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判るさ――なにせ自分自身のことだからな - (2020/05/19 (火) 20:53:54) の編集履歴(バックアップ)
人間としての情愛も、悪党の仁義も、男の誇りさえも捨て去った蛆虫の這いずる世界。
最底辺の街に流れ着いた、悪名高き元テロリストのブライアンが昏い熱の籠った欲望を吐き出した一場面。
彰護らにより潰された、
魔女狩りに関わる拠点。
その“現場”を直に確認したと、雇い主である至門に告げるブライアン。
原型を留めない死骸、わざわざ素手で殺されたと思しき死体の数々………
「歪んでいる」と、犯人の在り方を語りながらも、彼の言葉にはどこか
嬉し気な響きさえ含まれているように思われた。
そんなブライアンは、犯人像に興味なさげな態度を示す至門に、
この相手は、「自分でなければ狩れない相手」と言い、こう言葉を継いだ……
「こいつは、自分の一番大事な理想を捨てた奴だ。
それも、かつては命を懸けて貫いたほど筋金入りのをな。
普通はそこで抜け殻として終わるか、死ぬ。だが………」
「善も悪も、自分の生死にすらも関心がない。だから話も通じない。
言っておくが手強いぞ。生きた亡霊を相手にするようなものだからな」
至門は、「何故そんなことが判る」と鼻で笑いながら問を投げ―――ブライアンは引き攣った笑いを漏らす。
「判るさ───なにせ自分自身のことだからな」
己と同じく僅かに光も射さぬ無明の荒野を歩く者を、ブライアンは見出してしまった。
姿を視ずとも判る……愛する者や親友、家族への献身、社会への責務や誇りある行動……
それら人間らしい在り方に背を向け、誰からも唾吐かれる最底辺の蟲の影を。
そんな同類を穢し、粉砕し尽くした時に、自己自身に最後の愛想が尽きるのか……それともかけがえない喪失の苦痛に苛まれるのか……
知りたい。殺し合い、その涯に何があるのかを。
倒錯した欲望が枯れ木のような躰に活力をみなぎらせる。
そうして去っていく痩身の男の眼には、まだ見ぬ獲物への臭いたつ妄執が宿っていた………。