学園からの帰り道を、共に歩く二人の少年少女の姿があった。
「ふんふふんふんふ~ん♪」
一人は上機嫌に鼻歌混じり、ほぼスキップの歩幅で歩むさつき。
そしてもう一人は……
「おいさつき。さっきから、オレの周りをグルグル回るのはいいんだがよ……
鼻歌やめろ。きめぇ。うぜぇ。なに一人で浮かれてんだか……」
久しぶりに幼馴染である彼女と肩を並べて帰宅する、呆れ顔の零示である。
彼の容赦ないツッコミも慣れたもの。
一緒に下校する、などという珍しいイベントが起きた理由を尋ねてくる少女に、
零示は、夜の六本木という闇の中には求めるものは何もない……つまりは萎えたという理由を内心に潜め、
一応事実でもある、自らの体調不良が原因であり、当分おとなしくしているという当り障りのない答を返す。
要するに暇になったという幼馴染の言に、ウチの店で時給350円で働かないかなどと、
瞳に¥マークを煌かせ、何処まで冗談か本気か分からない素敵な搾取提案をかましたり。
ふいに油断して出てしまった大あくびに、零示が朝から来る事への気遣いを見せたら、
スネはじめて彼がフォローしたら、調子に乗って薄い胸を張り始めるなど………うっわ、激ムカツク!
いつも通り、見てて飽きない(同時にウザめんどくさい)さつきとの時間を過ごしていると、
彼女の実家である和菓子屋の奥から、さつきの母親が零示に、家で上がってお茶でも飲んでいかないかと声をかけてきた。
恩義のある人物の善意を前に、どう断ったらいいかと珍しく困惑する零示。
邪悪な笑顔を浮かべて「お母さんの直々の誘いを断ったりしないわよね?」と圧をかけてくるさつき。
そんなさつきと母親との会話の中、さつきが最近店番をせず夜何処かに出かけているという事実と、
そして、仲の良い親にもその真実を明かせないという万事開けっ広げな彼女にしては珍しい秘密を知る。
何か在ると直感的に理解しつつも、零示はさつきに言葉をかける。
「……何かヤバそうなら、どんなくだらねぇ事でもいいから言ってこい」
「昔から、詰めが甘いくせに上手く立ち回ろうとしすぎなんだよ。
実は他人より一本抜けてんだ。人に頼るぐらいで丁度いいんだよ、おまえは」
「だから―――いいな?」
深く詮索はせず、軽口を交えながらも真剣な気遣いがうかがえる言葉に……
「……うん。サンキュ、零示」
「要するにあたし、今ピンチになったら無敵モンスターを1回召喚できるレアカードをゲットしたって事よね?」
いつもの調子を取り戻し、さつきは白い歯を見せながらサムズアップしてみせる。
その言い回しに、これならまだ平常運転、とりあえずは問題ないかと見立てて。
零示は、久方ぶりに滝御庵にお邪魔することにしたのだった………
- (∴)ノ -- 名無しさん (2020-06-05 10:17:05)
- ↑敵味方関係なく場も手札も墓場も全て一掃しかねない禁止カードはお帰りください -- 名無しさん (2021-12-13 17:39:19)
最終更新:2023年08月05日 09:13