエスキモーちゃんです、大正解です。そう、ここは元々わたしの部屋だったんです。今はたまにしか顔を出してないですけど」

─────
「1つ、聞いてもいいかな?」
「いいですよ、いくつ聞いても。今日はなんでも答えてあげます」

変わることない笑顔を振りまき、我が物顔──自分の部屋なんだから当然なんだけど──で部屋を練り回る彼女に堪らず口を突いて出たのがこの言葉だった。ただ彼女はなんでもどうぞとソファに座ってのんびりとした声でそう答えた。

「……なんでエスキーはそんなに強いの?」
「えー、そんなことですか? もっとこうわたしの内面を抉るような質問を期待していたんですけど……仕方ありません、答えてあげましょう」

まるでダンスでも踊っているかのような滑らかな動きで立ち上がり、私にそーっと歩み寄ってくる。目の前で広がる光景に私の目が点になっている隙に体をぴったりと寄せ、上目遣いでこう呟いた。

「負けたくないからです、誰にも。もちろんエスキモーちゃんにも」
「負けたくないからって、そんな単純な……!」

彼女の言葉にハッと我に返って反射的に大きな声が出てしまった。そんな私の声にも動じることなく彼女は変わらぬ笑みで呟く。

「単純ですよ、すごく単純。ですが負けた姿を見せたくない相手がいる。それだけで人、いえウマ娘は強くなれるんです」
「負けた姿を見せたくない相手……もしかしてそれって……」

いつも彼女の側にいた、いつも彼女を見守っていた、そして彼女のことを誰よりも想っていた、そんな相手は……

「ママのこと……?」
「ピンポーン、大正解ですっ!」

1人しか思いつかなかった。彼女を今まで支えていた相手なんて……負けるのを見られたくない相手なんて。

「勝ちたい理由、すなわち負けたくない理由。もちろんわたしが負けず嫌いなのはありますが、一番大きいのは姉さま……いえ……」

彼女、いや彼は私から離れると天に向かってこう呟いた。

「ドーベルがいるから」

窓から射す西日に照らされた彼女の姿は一瞬大きくなって男の人の姿に、パパに見えた。もちろん目を擦って改めて彼女を見るとそんなことはなく、目の前にいたのは頭の上に耳が、そして腰の下から尻尾が生えた1人の可愛らしいウマ娘だった。

「……なーんてっ。呼び捨てにしちゃったの姉さまには内緒ですよ?」

クルクルとその場で楽しそうに回る1人の少女を見て私は想う。愛するあの人を、ここにはいない元の世界のパパとママを。

(愛、か……)

見えなくて、形なんてなくて、触れなくて……だけど確かにそこにあるって分かるもの。そうか……この子は……

(愛されるから、強いんだ……)

気づく。そしてすぐに自分はと自問する。

(私は愛されているのかな……)

悩むな。私は愛されている。それは誰に?

(決まってる、あの人に……トレーナーに! パパに! ママに! そして応援してくれているファンのみんなに!)

体の底からふつふつと力が湧き上がってくるのを感じる。今まで感じたことのない、暖かい力、それはまさに夢を後押ししてくれる力。

(勝ちたい……勝ちたい……みんなのために……勝ちたい!!!!!)

想いは結ばれる。1つの形となって。

“貴方■■■た■■先■ Lv.0”

─────
彼女の言葉できっかけを掴んだ私はあの子に連れられて部屋の中をグルグルと回る。

「こっちがお風呂で、こっちがキッチン、それでこっちが寝室ですね」
「へぇ、こんな所で生活してたんだ……あっ、そういえば……」

部屋の中を巡っていると頭の奥底に眠っていた古い記憶が呼び起こされた。

「確か私が生まれて家を買うまではパパの家にママが来て生活してたって。じゃあパパとママはここで暮らしてたってことなのかな……」

なぜだか懐かしい気持ちに包まれ部屋を見渡す。そんな部屋の中で何やら見覚えのある物を視界に捉え、目の前にいたエスキーの肩をポンポンと叩く。

「ねぇエスキー、あそこに掛かってる時計って……」
「あああの時計ですか。確か何かの記念でもらったような……おばあさまからでしたっけ……って針止まっちゃってますね」

よく見ると電池が切れていたのか針が11時59分を指したまま動きを止めていた。時計を壁から外して裏を覗き込んでみると、電池は2つ入っていたものの少し古く、両方入れ替えてあげないと動きそうになかった。

「うーん、ここに電池はなかった気がしますし……また今度来るときに持ってきましょう。レースも近いですから、次来れるのはレースが終わってからになりますけど」
「……その時また一緒に来てもいい?」
「……ええ、一緒に来ましょう」

なぜとは聞かずに優しく微笑んで、希う私の願いをそっと受け入れてくれる。私はありがとうと礼を伝え、続けてもう帰ろっかと彼女に伝えた。

「……はい、エスキモーちゃんの悩みもちょっとは解決したみたいですし」
「あはは、バレてたか」

バレバレですよなんて、そんなに分かりやすい顔してたかな? でも憑き物は1つ落ちた気がする。ようやく手が届きそうなそんな気持ち。

(あとは目いっぱい頑張んなきゃ、だよね)

レースはもうすぐそこまで迫ってきていた。

─────
12月25日、クリスマスの日の夜、私とトレーナーは有馬記念の出走者全員が揃った記者会見とレース直前の軽いトレーニングを終わらせたあと、2人でホテルへと向かった。学園からは離れた都心の、私もメジロ家のパーティーとかで行ったことのある有名なホテルへと足を運んだ。

「やっぱり結構混んでるね。流石クリスマスって感じ」

2人してドレスコードをキッチリと守った服装で案内された席へと向かい合わせに腰かける。空間自体は広々としているが、あちらこちらに男女の2人組や忙しそうに料理を運ぶホールスタッフがいて、思っていたより手狭に感じた。

「みんな楽しそうだな……」
「えっ、どうしたのトレーナー? もしかして緊張してる?」

もちろん私も男の人と2人でこういう所に足を運ぶのは初めてだけど、メジロ家のパーティーなりで着飾ってディナーを楽しむことは何回もあったから全然緊張していない。もしかしてトレーナーは経験ないんだろうか?

「そりゃ多少はな……女性と来るの初めてだし、ホテルのパーティーとかも君と比べたら全然来たことないから、あまりこういう服着慣れてないからな……」

トレーナーの服装を改めて見ると、いつも学園内で着ているジャージみたいなラフな格好じゃなく、ドレスコードを守ったスマートカジュアルと呼ばれる、ジャケットやパンツスタイルの綺麗な服を身に纏っている。ジャージでも十分にかっこいいんだけど、ビシッとした服を着ている彼はより一層素敵に見えた。

「大丈夫大丈夫。その服似合ってるし堂々としてたらいいから、ねっ?」
「そう言ってもらえて少し肩の力抜けた気がするよ、ありがとう」

彼に向かって笑顔でウインクを飛ばすと、彼は緊張の糸が少し緩んだらしく、ぎこちなさは残るけど笑顔を浮かべた。そんな彼と2人しばし談笑していると、最初の前菜が運ばれてきた。

「美味しそう……」
「それじゃ食べる前にグラスを手に持って……メリークリスマス」
「メリークリスマス!」

小さくコンとワイングラスがぶつかる音が鳴り響き、楽しいディナーの時間が始まる。美味しいねと笑いあいながら、数日後にレースを迎えた最後の優雅な時間をしばし2人で、ゆっくりと。

─────
食事を終え、ホテルから外に出ると、街はすっかりイルミネーションの光に包まれていた。お店の軒先には大きなサンタクロースの人形が置いてあったり、小ぶりなクリスマスツリーが飾ってあったり……なんだか魔法の国に飛び込んでしまったかのような錯覚まで覚える。

「今日は連れてきてくれてありがとね。高かったでしょ?」
「日頃の感謝の気持ちだから。むしろ足りないぐらいだよ」

2人手を繋ぎ街の喧騒の中を静かにゆっくりと歩いていく。時々道に面したお店の前で足を止めたり、イルミネーションをバックに写真を撮ってみたり。歩幅を合わせて綺麗な街の中を2人で一緒に。

「ねぇ、トレーナー?」
「どうしたエスキモー?」

今にも雪が降ってきそうな空を見上げ、彼に問いかける。

「私のこと、ずっと愛してくれる?」

唐突すぎただろうか、彼はピタリと足を止め、何度か目をパチパチさせる。ただすぐに答えが見つかったのか私を見つめてこう告げた。

「ああ。世界が終わるまで、いや世界が終わってもずっと」
「……ありがと、私も同じ気持ち」

世界が終わってもずっと……それは永遠と同じ意味。私も彼とずっと一緒にいれたらいいな。

─────
トレーナーの家へと戻り、リビングへ急いで向かいエアコンの電源を入れる。合わせて寝室のエアコンのリモコンを探し当て、同じく早く部屋が暖まるように指示を送った。そうして手洗いうがいを済ませ、2人ともラフな格好に着替えると食卓の椅子に向かい合わせで腰かけた。2人とも何か背中の後ろに隠すように。

「こういうのって男の人からじゃない?」
「時代は男女平等だよ」

お互い言葉や目で牽制しあい、事態が前になかなか進まない。そんなやりとりを続けること数分、トレーナーが諦めたように後ろに隠していた小包を2つそっと机の上に置いた。1つは私の目の前に、もう1つは彼のすぐ前に。

「えっと、トレーナー、これは……?」
「開けてみて」

そう言われ包装を解き、そこに現れたのは……

「このケースの大きさ、もしかして……」
「メリークリスマス、エスキモー。オレからの気持ちだ」

小さな箱。その中には指輪が1つ入っていた。小さな宝石が埋め込まれた綺麗な指輪。もしかしてこれは私の誕生石のガーネットだろうか。部屋の照明に照らされてキラキラと眩しく輝いていた。

まさかのプレゼントに一瞬我を忘れかけるが、トレーナーの手元にも同じ大きさの小包があるのをもう一度視界に捉えた。

「……もしかしてペアリング?」
「ピンポン、大正解」

トレーナーが綺麗に外した包装の中から取り出したのは私と同じ小さな箱。そしてその中には私と同じ指輪が綺麗に収まっていた。

「指輪の内側見てみて」

そう言われ指輪を取り出し顔に近づけ、中に何か刻まれているのを見つける。そこに書いてあったのは私の名前とトレーナーの名前だった。

「……ずるいよこんなの」

零れそうになった涙を必死に抑え、彼に向かって微笑みかける。そんな彼は私が持っていった指輪をそっと右手の指先で掴むと逆の手で私の左手を持ち上げ、ゆっくりと薬指に嵌めてくれた。

「……なんかプロポーズみたい」
「……同じようなものだよ」

お返しに私も彼の左手の薬指に指輪を嵌めてあげて、嵌めた所を互いに見せ合う。

「みんなの前では見せられないね」
「2人きりの時だけだな」

素敵なクリスマスの夜、永遠に続けばいいのにとサンタさんにお願いする。それが無理なことを分かっていてもそう願わずにはいられなかった。

─────
「はい、トレーナー、私からはこれ。開けてみて」

余韻に浸っているのも束の間、今度は私から彼にクリスマスプレゼントを贈る番。私がもらった物より少し大きめの包みに入ったプレゼントを彼は丁寧に包装を剥がしていく。

「これは……財布?」
「うん、トレーナー、今持ってる財布結構使い古してるでしょ。これからも私の隣にいてくれるんだったら、ちょっといい物持ってもらわないとね」

誰もが聞いたことがあるブランドの長財布を彼に贈る。また長く使ってもらえるようにしっかりとした物を、「ずっと一緒にいたい」という想いも乗せて。

「ありがとう……大事に使うよ」
「これは毎日使ってよね。隠す物じゃないんだし」

指切りげんまんとちゃんと使ってくれることをお願いしてプレゼントの交換を終える。夜も更けてきたしお風呂に入ろうと席を立つと、向かい側から腕を掴まれる。

「えーっと……トレーナー? レース明後日だよ? 忘れてないよね?」
「……善処するから」

これまで守られた試しのないその言葉を今度こそ信じてあげようかと悩み、悩み、悩み……

「……手加減してよね」

─────
次の日の朝、窓から差し込んだ太陽の光に目が覚めると隣でぐっすりと眠っている彼を横目で見やり、大きくため息をつく。

「……ウソばっかり」

─────
有馬記念前夜、3度目となる白い部屋が夢の中に現れた。その夢の中で電池を手に持った私は時計が置いてある場所へと戻り、時計の裏の空いていた場所に掌の上のそれを嵌め込み、ホッとひと息をついた。

(これで完了かな……あれ? 動かない?)

新しい電池を入れてあげても時計の針は微動だにしない。カチコチとした音が鳴らないまま古びた時計は何も反応しなかった。

(もしかしたら……時間を合わせてあげないといけないのかな?)

そう思い時計の裏の蓋を外し、針の調節を行う。だけどそもそも今が何時か分からないし、時間を何で確認すればいいのかも分からない。

(何か時間が分かるもの……あれっ、なんだか人がいる。さっきまで誰もいなかったのに)

遠く離れた先に何やら人影が見えた。手を振りながら「おーい!」と大きな声で呼びかけると、私の存在に気づいたのか、私のいる場所まで駆け寄ってくれた。だけどなぜか顔がはっきりと見えず、男の人ということ以外誰なのかがさっばり分からない。

「今の時間? えーっと確か──」

その人がどこかで聞いたことがあるような声で時間を私へ伝えようとした瞬間、三度(みたび)目の前が真っ暗になり夢が途切れた。

+ 有馬記念〜光の方へ
─────
時は過ぎ、ついにやってきた有馬記念当日。レース直前の控え室にて最後のミーティングを行う私たち2人。互いに緊張はしているものの、終始和やかなムードでレースプランや他の出走者について確認を行うことができた。

「──と、こんなもんか。エスキモー、行けそうか?」
「もちろん大丈夫……いつものルーティーンもお願い」

このレース前の恒例行事もすっかり慣れたもので、互いに椅子から立ち上がると向かい合って抱き合い、軽い口づけを交わす。

「……今日はゴール前で見ててほしい、私が勝つところを」
「……分かった。君が勝つのを信じて応援するよ」

その言葉を告げ離れようとしたトレーナーを私は引き留め、「もう1個」とお願いをする。

「私って……強い?」

私の不安そうな顔を見て、もちろんと言って力強く抱き締めてくれる。

「オレにとって世界で1番強いウマ娘だよ」

最高で最上で最強の言葉。トレーナーが言ってくれたなら信じられる、自分が1番強いんだって。今日勝つんだって。

「ありがと……勝ってくるね」

体を離すとトレーナーにポンと背中を叩かれ部屋から送り出される。私は背中に残ったかすかな彼の手の温もりを感じながらコースへと駆けていくのだった。

─────
『さあ年末の大一番有馬記念! 今出走者がターフへと姿を現しました!』

パドックから地下バ道を通じてコースへと足を踏み入れる。まだレース前だというのに割れんばかりの歓声が私たち出走ウマ娘たちへと降り注ぐ。

『頑張れー!』
『応援してるからねー!』
『夢見せてくれー!』

「夢、か……」

そうここはみんなの夢が詰まった場所、有馬記念。ファンの期待、希望、夢の欠片が集まって形作られた夢のレース。

(夢のレース……だったらゴール板を過ぎたら夢は終わる? じゃあその先にあるのは……?)

夢の先、果たしてそこには何があるんだろう。そこにはどんな景色が広がっているんだろう。私は見たい、一体どんな絶景が広がっているのか、先頭で駆け抜けて。ただそのためには……

『──さあここで上位人気2人の登場です! ファン投票でも第1位、そして本日も1番人気! 2枠3番メジロエスキーです!』

この子を、メジロエスキーを超えなくちゃいけない。

より一層の大歓声が鳴り響く中、彼女は観客席に向かってペコリと頭を下げる。そしてスタート地点へと元気よく駆けていった。次にコースに私が登場すると、ファンのみんなはさっきと変わらないほどの声援を私に送ってくれる。

『──そしてファン投票第2位、本日2番人気。4枠8番メジロエスキモーの登場です!』

(このエールを力に変えて私は……!)

エスキーと同じように観客席に一礼しゲート場所へと走っていく。芝の状態を確認しつつ、今日のレース傾向を頭に呼び起こす。

(内が少し荒れ気味だったけど前残りのレースもあったし、外差しが決まったレースもあった。すなわち前が詰まらなければよっぽど最内ではない限りどこからでも飛んでこれるバ場状態)

後方待機勢ばかり好走していたならまだしも先行組も粘り込んでの着拾いも何度もあった。昨日のレースも振り返った結果、今回も中団やや後ろから仕掛ける私と先団に取りつくエスキー、どちらにも有利不利はなく極めてフラットなバ場と結論づける形となった。

(今回は前回スパートの直前に入りかけたあの世界に入り込めるかどうか、スタミナを切らさずに駆け抜けられるかどうか、それだけ)

絶対に負けられないこの勝負。果たして勝つのは──

─────
『──さあ最後に大外16番アイメイクラフがゲートに収まり態勢整いました……スタートしました!』

横並び、いや2人ほど出遅れたか。私はいつものようにゲートを決めると、最初の3コーナーから4コーナーの辺りで中団やや後ろのポジションを確保することができた。そして肝心のエスキーはというと……

(あれ!? 今日はいつもよりちょっと後ろ!? 出遅れた訳でもなさそうだし……)

隊列が少し入れ替わりつつも最初のホームストレッチへと向かう。坂を上りゴール板を過ぎた辺りでエスキーが少し前へと動き、いつもの前から3、4人目のポジションにつけた。

大歓声のスタンド前を通過する。その中から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、目線を観客席に少し逸らすと、私のグッズを持って声を張り上げるファンが大勢いた。そしてゴールの近くには……

(トレーナー……約束、守ってくれたんだ)

目線が少し合う。お互いに軽く頷くと私は前を、そしてトレーナーは前を向いてモニターを静かに見つめていた。

(応援……私はたくさんの声援を受けて今ここで走ってる……ファン投票で託された夢、ここに来て私に喉を枯らすほどの声で頑張れと叫ぶその姿が私の背中を力強く押す……そしてトレーナー。愛する人の姿はそれだけでも足を前に踏み出す力になる)

『──さあ先頭を行きますのは1番ジルカロイ、リードを2バ身ほどキープして最初の1000mを通過します……62秒2。平均かやや遅いかのペースでレースが進んでおります』

(重ねてきた練習、そしてこれまで積んできたレース経験、そしてファンのみんなの声、愛する人の存在……私の全部を、今ここで……!)

さあ行こう、夢の舞台を。ともに進もう、夢の向こう側へと。そして見ようよ、私と一緒に。夢の先に何があるか、夢を越えた先にどんな絶景が広がっているのか。ほら、私の手を取って。同じ歩幅で、同じ時を、2人呼吸を合わせて。

“貴方と夢見たその先へ Lv.1”

─────
『──向こう正面中間地点、ここで残り1000mを通過しますが……おっと!? 来た来た! 今日もメジロエスキモーがロングスパートを掛け、徐々に、徐々に前へと上がってまいります!』

自分でもはっきりと分かる。ついに入ることができたのだと、エスキーたちが見ている世界に足を踏み入れることができたのだと。世界の速度がゆっくりと進む中、私1人が変わらないスピードで駆けていくようなそんな感覚。

(息も上がってない、脚も軽い、ここがスタート地点みたい……!)

まさに夢の中を無重力状態で駆けていっているような感覚に陥る。足取りは軽く、笑った顔で、私1人が走っているみたいで。

(いける……いける……!)

ただ迎えた残り800m。

──世界を制したその怪物がいよいよ牙を剥く。

─────
後ろから感じるプレッシャーに思わず振り返ってしまいそうになる。ジャパンカップの時より強烈な圧迫感、それは彼女が自分と同じく領域(ゾーン)に入ったことを意味していた。

(やっぱりあの時のわたしの言葉がヒントになっちゃいましたか……余計なことしちゃいました……いや違う、そうじゃない)

仮に彼女が今日領域(ゾーン)に入れなかった、すなわち全力を出しきれずに終わった場合、もしわたしが勝ったとしてもそれは真に彼女に勝利したことになるのだろうか? 全力を出した彼女を上回ってこそ真の勝利を掴んだことになるんじゃないだろうか?

(だからあれでよかったんです。しかも気づいたのはあくまでエスキモーちゃん自身。いくらヒントを出したとしてそれだけで答えにはならない。そこからエスキモーちゃんが頭で考えた結果、辿り着き手に入れたのが全てなんですから)

残り800mの標識がすぐそこまで迫ってきている。彼女の放つ重圧にこのまま呑まれてしまう訳にはいかない。

(わたしも全部ぶつけます。あなたにわたしの力を、全て)

これまで走ってきた道のり、そこで得た経験、力。そして「彼女」と歩んできたその先へわたしは行こう。

“貴方と歩んだその先へ Lv.6”

─────
(きた……っ!!!)

残り800m。近づいたはずの背中がまるで矢のように猛烈な勢いで前へ飛んでいき、一瞬のうちに遠く離れてしまう。

(だけどここは我慢……最後の200mで捉えたらそれでいい!)

『──さあここでメジロエスキーが一気に前を捉えて先頭に立つ勢い! 後続からはメジロエスキモーが上がってきていますが、この加速力、このスピード、そしてこの距離。果たして届くのでしょうか!?』

残り600m。彼女の進撃はまだ続く。さっきの1ハロンと勢いを落とすことなく後続を突き放しにかかる。コーナーを曲がっているのに速度が全く落ちないのは持ち前のバランス感覚の良さか、それとも鍛え上げた体幹の強さか。

(私だって加速している。だって内側の子を1人、また1人交わして集団の前に立とうとしているんだから。ただ……ただ……)

それでもなお届かない背中が遠くに見えた。だけどレースはまだ終わっていない。最後の直線がまだ残っているんだから。

迎えた残り400m。彼女が一旦ペースを落とすその隙に10バ身以上あったその差を一気に詰めにかかる。一歩踏み出すごとに背中に近づいているのがはっきりと感じる。

──残り200m、その差5バ身。

─────
URAウマ娘列伝。URAが顕著な活躍や記憶に残る蹄跡を刻んだウマ娘を讃えるために作成するポスター群をいう。そこにはそのウマ娘と成績、さらにキャッチコピーが記された、ある意味ウマ娘にとっての1つの夢。時には関係者や作家たちが寄稿文も掲載されることもあって、見る者に感動と興奮を与えてくれる。オレはそんなポスターたちを眺めるのがとても好きだった。

今こうして彼女の走りを観客席から見ていると、ふととあるウマ娘のポスターを思い出す。彼女もまた長くいい脚を使って数々の大レースを制してきた偉大なウマ娘。そんな彼女のキャッチコピーは、今日のエスキモーの走りを表すのにふさわしい一文だった。その言葉は……

「“奇跡”は、ロングスパートから。」

ただ彼女にこの言葉を聞かれたらきっと怒られるだろう。奇跡なんかじゃないって、必然なんだって。

さあ残すは急坂に差し掛かった200mのみ。年末最大の決戦。勝者は、どちらか。

─────
迎えた2度目の急坂。レースの最後の最後で立ち向かうそれはまさに壁のようだった。

(でもここで止まる訳にはいかない! 勝つのは私なんだからあああああああああ!!!!!)

4バ身、3バ身……一歩一歩その背中が大きくなるのがはっきりと分かる。だけど、このままだとあと一歩が、最後の一歩が届かない。

(読み誤った……!? どこで……!? 駄目、そんなこと考えてる暇ない! とにかく脚を動かさないと……!)

残り50m。あと数秒で迎えるゴール板。だけどまだ彼女の背中には届かなくて。俯きかけたその時、1人の大きな声が私の耳に届いた。それは勇気を奮い立たせる声、私の背中を押してくれる声、脚に力を注ぐ声。

「行っけーーーーー!!!!! エスキモーーーーー!!!!!」

貴方の姿が、貴方の声が、貴方の想いが夢の先へと駆けていく活力になる。夢の絶景へと導く道標となる。そして、私は、

ともに笑いあった親友を、

“貴方と夢見たその先へ Lv.2”

愛すべき親を、

“貴方と夢見たその先へ Lv.3”

ずっと憧れてきた夢を、

“貴方と夢見たその先へ Lv.4”

今、

“貴方と夢見たその先へ Lv.5”

超える。

“貴方と夢見たその先へ Lv.6”

「あああああああああああああああ!!!!!」

『──メジロエスキー逃げる! メジロエスキモー追う! 同じメジロの一騎打ち! どっちだどっちだどっちだー!!! さあ2人全く並んでゴールイン!』

─────

ほぼ2人同時に駆け抜けたゴール板。勝った実感はなく、さりとて負けた実感もない。レコードの文字が躍るモニターの右側、掲示板の着差を示す箇所には早くも「写真」の2文字が表示されていた。

2人して息も絶え絶えにターフへと仰向けになって倒れ込む。全力を使い果たした私たちの姿に観客席から盛大な拍手と喝采が送られる。

「はぁ……はぁ……お疲れさまです、エスキモーちゃん」
「はぁ…、はぁ……エスキーの方こそお疲れさま」

ターフに寝転がりながらも互いの健闘を称え合う私たち2人。息が整い立ち上がってからもゆっくり横に並んでコースを1周した。ただ1周ぐるりとコースを走ったあとでも結果は発表されず、掲示板の1着と2着の部分だけ数字が点灯していなかった。

「わたしはエスキモーちゃんが勝ったと思いますけどねっ!」
「いやいやいや! 最後差せたかどうか微妙だったし、エスキーが残してたかもだって!」

ターフの上で姉妹喧嘩が如き言い争いが行われる。ただそれは互いが互いを褒めるもので、コースにほど近い場所でそれを見ていた観客やトレーナーはかすかに漏れ伝わる2人の会話に笑みを零していたという。

ある意味しょうもない口喧嘩を何分も続けていると、観客席から「おおっ!?」といった声が一斉に上がる。着順掲示板には「確定」の2文字が、そしてその下の1着と2着を示す箇所に記されていた数字は──

─────
「「「──力の限り 先へー!」」」

レース後のウイニングライブ、すっかり慣れたこのステージ、堂々と大勢の観客の前で歌い上げるこのNEXT FRONTIER。春の天皇賞の時にもセンターに立って歌ったけど、今日のライブはあの時とは違い、何か込み上げてくるものがあった。

「お疲れさまです、エスキモーちゃん。センター、立派でしたよっ!」

レースのあと汗を拭いたにも関わらず、再び汗だくになっている2人。ステージ上で長い時間照明に照らされながら歌って踊っていたんだから無理もない。

「エスキーの方こそお疲れさま……それにしても私がセンターか……」

その差わずか1センチ。判定に時間がかかったのも頷けるその着差。判定写真をどれだけ拡大にしても、見る者が変われば同着になっていたんじゃないかと思えるほどの差で私はエスキーに勝利した。たかが1センチ、されど1センチ。たったそれだけの差で私は6つ目のG1タイトルを獲得し、春秋グランプリを制覇した。逆に言えば、その1センチでエスキーは生涯初の黒星を喫したことになる。

会場から引き上げ、再度シャワーを浴びて汗を洗い流した2人。わずかな差ということもあってか悲壮感や優越感は互いに持ち合わせておらず、それぞれの控え室へ向かう間でも互いが互いを褒め合う明るい空気がそこには流れていた。

「ねえ、残り2ハロンの区間、いつもより速くなかった?」
「流石エスキモーちゃん、体内時計バッチリですね。そうです、このままだとエスキモーちゃんに交わされると思って少し早めに2度目のスパート掛けたんですよ」

やっぱりねと、私は自分の体内時計の正確さに深く感謝する。あの時気づかずにそのままのペースで突っ込んでいたら、トレーナーのエールがあっても最後捉えきれなかったと思うから。

「それにしても答え、見つけられたんですね」
「答え? あー、うん。本当に正解なのかは分かんないけどね」

領域(ゾーン)に入るために何が必要なのかを模索する日々。たまたまカジっちゃん先輩から得られたヒントをきっかけにして、エスキーの後押しで1つの解を得ることができた。もちろんそれが全員に当てはまる正解だとは思わないし、あくまで私だけの正解なんだとは思う。

「あー、エスキモーちゃんに負けちゃいましたし、そろそろ潮時ですかねー」

そんな話をしている中、彼女の口から引退宣言とも取れる言葉が発せられた。私は彼女の顔を二度見し、真意を問いただす。

「エスキー……それ、本気?」
「本気ですよ? エスキモーちゃんに負けたことが直接の原因じゃなくて……ちょっとわたしの口に耳近づけてもらっていいですか?」

秘密の話なんだろう、誰も周りにいないことを確認し、壁に寄りかかる。膝を少しだけ折り、耳の高さがちょうど彼女の口の高さにまで低くなったところで、口を私の耳に寄せ内緒の話を囁いた。

「例のクスリの効果が来年の春までに切れるんです。もちろん飲み続ければ持続するでしょうけど、わたしはもうレースに未練はありませんから、わたしのトレーナー──実際は自分自身のことですけど──と入れ替わってトレーナーの研修に行ったことにして、元の姿に戻ろうと思うんです」

これ以上姉さまを放っておく訳にもいかないですし、と話すと私の耳元から口を離し、立ちつくす私を置いて1人で自分の控え室へと歩いていく。少しずつ離れていく背中がなぜか寂しそうに見えて、思わず大きな声で呼び止めた。

「エスキー!」
「どうしたんですか、エスキモーちゃん?」

私の呼びかけに足を止め、くるりと私の方に向き直すエスキー。振り向いた彼女の顔はやっぱり少し悲しそうな顔をしていた。

「前約束したよね、またみんなで温泉行こうって。有馬記念が終わったら4人でまた一緒にねって」

それは半年以上前のこと、私、トレーナー、エスキー、ママの4人で城崎温泉に行った帰りに交わした約束。その時はまた一緒に行けたらいいなぐらいの想いだったけど、今となってはそうじゃない。数ヶ月もすれば二度と会えなくなる人との旅。私のエゴかもしれない。彼女にとっては迷惑かもしれない。だけど私は希う、最後にあなたと旅がしたいと。笑いあった日々を、2人で過ごした思い出を1つでも多く作りたい。

「行こうよ、私と一緒に。いつか忘れてしまうかもしれないけど、それがずっとずーっと未来の話になるようにいっぱい、いっぱい思い出残そうよ」

だから、と彼女に向かって手を差し出す。この手を取ってと、そう願う私の方がもしかしたら悲しい顔をしていたのかもしれないけれど。

「……わがままですね、エスキモーちゃんって」

そう言いながらも彼女はまっすぐ歩いて私の手を掴む。強く、離さないように強く。

「そうなの、私ってわがままなんだから。将来覚悟してよね」
「……先が思いやられますね」

そう言って互いに1秒、2秒と顔を見合わせ、同時に噴き出す。やっと笑顔が戻った彼女に私も笑顔で伝える。

「それじゃ、行こっか」
「はい、喜んで」

──手を繋いで歩いた先には素敵な未来が広がっている、そのときなぜかそんな気がした。

─────
「ただいまー……ふぃー、やっと帰ってきた……」
「お疲れ、エスキモー。取材とかいろいろ凄かったな」

外はもう真っ暗。ウイニングライブを済ませ、各メディアからの取材をこなし、チームみんなに祝福されて……気づいたらもう時計の針は夜9時を指そうとしている。

「ちょっと今日はご飯作れそうにないの……ごめんね」
「あんな激戦繰り広げたんだからゆっくりしてて。そのためにスーパーで惣菜買ってきたんだから」

既に眠気で頭が上手く回っていない。えーっと、お風呂入って、それからご飯食べ……

「すぅ……すぅ……」
「寝ちゃった、か。ソファで寝たら風邪ひくからベッドまで運ぶぞっと」

トレーナーにお姫様だっこで寝室まで運ばれたことに気づいたのは次の日の朝のことだった。

─────
(あっ、またこの夢か)

目が覚めたと思ったらそれは夢の中で、私はまた白い部屋に閉じ込められていた。ただ今は隣に1人男の人がいる。その人の顔は見えないけれど、その声はとても優しく安心できる声だった。

「──これでよしっと」

時間の調整が終わり、裏のフタを閉めてひっくり返すとそこには本来の動きを取り戻した時計の針と振り子があった。

「アンティークで素敵……」
「だな」

そんな会話をしていると、何やらギーっと少し不快な音が鳴り、はっと顔を上げる。すると、さっきまではなかった木製の扉が目の前に出来上がっていた。

「なんだろう……どこかで見たことあるような」

左手で何かを掴んだまま、一体なんだろうと思い立ち上がる。興味本位にその扉に近づくと手が誰かに操られているかのように勝手にドアノブを掴み、ぐるりと右回りに捻る。その扉は鍵がかかっておらず、ガチャリと音が鳴ったあと、前へと力を籠めると何の抵抗もなく扉が開いた。

「真っ暗……? ううん、何か遠くに……」

扉の先にはこの部屋とは真逆の暗闇の世界が広がっていた。ただ遠く彼方に小さな光が瞬いているのがかすかに見える。

(行かなきゃ……あそこに行かなきゃ……でもどうして?)

分からない。でも頭の中から行けという声が聞こえる。走れと脳が指令を出す。私は誰かに操作されているかのように扉の中へと駆け出していった。

「ちょっと待ってよ! あの人にまだお礼言えてないのに!」

なんとか首だけ捻って後ろを見ようとするも、とっくに扉は彼方に遠ざかっていた。もちろん時計を修理してくれたあの人の姿はとっくに米粒以下の大きさに変わっていた。

ならばと今度は前に向き直し脚に力を籠める。心の中だけでもとあの人に感謝の気持ちを伝え、前へ前へと足を踏み出す。

「あの光の先に何があるか分からない。それでも私は行くんだ……!」

もう一度あの人に会えたらいいなと願いつつ、私は先へ先へと駆けていくのだった。

──この日から毎日光へ駆けていく夢を見ることになるとはまだ知らないまま。

+ 2組の新年〜旅行計画中!
─────
1月1日。年が明け、また新しい1年が始まる。私とトレーナーは2人家の近く……ではなく少し離れた神社へと初詣に向かった。なぜ家の近くにしなかったかというと、家から近いということは学園からも寮からも近いということ、すなわち2人で仲睦まじく参拝している所を知らぬ間に見られてしまう。それを避け2人でゆっくり仲良く新年の挨拶を行えるように、電車に乗って比較的落ち着いた神社へと赴くことになった。

(この先どんなことが起きても永遠にトレーナーと過ごせますように……)

お賽銭を投じ、鐘を1回、2回と鳴らす。そしてお作法通りの二礼二拍手一礼。神様に旧年も健康に過ごすことができた旨の感謝と、新年も無事に過ごせますように、隣にいるこの人と添い遂げることができますようにとお願いをする。過去のことを伝えた1つ目はともかく、2つ目と3つ目に願った想いは叶うかどうか分からないけれど。

何度も何度も繰り返し願っていたせいか、目を開けて顔を開けた時には隣には知らない人がいて、慌てて賽銭箱の前から立ち去りトレーナーを探す。右、左と顔を振って彼の姿を探していると、トレーナーが「おーい!」とこっちに向かって大きく手を振りながら私を呼んでいるのが聞こえた。

「ごめんね、ちょっと待たせちゃって」
「行くぞって声かけようとしたんだけどさ、真剣な表情で念じていたからよく声かけられなくって」

やっぱり周りからもそう思われていたのかと少し自分の振る舞いを反省する。よっぽど眉をひそめ、瞼を固く閉じ、まるで何かを産み出さんとばかりに左右の手に力を入れて合掌していたんだろう、いくら神様に伝えることがいくつもあったとはいえやりすぎた感が否めない。もう一度彼に軽く謝ると、彼の手を引いておみくじの列に並んだ。

「おみくじは……50円か。はい、エスキモーの分」
「そんな……自分の分は自分で出すのに」

せっかくの彼の気持ちを無下にもできず、もらった50円玉をギュッと握り締める。お代を払いおみくじの筒をシャカシャカと振り、出た棒に書かれている番号を伝えてその番号のおみくじをもらうだけだから、参拝の列とは比べると比較的スムーズに列が捌けていった。

「50円お納めください」
「はい、これで」

50円を巫女のお姉さんに渡し、シャカシャカと何度か棒が出てくるまで筒を振る。なぜかなかなか出てこなかったものの、やっと出てきた番号を伝えて渡されたおみくじに書かれていたのは大吉の文字だった。先に引き終わっていたトレーナーも同じく大吉を引いていて、互いに新年を最高のスタートで切ることができた。ただおみくじに書かれていた文言には2人とも首をひねることになる。

「えーっと、いろいろ書いてあるけど……待ち人来る驚きあり?」
「オレは……待ち人来る喜びありって書いてある。そもそも待っている人いないし、それで喜びってどういうことだ?」

もしかすると心のどこかで会いたい人がいるのかもしれないけど、それで驚いたり喜んだりすることへのイメージが上手く湧かない。まあ悩んでいても仕方ないかとお守り代わりに綺麗に折り畳んで財布の中に入れた。

「じゃあ出店でも回ろっか」
「そうだな。食べたい物があったら言えよ」
「もー、それって私が食い意地張ってるように見えるってこと?」
「違う違う、そうじゃない……って、あそこにいる2人ってもしかして……」

彼が指輪を嵌めている方の手で少し先の方を指し示した。するとそこには見慣れた2人のウマ娘が出店の列に並んでいて……

「マ……んんっ、ドーベルさんにエスキー、奇遇だね」

危うくトレーナーの前でママ呼びをしてしまうところをなんとか堪え、彼女たちの名前を呼ぶ。すると2人は少しビクッと体を震わせ、こちらの方へゆっくりと顔を向けた。

「え、エスキモーちゃんにトレーナーさん、こんな所で奇遇ですね?」
「ふ、2人とも学園近くのとこ行かなかったんだ」

私たちに見られて困るような物でも隠しているかのような驚きっぷりに私は目を細め、彼女ら2人に何か怪しい点はないかと耳の上から尻尾の先までじっくりと、じっくりと何度も繰り返し見返す。すると、2人がさっと手を後ろに隠したことに気がついた。

「……なんか今隠した?」
「いや? ナニモカクシテマセンヨ?」
「エスキモー気にしすぎだって……うん、気にしすぎ」

これはクロだ。トレーナーの腕を引き2人の所へ歩いていき、2人がさっき隠した手を掴む。すると、そこにあったのはお揃いの指輪、ペアリングだった。

「ふーん……」
「な、なにがふーんですかっ! というかそういうエスキモーちゃんだってトレーナーさんと同じ指輪してるじゃないですかっ!」
「そ、そうよ! そっちも同じじゃない!」

わーわーと2人とも顔を真っ赤にしながら私へと抗議する。並んでいた出店の列から離れていることも気づかずに私たち2人へと詰め寄ってくるのを私は「どうどう」と抑える。

「私たちはずっと前から付き合ってたでしょ。2人とも当然知ってるし、ペアリングしてても別に変なことなくない?」
「ま、まあそれはそうかもしれませんけど……」
「確かにそれはそうね……」

さっきの威勢はどこへやら、そもそも無理筋な抗議だと途中で気づいたのかすぐに大人しくなった。私はそんな2人に対してニヤニヤとした笑みを浮かべながら彼女たちが指輪をしている理由を問う。半分答えを含んだ質問を。

「で……どっちからしたの?」
「「えーっと、それは……」」

小声で「ここは姉さまが……」「いやいやアンタから言ってよ!」「いやいや!」「いやいや!」とほとんど答えを言っているような醜い言い争いを繰り広げる2人。そんな親の痴話喧嘩に似た何かをこれ以上見るのは耐えられず、自分がした質問に自分で正解を告げた。

「マ……んんっ、ドーベルさ……ううん、もういいか。ママから言ったんだね。おめでとう」
「「あ、ありがとう(ございます)……?」」

いくら広いといえどこれ以上参道の真ん中で話すのは迷惑だということで、少し脇に逸れた出店の裏、玉砂利が敷かれた広場で告白までの経緯を伺った。実質親の馴れ初めの話聞いてることになるじゃんと途中で気づいたけど、それはそれで美味しいとも思い、静かに2人の話に耳を傾けた。

「アタシは……シニア級の終わりぐらいかな。クラシック級の終わりにこんなに熱い人なんだって、アタシのこと見てくれてる人なんだって気づいて。その時点ではまだす、好きみたいな気持ちじゃなかったんだけど、そこからバレンタインのチョコあげたり、シニア級を駆け抜けて温泉に行って……夜空の下でここから見る星が綺麗だなんて言われた時にはもう……」
「わたしはずっと姉さま……ドーベルのことを支えたいって、この子を世界一強いウマ娘にって思ってて……自分の気持ちに気づいたのはたぶんURAファイナルが終わったあと。彼女から『アタシのことどう思ってるの?』って聞かれた時に、そういう意味で聞いたんじゃないって分かっていても、そうなんだって、自分は彼女のことが好きなんだって気づいた」

思ったより重めのエピソードが聞けてちょっと引いてしまった私……というかエスキー敬語取れてるよ。周りに人いるんだから。

「でも有馬記念の時はそんな雰囲気なかったじゃない? もしかして寮に帰ってから?」

有馬記念の日のウイニングライブのあとに2人が話している姿を見かけたけど、その時はこんな甘々な感じじゃなかった。私はそのままトレーナーの家に戻って2人で年を越していたから、次に会ったのが年明けの今日。もし告白したならそのタイミングなんじゃないかって思っていたら、やっぱりそのとおりだった。

「元々クリスマスはレース終わってからねって言ってたの。誰かさんとは違ってね?」
「うぐっ……」

思わぬところでダメージを受けるもなんとか耐えて続きを促す。してやったりの表情を浮かべたママが少し調子を取り戻し、話の続きを教えてくれた。

「レースのあと部屋で残念会をして、ひと段落ついたタイミングでアタシから言ったの。でもこの子、ううん、この人も同じ気持ちだったみたいでさ。指輪はこの人からの贈り物。指の太さと指輪の大きさがちょうどだったのもびっくりしたんだけど、一番びっくりしたのが指輪を2つじゃなくて3つ買ってきてたこと。今嵌めてるのより断然大きかったから、元に戻った姿でも嵌められるようにって。そういうとこ抜け目ないよね、ほんと」
「あ、当たり前ですっ。ずっと一緒にいるんですから」

そうやって熱い視線を交わす2人。何やら今にでもキスするんじゃないかという雰囲気を漂わせていたから、なんとか甘い空気を雲散霧消させようと無理やり話を変える。

「そ、そういえばエスキーには話してたんだけどさ、また温泉行こうねって話、あれいつ行こっか?」
「そ、そんな話あったな。当分レースはないからいつでもいいけど、そっちの2人は?」

トレーナーもこの空気に気づいていたのか少し詰まりながらも私の話に乗っかってくれた。そんな甘い?甘酸っぱい?空気の発生源となっていた2人もなんとか話題に食いついてくれて、話を逸らすことに無事成功した。

「アタシたちもいつでもいいけど……せっかくだから3人の誕生日と合わせない? エスキモーのトレーナーも確か誕生日1月18日だったでしょ?」
「オレの誕生日まで覚えているのか……そ、そうだな。まとめて祝った方が盛り上がるだろうし、またどこの温泉がいいか見繕っておくよ」

3人が彼に礼を伝えると、誰かのお腹が声を上げ、4人して出店の列に並び直すことにした。私とトレーナー、ママとエスキー、それぞれが横並びで、互いの手をギュッと握り締め。

──もちろん一番深く繋がる形で、強く、強く。

─────
三が日も過ぎ、年末年始にずっと2人で過ごしていたトレーナーの家から後ろ髪を引かれる思いで去り、学園の寮へと戻る。部屋のドアを開けると、そこには地元に帰省していた先輩の姿があった。

「あっ、カジっちゃん先輩、あけましておめでとうございます」
「エスキモーちゃん、あけましておめでとうッス! エスキモーちゃんはどこに行ってたンスか? あ、これお土産ッス」

そう言って自分の机の上に置いてあった紙袋を私へ差し出す。ありがたく受け取り中を見てみると、そこには人前の味噌煮込みうどんの箱が2つ入っていた。

「……ユニークなお土産ですね? わざわざありがとうございます」

固い蛇口を頑張って捻って水を出そうとするみたいに、なんとか言葉を捻り出し感謝の気持ちを伝える。2人前ということはたぶん私とトレーナーの分なんだろう。先輩は私がトレーナーの家に行ってご飯を作っていることを知っているから、たぶん一緒に美味しく食べてってことかな。まあラーメンはなかったから同じ麺類でって可能性も捨てきれないけど。

「ああ、お返しはいいッスよ。その感じだと遠出したって感じじゃなさそうッスし」
「まあ……そうですね。ただ今度旅行行くんでその時にカジっちゃん先輩の分のお土産買ってきますね」

とりあえず日が当たらない所に紙袋を置き、夕方トレーナーの家に持っていくことを決意する。早速今日の晩ご飯にさせてもらおうっと。というか旅行どこ行くんだろ? 旅行行くまで2週間切ってるのに。

「せっかく買ってきてくれるなら断る理由もないッスね。じゃあどんなお土産なのか楽しみにしてるッス!」
「期待しててください! お土産話もいっぱい聞かせてあげますから」

そのままお互いの年末年始をどう過ごしたかの話へと繋がった。私の方からはエスキーとママの話は少しぼやかしつつも2人と初詣で遭遇した話だったり、頑張って作ったおせちの写真を見せたりなど、遠くへは行かなくとも充実した年越しができたことを伝えた。私の話を楽しそうに、いやたまに「ごちそうさまッス……」って言っていたカジっちゃん先輩もカジっちゃん先輩で、地元で家族揃ってゆったりまったりゲームをしたりラーメン食べて年越ししたりと楽しい新年を迎えたことを教えてくれた。

─────
「──それでさ、今度の旅行どこ行くか決まったの?」

その日の夜、先輩にもらったお土産をありがたく2人でいただき、食べ終わってからは2人リビングでテレビを見ながらくつろいでいた。チャンネルを切り替えている時にたまたま旅番組が映り、それを見て私はそうだそうだとトレーナーに話を振った。

「2択で悩んでいるんだよな。えーっと、パソコンはっと……そう、ここと、ここ。エスキモーはどっちがいいと思う?」

パソコンを開いて示してくれたのは関西の2つのエリア。1つは有馬を冠する有名温泉地。小さい頃にメジロのみんなで行った記憶がある。ただもう1つは……

「なんか名前は聞いたことあるんだけど行ったことないかな……どんなところなの?」
「こっちも温泉地なんだけど、どっちかというとリゾート地かな。こっちに行くなら初日と2日目はここで景勝地なり近くのテーマパークに立ち寄って、3日目と4日目は少し特急でもう少し南の方に行ってみようと思っているんだ」

既にある程度組まれている2つの旅程を見比べつつ、どっちがいいのか頭を悩ませる。

「有馬もいいけど、こっちもいいな……本当に私が決めていいの? トレーナーは?」
「君に決めてほしい。オレの意見なんて後回しでいいからさ」

私だけで決めるのもどうかと思い、トレーナーに話を振るも、彼は首を横に振って私に決定を委ねる。もう一度行き先を一任された私は悩みに悩み、彼に想いを伝えた。

「じゃあ私は──」

伝えた行き先。そこは人生で一度も行ったこともない場所。そしてその場所は──

この『夢』の最後の場所になる。

─────
その日の夜遅く、毎日続いている夢のその続きがまた始まる。ただひたすらに光に向かって走っていくだけのそんな夢。息が切れることもなく、ただ自分の意志で足を止めることもできず、まっすぐにその眩しい光へとまっすぐに駆けていく。


(たぶんあの光の先にあるのは、きっと……)

駄目だ駄目だ、考えちゃ駄目だ。それは正解なのかもしれない、事実なのかもしれない。だけどそれを考え、口に出してしまえば未来がそれしかないと固定されてしまう。

そう──今の世界のトレーナーやみんなにはもう会えないという未来、永遠に離れ離れになってしまうという未来に。

だからもう考えないし口にも出さない。例えそれが真実だったとしても、光に飛び込むその時までは、絶対。

─────
翌日私はトレーナーに今度の旅行についてお願いをした。私に旅程を決めさせてくれないかと、一度こういうことやってみたいからと。私のその力が籠もった言葉にトレーナーはいいよと快諾してくれた。「困ったらいつでも頼ってくれ」とも行ってくれ、地域のめぼしい観光地をいくつかピックアップしてメッセージで場所のURLを送ってもくれた。

「そういえばトレーナーって車運転できるんだよね?」

出かける時は大抵電車を使ってばかりいたからもしかしたらペーパードライバーなんじゃないかと思って聞いてみたら、実のところはそうじゃないみたい。

「そりゃ普段は乗る機会少ないけど、実家帰った時とかは親の車乗せてもらっているし、遠くに旅行した時にはレンタカー借りて数百キロとか乗ったことあるからな? ここだったら車持っても使う機会ないから持ってないだけだよ」

それもそうかと納得する。確かに勤務先の学園が徒歩圏内、買い物するにも商店街やスーパーが近くにあり、もしそこに欲しい物がなくても駅から電車で都心に出れば大抵の物は手に入る。週に1回乗るか乗らないかだったら、維持費も相当かかる車を自己所有する必要なんてない。

「オッケー。トレーナーが車運転できるなら動きやすくなるかも……それじゃ向こうでレンタカー借りるプランで考えてみるね」

調べてみると公共交通機関がそれほど発達しておらず、電車やバスのみに頼るとどうしても空白の時間が多くなり、その時間が無駄になってしまう。逆に車で動き回れるんだったら時間だけじゃなく行き先の選択肢も一気に広げることができる。

「ここも景色良さそうだし、こっちはなんか楽しそう。それで泊まるホテルは……あっ、ここすっごくいいかも!」

自分の携帯だけじゃ画面も小さくて調べるのに手間がかかってしまうから、トレーナーのパソコンも併用して旅行の段取りをどんどん組んでいく。どんどんといっても全てがポジティブな意味合いではなく、何かに急かされている、強いられているネガティブな要素も含まれていた。そもそも旅行のプランを練りたいと言い始めたのも「この私」の意志だけではなく、他の何かに背中を押されて立候補した部分が少なからずあった。

(この旅行、何かある……あるはずなんだけどそれが何なのかって分かんないんだよね……ってそんなこと考えてる暇ないんだって!)

両手で自分の頬をぱちぱちと叩き、軽く頭も振って雑念をなんとか外へと追いやる。2泊3日のこの旅程、せっかくのダブルお泊りデートなんだから4人みんなが楽しめるものにしないとね。

─────
そうしてなんとか2日がかりで仕上げたプランをトレーナーに見てもらうと、「よく頑張ったな」と頭を撫でてくれた。少し時間的に無理があるところや、逆に時間に余裕を持たせすぎている部分をちょいちょいっと手直ししてもらったけど、おおよそ私の考えた計画通りの旅程が完成した。

「うん、これだったら無理やり朝早く起きなくても済むし、移動でバタバタすることもない。車の運転も1回1回が短いからそれほど疲れることはないし、移動だけでへとへとにもならなさそう。初めてにしてはよくやったな」
「えへへ……ありがと」

あとはホテルや飛行機とかの予約が残っていたが、それはトレーナーがおばあさまと相談してやってくれるとのことだから、そこは大人の彼に甘える。きっと上手くやってくれるだろうから。

「そうだそうだ、忘れないうちに2人にも決まったよって教えてあげなきゃ」

メッセージアプリを開き、この旅行のために作ったグループに一言書き込む。「今度の旅行、私が考えたプランだから楽しみにしててね」と。

─────
あと1週間、あと6日、あと5日……旅行までの1日1日をワクワクしながら過ごしていく。ただ感じるのはワクワクだけじゃなくて……

(同じ夢……いつになったら終わるんだろう……)

少しずつ、少しずつ大きくなっていく真っ白な光。息が上がらず脚に疲れが溜まることなく走り続ける私はただ一人孤独に駆けていく。その光の先に何があるのかははっきりとしないまま、私の意志が介することはなくただひたすらに。

(あと何日なのかな……お願いだから旅行が終わるまではなんとか……)

旅の無事を、そして安全をただただ祈る。願わくはまたここに帰ってこれますようにと。

──私が選んだ行き先が何と呼ばれているかこの時はまだ知らなかった。もしかしたらどこかで目にしていたかもしれないけど、見なかったことにして忘れただけかもしれないけど。それでもまだこの時は。

+ 夢への旅路1日目
─────
「着替えよし! 携帯の充電器よし! スキンケアとかヘアケアのグッズよし! 飛行機とか電車のチケットも……よし!」

旅行の日の朝、キャリーバッグやリュックの中身の最後の確認を行い、開けたチャックを再び閉じる。まだねぼすけさんなトレーナーの分も代わりにチェックしてあげようと彼の荷物を開けるとそこには……

「……ホテルでちゃんと寝させてくれるのかな」

何が入っていたのかは想像にお任せする……私も入れていることはもちろん彼には内緒にする。バレたら絶対もっと酷いことになるから。とにかく見なかったことにして荷物の点検を続ける。服とか着替えとか、お財布の中にちゃんと免許証が入っているか(ちなみにゴールド免許だった)とか問題ないかを全部確認して、鞄のチャックを閉めたところで荷物の持ち主がリビングへと顔を出した。

「ふわぁ……おはよう、エスキモー……時間はまだ大丈夫だよな?」
「大丈夫だけど余裕はそんなないんだから早く顔洗って朝ご飯食べて! 私はもう全部済ませてあるんだから」

時計を見ると既に8時を過ぎている。エスキーとママとの待ち合わせは府中駅の改札前に9時20分。少し余裕を見て9時ちょうどに出発するとしてもあと1時間ぐらいしかない。

「あ、そういえば忘れていたことあった」
「えっ、今更何!?」

まだ洗面所に行ってなかったトレーナーが寝ぼけまなこを擦りながら、私の方へと歩み寄ってくる。何をしようとしているのか彼の意図を掴みかね少し身構えていると、引き寄せられるように体を彼の元に引っ張られ唇を奪われた。

「んんっ……じゅる……んまっ……」

寝起きとは思えない力強い腕っぷしで頭を掴まれ舌で口の中を蹂躙される。前に私が彼を起こすためにやった仕返しとばかりに入念に。

「……ぷはっ! ちょっと!? こんなことしてる場合じゃないでしょ! もうさっさと朝の準備して!」

少し勢いが収まったところで彼の体を向こうに押しやり、洗面所へと叩き込む。手の甲で口を拭いながら、はぁはぁと切れた息を肩で整える。

「ほんと油断も隙もないんだから……」

数分後顔を洗っていかにもさっぱりしました感を全面に押し出したトレーナーはさっきのことを忘れたかのように朝ご飯や歯磨き、身支度を済ませて出かける準備を整えた。私のじとーっとした目線は気がついていないのか、あるいは気づいていてあえて無視しているのか、家を出る時も普段と変わらないテンションと表情で私の手を引き、9時ぴったりに2人で家を出発した。もちろん指輪は左の薬指に2人とも嵌めて。

─────
「おまたせ2人とも。ちょっと待たせちゃった?」

集合時間5分前、待ち合わせ場所に向かうと既にエスキーとママの2人が荷物を持って待っているのを遠目で見つけた。彼の手を引き軽く駆け足で彼女たちの元へ向かうと、駅のコンビニで買った小さなお茶のペットボトルを2つ渡してくれた。もちろんペットボトルを持っていた左手には指輪がキラリと輝いていた。

「ありがと。電車はあと20分ぐらいあるけど、飛行機に遅れたらいけないしもう改札入っとこっか」
「そうですね。せっかくエスキモーちゃんが組んでくれた旅行ですし、いきなり台無しにするのは駄目ですから」

真冬だからか、防寒対策バッチリのモコモコ具合を見せているエスキー。彼女の愛らしさと相まってなんだかお人形さんに見えるのは一応親に対して言うことじゃないかもと思い、なんとか口に出さずに堪える。せっかくだからともらったお茶で喉を潤し、4人全員改札を通ってホームへと向かった。

「それにしても関西なのに飛行機使うんだね。てっきり新幹線と思ってた」
「わたしも思ってましたけど、エスキモーちゃんから旅程送られてきて自分でも調べてみたらこれが1番スムーズに行けるんですよね」

そう、今から私たちが向かうのは新幹線が発着する東京駅ではなく羽田空港。そしてそこから飛び立つ先は……

「南紀白浜空港、関西のリゾート地の玄関口」

季節が季節ならバカンスを楽しむための観光客が多数訪れていたであろうこの場所、今はその逆の季節、真冬だからわりと最近トレーナーが予約してくれた飛行機も席がそれほど埋まっていなかった。ただそれでもガラガラではなく、半分以上は埋まっているとトレーナーが教えてくれた。

「最近はワーケーションっていうのが流行っているからさ。旅行客じゃないビジネスマンも乗っているだろうな」
「ワーケーション?」

ワーケーション。それは「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語。IT社会となり、必ずしも会社に出勤せずとも仕事ができるようになった今、都心から離れた場所で悠々自適に仕事をこなす人も増えてきた、らしい。「まあオレたちには関係ないけどな」とはトレーナーの談。

「それはそうと、今回は動物園?水族館?には行かないんだね。調べたらわりと有名って出てきたけど」

そうママが言ってる間に電車が到着し、キャリーバッグを少し持ち上げつつ車内に入る。休日のこの時間だからか座席は全て埋まってはいるけど、4人で邪魔にならないようにと向かい合わせの扉の隅を確保できたぐらいには混んではいなかった。キャリーバッグを扉に被らないように扉に向かって垂直方向に向け端に寄せたあと、さっきのママの疑問に対して私が答えた。

「もちろん行きたかったんだけどちょっと時間なくて……もちろん朝一の飛行機だったら行けたんだけど、みんな大変かなって思って」

1日に3本運航している羽田‐白浜便。私たちが乗ろうとしている昼の便の1本前に7時台の便があったんだけど、それに乗ろうとすると5時、いやもっと前に起きる羽目になる。もちろん旅行だからそれもありかなと思ったんだけど、最後しんどくなったら元も子もないと思い、泣く泣くプランから外すことになった。

「そっか。優しいねエスキモーは」
「えへへ……」

なんだか反対側の扉の方にいるエスキーからジェラシーという名の圧を感じるけど、気にしないふりをしてママの優しさに浸る。まあ結局乗り換える時に肘で軽く小突かれたんだけどね。

─────
そうして2度、3度と乗り換えを挟むも、乗り間違えることはなく無事に空港へと辿り着く。保安検査でも引っかかることなくすんなりと待ち合いロビーのベンチへと腰を落ち着かせた4人はお昼前ということもあり、少しお腹を空かせていた。

「アタシ何か買ってくるから座ってて」
「ママは座ってて! 朝お茶買ってくれたんだから今度は私の番!」

アタシが、いやいや私がと2人して立ち上がり、軽食をどっちが買ってくるかのじゃんけんをした。私がパーでママがグー、勝者の私が意気揚々と待合スペース近くのコンビニで4人分のサンドイッチと小さなミネラルウォーターを買う権利を手に入れた。

「……もしかしなくてもこれ自腹だよね」

もちろん他の3人にお金出してとも言えず全員分の代金を持つことになった。

「……まあ懐事情苦しくないからいいけどさ」

サンドイッチとミネラルウォーターをそれぞれ4つの袋に分けてもらい、レシートもキッチリともらう。そうしてベンチで待っていた3人に袋をそれぞれ手渡し、4人で仲良くお腹を満たしているとすぐに搭乗時間を迎えた。

「それじゃ行こっか!」
「おう(うん)(はいっ)!」

──さらば東京、紀の国へいざ参らん。

─────
空港に降り立った私たち4人。空港のすぐ近くにあるレンタカー屋さんで予約していた車を借り、いよいよ旅のゲートが開く。まず私たちが向かったのはお土産や市場、そしてご飯屋さんがまとめて入っている施設。ここでお昼ご飯を食べたり新鮮な魚介類を見れたらなと考えている。

「車いっぱいですねえ」

後部座席から顔を覗かせたエスキーが駐車場を見渡すや驚きの声を上げる。季節は外せど流石リゾート地といったところだろうか、施設の入口付近の駐車スペースは既に埋まっていて、仕方なく少し離れたスペースに車を停めることにした。

「まず1つ目。最初からお土産見るのもどうかなって思ったんだけど、お昼食べるついでにならいいかなって」

入口へと歩きながらみんなに軽く説明をする。お土産をここで買ってしまってもここから宅配便で送ることができるし、そんなに荷物にはならないだろうという目論見も合わせて伝えると、「流石ね」なんてママに褒められた。

中に入るとまず見えるのはお土産物売り場。お菓子や梅干し、パンダのぬいぐるみとかいろんな物に目を奪われつつも誘惑になんとか耐えてお昼ご飯の海鮮丼をいただく。海がすぐ近くにあるおかげで新鮮でジューシーな丼ぶりを食べることができて、4人とも満足げな表情を浮かべていた。

「じゃあ腹ごしらえも済んだところで、さっきのお土産コーナー行こっか」

丼ぶりを掻っ込んで水をぐびっと飲み、ひと呼吸置いたところでさっき通過したお土産コーナーへと舞い戻る。パンダのぬいぐるみがとっても可愛くて1つ抱き枕用に買うかと真剣に悩んだものの、洗濯とか置き場所に困ることに気づき泣く泣く諦めることにした。

「みんなへのお土産はお菓子系でいいとして……カジっちゃん先輩には何あげようかな……」

そう言いながら1店舗1店舗じっくりと見て回っていると、先輩にぴったりな、むしろ先輩にあげるために生まれてきたようなお土産を発見した。

「和歌山ラーメン……! これだ……!」

何人前かで入っている物を数種類手に取り、チームのみんなに配る用のお菓子と合わせてレジへと向かう。そしてそのまま寮へと送る手配を済ませ、1つ目の任務完了とほっとひと息をついたところで近くにいたエスキーに後ろから声をかけられた。

「エスキモーちゃん、もうお土産買ったんですか? 早いですね」
「いいの見つけたから……えっと……エスキー、だよね?」

推定エスキーが抱えていたのはさっき私が買うのを見送った大きなパンダのぬいぐるみだった。なぜ推定かというと、彼女が抱えているぬいぐるみで顔が全く見えなかったから。

「わたしです、わたしです。せっかくですし1つ買って帰ろうかと思いまして。あっ、もちろん寮に宅配してもらうので安心してくださいねっ」

道中の荷物は増えないというアピールなんだろう。まあそれにしてもかなりサイズが大きいんだけど、ちゃんと送ってもらえるんだろうか……彼女がレジへと向かう後ろ姿を眺めながらそう思っていると、またもや後ろから声をかけられた。今度はママの声だ。

「ごめんエスキモー、ちょっと荷物持ってもらっていい?」
「いいけど、どうした……え、うそ、ママも?」

そこにはエスキーと同じぬいぐるみを抱えた推定ママがいた。

「……家に1つぐらいあってもいいかなって……子どもっぽい?」
「ううん、そんなことない、そんなことない。大人でも今どきぬいぐるみ持ってる人多いから……たぶん」

ママはお屋敷に送るらしい。まああんな大きいのが2つも同じ部屋にあったらそれだけで圧迫感凄いだろうし、そうするのが正解なんだろうな。またもや頑張ってぬいぐるみを抱え込んでレジへと向かうママの姿を見送っていると、ふと昔の記憶が頭に浮かんだ。

(……そういえばあんなぬいぐるみ買ってもらったことあるような……いつだっけ?)

こっちの世界じゃないはず。だとしたら元の世界の話? でもあんな大きなぬいぐるみなんて家になかった気がするしとうんうん頭を捻らせていると今度はトレーナーに後ろから声をかけられた。

「トレーナー、どうした……またかあ……」
「エスキモーが欲しそうにしていたからさ。せっかくだし買って帰ろうかなって」

3つ連続巨大パンダぬいぐるみを会計するレジの人は一体どんな気持ちなのだろうか。少し大きめのため息をついて、1人外に出て車のところへと歩いていくのだった。

─────
結局3人とも出発予定時間のギリギリまでお土産コーナーでお土産を吟味していたみたいで、先に外で彼女たちを待っていた私もあまりの寒さに施設の中に一旦戻る始末だった。

「ごめんごめん、同僚とか先輩に買っていく分も考えていたら時間かかっちゃって」
「アタシはおばあさまやメジロのみんなの分を」
「左に同じです」

まあ時間は3人とも守ってくれたみたいだし、何より楽しんでくれるのが1番だからと気にしないことにする。そうして4人揃って車に乗り込み、次に向かったのはここも地域の観光名所の三段壁と千畳敷。三段壁は地下30m以上の洞窟までエレベーターで向かうことができるとのことで、4人とも躊躇することなくワクワクしながら入場料を支払ってエレベーターに乗り込んだ。

「調べてたから少しは雰囲気分かってたつもりだったけど凄いね……」

中世この地域を支配していた海軍が使用していたと言われているこの洞窟、そんな遠い昔に思いを寄せながらも、模様がいろんな顔に見える崖の写真を撮ったり、押し寄せる波の影響で海水が噴き出す噴射口の動画を撮ったりと少し暗い洞窟の中をゆっくりと楽しみながら歩いていった。

「洞窟の中楽しかったですねっ!」
「そうだね。ねえエスキモー、ここはこれでおしまい?」

地上に戻るエレベーターを待っている時にママから話を振られる。私は「まだ残ってるよ」とママとエスキーに伝え、三段壁の伝説を教えてあげた。

「実はここ……恋人の聖地なんだって!」
「恋人の……」
「聖地……ですか?」

ちょうど到着したエレベーターに乗り込み、昔あった悲劇から聖地へと変遷していく流れを彼女たちに伝える。2人は私の話をふんふんと頷きながらとても熱心な表情で聞き入っていた。

「──それでさっき駐車場からこの建物に入ってくる前にハート型のモニュメントが見えたと思うんだけど、あれに…、あったあった、ここで買える鍵をかけたら完璧ってわけ」

話している最中に地上に到着し、エレベーターから降り出口へと歩いていく途中に見つけた鍵を彼女たち2人に手渡す。2人は絶対買うだろうという強い自信を持って、彼女たちへぐいっと差し出した。

「……買います?」
「まあ、せっかくだし……」

そう言って2人はレジへと向かい会計を済ませると、手を繋いでモニュメントの方へ歩いていった。私は彼女たちが歩いていくのを見送ると、2人と同じように鍵を手に取りレジへと向かった。

「……買わないのかと思ってたよ」

レジを済ませ、トレーナーと手を繋ぎ前の2人を追いかけるように歩いている最中、トレーナーが少し不安そうな声で話しかけてきた。私は首を横に振ってその言葉を否定する。

「そんなこと私がするはずないでしょ。むしろここまで2人に言っておいて私たちがしなかったら、むしろあの2人になんでって言われると思うし」

自分で言うのもなんだけど、2人の背中を少しばかり押してあげた恋のキューピッドが何やってるのって絶対言うだろうしね、あの2人。もちろんそんなことを言われたくないがためにやるんじゃなくて、元々私がやりたかったからが最大の理由なんだけど。ここ選んだのも調べている時に「今話題の!」って記事を見つけたからだし。

私のその言葉を聞いて安心したトレーナーとともに鍵をモニュメントへかけて将来を誓う。ずっと離れたくないと、2人で未来を紡ぎたいと。

「よし、やりたいことできたし次行こっか」

海をバックに4人で写真を撮ったり、私とトレーナーやエスキーとママといったペアで写真を撮ったりと十二分に満喫したあと駐車場へと戻って車に乗り込み、次の行き先の千畳敷へと向かう。

さあ、旅はまだまだ始まったばかり。

─────
車に乗ることわずか数分で目的地へと到着する。少し太陽が傾いてきた16時過ぎ、この次の目的地は時間厳守だからとみんなに伝えてから海の方へと下りていった。

「段差あるから気をつけるんだぞー。ほら、エスキモーはオレの手握って」
「うん。ありがとね」

彼に連れられるように一歩ずつ自然に形成された段差をゆっくりと下りていく。エスキーとママも手を繋ぎながら先へと歩いていっている。

「凄い……これ自然にできたってことだよね」

目の前に広がる、その名のとおり畳が敷かれたような広い砂岩。年月をかけて少しずつ打ち寄せる波に侵食されて形を変えていくその姿は、まさに自然が作り出す芸術作品。

「だなあ……やっぱり大自然って凄いというか恐ろしいというか」

隣で私とともに立ち止まっているトレーナーもこの自然が織りなす風景に驚きを隠せない様子だった。

「それであの子たちは……あっ、先の先まで行ってる。私たちも行こ?」

そう言って彼の手を引き、海のすぐ近くまで人を避けつつ、ところどころある岩の隙間に落ちないように先へ先へと進んでいく。そうして数分ほど歩くと、やっと前にいた2人に追いつくことができた。ただ岩の先に佇む2人へ声をかけようとしたところ、トレーナーから手を引っ張られ、2人の時間を邪魔しないようにと止められた。

「ここは一旦引き返そう」
「……分かった」

彼女たちに気づかれないように静かに写真だけ撮り、駐車場の方へと引き返す。しばし2人の時間を楽しんでねと心に思い、海へ背を向けて歩いていった。

─────
「ねえ、姉さま?」
「どうしたの、エスキー」
「これからずっと、一緒ですよね?」
「……当たり前でしょ。嫌って言っても離さないから。というかいきなりそんなこと聞いてきてどうしたの?」
「さっきの三段壁でエスキモーちゃんから聞いた話のこと考えていたら、ふと頭に浮かんできて……決して結ばれることのない2人が来世では結ばれるようにと身を投げたあの崖……わたしも今のこの姿じゃ姉さまと本当の意味で結ばれないと思うと、その……」
「……ねえ、今夜泊まるホテルのこと、もう調べた?」
「いえ、部屋に露天風呂があることぐらいしか……」
「実はねあのホテルで──」

─────
車で待つこと10分少々、遅れて戻ってきた2人を乗せて次の目的地へと向かう。ある意味今日のメインイベントとなるその場所は岬の先、海を背景に日が落ちていく場所。

「えーっと……次行くところって夕日が綺麗に見える場所なんだ。だから『時間厳守!』って大きく書いてあったのね」

目的地へと向かう道中、後部座席に座っているママが納得したように呟く。そう、ママの言うとおり今から行くのは素敵な夕日を見れる場所、「日本の夕日百選」っていうのにも選ばれたスポット。

「真ん中が少しずつ波で侵食されて、そこだけぽっかりと穴が開いた不思議な岩、その名も円月島」

「月」と入った名前だけど、今じゃその反対、沈みゆく太陽を写真に収めようと訪れる人が後を絶たない一大観光スポットと化している。冬だからか少し人は少ないけれど、私たちが到着した頃には駐車場もほとんど埋まっていた。

「日の入りまであと20分ぐらいですか……それにしても綺麗な夕焼け、これを見るだけでもここに来た甲斐がありましたね」

オレンジ色に染まる空を見つめ、車を下りたばかりのエスキーが1人呟く。私はそれに頷き、彼女の隣で同じように海の向こうを見つめた。

「ほんとに晴れてよかった。この景色が見たくて旅程に組み込んだんだから」

落ちていく夕日、それを写真に残したり、静かに見つめたり、思い思いの時間を4人は過ごす。そこで何を思っていたのかは分からないけれど、夕日が海面に沈むまで黙ってただ見つめて。

(大きな夕日……なんかトンネルみたい)

夕日が地平線に接したその時、太陽が海の先、遥か彼方に向かう入り口みたいに思え、いやいやと首を小さく左右に振る。ただなぜかその時夢の光景、光の中に飛び込んでいく私の姿が頭の中に浮かんできて、一気に現実に引き戻された感覚を覚えた。

(まだ、だから……まだ、もう少し先のことだから……)

日が落ちると近くに集まっていた観光客らしき人たちも解散し、各自車に乗ったり歩いて離れていったりとそこには私たち以外誰もいなくなった。

「エスキモーちゃん? 行きますよ?」
「あー、うん……ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてただけだから」

そう彼女やトレーナー、ママに伝えて助手席へと乗り込む。レンタカーを返却するのと、ホテルからの送迎車を待つために一旦空港に戻る道中、綺麗だったねとみんなに話を振ってなんとかさっきの頭に流れ込んできた夢を必死に追い出そうとしたけれど、まるで出ていく気配はなく、むしろフライパンにこびりついた焦げ跡のように脳内に嫌らしくべったりと貼りついていた。

─────
空港から送迎を受け、ホテルの中へと入る4人。トレーナーが受付を済ませホテルマンから部屋への行き方について説明を受ける。その指示の下自室へ向かおうとしていると、何やらエスキーとママが受付で話をしていた。

「エスキー! 私たち行くよー!」
「……先行っててくださいっ! ……ふむふむ……いきなりなお願いなのにありがとうございます。部屋に荷物置いたらすぐ戻ってきますね」

ママも合わせて何やら真剣な顔で話し込んでいる。そんな2人の話を遮るのも悪いと思い、彼女たちを置いてトレーナーと2人だけで部屋に向かうことにした。

「広ーい! そして綺麗なオーシャンビュー!」

すっかり日も落ち暗くなっているけど、目の前に広がっている広大な海の景色はそこにあるだけで迫力満点だ。しかもこの部屋には露天風呂もついているから、海を見ながら優雅にお風呂に入るなんてこともできてしまう。リッチofリッチなお部屋と言えよう。

「とりあえず荷物を整理してっと……どうする? 先に共同の方の露天風呂入ってくるか?」

キャリーバッグを開け、荷物を整理しているトレーナーに勧められ私は1人着替えや鍵(2人分あるからその片方)を持ってお風呂へと向かう。ただせっかくこんな所に来たんだからあちこち見て回ろうとロビーやラウンジ、レストランを覗いたりしていると、何やらドレスを着た2人のウマ娘の後ろ姿を見つけた。

「そういえばここで結婚式もできるってホームページに書いてあったかも。それにしても男女じゃなくて女性同士でもできるものなんだね……」

そう小さく呟きながら目線の先にいるウマ娘を眺めていると、不意に2人がこちらへと振り向いた。

「えっ……エスキー……ママ……?」

──そこにいたのはよく見知った2人のウマ娘だった。

─────
「エスキモー。今からお風呂?」

振り向いた際に目が合ってしまってママから声をかけられた。声をかけられては無視することもできずに彼女たちのところへと歩いていく。

「えーっと……どうしたのそれ?」

なんで2人がドレス、しかも純白のウェディングドレスを着ているのかと尋ねると満面の笑みを浮かべたエスキーがその質問に答えてくれた。

「姉さまから提案してもらったんです。もちろんほんとに結婚式をする訳じゃないんですけど、将来はって受付の方に相談したら着せてくれるって言ってもらえたので」
「ま、まあそのつもりで告白したっていうのもあるし……いい経験になるって思って」

ママの方から提案したことにも驚いたけど、結婚式なんて単語が出てくるとも思ってなかった。まあ元の世界じゃ元の姿に戻ったエスキーとママが結婚して私が生まれるんだから、こうなるのも必然なのかもしれないけれど。というか大体こういうのって私たちがやってから2人がするんだって勝手に思っていたから、なんだか先を越された気分がした。

「ふ、ふーん……ま、まあ2人とも似合ってるんじゃない? じゃあ私はお風呂入ってくるから」

そう言ってその場から立ち去ろうとすると、ママに手を掴まれ一緒に写真を撮ろうと提案された。2人だけと断ろうとしてもママが手を離すことはなく、仕方なしに2人の間に用意された椅子に座る。そしてまるで家族写真のように1枚、2枚と2人の携帯で係の人に写真を撮ってもらった。

(ん? 家族写真……?)

ああ、そうか、そういうことかと一人合点をする。なんでママが頑なに3人で撮ってもらおうとしたのか。それはもうこの3人がこの姿でいられるのは長くないと思っていたから、未来の家族(仮)の記録を残したいと思っていたからだったんだと。

「……何枚か撮ってもらったし、流石に2人のも撮ってもらってよ。記念なんだし」

そう言って今度こそ席を外し、その場を立ち去る。ただ立ち去る途中にふと後ろを振り返って見た2人の姿は、とても綺麗で、とても幸せそうに見えた。

─────
「結婚、かあ……」

少し肌寒い中、1人露天風呂に浸かりながらぼーっとさっきのことを思い出す。結婚なんて未来の話、そのときが来たらまた考えればいいと思っていたことがいきなり目の前に突きつけられ、自分はどうしたらいいのかと頭の中が少しこんがらがっていた。

(えーっと、当たり前だけどまだ私は結婚できない。というか未成年だったら親の同意もいるから、仮にできる年齢だったとしても今は無理……でもウェディングドレスかあ……)

女の子なら一度は夢見るウェディングドレス。もちろん着てみたい気持ちはあるし、タキシードを着たトレーナーとツーショットで写真を撮ってもらいたい気持ちもある。ただ流石にまだ早いんじゃないかと、そういうのはこうプロポーズとかの段取りを踏んでからなんじゃないかとブレーキを掛ける自分も確かにいる。

(……まああとで受付の人に聞いてみるぐらいなら……それで駄目だったらやめとこっと)

対抗していた2つの気持ちが自分の中で妥協案を締結し、ひとまずの解決をみた。とりあえず解決したんだしと一旦頭から結婚云々の話を追い出し、目の前の景色に集中することにした。

「海と一体に見える露天風呂か……素敵……」

まるで海と繋がっているようにも見えるデザインの露天風呂。夜空に輝く月に照らされた広大な海をうっとりと眺めながらしばし心と体の休息時間を得ることができた。

─────
「トレーナー、ただいま……っていない。トレーナーもお風呂入りにいったんだ」

誰もいない部屋の中をしばしうろつき、自分のベッドへとバタンと倒れ込む。大きいベッドだから左右にゴロゴロできるのはお屋敷のと同じでとっても素晴らしい。

「まだかなまだかなー」

そうやってゴロゴロ寝転がりながら携帯の画面をつけて今の時間を確認する。そんな携帯の画面に表示されていたのは「19:00」の文字だった。

「もうこんな時間なのね。夕食はレストランで19時半からだっけ」

携帯に保存した旅程のファイルを開き、今晩、そして明日以降の予定を再確認する。22時半に寝て明日の6時半起床、ホテルを出発するのは9時45分とわりとゆったり目のプランがそこには書かれていた。

「……まあその時間に寝かせてくれるか、なんだよね」

露天風呂つきの部屋、そして家を出発する前に見つけてしまったアレの存在、もちろん部屋には2人きり。少し考えただけで条件が揃いすぎていることが一目瞭然。麻雀はよく分からないけどこれは役満なんじゃないだろうか。

「主導権を握れたらいいんだけどね……」

もちろんそう言って握れた試しはなく、いつも彼に最後までペースを摑まれたままで終わってしまう。本来私の方が力が強いはずなのに。

「ベッドの上ではウマ娘もただの女の子、か……」

こうやって言葉に出すと絶対に覆せないように思えてしまう。うんうん唸って考えてみるけど、どうすればいいのかなんてこんなポンコツな頭では思いつきやしない。

「頑張るしかない、か……」

そもそも手を出すまでは結構躊躇してたよねってことはディナーを食べてから部屋に戻り、予想通り彼から迫られた時に思い出した。ただ思い出しただけで何の役にも立たなかったけれど。

(ドレスの話は朝でいいか……)

意識が薄れていく中頭に浮かんだのは夕方に見た、幸せそうな2人のドレス姿だった。

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