エリザベータ√におけるイヴァンの最後の言葉にして、
未だ仮面の下で揺れ惑う同僚に対し、鋼の戦鬼が最期までままならぬ現実に対しても“然り”と己を示した発言。
凌駕救出のために出撃した
礼達三人。
それを迎え撃ったイヴァンは、彼らと互角、いやそれ以上に戦いながらも
予想外の技の冴えを見せ、確実な痛打を与えた礼の存在を賞賛する。
彼は、より高みへと登りつめるべく己の影装を発動、愛しい敵手達を輝きのままに喰らうべく咆哮すると共に、
礼達が呼び寄せんとする、己の信念と相容れぬ《無名体》もまた排除せんと猛る。
だが、対立する三人と一体の機獣の予想を裏切り、
ネイムレスは、激突している内で最も強力なイヴァンではなく、
ギアーズの母艦の中にある“
何か”を狙い、襲撃してきたのだった。
放棄される
空母、その激動の中で、囚われていた凌駕は共にいたエリザベータとの闘いを繰り広げていく。
しかし、戦場の各人の思惑など意に介さずにネイムレスは浸食を広げ、
ついには完全に無人となった
戦艦要塞の全機能を掌握、イヴァン達のいる工場地帯へ向けて進撃を始める。
この状況に対し、イヴァンは機兵の排除を優先し、
戦艦の圧倒的な火力にも全く怯むことなく、接近戦を挑みにかかったのである。
双方防御行動も、回避行動もなく、荷電粒子砲と大砲、機銃、ミサイル等々をぶつけ合い……
「カハハハハハッ! ――舐めんな、狂気は人間様の専売特許だと思い知れ」
躯体を半壊させながらも、イヴァンの戦意は途切れることなく、ついに目標内部へと侵入を果たした。
だが、ネイムレスは損壊したボディから伸びる歯車の牙によって、
接近してきたイヴァンの影装の肉体の分解、捕食を始めていたのであった。
その機兵の、人間の熱を無機質に喰らっていく様に、イヴァンは苦悶しつつも憎悪を叫ぶ。
「く……そ、がアアァッッ! ただの作業か、俺は餌か! ただの数値か!」
「ああ情緒も矜持も糞もねぇッ、冷たいんだよ昆虫みてえにッ!
人間様の熱を、頭ごなしに鏖殺してくれやがって……!」
――故に、彼の腹はすでに決まっていた。
「喰らいたいか? この心臓を。 ――いいぜ、大口開いて貪れや」
「ただし――付き合ってもらうぜ。てめえはまだ、この世の何処にも必要ない」
イヴァンの全身に走る輝線が点滅を始め、
その光景を見つめていた凌駕とエリザベータは、即座に彼が己の躯を自爆させようとしている事を理解した。
「知ってんだろうリーザ? 俺は俺だ。
こいつの餌なんかじゃねえし、むざむざと魂までしゃぶられてやるつもりもねえ」
「生きる死ぬより、コイツをぶっ壊してえんだよ。イヴァン・ストリゴイは。
そういうわけで――」
そうして鋼の戦鬼は、にやり、と。最後の瞬間まで獰猛な笑みを浮かべながら――
肉体の半分を機兵に破壊され、捕食され続けながらも、その目に宿る意志の光は死なず、
この場にいる敵味方の“戦友”に向けて……
「じゃあな戦友、そのうち来いよ。
最後まで戦りあえなくて、残念だったが……無念もまた人生だ」
「んで、リーザ――」
「お前さん、いま、楽しいか?」
「俺は楽しかったぜッ。例え、こういう散り様でもなァァーーッ!」
剥き出しの“己”を然りと認めながら、爆炎とともに散っていったのである――。