とても弱弱しく、自分の裡に秘めた思いを伝えてきたケイトリン。
それは、初めて見る友の顔だったけれど……やはり、
それはずっと憧れていた彼女には似合わないと思えたから。
アンヌは座り込んだまま、抱きしめてきたケイトリンの背を優しく撫でながら、遠ざかっていた
自分達の日常の風景を口にする。
「……ねえ、知ってる? ケイティ。
学園通りの、バス停の向こう側にね。アイスクリーム屋さん、あったでしょ?」
「あそこね、新作のアイスができたんだって……
ブルーベリーをいっぱい使った、甘い甘いベリージェラート……」
ケイトリンは、すっかり忘れていたと苦笑する。
不思議なもので、次々と思い出が胸の中に再生されていく。
もう自分は戻る事のない、そう思い込んでいたかつての日々が。
「あんた流行に疎いから、いっつも時期が過ぎる前まで食べ忘れてたんだっけ……」
「で、あたしに言われてから、大慌てで通ってたっけね」
「なのにわたし、今度はお財布を忘れて……しかも頼んだ後だったから、キャンセルもできなくて」
「仕方ないから、結局あたしの奢り。次はあたしに倍返しするのを条件に……ってね」
「ふふ、そうだね。だから……」
抱きつくアンヌの腕に、少しだけ力がこもった。
さあ、あの場所へ共に帰るために。
「帰ったら──2人で、一緒に食べよ」
そのまま、約束を取り付けた。
……それはちっぽけな、ただの女の子同士に結ばれた約束だ。
……けれど何よりも大切な、絶対に叶えたい約束。
他の誰にも笑わせはしない、アンヌからケイトリンに送る友達への愛の形だった。
それを受け取った少女は、微笑んでアンヌの髪をぶっきらぼうに撫でる。
――頬を伝う小さな雫を、抱きついたままの少女に見せたくなかったのだろう。
「……そうだね。なんか久々にあそこの味が懐かしいや」
……喉の奥からこみ上げる嗚咽なんて、意地でも聞かせてやるものか。
自分は、引っ込み思案な彼女にはない奔放さでいようと決めたのだ。
アンヌが選べない陽気で向こう見ずな、小さな勇気を守る。そんな何かでいてやると誓った。
「……じゃ、気分いいから奢ってあげるよ、アンヌ。
ダブルでもトリプルでも、好きなの頼みな。あたしも、あんたと同じ奴食べてみるからさ」
「───うん。ありがとう、ケイティ」
強く。強く。胸へと抱きしめて。流れる涙を見せないようにして、ケイトリンは笑う。
「だーかーら、お礼なんていいって……」
泣き顔のまま、屈託のない笑みを浮かべて。
「──“ともだち”じゃん。あたしら、さ」
勇気を出して、彼女は呟いた。
今までは空っぽだったその言葉に、万感の想いを籠めて伝えたのだ。
「うん……そうだね」
……命を持つ者達だけの、優しい時間が流れる。
暗闇に紛れ込んだ篝火のように、人間の物語が仄かな明かりを灯していた。
最終更新:2021年11月16日 23:33